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【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.17

1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 19:50:01 ID:AWD8W4cB
アニメでも大活躍し、過去リプレイ作品で異世界慣れした我らが“下がる男”柊蓮司……
そんな彼や他の登場人物達がもしも○○の世界に飛ばされたらor○○キャラが第八世界にやって来たら…?
そんなナイトウィザードのifストーリーを語るスレです。

■ 注意事項 ■
・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・冥魔(荒らし)に反応するあなたも冥魔です、スルーしましょう。
・次スレは>>975を踏んだ方、若しくは475kbyteを超えたのを確認した方に御願い致します。
 また、重複防止の為に次スレを立てる人は立てる前に宣言を御願い致します。
・荒らし、カッコ悪い。
・Q.ナイトウィザードって○○のパクリ?
 A.とりあえずほぼ全て何かのパクりです。初版が2002年3月発売なのでそこから判断してください。

■ SSを投下する方へのお願い ■
・NWキャラをクロスさせたい作品世界に送り込むも良し、
 逆にクロスさせたい作品のキャラをファー=ジ=アースを中心とした
 きくたけワールドに招いてNWキャラ達と掛け合い活躍させるも良し、
 SS創作者の想像の赴く儘に楽しめる物語を書き込んで下さいませ。
 但し、NW関連スレと云う事で片方は「ナイトウィザード」で御願い致します。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・各作品の初投下時は、クロスする作品名を最初に御願い致します。
 そうすれば読者も読み易いでしょう。
・SSの内容が18禁の場合は地下スレ(検索ワードは「卓上ゲーム」)へ。
・NW側からのホストキャラはNW公式作品に登場しているキャラを主軸として、
 SS創作者オリジナルのキャラをストーリーに絡める場合はあくまで脇役としての
 立場で参加させて下さいませ。
・御互いの作品を尊重しましょう。一方的なクロスは荒れる原因ですよ。

■前スレ
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.16
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1237724778/l50

■関連スレ
ナイトウィザード -Night Wizard!- セッション43
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1231565440/l50

菊池たけし セブンフォートレス ナイトウィザード85
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1239499286/l50

■関連リンク
http://www.fear.co.jp/nw/(原作ナイトウィザード公式)
http://www.nightwizard.jp/(TVアニメ公式)
http://www42.atwiki.jp/nightwizard/(アニメ版まとめWiki)
http://www32.atwiki.jp/nwxss/(過去SS保管庫)


非クロス作品の場合は、卓上ゲーム板の専用スレへの投下も検討してください。

卓上ゲーム板作品スレ その4
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1226119982/


2 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 20:02:20 ID:gWmIKBcB
>>1乙。
学園世界流れも少し収まってきたかな。

3 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 20:32:21 ID:qUJi2Xkw
>>1乙です。
さっそくですが、続きが上がったので投下させていただきたく、予告に参りました。
「柊蓮司と銀なる石の少女」、第四回を九時半ごろから投下したいと思います。
それでは、また後ほど。

4 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:02:54 ID:gWmIKBcB
おぉ、支援

5 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:27:02 ID:Ylb7XZhK
支援待機

6 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:31:32 ID:CAz7ws7C

     ※

 七村紫帆は思う ―――

 たとえ不安に押し潰されそうになっても。
 落ち込んだり、怖い思いをしたり、泣きたくなったときでも。
 みんながいるから笑っていられる。
 みんなが支えてくれるから頑張ることができる。

 明るくて、元気で、行動的で、ちょっぴり楽天家 ――― 私がそんな私でいられるのは、みんなが私の周りにいてくれるから。
 いま、このときだって、そう。

 眉毛を逆さに吊り上げて大声をあげる委員長。
 指を耳栓代わりにして聞こえないふりをする柳也さん。
 そんな二人のやり取りを苦笑いしながら遠目で眺めている柊クン。

 仄暗い照明でモノトーンの色彩に彩られた喫茶店での、短いコーヒータイム。
 考えるのも行動するのも明日からでいい、という柊クンの提案に甘えることにした私。
 珍しく柳也さん自らが淹れてくれた、熱くて濃いコーヒーをちびりちびりとすすりながら、“いつもの自分”でいることを心がけようと、平穏を装う。
 だけど、本当は必死。
 いつもの自分でいるために、必死。
 たった一杯のコーヒーを飲むだけの、短い短い時間がとても愛おしい。
 胸の奥に凝り固まったままの不安は決して消えることはないけれど、それを安らげてくれる大切な仲間が、私の周りにはいてくれる。
 それを心から実感できるのは、実は、本当になんでもないこんな日常の一時なのである ――― と。

 七村紫帆は、本当に心から、そう思う。

     ※

「もう九時半か。それ飲んだら帰れよ。子供が外を出歩く時間じゃない」
 カウンターに立ちながら、紫帆たちにコーヒーを振舞っていた柳也は、ふと気がついたようにそんなことを言った。
 柳也の突然の言葉に、他愛もないお喋りに興じていた紫帆とミナリが顔を上げる。
 初めに、振舞われたコーヒーを一口飲むやいなや、
『こんなコーヒーを淹れられるんだったら、普段からお客さんに出したらいいじゃないですか』
 などと柳也に小言を垂れていたミナリであったが、柳也が聞こえないふりを始めたので、音が聞こえるほど大きな溜息をついて「まったくもう」と呟くと、紫帆との会話に没頭していたのである。
 その間、柊は少し離れたカウンターの席に腰掛けながら、この小一時間たっぷり時間をかけて、わずか一杯のコーヒーを飲み干した。
 普段は自分が飲むだけのコーヒーしか淹れない、という柳也の様子からは、おかわりを言い出せる雰囲気でもなかったのである。
 店内での柊は比較的大人しく、物静かに過ごしていた。
 それは、紫帆やミナリが彼の目から見ると、いたって普通の女子高生で、なんとなく自分の居場所が掴めなかったからである。


7 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:32:57 ID:CAz7ws7C
 レネゲイドウィルスの力を持つオーヴァードであることや、少々性格に変わったところのあることを差し引いても、紫帆たちは普通の、どこにでもいそうな女の子だ。
 いつもの彼が付き合っている少女たちがいささか(?)エキセントリックに過ぎるのかもしれないが、こうしてコーヒーカップを囲みながら談笑している様子を目の当たりにすると、
(なんかいつもと勝手が違うな……)
 柊は、そう感じざるを得ないのである。
 異能の力を持ちながらも、紫帆たちは『日常』からかけ離れてはいない。
 いや、柊の感覚が捉えた彼女たちは、『日常』というものをとても大切に扱っているような、そんな印象があった。
 こうして見ると、今朝、紫帆が光の剣を生み出して戦ったあの姿も、白昼夢であったかと思わせるほどに、彼女は“普通の”女の子である。
 魔剣使いや陰陽師、強化人間とか魔王、という存在が日常に横行している柊の生活からしてみれば、彼女たちの日々の営みはとても新鮮に感じられる。

 日常とは ――― 平穏とは ―――

 確かにこれも、そのひとつの形なのかもしれなかった。
「……っと。確かにこんなに長く居座っちゃ悪いな。今夜はゆっくりしよう、って言ったんだから、お互いに早く切り上げようぜ」
 “普通の女子高生”の会話の輪から外れて、手持ち無沙汰だった柊は、柳也の言葉に渡りに船とばかりに飛びついた。
 いや、紫帆たちに声をかけるきっかけがなかった、と言ったほうがいいだろう。
 解散の意を表し、二人の少女を見遣る。
 なぜかミナリは、座っていた椅子を蹴倒す勢いでガタンと音を立てて立ち上がり、紫帆は紫帆で『……あちゃー……』などと呟きつつ、人差し指でぽりぽりと自分の頬っぺたを掻いていた。
「なんだ、どうしたんだよお前ら」
 不審げに問う柊の声など聞こえないかのように、ミナリが愕然と呻く。
「わ、私としたことが……なんてこと……う、迂闊だった……」
「あーあ、やっちゃったね……委員長……っていうか、私もだけど……たはは……」
 こちらはあまり深刻でもなさそうに紫帆が言う。
「だからどうしたんだって」
 なおも問いただす柊を力無く振り向き、ミナリがげっそりとした顔をしてぼそりと言った。
「門限……」
「あん?」
「門限です! 寮の門限! 夜の九時で門の扉も玄関のドアも鍵、かけられちゃうんです!」
 手のひらでばしばしとテーブルを叩き、ミナリがこの世の終わりのような顔をする。
 堅物な性格。真面目な生活態度。委員長、という肩書きと仇名が妙にしっくりと来るこの少女には、門限破りという行為がよほど耐え難いことなのか。
 ごちん、という派手な音がぺリゴールの店内に響き渡る。
 それは、テーブルに突っ伏したミナリがテーブルにおでこを打ちつけた音だった。
「どうしよう……明日学校なのに帰れない……」
「そんなに深刻にならなくてもいーじゃねーか。ほら、この街に二十四時間やってるファミレスとかネットカフェなんてないのか? 紫帆なら詳しいんじゃないか?なんとなく」
「あ、うん。商店街を出てすぐの国道沿いに、朝までやってるファミレス、あるよ。ネットカフェなら鳴島駅のロータリーの近くにもあるし」
 問題解決じゃねーか、と言わんばかりに柊がミナリのほうを見る。
 太平楽な顔つきの二人をキッ、と睨みつけると、ミナリは途端に金切り声を上げた。


8 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:33:21 ID:cKcsiXrO
紫煙。いや不良マスターの口から出てくるものの事ではなく

9 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:34:53 ID:CAz7ws7C
「明日の授業に使う教科書はどうするんですか!?」
「俺、授業中寝てるから教科書なくてもあまり困らねーな」
「あたし置き勉してる」
 柊と紫帆が右手を揃って仲良く上げ、続けざまにミナリの神経を逆撫でする。
「でも、シャワー仕えないのはちょっと嫌かなー」
「俺なんか、三日ぐらいなら風呂なしでも平気だぜ!」
 ほんの少し考え込んだ紫帆に向かって、柊が本日一番のいい笑顔でそう言った。
 いったい、なにが誇らしいのかは知らないが。
「あーーっ、もう! どうしたらいいのーーっ!?」
 軽いパニックに陥ったミナリを、やれやれといった感じで眺めていた柳也が、
「学生の身分で金もねえんだろうから、わざわざそんなところで寝泊りする必要はねえだろう。寝床ぐらいウチの二階使わせてやるから、そう大騒ぎすんな」
 教科書なんか隣の席のヤツに見せてもらえばいいじゃねえか、と呆れ顔でそう言った。
 しかし、そういう発想ができて、なおかつそれに甘んじてしまうことができるぐらいなら、ミナリもここまで騒いだりはしない。
 それが出来ないからこその堅物。それが出来ないからこその委員長。隣の席の学友に教科書を見せてもらうなんて、彼女のプライドが許さない。
 ましてや、門限に遅れて寮に帰れなかったから教科書がありません、なんて言えるはずがなかった。
「そうだ! いい手があるぜ!」
 半分涙目になって唸り続けるミナリに、柊が呼びかける。
 いかにも、「いいアイディアが浮かびました」と言いたげな爽やかな顔をしながら。
「……?」
「どうせ使わねえなら、俺の教科書をミナリが使えばいいんだよ。ほら、一応建前上は瀬戸川学園の学生だから、学生手帳から教科書まで一式揃ってるんだ」
 俺はアパートだから門限ないし、と柊が言う。
「だ、だけどそれじゃ柊さんが……」
「だーから、使わないんだって、教科書。アンゼロットが用意した割には広い部屋だし、なんだったら寝床も使っていっていいぜ」
 なんの気なしにとんでもない発言をする柊である。
 それでいて、本心からなんの他意もなく、なんの下心もありもしないところが、柊蓮司という男の真骨頂でもある。
「あ、シャワーもあるの? バス、結構大きい?」
「ば……馬鹿、馬鹿、紫帆っ!? なに考えてるのよ!?」
 ゆでだこのように真っ赤になったミナリが、紫帆の襟首を締め上げる。
「こ、こんな時間に男の人の一人住まいのアパートに上がりこめるわけないじゃない!? ま、ましてシャワーとか、泊まるとか、あ、ありえないでしょうっ!?」
「大丈夫だって。昨日引っ越してきたばかりだから、汚くないぜ?」
 そういう問題ではない。
「と、とにかく泊まりませんからねっ。き、教科書は……貸してもらえるなら嬉しいですけど……でも……本当にいいんですか……?」
 火照った頬を手であおぎながら、ミナリがおずおずと柊に尋ねる。いくら本人が了承しているとはいえ、やはり彼の勉学の妨げになるようなことに一枚噛むのは気が引けた。


10 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:35:24 ID:gWmIKBcB
まーぼーかれーおいしいなぁ支援

11 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:36:28 ID:CAz7ws7C
「だから俺は平気だって。でも、泊まるところはどうするんだ?」
「そ、それは……」
 ちろり、と柳也の顔を盗み見る。柊よりは付き合いも長いし、彼の人となりも知っているとはいえ、やはり異性と同じ屋根の下に寝泊りすることには抵抗があった。
 その横で、締め上げられた喉をさすっていた紫帆が、そんなミナリに声をかける。
「委員長、しょうがないから裏技使うよ」
「裏技?」
「うん。いまから帰る時間、メール打っとけば用意しておいてもらえると思うし」
「ちょ、ちょっと紫帆。誰にメールするのよ? それに用意って……」
 ミナリが混乱するのも無理はない。確かに紫帆の言葉の意味は、横で聞いている柊たちにもさっぱりわからなかった。
「私たちの部屋の隣のコ。縄梯子降ろしておいてもらって、そのコの部屋からすいーっ、と私たちの部屋に戻ればいいんだよ」
 こともなげに言う紫帆を、口をあんぐり開けて見ていたミナリのこめかみに、いつの間にか青い筋が浮いていた。
「あ〜あ、なるほどね〜……“こういうときのために”、普段から隣の部屋のコに根回しして、いつ門限破っても大丈夫なようにしてあるわけね〜……」
「うん。何でも屋なんてやってるといろいろと帰りが遅くなることもあると思って、もしものときは頼んであるんだ。みんな快く請け負ってくれて助かっちゃうよ」

 ああ。
 こいつ、けっこう迂闊なヤツだな ――― 柊は胸の内でそう呟いた。
 自分の妙案を披露することに気を取られて、ミナリの静かなる怒りにまるで気がついていない。
 この堅物が、寮の門限破りを助長するような根回しを、「紫帆、よくやったわね!」、などと褒めるわけがないのである。
 案の定、
「ふ〜ん……ねえ、紫帆。ちょっと、いいえじっくりと、いいえたっぷりと、あなたとは話し合う必要がありそうだわ……」
 ミナリの目が据わり、眼鏡の奥で妖しい光を放ち始めていた。
 ここへきて初めて、紫帆が「しまった」という顔をするが、もう遅い。
 腰を浮かせた紫帆の、制服の袖をガシッと掴むミナリ。
「わ、わわ、柳也さん、柊クン、た、助けて!」
 紫帆の救いを求める声に、『悪いが外でやってくれ』と柳也が無情にも言い捨てる。
 おかげで二人の仲裁に入らざるを得なくなったのが柊で、髪をわさわさと掻き毟りながら、溜息まじりにミナリを押し止めた。
「まずはいったん、ここを出ようぜ。柳也さんの迷惑にもなるし、ここでごたごたしてたらますます帰るのが遅くなるだろ?」
「ですけど……」
「俺は、紫帆のアイディア悪くないと思うぜ? 何でも屋の仕事はともかくとして、もしかしたらこの先ミナリだって、縄梯子のお世話になるかもしれないんだし」
 柊の言葉に、ミナリが顔を真っ赤にして首を横に振る。


12 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:38:18 ID:CAz7ws7C
「お世話になんてなりません!」
「そうとも言い切れないんじゃないか?」
 口元に苦笑いを浮かべながら柊が言う。
「俺たちが今朝出くわしたジャームとか、さっき霧谷さんの話に出てたファルス……なんとか、とかって連中は、律儀にお前らの門限に合わせて出てきてくれるのか?」
「それは……」
「そいつらを追っかけてるうちに日が暮れて、夜になっちまうことだってあるだろうし、まさか門限の時間が近づいてきたら、任務まで終わりになるってこともないんだろ?」
「途中で任務を放り出すわけないじゃないですか! 門限なんかよりもずっと ――― 」
 激昂しかけて、ふと気づく。柊の目が、自分の顔をじっと見つめていることに。
 ミナリはなぜだか、さっきまで沸騰していた頭が急に冴えていくのを感じていた。
「まったく……見かけによらず意外と油断ならないんですね。私から、“門限なんか”って言葉をまんまと引き出しちゃって」
「そ、そこまで考えちゃいねえよ。俺はただ、紫帆をあまり責めるなって言いたかっただけで……オイ、待てコラ。見かけによらずってのはどういう意味だ!?」
 声を荒げる柊を見て、自分の横で紫帆が声を立てて笑うのを聞きながら、ミナリは自分の意見を潔く引っ込めよう、と思った。
 なんと言ったらいいのかわからないが ――― この場は柊に負けたような気がしたからだ。
「言葉通りの意味ですけど?」
 ミナリの表情から険しいものが取れて、冗談を口にする余裕が出始めている。
「縄梯子の件は、まあ認めます。柊さんの言うとおり、本当にお世話になるときが来るかもしれないし ――― でも、本当に非常時の時だけよ、紫帆」
「あ、ありがと、委員長。柊クンも」
 首の皮一枚で命運を繋いだ安堵からか、ほとんど涙目の紫帆である。
 柊の口添えがなければ、ミナリの長い長いお説教を聞く破目になるところだったかもしれない。
「よっし。それじゃ、取りあえず帰ろうぜ二人とも ―― あ、コーヒーごっそさんでした」
 律儀に頭を下げる柊に、火の点いたままの煙草を指に挟んだ手の動きだけで柳也が応える。
「そうですね。明日の授業に差し支えてもいけませんし……柳也さん。このコーヒー、お客さんに出すこと、本当に検討したほうがいいですよ」
「うん、私もそう思う。とっても美味しかった〜」
 口々に柳也に別れの挨拶をしつつ席を立ち、帰り支度を始める三人。
 霧谷たちとの会合からなぜか寡黙であった柳也は、店から出て行く少女たちの背中をやはり無言で見つめている。
 期せずして、ぺリゴールの入り口の扉を最後にくぐることになった柊を、
「なあ、おい柊」
 不意に、柳也が低い声音で呼び止めた。
「いや、蓮司……って呼ばせてもらうか。構わんよな?」
「勿論っすよ。なんっスか?」
 問いかけながらも、柊の身体は自然と緊張に堅くなる。霧谷とはまた別種の『大人の迫力』を持つ柳也の視線に、重たい力が込められているような、そんな気がした。
「ああ、いや……時間が時間だからな。あいつら、一応送ってやってってくれ」
「……お安い御用っすよ……俺も、そのつもりでしたから」
 二人の交わす言葉の合間に、ときどき微かな沈黙が落ちる。
 たぶん、本当に柳也が言おうとしたことは、そんな言葉ではなかったはずだ。
 敏感にそれを察するが、柊も、だからといってなにかを言うことも、聞き返すこともできはしない。だから、
「……それじゃ、失礼します」
 そんな短い別れの挨拶だけを残して、ぺリゴールを出ていくしかなかった。


13 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:41:54 ID:CAz7ws7C
 柳也は、戸外へと消えた柊の背中をいつまでも見つめている。
 そこにはすでに誰の姿もありはしないのに、いつまでも、いつまでもその視線が揺らぐことはなかった。

「――― ふう……」
 ひとりきりになり、柳也は二箱目の煙草の封を切る。
 いつまでも網膜に焼きついて残されたような、柊のあの背中を思い出しながら。
 若いくせに、やけに大きく見える背中をしていやがったな ――― そうとも思う。
「ヤキが回ったかな、俺も……わざわざ初対面の小僧に言うことじゃねえもんなぁ……」
 柊を呼び止めて、先程口元まででかかった言葉を反芻しながら柳也が独語した。
「あいつらを……“ミナリと紫帆を頼む”、なんてな ――― 」

 俺は、そんな台詞を言うガラじゃない。
 そもそも、俺はいつから、そんなに子供を甘やかす大人になったんだ?

 漏れる苦笑を噛み殺しつつ、柳也は胸ポケットから携帯電話を取り出した。
「大人は黙って、自分の仕事をしていればいい……それで、いいんだったよな」
 どこか自分に言い訳をしているみたいだ、と皮肉なことを考えつつ。
 幾度となく自分の携帯のアドレスから消去してやろうと思い続けて、結局できずに現在に至る、とあるナンバーをプッシュする。
 霧谷雄吾の来訪と、彼が告げた言葉の内容は、紫帆たちとは別の意味で、柳也の心に暗い翳を落としていた。
 紫帆たちがどこまでこの事態を深刻に考えているかは分からないが、せめて自分だけは、最悪のケースを想定しておくべきであろう ――― たとえ、後でどんなことが起きてもいいように。
 そのために、打てる手はすべて打っておいてやる。
 それが、自分に出来る『大人の領域』の仕事であるはずだ。
 十数回の長いコールに柳也が苛立ち始めた頃、ようやく求める相手が電話口で捉まった。

「ようやく出たか……突然だがな、少し俺の仕事を手伝えよ ――― ああ、厄介なことになりそうだ……薫 ――― 」

     ※

 夜の風が冷たい。
 胸の中に凝っていた不安は、熱いコーヒーと楽しい会話でまぎれたけれど、紫帆たちを見下ろす冷たい月と夜の闇が、忘れかけていたものを思い出させる。
 三人は無言で、ぶらぶらとなんとなく夜の商店街をそぞろ歩く。
 ぺリゴールからの帰途、ついにその沈黙に耐え切れなくなったかのように、
「そういえばさ、柊クンのアパートってここから近いの?」
 ふと、思いついたように紫帆がそんな質問を口にした。


14 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:43:47 ID:CAz7ws7C
 喫茶店のある商店街のショッピングモールは、夜の九時半を回れば開店している店のほうが少ないくらいで、三人はなんとなく閑散とした景色の中を散策している。
 柊は紫帆の質問に、一瞬眉根を寄せて記憶を探るような顔つきになると、
「あー……なんて名前のアパートだったかな……確か……おーば……大鳩荘、っていったかな」
 と、曖昧ながらも返事をする。
 自分が任地で暮らす住まいの名前などいちいち覚えていられるような彼ではないのだが、今回に関しては特別なのだそうだ。
 大鳩荘の名の通り、屋根に風見鶏ならぬ『風見鳩』がくるくる回っているという、奇妙奇天烈な造りのアパートであるために、彼の頭の中にも鮮明な記憶として残っていたらしい。
 その途端、突然、紫帆がくすくすと笑い出し、
「ああ、あの鳩のおウチなんだ? あはは」
 というところをみると、近隣ではやっぱり名物のような建物なのであろう。しかし、紫帆の笑いの理由が、実はそれだけではなかったことが、続くミナリの台詞で明らかになる。
「……偶然……いえ、わざわざアンゼロットさんがそう手配したんでしょうね……」
「あん?」
「……隣です。うちの、学生寮の」
 紫帆たちと行動することを前提にするならば、確かにこれは当然の配慮といえるだろう。
 まあ、アンゼロットであればそのくらいのことはするだろうな、と柊も妙に納得してしまう。
「行き先が同じで良かったぁ。遅くまでつき合わせて、送ってまでしてもらうの、実はちょっと気になってたから……」
 ほっとしたように紫帆が言う。
「遅くなったのはもともと俺が学校で居眠りしちまったからだしな。それに、こんな時間に女の子二人、歩いて帰らせるわけにはいかねえだろ」
 恥ずかしそうに頭を掻いて、たはは、と柊が笑う。
「でも、帰宅先が三人一緒なのは良いことですよ。今後は、しばらく私たちで行動することになるんですから」
「うん……そう、だね……」
 また、沈黙。
 ミナリの言葉は、すでに自分たちが事件の渦中にあることを自覚したものだ。
 いつ。どこで。誰に ――― いや、“なに”に襲撃を受けるかもわからないのである。
 現に今朝、柊と紫帆は早朝の通学路でジャームと交戦した。
 霧谷たちの言う、
『ジャームとエミュレイターが同ポイントでの発生を確認される事象が増加している』
 という言葉を思えば、今後は複数の敵勢力との交戦も視野に入れなければならなくなる。
 そして、敵が ――― いや、“敵たち”がもし共闘関係にあるとしたら。
 なにか共通の目的の元に行動しているのだとしたら。
 彼らの企みを思うだけで、暗鬱な気持ちに陥ってしまう。
 紫帆とミナリはまだ、漠然とこの不安を感じているだけのようであるが、柊の想いはまた別のところにあった。
 かつて、幾度となく世界の危機を経験してきた彼である。ウィザード特有の勘と、柊自身の持つ嗅覚が、この一件にいつもの“きな臭さ”を感じ取っていた。


15 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:44:45 ID:cKcsiXrO
紫煙。
紫帆と絡めてボケようと小一分考えたが出てこなかった

16 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:45:31 ID:CAz7ws7C
(発生を確認されたエミュレイターは、いまのところザコばかり。それが、ジャームとやらと共同戦線を張って組織的に動くってのは、どうもピンとこねえな……)
 裏で糸を引くものがいるとすれば、おそらくそれは魔王級(タイプ・ルシファー) ――― 柊の直感がそう告げている。
 首筋にチリチリと灼けるような感覚がまとわりつき、胸の奥からどろりとした不快感が滲み出す。
 魔王級 ――― それも、裏界に名だたる存在が現界に降臨したことを察せさせるような、あの感覚だ。
(魔王のことについても、キチンと教えといてやらないとな)
 ぺリゴールでの会合でアンゼロットが紫帆とミナリの二人に教えたのは、ウィザードとしての知識のほんのさわりの部分だけである。
 この世界を取り巻く危機について説明を受けていたときも、現にそういう事態に遭遇していない彼女たちは、いまひとつピンと来ていないような顔をしていたものだった。
 魔王の力と恐ろしさを知らずに、彼女らと遭遇するのは命取りだ。
 明日、必ず紫帆たちにしっかり説明をしてやらなければいけない ――― 説明下手な自分がどこまで裏界の脅威を実感させることが出来るかは疑問だが、柊はそう心に決める。

 しかし。

 柊が不慣れな説明役を買って出る必要は、幸か不幸か ――― きっとそれは、結果としては不幸なことなのであろう ――― なくなった。

「柊クン……! し、商店街が……!」
「なに、これ……!?」
 紫帆とミナリの叫び声に、無理矢理思考を中断させられる。
 はっ、と顔を上げる柊の視界に、まるで突如として現れた悪夢のように、異様な姿に変貌した商店街が顕現した。

 右を向く。
 おもちゃ屋が。ファーストフードの店が。薬局が ――― ない。
 左を向く。
 ブティックが。コンビニが。電気屋が ――― 掻き消えていた。

 店舗の閉じられたシャッターや、ぽつりぽつりと営業を続けていた店の軒先が並んでいたはずの両側の並びが、びっしりとすべて、一ミリの隙間もなく ―――

 ――― 古びた、分厚い書物の背表紙で、整然と埋めつくされていた。


17 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:47:27 ID:CAz7ws7C
「な……!?」

 前方を見る。後方を振り返る。
 ショッピングモールであったはずのこの場所は、舗道の煉瓦もいつしか軋むような板張りの床に変じ、入り口も出口も地平の彼方に霞んで遠く、見ることさえ叶わぬ長大な通路と化していた。
 一本の長い通路の両脇を埋めつくす書架は、高く、山のように積み上げられ、見上げればその上辺さえ判然としないほどの膨大な物量で柊たちを圧倒する。

 何千冊。何万冊。いや、何百万冊もの書物で造り上げられた、書架の牢獄。

 饐えた黴の匂いが、柊たちの鼻をついた。
「くそっ……!」
 柊が、遥か上空を見上げたのはウィザードとしての本能だ。
 見紛う事などあろうはずもなく ――― そこには煌々と妖しく、濁りきった輝きを放ちながら、捕らえたものたちを見下ろす、血のような紅い月が昇っていた。
「月匣か!? 紫帆、ミナリ、油断するなよ! エミュレイターだ!」
 こんな姿の結界を造り出すようなヤツは ――― もしかしてアイツ、か ――― ?

 柊の確信が、最悪の形で現実のものとなる。
 無意識の内に、紫帆とミナリを背にかばう姿で、柊の右手が虚空のなにもない空間に差し込まれた。月衣から愛用の魔剣を引き抜き、瞬時に戦闘態勢に移行する。
 後ろで紫帆とミナリの息を飲む音と、それでも戦いの準備を開始しようとする気配に、思わず柊が安堵する。
 エミュレイターの産み出す異界に呑みこまれてなお、戦いの意志を発現することができるのならば、とりあえずは一安心だ ――― そう、思った。
 油断なく睨み付ける夜の向こう側に。
 闇の微粒子が凝固したような暗黒の空間に、突如として無数の白いものが撒き散らされる。

 それが ――― 書物の頁の乱舞であると気づいたときには、“彼女”が顕現を始めていた。

 紙片が風も無いのに激しく舞い踊る。
 数千もの古い紙たちが、柊たちの眼前で人間の姿を真似て集まっていく。
 等身大の、古紙で作られた人形が出来たかと思うと、その頭のある部分から、ばらばらと枯葉が散るように堆積した紙の束がばらけ、その中からひとりの少女が姿を現した。

 腰まで伸びた艶やかな黒髪。
 とろりと夢を視るように細められた紫色の双眸。
 口元には微かな笑みを静かに湛え、くすんだ色のローブを細身の身体に纏っている。
 その胸元に抱え込まれた分厚い書物は、月匣を形作る数百万の書物のどれよりも古ぶるしく。

「てめえは……!」
 柊の奥歯から、歯軋りの音が漏れ聞こえるのも、彼女は意に介することもなく。

「あらあら……怖い顔……お久しぶりですね……柊蓮司……」

 裏界にその名を轟かす魔王の一柱、“秘密侯爵”リオン=グンタが、柊たちにうっすらと微笑みかけた ―――

(続く)


18 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 21:48:08 ID:sjz0Jhx2
しえん

19 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/14(火) 21:48:27 ID:CAz7ws7C
支援してくださった方、有難うございました。投下終了です。
(一度ageてしまって、お見苦しいところをお見せしました。すいません)
なんか、喫茶店でお茶して、三人でだべって、リオンと出会ってビックリ、というだけの話のような気がしますがあえて目をつぶります(笑)。
紫帆がタイトル通り、(女性主人公という意味での)ヒロイン力を発揮するのはまだちょっと先かもですが、しばらくお付き合いのほどを。それでは次回投下時まで。ではでは。


20 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 22:25:12 ID:yVF7qkRa
>.19
お、おかしい。リオン様がなんかかっこいいぞ・・・・?(最近それしか言ってねぇ

GJでした。柳矢さんがなんだかツンデレになってるのは気のせい?w
いや、もとからかw

21 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 23:40:15 ID:T8Dsaqfv
乙〜。
え…何この魔王?(笑)と言うのは置いといて
柊の周りはぶっ飛んだ人間しかいないと言うのが実に良くわかる話ですねぇ。
さてオーヴァード少女二人は魔王にどういった反応をするのか期待。

22 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/15(水) 16:11:49 ID:RqIkHqme
大鳩荘・・・オオバト・・・オーヴァードか!

なんかリオンの登場がザ・ペーパーの演出に思えてしまった
案外あの二人を組ませたら仲がいいやもしれぬ

二人して黙々と本を読んでるだけになりそうだけどw

23 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/15(水) 17:10:23 ID:go6xepCU
読子「こんにちは」
リオン「(ちらりと一瞥、すぐに本に視線を戻す)」
読子「(特に気にせず本棚に向かう)」

30分後

リオン「(無言で読書)」
読子「(無言で読書)」

2時間後

落とし子「お茶どうぞ」
リオン「(無言で読書)」
読子「(無言で読書)」

6時間後

リオン「(無言で読書)」
読子「(無言で読書)」
(落とし子、冷めたコーヒーを回収)

8時間後
読子「じゃあ、私はこれで」
リオン「(ちらりと一瞥、すぐに本に視線を戻す)」
読子「(特に気にせず出て行く)」




24 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 10:51:45 ID:XolBkBlK
>>23
なんか、密かに涼宮ハルヒの長門もいそうな光景ですねw
流石にゼロ魔のタバサは世界が違うから無理でしょうが。
学園世界なら可能?

25 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 11:08:55 ID:KDDte1Rp
学園世界での立ち位置

長門……SOS団・執行委員手伝い
リオン(群田さん)……SOS団
タバサ……カゲモリ
読子……未登場

……図書館でたまたま、ルートくらいしかなさそうだな。

26 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 18:11:56 ID:HqYw/1uE
こんなの見つけた。

某アクション チラシの裏【習作】現在題名考え中(リリなの+オリ主)

中々……あ

27 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 18:22:46 ID:HqYw/1uE
こんなの見つけた。

某アクション チラシの裏【習作】現在題名考え中(リリなの+オリ主)

下がる男の像
中々……ツッコミをいれれそうな予感


28 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 18:53:04 ID:KDDte1Rp
ごめん、俺には>>26-27が何を言いたいかまったくわからないんだけど
誰か通訳してくれないか?

29 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 18:54:52 ID:fZ4ivMEO
誤爆だろ。

30 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 19:33:24 ID:nhM05Pmz
ちょっと訳してみよう

こん

某アクション
下が
中々


できなかった

31 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 22:16:36 ID:3l+Cd07L
どっかで地雷的な意味で楽しみなオリジナルSSで、NW要素を見つけたってことなんだろうな、多分。

32 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 23:56:01 ID:9hzEkCcx
他のSSサイトでNW要素のあるSSを見つけたということらしい。クロスじゃないうえ外部サイトなので
力一杯スレ違いだが、興味のある人は前スレの539とか参考に検索してみるといいんじゃないかな。

33 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/16(木) 23:59:30 ID:KDDte1Rp
見てみた。

……NWの話と、単にデータ使ってみましたっていうの、2つひっかかった。
世の中って広いね。つか、穿った見方すると宣伝乙?

34 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:15:32 ID:3sfVIQZv
さぁて、流れをぶった切って30分から投下予告するのでありますよー。

べ、別に支援してくれてもいいでありますからなっ!?

35 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:21:58 ID:8+LwpJQM
      |ハ,_,ハ
      |´∀`';/^l
      |u'''^u;'  |
      |∀ `  ミ  ダレモイナイ・・・
      |  ⊂  :,    シエン スルナラ イマノウチ
      |     ミ
      |    彡 
      |    ,:'
      |''~''''∪


               l^丶            
     もさもさ支援   |  '゙''"'''゙ y-―,     
               ミ ´ ∀ `  ,:'     
             (丶    (丶 ミ     
          ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ
              ;:        ミ  ';´∀`';,  
              `:;       ,:'  c  c.ミ  
               U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J


            /^l
     ,―-y'"'~"゙´  |   もさもさ支援
     ヽ  ´ ∀ `  ゙':
     ミ  .,/)   、/)
     ゙,   "'   ´''ミ   ハ,_,ハ
  ((  ミ       ;:'  ,:' ´∀`'; いまのうち
      ';      彡  :: っ ,っ
      (/~"゙''´~"U    ι''"゙''u



             /^l     ・・・マンゾク・・・
      ,―-y'"'~"゙´  | 
      ヽ *´∀ `* ゙':
      ミ        ゙':
      ゙, ∪   ∪''ミ    ハ,_,ハ
       ミ       ;:'   :´∀ `';
       ';      彡    ,''u u.ミ
       ∪~"゙''´~"U     u''゙"J.



36 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:30:51 ID:3sfVIQZv
 灰色の髪が、学園世界の風になびく。
 多くの世界の人間が混在する中でも、1、2を争うほど見事なアッシュのロングストレートを風になびかせながら、その持ち主は大きく溜め息をつきながら歩いていた。
 端整な顔立ち。理知的ながらハイライトがないため『黒幕っぽい』と呼ばれることもある瞳。同年代から見れば確実に上から数えられるだろうプロポーション。
 平均よりは少し高めの身長に、暗めのシャツに黒のネクタイ。濃い目の茶に白い蔦の刺繍のロングスカート、黒のニーソックスにショートブーツ。
 銀縁眼鏡がきらりと光る、理知的な娘。
 彼女の名は、氷室 鐘(ひむろ かね)。穂群原学園高校3年生にして、『学園世界』報道委員所属の少女でもある。
 氷室はやれやれ、と肩を落とす。

「話には聞いていたが―――戦闘力がなくても凄まじい学校というのも、あるものなのだな」
「ホント。……どうしよっか、鐘。こんなの流しちゃっていいのかな?」

 そう答えるのは、氷室と同じく報道委員所属の少女、森 あい(もり あい)だ。
 森が投げてはキャッチを繰り返しているのは、一本のビデオテープ。
 それは、学園世界報道委員会TV―――GITで今度放送する予定の番組、『課外授業 ようこそ学校』の元テープだ。
 これを編集してテロップを入れたり、グダグダなところをカットしたりして番組を作るわけなのだが―――今回は、学校が悪かった。
 なにせ『銀魂高校』だ。
 明らかに学生じゃないだろお前らって連中が所狭しと出没し、それを担任は見てるのか見てないのか『俺、そろそろ着流し着たくなったから帰ぇるわ』と言い出す始末。

 その惨状を思い出しながら、氷室は頭をおさえて答える。

「仕方あるまい。私もアレを放送するのは頭が痛いが、あのグダグダを放送するのも我々のつとめというヤツだ。
 事実は面白い方がいいが、真実は面白いことばかりではないという一面だな。どうしようもない真実を面白くすることはできん」
「よくわかんないけど……アレはどうしようもないからそのまま流しちゃおうってこと?」
「うむ。汝もなかなか大人の事情に染まってきたようでなによりだ」
「うぅ……そんな大人の事情、知りたくなかったよぅ……」

 森が涙ぐむ。
 が、感情に素直なところと、切り替えの早いところが彼女の美点。
 次の瞬間には森は自分の秘密ノートを取り出す。

「えーと……次はどこだっけ?」
「次は『ごくつぅ』特集増刊号の記事のためのインタビュー録りだな」

 こともなげにそう言う氷室。

 『ごくつぅ』とは、『週間極上生徒会通信』の略称である。
 報道委員会とは、この『学園世界』の中で起きているできごとを世界中に広めるのを目的とした委員会だ。
 その委員の主な活動内容は今のところ2つ。『週間極上生徒会通信』の刊行と、毎日朝9:00から夜21:00まで放送しているGITの放送だ。

 もともとの活動内容であった『ごくつぅ』は一週間で起きたことをまとめた小冊子のようなものである。
 魔法講座から、流行の服、最新『極生』案件事情、学園世界にあるグルメマップまで。
 さまざまな情報の載る『ごくつぅ』はおおむね好評を博している。

 その『ごくつぅ』の発行も5回目を数えるくらいになってくると、報道委員会棟にさまざまな要求が寄せられるようになった。
 もっとこういう記事を作ってほしい。もっと記事を増やして欲しい。ここはこういうようにするべきだ、など。
 大抵は手前勝手な要求であるものの、中にはアイデアの素になるものもある。
 その意見の一つ、『学園世界ならではの組織が丸ごとわかるような増刊を出してほしい』というのを実現させてみよう、という意見が通ったのだった。



37 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:32:21 ID:oA48Kb7u
支援するでありますよ

38 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:36:00 ID:3sfVIQZv
「そうそう……って、もうそんな時間?」
「そうだが。……嫌そうだな、あい」
「イヤっていうか……緊張するよね」

 うーん、と眉をしかめる森。
 うん? と小首を傾げながら氷室が答える。

「私の記憶が確かなら、汝はあそこに乗りこんでいったことがあったはずだが」
「あっ、あの時は植木が迷惑かけたから頭下げさせようと行っただけでっ! 別にケンカとかしに行ったわけじゃないからねっ!?」
「あそこの連中と前日に乱闘騒ぎを起こした相手を連れて、一緒に乗り込んだことは事実だろう?」
「うぅー……今考えるととんでもないことしてるよわたし―――っ!?」

 まったくだ、と言ってくすりと笑い、氷室は目の前で慌てている少女に対して少し思う。

 こうやって慌てているところを見ると、彼女はとても年相応の娘に見える。
 しかし、森 あいという少女は追い詰められるとその真価を発揮する。
 追い詰められたときの頭の回転、機転の利きは、力は強くとも絡め手の苦手な猪突猛進型の特殊能力者を相手どって手のひらで躍らせることができるくらいだ。
 危険な策士になる可能性を秘めてはいるのだが、どうにも本人にその気はない。
 資質としては実にもったいないが、彼女がその力を発揮するのは『ある一定の相手』が一緒にいる時が多い。

 これもまた『恋の力』というやつだろうか、とくすくすと笑っていると、森が不機嫌そうに頬を膨らませているのに気が付いた。

「……そんなに、楽しい?」
「失敬。
 あいのことを笑ったわけではない、信じてくれ」
「口元が笑ってるんですけど」
「私はもともとこういう顔だ。
 そんなことより、そろそろ行かねば彼らを待たせることになるぞ?」

 うぅ、とうなりながら森は氷室をしばらく睨んでいたが、やがて踵をくるりと返した。
 行くよ鐘っ! と言う彼女に、苦笑しながら氷室が隣を歩く。

 彼女たちの行く先は<A−0e>5階―――通称東棟、といった。




39 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:36:13 ID:oA48Kb7u
試演

40 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:36:55 ID:3sfVIQZv
 ***

 『極上生徒会』管理棟内東棟5階、執行部室の隣にある来賓室。
 めったに使われることはないが、基本的に執行委員以外の人間が執行委員と話すために来た時に使われる部屋である。
 もともと『極上生徒会』の会員が寝泊りしていた名残を一番強く残し、他に比べてやや高級感ある家具の置かれている部屋に、今5人の少女たちが座っていた。

 その内の2人―――森と氷室が『来賓』という扱いで上座に座っている。
 氷室が机をはさんだ対面に座る3人の少女に向けて、軽く会釈しながら告げる。

「忙しい中、時間を割いていただき感謝する。
 先にアポイントをとった通り、今度報道委員会では『ごくつぅ特集号 −執行委員ノ全テ−』を発行する運びとなった。
 その特集記事の一つとして、執行委員たちの生インタビュー記事を載せる企画が上がり、それをキミたちに協力してもらいたい」
「お話は聞いてます。あたしたちでよければ、インタビュー協力させてもらいますね」

 そう答えるのはエルフィール=トラウム―――通称エリー。
 ザールブルグ内で錬金術士として腕をふるう錬金術士であり、執行委員としても活躍する少女である。
 その隣にいる少女が、怪訝そうな表情で報道委員に向けて尋ねる。

「別に私たちがインタビュー受けるのは構わないけどさ。
 こういうのって、普通『代表』が受けるモンじゃないの?」

 少女の名は御坂 美琴。学園都市レベル5の第三位、『超電磁砲』。
 学園都市内では群れることを嫌う彼女も、執行委員として活動することに異論はないらしく3ヶ月経った今も執行委員をやっている。
 美琴の隣のメガネ少女が、エリーのいれたミスティカティを啜りつつ答える。

「仕方ないッスよ。柊さんが一つところに留まるわけないッスからねー」

 なるほど、と呟く美琴。
 執行部室にいると確実に保証のない相手に対してインタビューを申し込むのは無謀だろう。
 保証がないというか、むしろいない可能性の方が高い。

 そんな理由か、と氷室は目を細め、森はガチガチに緊張している。
 これは緊張をほぐすイベントが必要かもしれないな、と考えながら、氷室はどこからともなく羽扇を取り出し、口元を隠したまま尋ねた。

「それではインタビューを始めるが。
 ――― 時に美琴嬢、『幻想殺し』との仲は進んだのかね?」

 みさかみことに300のせいしんだめーじ!
 みことはおちゃをふきそうになりながらたえてむせた!



41 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:39:38 ID:oA48Kb7u
恐ろしいなw

42 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:41:20 ID:3sfVIQZv
 げほっ、けほっ、と盛大にむせている美琴を見て、森が氷室のえりを掴んでがくがくゆさぶる。

「かっ、かかかかか鐘―――っ!? いきなり何を聞いちゃマズそうなこと聞いてるの―――っ!?」
「うん? おそらくは、大衆が美琴嬢に向けて一番聞きたいことを単刀直入に聞いてみただけだが」
「つまり……アンタはあたしにさらし者になれ、と。そう言いたいわけね?」

 バチンバチン。
 なんだか美琴の髪の先が帯電しまくって危険すぎる音が響きだしている。スタンガンでいうなら象でも一撃コロリできそうな物騒な音である。
 そんな彼女の怒りを涼やかに受け流しがら、氷室は答える。

「いやいや。
 『執行委員はとんでもない能力を持った破壊の権化たちの集まり』という世界的な認識を改めるためには、色恋沙汰というのは一番の薬だと思うがね」
「誰が破壊の権化ですってっ!?」

 破壊の権化……、となんだか隣で落ち込んでるエリー。
 あっはっは、と笑いながら逆の隣でベホイミがクッキーをひとかじり。

「美琴さんはビーム乱射するは電撃ブチかますはで、破壊の権化って思われても仕方ないところがあると思うッスけどねー」
「あぁ、美琴嬢は『蒼雷の女帝』なんてあだ名で呼ばれてもいるな。主に美琴嬢自身が調停した学校の生徒から」
「誰っ!? 誰よそんなこと言ってるのはっ!? 焼いてやるから今すぐ出頭してきなさいっ!」

 そんなことを言われて出てくる奴はいないと思う。
 あっはっは、と笑っているベホイミに視線を向け、氷室が言った。

「余談だが。ベホイミ嬢、汝も自身が調停した学校の生徒から『赤熱の暴牛』なんて呼ばれているぞ」
「誰だコルァァァァアアっ!? 出てくるッスよっ、タコにしてやるッス―――っ!」

 ばたばたがたんがたん。
 もの凄い大乱闘が起きております。しばしお待ちください。



43 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:42:55 ID:oA48Kb7u
大惨事w 支援

44 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:43:26 ID:3sfVIQZv
 ***

 10分後。
 暴れまわってスッキリしたのか、疲れたのか。
 エリーを含む執行委員3人と森がぜーはーと息を荒げているのに対し、氷室は羽扇をかざしたまま涼やかに言った。

「さて、緊張も解けたところでそろそろインタビューを始めたいのだが、いいかね?」
「ちょっと……まだ、始まってなかったっていうの?」
「なぁに、ウチの『自白剤』がやけに汝ら相手に緊張していたのでな。
 それに、美琴嬢のインタビューをするには、普通のレコーダーでは心配だろう?」

 おかげで携帯や音楽再生機なども一時隣に預けていてな、と氷室。
 確かに単体で電波障害だのを起こしたり、周囲の携帯全滅させたりする人間相手に電子機器を使ってインタビューするのは無駄になりかねないだろう。
 と、その時。
 こんこん、とドアをノックする音がした。
 氷室は言葉を続ける。

「だが、魔法製のレコーダーは品薄でな。報道委員会(ウチ)でもまだ一台しか所有していない。
 ウチも忙しくて、まだ取材中のところでレコーダーを使用していたから、それの都合がつくまではどちらにしろインタビューが開始できん。
 が―――ようやく、先の仕事も一段落したようだ」

 入るといい、とドアの向こうに声をかける。
 失礼します、と生真面目な声がして、鞄を持った中学生くらいの童顔の男の子が入ってくる。
 少年は、鞄の中から掌に乗るサイズの小さな箱を掴んで、机の上に置くと、笑顔で氷室に報告する。

「氷室さんっ、真神学園の取材終わりましたっ!」
「ご苦労、赤羽。ちょうどいい時に来てくれた。これからインタビューを始めようとしていたところだ」
「大丈夫青葉くん? いじめられたりしなかった?」

 氷室と森がそう口々に言う。
 と、エリーがその少年を指差して目を丸くした。

「アカバネでアオバって言うと……ひょっとして―――」
「あぁ、輝明学園秋葉原分校赤羽理事長代理の弟君だ。ついこの間、報道委員に入りたいと連絡があってな。真面目でよく働く、いい子だよ」
「そんな……ボクなんて、まだまだ皆さんの足を引っ張ってばかりですよ」

 頭をかく青葉を見て、なごむ空気。
 ……そして、空気が和んだのを『計画通り』と言わんばかりににたり、と笑う氷室と、それに気づいて『この女は悪魔ッスね……』と思うベホイミ。

 そんな一部の思惑を放っておいたまま、では始めようか、と氷室が言って、インタビューが始まった。
 青葉が机にレコーダーを置いて録音ボタンを押すのを確認し、氷室が仕事用の口調になる。

「今日は、インタビューのためにお集まりいただき、感謝します」
「はいはい早く始めなさいよ」
「そう言って協力的にしてくださると、とても助かります。
 では―――まずはじめに、執行部に入った経緯をお聞かせ願えますでしょうか?」

 言われ、はじめに答えたのはベホイミだった。

「あー……わたしはこう、なりゆきっていうかそんな感じッスね。
 柊さんと会って、一緒によくわかんない敵撃退する―――なんてことが3、4回あって。その後執行委員の公募があって、その時すでにわたしの名前があったっていう」
「それって……なりゆきっていうより、強制参加なんじゃ?」

 森の問いかけに、まぁそうとも言うかもしれないッスねぇ。なんて暢気に答えて、ベホイミはかるーく答える。

「ここにいるのもそんなにイヤじゃないッスし、別にいいんじゃないッスかね。
 始まりは無理矢理だったかもしれないッスけど、今は別にイヤじゃなくなってしまってる自分がいるッスからね」

 今がいいならそれでいい、と言った彼女は、笑顔だった。


45 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:44:21 ID:3sfVIQZv
 エリーが続く。

「あたしは執行委員の公募があって、それを見てお手伝いしたいな、と思ったんです。
 色んな学校の人とお話できるかもしれないですし、錬金術の効果を確認するのに何かと都合がいいかもしれないと思って」
「い、意外と打算的なこと考えてんのね、アンタ。
 わたしは―――『学園都市』が転移してきた後、すぐにちょっとゴタゴタしちゃってね。
 それを解決しに来た柊に、手伝ってやるって面倒な約束させられたのよ」

 最後に美琴がそう言うのを見て、氷室が目を光らせた。

「ほほう? その割に、君は執行委員の仕事をしている時やけにいきいきしているように見えるがね?」
「人を暴れ馬みたいに言わないでよ。単に、手加減する必要のない相手が多いから、気兼ねなくて楽だと思ってるだけよ」
「……汝はどこへ行こうとしているのかね」
「う、うるさいわねっ! それだけ毎日経験積んでもあの馬鹿には一発もあたらないから腹立つのよ!」

 結局そこか、と思いつつ、一台しかない魔法型レコーダーを壊されるのも困るので、さすがの氷室も黙っていた。
 森が、氷室が余計なことを言う前に話を進めようとする。

「あー、じゃあ他の執行委員の人についてどう思ってるか、聞いてもいいですか?」
「他のって……たとえば誰を?」
「そうだな。では、小学生魔法少女ペアという狙ったかのような属性の、穂群原(ウチ)のイリヤスフィール嬢と美遊嬢について手始めに聞こうか」

 エリーの言葉に、氷室が続けた。
 その言葉にそうだなぁ、と美琴があごに手を当て考える。

「あの2人は―――いいコンビよね。ボケとツッコミっていうか、ちょっと美遊の方に後ろを見せると怖いけど、イリヤの空気が平和ボケしてるっていうか」
「ルビーさんとサファイアさんは一度触らせて欲しいんですけどねェ。なかなか隙を見せてくれないというか……」
「フフフ、その問いはわたしに対する嫌がらせッスか。魔法少女としてやってきて後から正統派に来られて立場のなくなったわたしに対する嫌がらせッスか」

 三者三様。
 が、頑張れベホイミ。

 ともかく。最後のベホイミの言葉で暗くなった空気を無視するように、はっはっは、と笑いながら氷室が言った。

「じゃあ、次は相良氏のことでも聞かせてもらおうか」
「戦争バカね」
「爆発物のプロですよね」
「昔を思い出すッスねぇ」
「統合すると戦争バカってことじゃないですかっ!?」

 青葉、魂のツッコミ。
 というか、他に言いようはないのか。
 いやいや、とベホイミが答える。

「いい人ッスよ。基本的に戦争ボケさえなければまともな会話ができる相手ッスし」
「多少、考え方が偏ってるところはありますけど。爆薬の調合なんかは聞けば詳しく答えてくれますし」
「エリーさん。若い女性の質問内容が『爆薬の調合法』っていうのはどこか激しく間違ってるところがあると思いませんか?」

 エリーがそう言ったのにツッコむのはやはり青葉。
 ツッコミが赤羽家の人間とは思えないほど冴え渡ってませんか青葉さんや。

「若い女性ならともかく、あたしはその前に錬金術士なもんで」
「あぁ、『すっとこどっこい』というやつだな」
「じゃあ仕方ないね」

 納得した様子の報道委員を見て、ちょっと切なくなるエリーだった。
 時を同じくして、ザールブルグ近郊で蜂蜜色の髪の女性がくしゃみしたとのこと。
 それで済ませちゃうんですねぇ……なんでぼやきながら、じゃあ、と青葉が次の人物について話を振った。



46 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:46:02 ID:oA48Kb7u
かるいなぁw 支援

47 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:46:48 ID:xu+FARDQ
別に、貴方の為に支援するわけじゃないんだからね。
…わ、わたしが、続き、スムーズに読みたいだけなんだからっ。

48 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:48:29 ID:oA48Kb7u
あぁ、青葉が苦労人だなぁ 支援

49 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:50:45 ID:3sfVIQZv
「初春さんやノーチェさんは? 前線に出ることはあまりないですけど」
「初春さんは……風紀委員もやってるっていうから、すごい仕事量よね。
 けど、丁寧で細かいとこまできちんと調べて教えてくれるから助かってるわ」
「そうッスね。後方支援に関しては何にも文句ないッス。わたしの報告書も肩代わりしてもらってるッスし」
「ノーチェも丁寧ですよ。美琴さんみたいに魔法から縁遠い世界の人だと、胡散臭く見えるみたいですけど」
「ちょっとエリー、わたしだってノーチェのことは信用してるわよ。……最初は本当に大丈夫なのか気になってたけど」

 隣の部屋でくしゃみ一回。

 閑話休題。
 それまでカリカリとノートに何やら書き込んでいた森が、顔を上げて聞いた。

「あー……じゃあ、植木のことは、どうですか?」
「やはり、自分の連れ合いがどう思われてるかは気になるかね?」
「なっ、ち、ちが……っ!?」

 氷室に即座に突っ込まれて顔を真っ赤にしながら言葉に詰まる森。
 それに、ごく平然とクッキーをかじりながらベホイミが話す。

「あー、やっぱりそういう関係なんスねぇ。森さんもかわいいトコあるじゃないッスか」
「やっぱそうなんだ。ま、そういう風にしか見えないけどねあんたら」
「ち、違う―――っ! 違うんだってばっ! うきゃー!」

 森、キャラ崩壊中。
 まぁまぁ、と場を落ち着かせるのは、最年少(中学1年)の青葉である。

「森さんと植木さんの関係のことはカットするとして。
 ともかく、執行委員のお三方は植木さんのこと、どう思ってらっしゃるんですか?」

 この子が一番まともかもしれない。
 そのように促された3人は、うーん、と考えてぽん、と答えた。

「正義バカよね」
「いい子ですよね」
「わたしと猪突猛進さではいい勝負ッスね」
「ベホイミさん、自覚があるなら自重してください……」

 なんかこの光景、宗介の時にも見た気がします。
 閑話休題。
 美琴が言葉を続けた。

「うーん。
 後先を考えずに先に突っ走っていっちゃって、そのクセ退かない頑固者だからね。同情するわよ、森さん」
「ほう。それは同類相憐れむというヤツ―――」
「あぁもう、アンタって人は―――っ!!」

 氷室のえり首引っつかんでがっくんがっくんする顔の赤い美琴。
 ちなみに氷室はそんなことされながらもふははははは、と至極楽しそーに笑っている。つーか悪役笑いだ。
 朴念仁相手に恋しちゃうと大変だよね、という実例である。



50 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:51:42 ID:3sfVIQZv
 そんな光景を横目に、青葉が引きつった笑みを浮かべながら、執行委員最後の1人について言及した。

「そ、それじゃあ最後の1人について伺いますね。
 輝明学園(ウチ)の柊さんって、どんな風に思われてますか?」
「バカッスね」
「バカだよね」
「掛け値なしのバカね」
「もはや枕言葉もないんですかっ!?」

 鉄板芸かよ。

 それはさておき。
 青葉がツッコミを入れることまで鉄板な気がしてきたが、森が聞く。

「え、えーと……もうちょっと詳しくどんな感じなのか聞いてもいいでしょうか?」
「と、言われても……柊蓮司ってゆーヤツを『バカ』以外の言葉で表せって言われると言葉に困るんスよねー……」

 そう遠い目をするベホイミ。その横でうんうんと頷く美琴。
 エリーがあぁ、と手を打った。

「そうですね、『バカ』以外だと『不器用』とは言えるかもしれないですね」
「けど、そんなの執行委員のほとんど全員に言えるんじゃない? 好き好んでこんなトコにいる以上はね」
「言えてるッスねー」

 美琴の言葉に、ベホイミが苦笑い。

 『執行委員』という連中は、望んで損をしようとする集団だ。
 『学園世界』のどこかの誰かの厄介事を抱え込んで、自らの力をもってその厄介事が広まる前に片付けるトラブル解決屋。
 損か得か、と言われれば、厄介事に関わること自体が損。
 触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。危ないことには関わらないことが、一番賢い方法だ。

 けれど。
 それで、泣くかもしれない人間が出ることを許容できない欲張りの中の、一握りが彼らだ。
 意外と。そういう欲張りは多いのかもしれない。

 ふむ、と。氷室がそんな言葉を聞きながら微笑んだ。
 なるほど。執行委員という連中を常々大馬鹿者の集まりだと思っていたが、それは大きな間違いだったようだ。
 どうも、『自覚のある大馬鹿者の集まり』というのが正解らしい。
 巻き込まれているわけではなく、自分から率先して厄介事に巻き込まれようとする物好きの集団、という認識が正しいらしい。
 まったく酔狂な連中だな、と思いながら彼女は一言呟いた。

「ふむ。やはり生き方が不器用だと恋の仕方も不器よ―――」
「その話を引っ張るなぁぁぁぁあああっ!?」

 叫んだのは美琴と森だったが、その言葉にエリーとベホイミがずーん、という擬音をしょってモノクロな背景に突入してたりする。
 ……自覚があるのか、君ら。




51 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 00:53:26 ID:oA48Kb7u
いまんとこ話題に出た男全員が朴念仁な件で支援

52 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:55:30 ID:3sfVIQZv
 ***

 報道部棟に氷室と森と青葉が帰ってきたのは、日も大分傾いてからのことだった。
 あの後。事あるごとに恋愛探偵氷室がコイバナ(死語)に話を持っていこうとするのを、時に青葉が尽力し、時に皆が実力を行使しながら、なんとかインタビューを終えた。
 最後らへんは、青葉の姉の話でやけに盛り上がっていたような気がしないでもないが。
 青葉としても『困った姉です』的な感じで共感を得たのがちょっと嬉しかったかもしれない。

 実際困った姉なのである。
 ちょっと目を離すと勝手に面倒事を安請け合いしている。
 もう少し周囲の迷惑を考えてほしいなー、と思いながらも、そんなことをするようになったら姉ではなくなるとも思う。
 どうせ、言って直してくれるわけでもないし。
 ちょっと達観した少年、赤羽 青葉(13歳・中2)であった。

 ともあれ。
 彼らは報道部棟に着くと、氷室はともかくとして2人ともぐったりとしていた。
 氷室は意地の悪い笑みを浮かべながら、どうした?とたずねる。

「2人とも、やけに疲れきっているようだが。若い者がそれではいかんぞ?」
「ひ、氷室さん、元気ですね……」
「あんたが、ことあるごとに誰かが、暴れだしそうな話題、振るからでしょうが、鐘……」
「うん? あの程度で暴れだすようでは、将来が思いやられるぞ?」

 森と青葉に『この女(ひと)だけは敵に回さないようにしよう』という共通認識が生まれたのは言うまでもない。
 ともあれ。
 彼らの仕事はインタビューをして終わりではない。
 映像データはすでに編集専用チャチャUに任せてあるからいいものの、文章起こしを音声認識で入力させ、その後の添削作業が待っている。
 音声認識入力が終わるまでは、少しヒマともいうのだが。
 そんなヒマな時間。青葉がうーん、とぼやく。

「それにしても、これで売り上げ出るんですかね?」
「どーゆーことー?」

 机に突っ伏しながらそう言う森に、青葉が視線を合わせて言った。

「ほら、同人誌とかでも小説オンリーの本よりも挿絵ありの本、挿絵ありの本よりも漫画の方が売り上げ出るじゃないですか」
「な、なかなかコアな例えだね……っていうか『どーじんし』ってなに?」

 汗を浮かべつつの森。
 青葉の言っていることは、しかし正しい。
 文字だけの冊子よりは、文字+写真や絵の冊子の方が手を出してもらいやすい。
 それを見て、ふふふ、と笑う氷室。その口元にはいつものように、月衣や時空鞘もないのにどこからともなく取り出した羽扇が立ててある。

「なかなかいいところを突くな、赤羽。
 確かにその通り。手に取ってもらうにはまずアピール。インパクトのないポスターの映画が一般受けしないのと同じだ」
「いや、あの、映画の話はしてないと思う……」
「確かに 同好の士(わかっている人)向けならばそれでも構わんかもしれんがな、我々がすべきは大衆に向けて発信するものだ。
 手に取ってもらう、というのが第一ならば、地道なインタビュー記事だけではもの足りんのは事実だ」

 森のツッコミをスルーしたまま話を続ける氷室。青葉が心配そうな声を上げる。

「それじゃあ……」

 報道部室に嫌な沈黙が落ちる。
 ふふふ、と小さな笑い声が、氷室から漏れた。

「―――赤羽。汝は、私が発覚した弱点を克服もせずに放置しておくとでも?」

 光ったメガネを見て、森はやっぱりこの女は怒らせないようにしよう、と心に固く決めるのであった。



53 名前:報道委員の策略:2009/04/17(金) 00:58:18 ID:3sfVIQZv
 ***
 後日。
 発行された『ごくつぅ特集号 −執行委員ノ全テ−』の表紙には。

『ビフォー/アフター 魔法少女たちの素顔と戦闘衣装(バトルドレス)ピンナップポスター付き!(美遊ちゃん、イリヤちゃんの2枚中1枚のみ。悪しからず)』
『超電磁砲 麗しの発射シーン! −超高感度魔導カメラで追う発射までの凛々しい横顔−』
『メガネの全て 〜なぜわたしはメガネっ娘になることを選んだか〜』
『ベホイミちゃん100変化! 暴れ牛と呼ばないで』
『器具とあたし エルフィールさんのオススメ ときめきハチミツ実験器具教室』
『憩いの男子シャワー室 裸祭りin 学園世界』

 などという文字が踊り。

 ……真面目に『ごくつぅ』史上最大の売り上げを誇ったという。
 写真のことについて女性陣からは許可をとっていたが、男性陣からの許可を忘れていたことに対して一部女性読者が猛抗議したのは、また別のお話。


fin

54 名前:報道委員の策略作者こと夜ねこ:2009/04/17(金) 00:59:52 ID:3sfVIQZv
 なんとかGMしきった(挨拶)。
 その後ダメだし食らって凹みつつも、やっぱ経験積むしかないよね、と再確認している夜ねこです。
 ちょっと某所で遊んでたら妄想が酷いことになったりもしてる。
 つーか今回グダグダすぎる。
 氷室無双しかやってねぇ。愛ですか。愛ですね。

 ともあれ出展ー。つーか新規は1人しかいないっさー。

赤羽 青葉(あかばね あおば) 輝明学園中等部@ナイトウィザード

 ちなみに前回の「互助」でちらっと出てきた、柊の言ってた『どこぞの飛び出しナイフ眼鏡』くんは月姫の遠野志貴ですね。うっかり忘れてた。


 次に前回のレス返しー。全部前スレ。

>>405
だ、ダメー! そういう発言きんしー! ほら、君の後ろっ、後ろに刀持った人と指先に火ぃ出してる人が……っ!

>>408
「クリスさんたち」っていうのがそれにあたるです。……つかね、マイナーすぎて前線で活躍させていいもんかどうか迷ったんだ。個人的にはすごく好き。

>>411
Yes。つーか、ヅラも出展書き忘れてた。素で。
賞金稼ぎ……学生バウンティハンターって、そんなにいっぱいいるかね?と考えて、バイトでウィザードの一条兄妹はそうと言えなくもないと思い至った。

>>412
あざーっす! その一言のために俺がんばってる!

>>417
そういうあなたはみっちゃんさんか。あざーっす!
そうですね。誰かが止めないと孤独死しそうな馬鹿です。一人にしちゃダメですね。
仲間がいれば頼るけど、いなけりゃいないで一人でなんとかしようとするんで。意外と危なっかしいとこもあるです。俺のイメージでは。

>>418
やっぱ、色々と古めなのも混ぜた方が色々と楽しめるよなー、と思ってみた。あんまり古すぎるとまた範囲外いくけど。

>>419
ジラアスは……誰かが出した瞬間に存在が確定するんじゃないかな?とシュレディンガーっぽいことを言ってみる。

>>420
あー……妖魔はさすがに知らないなぁ。すんません。

>>422
ポテンシャリティはすごく高いと思うの。あとはみんなでどれだけ広げてけるかだと思います。
俺の範囲は偏りが酷いんで(苦笑)。



55 名前:夜ねこ:2009/04/17(金) 01:00:37 ID:3sfVIQZv
 今回の話について。
 赤羽弟出したからナイトウィザードのクロスだよ!と言ってみるテスト。
 うん、無理がある。……いや、なんか登場人物確定してみたら、ナイトウィザードキャラいねぇっ!?ってことに気づいた。
 あわてて出せそうな奴を考えて、このチョイス。
 いや、ほかにも執行委員にゲシュ子突っ込むかとか、報道委員に麒麟突っ込むかとか、ユリちゃんでも突っ込むかとか色々考えたんだけどね?
 うまく話しにそうためには彼女らのためにすごいテキスト量が必要になるんで、無個性で突っ込みのできるNPCを探した結果青葉になったという。
 ごめんよ苦労人。

 恋愛探偵にして穂群原の呉学人、フルスロットル。
 うん、ゴメン。愛。氷室への俺の愛。狂っててゴメン。
 あと―――それから、内容としては自爆しまくる美琴が書けて楽しかった。いやぁ、このツンデレは遊ぶと楽しいなぁ。

 個人的にはベホと美琴はかなり仲がよかったり。
 ベホ→美琴 信頼■/脅威□ で、美琴→ベホ 感服■/憐憫□ くらいの(何故ロイス表現)。
 そしてエリーはみんなと仲がいい。

 氷室さんはこんなことやってるけど、基本的にはいい人。
 ちょっと趣味が計略・謀略・策略型シュミレーションゲームなだけ(それはいい人か?)。
 世界文化大戦とかやらせると『香辛料をよこせ! さもなくば核だ!』とか言い出すガンジーによる、MSとかクローン兵士によるガンジー軍団を編成しちゃうだけ。
 そしてごくたまにうっかり想定外の偶然によって計略が外れることもあるが、大抵そういう時はみんな道連れになるから負けることはあんまりない。
 ……うん、なんで俺こんな子好きなんだろ。でも大好きだ。

 さて、氷室への愛を語るのもこのへんにしておかねば。
 下手すると俺一日語るからね。氷室とか柊とかミサカ19090号とかへの愛語らせると。

 ではまた、何か書けました時にでも。
 執行委員の花見ネタでも書こうかな? 時期外れるし、なんか時事もので作ってみっかなー?

56 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 01:13:10 ID:oA48Kb7u
GJ

自分は概要しか月姫を知らないけれど氷室女史がイイ女だというのはわかったw

57 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 01:14:47 ID:oA48Kb7u
・・・月姫じゃなくてFateだったね、そういえば

58 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 01:33:32 ID:6dk19HXa
GJ、恋愛探偵の腹黒さを存分に楽しんでおられるようでw

59 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 06:07:26 ID:zcXC22aT
>>55
流石氷室。恋愛探偵もとい腹黒メガネの名は伊達ではないねwww
一緒にいる青葉君の将来が心配ですがw


あとベホイミい`w

60 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 06:23:56 ID:tinK8M+O
学園リストから各作品へのリンクがほしい
というのは贅沢だろうか

61 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 16:02:50 ID:8hPzzUhy
>60
作ろうとしたことはあるw

62 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 19:50:39 ID:Y1kSXoTZ
>>60
それなら

1 一覧にはあってもまったく話に参加してない学校を削除する
2 一覧にはないが参加している学校を追加する

の行程もやってほしいと思った。
ネタ発言が残ってて、実際書かれたものが残らないってのは、少しおかしいと感じないか?

63 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 21:19:40 ID:SnnfG5eu
>62
よし、頑張れ


っ【シチュエーションカード:言い出しっぺの法則】

64 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 21:27:16 ID:Y1kSXoTZ
携帯しかないからな、残念ながら。
それに、勝手にやると文句言われそうだし。

65 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 22:33:29 ID:8hPzzUhy
叩き台にして修正することはあっても、誰も文句は言わないっしょ

66 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 22:49:06 ID:H2Wdpf8R
2はともかく1はやめとけ
世界が広がっていくのが楽しいのにわざわざ狭めてどうする

67 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 23:27:03 ID:OUeCMiTs
ふと思ったんだが、執行委員に衛宮士郎がいないのは何故かと思ったんだが、よく考えたらここの士郎はカレイドルビーの士郎だから、下手したら正義の味方を目指していないのかもしれないんだよな。
切継とアイリも生きているし。

同じ学校でも本家とスピンオフのが同時に存在していても可笑しくは無いんだよな、よく考えたら。
とらハ1にとらハ3とリリカルなのはとか。

68 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/17(金) 23:53:35 ID:jutC92Ma
スピンオフで思い出したが…そういやしの何でも屋さんのとこの学校ってオリジンからの使いまわしだったよな…



……………………………タイム&アゲイン

69 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:12:14 ID:ZuCCJzbT
あれは知ってる範囲でしか戻らないからなあ

70 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:12:47 ID:bw+pdlme
だいぶ間が空きましたが、宜しければ、0:30ごろから投下したいと思います。

>>254
 期待にこたえられるよう頑張ります。

>>255
 パールは頭いいと思います。
 結構アレですが

>>256
 ジジイ四天王は役職名だと思ってました。あえて馬鹿馬鹿しい呼び方でカモフラージュみたいな。
 校長に関しては、このクソ忙しい時に何処行った! みたいなイライラがあるのかと。

>>257
 そういって貰えると、嬉しいです。


71 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:27:26 ID:ZGyix/KA
バッチコイ支援準備

72 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:31:21 ID:DBVaCWfC
第五章 『幻想殺し』 _Project_■_■_

 1

 重力の鎖に身体を預けて、地に着いた足が軽い音を立てる。

「イリヤ!」

 魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤこと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、同じく魔法少女な親友、美遊・エーデルフェルトと合流した。
 学園都市第一八学区、超能力者開発機関の顔を持つ学園都市の中でも、第七学区の『学び舎の園』とトップ争いで鎬を削る学校が集まっている区画。
 有名どころを挙げれば、能力開発分野ナンバーワンの長点上機学園、イレギュラーな能力者を数多く輩出する霧ヶ丘女学院などが出てくるだろう。
 第一八学区の避難は早急に終了しており、辺りに人影は無い。イリヤと美遊がここにやってきたのは、偏に迷子の捜索の為である。

「美遊、相良さんは?」
「こっちにいる。案内するからついてきて―――」

 第七学区の避難誘導中に発生した迷子の少女。
 名前は、『打ち止め(ラストオーダー)』という偽名感バリバリな感じ。携帯端末に送信されてきたデータを見る限り、イリヤたちとほぼ同年代のようである。
 その彼女を、執行委員の相良宗介が一度は捕捉したものの、何が起こったのか逃げられてしまっている。
 宗介は一応プロの傭兵であり、そういったことは得意分野のはずなのだが。

「―――相良さん曰く、アレはプロの動きだった。って」

 美遊の言葉に、イリヤは首を傾げる。イリヤでなくともきっと首を傾げただろう。

「………あの、迷子の子って私たちと同じぐらいの年だよね?」

 そんな女の子が、プロの傭兵の目を晦ます事などできるのだろうか?

「―――まぁ、異世界だから」

 美遊の返答には、何処か疲労が滲んでいた。
 理論と理性の魔法少女、美遊・エーデルフェルト(カレイドサファイア)も、異世界の事情に深く突っ込む不毛さを熟知している。
 ある程度は流しておかなければ、身がもたない。

 軽い足音を発て、二人の魔法少女はそこに足を踏み入れた。
 軍事系(ミリタリー)知識の乏しいイリヤには、なんだかよく解らない機械としか見えない機材に囲まれて、大きな影が在った。
 二人の足音を聞き分けて、その影が振り向く。その姿は、なんと言うか、可愛かった。
 全体としてズングリとした、三頭身の茶色い毛並み。
 犬なんだか鼠なんだかよく判らないデザインに、大きくつぶらな瞳。
 丸っこい耳と耳のあいだに、ちょこんと乗っている緑の帽子。
 極めつけが、

「ふもふもふもふも。ふっもふもふも」

 口から零れる判別不能な言語。
 ソレは、『ボン太くん』と呼ばれる某遊園地のメインマスコット――その着ぐるみであった。

 無数の軍事機材に囲まれるマスコット。ひたすらにシュールなその情景に、しかし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、突っ込んだのは―――

「いや、何言ってるのか解らないから」


73 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:32:26 ID:DBVaCWfC
「……ふも」

 ボン太くんは何かに気付かされたように一言呟くと、いそいそと犬なのか鼠なのかよく解らない頭をはずす。
 この着ぐるみは、口の部分にボイスチェンジャーが仕込まれており、中で喋った言葉を正体不明の言語に変換する機能を持っている。
 着ぐるみの奥から出てきたのは、意志の強そうな男子高校生の顔であった。
 都立陣代高校生徒会安全保障問題担当・生徒会長補佐官兼2年4組ゴミ係兼傘係。そして、極上生徒会執行部付執行委員、相良宗介その人である。

「よく来た、アインツベルン、エーデルフェルト」

 愛想に欠けた言葉だが、これが宗介の基本(デフォルト)であるので気にしてはいけない。

「……相良さん。何でボン太くんなんか着てるの?」
「対象の心理状態を和らげる為だ」

 即答する。
 ズングリとした着ぐるみだからよく解らないが、多分胸を張っていることだろう。
 しかし、意味不明の言葉を喚き散らす着ぐるみ姿をみて、安心するような迷子はいないと思うのはイリヤだけだろうか。
 微妙な貌のイリヤを他所に、身体の三分の二を着ぐるみに突っ込んだまま、宗介はテレビ画面のような物を指した。

「あ、これって、レーダーってヤツ?」

 つられ、そして興味津々と、イリヤは画面を覗き込む。
 同心円が描かれたその画面には、しかし白い棒が回転するだけで、何も映っていない。

「対象を発見した際に、発信機をつけておいたのだが、どうやら気付かれたらしい。
 発信されている電波を辿って見つけたのはコイツだった」

 そういって、今度はケージに納められた野良犬を指す。
 発信機の存在に気付いた保護対象が、その辺の犬にくっ付けたとしか考えられない。

「他にも、逃走の際の進路選択や、行動の端々に軍事色が多く見られる。俄かには信じられないが、相手は専門の訓練を受けている可能性が高い。
 そうなると、少々手が掛かる―――と、そういうわけだ。手を貸して欲しい」

 二人の魔法少女は同時に頷いた。
 何時爆破するか解らない爆弾に、大量発生したデーモン。早く迷子を見つけなければ、大変なことになるかもしれない。
 夫々の携帯電話を、複数回線を繋ぎっぱなしに出来るトランシーバーモードに設定し、イリヤと美遊は空を翔る。
 宗介は二人に指示を飛ばすために、情報端末の前に陣取った。

―――その時。

 鼓膜が破裂しそうな轟音と共に、夜の空に稲光が瞬いた。
 十億ボルトの雷光は数度大地を穿ち、その度に大気を激震させる。

「御坂美琴か」

 自分と同じく、執行委員に名を連ねる少女のなを呟いて、宗介は端末にむかう―――事は無く、傍らのショットガンを手に取り構える。
 引鉄を引く。
 どばんっ。と、腹に響く音と共に、銃口から鋼鉄の塊が発射された。
 十二ゲージスラッグ。
 熊や虎などの猛獣を狩るための弾丸は、迫り来る怪物の頭を吹き飛ばしていた。
 肩のラインが平坦になり、侵魔は仰向けに倒れこむ。が、まるでビデオを巻戻すかのように、起き上がった。


74 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:33:12 ID:DBVaCWfC

「ふん。悪魔か」

 デーモンの群は学園都市中に出現している。ココもまた例外ではないようだ。
 続々と出現する敵を見て、宗介は口元を吊り上げる。
 そして、外していた着ぐるみの頭部を装着した。

「ふもふもっふ。ふもふもふも、ふもっふるふも!!(モード4、バイラテラル角3.5。ミッションスタート!!)」

 ギンっ!! と、着ぐるみの両目が光り、剣呑な空気を醸し出す。
 相良宗介が纏うこのボン太くんは、ただの着ぐるみでは無い。
 茶色のズングリとしたボディを覆うのは、ライフル弾すらストップする超アラミド繊維の防弾毛皮。
 その内部には、指向性マイク、サーマルセンサー、暗視システム、制御用AIなどの高価な電子機器の数々。
 そして、最強の陸戦兵器であるアームスレイブの操縦系に酷似した、筋力補助機能。
 ふんだんのハイテクを組み込んだ、『人間サイズのAS』とも言うべき驚異的な個人兵装である。
  
「ふも、ふもふもっふる(来い、訓練をつけてやる)」


75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:33:48 ID:ZGyix/KA
ktkr支援

76 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:34:13 ID:DBVaCWfC
 2

 小さく呻くような音が聞こえた。
 音の発生点で、一体のデーモンが肩を震わせている。
 小さく、しかし確かに、人ならぬ声で、そのデーモンは嗤っていた。
 高く低く、心底可笑しいと。哄笑は、次第に群のすべてに伝播する。

 大気が震えた。

 嗤い続ける悪魔たち。
 眩暈がするほどの大喝采。吐き気を催す大合哂。
 その中で、最初に笑い出したデーモンが、人ならぬ声で宣告する。

「(我々を、今までの我々と同じだとは思わないことだな)」

 悪魔の哄笑は津波のように。
 一つにまとまり、練り合わさって、崩れ落ちる波頭のように、侵魔の群は二人を飲み込んだ。
 黒く昏く、瓦礫が転がる廃墟を埋め尽くすほど。
 砂糖に群がる黒蟻の群。
 耳障りな羽虫の音。神経を逆撫でる不快感を催す嗤声。
 悪鬼羅刹魑魅魍魎、悪魔が蠢く地獄さながらに、蝕む猛毒、悪意なる黒の中心点。


「ッォォオオオオオオオオオオオ――――!!!!!!!」


 絶叫と暴風が、暴風それと絶叫が。
 台風または竜巻の如く。天災さながらの、生命の輝きを織り込む浄嵐。
 穢れた黒を吹き飛ばし洗い流す。

 魔剣使い、柊蓮司。
 幾度と無く、世界を救ってきたベテランウィザード。
 そして、魔を斬り捨て神を降し、砕けてなお蘇り、彼と共にある魂の相棒。
 無銘なる神殺しの魔剣。
 
 魔剣と主が、巻き起す虞風の渦。無限の鎌鼬が、狂乱する竜巻の中で、無数の侵魔は一様にミキサーに放り込まれた紙屑となる。
 つまり、ズタズタでグチャグチャ。
 原形を留めぬ悪魔の屍骸が、ベチャベチャとヘドロの様に降り注いだ。

 群の大半を薙ぎ払った魔風の渦。しかし耳障りな声は衰えない。
 哄笑をBGMに、平面の影が立体となる様に、粘つく黒が膨れ上がる。
 間髪ほどの狭間も無く、残骸だったものは悪魔の姿を取り戻す。
 不条理な現象に、柊の口元は引き攣っていた。

「て、てめぇら………そのプラーナ、どっからもって来てやがる」

 生きとし生きるものの生命力。あらゆるものが存在する為の力。
 裏界の侵魔が、表界に涌き出る最大の目的。 
 そして、ウィザードとは常人よりも多くのプラーナを持ち、それを扱う術を知るものの事。
 ヘドロが悪魔に戻るその瞬間、大量のプラーナが放出されるのを、柊の感覚が感じ取った。
 情報収集(そういったこと)が人一倍苦手な魔剣使い(ひいらぎれんじ)ですら容易に感じ取れるほどの、高密度のプラーナ。
 決して一山幾らの下級侵魔が内包できる量ではない。
 殺しても殺しても復活するなど、ある種の反則だ。

「(あは、あはは、あはあは、あはははははははは!!! 無様なものだな柊蓮司! 貴様に今の我々は斃せぬさ!!)」
 
 心底可笑しいと笑いながら、デーモンの攻勢魔力は急激に高まる。


77 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:34:49 ID:lzBJS/Kb
しぇーん

78 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:35:00 ID:DBVaCWfC
 大開の侵魔の口内には、地獄の入り口を覗き込んだかのような闇が渦巻いている。
 放たれる闇の刃。
 柊は咄嗟に魔器に力を込め、<ダークブレード>を切り払う。

 攻撃魔法は、事も無げに霧散した。

(? 攻撃にプラーナは乗せてないのか?)

 剣を振った手応えが、柊に首を傾げさせた。
 復活の際に感じ取っただけの力を乗せられていたら、この一薙ぎで防ぎきれる筈は無いだろう。

(手加減する意味もねぇしな。水増し分には使用制限でもあんのかも知れねぇ)

 だとすれば、そこが攻略の糸口になるかもしれない。
 思考しながら、柊は侵魔の群を睨みつける。
 大口を開けて笑うデーモンたちは、次々と闇の刃を装填する。

「(無限の力を得られたパール様。その配下の我々にかなう筈が無いだろう!!)」

 柊と美琴に向けて、一斉に攻撃魔法が放たれた。 


79 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:35:57 ID:ZGyix/KA
ふもっふ!(支援!)

80 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:36:32 ID:DBVaCWfC
 3

 学園都市はかつてない混乱に包まれていた。
 いままでにも、外から入り込んだテロリストが、地下街を破壊し、大量の人間を昏倒させ、現れた『天使』が街を破壊するなど、物騒な事件は結構な頻度で起こっていた。
 しかし、学園都市の一区画が丸ごと消えるなどと言う事態は、長年この町に住んでいる住人たちにとっても初めての経験である。
 その上、学園都市の外に避難するという事態もまた初めてのことだ。

 そして、転送魔法で避難場所に送られることも初めてなら、下級侵魔、レッサーデーモンの群に襲撃されることも初めてである。

 襲い来る侵魔の群に、しかし、学園都市は超能力者の育成機関。大能力者(レベル4)以上の学生たちは、即座に執行委員と共に迎撃に移った。
 そして、強能力者(レベル3)以下の生徒たちは急いで避難を続ける。
 強能力者と大能力者の違いは一つ、軍事作戦に役立つかどうかである。
 『瞬間移動(テレポート)』しかり『座標移動(ムーブポイント)』しかり、大能力者という人種は、押しなべて軍事的に価値のある能力を持っているのだ。
 火炎弾が、冷気弾が、鎌鼬が、不可視の弾丸が、伝承に語られる悪魔そのものの怪物たちを次々に捉えていく。
 しかし、ソレはまるで岩壁にむかって波飛沫が飛び散るようなものだった。どれだけの攻撃を重ねようと、デーモンの進軍は止らない。
 それどころか、咆哮と共に放たれた闇色の刃が、能力者たちを弾き飛ばす。

「うわーっ!! だっ、だめだぁあああ!!」

 たった一人が叫んだ弱音。それだけで、能力者の前線はあっけなく崩れる。
 それも仕方がない、幾ら力を持っているとは言え、彼らはまだ学生。命がけの戦闘など出来るはずも無い。
 三々五々と、散り散りになる能力者。それ追い駆け更なる攻撃を加えるデーモン。あちこちで起こる悲鳴。一瞬で地獄絵図に変わった慣れ親しんだ街並み。
 そして、彼女は瓦礫に躓き大地に倒れ付した。
 狂乱したように、立ち上がろうとするが足がもつれて再び大地に抱きとめられる。
 その間に、デーモンは彼女に肉薄していた。
 恐怖に染まった視先で見上げる。

「      あ」

 それだけで、死を宣告された。
 デーモンは嗤っていた。その名にふさわしく、悪魔の笑みを貼り付けて。
 振り上げられる鉄の腕(かいな)。巌のような拳をにぎり、破砕槌の如き一撃が、風を切り彼女に振り下ろされ――――

「………。………?」

 目は瞑らなかった。死の恐怖で身体が固まって動けなかった。
 だから、その一部始終を見ていた。けれど、何が起こっているのかわからなかった。理解できなかった。

 振り下ろされるデーモンの拳。
 大気を歪めすべてを打ち砕く必殺の打撃。
 それは、真黒な帯を巻いた少女の細い腕で、受け止められていた。

「ここから逃げろ!! 早く!!」

 叫んだのは彼女ではない。彼女と手を握った少年がその声の主。
 ツンツンとした黒髪の少年は、灰銀の髪の少女の左手を握り締めた右手ごと、無防備なデーモンの脇腹を殴りつける。

 バキン と、硝子を砕いたような音がした。

 炎も冷気も、何も纏わないただのストレート。それも二人同時に拳を突き出す奇妙なパンチ。
でもそれだけで、たったそれだけで、大能力者が束になっても勝てなかった悪魔が消滅する。
 まるで嘘のように、悪い夢から醒めるように、目前の死が消え去った。

 彼女は呆然と、その二人の少年と少女を、見上げることしか出来なかった。


81 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:38:07 ID:DBVaCWfC
* * *


 飛び出したのは、二人同時。

 上条当麻とアゼル・イヴリスが、その現場を目撃したのは、ただの偶然だった。
 第一〇学区の廃墟から、マンホールの蓋を砕いたり手近なビルの窓ガラスを割ったりと、『追跡封じ(ルートディスターブ)』の真似事をしながら逃走。

 そうして、漸く撒いたとおもったら、目の前で怪物に少女が襲われている場面に遭遇した。

 今は自分たちが追われている身だという事情とか、相手は怪物だという理性とか、そんなものは全て置き去りにして、何よりも速く、上条の足は突撃する。
 それはアゼルも同じようで、気がつけば二人揃って無防備に硬直する少女の前に飛び出して、デーモンの攻撃から、彼女を庇っていた。

 上条の右手とアゼルの左手。重ねあわせた複合ストレート。それを受けた侵魔が消滅する。

 響く硝子を砕いたような音。
 上条にとってはなじみの深い、己の右手(イマジンブレイカー)が、異能を破壊する音だ。

 夏の海で遭遇した『大天使』も、友達である『人工天使』も、この右手を怖れ、恐らくは触れるだけで消滅してしまう。と、確信していた。
 ならば、異世界からの侵略者である侵魔についても同じことが言えるかもしれない。けれど、そうだとすなら、しかし手を握るアゼルが無事なのは何故なのだろう?

 そんな、小さな疑念が上条の思考に浮かび上がるが、自分たちを取り囲む侵魔の群を前にして、脳裏の片隅に追いやる。
 今はそんな事を考えている場合ではない。
 十を越え、百に至るほどの悪魔たち。それらは十重二十重と上条当麻とアゼル・イヴリスを取り囲む。

「なんか、こいつら空気が変わってないか?」

 右手と左手。
 手を繋いだまま、上条とアゼルは背中合わせにデーモンたちと相対する。

 視界の隅を、光が薙いだ。

 降り注ぎ、アスファルトを灼き斬る新緑の閃光。
 光の槍は大地を煮溶かし、焦熱の地獄を造り上げる。
 溶鉱炉のように赤熱した地面は、周囲の侵魔諸共二人を焼き殺した筈だった。

 しかし、ドロドロのマグマのように溶けたその中心は、しかし周囲の惨状からは切り離されていた。
 天を打つように、握り合った右手と左手を突き上げて。
 自分たちに降り注ぐ光(チカラ)を打ち消して、上条当麻とアゼル・イヴリスは傷一つ無くそこに居る。

「くっそ。もう追いついてきやがった」

 悪態を向ける相手は、仰ぎ見るほどの上空に。
 箒のような槍のような何かを足場にして、二人に武器を向けている。

「上条君。とにかく―――」
「解ってる、ここから離れるぞ」

 周囲には、まだ逃げ遅れた学生たちが居る。上条たちの足元には逃げ遅れた少女がへたり込んでいる。
 だと言うのに、奴らは彼等に構う事無く攻撃を実行した。
 これ以上関係の無い人間を巻き込むなど、そんなコトを許せる筈は無い。

 人(神)造人間の膂力で上条を担ぎ上げ、アゼルは跳躍する。
 それを追い、レミングスのように繋がり連なるデーモンたち。侵魔の群を撃つ事無く追撃するウィザードの男たち。

 担ぎ上げられ、運ばれる中で、上条は思う。


82 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:38:59 ID:DBVaCWfC

「って、またコレですかぁああ!!!」

 というか叫ぶ。
 荷物よろしく運ばれるのは、脳と胃に宜しくない。
 上下に揺さぶられて、激しくシェイクされる。

 身体能力を最大限に引き出して、アゼルは駆ける。
 学生寮、学び舎が乱立する地区を抜け、比較的落ち着いた建物の集まった区域を通り過ぎ、足を止めたのは、カラカラに乾き、ボロボロの瓦礫が散乱する荒廃した区画。
 学園都市、第六学区。アゼル自身が消し飛ばした破壊の後。
 そして、何が起こったとしても被害がでる可能性が最も低い場所。

 上条を降ろし、身構える。
 振動のダメージを押さえ込んで、上条は立ち上がった。
 二人の後を追って、次々に現れるデーモンとウィザード。
  
「いくよ。上条君」

 二人は同時に地面を蹴り、重ね合わせた拳を叩きつけた。 


83 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:39:45 ID:ZGyix/KA
支援

84 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:40:36 ID:DBVaCWfC
 4

 私立輝明学園秋葉原分校、校長室で、『彼女』は顔に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべる。

 「リヴァイアサン」

 知っているかしら? と問いかけた。
 世界の守護者代行見習心得、赤羽くれはは、招きもしない来客の存在に少々頭を抱えていた。

「知ってるわよ。
 別名レヴィアタン。旧約聖書に登場する海の怪物。十字教七大罪・嫉妬の対応悪魔」

 赤羽くれはの、魔法使いとしての分類(ウィザードクラス)は『陰陽師』である。
 それは、流入してきた大陸道教と日本神道が融合した総合魔術の使い手であるという意味だが、だからと言って日本以外の思想を知らないと言うわけではない。
 それに、以上は『常識』的に語られている知識であり、

「名のある魔王の一柱。『魔王蛇』レビュアータのことでしょ? 大陸一つを抱き枕にして眠っていて、起きたら世界が滅ぶって言う……」

 『非常識』な(ウィザードとしての)回答は、そういう事になる。

 『彼女』はたしか、パール・クールの魔導具『東方王国旗』の機能について話していたはずだ。それが何故、『魔王蛇』の話になるのだろうか?
 胡乱気なくれはの視線に、招かれざる客は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「あんたも頭悪いわね、赤羽くれは。柊蓮司といい勝負よ?」
「はわっ!? ちょっと、どゆことよ」

 剣呑に輝くくれはの視線を、まるでそよ風のように受け流して、『彼女』は言葉を続けた。

「あのネボスケ魔王のことじゃあないわ。あんたたち、人間が書いた本の名前よ。
 正式名称をLeviathan or the matter, form and power of a common-wealth ecclesiastical and civil"。
 西暦1651年、トマス・ホッブズが記した思想書。
 こんなの、高校の倫理の授業で習うでしょ?」

 授業出てなかったの? と、ニヤニヤする『彼女』を、三白眼で睨みつける。

「あのねぇ! 仮にも裏界の魔王が人間の思想家を引き合いに出すなんて誰が思うのよ!」
「単に、説明がしやすいからよ。
 まぁ、いいわ。で、このホッブズによれば、人間の自然状態は『万人の万人による闘争』であるそうよ―――」

 人間はつねに自己保存のために他者より優位に立とうとする。しかしこの優位は相対的なものであるから、際限がなく、これを求めることはすなわち無限の欲望である。
 けれども自然世界の資源は有限であるため、無限の欲望は満たされることがない。
 人はそれを理性により予見しているから、限られた資源を未来の自己保存のためにつねに争うことになる。またこの争いに実力での決着はつかない。
 なぜならホッブズにおいては個人の実力差は他人を服従させることが出来るほど決定的ではないのだから。

 即ち、『万人の万人による闘争』。

「―――この混乱状況を避けるためには、『人間が天賦の権利として持ちうる自然権を政府に対して全部譲渡するべき』。
 そういう社会契約を結ぶべきだって、ホッブズは言っているわ。
 噛み砕いて言えば、満足に生きていく為に自分のすべてを王様に渡してしまいなさいってことね」

 そうやって、国民すべての自然に生きる権利=自然権をあつめた政府を、ホッブズは旧約聖書に登場する怪物の名をとって『リヴァイアサン』と名付けた。
 これは、それまでの王権神授説にかわって絶対王制を正当化する理論であると言われている。
 トマス・ホッブズという哲学者が、何を主張したかったについては研究者の間でも解釈が分かれるところであるが、今回、彼の真意を追求することに意味は無い。


85 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:41:36 ID:DBVaCWfC
 
「『東方王国旗』は、立てた場所をパールの領地、即ち東方王国の一部であると認める証。
 大昔、あんたたち人間の冒険家とかが、新発見した土地に自分たちの国の国旗を立てたみたいにね。
 そして、王制という政治体制下では、その国のすべては王の持ち物という事になる。
 水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命ですら―――すべて、ね」

 『東方王国旗』は、そういった契約を強制的に結ばせる魔導具。
 それを使われると言うことが、一体如何言うことなのか。
 一つの答えにたどり着いて、呆然とくれはの唇が言葉を紡いだ。

「すべてって、まさか……」
「―――そう。
 この学園世界に存在する、水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命も、即ち、満ち溢れる様々な異世界の、多種多様のプラーナでさえも。
 すべてがパール・クールのチカラになる。
 一柱の魔王でありながら、世界一つ分のチカラを内包した存在。
 それは、いわば世界を相手にすることと等しい。対抗手段は、アゼルの力しかない―――」

 それは、すべてを喰らう荒廃の力。
 世界規模のプラーナを扱う怪物を相手にするには、世界の危機レベルの力が必要である。

「表界でなら兎も角、この世界で魔王の相手を、人間風情が出来ると思わないことね」

 『彼女』は、ニヤリと獰猛に笑うと

「だから手を貸してあげるわ、この私が、私たちが。
 裏界に轟く、その名にかけてね」

 翼の様に、バサリと外套を翻した。

「―――信用して良いの?
 アゼルは兎も角、あんたが人助けなんて違和感たっぷりなんだけど?」

 幾らかの沈黙を挟んで、視線に力を込めて赤羽くれはが言う。
 返答は、大きな溜息だった。

「判ってないわね、赤羽くれは。これはゲームなのよ―――?」
「………。」

「―――だから、私にとってこの状況は、立てるべきフラグの一つでしかないわ」


86 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:43:34 ID:ZGyix/KA
4円

87 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:45:56 ID:ZGyix/KA
さるさんか?

88 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:49:13 ID:d5sLKAHR
 5

 轟轟と音を立てて、風の刃が舞い踊る。
 全長約二メートル、刃渡り約一.五メートルの巨大な刃。
 ウィッチブレードと呼ばれる白兵戦用戦闘箒。第八世界の魔法使い(ウィザード)たちが好んで使う、科学魔術相半の戦闘兵器である。
 しかし、彼が持つのは唯の箒にあらず。
 魔を斬り捨て神を降した無銘の魔剣。神の半身との戦いで砕かれた剣を元にして、製造されたワンオフのフルカスタムメイド。
 魔剣使い、柊蓮司。
 その銘(クラス)の通り、切っても切れぬ魂の相棒である。

「   ッァ!!」
 
 音にならない気合と共に、烈風を纏った刃を振り抜く。魔剣の纏う風は唯の気流にあらず、人の持つ生命力、可能性の力であるプラーナそのもの。
 命の輝きを織り込んだ竜巻は、刃圏に入った侵魔たちを磨り潰すように引きちぎる。

「ッぁあああッ!!」

 返す刀でもう一斬。細切れを挽肉に変える勢いで、烈風の刃は踊り狂う。

 しかし―――、


 秒間三発、音の壁を越え青白の雷光が水平に閃く。
 静電気を帯びた前髪は、バチバチと音をたてイルミネーションのように輝いた。
 数億ボルトの電撃を受け、黒々としたデーモンの群が弾け飛ぶ。
 間髪入れず、荒れ狂う黒の蛇。
 磁力で引き寄せられた無数の砂鉄は、高速振動しチェーンソウ並みの切れ味を誇る。
 デーモンたちが砂鉄の電動鋸でブツギリにされ、肉塊に変わって転がった。
 仲間の屍を越えて、侵魔が飛び掛る。
 一体。二体。三体四体。津波のように覆い被さる影、影、影。

「くぉんのぉおおおお!!!」

 雷光が弾ける。何も無い空中で、壁に激突したかのように吹き飛ぶ侵魔たち。
 格子状に放出された電撃が、まるで結界のように、デーモンの突撃を防ぎ跳ね飛ばす。

「そこを、ドケェええええ!!!」

 咆哮と共に、煌橙の極光が右手より放たれる。
『超電磁砲(レールガン)』 
 学園都市第三位、御坂美琴の威名たるその一撃は、黒山の一角を直線的に抉り取った。

 それでも―――、


 プラーナの強嵐が、超音速の砲弾が、余波で巻き上げる砂塵のカーテンが晴れた後には、何事も無かったように、デーモンたちは平然と。 
 気分の悪くなる哄笑をあげ続けている。

「しぶとい―――」

 呻くように呟いた。
 魂の相棒、己が魔剣を構え、柊蓮司は現状に歯噛みをする。
 まるで、ゲームの初期的なバグのように、斃しても斃しても復活してくる下級侵魔たち。
 相手にしている暇は無いというのに、湯水の如く湧いて出る。
 このままでは、斃すことは愚か、突破することも難しい。


89 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:50:49 ID:ZGyix/KA
支援再開

90 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:52:22 ID:d5sLKAHR
 侵魔たちは、破壊された傍からプラーナを使用して肉体を再構成している。無尽蔵なプラーナを、そのためにしか使っていない、もしくは使えない事が唯一の救いか。
 しかし、その再生能力に加えて、元からの膨大な数。魔剣使いと超能力者では、少々荷が重い。
 逃げるにしろ、斃すにしろ、なにか、広範囲に強力な破壊を撒き散らす魔法のようなものがあればいいのだが、あいにくと柊はそちら方面には疎かった。

 嗤うデーモンの群。取り囲む侵魔の円陣。
 半径は極端に狭まって、柊と美琴は背中合わせに、判り易く追い詰められていた。

(くっそ、切りがないわね………)

 汗を拭い、美琴は荒い息の下で小さく舌打ちする。
 雷撃も、高速振動する砂鉄の電動鋸も、そして異名たるレールガンもすべてクリーンヒットしている筈だ。
 切り刻まれ、引き千切られ、肉塊に変わったデーモンの残骸がその証拠。
 しかし一瞬の後に、侵魔の群は整然とそこに存在していた。
 あたかも、時が巻戻ったとでも言いたげに。
 それは、御坂美琴の力は何一つ通用しないと、彼女のすべてを否定されているようなものだった。

(学園都市第三位が聞いて呆れる。
 ま、アイツみたいに完全に無効化されてるって訳じゃないのが、唯一の救いかしら?)

 美琴の言う、アイツ―――即ち、上条当麻。彼の右手はありとあらゆる異能を否定する。
 けれどそんな神憑りな力も、効果を発揮するのは右腕の手首から先だけ。それを除けば、上条当麻は至って普通の高校生でしかない。

(だって言うのにあのバカは、いっつもいっつも厄介事に首を突っ込んで!)

 頼まれもしないのにお節介にも、譬え死にそうな身体であっても引き摺って、這う様にしてでも地獄のような戦場に向うのだ。
 そんな光景を、御坂美琴は過去、目の当たりにしていた。
 その時、美琴は決めたのだ。

「今度は、私があいつを助ける番だ―――」

 それは超能力者(レベル5)だから、第三位『超電磁砲』だからとか、そんなコトではない。そんな小さな事はどうでも良い。
 譬え、その場ですべての力を失い無能力者(レベル0)に成ったとしても、美琴は同じことを言うと誓えた。

 それは、今でも変わらない。

 美琴の全身を、雷光が纏う。
 大気中に放出された高圧電流が、バチバチと音を立てた。
 心折れず、なおも抗う意思を見せ付ける美琴に、黒山の侵魔は嘲弄を浴びせかける。

「(無駄だ無駄無駄。その程度では、我らを殺しつくすことなど不可能―――!!)」

 狂笑し、雪崩れ込むように襲い来る侵魔の群。
 美琴の雷をかいくぐり、柊の魔剣に貫かれてなお、傷つくことを欠片も恐れず、壊れた動物のように、二人を取り囲んで襲い掛かる。
 絨毯爆撃のような闇の刃、鍵盤を叩くように振り下ろされる巨大な爪。

「(人間風情が!! ―――我々を倒したければ、せめて大公クラスの魔王を連れて来い!!)」
「っ、避けろ!! 美琴!!」

 柊の絶叫虚しく、まるで五本の鉈をくくりつけたような手が、御坂美琴の頭に振り下ろされる。
 思わず、目を瞑った闇の中で、

 ぐしゃり。という音を聞いた。


91 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:54:39 ID:d5sLKAHR
 ばしゃり。と水のような感触が全身を濡らす。

 首を落とされても、人間の意識はしばらく残っていると言うが、脳を潰されてはそれもありえない。
 巨大な凶器を連ねた五本の爪。そんなもので殴られたら、人間の頭など、ゆで卵のように綺麗に輪切りになることだろう。
 ならば、闇の中の感覚は錯覚か、死に至る瞬間に見た幻なのだろうか。


「―――ふぅううん。面白い事いうじゃない」


 聞こえた声。それは鈴を転がしたような、涼やかな美声。
 しかし、同時に背筋に氷を詰め込まれたような、怖気を呼び覚ます静かな怒声。
 聴覚が捉えたそれは、決して幻などではなかった。
 御坂美琴は恐る恐る目を開く。
 痛覚は何も語らず。しかしすべての感覚は、沈黙を以って目前の存在への畏怖を謳う。
 
 見開いた目が捉えたのは小さな背中。
 紫を基調とした制服の上から、月と太陽を描いた高山外套(ポンチョ)を羽織った少女の後姿。
 銀の髪を波打たせ、白魚のような手を侵魔の血で汚す少女は、金色の瞳で群れる悪魔に笑いかける。
 
「随分面白い冗談を聞いた気がするわ。
 高々下級侵魔風情が、残り糟とはいえ、それだけのプラーナを与えられていながら、自己修復にしか使えないような三流共が、『大公クラスの魔王を連れて来い』?
 パールの奴は、配下に冗句の指導でもしてやがるのかしら?」

 少女は地獄のような怒りを撒き散らす。
 燃え盛る煉獄(ゲヘナ)のような、寒風荒ぶ凍結地獄(コキュートス)のような。

 彼女に貫かれ、物言わぬ骸になった侵魔が蘇生する。
 ソレは、震える身体を押し留めて、

「(な、なにを。現に貴様はこうして私を殺せてはいないではないか―――!!)」 

 空気が激変する。
 少女が発散する怒りの変化が、辺りの大気をまるで爆発寸前の爆弾のような、致命的なモノに塗り替える。

「ふぅうん。ほんと、面白い冗談ね―――」

 夏の風鈴を思わせる声音。
 涼風が奏でる、爽やかな音。

「ホンッと――最ッ高の冗談よ」

 それに、この上ない怒りを乗せて、彼女は笑った。
 燃え盛る煉獄を凍結し、凍て付く凍結地獄を蒸発させるような、

「     。」

 恐怖が、その言葉を覆い隠した。
 天空に紅い月がのぼり、美琴と柊、そして少女を結界が包む。
 そして、



 ―――ヴァニティ・ワールド・ジ・アンリミテッド



 防御結界の外、月匣の中を吹き荒れる虚無の嵐が、群れる悪魔を飲み込んだ。


92 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:55:58 ID:d5sLKAHR
* * *

 区切られた結界の中で、存在そのものに負荷を加えられ、黒山のように群れていた侵魔の群は、跡形も無く消し飛んでいた。
 大量のプラーナを使っても戻ってこられないほどの力。
 それは、圧倒的で一方的な搾取であり、虐殺だった。

 瓦礫ごと消し飛び、平坦に均された大地に視線を向けて、彼女は言う。

 「―――ったく。十把一絡げに一山幾らの下級が、のぼせ上がってんじゃないわよ」

 波打つ銀色のウェービーヘア。超越者の証である金色の瞳。傲岸不遜に悪態をつく声は、鈴を振ったように美しい。
 そこだけ見れば、数瞬前の圧倒的な破壊とはつながりようの無い華奢な少女の姿。

「……ベル」

 柊に愛称(なまえ)を呼ばれ、彼女は―――、裏界第二位の実力者『蝿の女王』ベール・ゼファーは、幼さの残る顔に、獰猛な笑みを浮かべた。

「柊蓮司」
「……。なんだ?」
「相変わらず頭悪そうな貌ね」
「余計なお世話だ馬鹿野郎!! 他人の顔みて最初に出る言葉がそれかいっ!?」

 びしり。と、思わず柊のツッコミが飛んだ。

「そうね。そんな当たり前の事、いちいち確認するまでも無かったわ」
「―――てめぇなァ………」

 八つ当たり気味にイヤミを飛ばすベルを、睨みつける柊蓮司。
 御坂美琴は、いきなり発生した奇妙なシーンについていけず、目がシマウマ状態である。

「柊? だれ、この人?」

 やっとのことで、それだけを言う。

「ベール・ゼファー。コイツも俺らの世界の魔王だ」

 事も無げに柊に告げられた言葉が、美琴を混乱させた。

「魔王ってこの子が!? この私と同い年ぐらいの女の子じゃない!?」

 御坂美琴とて、今時のチューガクセーである。毎週月曜と水曜にはコンビニで漫画雑誌を立ち読みするし、毎月十日には本屋を物色している。
 そして、自室のベッドの下に押し込んでいる巨大熊の縫い包み『きるぐまー』の中には、規則で禁じられている携帯ゲーム機も入っているのだ。
 そんな御坂美琴が、魔王といわれて最初に思い浮かべるのは、ファンタジー系RPGのボスキャラである。
 ゲームでは、魔王という存在(キャラ)は大抵、悪の象徴であり、諸悪の根源で、角が生えていたり蝙蝠の翼があったりと、いわばバケモノそのものだ。
 普通に売っているオカルト本にも、蜘蛛だの蛇だのという、怪物の姿で解説されている。
 そうやって語られる姿と、目の前の少女とでは、余りに違いが在りすぎはしないだろうか?

「もう一つ言っとくと、うちの世界の魔王ってのは、大体こーゆー姿だぞ」
「マジ!?」
 
 第八世界特有の事情に、カルチャーショックを受ける美琴に、まさに追い討ちを掛けるように


93 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:56:30 ID:9v/goNVf
鬼や、鬼っ娘がおる……!

94 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 00:56:48 ID:ZGyix/KA
し…しえ…ん

95 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:57:06 ID:d5sLKAHR

「外見で判断して欲しくないわね、異世界の超能力者。そんなもの、我々裏界の存在にとって対した意味は無いの。
 それに私は『大魔王』。その辺に生えてる『雑魚魔王』と一緒にしないで欲しいわね」
「ざ、『雑魚魔王』って………、何よそれ」

 『雑魚魔王』。
 それは、第八世界『ファー・ジ・アース』において、あまり力が強くないものの人間世界に致命的な危機を与える侵魔の呼称だ。
 大抵は、運命に選ばれ覚醒したばかりのウィザードが相手をするものだが、やはり、この辺も第八世界特有の事情であろう。
 事情を良く知らない美琴からすれば、言葉の響きが与えるインパクトは相当なものである。

「そういえば、アイツと一緒に居るって魔王も、女の子だったわよね――――。
 さ、流石異世界。いろいろぶっ飛んでるわー」

 結局、そう流すのが一番だった。

「で、ベル。お前一体何しに来たんだ?」

 取り敢えず、自分を納得させた美琴が黙り、そして柊はベール・ゼファーに問いかけた。
 てめぇ、一体何企んでやがる。
 詰め寄る柊に、

「ふん、あんたらが困ってるみたいだから助けてやったんじゃない。
 あ、柊蓮司。これ貸しイチだからね」
「巫山戯んなっ! つーかんな事頼んでねぇってか、話逸らしてんな!
 相棒ほったらかして、いままでどこで何してやがった!
 まさかこのデーモン大量発生に、一枚噛んでるんじゃねぇだろーなァ」

 大魔王は、心外だと貌にありありと書いて、

「まさか! あいつらはパールの配下よ!! つまりあたしの敵!!」
「ホントだろうな、おい」
「あのねぇ、何であたしが自分の配下をブッ飛ばさなけりゃなんないのよ!!
 あたしは単に、アゼルのところに行こうとしてただけよ!!
 そんでもって、アイツラが身の程知らずなにも下らない戯言のたまってたから、ちょっと灸をすえてやったんじゃないのよ!!」

 すねた子供みたく、睨みつける。

「ったく、折角助けてやったのに、ナマ言ってんじゃないわよ!!
 序でだから教えといてやるけども、あの下級どもの狙いはアゼルよ。パールにとって、今一番目障りなのは、アイツだもの。
 だから、あんたと遊んでる暇なんて無いのよ!」

 蝿の女王は、傲慢に言い置いて宙に浮かんだ。

「てめぇ、何処行く気だ」
「頭悪いわね柊蓮司!! 決まってんでしょ、アゼルのところよ!
 あんの馬鹿、変なヒューマニズムなんぞに目覚めやがって、あんな下級如きに追い詰められてるなんて、仮にも『魔王』の名前が泣くわよっ!!」

 大気を切り裂いて、魔王少女は空を翔る。
 言葉面は怒っていても、心で案じる怒号を吐く魔王に、暫し呆然となった柊と美琴だったが、ハッと正気に返って箒に跨った。
 と、その瞬間、柊の0-Phoneが振動する。
 ハンズフリー設定の向うから、その声はこんなことを言い出した。

『もしもし、蓮司? すぐに迷子の捜索に移って欲しいで在ります』


96 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:58:19 ID:d5sLKAHR

 マーセナリー・オブ・イタリアンヴァンパイア。
 ノーチェという名の吸血鬼(ウィザード)は、柊が聞き間違えていない限り、上条当麻を見捨てろ。と、そう言った。

「は? ちょっと待て!! ノーチェ、てめぇ自分が何言ってんのか判ってんのか!?」
『重々承知で在りますよ。
 納得してもらう為に状況を説明すると、現在、学園都市に大量発生しているデーモンは、アゼル・イヴリスを狙っているようで在ります。
 そして、アゼルたちが第六学区に移動したことで、そこに続々と集まっているところであります』
「だったら―――!!」
「尚更、急いであいつを助けに行かなくちゃならないじゃない!!」
『その声は美琴でありますな。二人とも先走りすぎであります。まだ話は終わってないのでありますよ。
 ―――で、ありますから、デーモンはアゼルを攻撃するために第六学区に移動しているのであります。
 逆説的に、他の場所ではデーモンの脅威が薄らいだというわけでありますから、今のうちに住人の避難を完遂してしまおうというのが、極上生徒会の判断であります。
 そういうわけで、現在最大の懸念事項は迷子であり、元々、上条当麻を保護したら蓮司たちにも、捜索を手伝ってもらうつもりでありましたからな。
 現在、アゼルたちのところにはベール・ゼファーと思しき反応が向かっているようでありますから、蓮司たちには其方よりも、迷子の方を優先してもらいたいのでありますよ』

 絞り出すような苦い声で、柊は呻くように、

「―――後は、全部ベルの奴に任せろって言うのか?」
『いいえ、優先順位を考えろといっているのであります』

 何時に無く、ノーチェは真剣に返答する。

『方や『大魔王』級のエミュレイターが二体ついている男子高校生と、方や能力者とは言え十歳程度の女の子。
 どちらの方が危険か、判るでありましょう?』

「………わかったわ」
「美琴!?」

 沈黙を挟み、了承したのは御坂美琴だった。

『美琴が頷くとは少々予想外でありますな。自分で言ったことながら、本当に宜しいので?』
「宜しくなんかないわよ。ホントなら今すぐアンタを灼きたいぐらい。
 でも、アンタの言うとおり、どっちの方が危険かって言えば、そんなコト比べるまでも無いもんね」
 
 納得などしていない。今すぐにでも上条当麻がいる戦場に飛び込みたいのだ。
 それでも、迷子の女の子を見捨てるという選択肢は無かった。
 パンパン。と頬を叩いて。美琴は一つ息をついた。
 都合の良い科白かもしれないが、御坂美琴は上条当麻を信じている。
 拳一つで学園都市最強に立ち向かい、勝利した最弱を信じている。

 だから―――。
 
「迷子なんぞに成ったその馬鹿娘を見つけたあと、ソッコーでアイツのところに向う。
 それで良いわね」


97 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 00:59:19 ID:d5sLKAHR
 6

 対多数戦の鉄則は、決して取り囲まれないこと。仮令取り囲まれたとしても、攻防の主導権を常に持ち続けること。
 常に攻め手を持ち、決して護る為だけに護ってはならない。防御は須らく次の攻撃への布石で無ければ成らない。
 それが出来なければ、戦場は民主主義に席巻されマイノリティは排除される。
 進むべきは覇道。群衆を搾取し略奪する専制君主たれ。

「ッオオオオオオオオオオ――――!!」

 上条の空気が、大気を弾き飛ばす。
 握られた右手に敵(デーモン)が接触すれば、ただソレだけで裏界の侵魔は塵となる。
 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』
 ソレが異能の力であるのなら、喩え神様の奇跡であっても打ち消す右手は、こと異世界の悪魔に対しても必殺を謳う。
 しかし、その絶対の切り札でも、一度に斃せるのは一体だけ。秒単位で膨れ上がる侵魔の数を前にしては、劫火の前のせせらぎほどか。

 そもそも、上条当麻は戦闘のプロでもなんでもない、ただの高校生である。

 路地裏の喧嘩でも一対一ならなんとか勝てて、一対二になれば危ない。一対三以上ならば迷わず
逃げる。
 上条の戦闘力など、精々がその程度である
 そして、第六学区の廃墟には、大地を埋め尽くすほどの侵魔が集まっていた。
 一対一〇〇とか、二〇〇とか。
 彼我の戦力差は、そんな数え切れるほど生易しい比率ではなく、正しく一対無限大。
 数え切れないと言う点において、その表現に齟齬はない。
 まともにぶつかれば、ほんの数秒と持たないだろう。数の暴力という、冷徹な法則が其処にはある。
 
「■■■■■ァッ!!」
 
 人在らざる咆哮をあげて、鉈を連ねたような腕が襲う。
 人間の頭蓋骨など、まるで西瓜のように砕くであろう凶手。
 そんなものを上条が受ければ、間違いなく人生のエンディングを迎えることになる。しかし、

 ゴシッ。と、鈍い音を立てて、鉈爪は止められた。

 受け止めたのは、黒い帯を巻きつけた細い腕。
 見た目は華奢でも、仮にも魔王の腕、下級侵魔の爪如きで砕けるものではない。
 しかし、その陰に隠れるようにして、別の個体が闇を吐き出す。

「■■■■■ォッ!!」

 鋭利な刃となった闇(ソレ)は、爪を振り下ろした同胞の身体を貫いて、アゼルの眼前に出現する。
 『幻想殺し』で防御は(パリィ)は出来ない。
 タイミングを合わせるように、爪を振り上げて、死角から侵魔が跳びかかかって来たからだ。
 <ダークブレード>が頬を掠める。
 咄嗟に首を捻ったものの、断たれたアゼルの銀髪が数本宙に舞った。

『     ッァ―――!!』

 回避の勢いをそのままに、二人は右足左足を一歩前に踏込むと、向かい合わせに体を捻り、反転する。
 ハンマーフォール。
 握り合った右手と左手が、真上からデーモンの鼻面を打ち据えた。
 『幻想殺し』が発動し、その個体が塵に帰るのを捉える前に、最初に爪で攻撃し、再び逆手の爪を振り上げる下級侵魔に向かって再度向かい合わせに反転し、右手左手を突きつける。
 確実な消滅を前にして、その侵魔は攻撃を中止、バックステップ。ソレと同時に他の個体が攻撃魔法を放った。


98 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:00:21 ID:d5sLKAHR
 上条たちは、一歩『前』に進んで闇の刃をやり過ごす。
 一秒前まで侵魔が立っていた場所に立って、無理な後退で体制を崩した個体に、幻想殺しを叩き付け、同時に地を蹴って再び空いたスペースに跳びこむ。
 尾を引いて、十字砲火のダークブレードが二人を掠めて行った。
 
 少数対多数の戦闘において、自身が少数の立場で迎え撃つというのなら、地の利を得る為に戦場は入り組んだ場所であることが好ましい。
 多数であるという強み、即ち数で押すという戦法を封じ、各個撃破が可能だからだ。
 だからアゼルが戦場に選んだこの場所は、戦術的観点から言えば赤点である。
 学園都市第六学区の廃墟。魔王アゼル・イヴリスが消し飛ばした区画。涸れ果てた荒野は一面に平坦で、水平線の向うに他学区の建物が見て取れる。
 何よりも、この場には一切の遮蔽物が無い。犇く敵は基本的に不死身であり、敵個体そのものを遮蔽にすることは出来ない。
 確かにココならば、何らかの事情で上条の右手がアゼルから離れてしまったとしても、被害を最小限に押さえ込めるだろう。
 だが、地の利は確実に敵の元にある。二人が窮地に在る事は明白だ。

 ソレなのに二人が、何よりただの高校生である上条当麻が、ココまで生き残っている。
 それには、二つの理由が在った。

 一つは、彼らを追いかけてきたウィザードたち。
 アゼルを殺そうとしている目的は同じでも、侵魔の群と同盟関係にあるはずが無く、群の大半が彼らに向って攻撃を集中していた事。

 そして、もう一つは、侵魔の攻撃がアゼルに集中している事だ。

 侵魔の目的は、『荒廃の魔王』アゼル・イヴリスの排除。上条は謂わばアゼルに付けられた枷のようなものである。
 荒廃の力を抑え、あらゆる魔法も特殊能力も封じ込め、そして庇うことによって行動すら制限する。
 だから、デーモンの爪も魔法も、そのほとんどがアゼルに集中し、ソレを彼女が受けきっているが故に、右手以外は脆弱な人間である上条当麻は、未だに息をすることが許された。
 アゼルが身体に巻いている黒い帯は、解れ千切れ所々露出していたが、それに劣情を抱く余地は無い。
白を通り越して蒼白な肌には、青黒く腐った果実のような内出血の跡とか、潰れた果菜のような裂傷痕が刻まれている。
 露出しているところ、即ちそこは傷を受けている場所。
 満身創痍。
 そんな感情など、まとめて綺麗に、何処かに吹き飛んでしまう。

 侵魔の攻撃は止まない。

 鉈を連ねたような爪が、闇で作られた刃の魔法が、際限なく二人に襲い掛かる。
 それらを、かわし、すかし、回避して、上条とアゼルは侵魔が犇く廃墟を駆ける。

 いきなり視界が開けた。
 
『っ!?』

 包囲網を突破したのかと辺りを見回せば、何も無い空間に、薄く蒼く境界のカベが、二人を取り囲んでいた。

「………これって、月匣?」

 ポツリと、アゼルが呟く。
 彼女ら裏界の侵魔が、世界結界の内側で力を振るうときに展開する、異界法則を刻んだ箱庭。
 ソレが発現する際、空には必ず裏界の紅月が現れる。
 しかしこの匣は、侵魔が作り出したものではなかった。魔法大戦(マジカルウォーフェア)以降、ウィザード全員が月匣を展開する能力を得ている。
 侵魔のソレとウィザードのソレとの相違点は、空に浮かぶ月。色とその有無のみ。 
 システムに割り込むウィルスのように、蒼い世界を作り上げたのは、


99 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:01:39 ID:ZGyix/KA
支援殺し

100 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:01:45 ID:9v/goNVf
支援

101 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:02:57 ID:9v/goNVf
支援殺すなw しえん

102 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:03:22 ID:d5sLKAHR


「やっと……、追い詰めたぞ。アゼル・イヴリス!!」

 機械箒の上から、彼は魔王と異邦人を睥睨する。

「―――貴方、凄いのね。
 ウィザードの月匣はイノセントを隔離することは出来ても、私たち侵魔を排除するほどの力は無いって聞いてたけど……」

 蒼き月の匣に刻まれた法則は、『月匣への侵入離脱の禁止』と、『アゼル・イヴリス以外の侵魔の排除』。
 ウィザードの月匣にしては、破格の性能である。

「人間を嘗めるな魔王。
 定命の定め無きが故、留まり続ける貴様らと違い、我ら人間は常に進化する」

 まるで色水が染み出すように、出現するウィザードたち。

(詳しく理屈はよく解らないけど、複数のウィザードが一緒に展開して機能を強化したのかしら? だから、発動に時間がかかった)

 魔法使いたちは、上条とアゼルを取り囲む。デーモンに比べ数は減っているし、不死身でも無い。しかし、それは危険度に劣るという訳ではない。
 彼らは、槍のような箒を構えた。
 木々の精霊を思わせる、穢れ無き緑の光が、穂先で煌輝する。
 二人は身構える。右手と左手を硬く握り締めたまま。
 青い世界の中心で、対峙する。

「………。私を、殺すの?」

 当然。と、男は言った。

「上条君も……、殺すの?」

 否。と、ウィザードは首を振った。

「え?」
「お前が大人しくしているのなら、殺す理由はない」

 その言葉に、アゼルの肩が小さく揺れる。

「貴様が逃げ回ったのなら、そこの男ごとでなければ、殺すことなど出来ないだろう?」

 だから、アゼル・イヴリスが大人しく殺されるというのなら、上条当麻を殺す理由などなくなる。
 夜闇の魔法使いは、まるで御伽噺に出てくる悪い魔術師のような貌で、そう言った。

「………」

 揺れる。
 心が揺れる。
 ぐらぐらと。まるで支えを失ったガラクタのように。

 我慢ならなかったのは、上条当麻が殺されるという事。
 この身は魔王。そこに在るだけで、世界を涸らす真性の怪物。彼らウィザードからすれば、ただの敵でしかない。
 だから、自分が狙われることは、理解できるし、納得できた。
 けれど、上条当麻が狙われることは、納得できないし、そんな理由を理解などしたくなかった。
 忌まわしい力、世界を殺す荒廃の力。
 ソレを受けても、力に犯されない誰か、そんな誰かが存在すること自体がアゼルの幻想。
 その幻想を護りたかった。失いたくなど無かった。


103 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:04:30 ID:d5sLKAHR
 だから、
 だから、アゼル・イヴリスが死ねば、上条当麻が助かるというのなら―――

「止めろ、アゼル。
 そんなことされても嬉しくねぇ」

 冷水を浴びせた様に、上条の言葉がアゼルを打った。

「でも……」
「でも、じゃねぇ。ココでお前が死んだら、俺は苦しい。
 大切な誰かが苦しんで、傷ついて、でも自分には何にも出来なくて、どうしようもないって苦しみに襲われる―――」

 焦り。辛く。苦しみ。痛み。恐き。震え。叫び。涙を流す。

「だから、止めてくれ。
 俺の事を本当に大切に思ってくれているのなら、そんな重たい衝撃を、俺に与えないでくれ」

 二の句が接げない。
 反論できない。
 アゼル・イヴリスは上条当麻に死んで欲しくはない。
 今この場において、上条が無事で居るには、自分が消えるしかない。
 それ以外に、道は無いというのに。
 だから、アゼルは黙して一歩前に出た。その姿は、まるで刑場に向う死刑囚のよう。
 自分では、上条を変説させられない。
 上条が背負っている物を、何も知らないのだから、口を出す事はできない。
 ならば、何も言わずに幕を引く。そして、この幻想を護るのだと。

 しかし、

 一歩だけ、上条は後ろに下がった。
 右手と左手が強く引っ張られる。
 不意を打たれたアゼルは、上条の手を離さないように一歩後ろに下がりなおす。

「……どうして?」

 上条は答えない。
 語るべきことは、すべて語り終えているのだから。

「は」

 ウィザードが笑った。

「何を言い出すかと思えば、上条当麻。
 ソレは魔王だ。人と相容れぬ怪物だ!!
 貴様も見ただろう、この惨状を!! 貴様も知っているだろうソレの脅威を!!」

 腕を開き、指を伸ばし、指し示すように。

「この街を壊したのはそいつだ! この街の住人を殺したのもソイツだ!!
 甚大な被害を、五桁を越える犠牲者を、生み出したのは紛れも無い其処のソレ!! アゼル・イヴリスだ!!」

 ただの少年に、突きつける。

「土星域での会戦にも! 堕ちたる守護者の開放にも、ソイツは関わっていた!!
 直接的に間接的に、ソレが殺した人間の数など、人の知りうる数字では表せぬ!! それでも―――!!」

 それでも、お前はアゼル・イヴリスの味方をするのか


104 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:05:17 ID:9v/goNVf
あ。
……なるほど、だからバカがそこにいるのか支援

105 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:05:56 ID:d5sLKAHR

「―――ソイツは、護る価値のある存在だというのか!!」

 上条は息を吐く。

「……護る価値が、在るか。だって……?」

 力強く。
 其処に、砂粒ほどの躊躇は無く、原子ほどの諮詢も見せずに。

「―――当たり前だろうがッ!!」

 ざわっ!! 色めきたつウィザードたち。驚愕と、ソレより強い怒りが彼らに伝播する。

「如何言う、ことだ」
  
 感情で人が殺せるのなら、この一瞬で百人ばかり死なせているだろう。彼は、果てし無い怒りを静かな口調の裏に隠している。 
 上条は、微塵ともその瞳を揺らがせず、

「正直、元の世界で、アゼルがどんだけ悪(ワル)だったかなんてこと、俺は知らない。きっと、お前の言った通りなんだろう。
 今回のコトだってそう。全部、現実にアゼルがやっちまった事だ」

 彼女が第六学区を消滅させたこと、五桁以上の人間を殺したことは変えようのない事実。否定のしようも無い現実。
 誤魔化せない。ソレが、紛れも無い罪だと、理解している。
 償わなければならない罪業(モノ)だと、解っている。
 でも、

「でもな、それがアゼルを殺していいって理由にはならねぇだろ!!」

 喩え人殺しの命でも、ソレを奪ってはいけない。とか、死ぬ事は償いにならない。とか、そんなコトを言うつもりは無い。
 そもそも、あの場で唯一人生き残った、被害者ですらない上条が、口を出していい問題ではない。
 それでも、上条当麻は、ただ、
 アゼル・イヴリスに、死んで欲しくなんてないのだ。

「現国赤点な俺の頭じゃ、上手く言葉になんかできねぇけどよ―――」  

 それは、
 この世界が大好きだと、この世界のみんなが大好きだと、護りたいのだと、そういった彼女の言葉だとか。
 たった今、自分を犠牲にしてでも、上条を守ろうとした事だとか。
 魔法も異能も使えない状態にも関わらず、腕を身体を、青黒く腫らし傷つけてでも、上条を庇った事だとか。
 命を狙われ、武器を向けられても周りが敵だらけでも、死んで欲しくない、殺したくないと、決して握り締める事を止めない、この右手に伝わる左手の感触だとか。

 そんな、魔王らしからぬ彼女(アゼル)の優しさを―――、 

「護る価値があるのか。だと? 嘗めるんじゃねぇよ!! それを知ってる俺が、アゼルを見捨てるわけがねぇだろうが!!」

 蒼き月匣を揺るがすほどに、上条当麻の怒号が炸裂する。


106 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:06:45 ID:d5sLKAHR

「そうか」

 ウィザードは静かに、しかし苛烈な怒りを滲ませて、

「『幻想殺し』上条当麻。
 ならば我々は、お前を侵魔幇助者として抹殺対象と認定する」

 深慮の光が膨れ上がる。
 肥大したエネルギーが、解放を求め危険な輝きを帯びる。
 上条当麻は鼻で笑った。

「はっ、よく言うぜ。端っから殺す気満々だったクセによ」

 そして、

「行くぞ、アゼル!!」

 優しい魔王の左手を握り締めて、大地を蹴った。



107 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:07:26 ID:ZGyix/KA
そろそろ終わり?支援

108 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:07:36 ID:d5sLKAHR
行間 五

陰守極秘資料(Top Secret)。

魔王監視部隊隊員名簿。

隊長:葛葉 亨 (クールな桜色狼)
隊員:桂木 卓 (暖かなる小豆色合成獣)
   相川 一 (華麗なる緋色熊猫)
   稲枝 遼 (ばるばるな山吹鮫)
   粟根 紬 (死の焦げ茶色天馬)
   十叶 昴 (素晴らしき翠蝉)
   雨原 忍 (閃光の虹色梟)
   峰百 薫 (幸運な黒猛牛)
   麦奈 勲 (疾風の青銅獅子鷲)
   菫 刻李 (鋼鉄の無色海老)

以上十名。

備考:十人全員ともロンギヌスに所属。
   輝明学園秋葉原分校地下『学園迷宮(スクールメイズ)』での研修中、学園世界への転移に巻き込まれる。


109 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:07:47 ID:9v/goNVf
かみやんはかみやんだなぁ支援

110 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2009/04/18(土) 01:09:58 ID:d5sLKAHR
以上です。支援ありがとうございました。

ながッ!
思わず、自分で突っ込みいれましたけど、書くたびに長くなってます。

では、ココまでお付き合い下さってありがとうございます。

111 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 01:10:36 ID:5OPH87/b
相変わらずNWの二つ名は色々と台無しで実にきくたけである。 支援間に合いませんでしたが投下乙でした。

112 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 02:48:40 ID:BXvsU2qI

うん、俺もパールは頭いいと思う、問題は発想の仕方だけど
さらに問題なのは無茶苦茶な作戦でも実行できる能力があることだけど

言葉にすると「天災」?

113 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:27:46 ID:mUFl/uO9
どんどん書いてたら、30kB近いとか割とシリアスとか想定外の方向に行きました。
てなわけで後で書く第3話のBサイドも兼ねている幕間「陰の休日」後篇。
8時45分より投下します。

114 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:43:29 ID:mUFl/uO9
1日と言うのは、意外と長い。
朝から日が暮れるまで休日は、終わらない。
昔言われなかっただろうか?家に帰るまでが遠足だと。
同様に、家に帰って寝るまでが休日であり、帰りついて別れの挨拶をするまでが“デート”なのである。

―――麻帆良学園 麻帆良ヶ丘公園

「…うん。次の目的地はここだよ」
パラパラとメモを確認しながら、空が言う。
「へぇ…公園か」
遊びに来た幼稚園や小学校の生徒や恐らくは自分たちと同じ目的で来たのであろう中学生や高校生のカップルを確認しつつ、一狼が言う。
(…最初は大丈夫かと思ったけど、案外ちゃんとしてたなー)
しょっぱなの喫茶店でのお茶にはとんでもない指令がついてた分、何か変なことが書かれていたら突っ込まないとと考えていた
一狼だったが、あの後は商店街の色々なお店のウィンドウショッピングに麻帆良ミヲンでの映画と
まともなデートコースであったことに若干肩すかしをくらいつつ、一狼はホッと息をついていた。
「それで、ここでは何をするの?」
「うん。あのね」
もじもじしながら、空は月衣に手を突っ込む。そこから取り出したのは、1つの箱。
「えっと、それは?」
なんとな〜く嫌な予感を感じつつも一狼は空に尋ねる。ほぼ間違いなくアレだと確信しつつ。
「お弁当、作って来たの…一緒に食べよ?」
(や、やっぱりかーーーーーーーーーーーー!?)
「へ、へえそっか姫宮のてづくりかうれしいなあ」
魂の叫びを心の中で抑えつつ、一狼は棒読みで答えた。
(まいった…まさかこんなことになるなんて…)
公園の広場でいそいそと準備をする空を見ながら、一狼は脊中に嫌な汗を感じる。
(だ、大丈夫!とりあえず空の弁当は襲ってきたりはしないから!)
と全然フォローになっていない言い訳を自分に対してしつつも、半ば確信にも似た嫌な考えはぬぐえない。
姫宮空の料理の腕は、正直かなりひどい。
もはや伝説と化している某強化人間ほどではないが、出来次第では食べると普通に悶絶位はする。
そのひどさの原因は、空の味覚にある。
基本的に、空が味に関して判断できることはたった2つ。
“おいしい”か“まずい”かでは無い。“食べられる”か“食べられない”かである。
更に言えば空の言う“おいしい=食べられる”と言うのは“普通の人間の何倍も丈夫な人造人間の消化器官でなら消化吸収可能”と言う意味なのだ。
戦闘用の人造人間に味覚など不要。消化できるものならすべておいしいと判断して問題無く食べられる。
その方が効率的と言う製作者の意図は一狼にも分からないでもない。
だが…そのせいでうっかり空に料理を任せたりすると基礎的な常識の欠如とコンボしてえらいことになる。
最近などは、嫌な方向に学習してしまい、見た目だけは料理の本の見本そっくりで味はアレと言う事もあるので油断できない。
「さ、食べよ」
準備を終え、地面に敷いたレジャーシートに座った空に促され、一狼がかな〜り嫌々ながら、座る。
「な、なぁ…姫宮?」
「ん?どうしたの一狼君?」
満面の笑顔で、空が聞き返す。
「う、ううん。何でも無い」
(い、言えるかあー!『やっぱり折角だしどこか別の所に食べに行こう』とか!笑顔の空に!)
内心激しく葛藤しつつ、一狼は首を横に振る。
『言うたらあかん。男の子やろ』
いつか聞いたセリフが頭の中をよぎり、一狼の決意は固まる。

115 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:45:53 ID:mUFl/uO9
「さ、食べよ」
準備を終え、地面に敷いたレジャーシートに座った空に促され、一狼がかな〜り嫌々ながら、座る。
「な、なぁ…姫宮?」
「ん?どうしたの一狼君?」
満面の笑顔で、空が聞き返す。
「う、ううん。何でも無い」
(い、言えるかあー!『やっぱり折角だしどこか別の所に食べに行こう』とか!笑顔の空に!)
内心激しく葛藤しつつ、一狼は首を横に振る。
『言うたらあかん。男の子やろ』
いつか聞いたセリフが頭の中をよぎり、一狼の決意は固まる。
「じゃ、ありがたくいただくよ」
(くっ…こんなことなら隊長殿から貰った胃薬を持って来るんだった!)
目の前の“ターゲット”に全身全霊を傾けて戦いを挑むことに。
(み、見た目は普通だ。だが、それがかえって怖い)
小さなオムレツに一口サイズのハンバーグ、小さなカップに入ったグラタンとシュウマイ、春巻き、そしてご飯。
見た目はばっちりだ。むしろ奇麗だと言ってもいい。
だが、一番の問題は味。それが酷くないと言う保証は、どこにもない。
特に手の込んだ料理ならば壊滅的な味になる可能性は飛躍的に跳ね上がる。そりゃあもうウナギ登りに。
(こ、こうなったら一気に行くしか無い!)
味が脳に達する前に全てを飲みこむ。忍者の自分なら可能だ。
今まで、空の手作りが振舞われるたびに使ってきた技を使い、勝負を決める。
そう、決意してゆっくりとお弁当に目を向け、一狼は気づいた。
「…あれ?箸は?」
きょろきょろと確認してみるが、箸がない。
「あ、お、お箸ね…」
その発言に空はなぜか頬をピンク色に染めつつ、月衣から箸を取り出す。
「あ、ありがと…えっと、姫宮?」
そのハシを握りしめて離そうとしない空に一狼が、怪訝そうに声をかける。
「え、えっとね…これってデートなんだよね?」
「う、うん。そうだね」
「そ、それでね…デートの時のお弁当はね…」
そう言いながら空はお弁当の中のオムレツを一口大に切り、ハシでつかむ。
「ま、まさか…」
その光景に流石の一狼も空の意図に気づき、ごくりと唾を飲む。そして。
「あ、あ〜んして…」
空がおずおずと箸でつかんだオムレツを一狼に向けて差し出した。

天国と、地獄。というか地獄の二乗。
一狼のその瞬間の心情を表わすとこんな感じだった。
好きな女の子からのあ〜ん。男なら誰しも憧れるシチュエーションだが、女の子があまり得意では無い一狼にとって、それは拷問に等しい。
更に自分に差し向けられているのは姫宮空手作りのお弁当。味は…あんまし想像したくない。
そして、何よりこの状況では先ほどまでの一気に飲み込む作戦は使えない。一口一口“味わって”食べるしか無いのだ。
(お、恐るべしデート!?恐るべしナツミさん!?)
進退窮まったこの状況に、一狼は思わず神と顔も知らぬメモの製作者を恨む。
「えっと、もしかしてオムレツは嫌いだった?」
いつまでも食べようとしない一狼にしゅんとして空がたずねる。
「そ、そんなことない!お、オムレツは大好きだよ!」
Noと言えない日本人である一狼が必死にフォローする。
「よかったあ…じゃあ、遠慮せず、食べて」
人を疑うことを知らない空が笑顔で一狼にオムレツを再度差し出す。
(ええい!ままよ!)
もはや引くことは許されない、そんな状況に一狼は覚悟を決め、そのオムレツを口に入れ、噛みしめた。
シャリッ
最初に感じたのは、冷たさと、オムレツには普通ない食感だった。
(凍ってる…?いや、だけど味はまずくない、まずくはないぞ!?)
だが、舌に伝わる味はごく常識的な味。お店とかで出されたら首をかしげるところだが、正直、覚悟していた味からはほど遠い。
(そうか!分かったぞ!これは…)
一狼がその正体に気づく。

116 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:47:34 ID:mUFl/uO9
「なあ、姫宮、これってどうやって作ったの?」
それは、一狼が東京に住むようになって慣れ親しんだ、大量生産の味。
「えっとね…電子レンジに入れてあっためたんだけど…もしかして、おいしくなかった?」
正直うまいとは思わないが、決してまずいわけでもない、普通の味。
「いいや。おいしいよ。姫宮の作ってくれたお弁当だからね」
弁当いっぱいに詰められたのが“冷凍食品”であることを確認した一狼が、内心安堵しながら笑顔で言った。
(凍ってるのは…多分全部一度にレンジに入れたんだろうな…)
だが、そんな些細な失敗も今の一狼には気にならない。
「ほ、本当?いつもより簡単にできたから、大丈夫かなって思ってたんだけど…」
「いや、ほら手間暇かければいいってものでも無いらしいしさ。それに、僕は、姫宮が作ってくれたってだけでも十分嬉しいよ」
「あ、あうう…」
解放された気分の一狼が淀みなく自然に喋り、それを聞いた空が赤面する。
「さて、次は?」
若干軽くなった気分で、一狼は空に尋ねる。これならいける。そう、確信して。
「え、あ、その…次はね…これ」
そう言ってパシッとそれを手渡す。
「えっと…箸?」
手渡されたものに、一狼は首をかしげる。
「あの…そのね?お箸、1膳しか持って来なかったの。デートだから。だから、その…」
耳まで真っ赤にしてしばらくもじもじした後、意を決して、空が言う。
「一狼君が食べさせて…」
「え、ええっ!?」
空の爆弾発言に、一狼は再び混乱の大渦に巻き込まれる。
「あ、あ〜ん」
空が目を閉じて、口を開ける。
「…」「…」「……」「…まだ?」
「え、あ、ご、ごめん!」
固まっていた一狼が慌てて手近なハンバーグを取る。
ごくりと唾を飲む。
(こ、こんなことになるなんて…)
もはや、逃げ場はない。自分は、この“ラブラブバカップル”風デートを遂行するしか無いのだ。
(お、恐るべしデート!?恐るべしナツミさん!?)
大事なことなので2回考えました。
…数十分後
「う、うう…なんとか乗り切った…」
嬉しはずかしい“拷問”に内心真っ白になりながらも一狼はそれを乗り切った。
衆人環境にさらされた上でのラブラブっぷり。日曜とはいえ、昼日中の公園でそこまでやる奴は流石に珍しく、注目を集めた。
全部食べ終えた後、空はそそくさとお花を摘みに行ってしまった。
「ご、ごめん。ちょっと…休憩…させて…」
とか言っていたことを察するに空もかなり恥ずかしかったらしい。多分落ち着くための方便って奴だろう。
「それにしても…空もなんでまたデートしたいなんて言い出したんだろう?」
1人になってちょっぴり冷静になった一狼が考え込む。
「学校ではいつも一緒だし、僕が姫宮を好きなのも知ってると思うんだけど」
あのクリスマスの再会から学園世界に来るまでの間、一狼と空はいつも一緒だった。
学園世界に来てからは“カゲモリ”の任務で出かけることも増えたが、学校内では基本的に一緒に行動している。
お互い隣にいて当然。そんな関係。流石に恥ずかしくて口に出したことはないが、好きだってのも分かっているはず。
「なのに突然デートだなんて…う〜む」
空の考えが一狼には分からず、考える。
「まあ…僕が考えても分かるわけはないか」
自分が男と女の関係ってやつに疎いのは自分でも分かってる。だが…

117 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:50:04 ID:mUFl/uO9
「…でもシルフィードに聞くのも、何か違う気がするんだよなあ…」
と、ついさっき気づいた怪しい気配の近場の茂みを見ながら言ってみる。
ガサッと、明らかに不自然に茂みが音を立てる。
「…出てきて。大丈夫。怒ってないから」
再び音を立てて、1人の女性が立ち上がる。
学生と言うには大人っぽい容姿の、妙齢の女性。その長く青い髪にはところどころ葉っぱがついている。
「ち、違うのね!シルフィはただエヴァさまに言われてヒキョーかニンジャを探してただけなのね!イチロウを最初に見つけたけど、
 邪魔しちゃ悪いと思ったから終わるまで待ってたのね!いつ終わるか分からなかったから近くにいただけなのね!
 の、ののの覗きじゃないのね!きゅい!」
その女性…シルフィードは容姿からはかけ離れた子供っぽい仕草で言い訳をする。
「…うん。だよね」
(だったら0-Phoneに電話するなり他の人に連絡とるなり方法はあったと思うんだけどなあ…)
とは思ったものの、ファンタジー系の世界出身な上に人ですらないシルフィードにそこまで要求するのは、酷と言うものだろう。
そう一狼は考え直し、目の前の“カゲモリ”の一員を見る。
シルフィード。彼女は1年ほど前にタバサの使い魔となった喋る竜、“風韻竜”の子供である。
今の姿は彼女が『先住魔法』と呼ぶ魔法で変化した仮の姿であり、身の丈6mほどの竜が本来の姿である。
「それよりも、エヴァさんが言ってたってことはもしかしてタバサのこと…居場所か何か分かったのか?」
「な、何で分かったのね!?ニンジャって心も読めるのね!?」
言いたかったことを一発で当てられ、シルフィードが狼狽する。
「違うよ。ただ今のシルフィードがエヴァさんに言われてって時点で他には無いだろう」
タバサを一番熱心に探していたのはだれあろうこの使い魔である。そのシルフィードが今、他の任務に関わるとは思えない。
そんな、当然と言えば当然の推理だったのだが。
「す、すごいのね!この前おねえさまが読んでいた本の“探偵”みたいなのね!」
シルフィードが素直に驚く。
「まあ、それぐらいはね…それより、詳しく話を聞かせてくれ。タバサはどこにいるんだ?」
「うん。あのね…」
頭を“デート”から“任務”へと切り替え、一狼はシルフィードから事情を聴くことにした。
…さらに5分後
「う〜…これからどうしよう」
空はとぼとぼと歩いていた。
葉月から貰ったメモにはお弁当を一緒に食べるところまでしか書かれていなかった。
マニュアルだよりの空に、これは辛い。一狼もデートの知識はどっこいどっこいだから、あてにはできない。
「今日はこれで終わりなのかな?…けど」
正直まだ、別れたくない。まだ日も高いし。
「せめて夕方くらいまでは一緒にいたいなあ…」
せっかくの休日。これで終わりでは、ちょっと寂しい。
「と、とにかく、何もしなくてもいいから一緒にいよう!…あ、そうだ!一狼君の部屋に行くとか!」
さらっと爆弾発言をしながらも一緒にいる方法を見つけたような気持ちになり、また気分が浮き上がる。
「そうと決まったら早く戻らなきゃ!待たせちゃ悪いから」
心持ち小走りになり、一狼の元へと急ぐ。
「あ、いたいた。お〜い、一狼…くん?」
思い人の姿を見つけて駆けより、空は異変に気づいた。
「どうしたの一狼君。その格好?それに…その子は?」
先ほどまでの、私服では無く、見慣れた輝明学園の制服に着替えた一狼とどこかで見たような気がする女の姿。
それになにより、一狼から漂う緊張感に空は首をかしげる。
「その…姫宮、ごめん」
一狼がちょっとだけ言いにくそうに言い淀む。

118 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 08:50:13 ID:ADSVWtgB
支援

119 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:51:11 ID:mUFl/uO9
「…え?」
「急だけど、“任務”が入った。あんまり時間が無いんだ。すぐに行かなきゃならない。1人で帰れるよね?姫宮」
嫌とは言わせない。そんな意思を込めた真剣そのものの表情で、一狼は空に端的に伝える。
「そ、そんな…あ、そ、そうだ!それなら私も一緒に…」
「駄目だ!」
「ひうっ!?」
空の提案を一狼は普段は見せないような強い口調で一蹴する。
「…ごめん、姫宮。今から行く場所は本当に危険なところなんだ。それに“仲間”のこともある。じゃあ、また明日」
時間がおしい。空には酷い言い方になってしまったが、仲間の危機を見捨てるわけにはいかない。
「…行こう。シルフィード」
「わ、分かったのね!急ぐのね!」
普段はあまり見ない一狼の強い態度に、ちょっとだけ怯えたシルフィードを伴い、目的地へと急ぐ。
2人はすぐに公園から見えなくなった。そして後には…
「一狼君…」
寂しげな表情の空が残された。

―――麻帆良学園 市街区

どんよりとしたプラーナをまとい、空は1人とぼとぼと歩いていた。
(しょうがないよね。任務で仲間だもん…)
歩きながら、空はぼんやりと考える。
空は知っている。一狼が真面目で心優しい少年であること。どんなときも“仲間”を見捨てたりはしない、素敵な男の子であること。
そして、先ほど一狼が空に怒鳴って見せたのも、空を巻き込まないための、一狼なりの優しさだってことも。
(危険だからって一狼君言ってた…それじゃあ、私を連れていくわけにもいかないよね)
空にも一狼の考えは分かっているつもりだ。一狼が、空と一緒に行動したがらない理由も知っている。
(私じゃ、足手まといだもん…)
それは、自分が力不足だから。
(“戦闘用人格”、残しておいてもらえば良かったかなあ…)
今までも時々考えたことを、また考える。
かつて“自爆”して1つ目の肉体を失い、クローンの身体で復活を果たした時、空にはいくつかの調整が施された。
その1つに、空の戦闘用人格の削除がある。
戦闘用人格。それは、空が戦闘に巻き込まれた場合のために埋め込まれたプログラム。
これが発動したとき、空は“姫宮空”としての一切の人格と思考を失い、純粋に戦闘に特化した戦闘マシーンとなる。
元々が“単独での殲滅戦”を想定しているため近づくものはすべて“敵”あるいは“障害物”とみなす危険な代物。
そんな物騒な戦闘用人格は空が一狼に“配備”されることとなったことを機に空の中から削除された。
そのことは空に日常生活を歩むことを容易にさせる代わりに空の戦闘能力の弱体化を招いた。
基礎的な肉体のスペックこそ変わらないものの、思考し、行動するのは本来は日常生活用の人格であった“姫宮空”としての自分である。
どう頑張ってみても戦闘に完全特化した戦闘用人格ほどの反応、行動はとれない。
(もっと強ければ、一狼君も私のこと、連れてってくれたのになあ…)
一狼が決して空を“任務”に巻き込まないのは、自分が力不足だから。そう、空は考えていた。
一応言っておけば、空の戦闘能力は決して低くない。戦闘用人格を失った現在においても、基礎スペックで勝る分で一狼と同等程度の実力は有している、
と絶滅社のスタッフからは聞かされている。
だが、そうでも考えないと一狼が“所有物”である自分を“使わない”理由が空には理解できなかった。
(強くなりないなあ…そうすれば一緒にいられるのに)
1人は寂しい。それなら危険でも一緒にいたい。それが空の望みであった。
(強くなるにはどうすれば…!?)
ぼんやりと考えながら歩いていた空はその少女を見つけ、思わず息をのむ。
茶色い髪の少女が親しげに話しかけている、お下げの黒髪の少女。

120 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:53:39 ID:mUFl/uO9
(お、屋上の少女!?)
思わず反射的に身を隠し、空は様子を伺う。
茶色い髪の少女と屋上の少女が軽く二言三言会話を交わして別れる。
その後、屋上の少女はわずかに上を見上げた後、立ち上がる。
(あ!い、行っちゃう!?)
足早に歩き去ろうとする屋上の少女を見て、空は慌ててそれを追う。
さっと何度か唐突に曲がってどんどん人気のない裏路地に行ってしまう少女を見失いそうになりながら、空は必死に追跡をする。
(あれ?私なんであの人のこと追ってるんだろう?)
そんな疑問も頭に浮かんだが考え込んでいては見失ってしまうとばかりに空は少女を追う事に専念する。だが。
「あ、あれ!?いない!?」
薄暗い路地の中に入ったはずの少女の姿を見失い、空は辺りをきょろきょろと見回す。
「一体どこに…」
「…追跡してくるから召喚者かなにかかと思ったけど、どうやら見込み違いだったようね」
その声は後ろから聞こえた。
「えっ!?」
空は思わず振り返る。そこには。
暗がりの、ちょっとした物陰からゆっくりと出てくる屋上の少女の姿。
「それで、なぜ私を追っていたの?」
わずかな距離…いつでも剣を抜いて攻撃可能な距離を保ち、少女は空に問いかける。
「え、えっと…その…ちょっと、お話がしたくて」
「お話?」
空の言葉に少女が怪訝そうに眉をひそめる。冷静に観察し、気づく。
「そう言えばあなた…」
どこかで見たことがある。しかもかなり最近。
少しだけ考え込み、少女…ライズは気づいた。
「確か…姫宮空とか言ったかしら?人造人間だとかいう」
前にザールブルグアカデミーで会った、一狼の知り合いであるウィザードであると。

―――麻帆良学園 STARBOOKS CAFE

「それで、話たいこととはなに?」
表通りに戻り、適当な喫茶店に入って、ライズは空と話をすることにした。
「え〜っと…」
言い淀み、困ったように視線を彷徨わせる空を見て、ライズは思う。
(ウィザードだとは聞いているけど…随分と普通なのね)
ライズが知るウィザードは一狼以外では柊蓮司や赤羽くれは、緋室灯などの学園世界の有名人くらいである。
それも詳しく知っているわけではなく、雑誌や噂で聞く程度。つまりは学園世界の一般人並み。
その噂で聞く有名人は文字通りの意味で“常識外れ”の存在であると聞いているし、身近なウィザードである一狼も
ライズの常識に当てはまらぬ技を持ち、ライズに近いプロに徹した思考…学生らしからぬ考えを持っている。
それと比べれば、目の前の姫宮空は普通の人間に見える。
(もっとも…人造人間だとか言う時点で普通からはかけ離れているのだけれど)
話に聞いたところでは人造人間とは戦闘用に製造された“兵器”の一種であると言う。
見た目は人間に近いが戦闘能力や持って生まれた様々な機能は人間には決して持ちえない能力だ。
(皮肉なものね…そんな兵器の方が私よりも普通の人間に近い、なんて)
表情は変えず、ライズは自嘲した。

121 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:55:25 ID:mUFl/uO9
(あ、あう…なんて言えばいいんだろう)
酷く醒めた氷のような視線にさらされ、空は困っていた。
屋上の少女。前々から一狼との関係が噂される彼女と空が改めて話をする機会は初めてだった。
(…やっぱり灯さんに似ている気がする)
改めて対峙して改めて思う。
目の前の少女の醒めきった目は、どこか感情や思いを感じさせない、冷たさがある。
それは絶滅社で何度か見たことのある目。絶滅社に所属する強化人間や人造人間、戦闘に特化した“戦士”独特の無機質な瞳。
(一狼君は、やっぱりこういう子の方が好みなのかな…?)
その瞳は、空の今いる“日常”には遠いが“戦場”でならばふさわしい色だった。
そして絶滅社の傭兵である一狼は“戦場”に近い人間である。ならば、隣に立つのはこの少女の方がふさわしい。空にはそう思えた。
(と、とにかく…聞いてみよう…)
意を決して、空は口を開く。
「あの…屋上の少女さ、じゃなくってえっと…」
「…ライズ。ライズ・ハイマーよ」
「あ、そのライズさんは、その…一狼君とはどういう関係なんですか?」
空の質問に、ライズはピクリと形の良い眉をわずかにひそめる。
「どう、って?」
「え、えっと…一狼君とライズさんはその、つ、付き合ってるとか」
「ありえないわね」
空の言葉をライズは即座に否定してみせた。
「え?そ、そうなんですか?」
「当たり前じゃない。私は、戦場での仲間と恋仲になるほど馬鹿じゃないわ」
少しだけ苦い表情をしながら、ライズは言う。
「な、仲間ですか?」
「そう、仲間。それ以上でも、それ以下でも無い。ただ、利害が一致したから組んでいる。それだけよ」
ほんの少し前に色恋沙汰で血迷った“仲間”が馬鹿げた行為の果てに死んだのを思い出していたせいか、ライズの否定に知らず知らずのうちに力がこもる。
「そっかあ…よかったあ…」
ライズのそんな苦い思いには全く気付かず、空ははぅ…とため息をつく。
「何が?」
空が突然緊張を解いたことに疑問を覚えたライズが怪訝そうに空に尋ねる。
「えっ!?いや、その…」
空はほほをピンクに染め、もごもごと口ごもる。
「その…私じゃあ、ライズさんに敵わないかなって…」
言いわけをするように、言葉を絞り出す。
「敵わない?」
「はい。なんて言うか、その…ライズさんて魅力的ですから…」
研ぎ澄まされた刃のような鋭さと、氷のような冷静さを併せ持った、整った顔立ちの美しい少女。
それが空から見た、ライズという少女。そんな人が“ライバル”だったならば…正直空には勝つ自信が無かった。
「…魅力的なんて言われたのは初めてだわ」
そんな空の言葉に毒気を抜かれ、困惑してライズが呟く。
「…とにかく、話はそれだけ?」
これ以上空といたら今以上にペースをかき乱される。そう判断したライズが話を打ち切ろうとする。
「え、え〜っと、はい、そうです。本当は一狼君の任務のこととか聞けたらなって思いますけど…」
「話せないわ」
「ですよね。分かってます」
即座に口調で否定され、空が頷く。
「一応、私も絶滅社の所属ってことになってますから」
傭兵は契約と秘密を守る義務がある。一狼と一緒に暮らしているのだ。それぐらいは知っている。
「…そう。そう言えばあなたも一応はイチローと同じ、傭兵なのね」
目の前の少女が傭兵だと言うのは、にわかには信じがたかったが、“カゲモリ”にも見た目も性格も普通の少女である“吸血鬼”のメンバーがいるし、
ウィザードとは常識が通用しないものらしいから、そういうものなのだろう。
「ええ。と言っても私は一狼君にくっついて行ってるだけだから、詳しいことはよく分からないんですけどね」
そう言って、溜息をつく。

122 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:57:07 ID:mUFl/uO9
「…なんで、一狼君は私には話してくれないのかな?私だって、戦えるのに…」
「…戦闘能力を有しているからといって、戦いに連れていくのに相応しいとは限らないわ」
欝々と悩む空に、そんなライズの涼やかな声が掛けられる。
「え?」
「任務で求められる能力を保持していなければ、任務に従事させることもできないわ。例えば私は魔法は全く使えないし、その知識も無い。
 魔法および魔法的な知識が必要な任務には不適正。そもそも関わらないか、精々他の魔法に詳しいものの護衛につくくらいでしょうね」
わけが分からないと言った風情の空に、ライズは訥々と説明する。
「それじゃあ…」
「恐らくは、あなたの戦闘能力よりは適正の問題よ。任務の性質上、あまり向いていないと判断したか、それか…やらせたくなかったか」
喋っているうちに思いついたことを何となく口にする。
「やらせたく、ない?どういうことですか?」
言葉の意味がつかめず首をかしげる空に、ライズは己の考えを述べる。
「さっき言ったでしょう?戦場の仲間と恋仲になるのは馬鹿のすることよ。いつ死ぬか分からないもの。
 それに私たちの任務は場合によっては“汚い”仕事もあるわ。それを、あなたに見せたくなかったのかもね」
そう言う心情はライズにも何となく理解できる。目の前の少女は、あまりにも無垢だ。そんな人間に、一狼や自分の持つ、闇の部分が理解できるとも思えないし、
理解できない人間に見せても、困惑させるだけだ。
「見せたくない?」
その言葉をちょっとだけ悲しげに確認する。
「そうよ」
ライズは頷いて言葉を続ける。
「大切な人には、自分の汚いところを見せたくない。そんなの、誰だって一緒だと思うけど?」
ライズが知らず知らずのうちに自らの身体…戦場で受けた無数の傷を触りつつ、言う。
ライズが肌の露出を嫌う理由は、その身体に刻まれた醜い傷痕を見せないため。
元々は“隠密”として民間人を装うのに必要なことだったが、いつしかそれは同じ戦場で戦った“仲間”に対しても同様になっていた。
肌に刻まれた、年頃の少女には相応しくない傷。それを見せたくなかったのだ。特に“お父様”と…何故か頭に浮かんだあの傭兵には。
「…そうかも、知れません」
ライズの言葉に空も感じるところがあり、頷いた。
空はクリスマス以降、一緒に戦うようになってすぐ、自分の“戦闘形態”を一狼に見せるのが嫌だったことがあるのを思い出していた。
自分の身体が醜く“変形”する姿。それを見られるのが酷く恥ずかしかった。今ではそうでもないが。
「それじゃあ、もう行くわね」
空が納得するのを見て、話は済んだ。もう用は無いとばかりにライズが立ちあがる。
「あ、はい。あのう、今日は、ありがとうございました」
立ち上がり、店を後にしようとするライズの背中に、空はお礼を言う。
「…?別にお礼を言われる筋合いはないわ。私は何もしていない。ただ適当な推論を並べただけよ」
「いいえ。それは違います」
ライズの否定に、空は首を振る。
「今日、お話出来て楽しかったです。お陰でライズさんがとってもいい人だってわかりました。一狼君が信頼するのも分かる気がします。
 だから…その…これからも一狼君のこと、よろしく頼みます」
「…私がいい人かどうかは知らないけど、別に頼まれなくても、手は抜かないわ。契約を遵守するのは“傭兵”が信頼されるのに必須の条件だもの」
振り向かず、ポツリと呟き、ライズは人ゴミの中に消えて行った。

123 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 08:58:48 ID:mUFl/uO9
―――特別居住区 輝明学園女子寮

夜。空は、部屋でぼんやりとしていた。
(今日は楽しかったなあ…)
思い浮かぶのは、今日の昼までの出来事…一緒にお弁当を食べるまでの時間。
気恥ずかしいけど、それ以上に嬉しかった、デートの時間。
(一狼君、お仕事大丈夫かな…)
空の考えはその後、一狼が向かった“任務”へと及ぶ。
(危なくなければいいけど…)
あの時空に見せた、真剣な表情。あれは一狼が行こうとしていた任務の厳しさを表していたのかも知れない。
そう考えると、余計に不安になる。
(無事に、帰ってきてくれるといいなあ…)
一狼が怪我をするのは、見たくない。けれど一緒に行くこともできない空は、こうして待つことしかできない。
(待つのって…辛いなあ…)
せめて一緒に行ければ、こんな不安も無いのかも知れない。そんなことを考えていた時だった。

コンコン

部屋のドアがノックされ、空によその部屋の女の子の声がかけられる。
「姫宮さ〜ん。何か姫宮さんにお客さんが来てるよ。青い髪のメガネの女の子」
「え?誰だろう…は〜い!いま行きます!」
覚えのない客人に首をかしげながら、空は玄関へと降りて行く。
そこには、1人の少女が立っている。青い髪をショートカットにした、マントをつけ、大きな杖を持った幼い少女。
良く見ると、その服は何かと激しく争ったのかところどころ破れている。
「…こんばんわ。え〜っと、どちらさまですか?」
どこかで見た気はするが、思い出せず空は少女に名前を尋ねる。
「…私はトリステイン魔法学院のタバサ。サイドーイチロウのことで、話がある」
言葉少なに名を名乗り、タバサは用件を述べる。
「一狼君のこと、ですか?」
空の問いかけにコクリと頷き、タバサが言う。
「…来て。イチロウが待ってる」
空に外に出るように促し、外に出て、口笛を鳴らす。
「えっと、来てって…どこへ?」
空の問いかけが上空からそれが降りてくる音でかき消される。
「って…ええっ!?」
それを見た空が驚く。
「大丈夫。私の使い魔。襲ってきたりはしない」
身の丈6mにも及ぶ大きな飛竜にレビテーションの魔法を使って乗り、タバサが続ける。
「今からあなたをイチロウのところへ連れて行く。乗って」


124 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 08:59:46 ID:ADSVWtgB
もう一回支援

125 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 09:00:29 ID:mUFl/uO9

―――麻帆良学園 世界樹

昼間は人でごった返していた世界樹も、この時間になると流石に人はいなくなる。
「っつつ…タバサさん、遅いなあ」
その世界樹でただ1人。一狼は塞いだばかりの傷の痛みに顔をしかめつつ、タバサを待っていた。
『シルフィードから話を聞いた。ちょっと待ってて』
無事救出に成功したタバサからここで待つよう言われてもう30分経つ。
「タバサさんのことだから、多分何かしら考えがあるんだと思うんだけど…」
あの、何を考えているのか分からないように見えて、実は誰よりも思慮深いタバサが考えなしにこんなことを言うとは思えない。
「正直、何を考えてるのかまでは分からないんだよなあ…っと、来た」
一狼の鋭い聴覚がシルフィードの風きり音を聞きとり、タバサが来たことを知る。
「タバサさん。ここで待っててって…ええっ!?」
シルフィードからレビテーションで降りてきた空を見て、一狼が驚愕する。
「どういうことですか?」
一狼の問いかけに、タバサは声を出さず、唇の動きだけで答える。
“デートの続き。頑張って”
短く、直球な言葉。そして。
ビッといつもの無表情で、親指を上げてみせる。
良く見ると、タバサの乗っているシルフィードも一緒になってやっているあたり息の合ったコンビである。
「続きって、あ、ちょっとー!」
言いたいことを言うとシルフィードはさっさと飛び上がり、あっという間に見えなくなる。
そしてそこには。
(こ、困った…2人きりでどうすれば…)
(ど、どうしよう…2人きりなんて…)
突然のことに2人揃って困る、若い男女だけが残された。

(い、一狼君と2人きり…心の準備が…)
(そ、空と2人きり…心の準備が…)
朝の神社でも2人きりなる場面はあったが、あのときは移動の時間とか心の準備をする時間があった。
今度はいきなりの2人きりである。しかも、デートの続きだという。
「「あ、あの…!」」
同時に喋ろうとして声がハモる。
「あ、えっと…」
「じゃあ、今度は空から…」
「うん。あのね…」
とりあえず、何か話そう。そう考えて改めて一狼をマジマジと見て、空は気づいた。
「一狼君!?どうしたのその怪我!?」
一狼の呪錬制服がボロボロだ。所々に破れたり、焦げた跡がある。更に服にところどころ赤い染み…血の跡も残っている。
「あ、大丈夫。もう傷は塞いでるから。しまった。時間あったんだし着替えとけばよかったな…」
何でも無いことのように言う一狼に空は狼狽して言う。
「大丈夫、じゃないよ!なんでそんな怪我…あの時みたいにボロボロで…そんなに危ないお仕事なの…?」
正直、今までは一狼の任務がそれほど危険なものだと言う実感は無かった。出かけて、次の日学校で顔を合わせたときにはいつも通りだったから。
スクールメイズに一緒に潜っていた時もそれほど危険だと感じたことは無かった。
比較的浅い階層でちょっとした修行をしていた程度だし、いざって時には強制帰還魔法が発動すると知っていたから。
「いや、大丈夫だ。これぐらいならいつも…」
だが、空にも分かる。今、一狼が関わっている“任務”は、いつか死にかねないほど危険なものであると言うことに。
「いつも!?いつもなの!?」
「って、あ、ち、違うんだ!」
治してあるとはいえ一狼の負っていた怪我はあの魔王級侵魔と戦った時並み。それを一狼は“いつも”と言っていた。
その事が空を急激に不安にさせる。このままでは…

126 名前:陰の休日@学園世界:2009/04/18(土) 09:02:16 ID:mUFl/uO9
「一狼君…もう、お仕事はやめて。でないと…いつか、一狼君が死んじゃう」
一狼が死ぬかも知れない。そのことに思い至った空が思わず口走る。
「…ごめん。それは出来ない」
だが、そんな空の言葉に、一狼は真剣な表情で首を振る。
「どうしてっ!?」
「…誰かがやらなきゃいけないことなんだ。そして、僕は、自らこの道を選んだ。だから、途中で投げ出すわけにはいかない。
 途中で投げたら、仲間と…僕自身を裏切ることになる」
学園世界の平和を守る“カゲモリ”の仕事。決して表に出ないが故に出来ることがある。
そのことを知っているからこそ、一狼はそれを捨てる気にはなれなかった。
「そんな…なんで一狼君なの!?柊蓮司さんとか、灯さんとか他にもいっぱいいるじゃない!」
「駄目なんだ…柊先輩や灯さんには、任せられない。世界は柊先輩に任せてもいいけど、僕が本当に守りたいものは、僕が守る」
そして、この“任務”を受けたとき、一狼は誓った。大切なものを自らの手で守る、今度は、最後まで自分の手で。そのために戦うと。
「だったら!…せめて、私も一緒に連れてってよ…待ってるのは、嫌…私も、一狼君を守りたいの…」
「それじゃあ駄目なんだ。僕が守りたいものは…」
空の言葉に言いそうになった誓いの言葉を、一狼は首を振って打ち消す。言ったら、嘘になりそうな気がして。
「空はもう、僕のこと守ってくれてるよ」
一狼は代わりに、空に自分の思いを伝えることにする。
「え?」
「なんで僕が死ぬ思いをするような危険な仕事でも頑張れるかっていうと…空、君がいるからなんだ」
真剣な思いをこめて。ちゃんと空に伝わるように。
「私が、いるから?」
「そうだ。君の笑ってくれるから。そう思えるからこそ、僕は力を尽くせる」
1度目は守れなかった。だからこそ、2度目は…何があっても貫いてみせる。
「これは僕のわがままかも知れない。だけど、空にはいつも笑っていて欲しいんだ。だから…待ってて欲しい。
 …大丈夫。僕は絶対君のところへ帰ってくる。何があっても、必ず」
心臓が激しく高鳴っている。だが、そんな“些細なこと”を微塵も感じさせず、一狼は空に自分の本当の思いを伝えた。
「…ずるいよ。そう言われちゃったら、何も、言えないよ…」
感極まり、一狼の懐へと飛び込む。汗と、泥と、血の匂いが混じった…一狼の匂い。
その匂いに包まれ、空は泣きじゃくった。嬉しさと寂しさの両方を感じつつ。
「うん。分かってる…けれど、僕は…」
泣きじゃくる空の髪を優しく撫でながら、一狼は何度目かの誓いを行う。
(空は、僕が守る。何があっても、どんなことからも)

誓いを新たにする一狼と、泣きじゃくる空。
2人の不器用な“恋人”たちを月と星が、冷たく照らしていた…



今日はここまで。素直に3回位にしときゃよかったと思うことしきり。それでは次回第3回「タバサと幽霊」で。

127 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 10:51:26 ID:9v/goNVf
>>67
レス数だけ見るとすごい遅レスだけど。

スピンオフものと原作の扱いとしては

1 1人の人間に他世界の記憶・人格を全部インストールする
2 同じ学校内に同じ外見の違う作品のキャラがいることにする
3 学校すら変えてみる

の3通りあると思う。
個人的に2と3は混乱のもとだと思うなー。
1は最低ssとかでもよく使われる手法だが、手法使ったからって最低になるわけでもなし、別にいいんじゃね?

128 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 13:09:16 ID:LLh7tTJZ
sage

129 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 22:37:26 ID:K9I4EbtP
>>126
GJ! それにしてもこのタバサ、ノリノリであるw
姫宮かーいいなぁ・・・・。リプレイ、読んでみようかなぁ・・・・。

>>110
上条が主人公してますねぇ。GJ。
この後はアゼルと御琴とベルを交えた四角関係か・・・・にげてー

130 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/18(土) 23:57:35 ID:lv/qtVOJ
色恋沙汰で死んだ同僚…少なくとも第2次ドルファン防衛戦までは終わってるのね
下手したらドルファンの戦争全部片付いてる?

131 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 00:08:35 ID:UMn6KPla
つか、時間はGM(作者)の都合のいいように流れるもんじゃね?

132 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 01:27:57 ID:0y0Qi8TW
二本も投下されてたー!
 
>>110
…上条さんカコイイですのぉ。
それだけにエンディングに偲ばれるものがあったりもしますが…御琴さん…ガクブル
 
>>126
やはりこの二人いいなあ。
不器用な恋人達に幸あらんことを。
 
>>129
余計な事だったらごめんだけど、
一狼と空の物語はリプレイではなくノベルだったはず。
 
>>130
みつめてナイト主人公が「ドルファン最強の傭兵」と呼ばれてるくらいには時間が経過してる様子。
ゲーム内でどのくらいすると呼ばれるのか俺はまだ分からないけど。
まあ>>131が真理だよね。

133 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 19:22:02 ID:DTUfiGqy
普段より分量少し短めですが、「柊蓮司と銀なる石の少女」投下予告に参りました。
八時ごろからの投下になるかと思います。
では、後ほどお伺いいたしまーす。

134 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:03:35 ID:3gqeuR/J

     ※

 ただ一直線に、どこまでも伸びる無限の回廊。
 頂も見えぬ書架の壁で左右を埋め尽くす古書の牢獄。
 それこそが、リオン=グンタの生成した月匣の姿であった。
 地平の果てすら見渡せぬ、長い、長い回廊の中心にひっそりと佇みながら、彼女はただ茫洋たる視線で柊たちを見据えている。
 秘密侯爵の放つ魔力と圧力には、肌を刺すような緊迫感や殺意は欠片も感じられない。
 しかし、その代わりに肌にまとわりつくような粘度と、心身を縛り付けるような重苦しい質感と、骨の髄まで滲みこむような冷気とを伴っている。

 それは雨後の湿った空気のごとく。
 厳冬の最中、霜の降りた剥き出しの土のごとく。

 まさしく魔王の名に恥じぬ ――― いや、魔王と呼ばれる存在でなければ持ちえぬ気配を、彼女は身に纏っていた。
 柊は身構えたまま、正眼に構えた魔剣を揺るがせもせず。
 その切っ先を、リオンの身体の真っ芯を走る正中線に定めながら、呼吸を静かに整えた。
 いつでも斬りかかることができるように。
 いつ彼女の繊手から、害為す魔力が迸り出ようとも、それを防御することに遅滞なきように。
 背中の気配を探れば、エミュレイター ――― いや、魔王との遭遇は初めてにもかかわらず、紫帆もミナリもこの状況におたついている様子はない。
 ミナリが制服の裾を翻しながら、腰のベルトに差したコンバットナイフを引き抜く。
 紫帆のかざした右腕が、周囲の光の微粒子を掻き集め、目にも鮮やかな剣の姿を形作る。
 それぞれの戦いの準備は瞬時に済み、柊を中心に挟んで左右に躍り出た少女たちの立ち姿は、下手な新米ウィザードよりもずっと堂々としていた。
 ウィザードとしての経験が浅いものならば、『魔王』の名を冠する存在の放つ覇気や闘気、ほとばしる殺気や身に纏う大気を浴びただけで萎縮しかねない。
 しかし紫帆は。ミナリは。
 そしておそらくは柳也もきっと。
 自分とは違うオーヴァードという立場ではあっても、それ相応の修羅場を潜り抜けてきた猛者たちなのであろう、と柊にはそれがようやく理解できた。
(なかなかどうして、頼れるかもしれねえな)
 柊が口元だけで不敵に笑う。
 三人の戦闘の意志の奔流をまともに浴びたリオンが、胸元にかき抱いた分厚い書物から、その左手をそっと離した。
(来る!)
 柊のみならず、紫帆もミナリもそう感じた。
 だが。ゆっくりと持ち上げられたリオンのしなやかな手は、柊たちに向けて差し向けられることはなく。ただ、彼女自身の青白い頬に添えられただけであった。
「……?」
 リオンの仕草から、来たるべき攻撃の気配を捉えることができず、柊たちは一様に当惑する。
 彼女が初めに姿を現したときに感じた圧力は、錯覚であったか。
 そう思えるほどに、いつの間にかリオンの放つ魔王としての気配は薄れ、掻き消えていた。
「……うふふ。さすがは柊蓮司……」
 目尻をわずかに下げ、見ようによってはひどく底意地悪く見える微笑を浮かべるリオン。
 唐突に柊を賞賛する言葉を呟くと、ローブの袖で口元を隠す。
 ちらちらとこちらを見ながら忍び笑いを続けている様子がなんとなく癪に障った。


135 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:04:27 ID:UMn6KPla
ひゅう♪
来やがれ!

136 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:05:55 ID:UMn6KPla
支援させてくださいな

137 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:05:55 ID:3gqeuR/J
「なんだよいきなり! お前に褒められるようなことをした憶えはねえぞ!」
 激昂し、魔剣を横薙ぎに払う。なんとなく、リオンに馬鹿にされているような気がした。
「……相変わらず、さすがと言いたいだけです……どんな任務に就き、どんなところへ行っても、貴方はいつもイイ思いをするようですね……それも、この書物に書いてある通り……」
 意味不明な言葉を、リオンが吐いた。
「イイ思いってなんだよ!? アンゼロットに半ば無理矢理放り出された任地で、いままでイイ思いをしたことなんて、ただの一度もねえよ!」
「あらあら」
 これは意外だ、と言うようにリオンが気の抜けた相槌を打つ。紫色の双眸が柊の顔の上を通り過ぎ、興味深いものを見比べるように、左右にちらちらと振れた。
 リオンがまずミナリを見、続いて紫帆の顔を窺う。
 そして最後に、もう一度柊の顔を見つめ、やっぱりクスリ、と笑いかけた。
「だからなんなんだ!?」
「いいえ、別に……私はただ、貴方がどこにいるときでもどんなときでも、常に可愛らしい女の子たちを侍らせていることを、さすがは柊蓮司だ、と言っているだけですよ……?」

 ぴしり。

 空気が凍りついたような音が聞こえたのは幻聴であっただろうか。
 突如として出現した、ただならぬ気配を持つローブの少女に注意を向けていたはずの紫帆とミナリが、リオンそっちのけで柊の後姿をまじまじと見た。
 二人の少女の視線に込められたものは、大なり小なりの複雑な思いである。
 それもそのはず。
 新たに加わった仲間であるこの青年が、実は、普段は自分たちの知らないところで女の子を侍らせている、と聞けば、女性としては心穏やかではないし、非難めいた思いも浮かぶだろう。
 幸いなことに柊は、背後からの刺々しい視線には気づかない。
「あん? なんだそりゃ? 仲間が女の子だと、なにがどうイイ思いなんだ?」
 リオンに本気で聞き返す柊。
「まあ、俺が頼れて、信頼できる連中が仲間、っていう意味でならありがたい思いをさせてもらってるかもしれねえけどな。でも、あいつらが女だからありがたいと思ったことは ――― 」
 このとき柊は少しだけ首を捻り、一瞬だけ自問するように考え込み。

「 ――― ただの一度もねえよ」

 はっきり、きっぱりとそう言い切った。
 その答えに、三者三様の表情を作って見せたのは柊を除く女性陣である。
 リオンは「あらあら」ともう一度呟いて、口元をローブの袂で隠し。
 ミナリはさきほどまでのジト目こそ引っ込めたものの、複雑な面持ちで柊の背中を見つめ。
 紫帆は打って変わって、そんな柊の言葉に彼を見直したようである。
 しかし、二人がそれでも、なにごとかを言いたげな様子で、彼の横顔をちらちらと所在なさげに窺っていることには変わりない。
 どちらにせよ、彼の仲間が「女の子ばかり」であることについては、柊は否定をしなかったのだから。
 そのくせ、周囲を女性に囲まれている自分の境遇に、彼はどうやらなんの感慨も抱いている様子はない。
 これはある意味、ただの女好きやただの女たらしよりも、性質の悪い男なのではなかろうか?
「……老婆心ながら忠告します。それが貴方の本心なのでしょうが、当の本人 ――― いえ、本人たちの前ではその発言を控えたほうがよろしいかと」
 相手によっては ――― そして相手の心の中がどうであれ。
 その言葉に心乱されるものもあるいは居るかもしれません、とリオンは言葉を続ける。


138 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:07:14 ID:3gqeuR/J
「そう……たとえば ――― 赤羽くれは、などの前では言わぬが吉、かもしれませんよ……?」
「なんでだよ。そこでくれはの名前が出てくるのが、ますます理解できねえ。っていうか、お前がわざわざ俺に忠告すること自体、胡散臭え」
 二人のやり取りのうちに、ピンときたものがあったのだろう。紫帆がミナリの腕を取り、数歩後ずさる。
(ちょっと、なに紫帆?)
(わかっちゃったよ、私。いまの話の流れからいくと、赤羽さんっていうのは、きっと柊クンのことを好きなひとのことなんじゃないかな)
 こそこそとミナリに耳打ちをする紫帆。
 いまやすでに、数秒前までのこの場の緊迫感は皆無であった。
(あのねぇ……いま、そんなことを言っている場合じゃないでしょう、紫帆?)
(それで柊クンは、彼女の気持ちに気づいていない、ってところじゃないかな。ね、委員長?)
(ちょっと、なにごともなかったかのように話続けないでよ!)
 紫帆をたしなめながらも、リオンと話を続ける柊の声にちゃっかり耳をそばだてているあたり、ミナリもしっかり年頃の少女と変わらない。
 さっきまでの張り詰めた空気は完全に弛緩し、ひそめていたはずの話し声も段々と高くなる。
 紫帆たちの想像の内容があらぬ妄想の域にまで達し、そういえば上司までが小さな女の子というのはどうなのかしら、という、柊にとっては聞き逃せぬ発言にまで至ったとき、
「うぉい!? それは俺の責任じゃねえし、そもそもあいつは俺の上司でもなんでもねえ!」
 柊のツッコミの声が月匣内に響き渡った。
 いきなりの怒声に首をすくめるオーヴァード組二人が、ばつが悪そうな顔をしてシュンとする。
 そこへいかにも呆れた口調で、長い溜息をつきながら、
「あの……そろそろ本題に進んでもよろしいでしょうか……?」
 などとリオンが言うものだから、
「お前が言うな!」
 柊のツッコミも冴え渡らざるを得ないのであった。大体、リオンが言うところの本題に入る前に脱線したのは、他ならぬ彼女自身である。
「それを、さも俺たちが悪いみたいに言いやがって……」
 ぶつくさと口の中で文句を垂れながら、柊は右手をだらりと地面に向けて下げる。
 魔剣の切っ先が虚空のなにもない空間に吸い込まれて、刀身までをも包み隠した。
「柊さん、あの」
「け、剣、しまっちゃって大丈夫なの……?」
「ああ。あいつは戦闘をしにきたわけじゃなさそうだからな。そうだろ、リオン」
 こくん、と頷く暗い人型の影。
 わずかの逡巡の後、紫帆とミナリもそれぞれの武器を収めることにする。
 姿形こそ、どう見ても自分たちと同じ年頃の少女ではあるが、彼女がエミュレイターであることは柊の言葉でも明らかだ。だから、当然油断はできない。
 それでも、この場においてのリオンには一応戦闘の意志はない、という柊をとりあえず信じて間違いはないだろう。
「あー……まあ一応、紹介しとくか。こいつはリオン。リオン=グンタ。エミュレイターだってのはさっきも説明したが、その中でもこいつは魔王級。特に、強力なエミュレイターだ」
 ウィザードである自分が、まさか魔王を他人に紹介する羽目になるとは思ってもいなかった。それゆえ柊も、困惑気味だし歯切れも悪い。
 リオンはリオンで、柊の当惑などお構いなしに、彼の立つすぐ真横までぽてぽてとのんびり歩いてきて、
「……よろしく」
 ミナリと紫帆に短く挨拶をした。
「あ、えっと……」
「よ、よろしく……」
 魔王があまりに普通に挨拶をするものだから、二人とも毒気を完全に抜かれてしまい、やはり普通に挨拶をしてしまった。


139 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:08:43 ID:3gqeuR/J
 普通だ。あまりにも普通だ。
 異国情緒のあるローブという装い、胸元に分厚い古書を抱えているという、一風変わったスタイルではあるが、外見は普通の少女なのである。
 いままで、自分たちが戦ってきたジャームや、ファルスハーツの敵エージェントたちに比べると、随分接しやすいように思えてしまうのは仕方のないことであろう。
「気は抜くんじゃねえぞ」
 柊の、思いの外低く厳しい声音にハッとなる。
 そうだ。
 彼女はエミュレイター。彼女は魔王。人類の敵であり、捕食者なのである。
 柊はそれと知っているからこそ、気の抜きどころも、力の抜き加減も分かっているだけなのだ。
 ウィザードとしての知識を持たない自分たちが気安く彼女に接するのは。
 彼女を与し易し、と侮るのは。
 それはひどく危険なことである、と柊は言外に諭しているのであろう。
 よくよく考えてみればその通りである。
 甘言を以って人心を弄し、安堵の後に奈落へ引きずり落とす ――― 悪魔とは、確かそういう存在ではなかったか。
「そんなに警戒しなくてもいいですよ。いまは、貴女たちと戦うつもりはありませんから……今日はただ、ちょっとお話をしに来ただけです」
「話だと?」
「ええ。警告と、“宣戦布告”。それに ――― 」
 淡々と、不吉で過激な台詞を言いながら、リオンがそこで言葉を切る。
 すっ、と紫色の視線が紫帆の顔を真正面から捉えた。紫帆の瞳を、リオンの視線が強い磁力で縛り付ける。しばし興味深げにその姿を注視し続けていたが、
「 ――― それに、七村紫帆……さん。貴女に、ちょっとしたプレゼントを持ってきたんです」
 リオンは感情の色のこもらない声でそう呼びかけると、紫帆に向かって握り締めた左拳を差し出した。
 そこには ――― なにかが握られているようである。
 リオンの掌に収まるぐらいの小さな、小さなものが。
「もしかして……私へのプレゼント、ってそれのこと……?」
 差し出された握り拳を指差しながら紫帆は問う。
 問いかけながら、胸の高鳴るのを抑えることができない。

 なんだろう。さっきまでの緊張が、さっきよりも激しく甦ってくる ―――

 とくん、と。胸の奥から込み上げてくるものは温かさであり、脈動であり、不安と同時に懐かしさのようでもあった。高鳴る。高鳴る鼓動。

 いや。

 胸が高鳴るなどという表現で追いつくものではない。
 紫帆の“心臓そのもの”が、リオンの手の中の品に応えるように脈打っている!


140 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:11:02 ID:UMn6KPla
支援じゃー!

141 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:11:43 ID:UMn6KPla
しえにゅ

142 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:11:58 ID:3gqeuR/J
「あ……!?」
「紫帆っ!?」
「おい、どうした!? お前、顔色が真っ青じゃねえか! リオン、てめえ、なにかしやがったのか!?」
 口々に叫ぶミナリと柊に、
「ご安心を……彼女に接近したことで一時的に『これ』が活性化しただけのことですから」
 リオンは落ち着き払ってそう言った。
 ゆっくり。ゆっくりと握り締められた拳が開いていく。
 しなやかな五指は花弁が開くように解け、指の隙間から蒼く冴えた淡い輝きが漏れた。

 リオンの用意したプレゼント ――― それは、ひとつの石だった。
 蒼く。冷たく。
 しかしそれは確実にゆっくりとした鼓動を刻み、明滅を繰り返す輝きの結晶であった。

「まさか、そんな……賢者の石……!?」
 ミナリの叫びに呼応するかのように。
 自らを賢者の石と讃える言葉に歓喜するように。蒼い輝きは白身を帯び、“銀色の”光へと変じていく。
「これが……貴女に用意したプレゼントです、七村紫帆」

 口元に薄い笑みを浮かべたリオンに、紫帆は初めて戦慄した。
 ああ ――― やっぱり。やっぱり、彼女は魔王の名に違わぬ存在であった。
 あんな微笑を浮かべるものを ――― それ以外のどんな名前で呼ぶというのであろうか。

「それでは話を始めましょうか……? 魔王である私たち。ウィザードであり、オーヴァードである貴方たち。それぞれにとって、大きな意味のある戦いが始まろうとしているのですから ――― 」

     ※

 それより、わずかに時を遡り。
 場所は、その場の主以外にはすっかり人気のなくなった、喫茶店ぺリゴール店内。
 若人たちの賑やかなお喋りの声が消え去って閑散とした店内で、九条柳也は胸ポケットから取り出した携帯電話のディスプレイに、呼び出したくもない相手のアドレスを表示する。
 躊躇いがちにプッシュされたナンバーは、腐れ縁の悪友のものだ。
 随分と待たされた挙句に、ようやく電話口に出たその相手は、相変わらず柳也の神経を逆撫でするような能天気な声を張り上げた。
『やあ、久し振り。君のほうから電話をしてくるなんて珍しいねえ!』
「ようやく出たか……突然だがな、少し俺の仕事を手伝えよ ――― 」
 眉間に皺を寄せながら柳也が口火を切る。
 前置きも時節の挨拶もなしに、さっさと本題に入るのがコイツと話をするときの鉄則だ。
 さもなければ、立て板に水とばかりに妄言をまくし立てる相手のペースに巻き込まれて、ろくにまともな話もできずに会話が終わりかねないのであった。


143 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:12:33 ID:PiS0YEh5
ひいらぎは本当にひーらぎですね困ったもんだ。支援

144 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:13:07 ID:3gqeuR/J
『仕事って、UGNのかい?』
 なんだ、つまらない用件だねえ ――― 電話の向こうで、わざとらしく嘆く声がする。
「ああ、厄介なことになりそうだ……薫 ――― 」
 柳也の呼ぶところの薫とは、言うまでもなく千城寺薫 ――― かつての銀目の鴉事件において共に戦った仲間であり、旧友でもあり、悪友にして天敵。
 自らの知的好奇心を最優先に行動する、少々性格に難ありの研究者ではあるが、彼自身も優秀なオーヴァードである。
 中枢評議会“アクシズ”のメンバーにもコネを持つ彼は、そんなわけで、柳也が厄介ごとに巻き込まれたときなど、目下のところは最も頼りになる男なのである ――― 不本意なことに。
「出来れば直接会って話を……まあ、本当はしたくはないんだが……」
 霧谷自らが事件の話を持ってきたこともさることながら、わざわざ外部組織のウィザードとかいう得体の知れない連中にまで救援を求めるような胡散臭い事件である。
 だからたとえ当人のパーソナリティーはどうであれ、手駒は多いに越したことはない。
 柳也はそう判断したのである。
『うーん。他ならぬ君のお願いだし、久し振りに会いたいのは山々なんだけどねえ』
 どうにも煮え切らない口調で薫が答えを渋る。
「なんだ? なにか別の事件にでも巻き込まれてんのか? それとも……いま日本に居ない、とかじゃないだろうな?」
 薫であれば、いま海外です、などということもあり得ることだった。
 なにせ実家がヨーロッパにあって、古めかしい古城に住んでいるくらいなのだから。
『いやいや、そういうわけじゃないよ。急ぎで携わっている研究もなければ、事件に巻き込まれているわけでもない。まして日本国内に居ないわけでもない』
 というか、いま鳴島市に滞在中なんだよね〜……と。
 柳也の度肝を抜くようなことを平然と言い放つ薫であった。
「なに!? 来てんのか、ここに!? だったらすぐに ――― 」
『あっははは。実は、いまデート中なんだ』
「な……にぃ……?」
 意外といえばあまりにも意外な薫の返答に、しばし柳也も言葉を失った。
『だからこっちからかけなおすよ。とにかくいまは忙しいんだ。おっと、あまり長引くかせて彼女を退屈させてしまうのはジェントルマンとしてよくないな。それじゃあ ――― 』
「あ、おいっ、待て、薫! かけなおすって、いつ……」

 ぷつ。
 つー、つー、つー、つー……

「……切りやがった……あのヤロウ……」
 柳也が、呆然と呟いた。

     ※

 鳴島市ポートタワーの三階、街を見渡す展望喫茶店。
 そこは、街に暮らす人々の営みが色取り取りの灯となって夜を照らす様子を一望できる、鳴島市唯一の場所でもある。
 その喫茶店のテーブルについて、ブレンドコーヒーとチーズケーキを堪能していたところを、突然の旧友からのコールによって妨げられた千城寺薫は、
「それじゃあ ――― 」
 と、そっけない別れの挨拶をして柳也からの連絡を断ち切った。


145 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/19(日) 20:15:31 ID:3gqeuR/J
「やれやれ。友人からの連絡は嬉しいとはいえ、時と場合によりけりだねえ」
 長い金髪をオールバックにしてカチューシャで留めたスタイルはいつもの通り。
 さすがにこの場では、普段のように白衣を身につけてはいなかった。

「よろしいんですか。お友達を邪険に扱っても」

 薫が座るテーブルの対面。
 ほっそりとした華奢な手にティーカップを持ちながら、薫の“デートの相手”は、特に彼の交友関係を気遣う様子もなさそうにそう言った。
「んん〜? この程度で本気で怒るような相手じゃないからね。大体、あの程度でいちいち臍を曲げていたら、この僕の友人は務まらないよ」
 おどけた調子で言う薫に、なるほど、とクスリと笑いかけ。
 “その少女”は薄い唇をカップにつけると、音も立てずにその中身を嚥下した。
「さて、これからどうしようかなあ。夜の海浜公園を二人で歩くのもムーディーでいいと思うんだけど、ショッピングモールで仲良くお買い物というのも悪くないねえ」
 いまが夏で、昼間だったら、アクアパークも捨てがたいと思うんだけどなあ ――― などと。
 指折り数え、天井を見上げながら薫がそんなことを言う。一瞬、向かいに座った少女が身体を硬直させ、まじまじと薫の顔を凝視した。
「冗談としては、あまり面白くはありませんね」
 非難というほどでもなく。
 不快というほどでもなく。
 淡々とたしなめるような口調は、とても少女のものとは思えない。
 見れば、少女の歳の頃は、わずかに十歳かそこらの幼さであり。
 大人びた口調も、唇に常に浮かんだ歳に似合わぬ妖艶さも、不釣合いとさえ見て取れた。
「本気だよ、僕は! こんな可愛らしいお嬢さんをエスコートできるんだもの! これをデートといわずになにをデートと呼ぶんだい!」
 二十代後半の成人男性が、大人びているとはいえ見た目は十歳の少女を前にして、堂々と叫ぶような台詞ではない。
 もっとも、ここにもしも柳也がいたとしたら、
「本気と見せかけた諧謔。さもなければ、おちょくる相手を見つけて躁状態になっているだけ。取るに足らんいつもの大騒ぎを、いちいち本気にしていたらこちらの身が持つはずもない」
 そう、分析するのではあるまいか。
 薫の奇行に不慣れなためか、少女の唇の端が微かに引きつったようにも見える。
 それを目ざとく見つけた薫がここぞとばかりに言葉を畳み掛けた。
「さあ、できる限り君のご要望に応えようじゃないか。どこに行きたい? なにをしたい? それとも ――― 」

 薫の瞳の奥で、ちろりと仄暗い光が一瞬揺らめくと ―――

「それとも ――― この僕にいったい“なにをさせたい”のかな? “都築京香”ちゃん?」

 いつもどこかふざけたあの面影に、どこか危険な匂いを漂わせ。
 のんびりとしておどけた口調の裏に、触れれば切れるような刃の影をちらつかせながら薫がそう言うと。

 少女は ――― “プランナー”、都築京香は ――― 幼い顔を怪しくほころばせ、艶然と微笑むのであった。

(続く)


146 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:16:28 ID:3gqeuR/J
支援どうもありがとうございました、投下終了です。
薫というトリッキーなキャラは動かすのがひどく難しい……
私の中での薫は、ただのイイ人ではないので、ちょっとヒール的な立ち位置にも立っていただこうと思いました(笑)。
魔王とFHがそれぞれ柊たちに接触を図るという「大嵐の前の小さな嵐」の回でした。
では、次回投下時、またお会いいたしましょう。


147 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 20:17:28 ID:UMn6KPla
コメ支援

148 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 21:05:41 ID:7US4FEVg
え、ええ!? どーなるんだコレ・・・・。
リオンが怪しい動きをするまでは予想の範囲内だけど、ジョージまで?

今後とも目が離せませんね。GJです。

149 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/19(日) 22:28:25 ID:0T8EZmUK
GJです。
このあと、「赤羽さんてどんな人なんですか?!」と目を輝かせて聞き出そうとする紫帆の様子が目に浮かぶw

セント・ジョージは、ホント動かしにくそうですよねぇ。便利なキャラではあるのですけれども。
エクソダス三巻でうまく飄々と動かしてるのを見て感心しましたものホント。

150 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 00:49:05 ID:7qitiB67
GJ。
ん? 何故にプランナーが……(笑)。
しかし薫はあっちにいても何も不思議な感じがしないのは何故だろう。
人徳か。じゃあ仕方ないな。

ミナリが実に柊を楽しい視線で見てて楽しいです。
次回更新を楽しみにしています。

151 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 21:34:32 ID:43axnKEG
…ひーらぎは本当にしょうがないな。選択肢が山ほどあってもエンディングが一つしかない男だけのことはある。

152 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 21:46:52 ID:7qitiB67
>>151
今更何を言っているのやら。
お前さんのセリフ、そーゆーアイツが好きで好きで仕方ないって風にも聞こえるぜ?

153 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 22:11:16 ID:kACp2IfR
>151
PS2版NWを知らないな
アレはマルチエンディングでいつもの柊から、
嫌われ柊バッドエンドまであるんだぜ

154 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 22:37:25 ID:evSe7fdi
>>153
あれは柊らしい行動を取らないとバッドエンドだから、偽者の末路って感がある

155 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 22:41:35 ID:GZBpn79z
>>153
しかし、恐らく大半が一度は妄想するカップリングエンド柊は存在しないという罠

156 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 22:41:48 ID:LOu89k1K
>柊らしい行動

ゲームでは何を下げればいいんだ?

157 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 22:48:47 ID:7qitiB67
んー?
ここに柊は10数年後、1人戦場で満足そうに笑ってバッタリいくタイプの馬鹿だと思ってる俺がいたり

大半が、って書いてあるのは知ってるけどな!

158 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:06:41 ID:FhNtwnKK
>>151-157
「さすがは柊蓮司。人生マルチバッドエンディング方式……それも、この書物に書いてある通り……」

まで空目した


ジョークはともかく
戦場で矢尽き刀折れてなお何か守り抜いて満足そうに笑って逝っても
縁側に座って孫曾孫に囲まれて満足そうに笑って逝っても
柊のキャラ的にはまだあがき足りない(うえ下がり足りない)と言う意味で
バッドエンドだなと思うのは俺だけか?

159 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:08:24 ID:W0UszzzT
くれはが内縁の未亡人になるわけか…

160 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:13:37 ID:7qitiB67
>>158
残念だが、奴は自身の不幸を不幸だと思わない節がある
グッドもバッドも関係なく、本人が満足すりゃそれでいいんじゃね、と言ってみる。

161 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:14:41 ID:GZBpn79z
死後も戦い続ける「俺達の戦いはこれからだ!」エンドがふさわしいと申したか!


……うん、俺もそう思う

162 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:21:58 ID:FhNtwnKK
>>160
んー、つかさー
俺の錯覚かも知れんけど

柊ってやつは、ああ見えて
どこまで行ってもあきらめない
満足しない業が深いやつ

に思えるのよ、良くも悪くも
だからこそとことん人間離れした人間臭さがある
それ故に魔王連中相手しようと何がどうなってようと
柊って奴は柊なんだ、みたいな

うまく言えないけど

163 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:23:14 ID:LOu89k1K
>>158
むしろ年齢が上がっても結局下がり続けてバリバリ現役の可能性。

164 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:41:14 ID:7qitiB67
>>162
同意させてもらう。
つーか、始めて同じ意見の人と会ったかもしれんww

馬鹿で。鈍感で。目つき悪くて。頭はキレる割によくなくて。どうしようもなく諦めが悪くて。
誰かとか、その誰かの大事な諦めないために走り続けてる、とんでもなく欲と業の深いおバカ。

誰かが目の前で泣くことが何よりも苦手で、それを見たくないから走ってる不器用な利己主義者。

……俺の中ではそんな感じなんだが、実にポエミィな文章でキメぇわw

165 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:55:27 ID:nQowC7Ve
柊は「ハッピーエンド至上主義者」なんじゃないだろうか?

166 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 23:59:22 ID:TyXJ1DsF
「大の虫も小の虫も選べないバカで、結局両方を救えてしまうバカ」とか誰かが依然書き込んでたような?

メタな事いうと、きくたけシナリオで“一見正論っぽい安易な手段”に頼ると更なる地獄を味わう羽目になるのね

167 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 00:03:42 ID:7qitiB67
そこに柊自身があがくって過程があるってのを忘れちゃなるめーよ。
単に運に恵まれてる運がいいだけの奴、じゃなくて「何があってもあがき抜く」から、好かれてるんだと思うけどな。


……って、ここクロススレだよな?
柊スレより柊語ってねww?

168 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 00:17:50 ID:IoK9TQ+l
>>166
ライムとアイラとアンゼは親友を手にかけ、ミドリとマサトは恋人と心中して世界救ったけど、それが後の世に尾を引いてはいないが。

一方、柊がゲイザーを倒したのは、幻夢界消滅で主八界大惨事。

倒すときに犠牲を払っても払わなくても、ベルもルーも菊田先輩もセルヴィも復活するし、地獄を見るかどうかはきくたけの気分しだ
いじゃないか?

169 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 00:33:05 ID:0jOS0JBQ
お前らクロスの話しろ

170 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 00:40:05 ID:F3nLAqIk
>>168
せんせー、崩壊したのは幻夢界じゃないですよー?

第一だからね? 滅んだの。中の人以外の柊の関連性って0だからね?

ついでに、第八に冥魔が現れるようになったのはゲイザーがいなくなったせいだと言われてはいるけど
ゲイザー倒さないと人間は完全消滅してたのは確実だからね?
PC視点では倒さないとキャラロストって状況だからね? この辺無視して話す人いるけどさ。

しかも、ゲイザーの目論見だって「幻夢神が戦力になるから起こそう」だから、勝てるとは限らない上、裏界の封印溶けちゃうからね?
基本無能のあの世界の神がそんなことまで考えてるとは思えないし。

ついでに。少なくとも今のところは襲ってくる冥魔をなんとかしようと第八の人間達は頑張ってる
本人が選んだんじゃないにしろ自分たちが生きるって結果の責任を果たす形で頑張ってる
ゲイザーの方が正しかったのに、って発言はそれを無駄だと言う行為だと思えるんだがどうだろう


>>169
そーだね。
さしあたってはネタをくれ。

学園世界対抗釣り対決とかくらいしか浮かばないんだ、俺

171 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 01:06:43 ID:SlAWpnl0

>>170
ところがどっこい、ルルブにちゃんとゲイザーが管理していた幻夢界が崩壊したと書いてあるんだぜ

172 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 06:38:11 ID:F3nLAqIk
>>171
……それって、ゲイザーの管理してる部分が崩壊したって意味じゃなくて幻夢界全てが崩壊したって意味なのか?
少なくとも>>168は幻夢界消滅って言ってるけど。

173 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 07:21:06 ID:SlAWpnl0
>>172

そだよ、幻夢界全てが崩壊。今まではそこでゲイザーが“何とか”強力な冥魔王や冥魔の進行食い止めてたんだけど、それが無くなった
ちなみにメビウス以前から現れてた冥魔はもともとその世界に封印されてるか、ゲイザーが対処しきれなくて見逃した小物だったらしい
ワールドガイドにも幻夢界に×って書かれてる
おかげで天界にも主八界にも冥魔は進行しほうだいになってるのが現状

174 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 07:27:57 ID:C3fiuFRu
>>161
おとなしく喜びの野にでも逝っておけwww


というわけで、是非とも学園世界でガルガドさんと安藤さんが飲み明かす話をですね(ry

175 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 08:56:39 ID:izQoV9pj
柊がまともに死なせてもらえるのだろうか?人造人間の素材として利用されるとか
転生者にクラスチェンジとか、そういう未来しかないような。

176 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 09:43:44 ID:F3nLAqIk
>>173
ふーん。メビウスないからよくわからんけど。
ゲイザーがどうしようもない間抜けだってのはよくわかった、ありがとう


>>174
学園世界っつーか、それはむしろろんぎぬす向けじゃねW

177 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 18:10:08 ID:C3fiuFRu
>>176
マスターと合わせると絵面が渋すぎるからwwww

178 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 19:13:10 ID:Djm1gkWE
大丈夫だよ。
柊の魔剣の兄弟たちを全部集めて一つに融合させたら願いをかなえてくれるに違いないんだよ。

179 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 19:30:43 ID:F3nLAqIk
前も出てたけど、学園世界のたまり場みたいなのがあると楽しそうなのに
いっそペリゴールに……はさすがに無理か。
瀬戸川学園が来てるなら椿とか隼人とかイサムも引っ張れなくはないと思うんだがなー。

180 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 20:34:32 ID:Pnhv7swb
ふと思ったが、時系列考えるとアライブ1巻の頃の時点で隼人と椿は高3、イサムも中3になってるのか

181 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 20:39:47 ID:bA3hovrc
それなら居酒屋ろんぎぬす学園世界支店を

【居酒屋は学生の溜まる場所じゃねえ】

182 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 20:53:34 ID:81Fci7oc
大学生だったら学年によっては酒場にいても問題ないが
大学生が登場する作品って何か有っただろうか

183 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 20:56:18 ID:C3fiuFRu
>>182
ティンクルセイバーN◎VA。

184 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 20:56:50 ID:boEUIF9l
今までSSで出てきた麻帆良のイグドラシルとか上海亭とかはどうだ?
あと、各学園の学食とか購買とかをその時々に応じてとか……

185 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 21:09:42 ID:F3nLAqIk
>>181
先生なら溜まれるってことだな!<ろんぎぬす

>>184
いやー、学食とか購買とかは誰かのホーム的な感じになるから難しいかなーって思ってさ。
「なんか特徴的なたまり場あったら楽しいかな、またはろんぎぬすみたいな場所が学生でも入れる場所だったらいいのに」
くらいのノリなんだが

186 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 21:11:48 ID:NbJksUI7
>>182
ホワイトアルバム?

187 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 21:29:15 ID:Ndcgm9qk
>>185
>誰かのホーム的に
 
○○作品に出て来た××の店、だと
○○作品のキャラのホームっぽくなっちゃうんじゃね?
学園世界オリジナルの店でも設定すればいいんかしら。
他校生どうしの交流促進を目的として作られた、みたいな。

188 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 21:32:19 ID:8E5BnD1A
そういえば、学園世界には先生分が足りないような。

189 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 21:44:54 ID:F3nLAqIk
>>187
む、それもそーか。
「ろんぎぬす的な舞台」が欲しかったとも言うかもしれん。

正確なところで言うと、基本的に書き手の人みんながイメージを共有できるところが良かったとも言う。
となると、ナイトウィザードから出すか、特徴的な人をマスターに据えて新しく作った方が早いわな。

190 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:16:22 ID:IRQKVpuj
>>179
管理棟とか、エヴァの茶室とか、組織に属してれば溜まり場もある程度はあるっぽいね。
あとは居住区の同好会とかかな。げんしけんみたいな感じの。

>>188
NWのキャラに先生が少ないからなあ。校長とかヴィヴィ先生とかヤバい位のLvの人たち除くと、ウィザードの先生って静くらいしか思いつかんし。

なんてなことを言いながら小ネタ投下します。10時半から。

191 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:22:48 ID:JtudXTl3
先生かー

鬼ヒゲとか鉄兜とか

192 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:29:50 ID:IRQKVpuj
極上生徒会には多くの部と呼ばれる下部組織がある。
有名どころは何と言っても学園同士の諍いの調停を行う「執行部」とメディア集団「放送部」だが他にも多くの部が存在し、
その中で多くの生徒が学園世界のために働いている。
その1つに「開発部」と呼ばれる集団がある。

開発部。それは日常のちょっとした小物からインフラ整備用品、果ては「学園の敵」と戦う兵装まで、多種多様なアイテムの開発を担う発明集団。
今回の物語はその、開発部にまつわる物語である。

―――極上生徒会管理棟 開発部試験室

「よし、駆動OK、武装OK、エネルギ系統異常なし。流石は森さんやな。ちゅうわけで休憩にするからゆっくりしといてや」
流暢な関西弁でパイロットに待機の指示を出し、亜門光明は緊張を解いた。
「ふわーねっむ…そういや昨日寝とらんかった」
大きなあくびをして、伸びをする。
「あかんなー。休みやったからって調整に根詰め過ぎたわ。こりゃ今日は寝んと明日遅刻するな」
目の前の“作品”にもっと関わっていたいがそれで学校をサボると後が怖い。
錬金術ばかりではなく学業も疎かにしないと言うのが光明が“先生”とした約束なのだ。
「よっしゃ、今日は試験終わったら帰って寝よ。ちゅうわけでそんつもりでおってな」
乗り込んだパイロットにそう伝え、光明は立ち上がる。
「そしたらとりあえずは…」
お茶でも入れよう。そう思った時だった。
「やあ、お疲れ様」
涼やかな声と共に光明の傍らにことんと湯のみが置かれる。
「―――へ?」
思わず振り返る。そこに立ってたのは。
「ゆ、優貴くん!?」
光明の幼馴染にして、3歳年上の後輩である青年が立っていた。
「いや〜女子寮の子に光明ちゃんが昨日帰ってきてないって聞いたから、ここかなって思ったら、やっぱりここだったね」
そう言いつつ優貴は月衣からバスケットを取り出し、光明に渡す。
「これ、お弁当。食堂のお姉さんに作ってもらったんだ。光明ちゃん、お昼まだでしょ?」
言われた瞬間にお弁当の匂いに反応して光明のお腹の虫がきゅ〜っとなる。
「あ、ありがと…」
そのことに顔を真っ赤にしながら、光明はお弁当を受け取り、再度椅子に座った。

「そう言えば、今は何を作ってるの?」
「んっふぉね…」
おにぎりをもぐもぐしながら光明がどう説明しようか考える。
「優貴くん、“真理の箒”って覚えとる?」
ごくんと飲み込んで、光明が優貴に問いかける。
「真理の箒…覚えてるかって?…ああ」
少しだけ考えて、それが何であるかを思い出す。
「確か、ヴィヴィ先生の授業に出てきた、錬金兵装の1つだよね?中に乗り込んで戦うタイプの、ロボットみたいな」
「正解や」
きちんと正解を言えた“弟弟子”に、光明が嬉しそうに頷いた。
錬金兵装。それは光明や優貴のようなファー・ジ・アースの“錬金術師”が自らの研究の成果としてつくる、特殊な箒のことである。
作成者の知識と技術とクセと趣味が全て反映されたそれは、多くの場合本人にしか扱えない代物となるため、基本的に量産はされない。
まさに使い手のためのオンリーワン。それが錬金兵装である。
「ふ〜ん。じゃあ光明ちゃんはその真理の箒を作ってたの?」
「ん〜。ちょっとちゃう。動力は箒用の魔導炉やけど構造は相良さんの設計図ベースにしとるし、基本的にはある程度数作るためのプロトタイプやし、
 なによりうちだけやのうて横島くんや銀之助くん、葉加瀬ちゃんにエリーさん…色んな人の力借り取るから、うちのって感じでもないなあ〜」
そう言いながら食事を終えた光明は再び立ち上がり、格納庫へ向かう扉を開ける。
「ちょうどええ。優貴くんも勉強になるやろし、一回見てってや。今は向こうで待機してもらってるから」


193 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:35:39 ID:IRQKVpuj
―――極上生徒会管理棟 格納庫

それは、箒と呼ぶには、あまりに可愛すぎた。
大きな目はつぶらで、脚は短く、豹柄の毛皮はもふもふ、そして頭に乗せた学帽と上着だけのガクランが学園世界っぽさを表していた。
それはまさに…
「ふもっふ?」
きぐるみだった。
「え〜と、これ?」
「せや。名づけてボン太くんBE(ブルームエディション)、開発部のみんなの英知の結晶や」
反応に困り光明に聞き返す優貴に、光明は笑顔で答える。
「う〜ん。あんまり強そうじゃないなあ」
どっちかと言うと戦場よりは遊園地にでもいそうなその姿に首をかしげる優貴に、光明はちっちっちと指を振る。
「あかんな〜。先生もいつもゆうとるやろ?『大事なんは本質や』って。
 ボン太くんBEはな、これでも学園世界の敵やらヤバい学校同士の喧嘩止めるために作られた学園世界の守護神なんやで?」
「へえ?そうなの?」
「せや。そもそもこれはな…」
優貴に誇らしげにこのボン太くんBEの開発の経緯を語る。

次々と転移して増えて行く学園とそれに比例して増える学園同士の諍い。
また、この学園世界に時折現れる『学園の敵』
増えて行く事件に対して、執行部の手が追い付かなくなっていると言うのが事の発端だった。
それならば執行部に入るほどの力は無い“選抜委員”の実力の底上げを行い、ある程度の調停等を頼めるようにしよう。
それが極上生徒会の判断だった。
そしてその手段として『ある程度訓練を積めば誰でも使えるパワードスーツ』の量産が決定され、
ひな形として陣代高校執行部執行委員相良宗助より個人兵装『ボン太くん』が供与された。
そしてさっそく基礎研究と量産のための準備が開始されたのだが…そこでボン太くんに欠陥があることが発見された。
このボン太くん、個人が装備できるものでは最高クラスの性能を持つものの元々が魔法のない世界で作られたものであるため、攻撃手段は『物理攻撃』のみ。
元の世界ではそれで困らなかったが、学園世界では事情が違う。
侵魔や幽霊など普通の『物理攻撃』ではダメージを与えられない存在が『学園の敵』の中にいるのだ。
(ついこの前にも当の宗助から『銃弾を無効化する狐』が報告されたばかりである)
そこでその手の物理攻撃の効かない連中とも戦える、魔法仕様のボン太くんの開発が開発部に依頼され、主任として錬金兵装に詳しい光明が選ばれた。


194 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:38:18 ID:F3nLAqIk
あぁ。
すごい危険な香りが……ww

195 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:38:59 ID:IRQKVpuj
「…ちゅうわけで、できたんがこのボン太くんBEちゅうわけや」
そんな感じの話をたっぷりと話し、光明は無い胸を張る。
「はぁ…そりゃあすごい。頑張ったんだね。光明ちゃん」
にこやかに笑いかける優貴に、光明の頬がピンクに染まる。
「さ、さっきもゆうたけど…うちの力だけやない。みんなの協力があってこそや…」
「それでも、最終的な調整は光明ちゃんの錬金術の技でしょ?僕も鼻が高いよ。後輩としても…恋人としてもね」
「だ、誰が恋人やねん!?」
「え?違うの?」
「ち、ちゃうわ!…まだ」
「まだ?」
「な、何でもあらへん!」
そんな、ダダ甘の空間を2人して繰り広げていた時だった。
「ふも〜」
じ〜っと見つめる視線を感じて光明は我に帰る。
「せ、せやった!おったんやよね!は、はずかし…」
「え、おったって…あ、そうかこれ、きぐる…真理の箒の一種だって言ってたね」
そう言って優貴はボン太くんを見る。
「すみません。これ以上は2人きりと決めてるんで」
ボン太くんの中の人にちょっとだけ照れながら頭を下げる。
「ふもっ!」
分かったとばかりに大きく何度も頷くボン太くん。何かうっかり見られることに嫌な思い出があるらしい。
「そう言えば、ボン太くん「BEや。BE忘れたらあかんで」…BEのパイロットってどんな人なの?」
「え〜っとな。それが結構特殊な経歴の持ち主でな…」
そう言いながらボン太くんのテストパイロットについて説明しようとしたときだった。
ヴィー!ヴィー!ヴィー!
けたたましくサイレンが鳴る。
「おっと、現れよったな!待ってたで!」
「え?何が?」
「実地試験の相手!場所は…スクールメイズの4F!いつものお客さんやな!それじゃ、転送魔法陣起動するから、頼んだで!」
「ふもっ!」
ボン太くんが大きく頷いたのと同時に光明が近くの魔導装置を操作し、ボン太くんの足元に魔法陣が現れる。
「ボン太くんBE…出撃や!」
タンッと発進スイッチを押し、同時にボン太くんのカメラ映像を拾うモニターとマイクを起動させる。
「今日は錬氣ライフルメインで頼むわ!この前組み込んだファイナルショット、威力を見たい!」
『ふもっ!』
了解とばかりにボン太くんの声がスピーカーから響いてきた。


196 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:46:48 ID:IRQKVpuj
―――輝明学園 スクールメイズ4F

スクールメイズの表層とでも言うべき浅い階。
そこでボン太くんは敵に取り囲まれていた。
地下だと言うのに空に輝くのは侵魔が現れた証である紅い月。
そして、現れたのはアークデーモンやケルベロスなど、この階では出てくるはずも無いような強力な侵魔の群れ。
グルルルル…
唸り声を上げ、威嚇する彼らに油断の文字は無い。彼らは知っているのだ。目の前のそれが今まで多くの侵魔を屠ってきた“兵器”であると。
「1人で大丈夫なのかい?なんかかなりヤバい相手に見えるけど」
駆けだしなら束になっても勝てないであろうヤバい敵の群れを見て、優貴は光明に語りかける。
「大丈夫!あの子なら…ボン太くんBEならいける!いっけー!」
中のパイロットに熱く語りかけると同時にボン太くんが動き出す。
『ふも!』
ボン太くんがガクランのポケットから、明らかに入りそうにないサイズの巨大な投擲筒を取り出す。
ボン太くんBEのガクランは万色学園の『時空鞘』を応用して作られた、中にいくらでも入る無限ポケットになっているのだ!
「お、まずはフラムグレネードやな!」
ボン太くんが構えると同時にザールブルグ式の錬金術で作られた真っ赤な爆弾が遠くに射出され、落ちたところにいた敵をなぎ払う。
火属性の魔法の力を帯びた特殊な爆弾が、侵魔の月衣を易々と貫き、雑魚侵魔の数を一気に減らす。
負けじとばかりに生き残ったケルベロスがかみついてくる。
『ふももも!』
だが、特殊アラミド繊維に魔法的強化の施された鉄壁の毛皮にあえなく阻まれ、ダメージを与えられない。
『ふも!』
「せや!そこは破魔クロスボウで!」
お返しとばかりにボン太くんが懐からクロスボウを取り出し、至近距離でケルベロスに連射する。
ガガガガガ!
射出されるのは退魔処理の施された“破魔矢”。悪霊などに有効となるよう銀で作られた矢は、もちろん物理ダメージもばっちり与えられるのだ!
ギャインギャイン!
断末魔の悲鳴を上げ、ケルベロスが倒れる。
『ふも〜…』
そしてボン太くんが懐から今日のメインウェポンを取り出す。
「よっしゃ!そいつである程度数減らしたらファイナルショットつこうて!データが取りたい!」
『ふも!』
了解とばかりにボン太くんが弾丸を装填し、トリガーを引く。
打ち出されるのは炎、冷気、雷撃、疾風…様々な属性の“魔法”

説明しよう!
錬氣ライフルとは開発部員の1人、五十鈴銀之助の錬氣銃をベースに作られた、魔導ライフルである!
事前に魔法使いが魔法を充填しておくことで各種様式の魔法を自在に打ち分け、ありとあらゆる属性にも対応できるすぐれものだが、重量は軽く20kgを超える。
ボン太くんBEのパワーアシスト機能があってこそ扱えるものなのだ!

「よっしゃ!今やファイナルショットや!」
『ふも〜っふ!』
ボン太くんが懐からひときわ大きな弾丸を取り出し、セットする。
『ふも〜…』
銃身が熱くなり、魔力がどんどん高まる。
それは、最強の魔法が込められた錬氣ライフルの最終兵器。
「ディバイン・コロナバースト…発射!」
『ふもっふ!』
数あるファイナルショット用弾丸の1つ。光明自身の手で込められた「天」属性の弾丸が射出される。
それはまるで小さな太陽。着弾点で大きく広がったそれは生き残った敵を飲み込む。
プシュー
オーバーロードした錬氣ライフルが強制冷却サイクルに入る。
強力な弾丸であるファイナルショットは1度使えば、後は整備するまで錬氣ライフルは使えなくなる。まさに最後の弾丸なのだ。

197 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:49:13 ID:W147IVUA
使宴

198 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:50:18 ID:IRQKVpuj
「終わりやな。御苦労さん。帰還魔法発動させるからゆっくりしといて」
『ふも!…ふも!?』
終わったことを確信した、次の瞬間だった。
グオオオオ!
侵魔の群れの最強の1体、アークデーモンがボロボロになりながら一矢報いようと突っ込んでくる。
「あかん!倒し切れんかった!?しゃあない!頼んだで!ボン太くんBE!」
『ふも!』
ボン太くんが懐から最後に取り出したもの。それは…
『お!やっと俺様の出番か!いや〜このまま使われないんじゃないかとひやひやしたぜ!』
カタカタと喋る、魔法の剣だった。
『にしても相棒、いつ見てもその格好は…笑えるな。そりゃあ嬢ちゃんには知られたくねえってのもわかるわ』
『ふも!ふも!』
黙れとばかりにボン太くんが剣を構え、攻撃に備える。
『ふっも〜!』
ガシュウ!
アークデーモンの渾身の魔法を刀身で受けて『吸収』し、そのまま斬りかかる。
ズバン!
ボン太くんのパワーアシストと“ガンダールヴ”。2つの力でブーストされた剣はアークデーモンを易々と斬り裂いた。

―――極上生徒会管理棟 開発部試験室

「ふぅ…いや〜やっぱあの中はきついわ」
帰還し、シャワーを浴びてTシャツとジーパンと言うどこにでもいる学生の格好になったボン太くんのパイロット、平賀才人は溜息をついた。
「ごめんな。うちの魔力じゃあ一撃でアークデーモン仕留めるだけの威力は出えへんかったわ」
「いや、いいさ。それよりコイツは?なんか光明ちゃんと仲よさそうだったけど」
「あ、才人くんは知らんかったっけ?うちの幼馴染の美澄優貴くん。優貴くん、こっちは…」
「ああ、俺は平賀才人。サイトで良いぜ。普段はトリステイン魔法学院にいるんだ。よろしくな。優貴さん」
「ああ、よろしくサイト。…ん?トリステイン?」
優貴は首をかしげて目の前の少年を見る。
「あの学園の生徒ってなんかヨーロッパ系の子たちじゃなかった?それにあそこは魔法使いの学校じゃなかったっけ?」
特殊な魔力を帯びてはいるもののどう見ても前衛な上に日本人の少年。あの学園の生徒には見えない。
「…ああ、色々あってな」
そんな優貴の疑問にその“色々”を思い出したサイトが遠い目をする。
「それで、なんでサイトくんが光明ちゃんのボン太くん…BEだっけ?に乗ってるの?」
「ああ、そりゃな…なんか、今んところアレ乗りこなせるのって俺だけらしい」
「え、どういうこと?」
「あ〜それはな…」
首を傾げる優貴にぽりぽりと頬を掻き、戸棚から何回かにわけて大量の紙の束を取り出す。
どさどさと積み上げられる紙の束。背が低めの光明の肩に届くほどの分量である。
「え〜っと、それは…?」
とんでもない分量に引きながら、優貴は光明に尋ねる。
「これはな…ボン太くんBEの説明書や。全部で12282ページある」
「12000!?」
「せや。しかも書かれてる内容もめっちゃ詳しかったり逆にズバーンでドドーンとか書かれてたりしてな…日本語じゃないのもまじっとるし」
開発部の英知の結晶。それはすなわち、色々な天才たちの知識と技術とクセと趣味が全て反映された、エゴの塊。それが混ざり合ったボン太くんBEは…
「…正直洒落にならんレベルで扱いづらいじゃじゃ馬やねん。あんなん普通の人間では使えんよ」
それこそ目の前の少年が“ありとあらゆる武器を使いこなせる”伝説の使い魔でなければどうしようも無い代物なのだ。
「あかんなあ〜。侵魔が定期的に現れてデータ取れるからプロトタイプの強化は進むんやけど、量産型作る方はさっぱりすすまん。
 みんなの役に立つのが開発部の仕事なのになあ…」
悩ましい現状に、光明が再び溜息をついた。


199 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:54:47 ID:ci7nplau
      |ハ,_,ハ
      |´∀`';/^l
      |u'''^u;'  |
      |∀ `  ミ  ダレモイナイ・・・
      |  ⊂  :,    シエン スルナラ イマノウチ
      |     ミ
      |    彡 
      |    ,:'
      |''~''''∪


               l^丶            
     もさもさ支援   |  '゙''"'''゙ y-―,     
               ミ ´ ∀ `  ,:'     
             (丶    (丶 ミ     
          ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ
              ;:        ミ  ';´∀`';,  
              `:;       ,:'  c  c.ミ  
               U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J


            /^l
     ,―-y'"'~"゙´  |   もさもさ支援
     ヽ  ´ ∀ `  ゙':
     ミ  .,/)   、/)
     ゙,   "'   ´''ミ   ハ,_,ハ
  ((  ミ       ;:'  ,:' ´∀`'; いまのうち
      ';      彡  :: っ ,っ
      (/~"゙''´~"U    ι''"゙''u



             /^l     ・・・マンゾク・・・
      ,―-y'"'~"゙´  | 
      ヽ *´∀ `* ゙':
      ミ        ゙':
      ゙, ∪   ∪''ミ    ハ,_,ハ
       ミ       ;:'   :´∀ `';
       ';      彡    ,''u u.ミ
       ∪~"゙''´~"U     u''゙"J.




200 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 22:55:02 ID:IRQKVpuj
―――裏界 魔王の宝物庫

「…そうか。また失敗か」
部下の報告を聞き、その女…魔王は溜息をついた。
「…く。わらわ自らが赴ければ話が速いものを」
『流石に今アステートを敵に回すのは少し骨が折れる。しばし待て』
その魔王が主から受けた命令は、待機。そのため魔王はこうして時折部下を送り込んで“奪取”を図っている。
「…しかし、どんどん強くなるな…」
アークデーモンをたやすく撃退するほどに達したというそれを聞き、嬉しく思う。
「…うむ。強ければ強いほど、価値があるというものだ」
そう言って己の宝物庫の一角を見る。
「待っているがいい。ボン太くんBE」
黄金製の台座に白金で『ボン太くんBE』と書かれた、何も置かれていない、そこを。
「必ず、わらわのコレクションに加え…もふもふしてくれる」
貴重で強く、何より可愛い。そんな理想をすべてを兼ね備えた宝物を手にするという遠大な野望を胸に。
裏界にて女公爵の地位と名を持つ魔王、モーリー=グレイは、嗤った。



今日はここまで。
ちなみにこのボン太くんBEは『ザクを作るつもりが出来上がったのはガンダム(種仕様)』的な代物です。
量産は多分不可能でしょうw

201 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 22:55:47 ID:W147IVUA
詠唱系じゃない中〜後衛魔法使いを通常のボン太くんに乗せたらいいんじゃ…?>物理攻撃の欠点

202 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/21(火) 23:00:54 ID:IRQKVpuj
>>201
一応基本コンセプトは「訓練を積めば誰でも戦えるようになる兵装」です。
そのため魔法の才能0でも魔法攻撃できるようにって考えで作られています。
(魔法使いの生徒も割と貴重な存在ですしね)

203 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 23:01:12 ID:XpOmDQXa
投下乙です

モーリー何狙ってんだw

204 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 23:02:46 ID:F3nLAqIk
ま、負けるなサイト!
下手するとお前も宝物庫に一緒にご招待なんだぜ!?

ともあれGJー。おもろかったー。
着々といろんな学校の人間が関わっていく……ww

205 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/21(火) 23:18:41 ID:NbJksUI7
GJ!
おまいは何を狙っとるんだwww

206 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 00:13:13 ID:R4rxszcW
      |ハ,_,ハ
      |´∀`';/^l
      |u'''^u;'  |
      |∀ `; ミ  モサ モ シエン シテルト
      |  ⊂  :,    オモチカエリ サレソウ ナ キガスル モサ・・・
      |     ミ
      |    彡 
      |    ,:'
      |''~''''∪

207 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 02:21:48 ID:nH5UTBAS
AAがあると保管があったのかと錯覚するw

208 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 03:01:30 ID:ESLK6OFS
オチに笑いを全部持ってかれたwww
いやあ、油断してたわぁ。

209 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 03:22:23 ID:baZAQz/p
使えNeeeeeee!(量産用としては)
そしてモーリーさんwww

210 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 05:09:33 ID:ZlMiq6IT
量産するなら現状の汎用型から機能を削るなり路線を変えなきゃ無理だろうなぁ
どんだけエコノミーにしたら使えるようになるんだろ?
最終的には紅衣と時空鞘装備しただけの量産型ボン太くんとかw

しかし、各世界の技術の粋を集めても、あのボイスチェンジャーのバグは取れないのなwww

211 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 06:13:16 ID:EGR1pDXH
>210
ボイスチェンジャーのバグだけになったら。

212 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 07:09:03 ID:+/9BFgON
>>201
呪文詠唱が全部ふも!になるから、発声が必要な魔術は無理じゃね?

ノトス
「うむ!《音声要素省略》が必要じゃな! またリビルドせねば」
ヒース
「俺様は完全に駄目だな」
マジク
「僕やお師匠様も駄目ですね」
マユリ
「NW世界はどうなんでしょうか」

213 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 07:19:16 ID:bkeQ/uIp
待て、オーフェンの魔術は声さえ出てれば内容はどうでもいいから使えるぞw

214 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 07:56:22 ID:fhQ1NsbM
サイト・・・・おまい、シエスタとキュルケとその他諸々に続き、モーリー様にまで・・・・!

【なんかいろいろおかしい】

GJ!です。 学園世界オリジナル武器とか、サプリ化すると楽しいかもねwww

>>212
NWはモブキャラが無詠唱で魔法撃ってるシーンがあったので、行けなくはないんじゃなかろーか。
なのはとかだと、デバイス外に出せば使えるかな?

215 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 09:07:15 ID:rJO8gUPQ
だめだ、インパクトでかすぎwww
多分もうサイトは学園世界じゃボン太くんBEとセットでしか登場させてもらえないwwww

216 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 09:12:29 ID:rWHdue9T
>>212
つまりふも!で発動する新たなる系統の魔術が誕生だな。

217 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 09:50:08 ID:UgX0My4A
真剣に考えると、やっぱりMP的なもんがないと使用無理じゃね?<魔法
オーフェンとかゼロ魔とかは「血族的資質」もないと難しいだろうし。
一番難しいのは型月か。ありゃ資質も詠唱も必要だし。

ま。魔法的装備積む方が楽だよね。

218 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 09:57:00 ID:LWfydRJq
なんという、ふも魔法……そのふも姿を想像するだに辛抱堪らぬ!
……そうか、ふも魔法とはすなわちあらゆる術に魅了の追加効果、そういうことだなモーリー!?

219 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 19:54:10 ID:C72+7bKM
>>217
魔力タンクつめばいい。

220 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/22(水) 19:58:17 ID:ZZk90SZm
>>203,205
彼女が狙うから強化の研究も進み、強化され、そしてさらに狙われると言う悪循環が…いや、良い循環なのか?w

>>204
中の人もある意味非常にレアではありますからねー

>>205
もふもふですから。

>>208
笑っていただけたようでなにより。

>>209
モーリーさんはガチ。
そしてその後量産は諦められたようです。

>>210
代わりに考えられたのが「すごい奴をもっと強化する特殊タイプボン太くん」の製造。

>>211
そこだけはどうしようも無かったようですw

>>213
…その設定が無ければ、彼が選ばれることもなかったのに…w

>>214
色々混ぜるな危険な代物も多いですからね。学園世界って。

>>217-218,>>201
だが、魔術師の盾と言うコンセプトは考えられなくもないですね。

ってなわけで1レスでボン太くんシリーズのその後を投下します。


221 名前:仁義なきふぁんたじー@学園世界:2009/04/22(水) 19:59:10 ID:ZZk90SZm
学園世界で鳴らした俺達ボン太くん部隊は、量産不可の判定を受けて量産は中止された。
量産型の研究も打ち切られ、格納庫にしまわれた。
しかし、格納庫でくすぶっているような俺達じゃあない。
使用者さえ見つかれば改造次第でなんでもやってのける命知らず、
不可能を可能にし巨大な悪を粉砕する、俺達、ふもっふ野郎Bチーム!

俺は、リーダーボン太くんCM(コマンダー)。通称アンサートーカー。
戦術指揮と魔物の戦いの名人。
俺のような防御特化でなければ百戦錬磨のつわものどもの司令塔向けは務まらん。

俺はボン太くんMM(マジックマスター)。通称サクセサー・オブ・レザーエッジ。
自慢の魔力増幅機能に、学園の敵はみんなイチコロさ。
ふもっふ式音声魔術かまして、ゴブリンからドラゴンまで、何とでも戦ってみせるぜ。

よおお待ちどう。俺様こそボン太くんBE(ブルームエディション)。通称ガンダールヴ。
ボン太くんシリーズとしての性能は天下一品!
超玄人向け仕様?種でも割れてなきゃ扱えない?だから何。

ボン太くんOS(オールドスタイル)。通称ウルズ7。
戦闘のプロフェッショナルだ。テロリストとでも戦って見せよう。
でも物理無効の相手だけはどうしようもないな。

あたしは、ボン太くんMD(メディック)、通称リビングレジェンド。
チームの紅一点。
戦場での治療は、特別製ヒーリングプログラムと活人剣で、お手のもの!

俺達は、道理の通らぬ学園世界にあえて挑戦する。
頼りになる神出鬼没の、ふもっふ野郎Bチーム!
助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ。

222 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:00:25 ID:UgX0My4A
>>219
そこまで手間かけて詠唱時間に時間割くなら、
誰にでも使える魔導装備作る方がよかろう。

天明は光明の妹だし、そういう箒的な錬金兵装の作りには慣れてるだろうし、いつか完成させるだろ

223 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:09:55 ID:LWfydRJq
>>221
ちょ、なんという大惨事ラインナップ。俺の烏龍茶返せw

戦力バランス良さそうなあたり、流石と言わざるを得ない

224 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:11:24 ID:bkXuLBZq
>>221
ヒース「わはは 待て待て愚民ども。というか相良。これで解決するだろうが」

つエンチャント・ウエポンのコモンマジックリング

225 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:13:00 ID:/B6Wv7Cy
>>222
ぎゃ、逆ー!天明は光明のお姉ちゃんだよー!?

あと>>221私の焼きそば返せ非常にGJだけどw
ちゃんとディフェンダーとか居るのがなんともw

226 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:18:19 ID:UgX0My4A
>>225
む。そーだっけ。
しまったなぁ、鳥取で蛍明って名前の亜門家三女・魔物使いを作って暴れようとしてたのに

227 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:25:40 ID:C72+7bKM
>>222
つまんねえ考え方だなあ。
それじゃ作る方だって使う方だってありきたりすぎてつまらんだろ。
困難に挑んでこそ研究者や技術者なんだよ。

228 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 20:39:27 ID:BAOBz6uX
普通に誰でも使える魔導装備は普通にありそうだな。
本職に比べて威力が低かったり使用回数に制限があるとか
高性能だが作るのに手間と時間がかかるので希少だとか。

229 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:11:28 ID:OcLSa79E
あれ、キャスターいなくね?
とか一瞬素で思ってしまった。≫Bチーム
なんつーか接近戦、しかも混戦状態にこれほど強そうなチームも珍しいww

230 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:14:32 ID:Ro3i3DPK
一般生徒とかに護身用?みたいな感じで破邪爆弾(ゴム風船+塩焼き)
を売って小金を稼ぐ某宝探し屋を想像した。
こういうのは「魔導装備」なんだろうか。一応破邪属性なんだけれども。
装備というかアイテムというか。

231 名前:みつやん:2009/04/22(水) 21:30:35 ID:4EHHYCmp
おこんばんわ&お久しぶりです〜。
何はともあれ、“仁義なき〜”の方、この上なくGJ!w

何か盛り上がってるし、連続投下はマナー違反っぽいんですが、学園世界のヤツのOPを投下したかったり……
い、いいでしょーか?(ビクビク)

っていうか、書こうとしてたネタがどんどん実際に書かれてるの見て焦ってるってのもあったり(汗)
さっさと投下して唾つけな! みたいな(<おい)
っていうか、“仁義なき〜”ともボンタ君ネタ被ってるしなぁ……(汗)
まあ、ネタをシェアしてる時点で、被りは避けられない気もするんですが……

前から書く書くゆーてた、柊みーつ宗介なお話です。
……えーと、投下しちゃって、良いカナ?

232 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:33:16 ID:UgX0My4A
連投はここでは気にしたことねぇなー。
待ってるよ支援

233 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:34:21 ID:baZAQz/p
>>221
噴いたwww
しかし頼りがいある面子だなあw
 
>>230
作品にもよるからねえ>属性の扱い
ロケット花火が火炎属性(≒魔法扱い)のゲームだってあるし
 
…攻撃無効や反射とか洒落にならないから「学園の敵データベース」とか作る部署もあるんだろうかなあ

234 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:35:31 ID:4EHHYCmp
《疑心暗鬼のセーフ・キーパー》

 点灯したスクリーンだけが光源の、暗く狭い空間。そこに、年若い男の声が響いた。
「動作モード4に調整。バイラテラル角、3.5」
『ラジャー。ラン、モード4。BMSA、3.5』
 スピーカー越しに、搭載電子頭脳(AI)の低い合成音声が応えた。同時に、うぃ…ん、と唸り声のような動作音。
 自身の指示が完了するまでのほんの僅かなタイムラグ。指示した声の主は、両手に握ったグリップの感触を確かめるように、左右の五指をそれぞれ動かす。――問題ない。
『コンプリート』
 間もなく指示事項完了の旨が告げられる。これで、この“機体”は彼の思う様に動く手足に、搭載された各センサーは彼の目になり、耳になった。
 彼は、その『目』で、辺りを見回した。
 彼にとって見知った校舎の屋上。しかし、その先に見える景色は、見慣れた東京郊外の景色ではない。
 見渡す限り居並ぶのは、まるで統一感のない意匠の建造物の群れ。素っ気ないコンクリ作りの建物から、西欧の城を思わせる奇抜なものまで、まるで節操がない。
 こんな奇妙な場所など、見たことはおろか、話に聞いたこともない。
 この異常事態が発生したのは、今から約十七時間前。昨日の一四○○時――午後二時のことだ。教室で奇妙な浮遊感を覚えたと思ったら、次の瞬間、窓の外の景色が一変していたのだ。
 ここはどこで、誰が、何の目的で、どうやって、自分達の学校をこんな風に放り出したのか。
 当初からずっと抱き続けている疑問が、目の前の景色を見て、改めて強くなる。
 二つ目と、三つ目の疑問には、答えの心当たりがないでもない。そこから推し進めれば、四つ目の答えも。――しかし、何の物証もないし、何より場所の異様さから、どうにもその推論に自信が持てない。
 軍事兵器のお出迎えでもあれば、まだ自身の推測に確信が持てたのだが――幸か不幸か、今のところそういった気配はなかった。
 だとすると、やはりこの事態は“奴ら”の仕業ではないのか――
 そう思いつつも、しかし、だとすれば、本当に事態の原因に見当がつかない。
 だが、例え、この事態を招いたものが何者であろうと、その相手は既に、彼にとって“敵”以外の何者でもなかった。
 脳裏に思い浮かぶのは、精神的に追い詰められた様子の学友達だ。彼の尊敬する『閣下』の機転で、校内の秩序は辛うじて保たれているが――
「千鳥、それに椿が、あそこまで追い詰められているとなると……」
 彼の唇から思わず零れた名は、彼がこの学校に来るきっかけとなった少女と、彼にやたらと突っかかってくる男子同級生である。
 守らなければと思いながら、実は自分の方こそ守られているのでは、とすら思う、気高く強い心根を持つ少女。何度返り討ちにしても、今度こそは! と不屈の精神で挑んでくる少年。
 数多の戦士を見てきた彼の目から見ても、二人とも強い精神力の持ち主だと言える。しかし、その二人が、既に精神に失調をきたしているそぶりを見せている。
 酷く思いつめた目を、何かに耐えるようなそぶりを度々見せる、少女の青ざめた顔。
 何かに追い立てられるように、己の拳さえも壊しかねないような勢いで殴りかかってきた、少年の血走った目。
 彼らですら、ああまで追い詰められている。ならば、他の生徒達の心中はいかほどのものか。
 そう思って、彼は微かに眉根を寄せた。
 親愛なる、無垢な友人達。決して、彼らを害させるものか。この事態を招いたものが何者にせよ、絶対に、その魔手から守り抜いてみせる。
 そう、彼が決意を新たにした瞬間――彼の『目』と『耳』が不審な反応を捉えた。

235 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:36:37 ID:4EHHYCmp
『11時方向、直線距離・約5km、高度・約300m。こちらへの進路を取る飛行物体の反応を感知』
「反応の映像を拡大しろ」
 AIの言葉に、彼は即座にそちらへと『目』を凝らす。そして、見えたものに眉をしかめた。
 アイカメラのモニターに映ったのは、タイヤのないバイクを思わせる、メカニカルなシルエット。そこに人間が、丁度バイクでのそれのように二人乗りしている。吹き曝しだというのに、操縦者はゴーグルも着用していない。
 彼は思わずモニターに表示された、その飛行物体の推定飛行速度を確かめた。あんな吹き曝しでゴーグルもなしに、まともな視界が維持できる速度ではない。
 いや、そもそも、あんなサイズで、あんな高度を飛べる乗り物など聞いたこともない。
 機体と操縦者、双方ひっくるめて、その飛行物体は、彼にとって非常識の塊だった。
 ありえない――そう思って、彼は、そのありえないことを実現する技術の存在を思い出す。先程、四つ目の疑問の答えとして、思い浮かんだ可能性を。
 【存在しない技術(ブラック・テクノロジー)】。現代の科学技術を超越し、SFじみた兵器を実現させる技術理論。
 それによってならば、今自分が目にしている非常識な機体も、今自分が置かれている不可解な事態も、あるいは実現可能かもしれない。
 世間に秘匿されたその技術理論を自発的に実用化できるのは、今現在、彼の知る限り二つの組織だけだ。
 即ち、彼自身の属する組織と、彼の敵である組織。
 しかし、あの飛行物体の操縦者達が自身の属する組織の人間――即ち味方なら、自分がここにいることは知っているはず。ならば、誤射の類を防止するため、既にこちらに対してそうと知らせる何らかのアクションを起こしていなければおかしい。
 それがないということは――
 “奴ら”か、それとも、彼の知らない第三者か。
 しかし、この際、彼にとってそれはどちらでも同じだった。
 何故なら、モニターに映ったその機体は、巨大な刃を携えた、紛れもない“武装”であったのだから。
 味方でない以上、この状況で武装してこちらに向かってくる相手は――彼にとって、排除すべき敵以外の何者でもない。
 故に、彼は『両手』で武器を取る。その場で伏せるようにして、その飛行物体へと標準を合わせた。
 この状況での警告などナンセンスだ。警告というのは、発する側が何らかのイニシアチブを有していなければ効果がない。はったりとして使用する場合もあるが、この状況ではその材料もない。
 通用しない警告など、ただ敵に『これから攻撃してやるぞ!』と告げるだけの馬鹿げた行為にしか過ぎないのだ。ならば、この状況で敵とコンタクトを取る意味はない。
 『敵との会話は必要ない』――父とも思う師の教えだ。
 今、奴らと交わすべきは言葉ではなく、殺意を込めた銃弾と刃だけ。情報は喉から手が出るほど欲しいが、現状においての最優先事項は、まずこの場所に居る人々の安全確保だ。
 そのためには、問答無用で不意をつき、そして、確実に一撃で相手を行動不能にする必要がある。
 自分を除いて、この学校にいるのは、血生臭い戦いなどには縁のない無垢な人々なのだ。仕留め損ね、ここが戦場になるようなことになったら、彼らが一体どうなるか――
「――俺の学校の皆には、指一本触れさせん」
 零れた静かな呟きは、この上なく冷たく響き、また同時に、灼けるような熱を秘めていた。
 冷酷非情な戦士の声であり、同時に、自身の大事な人々を脅かすものへの怒りを燃やす、一人の少年の声でもあった。
 彼の名を、相良宗介。
 世界各地のテロリズムを制圧する極秘軍事組織の軍曹にして、平和な日本での常識と学校の単位相手に苦戦する現役高校生。
 ギャップの激しい二つの立場を持つ少年は、やはり、外見と性能に凄まじいギャップを持つ愛機“ボンタ君”を操り――
 許容できない敵に向けて、必殺の一撃を放った。

236 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:38:34 ID:baZAQz/p
おっと投下予告見逃してた…支援

237 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:39:47 ID:4EHHYCmp
《急がば回れのカルチャー・ギャップ》

「蓮兄ちゃん、あそこです!」
 そう叫ぶ声の主は、年の頃なら十三、四の少年だった。叫んだ相手の腰に回していた腕の片方で、前方の大地に見える建物のうち一つを指し示す。
「あれか!」
 その指の示す方を確認して応えたのは、十代末の青年。自身の駆る機体の進路を、僅かに修正した。長身に羽織ったコートの裾が、風に翻る。
 彼らが跨るのは“箒”。メカニカルなそのデザインは、到底、ちりとりと一緒に使用する清掃用具の名には相応しく見えない。だが、それでもそれは“箒”だった。
 古来より、魔法使い(ウィザード)が空を飛ぶための乗り物は箒だった。故に、現代の“超常者(ウィザード)”達も先人に倣い、自身らが空を駆るための機体を“箒”と呼ぶ。
 少年の名を赤羽青葉。青年の名を柊蓮司。二人とも、世界を害する存在と戦う、ウィザードだった。
 今、彼らの眼下に広がる風景は、常識の外に在る彼らにとっても、些か非常識な光景だ。
 見えるのは、一見してばらばらの意匠を持つ建造物の群れ。しかし、それらは明確な共通点を有していた。
 何かを学ぶための場所――即ち、“学校”であるということ。
 “狭界”に突如出来たこの異空間は、ありとあらゆる時空の“学校”を取り込み、その中の人々ごと閉じ込めてしまうという、意味不明な上にはた迷惑なものだった。
 輝明学園秋葉原分校もまた取り込まれ――そこの中等部に在学している青葉はもちろん、たまたま顔を出していた高等部OBの柊も、一緒にこの“狭界”に閉じ込められてしまったのだ。
 この“狭界”――“学園世界”が出来てから、今日で三日目。しかし、事態は一向に好転の兆しを見せない。
 それどころか、未だにあちこちの時空から“学校”が呼び込まれて、混乱は酷くなっているといえる。
 一緒に呼び込まれたらしい各世界の魔性による襲撃事件や、各々のカルチャー・ギャップによる生徒間の諍いも絶えない。
 初期から他校との接触を積極的に行ってきた輝明学園は、既にいくつかの学校と連携・協力体制のようなものを築きつつあるが、全体的に各校の足並みはそろっているとは言い難い状況だ。
 そんな状況下、青葉の姉であり、柊とは同い年の幼馴染である赤羽くれはが、輝明学園の校長により昨日付けで理事長代理に任命された。
 柊達は現在、その彼女の指示で、ある学校に向かっている。
 『都立・陣代高校』との文字を門に掲げる、昨日の夕刻に“学園世界”へ出現した学校だ。
 今朝、その学校付近で、雑魚魔王級エミュレイターの魔力反応が検知された。
 その学校は、出現時から今朝まで、ずっと不気味なほど静かに沈黙を保っている。人っ子一人校舎から出てこず、内部の様子を知りたくても、あらゆる窓のカーテンがぴっちりと閉じられてしまっているのだ。
 そんな陣代高校の現状を知らされ、くれはは、二つの可能性を考えた。

238 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:41:04 ID:4EHHYCmp
 T.その学校の人々がこの状況に怯え、自ら閉じこもっている。
 U.反応にあった魔王により、既に校内を占拠されている。
 陣代高校は、見る限り、魔法やら超能力やらとは縁のなさそうな、ごくごく普通の高校で――だからこそ、このような“異常事態”への免疫は低いだろうと推察された。同様に、“非常識”の塊であるエミュレイターへの対抗手段を持っているとも思えない。
 反応にあったという侵魔が、こんな手近でお手軽な獲物を見逃すだろうか。
 既にUの状況である可能性は高く、よしんば、今はTの状況だったとしても、近くで侵魔の反応があった以上、遠からずUの状況に悪化しえる。
 人々を“非常識”の脅威から守るウィザードとして、この状況を見過ごすわけには行かない。
 そこでくれはは、柊達をその学校に向かわせたのだ。第一に、陣代高校関係者の安全確保――つまりは付近に出没したエミュレイター討伐のため。第二に、陣代高校関係者に対する事態の説明のため。また必要ならば、出来る限りの支援も申し出る。
 柊は大魔王級侵魔との交戦経験もある実力者であり、しかも異世界旅行の常連で世界間におけるカルチャー・ギャップに免疫がある。しかし、攻撃特化のウィザードであるため、防御や回復はからきし。目つきと口が悪いために外交役にも向かない。
 そこで、回復・防御の術に秀でたウィザードであり、かつ人当たりのいい青葉が一緒に行くことになった。外交役には幼すぎるかもしれないが、逆に相手の警戒心や恐怖感は削げるだろう。
 本来、4人1組がウィザードのベストパーティーなのだが――今回は、人を集める時間も惜しかった。
 状況がくれはの推察したどちらであったとしても、時が経つほど、事態は悪化する。
 とりあえずはすぐに出れる状態だった二人が先行し、残りの二人は応援という形で後から来る予定だ。来る前に片付いたら、それはそれで結果オーライである。
 今はとにかく時間が惜しい――しかし、その焦りが、致命的な判断ミスを生んだ。
 “箒”という、“常識的に見てかなり異常な乗り物”で、“非常識”に免疫のないだろう相手方に向かうというミスを。
 そのミスを自覚しないままに、柊達はその陣代高校に近づき――
「……ん?」
 その校舎をはっきりと視認できる距離に来て、柊はそれに気づいて眉をしかめた。
 校舎の屋上に、何か黄色いものがあった。サイズは大柄な人間大。ずんぐりむっくりなシルエット。
 柊は目を細め、視界を凝らす。それは、犬ともネズミともクマともつかない頭部に、ずんぐりとした胴と短い四肢を持つ、愛らしくも珍妙な容姿の生き物――のように、見えた。
「――って、おい……!?」
 しかし、柊を戦慄させたのは、その珍妙な容姿ではなく、それがこちらに向けて構えるもの。
 ぶっとい、一抱えはありそうな円筒。あれは、どう見たって――
「……ロケットランチャーだぁ!?」
 思わず叫んだ柊に、『正解』と告げるように――瞬間、その筒が火を吹いた。

239 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:42:06 ID:4EHHYCmp
《漁夫の利狙いのインヴェイダー》

 朝の空に咲いた無骨な花火を見て、うまくいった、とソレは低く笑った。
 ソレは、ソレ達にとって目障りな敵であるウィザード達から『憑依者(パゼサー)』と称され、雑魚魔王との位付けをされている存在だった。
 敵から雑魚扱いされるのも、自身の本質からズレた呼び名も気に食わなかったが、ソレには自分からそのことを訂正する気はなかった。
 自身の能力が確かに一点特化で、総合力では見劣りするということを、ソレは自覚していた。
 また自身の性質上、数多くいる敵の中に、驚異的な能力を有する個体が稀に存在することも、ソレはよく知っていた。
 そして、そうでない個体達も群れれば厄介であり、知恵という小賢しくも侮り難い武器を有していることも、ソレはきちんと知っていたのだ。
 そんな相手に正しい情報を与えるのは愚行でしかない、という考えがソレの持論だ。
 何せ、ソレが足元にも及ばないような強大な力を持つ大魔王すら、『フェアなゲーム』と称して相手に情報を与えては、足元を掬われて、数多くの計略を無に帰しているのだから。
 情報は財産であり、知略は武器だ。
 力がない分、ソレはそのことを身に染みて学んでおり、学んだことを実践するだけの慎重さも有していた。
 そんな慎重なソレが、この場所に顔を出したのは本当に偶然だった。
 突如、“狭界”に現れた奇妙な空間。ソレ達の天敵達が住まう“表界”からだけでなく、色々な時空から、ある特定の意図を持つ建物とその中にいる生物が呼び込まれ、出来た場所。
 ソレは、少々“表界”で危ない目に遭って、“狭界”に逃げ込んだ。そうしたら、ここを見つけた。それだけだった。ごちゃごちゃと騒がしい様が見てて面白かったから、そのままここに留まって眺めていただけ。
 そして、ソレは――今朝、その個体を見つけた。
 とてもとても、この上もなく素晴らしいエモノを。
 ソレは、歓喜した。人間風にいうなら、飛び上がって喜んだ。
 そのエモノは、ソレのよく知る“表界”と似た、しかし違う世界から来たらしい。
 そのエモノの世界の連中は、エモノ以外、“表界”に住まう有象無象(イノセント)と同じような存在ばかりで、ソレの敵にはなりえない。しかも、何故か自分達と一緒に取り込まれたその建物から、一歩も外に出ようとしないのだ。他所から助けを呼ばれる心配もない。
 あまりにもおいしい状況に、すぐにでも飛びついてやろうとして――エモノとは別に、イノセントとは呼びがたい個体が、もう一人居ることに気づいた。
 その存在(プラーナ)はイノセントとそう変わらないのに、歴戦のウィザードのような威圧感を醸し出す妙な個体。
 その個体は、あろうことか、ソレがエモノにちょっかいをかけた途端、そのことに気付いたかのように妨害してきたのだ。
 最初は偶然かと思ったが、二度、三度と邪魔され続けて、この個体は、ソレがエモノに干渉することを、確かに察知できるのだと確信した。
 ソレがただ潜んでいる分にはその存在にも気付けないくせに、エモノに干渉すると途端に妨害してくる。ソイツは酷く邪魔で、鬱陶しい相手だった。
 とりあえず、この邪魔者を始末しなければ。そう思って、ソレはソイツを消すために行動に移った。
 ウィザード相手ではないから、直接自分で出て行っても問題ないかと思ったが、どうにも得体の知れない相手だ。何より、つまらないミスであの極上のエモノを逃すことになったら堪らない。ソレは慎重に動くことにした。
 まず、ソイツに対して悪感情を抱く個体を探した。何故だかソイツに対して怒りを抱いている固体は妙に多くいて、より取り見取りだった。
 その中から、一際強い妬心をソイツに抱く、他の有象無象より頑丈そうな個体を選んだ。“強化”するにも、元の素材が良いに越したことはない。意志もそれなりに強い個体だったが、精神構図が単純だったから、それほど手間取ることなく操作できた。
 さっそく“強化”したその個体を、ソイツにけしかけた。
 これで終わり。そう思ったのに――

240 名前:【堕ちし囁きの美籠(みこ)@学園世界】01:2009/04/22(水) 21:43:29 ID:4EHHYCmp
 ソイツは、その個体を返り討ちにした。
 殺しこそしなかったが、完全に昏倒させたのだ。――例え全力ではなかったにせよ、この自分の“強化”を受けた個体を。素材も屑ではなく、それなりの良いものだったのに。
 この相手はイノセントどころではない。下手なウィザードなどより厄介な相手だ。勘がよくて腕が立ち、戦いに対する躊躇いも、敵に対する容赦もない。しかも、人畜無害そうな外見の割りに酷く剣呑な能力の武装まで、引っ張り出してくる始末。
 “強化駒”を使った程度では、おそらく無駄。数で畳み掛ければいけるかもしれないが――下手に騒ぎを大きくしてエモノの警戒心を煽ることは、できれば避けたい。
 だが、ソイツには魔力的な能力が欠如しているように見える。ならば直接出て行って、自分の手で潰すのが一番早いかも知れない――そう思った矢先。
 強い存在(プラーナ)がここへと近づいてくるのに、ソレは気付き――戦慄した。その気配(プラーナ)に覚えがあったから。
 あれは──“神殺し”だ。
 名立たる神魔を数多倒してきた、恐るべき魔剣使い。化け物(エミュレイター)殺しの化け物(ウィザード)。
 もちろん、ソレは直接そんな化け物と戦ったことなどない。ただ、他の侵魔と遣り合っているのを一度見かけたことがあって、その時のプラーナを覚えていただけだ。
 拙い、とソレは焦る。“神殺し”がここに来たら、自分は終わりだ。
 ただでさえ、面倒な相手が既に一体居るのに――そう、思って。
 名案が閃いた。
 厄介な邪魔者と恐るべき天敵。しかし、この二者は別段仲間というわけでもない。出身世界が違うのだから、面識もないはずだ。
 ならば――この二者がぶつかるように仕向けてやれば――
 我ながら名案だ、とソレはほくそ笑んだ。
 都合のいいことに、厄介な邪魔者は、警戒心の強い――言い換えれば、猜疑心の強い性質だった。その猜疑心を、ソイツが“神殺し”に気付いた瞬間、不自然でない程度に“増幅”してやった。
 それだけで、ソイツはまんまと“神殺し”に攻撃してくれた。後はもう、なし崩しだろう。
 これでしばらく、どちらの邪魔も入らない。
 にぃ、とソレは口の端を吊り上げた。

 さあ――哀れな憐れなお姫様。お前の騎士は、もう助けてに来てくれないよ。

 極上の獲物にして、最高の得物たる、その娘を見つめて、ソレは意地悪く嗤った――

241 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:45:56 ID:BAOBz6uX
やっぱそうなるよなぁ支援

242 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:46:19 ID:UgX0My4A
あはは、支援

243 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:46:25 ID:ESLK6OFS
支援射撃用意。ターゲットは目つきの悪い学生。
…ってどっちだよ

244 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 21:50:58 ID:4EHHYCmp
ってな感じでOP終了! 最初っからクライマックス!(意味不明)

すみません、何か微妙にフライング気味な投下になりました(汗)
支援ありがとうございます!
今更だけど、一応クロス先を明記すると、フルメタル・パニック!
宗介は自分の中で柊に並ぶくらい大好きなキャラです。好きすぎて文章が暴走しかかってめっちゃ書き直したくらいに(汗)

シリーズタイトルはNW風で、各章(?)タイトルはフルメタ風をイメージしてみました!
続きは……GWまで待っていただければ……多分……(汗)

245 名前:みつやん:2009/04/22(水) 22:00:45 ID:4EHHYCmp
ってうわ、コテ忘れた(汗)>>244

しかも、ここでさるさん来たし(汗)
失礼しました、うごご……

246 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:24:27 ID:bkXuLBZq
TRPGの広告見てたらエンブリオマシンに学園都市のサプリ出たのね。
リプでもやってくれたら叩き込んでやるんだが。

ロボ同士がやりにくいんだよね。FtEの箒その他は迷宮内に持ち込めるサイズだし。
敵キャラで巨大サイズがあんまりいない。

超巨大な精霊獣とかだすと多分
「絶対無敵! ラーイジーンオー!!」
「元気爆発! ガンバルガー!!」
「熱血最強! ゴーザウラー!!」
とかがやってきてやられちゃうんだろうけど。

「シンジぃ。ワシら存在感ないなぁ」
「しょうがないよ、トウジ。エヴァがない学園エヴァなんてただの学園ラブコメだし」
「バカシンジ何言ってるのよ!このあたしの出番がないのよ!?油断してると映画に出られないし!」
「しょ、しょうがないじゃないか。ほら、甲児さんやゲッターチームの人たちも平和に学園生活を謳歌してるし」

「さやかさん、明日はトリスティン魔法学院までバイクで行ってみないかい?」
「ええ、いいわよ。でも、こんなに平和で良いのかしら」
「そんなこと言ってもここにはDr.ヘルもミケーネもいないんだ。今のうちにのんびりしようぜ」

「く、俺たちにゲッターがあれば小学生だけを戦わせずに済むのに」
「全く、情けない」
「ふ、弁慶、学生キャラじゃない方が混ざってるぜ」

247 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:47:39 ID:QLd241LH
>>246
その中じゃ、ガンバルガーだけ学校から発進しないんだよな。
ガンバルガーの各ロボットは発進地点が町のあちこちだったから。

ロボットなら、確かダイソードがもう学園世界に居たはず?
ダグオンの面々もいそうだな。
あとは、 ドラえもんの母校であるロボット学校とか。

248 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:52:43 ID:LWfydRJq
せっかくはりきって出てきたのに、スモールライトで小さくされちゃう巨大ロボを幻視した

249 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:52:57 ID:UgX0My4A
ロボット云々って言うなら自分で出せばいいじゃん。空気を読めと呼ばれない程度に。

ほら、人型ロボ程度ならすでにいるしね。ネギまに。

250 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:57:48 ID:Ro3i3DPK
おお、みつやんさんGJです。緊張感のある展開でとてもドキドキしました。
混乱に乗じて同士討ちを企む敵は王道ですね!続きも楽しみにしています。

>>233
データベースは重要ですよね。無効はともかく反射は洒落になりませんし。
ギリメカラとかギリメカラとかギリメカラとか。
属性関係も難しそうですねえ。火炎攻撃≒火炎魔法とか物理≠銃撃とか。
あんまり厳密にやるとものすごくややこしくなってしまいそうな…。
魔王相手に破邪爆弾とかラーメン爆弾とか炒り豆とか投げて戦う葉佩も見
たくはありますが。

>>247
リュウと一狼で忍者コンビ…とか思ったけど、考えたらリュウって別に忍者
じゃなかったような気が…。

251 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 22:59:49 ID:ZlMiq6IT
人型サイズのロボットか…あ〜る28号とか?

5mくらいまでのSサイズ機体ならチラホラありそうだけどねぇ
コスモレンジャーが開発部にコスモロボの制作を依頼してたりするかもなw

252 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 23:06:16 ID:QLd241LH
人型サイズのロボット…高田祐三先生の万能文化猫娘のヌクヌクとか?
意外といるな、学校に通っている人型サイズのロボット。

253 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 23:07:15 ID:UgX0My4A
ロボットで他に出たっつーとナイトメアか?ギアスの方の。

まぁ、リプレイでどう考えても刃渡り1mちょい(当時)くらいまでしかなかった武器で40mの敵ぶった斬った奴がいる以上
そんなにサイズって気にすることないんじゃないかなーと

254 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 23:33:34 ID:EGR1pDXH
>251
「ロボットじゃないよ、アンドロイドだよ」

 【同じだバカもの】

255 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 23:52:34 ID:hpCkmQyT
いやでも巨大ロボは基本的に同じようなロボ作品とのクロスでないとパワーバランスが大きく崩れるからなぁ
大概巨大ロボって巨大生物とか人間レベルじゃ太刀打ちできない対象に対する切り札的存在という立ち位置だったりするし……

256 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 00:00:01 ID:UgX0My4A
>>255
だってなー、>>246はどうしても出したいらしいんだもの、巨大ロボ。
これまで巨大ロボが出てないにも関わらず出したいって言われたら、世界観無視しない程度によろしく、としか言えないじゃん

257 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 00:00:49 ID:FdbUBy6r
人間サイズだとペルソナ3のアレとか

258 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 00:00:59 ID:baZAQz/p
人間サイズロボなら小ネタでメカ沢さんががが。
 
>>250
>ギリメカラとかギリメカラとかギリメカラとか。

一狼とライズさんが交戦する話がありましたね。

……ちゃんと極上生徒会側にその恐ろしさを報告しておいてくれたかしら。

 
>>253
サイズがでかいとどうしても描写上被害が大きくなりがちだから、
SS作者さんとしても扱いが難しかったりするのかも。

259 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 12:27:08 ID:CA2vnOLg
ロボは出せてもKM(ナイトメアフレーム:コードギアス)やAS(アームスレイブ:フルメタル・パニック!)サイズぐらいが
限度だろうなぁ。

260 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 12:51:37 ID:KGeNPsWk
士魂号もASやKMFと同じくらいのサイズだったよね。
つーか5121小隊は最初期に舞らしき人の台詞がでてきただけだったなw

261 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 13:03:05 ID:huAOjkam
戦争ないと、あいつら味のれんで飯食ってるだけだからなー。あと万引き。
ソックスハンターは大活躍かもしれんが。

新井木とかは学園世界スイーツ食べ歩きクラブとかに入ってるかもしれん。代用甘味料じゃない甘味が山とあるしな。

つーか、士魂号魔改造されてんじゃね?森さんがイキイキしてると思う。

書こうと思えば色々ネタはあると思うぜ、頑張れ>>260

262 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 17:51:29 ID:BgQKFx6X
奥様戦隊や愛の伝道師も割と学園世界に馴染むんじゃない?(主に日常パート)

263 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 18:15:45 ID:huAOjkam
……つーか、今気づいたんだけど>>192の「森さん」ってガンパレの森百翼長じゃね?
んー、やっぱり作者の方々にはちゃんと出展書いてほしいかもー。

264 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 18:37:59 ID:HXEdrTQB
唐突ですが投下予告をば。
「柊蓮司と銀なる石の少女」第六回、もう少しで書き上がりそうなので予告に参上しました。
たぶん、十九時半前後にはふたたびお邪魔できると思います。
また投下時、後ほどお会いしましょう〜。

265 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 18:39:12 ID:huAOjkam
いえっさ、来やがれー

266 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:31:39 ID:on01leeV
wkwk
wktk
tktk
tkll

267 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:31:39 ID:DzkHcICG

     ※

「俺たちにとって……大きな意味のある戦いだと……?」

 紙魚と黴の匂いが鼻腔をくすぐる、静けき月匣のその内部で。
 思わせ振りなリオンの呟きを、そのまま鸚鵡返しに繰り返して口に出した柊は、凝れる静謐に支配されたこの結界の中で、自らの発した声がやけに大きく響いたように感じていた。

 途端に、身中を貫く悪寒のような震えに襲われる。

 それはまるで、氷柱を丸ごと胃袋に飲み込んだような。
 腹の底から深々と冷気が込み上げてくるような。
 かつて経験したことのある、どんな悪寒とも異質の ――― 得体の知れない寒々しさである。
 数多の戦いに接し、闘争という避けえぬ衝突には慣れているつもりでも。
 所謂、世界の危機というヤツだって幾度となく経験しているつもりでも。
 これは、柊がほとんど初めて感じる、正体不明の不安感といえた。
 なるほど ――― いま、自分が首を突っ込んでいるのは、ウィザードとエミュレイターという二極化された勢力だけが関わる戦いではない。
 つい今朝まで知りうるはずもなかった『オーヴァード』という、自分とはまったく別種の存在をも、その渦中に巻き込んだ戦いに発展しようとしているのが現状なのだ。
 未知なるものの存在を身近に感じ。
 未知なるものとの戦いの予感を肌で捉える。
 柊が感じている異質の不安の正体とは、もしかしたらそこに起因しているのかもしれなかった。
 敵はエミュレイターだけではない。まして魔王だけでもない。
 その事実が、柊の無意識に暗い翳を落としている。
「はい……そしてそれは、この世界の根幹を揺るがしかねない、とても大きな戦いとなるはずだと、この書物にも書いてあります」
 そんなお決まりのリオンの言葉に、
「他人事みたいに言いやがって……」
 反駁する声に、いつもの勢いがないのもそのせいであったかもしれない。
「それよりお前、たしか“宣戦布告”、って言ったよな」
 内心にくすぶる不安定な感情を振り切るように、柊が、険悪な顔をしながらリオンに噛み付いた。
 リオンは平然と、その静かなる苛立ちを柳に風とばかりに受け流すと、
「ええ。“形の上”では、私も貴方たちの敵ということになりますから」
 さらりとそんな風に言ってのける。

 ふと ―――

 そこまで話し終えると、リオンは静かに瞳を伏せた。
 ほう……と、どこか悩ましげな溜息をつくと、ローブの長い袖から手を伸ばし、その指先を虚空へと差し出した。
 突如として、ぱらぱら、ぱらぱら、と乾いた音が周囲に響き渡る。
 見れば、びっしりと細かい文字の記された幾百枚の古紙がどこからともなく現れ、辺りの空間を埋め尽くすように舞い散り始めていた。
 それらは、無風の空間にあってなお、意志あるがごとくにリオンの傍らにひとりでに集まると、見る見るうちにひとつの形を作り出す。


268 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:32:49 ID:DzkHcICG
「……! おい、いったいなにを ――― 」
 リオンの行動に色めき立ち、柊が声を荒げる。
 しかし、そこに現れ出でたものを目の当たりにすると、彼は次の瞬間、がっくりと肩を落とした。
 仰々しくなにをやらかすのかと思ったら ――― リオンが紙の束を集めて凝り固め、作り上げたものは、なんの変哲もないロッキングチェアーなのであった。
「……どっこいしょ」
 珍しく長いこと突っ立っていて、疲れたのに違いない。
 少女の外見に相応しいとは到底思えないくたびれた口調でそう言うと、リオンは自らの生み出した椅子にストン、と腰掛けた。
「……おばはんか、お前は」
「あらあら。そういう失礼なことをおっしゃる方には、椅子など必要ありませんね」
 手のひらを紫帆とミナリに差し向けながら、柊のほうを見向きもせずにリオンが言う。
 いつの間にか、紫帆たちの傍らにも、同じように紙片で作られた椅子が設置されている。
 リオンが二人に向かって手を差し出したのは、「どうぞおかけになってください」という意思表示のようであった。
「あ、どうもありがとう」
「し、失礼します」
 紫帆は後先考えずにどっかりと、ミナリはおそるおそる壊れ物を扱うように、リオンの魔法で作られた椅子に腰を掛ける。
 ミナリが所在なさげに、やたらとお尻をもぞもぞさせているのは、『紙で作った椅子なんかに座って、潰れたりはしないだろうか』と心配しているせいだ。
 当然のことながら、柊の分の椅子は ――― ない。

「それでは……始めましょうか」
 普段は胸元に抱えている書物を膝の上に乗せて座り、しばし考え込むように瞳を閉じていたリオンが口を開いたのは、それから数分経ってからのことである。
 それはおそらく、これから語る言葉を十分に吟味していたためであろう。
「まず……いまこの街において、ジャームとエミュレイターが同時期、同地点で発生を観測されているという事象は、ご存知ですね」
「あったりまえだろ。そのおかげで、俺がアンゼロットにとっ捕まって、この街に放り込まれたんじゃねーか」
 憮然としながら柊が言う。
「それもそうでしたね……それでは、お聞きしますが……貴方たちは、この鳴島市という街に起きている異変を、どのように考えていらっしゃるのですか……?」
「どのように、って言われても……」
「うん……私も、まだよくは……」
 リオンの問いかけに、自分たちが住み暮らす鳴島市という単語が出てきたことで、真っ先に反応を示したのは紫帆とミナリの二人である。
 しかし、問いかけに対する応答が上手く口をついて出てこない。
 なんと応えたらいいのかがわからない。
 彼女たちにしてみたところで、ウィザードや魔王という存在を知ったのはついさっきのことであり、未知なる存在との遭遇に困惑しているのは、おそらく柊以上のことであろう。
 ただ、現在進行形でこの街に起きている異変を“そういう事象”として認識しているだけで、その裏に隠された本当の意味や、この一件を企んだ『誰か』の思惑まで推し量ることはできていない。
 紫帆たちに分かっていることといえば、銀目の鴉の事件後、鳴島市周辺でジャームの発生やレネゲイド犯罪が急激に増加を始めたこと。
 時を同じくして、『エミュレイター』と呼ばれる異世界からの侵略者が、ジャームと行動を共にするかのように、同様の出現を繰り返しているということ。
 そして ―――

「そして ――― たぶん、もしかしたら……それが私を中心に起きてしまった事件なのかも、っていうことぐらいかな……」


269 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:32:56 ID:on01leeV
作者さんに、セカンドアクションを付与支援。

270 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:35:00 ID:DzkHcICG
 無理矢理、喉から搾り出すように紫帆が言う。
 それは本当なら考えたくもない、言いたくもない事柄であったに違いない。
 それでも紫帆は気丈に振舞い、きっぱりとその言葉を口にした。
 アンゼロットの危惧していたこと。霧谷が苦渋に満ちた声で告げたこと。
 はっきりと紫帆を名指しで、事件の原因呼ばわりすることこそしなかったが、彼らの内心に気づかないほど紫帆は愚かではない。
 だからこそ、霧谷たちが姿を消した後には大いにへこみもしたし、それ故に、柊やミナリたちに励まされ、自分の本来の姿をようやく取り戻したのである。
 リオンは、紫帆を真っ直ぐに見つめていた。
 紫帆の、強い意志を宿した瞳の奥を覗き込んでいた。
 その交錯する視線からなにを感じ取ったものか、わずかの間をおいてから微かに微笑むと、リオンは頷いて言葉を継いだ。
「……アンゼロットの ――― そして貴女たちの推測は、間違ってはいません」
 ぎくり、と紫帆が身を硬くする。
(ある程度の覚悟はしていたけれど……)
 改めて、『この件を企んでいるらしい』敵のひとりから、そうあけすけに告白されれば、多少なりとも衝撃はあるものだった。
「ジャームと、その……エミュレイター? が狙っているのが、やっぱり私のことだっていうことなのかな……?」
 気丈であろうとすればするほど ――― 声が震える。
 眼前の魔王から目をそらさずにいようとすればするほど ――― 瞳が潤む。

『この増加傾向は、“ある日”を境にスタートしています……それは ――― 銀目の鴉事件の収束した、そのすぐ翌日からです』 ―――

 ぺリゴールで霧谷が告げた言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
 もし霧谷が、事件の発生原因になんらかの憶測を仮定していなければ。
 紫帆との因果関係を見出していなければ。
 わざわざ紫帆に向かって、銀目の鴉事件を引き合いに出して説明することもないはずである。
 それは霧谷たちが、これは紫帆の持つ賢者の石にまつわる新たな事件なのではないか、と認識しているという、なによりの証拠であろう。
「……私は、『ある利害の一致』を理由として、現在とあるオーヴァードと共闘関係にあります」
 リオンが言う。
「七村紫帆さん……そのオーヴァードの狙いは、確かに貴女です。貴女の胸に埋め込まれ、心臓と癒着した賢者の石。そして貴女の持つオーヴァードとしての資質が、彼女の興味を引きました」
 紫帆の質問に対する、それがリオンの答えであった。
「彼女ってことは、その人は女性なんですね?」
 ミナリが耳聡くその言葉を聞きとがめ、リオンに問いかける。
「あらあら、私としたことが」
「……ざーとらしいぞ」
 リオンが、はなから包み隠すつもりなどないことを見抜いて、柊がツッコミを入れた。
 どういうつもりか知らないが、リオンは『敵』であるはずのウィザードや紫帆たちに、許される限りで情報を手渡そうとしているようである。
 もっとも、その許される限りの情報とは、リオンの胸先ひとつで決まるのだが。


271 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:36:13 ID:DzkHcICG
「……私が共闘しているオーヴァード……彼女の名前は、都築京香といいます。“プランナー”という通り名が、UGNでは有名らしいですね」
「!」
 ミナリが息を飲む気配が、側に立つ柊にも伝わってきた。
 椅子の肘掛を鷲掴みにして腰を浮かし、身を乗り出したミナリの顔が、怖いくらいに引き締められている。そんなミナリの様子に、紫帆がゆっくりと彼女のほうを振り向いた。
 そして。
「……委員長……知ってる人……?」
 顔にクエスチョンマークを浮かべながら小首を傾げ、紫帆が尋ねる。
「ちょっ、紫帆! なんであなたが知らないの……って、言ってもしょうがないわね。いくらオーヴァードでも、私みたいに組織に属しているわけじゃないんだから」
 だけど、かなり最初の頃、私が講義で説明したような気がするんだけど ――― ジロリと、紫帆の顔を睨みつけ、ミナリが言う。
 紫帆がオーヴァードに成りたての頃、かなりスパルタ式に“こちらの世界”のことについてレクチャーしてやったはずなのだが。
 どうやら紫帆の頭の中には、あまりミナリの講義の内容は残っていなかったようだ。
「まあ、いいわ。でも、いい機会だからこの際おさらいしておくのも悪くはないわね。ちょうど、こちら側の世界には疎い柊さんもいらっしゃることですし」

 都築京香。
 “プランナー”のコードネームを持つオーヴァード。
 UGNと対を成すオーヴァード組織、ファルスハーツの日本支部長であり、彼女の『プラン』によって引き起こされたレネゲイド犯罪やテロリズムは数知れず ―――

「つまり、オーヴァードの中でも性質の悪い、危険なヤツだって考えていいんだな?」
「ええ。柊さん……いえ、ウィザード風に表現するなら、魔王級、ということです」
 ミナリの解説に、なるほど、分かりやすいぜ、と柊も表情を固くする。
 要は、『裏界の魔王』と『オーヴァードの魔王』が手を組んで悪巧みをしているって寸法か、と自分なりの乱暴な解釈をして納得した。
 確かにこれは気を抜いていられない事態だな、とそう思う。
 ふと、真横に目をやれば。
 唇を引き締め、なにかをじっと考え込むような難しい顔つきの紫帆がいる。
「私の……賢者の石を……?」
「ええ。彼女も初めは、闇雲に鳴島市周辺で事件を起こしていたようです。銀目の鴉、というオーヴァードの事件から類推して、彼女の求める資質を持つものがこの辺りにいるはずだ、と」
 プランナーが紫帆の存在を嗅ぎ当てるのに時間がかかったのは、おそらくUGNの情報規制や隠蔽工作がよほど強固で巧みであったためでしょう、とリオンが付け加えた。
 確かにあの事件は世界中のオーヴァードの存在に関わるものであった。日本支部のみならず、中枢評議会の圧力もあって、紫帆と銀目の鴉に関わる情報は、相当慎重に扱われたはずである。
「ですが、彼女はついに貴女の存在を突き止めました。あとは、私たちの準備さえ整えば、なりふり構わず貴女を狙ってくるでしょう」
「それで、結局お前らの狙いはなんだ!? 賢者の石ってヤツのことはさっぱりわからねえが、とにかくそれをお前らの思うように使わせるわけにはいかねえってことだけは理解できるぜ!」
 柊が拳を握り締めて声を張り上げる。


272 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:36:20 ID:on01leeV
支援射撃

273 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:38:34 ID:DzkHcICG
 詳しい事情は知らないし、聞かされてもいない。
 しかし、ぺリゴールでの会話といまのリオンの言葉で、柊にも大まかな事情は飲み込めた。

 普通の ――― いたって普通の高校生だった紫帆は、かつて、突如迎えた『死』によって、望みもしないのにオーヴァードという存在に覚醒した。
 そして、訳もわからぬまま戦いに巻き込まれ、その戦いのうちに、自らの秘められた力と過去の出生を知ることになる。
 きっと傷つきもしただろう。そして悩まされもしただろう。
 挙句、その果てに、レネゲイドウィルスの存在そのものを揺るがすような、世界を巻き込むほどの決戦を経験させられた。
 そして、また。
 紫帆は望みもしない陰謀に巻き込まれ、ふたたび戦いを余儀なくされるのであろう。

 柊は怒っていた。静かに、しかし確実に憤っていた。
 紫帆の姿が、柊のよく知る“ひとりの少女”に重なって見えて、なんともやりきれない気持ちになった。

 普通の ――― いたって普通の高校生だったその少女も、突如ウィザードとして覚醒した。
 そして、戦いに巻き込まれ、その戦いのうちに、自らの秘められた力と過去の出生を知ることになった。
 あのとき、あいつは傷ついた。そして悩みもしたし、悲しみもした。
 その悩みや悲しみから立ち直り、すべての戦いに決着をつけ、いまは普通の少女へと戻ることの出来たあいつ。柊の、大切な仲間の一人であり、可愛い後輩。
 もし、あいつが再び誰かの陰謀に巻き込まれたら、と考えるとぞっとする。
 柊の脳裏には、そんな少女と紫帆の姿が確実にだぶって見えていた。
 だから怒る。柊は、だからこのとき、改めて固く決意をする。

 紫帆を、魔王たちの好きにはさせねえ、と。
 紫帆を、俺のこの手で護るんだ、と。

 柊の全身が無意識に脱力する。
 虚空にかざした右手は、いつしか月衣から愛用の魔剣を引き抜いていた。
 リオンの不戦の宣言をこちらから違えるつもりはない。だが、柊は魔剣をその手に握ることで、魔剣を握った手を向けることで、密かに誓った決意を相手に示すつもりだった。
 裏界の魔王、“秘密侯爵”、リオン=グンタに ――― 今度はこちらが宣戦布告をする番だった。

「俺は ――― 戦うぜ。紫帆を護る。絶対に、だ!」
「ひ、柊クン……」
 ありがとう、と言いかけて声をつまらせる。改めて、こうして力強く宣言されると、自分では心を強く持っているつもりでも、やっぱりグッときてしまう紫帆であった。
 ぎゅっ、と目をつぶる。制服の袖で、どうしても滲み出てしまうものを拭い去るために、ぐしぐしと目を擦る。
 顔を上げたときの紫帆は、すべての迷いを吹っ切った、晴れ晴れとした顔をしていた。
「私も戦う。誰にも、私の力を悪いことなんかに使わせたくない。最初に言ったとおりになっちゃったけど……やっぱり助けてもらうことになりそうだけど……」


274 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:40:56 ID:DzkHcICG
 ミナリが頷く。
 力強く、大らかな笑みを柊が口元に浮かべる。
「だけど、私は戦うから。だから、二人とも私を助けて ――― ううん、一緒に戦って!」
「言ったでしょ? 持ちつ持たれつ、って。私は初めからそのつもりだったわ」
 ミナリが椅子を蹴って立ち上がる。紫帆がミナリに続いて席を立つ。
 ゆっくりと、柊がリオンを振り返った。
 ひとりの魔剣使いと、二人のオーヴァードが、いまこの瞬間、“魔王”と呼ばれる存在に改めて、戦いの決意を表明した。

「……ふふ」
 なぜか、どこか嬉しげに笑みを漏らすリオン=グンタ。
 その瞬間。
 月匣内では、ルーラーの意志が結界世界の法則に色濃く反映されるという約束のとおり ――― 突如として、古書回廊の床が彼我の間隔を瞬時に拡大すべく、地平の果てまで一息に伸びた。
 魔剣の間合いも。紫帆の光の剣や、ミナリのワイヤーウィップの間合いも、もはや届かない。
 遥か彼方、床と空間ごと転移した魔王の声だけが、月匣内に響き渡る。

『先程の質問に、答えておきましょう……私たちの狙いが、一体なにか ――― 』

 自分たちの目的のすべてを語るつもりではないだろう。
 しかし、いかなる意図故か。
 リオンは、残された謎の一端を開示することに抵抗はないようであった。

『プランナーと私の目的は異なるもの……ただ、お互いの知識と力を利用することで、それぞれの目指す場所に到達し得る、というただ一点において、私たちは協力し合っているのです』
「だから、その目的ってのはなんなんだ!?」
 すでに姿を見失ったリオンに向かって柊が叫ぶ。
『 ――― プライメイト・オーヴァードと呼ばれる存在の誕生……彼女は、たしかそう言っていました……その果てに、彼女がどんな世界を見据えているのかは……いまは秘密です』
 肝心なところは秘しておきたいということか、柊の詰問をリオンははぐらかした。
 彼女の口振りからは、プランナーの目指すものがなんであれ、それをすべて見通していることが窺える。
 彼女の持つ書物の前には ――― すべての秘密が無意味なものとなるのだから。

『そして、私の目的は ――― 』

 リオンの声が低く、冷たく木霊する。

『エミュレイターが……オーヴァードの力を得られる可能性について探ること ――― 』

「なんだとっ!? そんなことして、いったいどう……!」
『分かっているはずですよ、柊蓮司……先の“大戦”を契機として、私たちも貴方たちも、その力の在り方を変えざるを得なくなった……私たちには、新しい力が必要となる……』
「な、に……?」
 先の大戦とは言うまでもなく、宝玉戦争を指しての言葉であろう。
 リオンが言うところの“新しい力の必要性”が、あの戦いをきっかけとして生まれたものであるとすれば、それはまさしく ――― “彼ら”との抗争を念頭に置いたものだ。


275 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:43:15 ID:on01leeV
ハンティングスタイル支援(それは支援じゃない)

276 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:45:13 ID:DzkHcICG
「 ――― 冥魔、か……? まさか、あいつらと戦うための力を得るために……」
『そして、いずれは貴方たちウィザードと、最後の闘いを戦うための力を私たちが得るためでもあります』
 珍しく強い語調でリオンが言い放つ。
 宝玉戦争終結を境にして、“新たな”力を得ることとなったウィザードたち。
 魔王であるリオンが警戒し、重要視しているのは、なにも冥魔相手だけのことではないのだろう。
『あらあら……少々、お喋りがすぎたようですね……』
 これ以上は教えぬというつもりか、一方的な情報開示をやはり一方的に打ち切って、一時リオンが口をつぐむ。
 そして最後に、微かな残響を残して遠ざかるリオンの声が、紫帆へと呼びかけた。
『七村紫帆……私のプレゼントが、この戦いで貴女に必要となるときが来るかもしれません……』
「え……? あ、賢者の石……!?」
 リオンに言われてそれの存在を思い出したとき、手のひらに熱いものを感じた。
 いつの間に、如何にして持たせたものかはわからないが、紫帆の拳の中には、銀色に輝く賢者の石が握られていた。
「説明が足りねえよ! まだ、紫帆に賢者の石を渡した理由を聞いてねえ! 俺たちが、これからの戦いで必要とするようなものを、魔王自らが届けてくれるなんておかしいじゃねえか!」
『ふふふ……それは、秘密です』
「肝心なところはいつもそれか!?」
『ですが……私の真意はともかくとして、これだけは確実なことが言えます……賢者の石……いいえ、“銀なる石”は間違いなく、七村紫帆に大いなる力を与えるもの……』

 この先の戦いにおける切り札となりうることだけは保証しますよ ――― その言葉を最後に、リオンの気配が完全に掻き消えた。
 紅い月が消失する。書架の列が霞みのようにおぼろげになる。
 気がつけばそこは、夜のショッピングモールとしての光景を、すでに取り戻していた。
「紫帆、ミナリ、なんともねえか?」
 月衣に魔剣を収めて振り返り、柊が二人の少女に呼びかける。
 手のひらに、手渡された銀色の石を乗せたまま、その淡い輝きを俯き加減で見つめている紫帆。
 そんな彼女に駆け寄り、気遣うようにその肩に手を置くミナリ。
 二人になんとなく声がかけづらくて、柊は口の中でもごもごとかけるべき言葉を捜していたが、結局は諦めて無言のまま髪をかきむしった。
 時刻は午後十一時。
 今夜の魔王との邂逅をいまは忘れろ、とは言えなかったが、事態が思わぬ進展を見せ始めたからこそ、彼女たちには十分な休息を取らせなければいけないだろう。
 二人に、明日もう一度仕切りなおそう、とだけ声をかける。そして、そんなことしか言えない自分に歯痒さを感じながらも、柊は紫帆たちに帰宅を促すことしかいまはできなかった。
(ちくしょう……俺の頭じゃ、まだなにがどうなってんのか、どうすればいいのかさっぱりわからねえ)
 だからといって、自分にできないことをあれこれ考えるぐらいなら。
 自分に出来る最善のことがなにかを考えたほうがましである。

 俺にできること……っていったら ―――

 いまさっきまで握り締めていた魔剣の柄の感触を、柊は思い出す。
 それは愚鈍で野蛮な行為、単純で粗野な振る舞いを否応なく連想させるものでしかなかった。
 所詮は、自分が出来ることなどその程度のことでしかない。


277 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:45:58 ID:DzkHcICG
「だけど……それがどうしたってんだ」
 護る相手がいるのなら。戦う相手がいるのなら。
 自分に出来るその程度のことが、自分に出来る最善の行為に違いないのだと ――― 柊は自分にそう言い聞かせた。
 くるりときびすを返す。志帆とミナリの軽い足音が、とぼとぼと自分についてきている。
 肩越しに振り返り背後の様子を窺うと、その視線に気がついて、なんともぎこちない ――― それでもなんとか精一杯の笑顔を浮かべてみせようとする紫帆と目が合った。
「……心配すんな。今夜はもう、帰って寝ちまえよ」
 柊の言葉に、紫帆がはにかんだように微笑んで見せた ――― 。

     ※

 ほぼ同時刻。
 鳴島市ポートタワー三階。
 街を一望できる展望喫茶店を、静かに侵蝕するものがある。
 ざわざわ、と。ぷちぷち、と。
 肌身を、神経を、それよりもっと奥深い場所を撫で回すようなざわめきが辺りに充満し、すべての生けとし生けるものは、強制的に無力化された。
 ただ、二人の人物を除いては。
「ん〜。わざわざ《ワーディング》を張るなんて、用心深いんだねえ。あまり他の人には聞かせたくないお話なのかな? あ、それともやっぱり僕と二人きりになりたくて?」
 二人のうち一方 ――― 千城寺薫が緊迫感に欠ける間延びした声を上げた。
 対面するのは年端もいかぬ少女 ――― プランナーこと都築京香。
 《ワーディング》は彼女が展開したものであり、それはおそらく薫の言うとおり、これからの会話の内容が他者に漏れ聞こえることを用心しての配慮であろう。
「貴方の言葉の意図するところとは少々のズレがあるようですが、まあ、おおむねその通りです」
 プランナーの答えに、ふむ、と愉しげに鼻を鳴らす薫。しかし、軽口を叩きつつも、彼女を凝視する視線の中には、プランナーを値踏みするような不敵さがある。
「それじゃあ、聞かせてもらっちゃおうかな。この僕になにを望んでいるのかを、さ」
「半分は望み。半分は、貴方への研究支援の申し出です。ただし、研究素材はこちらの提示したものに限られますが」
 プランナーの言葉に、薫は片方の眉だけを器用に吊り上げて、へえ、と感嘆の溜息を漏らす。
 続けざまに、すぐさまあの人を喰ったような笑みを唇に浮かべると、外国人のような肩をすくめるポーズを取って首を左右に二、三度振った。
「これでも一応はUGNに身を置く研究者なんだよ?」
 よりにもよってファルスハーツからの申し出にほいほいと乗るはずがないでしょう? ――― まるでそう言っているかのようだった。しかし、プランナーはすぐに引き下がることはしなかった。
「レネゲイドウィルスの研究。そして、そのテーマの重要度次第では、私たちがひとつの目的の元に手を携え、共同研究を行うという展開も望めると思いますが?」
 事実、かつて私たちがそのようにして設立したプロジェクトチームの存在に、前例がなかったわけではありません ――― プランナーはそうも言う。
「ああ〜、確かにねぇ〜。ただし、それはあくまでも非公式の話でしょ?」
 薫の口調に、どこか揶揄するような響きがこもる。
「しかも、時間の経過と共に本来の研究目的は忘れ去られ、研究内容は歪み、ついには封印指定のなされた曰くつきのプロジェクトだって聞いているけど?」
 薫がそこで、ウィンクひとつ。
 プランナーの笑みが、そのとき初めて“妖艶”から“凄絶”なものへと変化した。
「一研究者では知りえぬことを、よくぞ……私が貴方に白羽の矢を立てたことはやはり間違いではなかったようですね」
「まあ、同じ研究者として興味深い内容のプロジェクトであったことは確かだけどね。でも、そんなに簡単なものじゃないと思うけどなあ。《完全なる人》、なんてさあ」
 一瞬だけ、プランナーの瞳に殺意にも似た光が灯ったのを、薫は気がついただろうか。
 それは、『この男、どこまでのことを知っているのか』、といぶかしむようでもある。


278 名前:柊蓮司と銀なる石の少女:2009/04/23(木) 19:47:48 ID:DzkHcICG
「それでは、非公式とはいえ私の申し出を受けることは出来ない、と仰るのでしょうか」
「ううん〜。それは僕の興味をどれほど引くことができるかによるんじゃないのかなあ〜」
 乗ると見せかけて引く、引くと見せかけて乗る。
 どこまでも本心の読めないのは、プランナーだけではなく薫も同じことであった。
「それでは、私の提示する研究材料が貴方の興味を引くことができれば、申し出を受けてくださるということでしょうか」
「うん。まあ、そうだねえ」
 思いの外あっさりと、薫は頷いた。
「ただし、条件があるよ」
「?」
「ひとつ。僕が君から依頼を受けて研究、調査することを、僕は秘密にはしない。必要ならば、僕の友達を通じてUGNにその内容が伝えることもあるかもしれない」
 薫が人差し指を突き出した。
「ふたつ。研究のやり方については君たちの指図は受けない。僕には僕のやり方があるからね。君たちみたいに手段を選ばない方法は、僕のスタイルじゃないからね」
 続いて中指を立て、ピースサインを作る。
「身勝手な条件をつけたけど、これでも僕に頼むのかい? 研究素材を君たちから分捕り、好き勝手に弄り回した上に、組織にも情報をただ漏れにさせてもらう。そう言ってるんだけどねえ?」

 傍若無人な薫の提案を ――― プランナーは笑顔で受け止めた。
 それは、薫の言う諸条件を快く承諾するという意思表示である。

「その条件で結構です。契約は成立、ということですね。それでは、こちらが貴方にお渡しする研究素材となります ――― どうかお納めください」
 二人の囲んだテーブルの足元、プランナーの腰掛けた椅子の脚の傍らに置かれていた小さなケースを、彼女は取り上げた。
 真っ白なテーブルクロスの上にケースを置き、薫によく見えるように提示する。
 カチン、と硬い音を立ててケースの鍵が開かれ、ゆっくりと蓋が開けられた。

 両手で抱えられるほどのケースの中に、衝撃を吸収するためのスポンジ材が隙間なく敷き詰められ、径の太めに作られた試験管が、合わせて七本。
 ひゅう、と薫が軽快な口笛を鳴らし、プランナーを見遣る。
「驚いたね! 僕の興味を引く研究素材なんてそうざらにはないけれど、これは文句なしだ!」
 目をキラキラ輝かせて、たくさんの玩具を与えられた子供のように歓喜する。
「でも、どうやってこれを? それも、こんなにたくさん?」
 薫の問いにうっすらと、あるかなしかの微笑を浮かべてプランナーが応じる。
「ヘルメスのトートにできたことを、私たちが出来ない理由はありません。一番苦労したのは、廃棄された研究資料の復元ですが、一度それさえ完了してしまえば ――― 」

 微かな誇りを滲ませて、プランナー曰く。
 貴方がご覧になっている通りのものが、出来上がります ――― と。

 テーブル上の品。
 ケース内に収められた試験管の中。
 薄く緑色に着色された溶液に満たされたその内部に浮かぶのは。

 それぞれが異なる形をした石 ――― 銀色に淡く輝く、七つの賢者の石であった。

(続く)


279 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:48:23 ID:huAOjkam
支援

280 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:48:56 ID:DzkHcICG
投下終了です。ご支援、有難うございました。
アニメのNWの話に軽く触れてみたり、アライヴ以外のDXリプレイネタをちょっと挿し込んでみたり。
ちょっと遊びの要素を入れる気持ちの余裕が多少なりとも出てきたのかもしれません(笑)。
それでは次回のお目見えまで。
ではでは。

281 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 19:56:42 ID:huAOjkam
アダムカドモン、かぁ。懐かしいなぁGJー。

欲を言うなら、ミナリの心境がだいぶスルーされがちなのが寂しいかなぁ……

オアシスの出番が増えることを祈って。

282 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 20:05:32 ID:EtyvMJQS
アライブ以外と聞いて戦国ジパングが真っ先に浮かんだ俺はどうすれば・・・orz

283 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 20:06:30 ID:vN0NUaWx
乙〜。
やはり、ところどころに差し込まれるリプレイネタにニヤリとくるなぁ。

284 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 20:33:40 ID:ao3eQssI
>>282
自分はストライクが。

285 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 20:40:44 ID:on01leeV
ならば僕は、上月兄弟リプを。

286 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 20:57:05 ID:ZTpS50Af
>>282
ここまで嵯峨童子が出てこなかったことに絶望した!!

>>280
GJ、です。
ジョージ、あっさり寝返りそうな悪寒・・・・w

287 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/23(木) 21:14:28 ID:mU/z9Av8
>>280
GJっす。

ダブクロリプで10年前って色々とヤバい研究してた頃だよなー
神崎の娘とかアダムカドモンとか

288 名前:投下準備完了:2009/04/24(金) 00:41:15 ID:OU6tWwKb
さて!

やけに長くなったので分割投下です!
支援ほしいです!
五分後投下開始です!
携帯投下なのはパソ子が使えないからです!
やけです!

289 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 00:45:07 ID:OU6tWwKb
 『学園世界』の夜は、静かではないことが多い。
 特に、こんな風に―――紅い月が昇っている夜は。

「ったく……もうちょっと、静かにできねぇのか、よっと」

 地面に転がるのは異形の骸と血のような紅さの小石。

 紅い月の匣の中、立つはビルの3階ほどの高さはあろうかという―――竜種。
 紅の月と同じ色の紅瞳を見開き、その月の匣に立つ『異物』を睨む。
 竜種。人ならざるものとされる怪物・魔獣・神獣と呼ばれる生物の、あらゆる生物体系での最高位や頂点とされる最強の生物の呼称。
 その『最強の種』であるソレは、たった一人の人間に追い込まれていた。
 翼膜は傷つき、片翼を失い、角は絶たれ、固いはずの鱗を貫通する深い傷がいくつも刻まれている。
 
それをやり遂げたただ1人の敵を、竜は憎しみを込めて睨む。
 常人なら―――いや。特殊な能力を持っていようと、心の弱いものならばその一睨みだけで心臓を停止させられそうな威圧感だった。
 竜の眼差しは相手の心を蝕み、竜の雄叫びは相手の体を竦ませる。
 ゆえに、まず竜を相手取る者はその威に支配されないことが第一の資格となる。

 しかし相手はその竜の威圧に動じた様子もない。
 いっそ、気楽な様子でその人間は巨大な竜に話しかける。

「お前らがどこから来たなんなのか、なんてのは聞くつもりはねぇよ。
 紅い月背負ってる割に、エミュレイターっぽい気配がないってのは確かに気になるが……俺が気にしたところで、解決する問題でもないしな」

 刃渡り1m半はあろうかという、巨大な刃が竜に向く。
 ウィッチブレード。『箒』という意味を持った、第八世界ファー・ジ・アースと呼ばれる世界における近接戦特化型魔導式箒。
 それを扱う魔法使い、『ウィザード』はそう少なくはない。
 しかし。
 今現在竜と対峙する、その刃を振るう者はただの魔法使いにあらず。
 彼は、変わらぬ瞳で竜を睨む。

「だがな、俺は紅い月背負って出てきたヤツをただで見逃すわけにはいかねぇし。
 ―――それ以上に、今何時だと思ってんだお前」

 彼の口から出た軽いその言葉に、竜が全身から憎しみを込めた威圧を放ちだす。
 怒りが。憎しみが。恐れが。憤りが。それら全てを含め、煮詰めたようにぐつぐつと沸き立つ黒い感情が、竜の内に渦を巻く。

「学生(こども)は寝る時間なんだよ。そんなところに手ェ出そうとしてんじゃねぇ、三下」

 敵意を込めて放たれた言葉に、竜の内に溜め込まれた渦が吐き出された。

『死ね。死ねシネしね死んでしまえぇぇぇぇぇぇええエエエエっ!』

 吐き出されたのは、呪詛を含めた業。怨みつらみを込めた黒い玄い炎。
 たった一人に向けて放たれる、最強種・竜種の溜め込んだ怨念の塊。そんなものに触れれば、どんな生物も跡形も残らないだろう。
 それを真正面から見据えたまま。
 刃を下ろし、無造作に何事か呟いて。

 ―――次の瞬間、すでに勝負は決していた。

 竜の頭上から突き落とされる、天から撃ち落つ雷挺の如き一撃。
 凄まじい下突きが頭上から降り落ち、頭から脳を貫通して顎に突き抜けた刃は地面と竜の頭を縫いつけた。
 びくり、と一度震え、目を見開く竜。断末魔を上げようとするものの、それは巨大な刃のせいで叶わない。
 怨みも。怖れも。憤りも。怒りも。慙愧も。悔悟も。ありとあらゆる感情と感傷が竜の目を目まぐるしく駆け巡り―――やがて、その瞳から色が消えた。

290 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 00:48:55 ID:uhxVPrc3
ちょ、携帯投下ってw
言わなきゃわからないのにしえーん

291 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 00:48:58 ID:OU6tWwKb
 あーあ、と疲れたように肩をぐるりと一度回すと、竜の敵対者はもの言わぬ骸に腰掛けて脱力する。

「……エアダンス(まほう)なんて久しぶりに使ったから、余計に疲れたっつの」

 半眼気味に足下の巨体にそう告げた彼は、うだー、と呟いた。
 黒い炎に襲われた彼は、『加速』の魔法を起動。炎の下をくぐりぬけ、ウィッチブレードの飛行機能を使用して頭上に移動し、全力で頭を突き貫いたのだった。

 ……魔法、使えたんだな、お前。

 ともあれ。
 彼は、しかしウィッチブレードの握りから手を離さない。
 理由は簡単―――天上にいまだ紅い月が輝いているからである。

 紅い月とは、侵魔の張る月匣に現れる異変。月門の向こうに見える、唯一の裏界の風景の投影。
 それが未だ天にあるということは、月匣が解除されていないということ。そして。まだ危険は去っていないということだ。
 とはいえ、彼以外に動くものはすでに存在しない。
 解除されるのになにか条件でもあるのかね、なんて呟いたその時。

 不意に、新たな気配が発生したのを感じた。
 彼は即座にそちらに目をやる。
 そこには―――彼のよく知る制服を着た、一人の少女が不敵な表情で立っていた。

292 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 00:51:09 ID:OU6tWwKb
 ***

 大あくび。
 それを見て、それまで話していた長い金髪少女がうん?と首を傾げた。

「やけに眠そうだな? お前、また夜更かししてたのか?」
「またですか。柊ちゃんは夜型さんですねー?」

 そう続くのは、その隣にいるピンク頭の外見少女。
 昼少し前の時刻。本日2件目の事件調停に狩りだされ、それを終え。今は一緒に来たベホイミが事後処理のため動いていて、柊は少し休憩中。
 事件の関係者であり、顔見知りの2人の少女が声をかけてきたのは、その時だった。
 ピンク頭の少女が、目を瞑って指をふりふり、言葉を続ける。

「もう。柊ちゃん、お仕事の頑張りすぎは体に毒なのですよー?
 この間は4日くらい寝るのを忘れてたって聞きましたし、ワーカーホリックは小萌先生が許しません」

 彼女の名前は月詠 小萌(つくよみ こもえ)。
 小学生にしか見えない姿をしているが、彼女はれっきとしたベテラン高校物理教師である。具体的に言うと部屋にはビール缶が溜まってるくらい。
 『学園都市』にあるとある高校の教師をしており、能力開発の研究員でもあるものの、それ以上にあたたかく学生を見守る先生の中のちびっこ(偽)先生である。
 今回の事件は『学園都市』の彼女の学校の人間が巻き込まれていたため、彼女はその生徒を引き取りに来たのである。
 追記すると、それは某幻想殺しではない。

 その隣にいる金髪少女が、目を細めて柊を睨んだ。

「そんなことしてたら、いつか働きすぎで死ぬぞお前」

 ストレートにそう言ったのはレベッカ宮本。こちらは本当に小学生の年齢の高校教師である。
 桃月学園高校1−Cの担任をつとめる数学教師であり―――縁があってというかなんというか、事件に何度か巻き込まれ、柊に助けられたことのある少女である。
 こちらもまた自分の生徒が巻き込まれたのを引き取りにきたのだが、事後処理が済むまでは引き取れないため待ちぼうけ中であり、柊を見つけて話しかけたのだった。
 その2人に詰め寄られている柊は、ひらひらと手を振って苦笑いした。

「大丈夫だって。昨日はちょっと寝るのが遅くなったっちゃなったけど、2時くらいには寝てるし。
 レベッカ、お前みたいに寝食忘れてネットゲームしてるよりゃ健康的な生活してるつもりなんだけどな」
「なっ……いつの話を持ち出してるんだお前っ!? わたしはこっちに来てからやってないっ! やってないんだぞっ!?」

 わーわー、と両手を挙げて必死に訴えるレベッカに、へいへい、と笑っている柊。
 しかし、ベテラン先生はやはりちょっと格が違うのか、眉を寄せ、腰に手を当てて柊に言う。

「柊ちゃんのお仕事は重労働ですし体が資本。わたし達の生徒さんも預かってる身なんですから、気をつけてもらわないと困ります。
 柊ちゃんは、生徒さんを預かってる時点でわたしたち先生と同じ『保護者』なんですから」

 その言葉には、『保護者』という存在の重みと―――柊への確かな信頼があった。
 信じてもらっている、という思いは嬉しいながらも、その重みを再確認させられる言葉に、彼は溜め息をつく。

「……小萌先生って、ホントは厳しいですよね」
「小萌先生はー。成長するために頑張って真っ当に悩んでる迷える子羊ちゃんには優しく厳しくがモットーなのですー」

 満面の笑みでそう言う小萌先生に、柊はまったく、と苦笑しながら再びの溜め息。
 そういう彼女はどこまでも『教育者』であり。本当にどこまでも『誰かを教え導く』のが天職みたいな人間なのであった。
 たとえ見た目がどこまでも威厳がなかろうとも。

 すい、と目線をそらした先に、最近『学園世界』で流行りだしたカードゲームのカードを大事そうにホルダーにしまう子どもたちの姿が見えた。
 そんな光景を見ながら、ふと自分の現状について思いを馳せる。

293 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 00:52:35 ID:rbepFYzQ
し、支援してあげるけど……別にアンタのためじゃないんだからねっ!?

294 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 00:55:26 ID:OU6tWwKb
 幼稚園児から大人まで、さまざまな年代の人間が住まうこの世界において、『誰かのケンカが大きくなる前に止める』のが自分の仕事だと柊は認識していた。
 それもこれも、この世界に来た当初に、ケンカを始めていた連中を勝手に出しゃばって止めていた自分の性分が原因で。
 この世界が広がっていくのに応じて、職務として必要とされだして。
 実際にやらせてみたら、柊1人では世界全てのケンカを調停するのが無理だと判断され、色んなところから色んな年下の仲間が集められて。
 そんな仲間たちと、笑ったり、バカ話したりしながら一緒にケンカを止めていたら、よくわからない敵がぽんぽん出てくるようになって。
 そいつらの相手もしていたら、『肩書き:学生』とかいうふざけた肩書きを得ていたにも関わらず『保護者』になっていた、というのが正しい経緯。

 とはいえ、彼としても別にその重さを捨てる気はどこにもなくて。
 どうせ背負ったなら最後まで背負ったまま歩いてやるよ、と改めて再認識。

 と。
 そんなことを考えていたら、レベッカが不満そうな表情でじーっと睨んでくるのに気がつく柊。
 その視線の圧力に負けて、彼は尋ねる。

「えーと……レベッカ、どうかしたか?」
「どうかしたか、じゃない。お前また妙なこと考えてただろう」
「人聞き悪いこと言うんじゃねぇよっ!?」

 ツッコミをいれるものの、レベッカの視線の厳しさは変わらない。
 びしぃっ、と柊を指差して、宣言する。

「いいかっ!? お前はただでさえ幸薄くて感覚狂ってるんだから、もっと自分の趣味(したいこと)を見つけろ!」
「なんで俺はそんな仕事漬けで休日に何もすることがない日本の父親みたいなこと言われなきゃならんのだっ!?」
「じ、自覚がなかったんですか柊ちゃん……」

 やけに具体的な表現に、わなわなする小萌先生。
 これは本格的に授業する必要がありますかねー、なんて物騒なことを考えつつ、小萌先生は一つため息。

「いいですか、柊ちゃん。
 なにも自分1人で背負い込めー、なんて小萌先生は一度も言ってないのです。
 柊ちゃんが学生さんたちを危険なことにさらさないように頑張ってくれてるのは知ってますし、そういうお仕事についてるのも知ってます。
 けどですね、柊ちゃんはわたしたち『先生』っていうものを、甘く見すぎてる気がするのですよー」

 そう言って、彼女は出来の悪い 生徒(こども)を諭すように告げる。

「そんな柊ちゃんにレッスン1ですー。
 『学園都市』内に学生さんたちを狙ってる他の学校のテロリストさんが入ってきました。
 柊ちゃんたちはそのテロリストさんを捕まえるために『学園都市』に入る許可が下りました。
 その間柊ちゃんたちは限られた戦力で動かなきゃいけません。
 広い広い『学園都市』内。いつ学生さん180万人中の誰が襲われるかもわからない状況で、執行委員さんたちだけで学生さんたちをみんな守りきれるでしょうか?」

 言われ、言葉に詰まる柊。
 情報収集技能のある初春・ノーチェが必死に探したとしても、東京都の半分の大きさの学園都市である。
 すぐさまそのテロリストを発見することは非常に難しいだろう。
 そして、執行委員中機動力の高いイリヤ・美遊・柊をもってしても学園都市内の端から端まで移動するには多少時間がかかる。
 その間被害を出さない、というのは非常に可能性の薄い話であることは彼にだってわかっている。

 いいですかー?と、黙った柊を楽しそうに見ながら、彼女は言う。

「学生さんたちがひとところに固まっていた方が安全だ、というなら、先生達は学校から一時的に学生さんたちを出さないように出来ます。
 人が必要だ、というのなら、学生さんたちを守るためなら警備員(アンチスキル)の皆さんは喜んで協力するのです。
 夜が危ないというのなら、学生さんたちの完全下校時刻をちょっと早めることができるのです。
 大事な大事な学生さんたちをお預かりしている 先生(わたしたち)に与えられている、学生さんたちを守るための権利というのはですね。
 柊ちゃんが思ってるよりも、きっとずっと大きな 権力(ちから)なのですよー?」

 その辺は初春さんの方がきちんとわかってるかもしれませんねー、赤点ですよ、柊ちゃん。と、彼女は言った。
 彼女の笑みが、あまりにも楽しそうで。
 注意された柊は、思わず苦笑いするしかないのだった。

295 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 00:56:44 ID:OU6tWwKb
「そーでした。アンタって、どこまでも『先生』なんですよね。忘れがちだけど」
「あー! なんですか柊ちゃんまで上条ちゃんみたいなことをー! 先生は悲しいですっ!!」
「はいはい。協力要請とかはちゃんとしますよ。
 ま、俺が気づく前に他の奴が出してることが大半なんでしょうけど。それでも―――忘れやしないように肝に銘じときます」
「はい。それで結構なのですー」

 もう一度、満面の笑み。
 この人には敵わねぇなぁ、なんて柊が思っていると。
 その隣でいつの間にか蚊帳の外にされてむくれている少女が1人いることに気づく。
 当然、レベッカである。彼は、特に意図せぬままに尋ねた。

「どうした、レベッカ? なんか不満溜め込んだような顔して、イヤなことでもあったか?」
「別にっ!」

 ぴしゃり、と叩きつけるような一言。
 鈍感とか朴念仁とか言われている柊にも、不機嫌であることくらいはわかる。
 わかるが―――ちょっと気圧されたため、そうなのか、と言うしかなくなるのだった。
 竜種相手に動じず揺らがず立ち向かった男とは、とても思えないヘタレっぷりだ。
 横で見ている小萌先生が、内心『あぁ、やっぱり柊ちゃんは上条ちゃんと同じ属性の人なのですよ〜……』と呆れるくらいである。
 レベッカは、むぅ、とほっぺたを膨らませたまましばらく柊を睨みつけ、一言ぽつりと呟いた。

「……お前に倒れられると、わたしがもしも危なくなった時に困るんだ。ちょっとは体大事にしろ、馬鹿」

 言われた柊は一瞬ぽかんとするものの、次の瞬間には理解の色を浮かべてあぁ、と頷いた。

「なんかあったらすぐに呼べって言ったのは俺だからな。
 約束は守る。
 だからそう怖い顔すんなって。安心しろ、何があっても守ってやるから」
「だからっ―――!
 あぁ、もうっ! お前にこういう話をしたわたしがバカみたいじゃないか、まったく」

 レベッカとしては『無理するな。無茶するな。できればケガもするな心配だから』と伝えたいわけだが、
素直にものが言えない彼女と、言葉を額面どおり受け取る柊の間できちんとした会話のキャッチボールができるわけもない。
 傍から見ている小萌先生が涙を浮かべそうな感じに不憫な会話に区切りをつけたのは、報われない少女の方だった。

「……もういい。先生権限でベホイミに頼んでみるからお前は何も気にするな」
「? お、おう。わかった」

 ちなみに、レベッカの言った内容は
 『先生権限(=単位とか成績とか出席日数とか)でベホイミに(+柊から目を離さないように)頼んで(=脅しも辞さない構えで)みるから』という意味である。
 この娘も色々と強いところがあるものである。

296 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 00:58:03 ID:OU6tWwKb
 閑話休題。
 その時、柊に遠くから声がかかる。事後処理に動いていたベホイミだ。
 柊の手が必要な事態、つまるところの力仕事の必要なことが起きていたらしい。
 それにおう、と答えて、彼は一度2人に向き直る。

「んじゃ、呼ばれてるから俺も仕事に戻る。
 もうちょっとここで待っててくれ。できるだけ早く生徒帰すようにするからさ」

 彼の言葉に、小萌先生がわかりましたっ。気をつけるのですよー、と答えて。
 一方レベッカは、あわててトートバッグを探り、柊の背に向けて叫ぶ。

「柊っ!」

 その声に、今にも駆け出しそうだった柊が足を止め、レベッカの方を向き直ると―――その胸めがけて、小さな包みが飛び込んでくる。
 包みを受け止めた柊に、レベッカがそっぽを向いて、頬を赤く染めたまま呟いた。

「……1限調理実習で、担当のクラスの連中に引きずってかれて作ったんだ。
 余りものだから、気兼ねなく食べろ」

 柊が包みに視線を落とすと、かわいらしくラッピングされた2種類のクッキーが入っている。
 それを見て柊は珍しく屈託なく笑うと、礼を言う。

「ありがとうな、レベッカ。後でゆっくりした時にでももらって食うから」
「う……あ、あぁ。片方は抹茶とか入れてみた」
「緑色なのは抹茶か。すげーなレベッカ、10歳でこんな菓子作れるなんて」
「子ども扱いするなー! もう、行っちゃえバカ!」

 思わずそう言ってしまったレベッカに、柊は苦笑しながらもう一度ありがとうな、と言ってベホイミの方に向けて駆けていく。
 小萌先生は、ふん、と鼻を鳴らした隣にいる年下の教師に向けて言う。

「宮本先生。小萌先生は、聞きたいことが二つほどあるのですけど、答えていただけますかー?」
「……なんですか、月詠先生」

 小萌先生と2人取り残されたレベッカとしても、声をかけられると反応しないわけにはいかない。
 隣のピンク頭ベテラン教師はやけにニコニコ笑っていて、なんだか嫌な予感はするものの、レベッカは尋ねかえす。
 やっぱりニコニコしたまま、小萌先生はレベッカに聞いた。

「桃月学園のお子さんに伺ったんですがー。
 一年生の別のクラスでー、一昨日クッキーと紅茶クッキーを作ったところがあったらしいですねー。
 カリキュラム(授業内容)っていうのはー、そうぽんぽんと変わるものではないと思うのですがー?」
「―――別に。紅茶も抹茶も、クッキーに混ぜ物してるだけじゃないですか。授業内容の変化、というほどの変化でもないと思いますけど」

 つん、とした様子で答えるレベッカ。
 その様子をニコニコと微笑みながら、そうですかー、と言って受け止める小萌先生は、続けて聞いた。

「ところで、ですが。
 宮本先生は、柊ちゃんが『紅茶を飲む女の子』が苦手だって話、ご存知でしたかー?」
「……さぁ? ハジメテ聞きマシタよ?」
「なんで片言なんですー?」
「〜〜っ、質問は2つじゃなかったんですかっ?」
「おっと。わたしとしたことが、うっかりですー」

 ひまわりのようにニコニコと笑ったままの隣の女性ににちょっかいを出され続け、生徒が帰ってくるまでレベッカは不機嫌な時間を過ごすこととなったのだった。

297 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 00:59:25 ID:OU6tWwKb
 ***

 磯野第八中学前。
 昼休みも終わりかけの時間帯に、柊はぼろっぼろになったグラウンドをぼーっと見つめていた。
 空からやってきた侵略者により、磯野第八中とその隣にある浮世絵中学がビーム爆撃に会い、まぁ色々とあって協力を得たりしながらその侵略者を全部片付けた後である。
 極生の誇る騒ぎの後の後片付け部隊『清掃委員会』によって、穴ぼこだらけのグラウンドや崩れた校舎の一部などがどんどんと直っていく。
 そんな彼らの働きを見ながら、ノーチェからの帰投連絡を待っているところだ。
 ちゃんと侵略者たちがしばらくは来ないことが確認されないと、帰るわけにもいかないのだった。

 と、そこへ。

「あぁっ! 柊さんやん」

 唐突にかけられた声にそちらを向くと、そこには磯中のアイドルと冴えない男子中学生が1人。
 磯中のアイドルこと、瀬戸 燦(せと さん)。
 彼女は隣にいる冴えない男子中学生―――満潮 永澄(みちしお ながすみ)を追いかけて瀬戸内から埼玉まで追いかけてやってきたという凄まじく情の強(こわ)い娘だ。
 柊を見つけると、彼女は無邪気に笑って言う。

「学校守ってくれて、ホントにありがとうなっ!
 わたしや組のみんなもなんとかしようと頑張ったんやけど、空ぁ飛ばれると海のモンは戦うのが難しいきん」

 ……なお。彼女を含め、磯野第八中には人間ではない『人魚』と呼ばれる種族が多数入りこんでおり。
 『人魚』としての能力をフル活用して、柊が到着するまで爆撃に対抗していたりしたのだが。
 隣にいる永澄が、ぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございました。
 もしもあの時来てくれなかったら、きっと学校がとんでもないことに……」

 磯中は割と日常的に色々とんでもない事態にさらされてるような気がするが。
 それに、柊は苦笑しながら答える。

「俺のは仕事だからな。礼とか気にしなくていいって」
「あかんっ!!」

 そう言った燦の周囲が、いきなり暗転する。
 そしてどこからか舞い飛ぶ桜吹雪。燦にだけあたるスポットライト。
 永澄が画面端で『あぁっ!またどこからか燦ちゃんが桜吹雪と暗転用意した!』とか言っているが、ここはスルー対象である。

「……身内の命を拾ってもらっておいて、礼の一つもできんなんて、仁義に反する。
 わたし不器用な女じゃきん、わたしの道に背くことはできん。そんなん、瀬戸内人魚の名折れじゃきん。
 そう―――

 『任侠』と書いて、『にんぎょ』と読むきん!」

 さすがに柊も「読まねぇよ」とはツッコまなかった。
 決め台詞と変身シーンを邪魔しちゃいけないというのは世界共通の認識である。

 閑話休題。
 背景は戻るものの、大量の花吹雪を舞い散らせながら彼女は話を続けた。

「そんなわけやきん、何かお礼させてくれんね?」
「ホントに何もいらねぇんだけどなー……つーか、そういうことは永澄(そいつ)にしてやれよ。
 飛んでくるビームから、お前抱えて逃げ続けたらしいじゃねーか?」

 そう話の矛先を変えるために話題を振られた永澄は、少し照れくさそうに燦の方を向く。

298 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:01:55 ID:OU6tWwKb
「俺は……燦ちゃんが無事なら、それでいいんだ。俺は、燦ちゃんの旦那だろ?
 お嫁さんを守るのって、当たり前のことじゃないか」
「永澄さん……」

 永澄は、中学生の夏休みに家族で行った瀬戸内で、ひょんなことから人魚の燦に命を救われた。
 その後色々ごたごたあった後、なんと中学生にして燦を『嫁』をもらうことになるのだが―――その燦、実は瀬戸内周辺魚類をとりまとめる大やくざ・瀬戸組組長の娘。
 つまりは、永澄、中学生の身空で『極道の娘(おんな)』を嫁にもらうという、なんとも凄まじい人生を送っている。

 余談だが。
 学園世界の危険度と天然入った燦の相性は絶妙で、いつも登下校が一緒になる永澄がさまざまな事件に巻き込まれ。
 燦本人もなかなかの能力を持っているものの、巻き込まれた永澄の人外度が上がらないはずもなく。
 また、英雄の歌ドーピングがちょっと常態化していたりするので、結構この少年も『普通の人間』カテゴリからはズレていたりする。

 ともあれ、若い2人が熱々空間を作っているのは、目の前で見せつけられる側としてはたまったものではない。
 柊が(自身に向くものにはどうしようもなく利かない)気を利かせてその場を去ろうとした時、横から声をかけられた。

「柊さん。さっきは助かったよ」

 そう言って駆け寄ってくるのは、やけに小柄な、白い髪の中のうなじ近くだけは黒髪というやけにパンクな頭の学ラン少年。
 小柄・童顔・学校指定物をきっちりとつけて丸メガネと、外見の割におおよそ争い事とは無縁そうな少年の名は―――奴良 リクオ(ぬら りくお)。
 こちらは磯野第八中の隣にある浮世絵中学の生徒だ。
 いやー、と彼は額に労働の汗を浮かべて実に爽やかな笑顔で―――

「ウチのみんなは生徒の避難誘導を主にやってたから、つららと黒田坊くらいしかあのくらげみたいなの攻撃(おとせ)なくってさ」
「気にすんなよ、あーゆーのなんとかするのも俺らの仕事なんだし」

 ……実に物騒な言葉を吐いてくれた。

 それもそのはず。
 真っ当な人間に見えるものの、実はリクオは大妖怪・ぬらりひょんの血を引く妖怪のクォーター。
 その上、彼の祖父は関東一円の妖怪を統べる妖怪極道『奴良組』の総大将であり、リクオは三代目候補にして奴良組の現『若頭』を襲名している。

 とはいえ、人間の世界である学校―――浮世絵中学では、人の役に立つことを率先してやる学校の便利屋と化していたりもする。
 が、どちらもリクオにとっては自分で考えた上での行動であるためどちらが正しい姿、ということはない。
 浮世絵中学にも何人か『奴良組』の者がリクオの『護衛』という形で入り込んでおり、リクオの命が下ればその能力を行使することもある。

 隣接する学校に別々の極道組織があるということで、当初小さないざこざは山ほどあったものの、元々違う世界からやってきたこともあり、
 燦とリクオが話し合いの席を用意し、『組織としては互いに不可侵』という盟約を交わすに至って、ようやく毎日のようにあった小競り合いを終えたのであった。

 空からやってきたくらげのようなビーム発射生物の群れは、柊が到着するまで、皆を守ろうと瀬戸内組の人魚たちと奴良組の妖怪たちが手を取り合って撃墜し続けていた。
 具体的には瀬戸内組の殺し屋(ヒットマン)『巻貝の巻』と、奴良組の若頭世話係『雪女のつらら』が水圧弾+急速冷凍で氷の弾丸をたらふくぶち込んでやったりとか。

 閑話休題。
 リクオは笑顔で柊にスポーツドリンクを手渡しつつ、言う。

「はいどうぞ、お疲れ様。
 ボクらも自分達のところくらいは迷惑かけないようになんとかしようとしてるんだけど、やっぱり専門の人がいると助かるよ」

 スポーツドリンク(学園世界製の割には実に普通の飲み物である)をありがとうな、と言いながら受け取る柊。
 先ほどまでウィッチブレードで空を駆け回りながら戦っていたため、熱を冷ますのに冷たい飲み物は実にありがたい。
 と、そこでなんだか見つめ合っていた燦が声をかける。

「リクオくんも、さっきはありがとうな。磯中のみんなの避難手伝ってくれて」
「瀬戸さんのところの銭形さんのおかげだよ。すごく助かったって、後で伝えておいてくれるかな」
「任せといてー。巡さんとは同じクラスじゃきん」
「巡はこういう時は役に立つからいいんだけどなぁ。
 ……厄介事にもすぐ首突っ込んだ上、面倒事だけ人に渡すあたりどうにかならんもんかとも思うけど」

 中学生とは思えないような哀愁をこめて、永澄。

299 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:03:25 ID:uhxVPrc3
柊の丁寧語って違和感スレスレの新鮮さがある事に気づいた。さすが不良

300 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:03:57 ID:OU6tWwKb
 銭形 巡(ぜにがた まわり)。
 磯中の名物風紀委員であり、また警察官の最高位である警視総監の父を持つ少女。
 正義感が強く曲がったことが大嫌いで、父を尊敬して警視総監になることが夢な志高い娘である。
 自分の力も考えずに正義感に突き動かされるため、後先を考えないところも含めてトラブルメーカーでもあるが。

 なんでこんなにトラブルメーカーまみれなのかと思えるくらいに永澄の周りはそういう人ばかりだったりする。悲しいことに。
 そんな永澄を、同じくトラブルメーカーの知人ばかりの柊が肩を叩いて慰める。

 うんうん、と頷く柊と、その手を掴んでひそかに涙する永澄。
 何かしら共感できるものがあるようだ。
 苦労人だからな2人とも。
 なんだか永澄と柊の間にしんみりした空気が流れ、燦はそれに気づかず、リクオは気を回して燦の視線を自分の方に集めている。
 なんとも気の利く中学生だ。

 ともあれ、そんな謎の空気をうち壊すように飾り気のない電子音。
 音源は柊の懐からで、0-Phone の着信音だった。
 液晶を見れば、ずっと待っていたノーチェからの着信だ。
 柊は3人に視線で目配せし、電話をとる。話を聞く限り、これ以上の危険はないと判断されたようだ。
 短いやりとりを終えて通話を終えると、彼は3人の方を向き直ろうとして―――足許に落ちていた何かに気づき、拾う。
 掌に収まるほどのそれを一度厳しい視線で見てすぐに月衣に放り込むと、柊は改めて3人の方を向き直った。

「安全も確保されたみてーだし、俺はそろそろ戻るな。
 戻っても戻らなくてもすぐ呼び出されそうな気はするけど」
「あー……大変ですね」
「それが仕事だからな。……まぁ、もうちょい自重してくれると助かるんだが」

 永澄の気遣いの言葉に、柊は苦笑で答える。
 その言葉に、『ケンカならともかく、どこかから勝手に来て襲ってくる人(?)たちに自重の精神はないんじゃないかなー』と永澄は思うものの口にまでは出さず。

「柊さん、今度差し入れ部室に持っていくきん!」
「気をつけてね」

 口々にそう言う中学生の声にじゃーな、と告げて。柊は携帯に表示される最寄の転送陣のところに向けて歩いていくのだった。

301 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:09:50 ID:rr0mjbQG
支援

302 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:12:30 ID:OU6tWwKb
うぁーい、前編終了ー。
続きは半くらいから予定してまーす……。

いや、もうね。なんか泣きそうッス。いい加減常時ネット繋げる人間になりたい。ぐはぁ。

出展とかは後編あとのあとがきで。
それから柊の敬語ですが、原作だとくれは母、アニメだと安藤氏に使ってることから
「精神的にかなわない(ツッコめない)と考えてる人間」にのみ使用するとゆー判断です。
アンゼと小萌先生、どっちが人格的に尊敬できる?とゆー問題です。
柊っぽい敬語、を目指したつもりですがいかがでしょうか。

ではまた後でー。

303 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:15:31 ID:xmhohdFb

乙〜……なんだが蛇足的に言うと、今柊は魔法一つも使えないんだぜw

そもそもエアダンスがエルフレアの魔法になってr(馬鹿は卓ゲ者的に説明しだした)

304 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:30:30 ID:OU6tWwKb
  ***

 麻帆良学園都市。
 学生達は午後の授業中ということで、人通りはまばらな街の道の一つ。
 昼時も終わって午後3時頃。品揃えが一時的に少なくなっている移動ホットドッグ屋の近く。柊蓮司は今、そこにいた。
 つい先ほど麻帆良学園都市近くで起きた、魔法生徒とマッドサイエンティスト魔術士製の、牙の塔からやけに遠い距離を移動してきた謎メカとの争いに調停しに出動。
 謎メカを完全破壊して、魔術士の身柄を魔法生徒と同じ教室出身だという魔術士に預けてきたところである。
 メカを作るのが生きがいみたいになっている彼はたびたびそういう事件を起こすため、いつも回収にくる少年に後で事情を聞く、というのがいつもの流れだ。

 ともあれ。
 そんな柊がなぜ執行部室に戻らずまだ麻帆良に滞在しているかと言えば、理由は簡単。
 消費カロリーが蓄積カロリーを上回ったから、要はお腹が減ったからである。
 余談だが、この移動ホットドッグ屋は『学園都市』に所属しており、いつもは第七学区に出没している。
 店主が好奇心旺盛な人間で、週に2度ほど『学園都市』から出て、他の学園内や学校前に車をつけてホットドッグを販売しているのだという。

 そんなことを知っているわけでもない柊は、メニューを見て『ホットドッグ一つ2000円』という現実に打ちのめされ、すごすごと引き下がるところだった。
 給料が入るようになって少し食生活が潤うようになったからといって、無駄遣いしていい道理はない。
 実に小市民だ。
 中身はお嬢様の美琴なんかはあれ平気で買うんだろうか信じられん、なんて思いながら、彼は昼食がとれそうなところを探す。
 さすがは麻帆良、女性人口のかなり高い学園都市のためオシャレな店が多く、野郎1人で入れそうなところが見当たらない。


 せめてコンビニでもないかと探していると―――横から唐突に膨れ上がった気を感じ、反射的に上体をそらす。
 鼻先をかすめすり抜ける黒い影。
 さらに、黒い影の飛びきた方向の足を軸足に半身になり、横から放たれた拳を受け止めた。
 呟く。

「いきなり物騒だな。俺、お前に何かしたか?」
「いーや、アイサツ代わりや。遠慮なく受け取っとき、兄ちゃん」
「そりゃケンカ売る口上だろうがっ!?」

 ぺい、と相手の手を開放すると、相手―――10歳くらいの犬耳と尻尾の生えた黒髪の学ラン少年―――は、それ以上は殴りかかるようなことはせず気楽に笑う。

「相変わらずやなー、蓮司兄ちゃん。もうちょい真剣になってくれてもえぇと思うんやけど」
「なんでお前みたいな戦闘狂に付き合わなきゃならねぇんだよ断る」
「何言っとるんや。兄ちゃんも売られたケンカは買うタイプやろ?」
「買うには買うが、自分から押し売りはしてないぜ。
 つか、お前に付き合ってるヒマがねーんだよ。ケンカ始めて横から茶々入れられるのってお前も嫌だろ?」
 柊の言葉にぽん、と手を打ってそれもそーか、と笑う少年。
 そんな彼を見て、柊は半眼で告げる。

「わざわざ授業サボってまで俺にケンカ売りにきたのか、お前は」
「違う違う。単にサボってたら蓮司兄ちゃん見かけたから、これはアイサツせなと」
「普通に挨拶できねぇのかよっ!? ていうか、授業は出ろ! ちゃんと出とけ!」
「えー? 何言っとるん、兄ちゃんも出席日数と単位が足りんくって高校ギリギリ卒業やったって聞いとるけど」
「俺のは不可抗力だよっ!?」

 もともと卒業はしたかったものの、任務続きでなかなか学校に来られなかった柊ならではの発言である。
 少年は、そういえば、と腕を頭の後ろで組むと尋ねた。

「蓮司兄ちゃん、そういやなんでこんなところにおるんや? また仕事か?」
「仕事はもう終わってる。単に昼メシ調達しにきただけだよ」
「今3時やで? 大変やなぁ……」
「かわいそうなものを見る目で見んな。
 ……そういや小太郎、お前って麻帆良の学校通ってんだよな。この辺詳しいか?」
「ん? そりゃあ道案内くらいは出来るけど、なんか探しモンか?」
「財布に優しいところで、量食える店。もしくはコンビニ。軽いもんなら奢るぞ」
「よっしゃ、任せとき!」

305 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:32:33 ID:1DmMD1oe
シェン

306 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:35:14 ID:OU6tWwKb
 そう言って、少年―――犬上 小太郎(いぬがみ こたろう)は柊を伴って歩き出す。
 ……結果的に、柊は小太郎のサボりを助長することになるのだった。


 犬上 小太郎。麻帆良学園都市内の学校に通う、影使いの少年。特徴:バカ。そして好戦的。大門高校の草薙 静馬(くさなぎ しずま)等と仲がよい。
 それが柊が彼について知っている全てである。
 何かと強い相手と戦うシチュエーションを求めているため、大規模なケンカの中心に行きたがる。執行委員で調停に向かった先にいたことも少なくはない。
 というか、それがきっかけで柊も会う度にケンカを売られる。

 そんな彼と食事を共にする機会はこれで二度目だ。前の一度は柊が『休日』をもらった日で、どんちゃん騒ぎに参加しただけとも言う。
 ともあれ。
 小太郎の知る一番財布に優しい上美味い店というと超包子になるのだが、店員はただいま授業の真っ最中。
 ゆえに彼らが入ったのは近くの牛丼屋に入ることになったのだった。
 2人は近くの牛丼屋で食事を終えると、店を出る。

「いやー、食った食った。タダメシはやっぱ美味いわー」
「よかったな」
「ついでに腹ごなしもできると完璧なんやけどな」
「そいつはお断りだ」
「なんや、ノリ悪いなぁ。ちょっとくらいええやんか」
「あ、いた! コタローくんっ!」

 そう唇を尖らす小太郎に向けて、横から声がかかった。
 そちらを向けば、赤みの強い茶色ながらリクオと同じようにうなじ近くは黒い髪。遮魔眼鏡にスーツ姿の、小太郎と同じくらいの年頃の少年。
 小太郎を探して走ってきたのか、少年は少し頬が紅潮している。
 その少年を見て、小太郎が反応した。

「おぉ? ネギやないか、なにかあったんか?」
「なにかあったのかじゃないよっ!?
 もう……学校突然抜け出してどこか行っちゃったって校長先生から連絡があったから、探しに来たんだ」
「なんで俺がどっか行くとネギに連絡が入るねん」
「コタロー君が色んなところの争いに首を突っ込むからでしょ―――っ!?」

 少年の名前はネギ=スプリングフィールド。
 小太郎の悪友にして麻帆良学園都市内麻帆良学園中等部3−Aの担任の、中学教師(10歳)である。

 ……っていうか、子ども先生多すぎじゃね?ってツッコミは入れるだけ無駄である。なにせ学園世界だから。

 小太郎がぶーぶー、と不満を口にする。

「別にえぇやん。強い奴と戦いたいっちゅーのは俺の性分で、誰にも迷惑かけとらん。
 ネギ、お前かてできるんやったら強い奴とは戦って勝ちたいやろ?」
「う……そ、それとこれとは別問題っ! 授業休む理由にはならないよ!」
「相変わらず固いなぁ……安心せぇ。今日は別にケンカしに行ったわけやない、こっちの迷子案内しとっただけや」

 こっちの、と柊を指して説明する小太郎。
 あまりの物言いに、柊も思わずツッコんだ。

「誰が迷子だ誰がっ!? つーか俺のせいにすんなよ、もともとサボってたじゃねぇかお前っ!?」
「あっはっは、細かいことは気にすんなや。ホレ、ここに証人おるでネギ」
「あ―――柊さん、お疲れさまです」

 丁寧にお辞儀をするネギに、柊もよう、と返す。

307 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 01:36:14 ID:1DmMD1oe
しえ。

308 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:40:41 ID:OU6tWwKb
「お疲れさん。先生ってのも大変だな、気にすることがいっぱいで」
「お気遣いありがとうございます。それで、柊さんはお仕事でいらっしゃったんですか?」
「仕事で近くまで来て、麻帆良には昼メシ食いに来たらこいつに絡まれたんだよ」
「絡まれたってなんやねん。俺がおらんかったら迷子やったクセに」
「その前の物理的な『アイサツ』は、どう考えても絡んだって言えると思うぞ」
「こ、コタローく―――んっ!? ま、ままままさか執行委員の人にご迷惑をかけるようなことを……っ」
「あー、いや単にケンカ吹っかけられただけなんだけどな」
「へ? ……な、なーんだ。いつものコタロー君かぁ」
「……それはそれでムカつく物言いやな、おい」

 ほっとした様子のネギと、そんな彼を睨む小太郎。
 柊はそんな少年達のじゃれ合いを遠目で見ている。
 『もう、なんで授業から逃げ出したりするの!』『あんなカードゲームとかで遊んどるガキ共と一緒に勉強なんざできるかい!』『コタロー君だって子どもでしょー!』
 なんて会話が聞こえてくる。

 平和だなぁ、なんて内心柊が思った瞬間。
 ―――背後から、肝どころか魂を冷やすほどの悪寒に襲われた。


 くすり、と小さく笑い声が聞こえると同時、すぐさま魔剣を引き抜き、反転しながら自分のカンを信じて5度の斬撃。上から下へ、斜めから斜めへ、右から左へ。
 巨大な刃が振り抜かれるのと時と数を同じくし、まるで剣に打ち落とされるために現れたように金属製の矢が出現。虚空から斬撃の軌道に割り込み地面に叩きつけられる。
 がらんがらん、と金属製の矢計8本が道路に落ちた。
 魂を縛るほどの悪寒の余韻で冷や汗が流れるが、柊は攻撃をしてきた相手を睨みつけ、しかし剣先は下げたまま、尋ねた。

「……さすがに、ちょっと冗談が過ぎねぇか? 『風紀委員(ジャッジメント)』さんよ」
「あら。あらあらまぁまぁ。
 ごきげんよう、執行委員さん。わたくし、ちょっと手が滑ってしまいましたの。ご無事でなによりですわ」
「嘘つけ、明確に殺意があっただろ今の攻撃は。
 動きを止める目的がいくつかと急所狙いがいくつかって、どう考えても手が滑ったとかそういうレベルじゃ済まねぇだろっ、計画性バッチリじゃねーか!」
「まぁ。そんなことありませんわ。わたくし、意識して狙っておりませんもの」
「それは無意識なくらい日常的に俺への殺る気満々ってことかっ!? そんなに恨みでもあんのか白井っ!?」

 そこにいたのは、アーモンド色の艶のある髪を緋色のリボンでツインテールにした、『学園都市』内常盤台中学の制服と風紀委員の腕章をした少女。
 疑いを差し挟む余地のない殺人未遂を起こした彼女の名は、白井 黒子(しらい くろこ)。
 『学園都市』で風紀委員(ジャッジメント)をしている中学生で、初春 飾利のパートナーであり、また御坂 美琴と同部屋で彼女をおねーさまと仰ぐ変り種お嬢様である。
 そんな変り種は恨み、ですって? と彼女はそれまでのお嬢様然とした様子をかなぐり捨て、まるで怨霊のような表情で言う。

「いいですこと? 初春のことはまぁどうでもいいですわ。あの子も望んだことですし、こちらの仕事も滞らせてはいないことですし。
 問・題・は。
 学園都市の至宝! 第三位の超電磁砲! そしてなによりわたくしのおねーさまであるところの御坂 美琴おねーさまを!
 何度も何度も風紀委員になろうとわたくしが何度誘ってもまっっったくなびいてくださらなかったおねーさまを!
 執行委員代表としてあごで! 使う! 立場の!
 柊蓮司、あなたに! わたくしが何も思ってないと、そう寝ぼけたことを言いやがるわけですのねこの類人猿(♂)っ!?」

 背筋を凍らせる悪寒、第二波。
 あまりのプレッシャーに何も言えない柊と、巻き込まれて気圧された10歳児2人。小太郎とネギは柊の後ろでがたがたぶるぶるしながら身を寄せ合っている。
 だん! と足を踏み鳴らし、右手の指の間に彼女の能力であるところの『空間転移(テレポート)』で金属矢を取り出して挟み、柊に宣言する。

「先ほどは手心を加えて弾かれましたが、あなたの体に直接ぶち込むのがお好みでしたら、今すぐ穴あきチーズにしてあげましてよっ!?」
「お、落ち着こうぜ白井。暴力は何も生まないもんだっ」
「生みますわよ。具体的には死体とか」

 目が殺る気満々である。
 あまりの威圧感に何も言うことができない柊。しかし、白井はそんな状況でありながら、唐突にふぅ、と溜め息をついて右手を下ろした。

309 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:45:30 ID:OU6tWwKb
「……まぁ。
 わたくしとしてもおねーさまが決めたことに口を出すつもりはないのですわ。
 おねーさまが新しいお友達を見つけたい、というのでしたらそれも認めましょう。おねーさまのなさりたいことをされるのが一番です。
 ですから、そこは気にしておりません。
 わたくしが懸念するのは、おねーさまが傷つくかもしれない事態について、ですの」

 よろしくて? と白井は柊を冷たい目で睨んだまま、告げる。

「おねーさまは、無理をしてしまう方です。自分の問題を周囲に何も言わないまま、1人で抱え込んでしまう方です。
 そんな気高くて誇り高い御坂 美琴おねーさまを、わたくしは心から敬愛しておりますの。
 そんなおねーさまが。わたくしの敬愛すべきおねーさまが。誰一人気づかないうちに傷ついてしまうことなど、このわたくしが絶対に認めません。
 何があろうと。どんな天変地異に襲われようと。どのようなバケモノに襲来されようとも。
 おねーさまがそれでいなくなってしまうことなど、ありえてはならないのです。
 わたくしは『風紀委員』。『学園都市』内の見回りをおろそかにするわけには参りませんから、おねーさまのところに行くことはかないませんが。
 よろしいですこと、へらへらした類人猿。
 おねーさまが傷つくような事態になりましたらあなたの所へ『跳んで』いって、おねーさまが傷を負われた場所と同じ箇所に、わたくしが矢を突き立てると思いなさい」

 そう告げて、彼女は柊の目を射抜く。
 その目があまりに真剣で。柊はあっけにとられた後、ふっと苦笑した。

「……了解。肝に銘じとく」
「あら、なにかおかしいところがございまして? それともその減らず口を閉じてほしいというご要望ですの?」

 すい、とまた目を細める白井に、柊は冷や汗をかきながら話をそらした。

「あー、ほら、白井。そういやお前なんでここにいるんだ? お前『学園都市』の『風紀委員』だろ?
 ついでに常盤台ってまだ授業中のはずだろうが」
「残念ですわね。今日の朝に『学園都市』の人間が巻き込まれた事件の調査に来ていたのですわ。
 常盤台は授業の休み時間中ですの。わたくしでしたら移動も速いですから、お話を聞くだけなら休み時間中で事足りるのですわ」
「ん? 今朝の事件っていうと……ありゃ、C区画の桃月学園近くで起きた事件だろ? 麻帆良とはなんの関係もないはずじゃねぇか?」

 柊の疑問の言葉に、白井が不機嫌そうに眉をしかめて吐き捨てるように言う。

「なんで貴方がそんなことを―――なるほど。あれ、貴方が調停したんですのね。
 貴方にそんなことを答える義理はございませんが……まぁ、あえて言うのなら、魔術的な事象について知恵を借りに来たのですわ。
 わたくし達『学園都市』は科学と能力開発・演算についてはどの学園にも負けない自信がございますが、さすがに魔術的な理論・言語については疎いもので」
「ふーん。で、なんかわかったのか?」
「残念ながら、収穫ナシですわ。
 ……まったく。いきなり嵐が発生して、それを攻撃されたと勘違いした能力者がいさかいを起こしたなんて、『学園都市』の名折れですのに」

 ぶつぶつ、と自分の世界に没頭して続ける彼女に、恐る恐るネギが声をかける。

310 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:50:23 ID:OU6tWwKb
「あ、あのう白井さん……」
「あら? そちらは麻帆良学園のスプリングフィールド先生ですのね。
 ごきげんよう。どうかなさいましたの?」
「休み時間を利用して来られた、ということでしたが、そろそろ戻らないと危ないんじゃないですかね?」

 硬直。
 すぐに白井は携帯を取り出して時間を確認すると、可愛らしい悲鳴を上げた。

「きゃあぁぁぁっ! ち、遅刻ですのーっ!?
 申し訳ございませんっ、わたくしこれで失礼するのですわっ!
 それから柊蓮司! 月夜ばかりと油断してると、わたくしが背後から蜂の巣にして差し上げますからねっ!?」
「待てよっ!? なんで俺に対して捨て台詞吐いてくんだお前はっ!?」

 柊の質問に答えることはなく。
 白井 黒子は空間転移で80mくらい次々転移しながら麻帆良の転送陣に向けて移動していった。
 さすがに間に合わないと判断したのか、麻帆良内から『学園都市』へと転送陣を利用した後、空間転移で駆けるつもりのようだ。
 柊の手がむなしく空を切る。
 それを可哀想なものを見る目で見ていたネギに、小太郎が声をかけた。

「そーいやネギ。お前もそろそろホームルームの準備とかせなかんのと違うか?」
「あ、あぁ!? そういえばそうだよっ! すみません柊さん、ボクも行きます!」
「お……おう。気をつけてな」
「先生も大変やなぁ」
「コタローくんも行くの! 最後のホームルームくらい受けて帰らないと!」

 言って、ネギが小太郎の襟首を掴んで引きずっていく。
 うおぉ? と小太郎が慌てるが、観念したように柊に向けてぶんぶんと腕を振る。

「じゃーなー、蓮司兄ちゃん! 今度はケンカ付き合ってもらうからなー!」

 なーぁーぁー……というドップラー効果を聞きながら、姿が見えなくなるまで見続ける。
 見えなくなって、一つ溜め息。

「なんでこう、物騒な挨拶しかできねー学生ばっかなのかね……」

 そろそろ授業も終わる時間だ、忙しくなるに決まっている。
 彼は出したままのウィッチブレードに片足をかけると、そのままアクセルを開けた。
 青い魔力の光が灯り、ふわりと鉄の塊が浮き上がる。
 そのまま地を蹴り、柊は相棒と共に空へと駆け上がった。

311 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 01:55:41 ID:OU6tWwKb
 ***

 東棟5階・執行部室。
 夕方5時と、一番執行委員が活発に動いている時間帯の一つ。
 今日来ている執行委員のうち2人が外に出ていて、執行部室にいるのは柊と初春だけ。そして。

「こんにちはッスー。お仕事しに来たッスよ」
「ベホイミさん。お疲れさまです」

 もう一人、ベホイミがやってきた。
 彼女はきょろきょろと部屋を見回すと、珍しく姿の見えない一人について初春にたずねた。

「あれ? ノーチェさんはお出かけッスか?」
「ノーチェなら今日はこっちに新しくできた居酒屋で友だちと飲み会やるからってもう帰ったぞ」

 答えたのは柊だ。
 ノーチェから聞いた話では、なんとかいう聞きたくもない組織の名前によく似た居酒屋がもともと外の世界にはあり、そこの支店がD区画にできたのだとか。
 常連を連れて飲み会の予約を入れているとかで、今日は早く帰るというのはもともと言われていたことだ。
 あれー、そうなんすかー。と彼女は言って、ポットからお湯を注いで緑茶を啜りながら一言。

「そういえば柊さん、朝の事件ってどうなりました?」
「朝のって……あー、学園都市の能力者が襲われたと勘違いして大暴れして、たまたま近くをうろついてた武偵高の連中が応戦したあれな。
 朝っぱらから派手にやってくれたもんだ」

 武偵、というのは『武装探偵』のことであり、凶悪犯罪の歯止めがかからなくなった世の中で『犯人を捕まえる探偵』を育成するための学校が『東京武偵高校』であり。
 そこの『強襲科(アサルト)』と『車両科(ロジ)』の人間が数人いたため闘争に応じてしまい、周囲は超能力で生まれる風とゴム弾の吹き荒れる修羅の巷と化した。
 それを調停しに行ったのが柊と、その現場に実に近い学校、桃月学園にいたベホイミだったわけである。
 ベホイミは呆れ顔で柊に言う。

「いやそうじゃなくて、事後処理とかそういうのの事なんスけど……」
「報告書ならノーチェが書いたぞ」
「そうなんスか……」

 何か口ごもるベホイミに、もらったスポーツドリンクの残りを口にしながら柊が尋ねた。

「―――なんか、気になることでもあんのか?」
「いえ……おかしいな、とは思ってたんスけどね。
 事情聴取した分には、暴れてた『学園都市』の生徒も温厚そうな子で、なんで暴れてたのかわからないって言ってたスし」
「あぁ、そんなこと言ってたっけか。武偵高の連中もちょっと様子がおかしかったって言ってたんだって?」

 えぇ、と言って考え込むベホイミ。
 そんな彼女を見ながら、柊が声をかけた。

「ほら、そんな難しいこと考えてたところで答えが出るわけでもねぇだろうが。
 俺もお前も頭働かすのは専門じゃねぇんだ、そういうことは頭脳労働の専門家に任せとけよ。な、初春?」
「はいっ!?
 え。そんなこと言われましても、私今真剣に風紀委員の仕事しててですねー……あぁもう、なんで今日は白井さんこんなにやる気まんまんなんですかーっ!?」

 執行委員と風紀委員の仕事を両立させているため、サポート作業が重なったりするとこんな初春が見られたりもする。
 大変ッスねー、と他人事のように言うベホイミに、柊が紙皿に乗ったクッキーを勧める。

「食うか? もらいもんだけど」
「おぉ、クッキーッスか。おいしそうッスね、いただくッス」

 抹茶色のクッキーを一つつまんで一口。
 さくりと歯ざわりよく解け、口の中にバターと抹茶の風味と、程よい甘みが広がっていく。
 んー、と幸せそうに笑って、彼女は尋ねる。

312 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 02:00:09 ID:OU6tWwKb
「おいしいッスー。柊さん、これどこからもらってきたんスか?」
「今朝、レベッカから。余りもんだから遠慮なく食えってさ」

 その何気ない一言を聞いて、思い切りむせるベホイミ。
 こっ……この朴念仁の唐変木〜……っ!と思うベホイミであるものの、口に出せず。
 ……ベホイミ、苦労するな。

「おい、大丈夫か? お茶、お茶飲めお茶!」
「だ、だいじょーぶッスよ。えぇ。すごく大丈夫ッス。むしろ大丈夫か心配なのは柊さんの方かと……」
「なんで俺なんだよ?」
「気づいてないなら別にいいんスけどねー……で、今日来てるのは初春さんと柊さんと私と、あと誰なんです?」
「後ろに今日の予定書いてあるだろーが。
 今日は相良とエリーだな。エリーは確か極悪な方の料理研究会が作ったモンスター退治に行ってる」
「相良さんは彩陵高校に設置されたっていう爆弾解除に向かってます。『偶然』の人をつけてますからなんとかなるでしょう」

 初春は忙しそうにコンソールに指を滑らせ、一度たりとも画面から目線を逸らさぬままそう告げた。
 ノーチェもいない状況では彼女は倍近く働かざるを得ない上、風紀委員のパートナーが今日はやけに張り切っているらしい。
 忙しさは推して知るべしだ。
 はぁ、と溜め息をついて、柊は頭をかきながら初春に言った。

「初春。今日は今やってる分終わったら『風紀委員』のとこ行っていいぞ」
「はいっ!? え、でもノーチェさんいませんし……」
「あいつは明日朝一でこっち来るって言ってたし、多少は明日回しにしても問題ないだろ。
 俺から長門に明日の朝手伝ってもらえないか聞いとくし、明日が無理ならできるだけ早い内に来るように頼んどく。
 お前は掛け持ちでやってんだから、こっちの手伝いが出来ない時にまで無理しなくていい。
 アラームは直で0-Phone に届くようにしとくから気にすんな」

 その言葉に色々と反論しようとするものの、初春としてもその申し出は実にありがたい。
 うーうー、としばらく呻いて、彼女はありがとうございます、と小さく礼の言葉を呟いた。
 ベホイミがフォローするように初春に視線を向けた。

「そうそう。初春さんは掛け持ちなんスから、無理な時は無理って言った方がいいッスよ。
 わたしもバイトで外す時はありますし、気にする必要はないッス」
「ありがとうございます、お二人とも……」
「困った時はお互いさまだろ。この間俺が休みもらった時は皆に頑張ってもらったしな」
「あー、あの時はやけに事件多くて大変だったんスよねー。なんだか知らないけど」

 その裏には学園世界の敵の暗躍があったりなかったりしたのだが、あいにくとここにいる者にはその話を知る者はいない。
 そうと決まれば初春も全開だ。
 さらにタッチ速度が上がる。もはやピアノの演奏すら聞こえかねない。
 初春の姿を微笑ましく見ながら、柊は自身の0-Phone を取り出して、2ヶ所にメールを送る。
 ―――内心、初春に頼らずに済むことを助かった、と思いながら。

「柊さん、そのクッキーは自分で全部食べないとダメッスよー」
「ん? 食っちまっていいのか? せっかくもらったんだからみんなで食えばいいと思ってたんだが……」
「それ、執行委員の人たち宛に渡されたわけじゃないんでしょう? だったら、私も柊さんが食べないと駄目だと思います」
「そーゆーもんなのか?」
「そういうもんッス」
「えぇ、そういうものです」

 このお馬鹿、鈍感につき。

313 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 02:06:17 ID:OU6tWwKb
 ***

 午後7時過ぎ。
 学園世界内に存在する、『錘馗』というお好み焼き屋。
 テーブル席の一番奥に座るのは、この店の常連にして『はいいろのぐんし』というあだ名がつきそうな感じの『恋愛探偵』氷室 鐘。
 そしてその隣の席にいるのは、ショートカットの無表情な少女。隙の無さから『レディ・パーフェクト』とか言われてる長門 有希。
 その向かいに鉄板のはめ込まれたテーブルを挟んだ柊が座るという、なんとも不思議な空間があった。
 二人をメールで呼び出した柊は、揃ったのを確認すると適当に何か頼んでくれ、と二人に言う。
 長門と氷室がそれぞれ頷き、めいめい自分のお好み焼きを頼んだ後、氷室が話を切り出した。

「さて、頼んだものが来るまでに話をしようか。
 有希嬢は手土産を持ってきているようだからな、先に話をしたほうがよいのではないか?」

 そう勧めると、長門はこくりと頷いて鞄からごそごそと書類用封筒を取り出す。

「依頼された調査の報告書」
「ありがとうな……って、長門。これ、何枚くらいあるんだ?」
「詳細説明に5枚、各種グラフによる解析書が2枚、報告が12枚、計19枚」

 淡々と答える長門に、苦い表情をする柊。
 もともと頭のいい方ではないのだ。これを読めと言われると少しためらう。
 そんな表情に気がついているのかいないのか、長門が新たに鞄から取り出した紙を1枚ずつ氷室と柊に渡すと、言った。

「その報告書は上層部への提出用。あなたが中を見るものではない」
「……もしかして、提出用の書類もう作ってくれてたのか?」
「その封筒内の書類内容は事件の概要説明部分のみ。
 これからあなたが対処する、その対応内容報告部分は未作成。それ以降の部分のみならばどの人間が書くことも可能」
「おぉぉ、サンキュー長門。すげーな本当に」

 そう言われても、長門は無表情のまま。
 その代わり、キッチンの中をちらりちらりと横目で見る。意外とお好み焼きに興味津々なのかも知れない。
 氷室が言葉を次いだ。

「それで。これが今回の実態ということなわけか」
「そう。彼が昨夜集めたという情報と、今日磯野第八中学前で拾ったという物品を調査して判明した事実。
 収集された欠片と、最近この世界内で起きている事象から分析・類推を重ねて確認をとった結果。

 ―――本件を、『世界の危機』規模の事態と判断する」

 長門の言葉に、3人に沈黙が降りる。
 近くのテーブルから聞こえる鉄板の音が、うるさいくらいの沈黙。
 沈黙を破ったのは、淡々と状況を報告する長門だ。

「収集した物品に含まれている機能は二つ。
 一つが『世界』に偏在する存在力―――ウィザードの言葉で言うところの『プラーナ』と呼ばれる力の接触供給作用。
 ただし、その機能はごく微弱。例え特殊な能力を持たない存在が日常的に1000回を超える接触行動を行っても、存在に影響は無い程度。
 そしてもう一つが『命令語句(コマンドワード)』の機能」

 柊と氷室は配られた紙に目を落としている。事態の厄介さをかみ締めるように。
 長門は、やはり変わらぬテンポで続けた。

「物品一つ一つに、意思を込めて一つの『命令語句』を仕込んである。
 恐らくは、一種類に付き一つ。数多くの『命令語句』を作っておくことによって、組み合わせを容易にしたものと思われる」
「……つまりは、一種類に一つ言葉が仕込まれていると思えばいいわけだな?
 『りんご』という語を作るために、『り』と『ん』と『ご』という言葉が存在すればそう見えるように」
「そう。
 そして、問題は仕込まれている『命令語句』が解析の結果魔法的な情報波形を示したということ」
「つまり。『りんご』って文字を意図的に完成させただけで、本当に何もないとこからリンゴが出ちまう可能性があるってことか」

314 名前:執行委員の交流:2009/04/24(金) 02:07:58 ID:OU6tWwKb
 柊の問いに、長門がこくりと頷く。

「それほど単純な現象が現出するかは不明。
 けれど、魔法的な意味のある『言語』を完成させた場合、世界中に撒かれた物品の同時励起による増幅力は、『世界の敵』と言っても過言ではない」
「けど、さっき聞いた話じゃ『例のもの』一個に対して力はごく弱いもんなんだろ?
 魔法使いがこれだけいる世界の中で、そいつらに気づかれないほどごく弱い力なんだ。
 たぶん相手もそれ狙いなんだろうが……そんな小さな力しか持たないもんが影響しあって力を発揮したところで、それほどの危険なもんなのか?」

 さらなるその問いに、肩をすくめたのは氷室だ。

「やれやれ。柊、汝は興味のないことには本当に疎いな。だから頭が悪いだのなんだのと言われるのだ」
「お前に言われるようなことをした覚えはねぇよっ!?」
「現在進行形でしているが。
 というか、汝の場合は一般的な意味で『頭が悪い』というよりは『自然に入るはずの情報に対して無関心』と言った方が正しいのかもしれんな」
「なんでお前は俺の人格分析してんだよっ!?」
「クセだ。気にするな」

 氷室、いつの間にか羽扇『宝具・支配の王扇』を口元に当ててご満悦。
 人間観察大好きっ娘、全開中である。
 彼女はともあれ、と言うと長門に同意を求めるように視線を流しながら言う。

「この世界での『例のもの』の広まり方を知らんらしい。なぁ、有希嬢?」
「―――現時点で、約9371万5600。それが、世界に撒かれた『物品』のおおよその数」
「9000万っ!? なんだそりゃ、なんでそんなに広まってるんだっ!?」
「学生というのは新しいものに敏感だからな。また、一度友人が持っているのを見れば欲しくなる心理もあって広まるのは早かろう。
 ……さすがにもうすぐ1億、というのは私も意外だったが、『例のもの』は1つだけ持っていてもなんの意味もない代物だしな」
「数は日毎に増加する。対処に時間がかかれば、その分だけ不利になるのは明白」

 長門の淡々としているがゆえに虚飾の入らない重い言葉に、柊はあぁ、と頷いて氷室を向いた。

「お前の方はどうだ、氷室」
「頼まれたものか。
 『目標』だが―――もともと大人しかったが、周囲と会話はあったらしいんだがな。
 最近は授業が終わるとまっすぐ帰宅するらしい。友人付き合いもご無沙汰だということだ。
 『学園世界』に来たことで、多少ストレスがかかっているのではないかと友人達は語っていたがな」
「『憑かれた』ってことか。紅い月が昇ってる以上、こっちの世界のエミュレイターが関わってんのは想像ついたが……厄介だな、おい」

 『憑かれし者』と呼ばれる状態がある。
 侵魔はもともと人の心に取り憑く精神生命体。それらが人間に取り憑いた状態のことを指す言葉が『憑かれし者』だ。
 そうやって憑かれた人間は死なない程度に痛めつけて侵魔を追い出すか、憑かれた人間自身の意思で侵魔を追い出すかしなければ侵魔のみを倒すことができないのだ。
 柊も一般人に刃を振るう真似はしたくない。
 が、今回の『目標』と知人でもない以上は相手を鼓舞して侵魔を追い出させるのは難しいだろう。
 どうするかな、と覚悟を決めかけた彼に、呆れたように氷室が声をかけた。

「……汝は、覚悟完了が早すぎやしないかね。人の話はもう少しよく聞くものだ」
「あん? なんだよ、なんかいい方法でもあるってのか?」
「だから、人の話は聞くものだと言っている。
 私なりに調査の際『目標』の近くまで行っていてな、有希嬢の話で確信が持てた。これが何か知っているかね?」

 そう言って彼女が取り出すのは、いくつかの数字が表示される計器。
 なんだこりゃ、という表情の柊に対し、長門はじーっとその計器を見て、答えた。

「―――『開発部』製『可能性力検知器』」
「その通り。『意思によって選択することができるものは、すべからく可能性を変動させられる』という思想のもと設計されたものだ。
 可能性を変動させる力―――柊の世界の言葉に直すのなら、『プラーナ』の計測装置といったところか。
 物理的な力や魔法の力もそうだが、最も大きな可能性変動を起こすのは意思の力というやつか。人間の持つ最弱にして最強の力だ。
 それらを含めて、『可能性』―――世界に変動を起こすための力を計測するものだ」

 満足げに言った氷室に、柊はいぶかしげにたずねる。

315 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 02:08:41 ID:uhxVPrc3
しえーん

316 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 02:11:11 ID:OU6tWwKb
「それがなんだってんだよ?」
「……汝、空腹で頭が回っていないのか? よーしわかった。そんな汝のために『世紀末覇者焼き』一丁―――!」
「頼んでねぇっ!? つーかなんだそのやけに相手すると死にそうな感じのメニューっ!?」
「一食即解(食えばわかる)。
 まぁ、世紀末覇者焼きのことは置いておいて、頭の回っていない汝にもわかるように説明するとだな。
 世界中から9000万もの端末を用いてプラーナを集めている相手に対し、プラーナの計測装置が大きな反応を示さないなんてことがあると思うのかね?」

 あ。と今気づいたような柊。
 一つ一つはごく微量と言っても、その数が9000万ともなれば今相手の元に集うプラーナの量は『世界の敵』になるに相応しい量のはずだ。
 となれば、その相手にプラーナの反応がないはずがないのである。
 長門がそれを受けて答える。

「以上を鑑みると『目標』は端末である可能性が高いと判断する。
 『本体』は『目標』に常時触れることが可能であり、また『物品』の命令語句を組み替えることが可能とするため『物品』に触れることが可能であるもの」
「要は、魔法使ったりプラーナ使ったりして能力を使用してる時に、『そいつ』が触ってるものが『本体』ってわけだ。
 直接取り憑いてるわけじゃない以上、『本体』を潰せばそれで終了、と。
 そりゃいいな―――わかりやすくていい」

 ようやく不敵に笑った柊を見て、やれやれと氷室が肩を竦めて長門は変わらず無表情のまま。
 そんな彼女たちに、柊が助かったぜ、と言いながらようやくきたお好み焼きを勧める。

「ほら、食え食え。情報量みてーなもんだ」
「……いただきます」
「ここには口止め料も混じっているような気がするが……まぁいいだろう。
 今回の仕事量と口止め料に関しては食事代では少なすぎる気がするのでね。一つだけ私の聞きたいことに答えてはもらえないか」
「別に構わねぇけど。なんだよ、俺のこと物知らずだっつったのお前だろ」

 少し眉を寄せて言う柊。彼にも『この女には気をつけろ』という内心の警鐘があるようだ。
 当然と言えば当然だろう。彼も彼女のような女性相手に何度も煮え湯を飲まされた経験があるのだ。
 そんな彼の視線にも、氷室はハハハハと笑いながら口元を羽扇で隠す。

「いやいや、意外とかわいいところがあるのだな、汝も。
 聞きたいことは簡単だ。執行委員がいるのに、なぜわざわざ私と有希嬢に協力を求めたのか、と思ってな。
 有希嬢は準執行委員のような立場だからともかく、私の方は執行委員とは何の関係もない。
 それでも私に話を振ったのは、何故かね? 執行委員に話を持ちかけた方が楽だろうに」

 じゅうじゅう、と小麦粉で溶いた生地が熱された油に焼かれる音とにおいが、沈黙の隙間を埋める。
 構わないと言った以上、柊にはその追求から逃れる術はない。困ったように頭をかいた。

「……最初に、長門に渡したもん拾った時に、すっげーイヤな予感したんだよ。
 まるでこれまで魔王連中相手にする事件に関わることになった時みてーな、なんとも言いようがないようなイヤな感じ。
 警告もされてたが、放っとくわけにもいかねぇし。初春あたりに言うとすげー心配するし。それに―――」
「それに?」
「―――約束してたからな。『世界の危機』が近くで起きてる時は、勝手に対処するって」

 その言葉に、ふ、と笑って。
 氷室は告げた。

「いいだろう、納得しよう。
 柊。しかし汝は本当に馬鹿者だな。とびきりだ。衛宮といい勝負かもしれん」
「うっせぇ―――ほら、焦げるぞ。さっさと食え!」
「はっはっは。では有希嬢、おいしくいただくとするか」
「遠慮なく」

 その後。
 『世紀末覇者焼き』こと別名『聖帝十字量』!! ふざけた時代を提供する熱と量の名物料理!
 そのボリュームは明日を見失うほど! 思わず微笑み忘れた顔になるというヒャッハー!水だー!的料理!
 ……とまぁ、そんな感じの名物料理が出てきて柊が果敢に挑んだりするのだが―――そこは、割愛させていただく。

317 名前:夜ねこ:2009/04/24(金) 02:12:23 ID:OU6tWwKb
どうも、夜ねこです。

はっはっは、前編と言っただけで続きが後編とは一言も言ってないんだぜ!
……ってわけで、中編終了です。本日はここまで。近いうちに後編上げますが。

書いてたらうっかり長くなりすぎてしまい。2分割だなーと思ってたらあれよあれよのうちにエラく長く。
つーかこれ「執行委員」じゃなくて柊の話じゃね?と言われても文句言えません。
正確には「執行委員と色んな人の交流を書こう!」がコンセプト。
そして前作「互助」の裏的な話を書く、というのがテーマ。
……まぁ、「互助」がもともと裏ちっくな話なんで、裏の裏は表になるんですがねー。

くそぅ、PCからメール→携帯でコピペ→投下とかしてたせいでレス末の改行がおかしいことに……
管理人氏が収録された後はなんとか修正しないと。悔しいなぁ。

>>303
(GF確認中)……ワォ。
いや、すみません確認不足ですわ。魔器解放がないのは覚えてたんだけどなぁ……。
あ、じゃあアレです。柊なぜかエアダンだけは使える鳥取ってことで(無理がある)!
あーうー……なんとか修正しようと思います。ご指摘ありがとうございます。

さて。後編はバトル展開予定ですがー……一応柊1人じゃありません。
助っ人が誰かわかるかなっ?(聞いてどうする)正直、当てられたらすげぇと思うの。

では、次の投下でお会いしましょう。

318 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 07:15:28 ID:/KKVvBoc
夜ねこさんGJ-!

しかし、何気に氷室嬢が分析系キャラにおさまりつつあるなぁ。
しして氷室の天地の名シーンの再現殿高さ!磨ファンでもあるのでこちらもうれしいところ。

続き楽しみにしてますー。

319 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 09:30:28 ID:lfRZRKsP
GJです!

魔法はともかく魔器開放は持っててもいいと思う。

320 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 17:12:36 ID:i6jjgjvH
規制中だがどうしても気になったので携帯から一言
鐘って他人のこと汝って呼び方したことあったっけ?
ホロウやり直したけど、二人称は君だったんだけどなあ。

321 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 17:19:24 ID:CB061FjS
「Fate」脇役の鐘さんじゃなくて「氷室の天地」主役の鐘さんだよ

322 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 19:05:31 ID:psfdHbLu
よるとシリーズ番外編来たあああああ!(違う

つーか鐘よ。お前はいつから某フルメタルな生徒会長みたいなアイテムを手に入れたんだw
アレか。アンソロ担当が決まったとき、某きのこすら心配したという大爆走漫画家のせいかwww

>>320
Fateの方でも不敵なシーンで言ってなかったか?
今PC調子悪いから調べられないけど

323 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 20:17:34 ID:DehcJJoE
(ヒソヒソ)保管庫の人、パソコン死んだらしいよ?
(ヒソヒソ)キャハハ、サイテー! こんな仕事もできないなんてニート以下だよねー!

324 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/24(金) 22:01:57 ID:3KdZeCEg
>317
乙。

ところどころ情報料が情報量になったり、草g静馬が草薙になってたりしてますよ?

325 名前:ネタだけ振ってみる@学園世界:2009/04/25(土) 00:40:28 ID:Y0ckoabb
「は、はわ!?交換留学!?」
学園世界発生より3ヶ月目のある日、輝明学園理事長代理、赤羽くれははその提案に驚いて声を上げた。
「その通り。交換留学です」
その反応を予想していたとでも言うように、白い学生服を一部の隙も無く着こなした、オールバックとメガネが特徴的な男が言う。
男の名は、林水敦信。都立陣代高校の生徒会長にして、極上生徒会の陣代高校代表。
極上生徒会の、ひいては学園世界でも屈指の切れ者と噂されるその男が、滔々とくれはに説明する。
「この学園世界の成立から3ヶ月。今なお“転移”してくる学園は絶えないにも関わらず現状を打破しうる方策は見つかっていないと言う状況です。
 すなわちそれは、この学園世界と言うものがこれからもしばらくは続いて行くと言うことを表します。
 この3ヶ月の間、各学園同士は様々な関係を築いてきました。友情と連帯感による友好関係。あるいは互いに高め合うようなライバル関係ならば良い。
 しかし残念ながら、この3ヶ月の間に不幸にも険悪な関係となってしまった学園同士も存在します。
 その険悪な関係がただの不良同士の喧嘩レベルならばそれも許容できる。しかしながらトリステインと光綾。
 楯神と牙の塔など、“戦う力”を持つ学園同士の諍いも散見されている現状。執行部に丸投げにしておくのはいささか問題があると思われます」
そこで一旦言葉をきり、くれはを見る。
「は、はわ…そうだね。確かにいまのこれはまずいかも」
その対応に一番追われている自分の幼馴染のことを思いながら、くれはが頷く。
「何故諍いが起こるのか。それは互いへの理解の不足。宗教、信条、政治体系、法律。それぞれの常識の食い違い。それが争いを生む。
 ならば、まずはその不足を補うべく互いのことを理解することが必要ではないか。そう、我々極上生徒会は考えました。
 その方策として考えられたのが今回の案件。すなわち他の学校への交換留学なのです」
「う、うん。それは分かったけど…なんでうちなの?」
「極上生徒会での本案件の議決後、各学園代表にアンケートを取り、最も留学の希望者が多い学園を選びだしました。その結果です。
 いわく、科学と魔法の融合を果たした文化を持つ学園。いわく、学園世界屈指の巨大ダンジョン『スクールメイズ』を有する学園。
 いわく、“あの”柊蓮司の母校…各々の思惑はあれど、多くの支持票を集めたのです」
何処からか扇を取り出し、口元を隠し、林水が言う。
「既に極上生徒会内の輝明学園代表からの了承及び学園世界の長老衆…俗にジジイ四天王と呼ばれるお歴々からの賛同は得ております。
 あとは、輝明学園の最高意思決定者である赤羽様。その許可が得られれば交換留学は成立いたします」
「は、はわ…」
メガネが光を反射し、その表情は伺う事が出来ない。そのことがくれはに年下であるこの男への畏怖を抱かせる。そして…
「ご決断を。赤羽、くれは様…」
追い詰めるかのように力強い言葉が掛けられ…

*****

かくして、学園世界に新たな制度が生まれた。その名は『交換留学制度』
期間はおよそ2週間。この間、制度の利用者は留学先の生徒として他校で行動することとなる。
そのことが多くの交流と発見、そして事件を生み出すこととなるのだが、それはまた、別の話。

326 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/25(土) 00:56:35 ID:H9N7M9Qw
>325
乙。

ウチの『しのキャラ何でも屋』は、この制度で輝明学園天文部に入ったんだな。多分。

327 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 08:50:47 ID:E4VqRw0q
>>317
遅まきながら投下乙です〜
…柊はせめて隔週くらいで強制休日でも作ってやらないとダメかもしれませんね。
 
>助っ人
ポイントは
「柊の良く知る制服を着た少女」
「“敵”は操られた学生(=おおっぴらには出来ない)」 
かな?
 
それで学園世界で既出のキャラだとするとあの娘かしら。
…いや新規作品のキャラだったら大外れだなこの予想。
 
>>325
GJ、これは良い制度。
学校の垣根を越えたクロスがやりやすくなりますな。

328 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 09:37:37 ID:jet+tar9
やっぱりカードをギミックに使ってるあたりも絡むのかしらん?>助っ人

これは超☆wktkしながら待たざるを得ない……!

329 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 12:55:45 ID:oVuOL0Ux
「よく知る制服」ならやっぱり輝明学園生な気がするけど……
ライズ女史は戦闘目の前で終わった後「不敵な表情」とかしないんじゃないかなー、とか。

むしろ、「少女」ってお前今日1日でどんだけ女の子と話してやがる、みたいなww

330 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 13:14:16 ID:RAqMLxHr
そういや輝明学園の非ウィザード生徒はどうしてんだろうなーとふと思った
まあ世界結界は無いし非日常を知っても問題はそんなに無い……のか?

331 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 13:38:45 ID:a57bwOgp
一番問題なのは竜之介&珠美コンビだと思う。
竜之介戦闘形態は珠美よりスタイル良かったような…

332 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:01:07 ID:nvTdYQDp
>>330

それは俺も思ったわ。
非日常を非ウィザードの人間に植え付けて、学園世界から解放された時、世界結界に“非常識”を“常識”として書き換えるための侵魔や冥魔の作戦なんじゃないかと妄想したり
……そう考えると、ただの可哀想な奴としか一般人に認識されてなかった柊が、極生で有能な能力者として学園世界に広まるのって実はかなり問題ある気がしてきたな

333 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:22:42 ID:oVuOL0Ux
>>330
愛子の力で問題なく元の世界に戻れるって設定があったはずだが。


その設定をスルーしたいなら、ハルヒと同じ処置でいいんじゃねーの?
世界中に色んな能力者がいて、でもそれが隣人とは思ってない、みたいな。
柊なら「まぁ、柊蓮司だし」とかで済ませりゃいいんだし。

334 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:24:11 ID:oVuOL0Ux
ごめん、>>330じゃなくて>>332だわ

335 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:25:54 ID:81XNhakj
>>330
香椎珠美あたりは報道委員やっててもおかしくないですなぁ

>>332
いや、さすがに学校ひとつの生徒分だけでは戻っても一気に常識書き換わらないでしょw
戻った時に世界結界が記憶処理してしまうだろうし。
ハルヒみたいな「無自覚なる裁定者」が混じってれば話は変わってくるけど。
もしくは消しきれない無意識部分+それを喚起する噂話を徐々に・・・とか?

336 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:33:49 ID:MqiyFQMY
ってかウィザードのこと知ってるイノセントって多少はいるって設定があったはず。
数千人増えてもなんとかなるだろ。

337 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:42:14 ID:yIQ3xzcx
元の世界に戻ってFtEへ帰るのは(つまり世界結界の影響を受けるのは)主に輝明学園の生徒のみ
輝明学園の生徒なら、FtEでも常日頃から非常識な体験をしている者は少なくはない

つまり、そんな状態の人たち(輝明学園の生徒)がさらに非常識な体験をしたとしても、影響はそれほど大きくは無い…はず

338 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 17:47:41 ID:S9tWphn5
一般人がやたら来ていると思われる学園都市は元に戻ったら結構大変そうだよな

339 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 18:08:04 ID:5tyddwfH
赤巫女のときに出てきた昔の米軍なんて全員魔法使いのことを知っていて、対魔法使い装備使ってたし。
知識が広まりすぎるのさえ防げばいいんじゃないの?

340 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 18:15:18 ID:S9tWphn5
特殊な装備とかと思っててマジな魔法使いとは誰も思ってない部隊だったりして

341 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 18:32:26 ID:oVuOL0Ux
つーか世界結界がない以上はウィザードの月衣も常識遮断性能がなくなるから、普通に撃たれたら死ぬんじゃね?
対魔法使い武装って言っても、魔法の質によって一々妨害系を使いわけるのは難しいから、耐性系の方に技術が伸びると思うけど。


ま。別れた後の話とかしたところで、この世界がもとに戻る兆候なんて何一つないわけだけど。

342 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 18:46:04 ID:RAqMLxHr
>>341
そこらへんは第一世界に行ったウィザードみたいなもんだろうなあ。
まああの世界は引退した勇者が魚屋やってるような所ではあるがw

343 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 20:54:32 ID:nvTdYQDp
つまり総合すると、学園一つぐらい非常識を知っててもおkな感じ?
まぁ、この辺は結局さじ加減なんだろうけどなぁ、作品見てるとあんまりにも非常識が溢れてる気がしてさ
一応ナイトウィザードがメインな以上、この常識、非常識の取り決めとかって結構大切な気がしたんだ


あと『○○だから〜』ってのは最低系のテンプレの一つだと思うのは俺だけかなぁ?

344 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 20:59:08 ID:S9tWphn5
学園世界ってナイトウィザードが基本だけど形式としては万色学園のほうだよな
だからイノセントにバレバレでもいいとは思う
ただし、学園世界から出て行ったらどうなるかは不明ってことでいいんじゃね
覚えているかもしれないし、忘れているかっもしれない
脱出まではわからない

345 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 21:08:21 ID:Y0ckoabb
>>343
>あと『○○だから〜』ってのは最低系のテンプレの一つだと思うのは俺だけかなぁ?

1人で書いてるならともかく、複数人で書いてるからなあ。
その辺まで全部考慮したら描きにくくなるからその辺の縛りはあんまり増えて欲しくないね。

どうしても気になるならその辺のテーマを扱う作品を書けばいいんでない?

346 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 21:15:56 ID:5tyddwfH
>>341
と言われても 普段ウィザードやエミュレイターが打ってくる銃弾を喰らっても死なないわけで
同じ条件になってもイノセントとは装備や魔法のアドバンテージがあるからな。
結局パワーの差は大きい。

大体月衣を考えてると、〈物理攻撃無効)とか持ってないエミュレイターにも宗助あたりが無力に
なるし。機能してないってことのほうが良いんじゃない?

347 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 21:46:09 ID:v+NrF2aK
ここで魔法の言葉。
つ【ウチの鳥取ではこうなんです】
つ【じゃあ仕方ないな】

設定は使いやすいようにすればおk。

348 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 23:34:21 ID:oVuOL0Ux
結局は>>345でファイナルアンサーなんだろうな

>>347みたいに自分の鳥取化してしまうのも手だけどね。
「書きたい題材があるならどうぞ書いてください。ただし、他の書き手が続いてくれるとは限りません」
って、もう学園世界のテンプレにしちまった方がいいんじゃないか?
前にも何度かこんなことあったよーな気がするし。

349 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/25(土) 23:46:23 ID:RAqMLxHr
公式リプレイでの設定でもルールブックに反映されたりされなかったりする様なもんだな

【なんか違う】

350 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 04:04:24 ID:IS8UceyX
○○だから〜、って具体的にどういうこと?

351 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 11:26:19 ID:0GGn2Kme
>>339
まあ、さらに昔の時点でアメリカは対ウィザード兵器作ってたしなあw

352 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 11:30:30 ID:wac9ajKx
そこらへんまでいくとどっかの魔王の陰謀がらみのような気がしてくるな

353 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 11:38:58 ID:gd3vKXAI
タバサの冒険の最新刊を読んでいたらタバサは幽霊ダメだと思ってたけどそんなことは無かったぜ!
ってなのが発覚して色々調整が必要になった件。
そんな話はさておき魔神皇編第3回「タバサと幽霊」
12時より投下します。

354 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 11:52:18 ID:RHqvkKu4
ばっちこーい

355 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:00:18 ID:gd3vKXAI
―――???

「よし…これで行けるはず。佐藤君のおかげね。でも、多分魔神皇に通用するのは1回だけの1人だけ。
 …魔界への片道切符を受け取ってくれる人なんて、見つかるのかしら?」
カタカタとパソコンをいじっていた、メガネをかけた少女が手を止め、傍らの少女に話しかける。
「そうですね〜。ですが、何もしないよりはマシです。諦めなきゃ大抵のことは何とかなる、それが…」
黒のセーラ服におかっぱと言う今どき珍しい女学生の格好をした少女がメガネの少女に答える。
「ウィザードの考え方、でしょ」
メガネの少女が傍らの“ガーディアン”に何度も聞かされてきた言葉に応える。
「はい〜。それに、勝算はあるんですよ〜」
「勝算?」
「はい。前に宗一郎さんから伺ったことがあるんです」
頷いて少女はこの学園世界のトップシークレットをあっさりと口にする。
「今、ちょうど“カゲモリ”って言う、“悪魔”と密かに戦っている人たちがいるって。彼らに接触できれば、きっと協力してくれるはずです」
「でもどうやって?その人たちと接触できるパソコンって言っても…待って。そうか、戦っているのだったら!」
「はい〜。戦闘中のダークサマナーさんたちのパソコンにアクセスできれば」
「分かった。待って。今検索してみる!…いた!妖獣マンティコア召喚後死亡ってなってるけどパソコンがまだ生きてる!」
カタカタとそのパソコンの悪魔召喚プログラムを遠隔操作する。
「それじゃあ、よろしくお願いします。桜花さん」
「了解です。それでは、ちょっと行ってきますね」
そう言うとその少女…桜花がひょいとパソコンの画面に触れ、そのまま中へと入って行く。

356 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:02:24 ID:gd3vKXAI
―――学園世界 居住区郊外

「死ぬ〜。死んじゃうのね〜!」
マンティコアの尻尾から弾丸の如く打ち出される無数の針を必死にかわしながら、空を駆ける竜…風韻竜のシルフィードがわめく。
「耐えて。大技には、準備が必要」
そんな竜の声に耳を貸さず傍らに本のようなものを抱えた青い髪の少女…“雪風”のタバサが呪文を詠唱する。
(一撃で仕留めないと…回復する暇を与えずに)
先ほど、自分の得意魔法である“ウィンディ・アイシクル”で与えたダメージは、マンティコアの強力な癒しの魔法で一瞬で消え去った。
そして今、タバサの杖の上には“ジャベリン”が浮いている。
氷で出来た巨大な槍を急所に叩き込めればマンティコアと言えどもただでは済むまい。
だが。それには近付く必要がある。そのチャンスがなかなか巡ってこない。
「ヌウ…スバヤクテ、アタラヌ」
老人の顔を持つ魔獣、マンティコアがしわがれた声で呟く。
「マズハ…ウゴキヲトメルカ…」
すぅっと息を吸い込む。
「!」
はっと何かに気づいたタバサが一時詠唱を中断し、耳を塞ぐ。
ルロアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!
次の瞬間、マンティコアが大きく吠える!
「な、か、身体がうまく動かないのね!?」
その吠え声に身をすくませたシルフィードが異変に気づく。
「お、落ちるのね!」
空中で急速に失速し、シルフィードが地面に落ちる。
それを察知し、とっさに“レビテーション”を使ったタバサがふわりと地面に降りる。
「モウ、ニゲラレヌ…マズハ、子供ノ肉、クウ」
あの竜の鱗はいかにも固そうだ。喰うならば、やはり女子供に限る。
そう考え、マンティコアはゆっくりとタバサに近づいて行く。
「に、逃げるのねおねえさま!シルフィも動けるようになったらすぐに逃げるのね!
 私たちだけじゃ厳しいのね!誰か他の人を連れて来てリベンジなのね!」
「…今逃げたら、居住区の住人に被害が及ぶ。ここで仕留める」
どうやら目の前の魔法使いはまだ勝てる気でいるらしい。大きな槍の周りに大量の氷の矢を浮かべる。
その判断ミスをマンティコアは嗤う。
確かに魔法使いの用意した大きな氷の槍は当たればマンティコアにも十分なダメージを与えられそうだ。
だが、当たらなければ、否、急所に当たらなければ“ディアラハン”が使える自分には致命傷にはならない。
そこまで読み切り、マンティコアが攻撃を開始する。
タバサが準備した氷の矢を大量に飛ばしてくる。
正直かわせる量じゃないそれが次々とマンティコアに刺さり、血を流させる。だが、それは大したダメージにはならない。そして。
「…クウ!」
爪を振り上げて、タバサを仕留めようとした、そのときだった。
「…ライトニング・クラウド」
それより一瞬早く“本命”のスペルを完成させたタバサの杖の先から、雲…強力な電気を帯びた雲が溢れる。
バチバチバチッ!
その電流が血液を媒介にマンティコアの体内に流れ込む。強力な電流にマンティコアの顔が更に醜く歪む。
「グ…グア…」
強力なトライアングルスペルの威力の前に、マンティコアはたまらず膝を屈する。
「見せている方はおとり」
そう呟きながら、タバサはピタリと大きな杖をマンティコアの眉間に向ける。
マンティコアは慌てて逃げようとして、気づく。電流で痺れた体では動くことも、ディアラハンを使うこともできない、と。
「タ、タスケ…」
とっさに命乞いをしようとしたマンティコアの顔面を。
「…とどめ」
先ほど用意した巨大な氷の槍が貫いた。

357 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 12:03:36 ID:1aSUEhea
支援なのです

358 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:04:08 ID:gd3vKXAI
「…光ってる?」
マンティコアを倒し、手にした箱…マンティコアの牙に噛み砕かれる寸前に召喚者から奪った、パソコンとか言う召喚装置の異変にタバサは訝しげにつぶやいた。
「な、何か来るのね!」
古代種の勘が何かの到来を告げ、シルフィードがタバサに警告する。
「…!」
貴重な“情報源”だが命が無くなっては意味が無い。タバサは召喚装置を地面に置いて距離を取り、戦闘に備える。
先ほどの戦いで消耗した精神力の回復を行うべく、肩から下げた水筒を取り、中のものを少しだけ口に含む。
水筒の中身はエルクレストカレッジ製のMPポーション。タバサの魔法の連発で消耗された精神力が回復していく。
準備完了。いつでも戦える。
そして、それが現れる。
召喚装置の前に現れた魔法陣。そこから出てくるのは…
「…まずはうまく行きましたね〜」
一見すれば、タバサよりは少し年上に見える少女が現れる。
学院で“あの人”のお付きをやっているメイドに似た髪形と、前に学院で見た、こっちの世界で言う黒い“セーラー服”をまとった少女。
だが…身にまとう力を受けてタバサは直感する。この少女は先ほどのマンティコアよりも、強い。
「大丈夫ですよ〜。戦うつもりはありません〜。今日はお願いがあって来たんです〜」
その、強烈な存在感を持つ少女はタバサの緊張に気づき、のんびりした口調でタバサに言う。
「お願い?」
緊張感を持ったまま、タバサが少女に尋ねる。
「はい〜。実はですね…」
喋り出そうとした少女に一瞬ノイズが走る。その事に少女は眉をしかめながら、言う。
「実体化用のマグネタイト残量がギリギリみたいですね〜。ごめんなさい。事情を説明している時間が無いようなので、単刀直入に言います。
 私と一緒に、魔界へ来てもらえませんか?非常に危険なことを頼んでいるのは分かっています。
 お礼もできるかはわかりません。ですが、それを踏まえて、お願いします。私と玲子を、助けてください」
一言、そう言うと少女はタバサに向かって手を差出し、真剣な表情でじっと見つめる。
「駄目なのね!罠なのね!“魔界”とか言ってたのね!きっと怖いところなのね!きゅいきゅい!」
よろよろと身体を起こしながら叫ぶシルフィードの言葉を聞きながら、タバサはじっと目の前の少女を観察する。
強い力を秘めているのを感じる。魔力も、精神力もただものでは無い。恐らくはスクウェアクラスに匹敵する。
だが、その瞳には邪気がまったく感じられない。ただ純粋にタバサに助力を求めている顔だ。
そして、タバサは結論を出す。
「分かった。連れてって」
「おねえさま!?」
コクリと頷き、少女の手を取ったタバサにシルフィードは驚いて声を上げる。
「やめるのね!何が起こるか分からないのね!危険なのね!たまにはシルフィの言う事もきくのねこのちびすけ!」
色々と言いながら必死に身体を動かそうとする使い魔を安心させようと、タバサは一言だけ、口にする。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくる」
そう言った、次の瞬間。
バツンッと、TVの電源が落ちるように少女の姿が消える…タバサと共に。
「お、おねえさま〜〜〜!」
シルフィードの悲痛な叫びは、誰に届くことも無く、消えて行った。


359 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:08:56 ID:gd3vKXAI
―――軽子坂高校 電算室

「お帰りなさい!よかった!無事だったのね!」
数十台のパソコンが並ぶ軽小坂高校、電算室。そこに並べられたモニタの1つから這い出した桜花を見て、
赤根沢玲子はうまく行ったことに喜びの声を上げる。
「はい〜。うまく行きましたよ〜」
そう言いながら這い出した桜花が1人の少女の手をとり、引っ張り出す。
「よかった!この人がカゲモリ…」
そう呟いた玲子と、その少女は、同時に怪訝な顔をする。
「えっと。この子が?」
怜子はその青い髪の、小さな少女を見て。
「…“カゲモリ”を、知ってる?」
青い髪の少女…タバサはその少女が、本来知り得ぬことを知っていることに。
「はい。桜花さんから、聞いたんです。今、この“魔界”の外って学校だらけの異世界になってて、
 その世界にはカゲモリって言う悪魔と戦っている人たちがいるって」
タバサを見ながら、簡潔に。
「…正直、こんな小さい子だとは思わな…いや、何でも無いです!」
正直な感想が漏れそうになったのを慌てて打ち消しながら。
「いい。慣れてる」
一方のタバサの方はそれを気にせず、かぶりを振って少女に問う。
「それよりも“悪魔”と言うのはあのモンスターたちのこと?」
「はい。倒すとマグネタイト…緑色の液体が残る奴です。あれはダークサマナーに使役された、この魔界の悪魔たちです」
「…詳しい話を聞かせて欲しい。それと、貴方達が誰なのかを」
次々と出てくる新情報に、長くなることを察したタバサが腰を据えて話を聞く体制をとる。
「そう言えばまだ、名乗っていませんでしたね。私は、赤根沢玲子と言います。この軽子坂高校の1年です。
 “ガーディアン憑き”なんで、ちょっとだけですが、魔法が使えます。それで、こっちが私の今のガーディアンの…」
「どうも〜倉沢桜花です〜。ちょっと前までは輝明学園で、賢明の宝玉を守る、七不思議をやってました〜」
メガネの少女…玲子が折り目正しく、桜花がどこかのんびりした口調で挨拶をする。
「…タバサ。トリステイン魔法学院、“雪風”のタバサ」
2人の挨拶にこくりと頷き、タバサが簡潔に名前を2人に告げる。
「分りました。タバサさんですね。それじゃあここでは落ち着いて話せないと思うので…」
怜子が立ち上がり、タバサを伴い、移動しようとした、その時だった。
「ここだな!魔神皇様に逆らう者たちがいると言うのは!」
ガラッと横開きの扉が開き、男子生徒が入ってくる。
傍らには何体かのモンスター…悪魔をつき従え、居丈高に玲子たちを見て言う。
「やはり貴様か!赤根沢玲子!魔神皇様に逆らうガーディアン憑きめ!
 魔神皇様がお呼びだ!ついてきてもらう!行け、悪魔ども!」
主の命令を受け、悪魔の群れがタバサたちに襲いかかる。
「…すみません。どうやら話す前に戦うことになりそうです」
魔神皇の動きが予想以上に早かったことに玲子が苦々しげに顔を歪め、懐から拳銃を取り出す。
「まあ、どの道バレるとは思ってましたけど〜。何なら私たちだけでやってもいいんですが、見てますか?」
傍らに炎の塊をいくつか召喚した桜花の問いタバサはフルフルと首を横に振った。
「いい。手伝う。協力しなければ、私も危険」
手にした大きな杖を構え、タバサが悪魔たちを見る。
「ん?何だ貴様!?この学校の生徒では無いな!?」
その青い髪と見慣れぬ制服に顔をしかめた男が言う。
「とにかく、邪魔をするなら、貴様も一緒に相手をしてやる!ゆけ、悪魔ども!」
手早くパソコンをいじりながら男が戦闘態勢をとり…

360 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:13:57 ID:gd3vKXAI
数分後。

「う、うわあああ!?つ、強すぎる!?」
悪魔を全滅させられ、パソコンを破壊された男が恐慌をきたし逃げ出す。
「…強い」
傍らで玲子と桜花の戦う姿を見ていたタバサが正直な感想を言う。
怜子が魔法と銃で攻撃し、桜花が怜子を守りつつ炎の塊で攻撃する。
ぴったりと息の合ったコンビネーションは悪魔たちをたやすく打ち破り、傷一つ受けずに全滅させた。
「いえいえ〜。タバサさんもかなりのものですよ。正直あそこまで正確な魔法を扱えるとは思ってませんでした」
桜花がタバサの使用した魔法を褒める。
タバサの魔法は威力だけで言えば桜花や玲子とそう変わらない。だが、コントロールと錬度が違う。
タバサが作り出した、ごく小さな氷の矢。無駄のない正確な魔法は、男の持っていたパソコンを一撃で破壊した。
「ともかく、移動しましょう。さっきの人が他のダークサマナーを連れてくるかも知れません」
怜子の提案にタバサはこくりと頷く。
「…これが、魔界?」
教室から出て、タバサは思わず息を飲む。
窓の外に広がるのは、紫色の空。
「はい。私たちがここに来て、もう3ヶ月は経ちます」
そのどんよりとした、閉ざされた世界を見ながら、玲子が言う。
「まずは、3階の非常階段から傲慢界…魔界に行きます。詳しい話は、そこで」
タバサが、こくりと頷くのを見て、玲子が歩きだす。そのすぐ傍には桜花がぴったりと張り付き、ふわふわと浮きながら移動する。
「…そう言えば、そのオウカは、何者?」
それを見て、タバサはぽつりと尋ねる。
「桜花さんですか?」
「そう。オウカは、自分を輝明学園の七不思議だと言っていた。だけど、彼女は私の知る輝明学園の制服とは、違う服を着ている。
 それに、“カゲモリ”を知っていた。カゲモリはウィザードの中でも知っている人間はほんの一握りのはず」
タバサの知る“輝明学園”の情報と、大きく食い違う存在。確認しておくに、越したことは無い。
「そ〜ですね〜。学園内では割と有名なんですけど、外の人だと知らないかも知れませんね〜」
ポンと手を打って、桜花はタバサに説明する。
「え〜っと…私は先ほど、七不思議をやっていた、そう言いましたよね?」
「そう。確か輝明学園にそんな委員会があると聞いた。けれど、あなたらしき人物が出入りしてると言う情報は、聞いていない」
「はい〜。私は委員会じゃなくて本物の七不思議…業界用語で言うところの「トイレの花子さん」だったのですよ〜」
トイレの花子さん。桜花はそこを強調して言う。だが。
「…?トイレのハナコさん?」
あいにくハルケギニアにはそんなもんはいない。タバサに通じるはずも無く、タバサは首をかしげる。
「…あれ?知りませんか?トイレの花子さん」
こくりと頷くタバサに、桜花はあちゃ〜と言う顔をする。
「…あ〜。そう言えば日本人じゃないですもんね〜。そりゃ〜そ〜ですね〜。え〜っと…」
しばし考えてタバサにも通じるように言う。
「幽霊って、分かります?」
ビクリと、タバサが少しだけ、固まる。
「…分かる」
「実は私、30年ほど前に恐ろしい魔王とのそりゃあもう激しい戦いの末に相討ちとなりまして…死んで幽霊になってしまったんですよ〜。
 この服はその頃の輝明学園の制服なのです。と言うわけなので、改めてよろしくお願いします」
「…よろしく」
軽く握りあった手が、氷のように冷たいことに寒気を覚えながらも、表情には出さないようにする。
「大丈夫ですか?なんだか、顔色が悪いですけど…もしかして、幽霊とか苦手ですか?」
「大丈夫。昔は怖かったけど、今は平気。問題無い」
まくしたてるようにタバサが言う。
嘘だ。実はちょっぴり怖い…学園世界に来てから。
(幽霊なんて、本当にいるとは思っていなかったのに)
タバサが幽霊が怖くなくなったのは、ハルケギニアでは幽霊なんてものが存在しないと思うようになったから。
だが、学園世界には幽霊は割と普通にいる。
ほとんど害の無い浮遊霊から、学園に被害を起こすような悪霊、果ては普通の学生に混じって勉強しているようなのまで、幅広く。
最近では悪霊退治から死後の生活相談までオカルト系の問題を引き受ける『極上生徒会心霊部』なんてなものまでできるくらいだ。
そんなわけで、タバサは、本物の幽霊がちょっぴり苦手だった…

361 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 12:14:45 ID:gd3vKXAI
今日はここまで。
そんなわけで今回の主役はタバサ。そしてパートナーはスクールメイズ&ヴァリアヴルウィッチより、幽霊の勇者、倉沢桜花です。

>>129
鏡の迷宮のグランギニヨル。絶賛発売中。2人の初々しさとか、いいよね。

>>130-132
3人目倒した直後くらいですかねー。まあ、8人のうち3人倒したり、熊退治してたりするので、割と名声は広まりやすいかと。

>>132
この不器用さが今回のキャンペーンの主役たるゆえんですねw

362 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 12:52:00 ID:Krvv1XNR
>>361
乙でした。
倉沢桜花がここで出てくるとはww
彼女と愛子等、各学校の幽霊&妖怪(神魔など)といったオカルトキャラでなんか書こうかなと思っていたんですww
…まだ書いていませんけど。

>極上生徒会心霊部
横島やおキヌちゃん達(+雪乃丞と小鳩&貧乏神)はここにいそうですね。
愛子召喚時に愛子の学校の中に一緒にいましたから。
HAUNTEDじゃんくしょんの面々とかも。

363 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/26(日) 13:38:14 ID:gd3vKXAI
おっと、レス抜けが。

>>250
本当にライズさん相手には最悪の相性な敵ってことで選ばれましたからねえ。
後は地味にチェフェイもランク5はガン反射相性だったりします。剣は有効なのに。

>>258
あの後、一狼が報告しています。ただし戦闘記録の少なさから「剣を反射、炎に弱い」とちょっと間違った報告になってますが。
カゲモリの初期メンバーのうち、隊長以外の3人はそれぞれの学園で“戦える生徒”と認識されているため、表側との窓口役でもあります。
もちろんカゲモリってことは内緒ですが。

>>329
一応ライズさんは任務中は輝明学園の呪錬制服を着てます。ドルファン学園の生徒だとばれるのを防ぐのと、防具として優秀だってことで。
…まあ、本当のところは作者様しかわかりませんがね。

ちなみに。

>>362
極上生徒会心霊部については名前以外はな〜んも決まってませんし、私が書くことも無いと思うんで、誰か書いてくれるといいな、とw

364 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 14:26:52 ID:o0mz3zfo
斉東高校の聖徒会はオカルトグッズを持って行ったら
学校霊や妖関係の仲裁をしてくれるってばっちゃが言ってた

理事長が異世界のグッズ集めに勤しんでる代わりに
遥都が苦労してそうだなぁ…w

365 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 14:47:02 ID:nu5ORtcW
>>361>>363
・・・・。あれ?
倉沢桜花って、初出スタメモのあの子じゃなかったっけ?

ともあれ、GJでしたー。極生心霊部・・・・これは、マテリアル・ゴーストで書けという、天からのお達しか!

【無理。】

366 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/26(日) 21:05:02 ID:2OjWRm2o
さて、

 ジオンのMS並みに増殖するジジイ四天王、
 言い出してみたが誰もついて来てくれないオヤジ四天王、

そして、校長四天王シリーズ第三弾、

 『リリカルなのは』より第四陸士訓練校の学長、ファーン・コラード三佐。
 『フルメタル・パニック!』より都立陣代高校校長、坪井 たか子。
 『CLAMP学園三部作』よりCLAMP学園の理事長、妹之山 らりさ。
 『ナイトウィザード 魔法大戦』より輝明学園武蔵野校校長、天罪 芽亜。

名付けて、レディ四天王!

367 名前:投下用意完了:2009/04/26(日) 23:40:17 ID:SEAXLMkU
規制嫌いー!
また携帯投下ー!
しかも後編がやけに長くなりすぎて後編1・2的ノリー!分割投下ー!


……そんなわけで後編1、45分から投下予定。
全編的にバトル。異論は認めるッス

368 名前:執行委員の交流:2009/04/26(日) 23:45:14 ID:SEAXLMkU
 ***

 暗(くろ)の帳が落ちた、学園世界の夜。
 ある居住区の隅に、一人の学ラン少年がいた。
 年のころは中学生くらい。息を切らせながら、鞄を抱きかかえながら走っている。
 彼は、何かに追われているように逃げ続け―――おそらくは、相手が狙ったとおりなのだろう袋小路に追い込まれた。

 少年は目の前に広がる高い壁を呆然と見上げていたものの、背後からのローファーが床を叩く音で今の状況を思い出した。
 彼は、鞄を抱えたままおびえた表情で、壁を背にして追跡者を目に映す。
 追跡者は、その口元に不敵な笑みを浮かべていた。
 その長いふわふわした桜色の髪をなびかせながら、その顔にあるのはとろけるような加害者の笑み。
 少女はぱちん、と指を鳴らす。

 それだけで、世界が塗り変わった。
 先ほどまであったはずの背後の壁は消え、世界の色すら塗り替えられる。
 そんな、限りなく間違いない『異界』に閉じ込められた少年は、腰を抜かしながら、半ばヤケになりながら尋ねた。

「なんだよっ! おまえ、なんなんだっ!?
 何で僕が―――僕がおまえみたいなバケモノに襲われなくちゃならないんだよっ!?」

 その、怒りとも逃避ともつかない言葉に、少女はくすりと笑う。

「『バケモノ』か。なかなか言ってくれるな、少年。
 確かにおまえの疑問も尤もだ。だが―――ここは答えてはやらん。おまえにとっては、それが優しさというものだ」

 そう言って、少女は一歩踏み出す。
 少年は息を呑みながらじり、と後ろに退る。そんな彼の様子を見ながら、少女は嗜虐的な笑みを浮かべたまま、一言。

「一つだけ言うのなら―――自分の不運を恨め、と言ったところか。
 今おまえがワタシの言葉を聞いているということが、お前の不運だ」

 言いながら、彼女は虚空から白く大きな杖を取り出し、掲げた。その杖の先に強い魔力光が灯る。
 その魔力が自分に向くのだ、と思った瞬間、少年はぎゅっと強く目を閉じた。
 今までのことが走馬灯のように思い出される。
 そんな少年を見て、少女は一瞬だけ目を細め―――しかし、自身の身につけた魔法を開放。
 杖の翼がゲートボールのような槌と化し、撃つ部分に半径20センチくらいの魔法陣が現れる。
 それは、大地の威を示す魔法陣。その部分を使用して撃てば、非力な魔法使いには出せない大地の力を対象にぶちまける。それが、彼女の解放した魔法の効果だ。

「恨むな、とは言わんよ。安らかに眠れ」

 魔法陣を浮かべた槌を、少女はためらいなく振り下ろす。
 間違いなく、一人の少年の命を刈り取るには充分な威力を秘めた魔法の一撃は、しかし。


 ―――突如彼女と少年の間に落下してきた乱入者が軌道上に割り込ませた鋼塊によって、唐突に逸らされた。


「―――昨日も言ったよな。そういうやり方は許せねぇって」

 落下してきた乱入者―――柊 蓮司は、少女を睨む。
 少女は驚いたように目を大きく見開き、小さく後ろに跳ぶ。
 彼女は不敵な表情に戻ってから、告げた。

「昨日も言ったはずだが? ワタシがお前に許しを得る必要があるのか、と」
「あくまでそのやり方を通すってなら、俺が相手になるっつってんだよ」
「ほう? 魔法にごく弱い魔剣使いが、ワタシの相手をする、と?」
「体力のないキャスターが、マジで戦り合って勝てると思ってんのか?」

 二人の間に、険悪な空気が流れる。
 牽制は言葉だけ。戦場が硬直した、その時。

369 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:47:08 ID:SEAXLMkU
 柊は、『背後』から唐突に出現した敵意に舌打ち一つ。
 迷うことなくウィッチブレードのトリガーを引き、地面と平行に急加速しながら目の前の少女を左腕に抱え、その場から全速離脱。
 同時。少女と柊が今まで立っていた場所に、巨大な雷が落ちた。
 安全圏まで来ると同時、ウィッチブレードを急停止。左腕の少女が目を丸くして呟く。

「―――なんだ、アレは」

 その視線の先には―――先ほどまで少女が追い詰めた少年が、虚ろな表情で立っていた。
 床に鞄は落ち、中のものがいくつかこぼれ落ちている。
 そして―――鞄の中にあったのだろう、分厚いカードアルバムがその腕に抱えられている。
 カードアルバムからは禍々しい紅い輝きが漏れ、青い世界の中で一際の異彩を放っていた。
 バラバラといくつものページがめくれて、数枚のカードが輝く。

 それだけで、空間が塗り替えられた。
 少女の張った青い月匣が打ち砕かれ、ガラスのように粉々になってしゃらりしゃらりと崩れ落ち―――その殻の外側にあった、紅い月輝く月匣が姿を現す。

 その光景に動揺する少女に、柊が答えた。

「元凶の侵魔はあいつに取り憑いてるわけじゃなくて、あの分厚いアルバムそのものなんだ。
 あいつは単にエミュレイターの指先みたいなもんで操られてるだけだ。あいつを殺したところで事態の解決にはならねーんだよ」
「そんなことは聞いておらんわっ!
 ワタシは、あの馬鹿魔力と馬鹿みたいなプラーナの貯蔵量はなんだと聞いているんだ!」

 耳元できんきんと騒がれた柊は、落とそうかなコイツ、と思いながらも月衣の中に突っ込んだままの長門に渡された紙を渡す。
 それを受け取り、少女はそれに目を通し―――なるほど、と呟いた。

「世界中に『カードゲーム』として広まったカードが端末の役割を果たし、世界中からプラーナを少しずつ集めてアレに供給。
 そして、ついでにその端末に魔法的な命令文を書き込むことで学園世界中に配置した端末により異変を起こすことを可能としたのが、あのアルバム内の侵魔ということか」
「らしいな。俺にはよくわからねぇけど」
「だから頭が悪いと言われるんだ、おまえは」
「うるせぇよっ!? 落とされてーのか!」
「痛いから断るに決まっているだろう。何を言っているんだ、柊蓮司。馬鹿か?」

 そう平然と答える桃色髪の少女に、もの凄く文句を言いたい気分でいっぱいの柊。
 そんな彼を省みることなく、少女は冷静に告げた。

「ふむ。しかし、これだけのプラーナがあるとなんでもできそうな気がしてくるな。人造人間を瞬間的に錬成することすら可能だろう」
「そんな落ち着いてる場合かよっ!?」
「慌てたところで何が出来るわけでもなかろう。まずは相手の出方を見てだな……」

 と、少女が言ったその時。
 紅い結晶のような地面から、次々と黒い泥のようなものが凝り、ねじれて様々な形を取る。
 ……少年の抱えているアルバムが壊れたように真っ紅な光を放つことに嫌な予感を感じながら、柊と少女はその光景を見続ける。
 黒い泥たちはやがて不定形から固まり、まるで魔法のように色づいて、様々なクリーチャーへと変貌した。
 中には、柊が今日昼間に倒したビームクラゲもいる。
 なるほど、と少女が何かに感心したかのように呟いた。

「集めたプラーナをあえて志向性を与えずに同化しておき、命令文一つでいつでも起動できるように不定形にしておく、か。
 各地の神話の『泥』の信仰を利用した術式というわけか。魔力の相転移により形を即座に固定できる理想のカタチというわけか? 意外とさかしいな、この侵魔風情が」
「……。お前何言ってんだ?」
「ふむ……自分の無知をさらして楽しいか?」
「楽しくねぇよっ!?」

 柊のツッコミに、少女がうざったそうに目を細めて言う。

370 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:49:08 ID:SEAXLMkU
「……つまりだな。もともとあのカードにはモンスターや魔法の効果のイラストが書いてあるのだろう?
 それをイメージ媒体である『殻』として力を形作っているわけだ。
 型に石膏を流し込んで固めているようなイメージ、と言えばわかるか? 型がカードのイラスト、石膏が侵魔の一部だ」

 少女が語るには、あの侵魔は人の形を取れるほどに高位のエミュレイターであるものの、わざわざ人間の姿にならずに形を不定形のままに留めているのだという。
 そのまま集めたプラーナを取り込み、不定形のまま形を決めないでおく。
 力を使用する際に、同化した端末の形を型―――『カードのイラスト』という形で固定し、瞬間的に端末として出現させることができる、ということだ。
 少女は告げる。

「理解できたか、空頭」
「誰が空だ誰が。
 正直、理解できたかといわれると微妙だが……どっちにしろ、やることは変わらないだろ」

 それはつまり理解できていないということなわけだが。
 しかし彼は、少年を―――少年の持つカードアルバムを、変わらず睨み続ける。
 できることなど、一つしかないのだと言わんばかりに。

「あのエミュレイターぶった斬って、あいつをもとの『世界』に戻すってことには何の変わりもねぇよ」
「―――なるほど。そういえばおまえはそれが『仕事』なのだったか。
 よかろう。『世界を守る』のはワタシの仕事でもある」

 不敵な笑みのままに柊の腕から逃れて地面に降り立つ彼女は、胡乱げな柊の表情を置いてけぼりに、楽しげに宣言した。

「ありがたく思え柊蓮司。
 此度の侵魔狩り、このワタシが―――神代よりの大地の守護者『ゲシュペンスト』が手伝いを申し出てやると言っているのだ!
 母なる大地に立つ敵を、破り、砕き、蹂躙する! それが我が使命にしてワタシの宿命だ。さぁ、ワタシに背中を預け存分に戦ってくるがいい!」
「……お前に背中を預けるってのは、死ぬほど不安なんだが」
「む? 何故だ。ワタシにはおまえを害する理由はない。その程度もわからん空頭か?」
「いや、理由とかそういうのよりもむしろお前の人格的問題でな?
 ―――あー。もうどうでもいいや。せっかく手伝ってくれるって言ってんだ、ありがたく付き合ってもらうぜ」

 溜め息をついて、柊もまた箒から降り、魔剣を敵の群れに向けて構える。
 少女―――ゲシュペンストは、己の愛杖『ヘルメスの杖』に両手を添えて立つ。

「じゃあ、行くぞ葵」
「今のワタシはゲシュペンストだというのに……さっさと行け、刃物馬鹿(ぜんえい)」

 同時。
 柊は腰だめに構えたウィッチブレードのアクセルを吹かして加速。強襲を敢行し。
 不敵な笑みのまま、ゲシュペンストは己の裡に刻んだ励起している『アースハンマー』の魔法を別の魔装と取り替えた。

371 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:49:38 ID:0n0TMy/J
ゲシュか!ゲシュなのか支援

372 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:51:16 ID:SEAXLMkU
 ***

 異形。異形。異形の群れ。
 三つ首の番犬。巨体の蜘蛛。竹箒を持つ亜人。人間ほどの大きさの蛾。二足歩行の剣を持つ猫。大きな一つ目の象。黒甲冑の騎士。四本腕の鬼人。竜。
 ありとあらゆる異形どもが、紅の平原を埋めつくす。
 その群れに、たった一人突撃する人影があった。
 異形が嗤う。囁く。叫ぶ。
 愚か者。我らは一にして群体。ただ一人の人間など敵にもならぬ。我らの前には塵芥に等しい。さぁ、我が手の内で潰してやろう。

 異形たちのその言葉も当然だ。
 そう―――そいつが、ただの人間であったなら。

 裂帛の気合と共に、相棒を振りぬく。
 ただそれだけで、彼の周囲にいた量産式モンスターが、砂利道を蹴った時の砂利の如くに八方に吹き飛んでいく。
 あまりの事態にモンスターたちが我を失う。それもまたわからないではない事態だ。彼らは姿形が違うだけの、まったく同じ侵魔の端末。
 視点が複数存在するだけで、その思考はただ一つの生物が賄っている。それが思考を停止すれば、やはり全てのモンスターも動きを止めるのだ。

 その隙を、歴戦のウィザードは見逃さない。
 再びの爆発的な加速。着地。さらなる強襲。モンスターの密集地帯で薙ぎ払われる鋼の塊が、砲弾の如くに彼らを吹き飛ばした。
 ことここに至り、ようやくエミュレイターは目の前の人間を『敵』だと認識した。
 爆撃を受けたように端末たちが吹き飛ぶのを感知して、派手に魔力を噴出しながら端末を薙ぎ払い続けるそいつを『敵』と認識したのだ。

 その瞬間から、柊を襲うモンスターたちの動きが明らかに変化した。
 柊を囲むように、モンスターが配置を変える。
 一つの生物が思考を賄っている以上、その行動が決まりさえすれば劇的なまでに速攻できる。
 人間が掌の上に置いた小動物を逃がさないために掴むように、全方位からの包囲を完了した。
 しかし柊は不敵に笑ったまま、臆することなく一歩を踏み出し魔剣に生命力を付加。

「―――面白く、なってきたじゃねぇかっ!」

 振りぬく。
 巨大な鋼の塊が行過ぎる際に、力が解放されることによって彼の属性に引きずられ、生まれた爆風が後を追うように侵魔たちを蹂躙する。
 風。台風。大嵐。
 轟々と渦を巻くその風の中心は、ただ一人の人間。
 魔(バケモノ)狩りのための一振りの剣。虚空を往き裂く斬撃。刃の渦にして嵐。
 それが、そのエミュレイターがはじめて見たその 化け物(ウィザード)に対する印象だった。

373 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:53:25 ID:SEAXLMkU
 しかし敵は一人。
 囲んでしまえばいつかは嵐も収まり、中心に手が届くはず、と吹き飛び無に帰すそばから端末を作り直す。
 その狙いを読んだのか、刃の渦の中心は唐突に長大な刃を一度大きく振り下ろし、包囲を崩して活路を駆け抜けるために再びアクセルを開ける。
 逃がさん、とばかりに新たに端末を作ろうとして―――不意に、巨大な魔力反応を感知した。

 そこには。
 翼の杖を大地に突きたて、方膝を立てて祈りを掲げる聖女のような少女がいた。
 しかし彼女は、聖女と言うにはあまりに嗜虐的な笑みを湛えていた。

「大地よ。其は天空の花嫁にして人の子を見守りし聖女。
 汝が威をここに示し、人の子に下りし災厄を振り払え―――<アァァース、レイジ>っ!!」

 彼女―――ゲシュペンストの叫びに呼応し、地面がぐらぐらと振動する。
 モンスターはあまりの振動に立っていられず、地面に叩きつけられ、同じ端末が危険な速度でぶつかり合い、地震の影響で隆起した地面に打ち抜かれる。
 広大な破壊をもたらしたそのウィザードは、不敵な表情を崩さぬまま、杖をもって侵魔の本体―――カードアルバムを指す。

「ク―――さぁ行け、若造」

 その言葉が聞こえていたわけではないだろうが、彼はウィッチブレードの加速に身を委ね、全速で少年に―――正確には少年の腕に抱かれているカードアルバムを目指す。
 接近に気づき、混乱が解けた時にはすでに遅い。
 彼は己の間合いにすでに侵魔と少年を取り込み、着地している。
 それ以上前進しようとする慣性を、全て刃を振りぬくためのエネルギーに変換。
 1m半はあろうかという刃を、これまで侵魔の端末のモンスターたちに振るったのと同じように。

「―――終わりだ、寝てろ」

 無慈悲に。冷徹に。冷たい刃を。下から。逆唐竹に。
 ただただ、振りぬいた。

 その一撃で真っ二つに絶たれたカードアルバムは少年の手から零れ落ち。
 衝撃で、少年は大きく吹き飛ばされた。

374 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:56:20 ID:SEAXLMkU
 ***

 よくわからない世界に来て。
 周りのみんなは次々に色んなところに進んでいって。
 弱虫な僕は、一人閉じこもっていた。
 けれど、僕も色んな人と笑ったり、話したりしたいのは本当で。
 どうしたらいいか迷って、悩んで、考えて。

 『お前の得意なものを広めればいいではないか』

 そんな声が聞こえたのは、その時の話。
 それから僕は、何かに突き動かされるようにその声に耳を傾けた。
 今では僕がこの世界のブームを作ってるみたいで嬉しかった。
 近くの友だちには黙ってるつもりだった。
 だって『僕がこんなことをしてると知ったら、妬むかもしれない』って、声が言うから。
 なのに、なんで僕はこんな路地裏で変な女の子に襲われなきゃいけないんだろう?

 僕は、僕はただ―――
 あれ?
 僕は、何がしたかったんだろう。
 この世界に僕の手でブームを起こしたかった?
 違う。
 僕は、僕はただ―――

 ―――他のみんなと、一緒に笑ったり、話したり、したかった、だけなんだ―――。

 声の正体をはじめて見ると、それはどろどろした暗くて深い泥みたいな何か。
 助けて、って声が誰に届くとも思えない、深い深い底なし沼みたいな泥。
 嫌だ。怖い。誰か。
 そう思って、気づく。

 僕なんかを、誰が助けてくれる?
 この世界に来てからの友だちなんか一人もいなくて。
 今までの友だちを放っておいて、話もしてないのに。

 そうだ。
 これは、きっと報い。
 誰かと仲良くなるために、『自分』から近づくことを恐れた僕の報い。
 そして僕はきっと、あの女の子にか、この声―――バケモノにかはわからないけれど、殺される。
 そこで、おしまい。
 唐突な終わりはひどく現実感がなくて。
 けど、そこで納得してしまった。
 きっと僕の心は、声を受け入れた瞬間に折れてしまっていた。
 新しくて理解のできないものを受け入れることを諦めて、声に身を委ねた瞬間に僕の生はそこで終わってしまっていたんだろう。
 つまり、この時間は僕に残されたロスタイム。

375 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/26(日) 23:58:17 ID:SEAXLMkU
 死にたくない。
 死にたくないのに、これが終わりだと納得してしまった自分がいて、どうしようもなく涙が溢れてくる。
 やっと気づいたんだ。
 進むのなら、自分の足じゃなきゃ駄目なんだって、ようやく気づいた。
 今ならどれだけ迷っても、苦しくても、悩んでも、前に進むために勇気を振り絞って、進むことの大切さがわかるのに。
 今なら、逃げずに立ち向かうことができると思うのに。
 なのに、なんで―――僕は、ここで終わるんだろう……?

 死にたくない。終わりたくない。生きたい。生きていたい。
 そう、何度叫んでも僕は声の泥の中に沈んでいって。


 ―――いきなり泥が裂かれて。視界いっぱいに広がった、まばゆい光に包まれた。


 光の色は、純粋な白じゃなくて。
 鋼のような鈍い銀色だったと思う。
 また、声がする。
 バケモノの声でも、女の子の声でもなく、低い男の人の声。

「―――終わりだ、寝てろ」

 その声が、僕の悪い夢が終わったことを伝えてくれている気がして。
 僕は、久しぶりに笑って。
 そのまま生の実感を感じながら―――はじめて聞くその声に安心して、意識を手放した。

376 名前:執行委員の交流:2009/04/26(日) 23:59:26 ID:SEAXLMkU
 ***

 眠りこけている少年を抱え、葵のところに戻った柊。
 葵は柊が降ろした少年の中を探るように掌を掲げ、探るように検分し―――つまらなさそうに目を細めて、一言。

「侵魔のプラーナは感じられん。この少年は無事だ、安心しろ。
 ……まったく、手間をかけさせおって。その割になんだか幸せそうに笑って寝ているのが非常に気に食わん」
「お前本当にウィザードかっ?
 今まで悪い夢見てたんだ、ちょっとくらいいい夢見させてやれよ」
「ほう。おまえがそんなことを言い出すとは思っていなかったが―――アレについてはどうするつもりだ?」

 そう言って葵が指すのは、真っ二つになったカードアルバムと―――そこから零れ、あふれ出す泥のような物体・エミュレイター。
 『世界の敵』とも言えるほどの大量のプラーナの貯蔵量の相手だ。
 多少端末を削り、体を定着させるために使用した殻であるカードアルバムが絶たれた程度では消滅することはない。
 柊のやったことといえば少年を助け出した程度のことで、敵を倒したわけではない。
 彼は、脇に置いていたウィッチブレードを再び手に取る。

「決まってんだろ。
 あんなの放っておけるわけねぇ、下手すりゃ世界中にさっきのモンスターがあふれ出す可能性があるんだ。
 ここで間違いなく、欠片一つ残さずにぶっ潰す」

 瞳は強く前を射抜く。
 『世界の敵』を前にして、倒すことしか考えない。
 そんな彼を見て、下を見ていた少女の頭が楽しそうに小さく揺れた。
 彼女はそこですくりと立ち上がると、翼の杖を再び構える。

「侵魔狩りに付き合う、と言ったのはワタシだ。最後まで付き合ってやろう」
「一緒に吹き飛ばそうとか考えてねぇだろうな?」
「意外と疑り深いな、おまえ。前に出て壁になる役がいなくなったらワタシの身が危険だろう」

 心外だというように唇をとがらせるふわふわした桃色の髪の少女に、それもそうかと納得し。
 柊が立ち上がった、その時だ。
 黒い泥が、その身に宿していたプラーナを大量に噴き上げ、泥自体がそれを追うように間欠泉のごとくに高く伸び上がる。
 二人は各々の武器を掲げて身構える。
 そんな彼らを無視したまま、泥は高く高く―――10mほどの高さまで吹き上がり、先ほどまでの端末を作る時と同じように捻じれ捩れ膨らみ縮み、一つの形を形成する。
 それは巨大なヒトガタ。
 人間のように二本の足で立ちながら、しかし人間そのもののシルエットではない。
 角ばった頭。柱のような腕。関節部分にはプロテクター。
 紛れもなく、それは一般的に『ロボット』と呼ばれるものだった。

 10m―――5階建ての建物くらいの高さのヒトガタを見て、さすがにあぜんとする二人。
 ゲシュペンストが柊にたずねた。

「なぁ、柊蓮司」
「なんだよ?」
「帰ってもいいか? 急用を思い出した」
「うぉいっ!? 最後まで付き合ってやるっつってたのはどこのどいつだっ!?」
「やかましいっ!? あぁくそ、これだから子ども染みた妄想というやつは苦手なのだ!
 理不尽だろうアレはっ!? どう考えても自重で潰れてしかるべきだっ!」
「ウィザードがそんなとこだけ常識に縛られてんじゃねぇぇぇえええっ!?」

 もっともである。
 はぁ、と溜め息をついて恐慌状態から復帰したゲシュペンストが呟く。

377 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 00:00:54 ID:iIlSmYz8
「理不尽だ。あぁまったく理不尽だ。
 くっ……あれだけのプラーナの塊を何に使うかと思えば、やはり『殻』を用いての顕現か。高度な魔術式をなんと無駄なことに用いているのだ、あの侵魔。
 もういい。潰す。一片残さず潰す。何があろうと潰す」
「私怨混じりすぎじゃねぇのかお前。
 まぁ逃げようとするよりは助かるんだけどよ……どうでもいいけど、そこから離れるなよ。
 そいつは今はただのイノセントなんだ。俺もアレの近くまで行って戦うつもりじゃいるが、いざとなった時にそいつを守れないんじゃ元も子もないからな」
「―――フン。いいだろう、お前の提案を呑んでやろう。
 ワタシもウィザード、イノセントを守る盾だ。無垢なる子どもを守るのも、永の時を生きたワタシの役目だろう」
 
言って、彼女は倒れたままの少年を背に杖を構える。
 それに柊は任せた、と小さく呟いて。色のつき終わったヒトガタに視線を落とす。
 敵に向ける、貫くような瞳で。己の内のプラーナを全身に満ちるように循環させながら。

 次の瞬間。
 アクセルトリガーを全開放。蒼い光を噴き上げる逆しまの彗星は、一直線にヒトガタへと向かっていった。

378 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:02:09 ID:gl5t2YdP
――そして今日も睡眠時間が減っていく柊支援

379 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:05:13 ID:iIlSmYz8
 ***

 強襲。同時、エネルギーブースターを起動。箒の加速の勢いに、さらに力を加える。
 ばしゅん、とウィッチブレードの排熱口から熱気が吐き出され、柊の血を吸った魔の刃が大量のプラーナと同化したヒトガタを襲う。
 激突。
 2mの鉄塊と巨大なヒトガタが打ち合わされる凄まじい衝撃音が紅い月匣に響く。

 衝撃音の中心にいた当人は、音が収まると同時にヒトガタの逆襲をかわして箒で移動。
 その最中、自分が魔剣を打ち付けた箇所を見る。

「……おいおい、ウソだろ……?」

 冷たい汗が流れ落ちるのを感じる。
 さすがに必殺のとまでは言わないが、今の一撃はそれなりに本気だった。
 にも関わらずその場所は、ほんの少しの傷もついていなかったのだ。

 相手が物理攻撃に耐性がある可能性もあるが、そういった類の耐性能力ではない。
 そもそもそれなら相手の端末であるモンスターにも攻撃が通じないはずだ。
 柊が見た限り、相手の防御はウィザードならば誰もが行えることであり―――しかし、それを行うものはほとんどいないだろう防御法だった。

 プラーナ。それは可能性の力。
 存在をそこにつなぎ止め、ありとあらゆる不可能を可能とするための力。
 そして、相手がこの『学園世界』でかき集めた力でもある。
 侵魔はかき集めた大量のプラーナを放出。多量のプラーナの壁でもって柊の一撃を防いだのである。
 有限であるプラーナをそんな無茶苦茶な使い方で使うウィザードは存在しない。
 その身につけた魔法など、身を守る手段をいくつかは持っているのが普通だ。

 舌打ち一つ。戸惑いを捨て再びの斬撃。
 プラーナの壁でまたも防ぎきられるが、その度に相手に残るプラーナは確実に減っているはずだ。
 侵魔の集めたプラーナが、防御壁を作れなくなるまで打ち込み続けるだけ。それがこの場で彼が選んだ戦い方だ。
 そして、柊の役目は敵に大きな打撃を与えることだけではない。
 相手の目を派手に引いて後衛を守り、二人への意識を削ぐことも役割の内だった。

 ひらりひらり、と。
 妖しくちらちらと明滅する紫色の光が、虚空を舞う。光が一つ、二つ―――いや、指では数え切れぬほど。
 燐光を撒いて巨体の周りを飛びながら踊る。
 それは、光の蝶だった。
 闇の深遠から浮き上がったような、妖しい色を宿す光。
 一度羽ばたく度に、燐粉のような光が巨体に撒かれている。
 指先に留めた紫色の蝶を愛しげに見つめながら、蝶を生んだ少女はニヤリと微笑む。

「先ほどと同じ徹を踏むか、愚かな侵魔だ。
 敵はソレだけではないと『知っている』はずなのに、なぜ対処を怠るのか。まったく、不可解でならんよ。
 ―――冥府の王が飼うという告死の蝶だ。
 うっかり人間界に一匹逃げてしまった際に世界中に黒死の風を巻き起こしたという逸話のある猛毒、とくと食らえ」

 燐粉を防ぐことを意識から外してしまっていた侵魔に、黒死とも呼ばれる告死の蝶の燐毒が降りかかる。
 毒など効くようには見えない鋼鉄の巨体は、しかし苦しげに身をよじった。
 鋼のように見えようとも、巨体は侵魔そのものだ。毒への耐性がなければ直接それを受けることになる。
 ふむ、と一言呟いて、ゲシュペンストは叫んだ。

「柊蓮司!」
「フルネームで呼ぶなよっ!?」

 叫びながら大きく振りかぶり、虚空を蹴って魔剣を大きく叩きつける。
 しかし、三度目の斬撃も完璧にプラーナの壁に防ぎきられた。
 ゲシュペンストの魔法を防がなかったのは蓄積したプラーナが切れたというわけではないようだ。

380 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:08:43 ID:iIlSmYz8
 単に気づかなかったということか?とゲシュペンストが思考する、その時。
 巨体は腕を持ち上げて、拳の先に彼女を指した。
 届かないはずの拳に、どうしようもなく背筋がチリつく。本能からの警告に、柊が叫ぶ。

「葵っ!! 逃げろっ!」

 叫びながら、自分もアクセルに火を叩き込む。
 柊にもわかっている。ゲシュペンストは背後に一人の少年を守っている。
 彼女はウィザードに見えないような言動や行動をすることも多い。
 しかしそれでも彼女はウィザードであり、己の決めたことに忠実であり、そして長きに渡って『護る』ことを続けてきた転生者だ。
 彼の言葉一つで逃げてくれるような相手ではない。
 事実。ゲシュペンストは柊の声を受けると同時、ヘルメスの杖に輝きを灯して防御呪文の用意に入っている。

 そして。
 柊が到着するよりもわずかに早く。
 鋼の拳が肘から切り離され、プラーナを噴き上げながら勢いよく発射された。

 さすがのゲシュペンストも、その大質量による単純攻撃に意表をつかれた。
 しかし、その攻撃の威力は光景のように笑えるものではない。鋼以上の密度を誇るそれが飛んでくるのだ、直撃すれば防御魔法など簡単に貫き彼女を襲うだろう。
 そうなれば彼女と少年が無事でいられるはずもない。

 だからこそ。
 柊は割り込んだ。飛ぶ拳の真正面へウィッチブレードへと飛ばし、月衣を足場に急停止。
 大質量を前に、雄叫びを上げて魔剣を振りぬく。

「させるかぁぁぁあああああっ!!」

 ウィッチブレードよりもはるかに巨大な拳を受け止めたことで、全身を衝撃が駆け抜ける。
 奥歯をかみ締める。
 重い、頭から足の先までシェイクされたような衝撃。
 その衝撃を受け止め続ける、という選択肢は勘弁願いたい。
 ならば。
 じり、と足をずらす。意識するのは後ろにいる二人の位置。
 ここで真正面から受け止めるのが無理ならば、あの二人に当たらない位置に落とす。
 垂直に立てた刃筋(せん)に角度をつける。その角度がズレないよう、体でウィッチブレードを固定。
 かかり続ける圧力に、負けてたまるかと睨みつける。
 じりじり、と巨大な拳が刃に乗り、その軌道を変える。力を宿す魔剣は、担い手の意思に応えてその拳を逸らしきった。
 膨大なプラーナがすぐそばを行過ぎるのを感じながら、柊は危機を脱したことを確信して息をつき。

381 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:11:16 ID:iIlSmYz8
 ―――大量にプラーナが放出されたせいでまだ確保しきれない視界の向こうから、風を裂く音とともに拳が現れた。


 ロケットのように放出されるのではないが、巨体が繰り出す、大質量の右ストレート。
 その拳は後方の二人ではなく正確に柊を狙っていた。

 今さらながらに己の失策を悟る。
 おそらくは、これが侵魔の狙い。
 本命はこの一撃で柊を戦えない状態に追い込むこと。

 回避など、この距離では無理。
 体勢を整える時間などない。
 魔剣を盾にする間もない。
 迫り来る巨大な拳に対し、防御らしい防御を取ることは不可能、という状態。
 それでも自分に開放できるだけのプラーナを開放し、目の前に迫りくる巨大な拳から目を逸らすことなく。


 ―――トン単位のトラックに重いものがぶつかるような音が、月匣に響いた。


 跳ね飛ばされる瞬間、体中から軋みや何かの砕ける音が響き。
 空中で翼をもがれた鳥が墜ちるように。
 浮いて叩き落とされる球のように。
 正しく空から流れる星のように。
 空中で姿勢を取り戻すことなく、地面に向けて頭から墜落。
 水切りで飛ぶ小石のように地面を2、3度大きく跳ねて、動きを止めた。

382 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:13:04 ID:iIlSmYz8
まぁ、そんなところで後編1終了ー。

……このスキル持ってないよ、とかツッコまないでほしいですー。

続きは45分から!

383 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:36:06 ID:RIWNHrdv
   /|:: ┌─────-─┐ ::|
  /.  |:: |          .| ::| チャンネルはそのままで支援モサモサ
  |.... |:: |          .| ::|  続きはCMの後で!
  |.... |:: |          .| ::|     l^丶
  |.... |:: └─────-─┘ ::|     |  '゛''"'''゛y―,
  \_|    ┌────┐    .|  )  ミ      /
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (   γ丶    ミ 
              / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄ミ_,      ミ
             /             \,,,,,,.....,,,,,彡

384 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 00:45:10 ID:iIlSmYz8
 空を飛ぶ刃を落とし、それが動かないことを確認して。
 侵魔はもう一人の敵に向けて首を動かした。

 仲間を目の前で墜とされた少女は、しかし。
 巨体に対する怒りの目ではなく。
 墜ちた仲間を心配する目ではなく。
 次はわが身という恐怖の目でもなく。
 ―――ただ不可解なものに対する苛立ちを宿した目で、侵魔を睨んでいた。

「……わからんな。
 侵魔、お前の作ったシステムは実に巧妙だ。
 なにせこのワタシですら、昨日そこの小僧とお前が一緒にいるところを見なければ侵魔の仕業だなどとは思わなかったほど。
 この魔法使いの多い世界において、カードを念入りに分析しない限りその機能を発見できなかったほどだ。
 それほどのシステムを構築しておきながら、お前のやることは実に単純。むしろ、単純に過ぎる。
 確かに『想像の殻』による形成速度は速い。雑魚を配置するには便利な方法だ。
 だが―――何故、侵魔としての特性すら捨ててそれを行う?
 それほどのプラーナがあれば、魔の王の一角を狙うこととて可能なはずだ。侵魔としての魔法の力も能力も捨て、なぜお前はその姿をとり続ける?」

 純粋な疑問。
 それはこれまで侵魔や冥魔と呼ばれる侵略者たちと長い時争った者が放つ、不可解に対する問いかけだった。
 彼女の、答える者がいなければ間の抜けた光景に映るだろう問いかけに、これまで一言たりと声を発さなかった侵魔が答えた。

「簡単ナコトダ、ウィザード。
 ドノヨウナ生物モ、最モ純粋ニ強イノハ本能ノママニ生キテイル状態ダ。
 必要ナダケノしすてむヲ構築シタ後、余分ナ知能ヤ知性ヲ捨テ、ソノしすてむニ沿ウ行動ヲ取ッテイルダケノコト」
「つまり、お前は過去に作ったシステムに従って後の行動をとっている、と?
 お前にとって、そのシステムはお前の能力を全て捨ててもいいほど自信を持っているものだというのか?」

 そう尋ねた彼女は、やはり不可解そうに。
 彼女にとってはその侵魔の生き方は理解の及ばぬものであり、その不可解を解消しておきたかったのだ。
 侵魔はカカカ、と嗤い、答えた。

「ウィザード。貴様ハ、『刻むもの』トイウ我ガ同胞ヲ知ッテイルカ?」
「『刻むもの』……昨年の初夏に消された、本に擬態した侵魔だったか。ソレがどうかしたか?」
「ヤツトハ昔、魔導ノ腕ヲ競イ、共ニ高メアッタ仲デナ。
 『刻むもの』ハ、見事ナしすてむを作リ上ゲタ。膨大ナ魔術式ヲ圧縮スル特殊ナ『本』ヲ完成シタノダヨ」

 『刻むもの』。
 それは、輝明学園の秋葉原分校に封印されていた、宿主を選び、その心を掌握し、世界を変革するほどの強力な魔法を可能とした力を持った『魔本』の侵魔。
 世界の危機となりかけたその事態は、輝明学園にいた学生を中心とするウィザードたちの手によって『刻むもの』が消滅させられて終わった。
 ゲシュペンストは、侵魔の言葉を聞いてほう? と少し好奇心をそそられたように眉を寄せ、尋ねた。

「かつての同胞の正しさを証明するため、あえて同じやり方でより強力な方法を構築して世界に挑戦しよう、とでも?」

 彼女の言葉に、侵魔は一拍沈黙し。


「―――カ。カカカ。カカカカカカカカカカカカカカカカっ!!」


 ―――嘲け嗤った。


「カカカカカ!
 貴様、正気カウィザードっ!? コノ数十年、コレホド愉快ナ言葉ヲ聞イタコトハナイっ!
 我ハ有用ナしすてむヲ有効活用シテヤッテイルダケダ。正シイカドウカナド関係ナイ、使エルカラ使ウ、ソレダケノコト。
 貴様ハ本当ニ侵魔ニ『情』ナドトイウモノガアルト信ジテイタノカ? クダラン」

385 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 00:48:04 ID:iIlSmYz8
 笑い声は続く。
 月匣中にその声は広がり、反響し、轟き―――それが、唐突に止む。
 巨体が左の肩をぶん、と振る。するとプラーナが大量に噴き上がり、プラーナが腕を形成しなおした。
 侵魔はゲシュペンストに向けて、告げる。

「終ワリダ、ウィザード。
 コノ月匣ニハ今貴様ト我シカ存在シナイ。紙ノヨウナ貴様デハ、コノ我……『模るもの(かたどるもの)』ガ一撃ヲ阻ムコトハカナワン。
 ――― 先ホド笑ワセテクレタ礼ダ。死出ノ旅ノ前ニ、言イタイコトハ全テ言イ捨テテ逝ケ」

 嘲笑う声。
 それを聞いて、ようやく合点がいったのか。
 ゲシュペンストはいつもの通りの底意地の悪い不敵な笑みを浮かべ、侵魔に向けて言った。

「寛大なことだ。
 では、遠慮なく3つほど言い捨てさせてもらおうか」

 翼の付いた白い杖―――ヘルメスの杖を肩に乗せ、彼女は侵魔に向けていつものように見下すように告げる。

「1つ目。
 貴様は先ほど『生物は本能のままが最も強い』と言ったが……そんなわけがなかろう、戯(たわ)け。
 この世界の生態系の中で、環境に自然と適応する力もなければ爪も牙も毛すらも飾り物の人間が頂点に立てるのは何故か考えたこともないのか?
 人間という生物は、小賢しく考えるからこそ頂点に立っているのだ。
 勝てぬならば、勝つための道具や方策を用意する。その精神は、常に諦めを捨て最善を選ぼうとする心から生まれる。
 過去に作ったシステムに頼り、状況への適応を忘れて楽な方に逃げた貴様にはわからんかもしれんがな」

 自信の揺るがない彼女を見て、侵魔は少しいぶかしむ。
 ゲシュペンストの声は朗々と続く。

「2つ。
 『侵魔に情など存在しない』と、先ほどお前は言っていたな。
 ワタシも同意見だ。お前たちに情など存在しないと、今でもワタシは信じている。
 ―――だがな。
 『情』というものを目覚めさせてしまったイカレた魔王が存在したことも、ワタシは知っている。
 奇跡、なんて軽いことを言うつもりはない。侵魔狩りをやめるつもりもない。
 侵魔を山と狩ってきた人間が実に今さらだがな。ワタシとしても、そんな『例外』についてどう接していくべきなのか、模索しているところだ」

 彼女は、少しだけ誇らしげにそう言った。
 この世界に来る前に、人間と魔王の起こした『奇跡』を彼女に見せつける事件があった。
 ゲシュペンストよりも遥かに年下の彼らが起こした奇跡は、一人の魔王に『情を得たい』と思わせたこと。
 彼女と同じくらい永きを生きた不変の者であるはずの『魔王』の心を、変えてしまったという事実。

 だからこそ、ゲシュペンストは『模るもの』の言葉を否定する。
 お前ごときが『彼』の生き様を否定するのか、という少しの嫌味を込めて。

386 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 00:52:06 ID:iIlSmYz8
 『模るもの』は、平坦な声で告げた。

「言イタイコトハ、ソレダケカ」
「阿呆、3つ言い捨てると言っただろう。
 最後の1つ。これが、お前にとっては一番大きな情報なのだろうがな。

 ―――お前は、さっき叩き落した男があの程度で諦める人間だとでも思っているのか?」


 彼女の楽しそうな言葉と同時。
 どつり、と。
 硬質な地面に、より硬いもの突き立てられる音が響いた。

 それは、重厚な刃。
 2mの鉄塊にして、魔を引き裂く剣。
 相棒に手をかけたまま、その主はゆらりと立ち上がり、血の混じった唾を吐きだした。
 額から流れ落ちる血を邪魔だとばかりに袖でぬぐう。
 呼吸は吐息に音が重なっており、激痛によるものなのだろう脂汗が流れる。
 他にも、先ほどの衝撃によって無事なところを見つける方が難しい有様。

 しかし眼差しだけは変わらぬ、壮絶なまでに鋭く。
 刃の如くに敵を貫抜く。

 その姿に、『模るもの』は疑問を抱いた。
 『適応』に必要性を感じることをやめ、状況を見ることなくただシステムに沿うことのみをその意義としていた彼が、泥となって始めて感じた『疑問』だった。

「ナンダ、貴様ハ?
 アノ一撃を受ケテ、ナゼ立チ上ガロウトスル? 痛ミト苦シミニ支配サレ、寝テイタ方ガ楽ダッタハズダ」

 それに柊は答えない。
 答える力が残っているなら、目の前の敵を打倒することに費やすと言わんばかりに。ただ巨体を睨む。
 だから、それに答えたのは後ろに立つゲシュペンストだった。

「そうだな、その通りだ。
 その小僧もその程度のことはわかっているだろうさ。
 だがな―――ここでお前を見逃して起こることを、そいつは正確に理解している。
 それゆえに見逃せんのだ。
 知っている誰かが。まだ知らぬ誰かが。お前を逃がせば、傷つくことがわかってしまったのだから」

 答えた彼女の単純な答えに、『模るもの』が戸惑ったような声色になる。

「ナンダソレハ。ソンナコトデ……」
「そんなこと、か。
 なるほど、その馬鹿の名を知らぬとは珍しい侵魔だな。
 ふむ。『適応』を捨てた、ということは他と関わらんということでもあるか」

 暢気に彼女がそう言って、壮絶に楽しそうな笑みを浮かべた。

「―――見せてやれ、魔剣使い。
 そこの身の程知らずの『世界の敵』に。『天敵』たるお前の力を―――っ!」

387 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 00:57:26 ID:iIlSmYz8
「お前が仕切るなよ」

 しゃらり、しゃらりと。
 硬質なもの同士がこすれる音が響く。
 1つ。2つ。3つ4つ5つ6つ7891020501001000――――――いや、数え切れぬほどの硬質な音。
 その音は頭上、『模るもの』よりもさらに高く。彼でさえも上を見なければ見えぬほどの高みより。
 まさに上空と呼ぶ他ない高み。紅い空を、強く輝く赤い光の群れが埋め尽くす。

 透明な刃。刃刃刃刃刃の群れ。
 色のない、現実感のない、そこに在るということすら信じられなくなりそうな、結晶から削りだしたような刃。
 同じ、夕焼け色の赤い宝玉を宿すそれらは、狙いすましたように剣先を『模るもの』に向けている。

「――― 来いっ!」

 柊が。一にして全、違いながらも同じ、ありとあらゆる世界に時を同じくして存在する『相棒』に向けて、告げた。
 たった一人の主の声に応え、『彼』を担い手とする刃たちが。
 己の使命を果たすべく、その声に応えるべく、ただ1つの敵に向けて。雨の如くに轟々と降り注ぐ。
 
 その刃の群れに気づいた侵魔は、駆け抜ける本能的な危機の予感に思わず全身をおののかせた。
 プラーナの壁を作り、降る魔刃の群れを阻もうとしたその時。

「ワタシを忘れるとは何事だ、侵魔。
 神威を持って神意を知るがいい―――<デッドエンド、クエイク>っ!」

 白い杖の翼の付け根に飾られた白蛇を伝うように、ゲシュペンストのプラーナが杖に吸い込まれる。
 翼の隅々までを、可能性の力が満たし輝く。
 同時。
 通常ならばゲシュペンストの今の宿主、子ノ日葵の体では使用できないはずの量の魔力が、その体に満ち満ちる。
 杖で指すのはもちろん侵魔。狙う必要すらないほどに巨大なその体。

 その膨大な魔力と、杖の能力によって生まれるのは大地の脈動にして怒り。
 隆起、振動、埋没。
 巨体は大地にその足をつけている。たった二点で固定している巨大な質量が、安定を欠く地では姿勢の維持もままならない。
 巻き上げられた岩塊が巨体をしたたかに撃ちつける。
 慌てて全身にプラーナの壁をそそり立たせる。
 しかし、いくら無尽蔵のプラーナを誇るとは言っても、放出できるのは侵魔そのものの能力の分のみ。

 上から降り来る幻晶の刃の群れ。
 足下を揺さぶる地面の脈動。
 上下2面からの切り札級の攻めに、『模るもの』のプラーナ開放力では完璧に防ぐほどの壁が作り出せない。
 黄昏の色を宿した幻の刃たちが頭を貫き、胸を切り裂き、指を落とし、関節を撃ち抜く。
 大地の脈動に跳ね上がる岩石の塊が胴を打ち抜き、足を砕き、姿勢を崩して、刃を跳ね返す。
 多くの攻撃はプラーナの壁が打ち払うものの、それすらすり抜けた岩石と刃が『模るもの』を襲った。

 ぎちぎち、と。
 『模るもの』の内を刃と岩石、そして先ほど受けた燐毒が渾然となって襲う。
 歯車が上手く回らない。
 痛みが思考を遅らせる。
 プラーナでは弾くことのできない体の内の痛み。

 だが、まだ生きている。相手は満身創痍で力を使い切った無力な人間と、近寄ってしまえば一撃で殺せる小娘。
 彼は勝利を確信する。
 どちらにせよ、生き残った方の勝ちなのだ。

388 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 00:59:49 ID:iIlSmYz8
 殺して、死体にしたあと今までの礼をきちんと返し、その後大量に消費したプラーナを多少なりとも回収する。
 そのために、『模るもの』が隆起したままの地面を打ち崩し、前進したその時。


 ―――4度目の強襲のため、ウィッチブレードを駆った柊が刃を振るえる位置まで飛んできていたのを感じ取った。


 切り札を切った後。
 しかもその切り札を切らなければ攻撃が通らないのは知っているはずの柊は、それでも突貫を敢行した。
 彼の行動を理解できないながらも、好都合と『模るもの』は考える。
 相手はただの死に損ないだ、あと一撃でも入れれば生死の確定する状況で飛び込んできたのだから、一撃を受けきった後反撃でトドメをさせばいい。
 その一撃を受け止めるため。彼は変わらずプラーナを壁のごとくに放出した。

 柊は、これまで自身の刃を完璧に防いできた壁が展開されるのを視認して、なお速度を落とすことなく月衣を踏みしめ。
 加速の勢いのままに、これまで幾多の戦場を共に渡ってきた、唯一無二の魔剣(あいぼう)を振り下ろす。

 足りない。
 プラーナの壁に受け止められている。
 当然だ。これまで止められ続けたのと同じ攻撃が通るはずもない。ならば。
 先の三撃で使い切ったエネルギーブースターを廃棄。月衣から落とすように新しいブースターを装填。通常なら三回に分割して使用するエネルギーを三連装填、全開放。
 ウィッチブレードの加える圧力が爆発的に増幅した。しかし、壁を突き破るには至らない。
 近くて遠い距離。この壁さえ越えれば、一撃を叩き込むことができる。
 負けない。負けられない。だったら―――

(―――まだ使えるもん全部突っこんででも、この壁ぶち抜くだけだ!)

 覚悟を決める。
 残るプラーナを全て刃に宿す。相棒に残り少ない力を奪ってしまえるだけ奪うように頼む。そして。
 開放。
 二段階目の爆発的な加圧。
 風がうなり、命を食らい、意思の力を宿した刃は。


 ―――鉄壁を誇った『模るもの』唯一の能力であるプラーナの壁を、真正面から破り裂いた。


 鉄壁を打ち破ったことに、知らず心が高揚する。
 二段階の加圧で加速し続けるウィッチブレードが『模るもの』に触れる一瞬前。
 相棒に向け、一言だけ呟く。

「―――解放っ!」

 封印を解く。
 魔剣が三段階目の加速を果たして。
 爆発的なまでの威力によって、10mの巨体を脳天から真っ二つに叩き斬って断末魔すら消し飛ばしながら消滅させ。
 ―――侵魔が体に溜め込んでいたプラーナを全て解放して、紅い月匣が砕け散った。
 それが、この度の『世界の敵』の起こした事件の顛末だった。

389 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 01:04:12 ID:iIlSmYz8
 ***

「……まったく、世話の焼ける」

 半眼で、ゲシュペンストは自身に残る少ない魔力を用いて、仰向けに転がっている柊に向けて杖を振るっていた。
 魔剣使いはただでさえ魔剣に力を食わせながら戦う。
 今回はその上プラーナは使いきり、魔力は使い切り、ダンプカーのような一撃をほぼ抵抗も出来ずに受け、最後に残る力を食えるだけ食わせたのだ。
 少し寝たくらいではさすがに治りきらない。
 最低限立って自分で医者のところに行く程度の体力は確保したい、と頼まれたゲシュペンストは、得意ではないものの一応保険のために覚えた回復魔法を発動させた。

「<ヒール>」

 確かに発動した回復魔法が、暖かな波動を伴って頭の傷を癒し、体力を微量回復させる。
 血の止まった頭の傷を2、3度軽く叩いて確認。
 よっこいしょ、と言いながら柊は立ち上がる。

「ありがとうな。助かったぜ、葵」
「ワタシは子ノ日葵ではない。ゲシュペンストだ、と何度言えばわかるのだお前は」

 少しイライラしたように、ゲシュペンスト。
 細かいこと気にする奴だな、と呆れたように柊は言う。

「お前が葵じゃない葵だってのは知ってるよ。
 けど長いだろ、ゲシュペンストって。すげー呼びにくい」
「ひ、人が昔から気にしていることを……。
 えぇいっ。呼びにくいなら呼びにくいで、呼びやすくするとか色々あるだろう!?」

 言われてあだ名をつけるというのはアリか、と考えた柊はしばらく考えて、言ってみた。

「ゲシュ子、とか?」
「……よし。今魔装を<アースハンマー>に取り替えたところだ。
 かちこん、といくかかちこんと」

 ヘルメスの杖を変形させ、大きな魔法陣を発生させて2、3度素振りする彼女を見て、さすがに手で制する。

「忘れろ、むしろ忘れてくださいすいませんでした。
 つーか冗談だって。お前だってせっかく回復させた奴を自分で殴るなんて無駄したくないだろ?」
「無駄をさせているのはどこのどいつだ。
 まったく付き合いきれん。よく考えれば、お前がワタシをどう呼ぼうがワタシにとっては本当にどうでもいいことだったな」
「じゃあ別にいいじゃねぇか、葵で」

 そう言われては彼女としても反論がし辛い。
 しばらく不機嫌そうな表情をしながら、彼女はふん、と鼻を鳴らした。

「……では、それで構わん。
 ワタシの仕事は世界を守ること。お前の仕事はこの世界の住人を守ることだ。そこの小僧のことは任せるぞ」
「おう。―――ありがとうな、助かった」
「言ったはずだ、ワタシの仕事は世界を守ること。
 お前流に言うのなら、自分の仕事をして礼を言われる筋合いはない、と言ったところか」
「手伝ってやる、って言ったのはお前だろ?」

 そう言われたゲシュペンストは、くるりと背を向けて。

「―――さて、忘れたな。
 そんなことよりも、さっさと病院に行って来い阿呆。明日の仕事に差し支えるぞ」

 白い月の光が差し込む路地裏の袋小路から、スタスタと去っていった。
 その姿が見えなくなるまで待った後。
 柊は静かになった夜を、ぐったりしたままの少年を抱えてウィッチブレードで飛び上がった。

390 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 01:08:05 ID:iIlSmYz8
 ***

「もう、気をつけろよなー」
「最近元気ないから心配してたんだぜ?」
「お前にさ、紹介したい奴がいるんだっ! きっと気に入ると思う!」

 真っ白な病室にやってきたのは、友人たちだった。
 昨日、放課後下校した時からの記憶がさっぱりないまま、気がついたら病院にいたという僕。
 そんな話をどこからか聞きつけたらしい彼らは、昼休みで忙しいにも関わらず転送陣を使ってまで来てくれたらしい。
 なんだか久しぶりに話す彼らの声が、やけに懐かしいもののように感じて。
 どうしようもなく涙がこみ上げて、からかわれたりもした。

「けど、思ったよりも元気そうじゃねぇか。
 昨日まではなんか付き合い悪かったから、俺はもうお前に彼女でもできたのかと」
「ぼ、ぼぼぼぼ僕に彼女とかできるわけないじゃないかっ!?」
「うるせーよっ! バレンタインに何ももらえなかった俺の気持ちがわかるのかコノヤロー」
「そうだコノヤロー。チロルチョコでももらえただけありがたいと思いやがれ」
「あ、あれ従姉妹! 従姉妹がくれたヤツだって言ってるじゃないかっ!」

 そんないつもどおりの日常が回っていることにホッとしながら、友だちの一人が心配そうに聞いてくる。

「けど、大丈夫なのか?
 居住区近くで倒れてたのを拾ってくれた人が一番近い病院に運んでくれたって聞いてるけど、ケガとかしてないのか?」
「あ、うん。ケガはないみたい」
「でもなんでそんなとこにいたとか、なにも覚えてないんだろー? それって立派な記憶障害ってヤツじゃねーのか」

 心配そうに、違う友だち。
 僕は、せっかく来てくれた友だちが安心できるように笑った。
 誰かのために笑える僕が、なんだか嬉しいとなぜか思いながら。

「とりあえず心配だから三日くらいはお休みだってさ。検査入院、ってやつ?
 そんなわけなんでその間のノートよろしく」
「任せろ。1教科につきパン一個な」
「う……頑張る」
「じょーだんだよっ!
 ところで、本当になんでお前あんなまったく学校と関係ない居住区なんかにいたんだよ。
 何にも覚えてないんだろーけど、危ないとこにわざわざ行くの止めろよな」

 ゴメン、と言いながら―――僕は1つだけ覚えていることを思い浮かべる。
 白。
 正確には、なんだか鈍い銀色染みた白い色。
 それが、何故か心に焼き付いていて。

 ―――僕は、今ならこの世界で頑張っていけるような気がしていた。

391 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 01:12:02 ID:iIlSmYz8
 ***

「……以上が報告です。我が主よ」

 ゲシュペンストは、県立北高校の図書館で事件の報告を行っていた。
 彼女が主と呼ぶ娘―――北高の制服を着て、本のページをめくる長い黒髪の少女は、いつものように小さく微笑みながら、そうですか、と呟いた。
 少女―――北高で『群田 理生』と名乗っている彼女は、ゲシュペンストにとって主と仰ぐ人物だ。
 今回、ゲシュペンストが『模るもの』を追いかけていたのは彼女の命でもある。
 一番はじめに、彼女の命を受けたのはある少年に憑いた侵魔が『世界の敵』となるので早く見つけるように、ということであった。
 一昨日ようやく少年を発見して追いかけようとしたら、カードをコアに月匣を張られて逃げられてしまい、柊と鉢合わせて一悶着起き。
 それを昨日報告したら、『この件に柊蓮司が介入してくることと、貴方がこの件を解決する一人であることは、この書物に書いてある通り』と言われ。
 最初から言って欲しいなー、と思っていたら『今の私はこの本の力を1セッション3回までしか使えないのです』と笑顔で答えられて反論を防がれた。

 閑話休題。
 ともあれ、理生はめくっていた本を閉じてゲシュペンストに向き直る。

「ご苦労様でした、ゲシュペンスト。これで私の望みもかなうことでしょう」
「礼には及びません。ワタシが貴女様の命を聞くのはごく自然なこと、疑いを差し挟む余地もありません」
「あらあら……これまで作った 貸し(オラクル)を少しでも安くしておこうという魂胆かと思っていましたが」
「と、とーんでもないっ! このワタシがそんなことを考えるようにみみみ見えるのですかっ!?」

 もの凄く取り乱すゲシュペンストを楽しげに眺めながら、理生はいつもと変わらぬアルカイックスマイルで答える。

「えぇ。これで、またしばらくこの世界に留まれる時間が増えました」

 そう告げた彼女に、ゲシュペンストは僭越ながら、と自身の抱いた疑問をぶつけてみた。

「我が主よ、貴女様は―――この世界を、気に入っておられるので?」
「あらあら。少しおしゃべりが過ぎたようですね」

 いつもと変わらぬ笑みのまま、彼女は新しい本に手を出しながらゲシュペンストを見た。

「ゲシュペンスト、我が僕よ。此度はお疲れ様でした。
 また何かありましたら、貴女を頼らせていただくこととしましょう。今は退がりなさい」

 そう言われては、かしこまりましたという他はない。
 ゲシュペンストは目を閉じると、子ノ日葵に体を明け渡す。
 再び目を開けた時、彼女はすでに『子ノ日 葵』だった。
 理生は、いつもの通りの笑みを浮かべながら葵に向けて挨拶した。

「おはようございます、子ノ日 葵さん。よく眠れましたか?」
「へっ!? あ、お、おはようございます群田さん……ですよね?」

 はい、と答えた理生に、慌てて葵は周囲を見回した。
 そんな彼女を微笑ましげに見ると、理生は告げた。

「ここは北高の図書室ですよ。昨日と同じ」
「え。わ、わわ私また知らないうちに知らない学校にお邪魔を……っ!?」
「……そのようですね」
「な、な、なんで―――」
「図書室で騒ぐのはご法度ですよ?」

 言われ、口に手を当てて静かにする葵を見て、あら、と理生は時計を見て言った。

「子ノ日さん、そろそろ学校に戻らないと授業に遅れてしまいますよ?」
「あっ、群田さんありがとうございますっ、じゃあ私はこれでっ!」

 静かに、しかし慌てだしく駆けていく彼女をじっと見て。
 理生もまた授業のために本を片付け、今日は放課後に何が起きるのか、心躍らせながら席を立った。

392 名前:執行委員の交流:2009/04/27(月) 01:16:44 ID:iIlSmYz8
 ***

「幸運の宝石、でありますか?」

 昼前の執行部室。
 ノーチェと二人だと若干広い部屋を持て余し気味に、柊がたずねた。

「あぁ。予備とかストックとか、そーゆーの持ってねぇか?」
「つまり昨日使った、と?」
「昨日とは一言も言ってねぇぞ」
「何言ってるでありますか。
 不安要素は意外ときちんと減らすタイプの蓮司が、生命線になりかねない幸運の宝石をなくしたままでぼーっとしてるとは思えないでありますよ」

 柊が幸運の宝石を失ったのは、事実昨日のことだ。
 魔剣でロケットパンチを逸らした際、あの石の力を借りてそれを成功させたのだ。
 あれをそのまま受けていたら、最後にプラーナの壁をぶち破るための力が足りていなかったかもしれない。
 今思い返しても冷や汗ものである。
 そんな、昨日の一連の(命の)やり取りを思い返していると、ノーチェが首を傾げた。

「でも、昨日はわたくしの知ってる限りそんなこと言ってなかったでありますから、わたくしがいなくなってからそんな事があったのでありますか?」
「別にいいだろ。持ってるか持ってないか答えろって」
「残念ながら持ってないでありますよー。
 あ、でも確か開発部の、天明の妹の光明が安く試作品扱ってたであります」
「……試作品ってあたりが怖い上に、開発部ってあたりがさらに不安を煽るんだが」
「光明は優れた技術者でありますよ。って、宗介が言ってたであります」
「相良は〜であります、とは言わないだろ、お前相手には」

 階級的に絶滅社のヒラ傭兵相手に軍曹が軍隊式敬語もどきは使わない。
 ともあれ、安値で高い効果を発揮する可能性もある。聞いてみる分にはタダだろう。
 珍しく戸を開けて外に向かう柊に、ノーチェが尋ねる。

「お出かけでありますかー?」
「今いいこと聞いたからな、開発部まで行って来るわ」
「お土産はもちもちぷりんでよろしくでありますよ」
「買わねぇよっ!?」

 ぱたん、と戸が閉まるのを確認し、ノーチェは急須に手馴れた様子でポットのお湯を注いで、湯呑みにお茶を入れ、一口。
 ほっと一息つきながら、彼女はぺちぺち、と水晶球を叩く。

「―――まったく。ある程度の事象なら、すぐに調べがつくのでありますのに。
 でもまぁ……わたくしとしてはお礼を言っておくところなのでありましょうな」

 事実、昨日の久しぶりの飲み会はすごく楽しかったノーチェとしては、柊から昨日の提出書類を任されている長門に連絡をとって書類書きを代行して。
 今日の出動優先順位を、できるだけ柊を外した面子でできるように考えることで恩返しをするために頭を働かせることを決めて。

「今日も、頑張るでありますかなっ!」


 人と人が繋がって。
 笑って。話して。
 そんな世界を守ろうと、そんな世界を続けていこうと考えている人は、案外いて。
 その青い願いが続く限り、この世界は回り続ける。
 さまざまな思惑と、たくさんの笑顔を乗せたまま。今日も回る。

 fin

393 名前:夜ねこ:2009/04/27(月) 01:20:34 ID:iIlSmYz8
 全部で100超え(挨拶)。
 わぉ、投下用で100超え久しぶりだなぁどうも夜ねこです。
 今回のコンセプトは前も書いたけど「執行委員との交流を書きたい!」、テーマは「互助の裏」。
 つーかただ柊の話書きたかっただけっぽいよね、これ(汗)。
 最初イメージしてたのとは大分毛色が変わっちゃったからなー。ガチでバトル展開書く予定はなかったのに、書いたら倍と。
 ……俺、欲求不満だったんだろうか。今すげー楽しいけど。

 ともあれー、まずはー、出展ですー。

満潮 永澄(みちしお ながすみ)   磯野第八中学校@瀬戸の花嫁
銭形 巡(ぜにがた まわり)     同上
巻き貝の巻(まきがいのまき)    @瀬戸の花嫁
奴良 リクオ(ぬら りくお)     浮世絵中学@ぬらりひょんの孫
つらら <雪女(ゆきおんな)>   同上
黒田坊(くろたぼう)        @ぬらりひょんの孫
白井 黒子(しらい くろこ)     学園都市内常盤台中学校@とある魔術の禁書目録
「偶然」の人 <カシムラ マサト>  私立彩陵高校@私立彩陵高校超能力部
ゲシュペンスト/子ノ日 葵      輝明学園秋葉原分校@ナイトウィザード
イカレた魔王            @ナイトウィザード
 次、レス返しー。

>>318
 分析系のキャラなんですが、本人は基本的に出ないスタンス。それがカネ・ヒムロクオリティ(謎)。
 再現度……いやー、アレは映像で見てほしいのインパクツ。

>>319
 あざーすっ!
 その辺は、まぁさじ加減なんでしょうけども。難しいっすねー。

>>320-321
 そうですねー。
 Fateもホロウもプレイ済みですが、『学校』をテーマにする以上はサーヴァントを出すのは召喚する『学校』がどれくらいの規模なのかの問題に触れちゃうんで
 極力避けただけなんですけどね。
 氷室出したのは趣味。ゲシュ子も趣味。

>>322
 よると〜かぁ……正直な話、ここでさっちんとエヴァとノーチェを会わせるのは、立場的に難しいのかなーと思いつつ。
 書けるもんなら書きたいッスね。

>>323
 ご、ご愁傷様です……。
 お気を落とさないよう。応援してるッス!

>>324
 あー……つーかね、落ち着けって話っすよね(汗)。
 今日もハンドル欄消えてるとこあるし。長編の携帯投下とかもうキライ〜、とベッキー風味に言ってみる。

>>327
 ゲシュ子で済みませんでした。彼女の事情は某異世界人さん。
 学園世界では既出ではないが、新規作品のキャラではありませんでしたね。惜しい。(何を偉そうに)

>>328
 まったく絡みませんでした(爆)。
 つーか、趣味です。無駄期待させて申し訳ありません(平伏)。

>>329
 むしろ女子濃度高いのは作者のせ(ry
 基本的にフラグたたない子を出してみたつもりです。攻略外キャラばっか。

394 名前:夜ねこ:2009/04/27(月) 01:25:52 ID:iIlSmYz8
 今回の話について。
 持病の「たまには冒険活劇書きたくなる病」と「サブキャラを目立たせたくなる病」が併発。こんな話になりました。
 個人的には実に楽しかったですが、もうこれ執行委員ネタじゃなくて柊ネタだよね。反省。アレです。ノーチェの一日柊版みたいな。
 ナイトウィザードキャラを出そう! と考えて出したのがゲシュ子。
 個人的には昼間は子ノ日葵(ハンドガンマスターな忍者)/夜はゲシュ子(転生者キャスター)な執行委員ってのも考えた。さすがにボツった。

 ウィッチブレード戦ってのを色々考えた結果こんな感じになってしまった。……全国のウィッチブレード使いの皆さん、すみません(汗)。
 箒はとても好きだけど、上手く描写できないのは俺に空中経験を積めというお告げか?
 あと、これは自分の未熟なんですがねー……上手く2人以上の戦況を書けない。
 桃魔も2対1×2、ゆにまほも変則式2対1×2と、なんだかとても未熟です。今度はもっと大規模なの頑張ってみるよ!

 ゲシュ子ことゲシュペンスト。
 結構好きなんですがね。愛さだ中1・2を争うくらい(微妙)。
 ゲシュ子も氷室並みに二人称が流動的なんで、相手の名前を呼ぶのがすごく難しい。でも楽しかったんでまた出てくれるといいなぁ。

 では、今回はこのへんで。
 また何か思いつきました時にでも。

PS 魔器じゃなくて封印解放なんで静かです。使用タイミングとか突っつかれると痛いんでヤメテね?

395 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 01:33:47 ID:1bExl2ft
おお夜ねこさんGJ!

ところで、柊はリオンが群田 理生として学園世界で学園生活を
満喫していることを知っているんだろーか?

……知らねーよーな気がするなぁ

396 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 06:07:51 ID:OrQNamj9
>>361
稀少ガーディアンをPCに。そんな手も在るのか! 
しかしこれではアリスやカロンの出番なさそうとか

>>夜ねこさん
デュエル・アカデミアがリストに在るのに具体名出ないのは少し意外
でもかっこいい。 やっぱりノーチェが締めるのねー、とか

まとめてGJでしたー

397 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 10:25:33 ID:NsDzXTNq
おはようございます夜ねこさん乙ですー。
助っ人ゲシュペンストかよ!。大好きだけど!(w。

398 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 11:38:51 ID:NsDzXTNq
ちょいと小ネタを一発投下〜

399 名前:小ネタ:とある魔法少女の憂鬱@学園世界:2009/04/27(月) 11:42:28 ID:NsDzXTNq
麻帆良学園世界樹前広場、私立聖祥大附属小学校に通う高町なのははここでぼんやりと空を見上げていた。
本日は休日。天候は快晴。気温は快適。となれば、どこかに遊びに出かけよう!となるのがあたりまえ。
しかし、悲しいかな小学生。お小遣いの額にも限度がある。
それゆえになのはは親友のフェイトと共にお金が無くても楽しいことに出会える(騒動に巻き込まれるとも言う)麻帆良学園にまで足を伸ばしてみたわけなのだが…。

 「お仕事は、大切だよねぇ…」

現在、親友のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは執行委員のベホイミからの要請により『異界よりのもの』を排除するために出動してしまった。
なんでも超高速で空を飛び回るため、フェイト並みの高速高機動戦闘が行える者でなければ戦うどころか接触することすら出来ないのだそうだ。

さて、実を言えば高町なのはも『魔法使い』である。
それも重装甲・大火力をもって遠方より敵を撃滅する、まさに空中要塞とも言うべき空戦魔導師である。
モビルスーツで言えばサイコガン○ムとかデストロイガ○ダムとかに喩えられるような。

にもかかわらず、彼女は親友と共に出動するでもなくこうしてほけらっ、とベンチに腰掛けている。

 「魔法、使っちゃだめだもんねぇ…」

そう、実は彼女には『魔法使用禁止令』が出されているのである。


400 名前:小ネタ:とある魔法少女の憂鬱@学園世界:2009/04/27(月) 11:44:18 ID:NsDzXTNq


話は学園世界成立初期、大体3週間目あたりにさかのぼる。
とある喧嘩を執行委員のお手伝いとして(力ずくで)調停し、もののはずみでちょっとした怪我をして。
たまたま、そこに居合わせたリビングレジェンドを自称するヒーラーに傷を治してもらって。
そこで、彼女が不審に思った。「なんか魔力の通りが悪いぞ?」と。
なので、執行部本部まで連れてかれておぽんち吸血鬼にちょこっと『観て』もらったら、「…なんか、やば気な影とか見えるでありますよ…?」などと言われた。
さすがに、心配した親友と周囲のお兄さんお姉さんたちによってたかって輝明学園に連れてかれてヴィヴィ先生の元で精密検査をすることに。

 「過労ね」

結果、学園世界に来る以前から連日行っていたハードトレーニングおよびハードワークのせいで内臓やら骨やらリンカーコアやらに歪みが出始めていると判明。
即座に完治するまで魔法使用禁止!と宣言され、ヴィヴィ先生直々になのは自身と彼女のインテリジェントデバイス・レイジングハートに外部からロックを掛けられてしまったのである。

そんなわけで彼女は今現在、一小学生として日常を過ごしているのである。

ちなみに、なのはに魔法を教えた、いわば師匠にあたるユーノ・スクライア(彼もまたこの学園世界に来ている。なのはたちに巻き込まれて)は後日、監督不行き届きということでヴィヴィ先生にこってりとお説教をくらっている。
同じように、ミッドチルダ時空管理局の上司であるリンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンも(通信機越しにだが)お説教を受けたそうだ。

401 名前:小ネタ:とある魔法少女の憂鬱@学園世界:2009/04/27(月) 11:45:39 ID:NsDzXTNq


 「さて、どうしようかなー」

フェイトが居ない以上、一人でウィンドウショッピングと言うのもなんだか虚しい。
かといって図書館島で蔵書整理のアルバイトをしているユーノの元を訪れるのもなんだかはばかられる。
一般人の親友、アリサ・バニングスと月村すずかもそれぞれ部活や同好会に行ってるし、もう一人の魔法がらみの親友、八神はやてもまた、料理同好会に顔を出しているはずである。
ちなみに、彼女の僕であるヴォルケンリッターもそれぞれ輝明学園の剣道部に稽古をつけに行ったり、大学教授たちのゲートボール同好会に遊びに行ったり、
ヴィヴィ先生のところで強化人間や人造人間のメンテナンスを手伝ったり、フェイトの使い魔・アルフとともに『集会』に出席してたりする。

こうして、一緒に遊ぶような友達がことごとく全滅している以上、フェイトが帰ってくるまでどうにか暇を潰すしかないのだが…。

 「お、思いつかない…」

意外に一人で過ごせるような趣味を持っていないことに気づいてちょっぴり凹んでみたりする。

 「あの…どうしたの?具合悪い?」

そうして、一人ベンチの上で百面相していたのが目に留まったのか一人の少女が声をかけてきた。
着ている制服は何度も見かけた輝明学園の物。柔和な顔立ちと髪をまとめる大きなリボンがついた青いカチューシャが特徴的だ。

 「あ、いえいえ大丈夫ですなんでもないです、はい!」
 「そう?なんだか深刻な表情していたから気になっちゃって」

そう言ってちょっぴりはにかむ輝明学園のお姉さん。

 「あ、私は志宝エリス。あなたは?」
 「わ、わたし、高町なのはですっ!」

こうして、二人の一般生徒が出会った。
この出会いは、学園世界にとっては何処にでもある小さな出会いだったが、当の高町なのは本人にとってはとても大きな出会いだった。


402 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 11:49:26 ID:xIHqWHDX
此処に、二人の魔王が、出会った! 支援

403 名前:小ネタ:とある魔法少女の憂鬱@学園世界:2009/04/27(月) 11:53:43 ID:NsDzXTNq
以上、投下終了

きちんと先を考えてますが、文書にまとめるのに難儀してるので此処で区切らせてください日常って難しい…orz
とりあえず学園世界の危機とかは関係ないです。
最初のころの小ネタに名前だけは出てきてたけどその後一切話に関わってこなかったリリカルなのはネタです。
なんで正義感が強いなのはさんが執行委員に関わってなかったのか、という理由をでっちあげてみました。
理由:ドクターストップがかかったから
このなのはさんはA’s本編の一年半後くらい。StSで言ってた事故が起こるちょっと前くらいの時期のなのはさんです。

それでは、とりあえずこの辺で。

404 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 18:50:14 ID:HjKueiQp
>>393
大作お疲れ様です!
ゲシュペンストに萌えまくった。なんだこのかーいい生物は!ww

読んでてまた<<三千世界の剣>>(だっけ)かよ!とツッコんだのは内緒。

>>403
GJでしたー。そっか、その時期ならなのはさん一番ヤバい時期ですな。
ウィザードとしての力を無くしたエリスと、どういう友情を育むのか。期待していますノシ

405 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/27(月) 23:32:06 ID:ujCSwXUD
>394
乙。
『模るもの』のイメージが、SRWのゲシュペンストでしたw

>403
こちらも乙。
そう言えば背景で“お話”させただけだった!なのはスレでも別名で書いているのに!

むしろ、陸士訓練校のスバルとティアナが出してみてぇ。

406 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/28(火) 00:57:18 ID:muYVw7qI
エリスの活躍に期待

407 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/28(火) 01:34:45 ID:0QC5RMfU
今チェックしなおしたところ。
『しのキャラ何でも屋』で、エリスは『アイン・ソフ・オウル』を
復活させているみたいなんだが……

【馬鹿は重箱の隅を突っついた】

408 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/28(火) 01:52:08 ID:toFOWR7P
……別に平行世界でもなんでもいいと思うけどなぁ。
重箱の隅も何も、どの話の設定拾うか、なんて作者次第だろ?
どれとまでは言わないけど、実際スルーされまくってる話とかも結構あるじゃん

それがいいとか悪いとかじゃなくて、「設定の共有に向いてない設定と思われた」ってことな?
齟齬なんて1人じゃないんだから起きて当然。

そうでなきゃ「柊が3日帰ってこない世界がまともに維持し続けてるのはおかしいよ!」とかまで言わなきゃいけなくなるが、そういうこと言いたいの?(例に出してスマン作者氏方)

それとも、「自分の作った設定が生かされないとかおかしい!」って言いたいのか?
……そりゃ流石に穿ち過ぎか。

409 名前:405:2009/04/28(火) 02:17:41 ID:0QC5RMfU
え〜、ただちょっと気になっただけで叩いたり批判したりする意図はありません。
不用意な書き込みをしたことをお詫びいたします。

スミマセンでしたorz

410 名前:407:2009/04/28(火) 02:37:50 ID:0QC5RMfU
うわあ番号間違えたー!!
>>405さんすみませんorz

大バカモノは407です。

あ〜あ、しばらく休もうorz

411 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/28(火) 05:18:04 ID:4/Z39Tz1
ドンマイ。

412 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/29(水) 00:22:10 ID:c7IptlNz
いかん、ネタが三つほどあったはずなのに……

>407
ん〜、憂鬱編の後に何でも屋が始まった、くらいの認識で?

因みに、アインソフの復活に至る経緯とかは有りません。
だからまあ、天文部の一員になったなのはがリンカーコアの代わりに別のマジックアイテムを装備するとかも。

413 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/29(水) 00:40:17 ID:c7IptlNz
世の中には、触れてはいけない話題がある。だからこの……続きなんだっけ?

『特別執行委員異聞:禁じられた言葉』

「俺の名前は門矢士。この世界での俺の役割は……」

柊「あんたが新しくやってきた執行部顧問か」

(……しかし、これのどこにライダーが……)

「あなたが新しい顧問ですね。私は目同樹利亜、あなたの先輩です」
「…………同人ネタかよ!」

【とある同人誌で、『FATE』のライダーさん他サーヴァントたちが、『月姫』の高校の教師をしているのです】


 これで差し障る時の為の、差し替え用のネタを。


『本郷を待ちながら・要約』

 城南大学にて、OB2人ともう一人。

五代雄介「……眉の濃い本郷先生が教えてくれた……」
亀山薫「……そう言えば、眉毛の濃い本郷先生はあの時……」

ノーチェ「その本郷先生は、随分と眉毛が濃いのでありますなぁ」

414 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 00:42:20 ID:ztAtcyj+
流れをとーとつにぶった切るけどさ


前にちょっと話があった「学園世界サプリ」の話だけどさー
実際作るとかそーゆーのは置いとくとして、どうすればナイトウィザードな上「学園世界」っぽくデータ的な意味がつくかな?

例えば一番わかりやすい例として柊をあげると
アタッカー/魔剣使いなのはいいけど、執行委員ってのをどう表現すればいいのかな、と
とりあえず言い張るって選択肢は捨てる方向で。

ライフパスくらいしかないもんなんかね?
何か特殊ルール組めばそれっぽくはなるがあんまりやりたくないしね。
ワークス/カヴァー概念でもツッコむか?
何かしら、学園世界らしい要素で能力なりなんなりあればいいと思うんだが難しいよね。

415 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 03:32:05 ID:tkuYVdX/
学園世界専用追加ライフパス
学園世界専用萌えヒロイン作成チャート
学園世界専用汎用特殊能力《学園世界:○○委員》
学園世界専用ハンドアウトテンプレート


416 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 03:46:31 ID:bdRMq12I
>>413
555世界は学園だったから、それで良いんじゃね?

>>414
コネクションで表すといいんじゃない?組織コネ持ってると通常の情報収集+αのボーナスがもらえる。
その代り10万V.くらいするとかで。
執行部のコネならノーチェの占いで調査系が1回クリティカルするとか。
カゲモリのコネなら事実1つを隠蔽できるとか。
開発部のコネなら「伝家の宝刀」で「ボン太くんシリーズ」が習得可能になるとかw

そういやあ今日からGWだけど、学園世界ではGWとか夏休みみたいな長期休暇に入ったら学生一斉に休み連続で人口密度の偏りがえらいことになんのかな?

417 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 03:57:18 ID:bdRMq12I
ぬう…汎用特殊能力のがそれっぽいか…

418 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 06:13:42 ID:ztAtcyj+
>>416
買いコネとか汎用とかは俺も考えた
けど、初期作成しようとした時にほぼ無理になるんだよなー。

初期作成で「報道委員キャラやりたい!」って時に、
ディフェンダーだのヒーラーだのが貴重な能力枠削ってまでつぎ込むだけの価値を汎用に与えるってのは難しいかなー、と
買いコネも、初期作成キャラが手のでない額にすると伝家みたいな能力使うことになるから、結局能力枠削れるしな

……うーん、やっぱりそれでも汎用が一番それっぽいか。

>>415
上から二つ目はいらねぇw

419 名前:小ネタ:とある魔法少女の憂鬱@学園世界:2009/04/29(水) 06:22:25 ID:j0WHOMIL
披露院菜之「そう、私が居れば萌えヒロイン作成チャートなんていらないんです」

420 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 06:23:45 ID:j0WHOMIL
なまえけしわすれてっ!?

421 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 07:34:14 ID:+dVO63l3
ヒロイン属性:ドジっ娘を振っちゃったんですねわかります

422 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 09:00:27 ID:MDl5BGdC
>>415
よし、一番上は俺が作るから、上から二番目<<よろしく>>ww

>>418
NWらしさがこれ以上ないほど出るのに、お前はなにを言ってるんだ!w

>>419-421
実はなのはさんはどじっこ属性もあるから仕方ない

423 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 09:52:14 ID:ztAtcyj+
他に必要なものって言うと……
「ステージ専用アイテム」とか「パーソナリティ」とかイメージしやすいように「地図」とか
……他に何が必要かな

個人的にはPCの立場みたいなもの書ける欄が欲しい
ベホイミなら「魔法少女(?)」、燦ちゃんなら「人魚」とか「極道な妻」、才人なら「使い魔」、みたいなの

424 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 10:33:49 ID:pQVII2fI
所属学園と学園世界での役職
そして、元々持っている能力(世界固有の能力)と通り名(コードネームとか称号とか)を書く欄もあるとそれっぽくなりそう

425 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 11:40:06 ID:j0WHOMIL
何かそのうち皆で学園世界サプリメントを作って同人誌にしようぜ!とかいう流れになりそうな話題だなぁw

426 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 12:13:08 ID:ztAtcyj+
>>425
>>414

427 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 12:25:38 ID:8vIAJPzL
>423
そこはふたつ名の……って2ndのキャラシーにはふたつ名の欄がないのか

428 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 17:02:24 ID:Odq2pKLo
ファンタジー系のキャラはS=Fで再現したほうがよさげか?

429 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 17:15:24 ID:ztAtcyj+
>>428
一応アニメナイトウィザードから派生したスレなんだから、
ハイファンタジー分はフレーバーにして姉妹作混ぜないのが筋じゃないかと思うけど、どーだろう

ナイトウィザードの姉妹作だから、ヒュウガを主役にクロスSS書いてもいいよねってのと同じだと思うんだよね

430 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 17:23:23 ID:btRQmp5y
ファンタジーな学園のキャラの表現という意味では使っていいと思う
それを口実にヒュウガ主役はまずいと思うけど

431 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 17:35:46 ID:Odq2pKLo
>428
いや、例えばライズさんのデータ化する場合にクラスをライトウォリアーにするとかそれぐらいの意味で

432 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 18:57:23 ID:5UdP4+JC
一応ちょっと前に、最低限一人、NWのキャラを登場させる事ってまとまった。
NWと世界観が繋がってても、SFもアウトってことで。

433 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 18:59:52 ID:ztAtcyj+
>>431
一応2つほど個人的には思うところがあるけど。

まず>>429でも言ってるとおり、このスレにいる住人は
「アニメナイトウィザードのみ」「アニメとリプレイ」「アニメ・リプレイ・ナイトウィザードルルブ」「S=Fまで全て持ってる」って段階に分けられる。
このスレにいる人間で、「学園世界」の世界設定として、もしくは実際使用するとした際に、
三番目の人に他のルールを必要とするから買え、とは言えなくないか?


もう1つは、ナイトウィザードだけならともかく、主八界サプリまであるS=Fも混ぜると整合性を考えるのが非常に厄介、とゆーこと。
作ると決まってるわけでもないからアレだけど、単純にナイトウィザード位の世界が他に7つだぞ?
ただでさえ制限つけないと悪ノリし続ける住人ばっかりなんだから、やめといた方がいいとも。


再現ツールじゃなくてキャラ作って実際に遊ぶためのサプリにするなら、
「ナイトウィザードの」サプリとして作っちまった方がよほど楽。

434 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 20:38:25 ID:5+Sti1It
というか、SSスレなのにSSが投下しづらい雰囲気だなこりゃ

435 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 20:47:16 ID:ztAtcyj+
>>434
投下の用意があるならどうぞどうぞ

読み専にとっては単なる雑談だし、スレの目的考えるならよっぽど作者氏に使ってもらった方がいい

436 名前:罵蔑痴坊(偽):2009/04/29(水) 21:37:13 ID:c7IptlNz
>433
えーと、アニメは殆ど見逃してますが?ビデオ屋でゆっくりと追っかけています。
でも大丈夫、コンプRPG愛読してました。

 【大丈夫の方向性が違う】


>434
むしろ、SSのネタ出しをしているのです。

437 名前:小ネタ 柊と幽霊〜学校へ行こう! @学園世界:2009/04/29(水) 21:46:38 ID:Df6/RwQk
それじゃあ、ちょっとだけかりますよ、と。


「……うぐぅ。ボクの学校どこ〜?」
「久しぶり、あゆちゃん」
「たいやきおばけ?」
「私、私」
「鏡花さん!」

ストロベリーパフェを食べていた水月鏡花は、
一人のマテリアルゴーストと再会する。
彼女、月宮あゆは今日もさがしものをしていた。

「学校を探してる?」
「このところずっと探してるけど、どうしても見つからないんだよ」
「忘れちゃった?」
「忘れないよ!大切な……大切な思い出の場所だもん」
「解ってますって。泣かない泣かない」
「うぐぅ……」
「さて、となると後は……誰かが意図的に隠したか。ふう、もしそうなら厄介ね」
「ボク……迷子のまま?」
「大丈夫。私がなんとかしてみるから」

二人の前に現れる、涙目の妖しい人影こと柊蓮司

「話は全て聞かせて貰った!俺が、お前を学校に行かせてやるっ!」

「仲間が増えたねっ」
「何となくゴールが遠のいたような気がするわ……」

学校に行きたい、学校に行かせたい。そんな三人の願い虚しく、夜は更ける
暗く妖しい空が、世界を照らしている。隠れていた影が、少し顔を出した

「もうすっかり暗くなっちゃったね〜。ほら、お月さま」
「月が紅い……? 月筺っ、エミュレイターかっ!」
「この感覚には憶えが……。まるで、誰かの夢の中にいるみたいな……」
「すごいね〜。ボク全然気付かなかったよ」
『気づけよ当事者っ!』
「うぐぅ!?」

現れた虚像。記憶の再現。崩れ始めた翼。
居るはずの無い人がいて、あの人の名前が口から出てこなくて

「違うよ。お母さんはもう、いないんだよ。……だから、――くんを返して」

魔王フェウス=モールに侵された月宮あゆの夢を守るため
魔剣使い、マテリアルゴースト、生霊の冒険は続く

「休みたいときに休めるけど、行きたいのにたどり着けないのは悲しいよ」
「私はニートじゃないっ! 学校だって……ちゃんと卒業、したかったなあ……」
「俺は卒業生だあぁぁぁっっっ!」

438 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 21:49:25 ID:Df6/RwQk
小ネタ 柊と幽霊少女〜学校へ行こう! @学園世界

今回予告を目指した嘘予告。 そんなだけど一応出展

水月鏡花  現守高校@マテリアルゴースト
月宮あゆ 二人だけの学校@kanon

ついで

好奇心旺盛で、さらに、人の注意を聞かないほど傍若無人な先輩が各所の封印を破って回る。
そしてその後始末に追われる帰宅部一同。聞こえてくる「死にてぇ」という声 とか、
>極上生徒会心霊部  先輩なら心霊部乗っ取りそうだな、とも思ったけど、それはそれで。では

439 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 21:50:00 ID:MDl5BGdC
>>437
マテゴきたああああああああああああああ!



あれ、でも鏡花は学園に所属してなかったような気がする・・・・。
まあいくらでも言い逃れは出来るナマモノだけどw

440 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 22:32:57 ID:ASa7kXGU
そーいやちょっと思ったけどSS的に生命の刃ってやっぱり使い難いのかねぇ?
いや、柊の高い攻撃力はガンガンHPを削ってピンチになりながら産み出されたものだと空砦を見て再確認してさ
あいつやっぱり支援系いないとまともに戦えないんだなぁ……SSで支援系とかやると描写とか滅茶苦茶大変そうだけどなっ

441 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 23:34:49 ID:eF4w0C+w
> 生命の刃
小説版だと、命を吸って刀身が青く輝くとか淡々と書かれてるだけなんだよな

442 名前:422:2009/04/29(水) 23:35:00 ID:MDl5BGdC
>>440
生命力を吸わせてる演出、ってのが上手くできればいけるんじゃないかなぁ。
見た目地味だから、<<三千世界の剣>>とかのほうがかっこいいと思うけど。


ところで。>>415で話が出てた学園世界用ライフパスを一部作ってみたので、わかりにくいとかバランスおかしいとか、あったら指摘頼む。

あと、一応凡例。

00,凡例
説明文。俺の趣味全開なので、わかりにくいところ有ったら指摘頼む。
<<ライフパスの特殊効果名>>
特殊効果の内容
代表的なナイトウィザードキャラ
代表的な他作品キャラ(登場作品)

443 名前:422:2009/04/29(水) 23:35:59 ID:MDl5BGdC
01,平凡な学生
あなたは現代世界でどこにでもいるような、普通の学生だ。特に戦う力があるわけでもない・・・・はずだったのだが。
<<幸運は未熟者を助く>>
あなたはジャッジにおいて12を振った場合、それをCとしてよい。この効果は1シナリオに3回使える。
多数
多数

02,魔法世界
あなたは、魔法があたりまえに存在する世界の出身だ。魔法がない世界の人間から、あなたはどういう風に見えるのだろう・・・・。
<<魔法知識>>
あなたは全ての[魔導力]ジャッジにおいて、Cした場合の達成値がさらに+5される。

キュルケ(ゼロの使い魔)、リルカ=エレニアック(ワイルドアームズ2nd)、ファムリシア(アリアンロッド)、ルキア(クイズマジックアカデミー)

03,傭兵・軍人
あなたは近代兵器を駆使して戦う、傭兵だ。世界が変わっても、戦いの日々は、変わらない。
<<兵器知識>>
あなたは全ての[命中]ジャッジにおいて、Cした場合の達成値がさらに+5される。
緋室灯
相良宗介(フルメタル・パニック!)、芝村舞(高機動幻想ガンパレード・マーチ)、ベアトリス・香沼(蓬莱学園!)

04,陰の一族
あなたは元の世界でも、歴史の影で戦い続けてきた一族だ。だから、あなたは戦う。この世界の平和、影から守り続けるために。
<<裏世界>>
あなたは情報収集の際に、任意の戦闘能力値を使う事が出来る。この効果は1シナリオに1回。
赤羽くれは
タバサ(ゼロの使い魔)、陰守マモル(陰からマモル!)、弓塚さつき(月姫)、遠坂凜(Fate/Stay Night)

05,界渡り
あなたは元の世界でも、"異世界からの客人"だった。二度目(以上)の異世界での冒険が、あなたに何をもたらすのだろうか。
<<運命の悪戯>>
1シナリオに1回、FをCにすることが出来る。その次のジャッジは必ずFとなる。
神条皇子
平賀才人(ゼロの使い魔)、朝比奈みくる(涼宮ハルヒの憂鬱)、ユーノ=スクライア(魔法少女リリカルなのは)

06,裁定者
あなたは世界のあり方を決める、と言われる程の力を持つ、能力者だ(った)。その力は、学園世界を根本から揺るがす危険性をも秘めている。
<<"光あれ">>
1シナリオに1回、ジャッジの達成値を基準に改めてジャッジを行い、その達成値を最初のジャッジの達成値とすることが出来る。ただし、コストとしてプラーナを5点消費する。
鹿島ふゆみ
涼宮ハルヒ(涼宮ハルヒの憂鬱)、千鳥かなめ(フルメタル・パニック!)



以上。代表的キャラについては、よく知らない作品のキャラも入れてるので、間違ってたらすまん。

444 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 23:40:07 ID:MDl5BGdC
って、よく考えたら今2nd環境が主流じゃん・・・・。

>>443の特殊効果欄は、適宜2ndベースに読み替えてくれ。
そもそもGM判断で、採用不採用は決めるべきだろうけど。

445 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 23:47:30 ID:ztAtcyj+
んー……むしろこれガイアのハンドアウトテンプレートじゃね?
いや、面白そうだけど。頑張れば70くらいいけそうだと思った。

そんな俺は今掲載ライフパスのフレーバー部分だけを書き換える作業中。
出自表にバリエーションつくるの難しいわー。
excel使用だから初心者の俺は完成してもどう上げればいいのかわからんが。

446 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/29(水) 23:54:40 ID:N0jLLP5a
学園世界だし、留年とかライフパスにありそうだよなぁ…

447 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 00:22:42 ID:K66jH3L7
>>446
うし、柊それだなwww
問題は、NW以外にそんな愉快なキャラが居た記憶がないってことだがw

ダブりの平井さん(魁!クロマティ高校)あたりでも出すか?

>>445
言われてみれば、ハンドアウトっぽいな・・・・w
このまま突っ走るべきか、ライフパスらしく作り直すか・・・・

448 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 00:42:28 ID:RbB+5aGJ
っ播磨@スクールランブル

449 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 00:43:39 ID:zbYd4T10
つ草薙京

450 名前:他に思いついたのを適当に書いてみる:2009/04/30(木) 01:55:58 ID:XXKZnVss
X1,研究者
あなたは真理を探究する研究の徒である。この世界は、新たな知識と発見の宝庫である。
<<研究の成果>>
あなたは自らの特殊能力を使用したジャッジにおいて、Cした場合の達成値がさらに+5される。
亜門光明
エルフィール=トラウム(エリーのアトリエ)、五十鈴銀之助(東京アンダーグラウンド)

X2,冒険者
あなたは、ダンジョン探索を生業とする冒険者の卵だ。君の持つ技は探索において大いに活躍するだろう。
<<冒険者の勘>>
あなたは1シナリオに1回、任意の知覚ジャッジを振り直すことができる。

アルヴィン・ケンドール(アリアンロッド)、薙原ユウキ(ぱすてるチャイム)

X3,生還者
あなたはかつて1度死に、そして蘇ることで力を得た。死は君に力をもたらす。
<<黄泉返り>>
あなたが[生死判定]ジャッジに成功した場合、プラーナを1点回復する。この効果は1シナリオに3回まで得ることができる。
夜見トオル
シエル(月姫)、浅葱留美奈(東京アンダーグラウンド)、武藤カズキ(武装錬金)

X4,異能使い
あなたは元の世界において常識ではありえぬ、特殊な力に覚醒した。その力は君を守るが、同時に隠すべき秘密でもある。
<<異能の力>>
あなたは作成時、取得するスキルの1つを他のクラスの任意のCL:1の特殊能力にすることができる。
十六夜慎太郎
古泉一樹(涼宮ハルヒの憂鬱)、ルルーシュ・ランぺルージュ(コードギアス叛逆のルルーシュ)

X5,人ならざるもの
あなたは人に混じって暮らす、人間ではない種族だ。その力は、時に人間の常識を大きく上回る。
<<人外の境地>>
あなたは作成時、任意の能力値1つの値を+2することができる。能力値上昇後、戦闘能力値を再計算すること。
ダグラス=チェンバレン
シルフィード(ゼロの使い魔)、犬上小太郎(魔法先生ネギま!)

X6,作られしもの
あなたは人、あるいは別の何かの手で作られた存在である。 普通の人間が持っているものが欠けている分、君の力は特化している。
<<人工調整>>
任意の戦闘能力値2つを選ぶ。その値をどちらかを+2し、もう1つの戦闘能力値を−2する。
姫宮空
絡操 茶々丸(魔法先生ネギま!)、R田中一郎(究極超人あ〜る)、長門有希(涼宮ハルヒの憂鬱)


451 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 02:58:50 ID:uqq15x1W
むしろ柊は

ライフパス:下がる男
あなたは何故か本来の学年より下がっている。何故かは分からないが、まあ下がる男なので仕方が無い。

で。

【本気で柊以外にいねえ】

452 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 03:05:28 ID:iNz878C+
>>451
そーゆー特殊すぎる設定をハンドアウトテンプレートにすりゃいいと思うんだが
貴重なライフパス枠減らすもんでもなかろうよ

あと、今気づいたけど2ndのライフパスの恩恵ってあんまりないわ。
出自はともかくとして、生活はほとんどコネできるだけだし。

453 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 06:08:49 ID:sUNMDweV
>>449
京は自称いろんな奴に狙われて暇がなく学校にいけない

454 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 06:44:17 ID:XXKZnVss
>>451
下がる男はいないが、諸般の事情により「下がった女」なら学園世界にいる件w

455 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 09:57:49 ID:broSBHQ6
>>452
>>416で言われてるけど
コネ(=所属組織)による何らかの恩恵とかあれば有用なんじゃね>ライフパス:生活

456 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 10:14:00 ID:iNz878C+
>>455
ナイトウィザード2nd環境だと、コネの効果って一律で
「コネの人物、もしくは関わりの深い人物のコネがある場合、情報収集判定に+3」
って決まってるんだ。

「コネにそれ以上の特殊な効果を作る」ってのは、特殊ルールを作ることになる。
だからちょっと難しいな

457 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 10:20:27 ID:XXKZnVss
>>456
となると後はその組織とつながりを表す何かを《○○の証》みたいなアイテム化してそれを購入させるとか?
値段をあんまし高くしない(大体5〜10万V.くらい)ようにすれば初期でも買えるだろうし。

458 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 10:27:22 ID:iNz878C+
>>457
アイテム購入制にするか、汎用取得制にするか、ハンドアウトテンプレート制にするかってあたりだと思うんだけどどうだろう。

アイテムだと手が出しやすいけど「金で買える」って表現になるし
汎用特殊だと一番それっぽいけど初期作成時に取得するのが難しいし
ハンテンだと取得しやすいけどハンテンを使用しないと学園世界PCにならない

どれも一長一短なんだよね

459 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 11:08:17 ID:YClHFzMp
留年キャラがありなら飛び級キャラもありだよなぁ…
でも思いつくのがちよちゃん@あずまんが大王だけという。大分自分の脳も硬くなってきたな。

あと>>451見てライフパスでこんなの思いついた。
XX.並行世界の柊蓮司
あなたは並行世界の柊蓮司だ。
オリジナルほどではないが、あなたも色々なものを下げられながら生きてきた。多分これからも下がり続けるだろう。
強く生きろ。
<<柊力の欠片>>
1シナリオ中、[プラーナ内包値]回だけ自分が振る全てのジャッジのダイス目を下げることが出来る。
ただし下げられるのは[プラーナ解放力]と等しい数字までで、なおかつダイス目を1以下には出来ない。

コレだとちょっと強すぎるので適当に制限をかけたほうがいいなぁ。
代償にプラーナを消費させても良いかもしれん。

460 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 11:41:02 ID:Ka4KBrJi
■改良案1。
あなたがジャッジを行なった時、そのダイスの出目は常に-1される。最低値は2とする。
生死判定や、そもそもジャッジではないダイスには影響しない。
(C値:2、F値:12のアナタに)

■改良案2。
あなたがジャッジを行なった時、そのダイスの出目を-1する。
この能力は1シーンに1度まで使用できる。ただし使用するタイミングはGMが決定する。
(全国の出川さん、竜兵さんに贈ります)

■改良案3。
マイナーで使用。
そのメジャーアクションで、あなたが次に行なうジャッジの、ダイスの出目を2に変更する。ただしこのジャッジでCやFは発生しない。
この能力は1シーンに1度まで使用できる。
(絶対にファンブルしたくない判定に)

461 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 12:10:02 ID:QikzrsSV
>>459
ベッキー(ぱにぽに)とかネギ(魔法先生ネギま!)とか>飛び級キャラ
飛び級しすぎて教師だけど

……あ。静(白御子)の存在忘れてた。

462 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 12:13:05 ID:iNz878C+
……輝明学園では飛び級ってるのに完璧に忘れられてるマユリに泣いた

463 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 12:14:34 ID:TFOyyw6e
>>459
>並行世界の柊蓮司
柊太一郎(風の聖痕)
柊杏里(はぴねす)
辺りは色々下がってそうだな

464 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 12:21:01 ID:QikzrsSV
>>462
ほ、ほらアレだ、ヴァンスタインの一族は「下がる男」ならぬ「忘れられる一族」なんだよ、きっと!


【バカは色々な判定にファンブルした】

465 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 15:38:59 ID:RbB+5aGJ
柊性は割と多いしなぁ
柊姉妹とか

【どちらのだ】

466 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 15:44:24 ID:srY/8e/a
第2回を四時半から投下します

467 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:30:29 ID:XXKZnVss
軽子坂学園が、魔界に堕ちたのは、今から3ヶ月ほど前…学園世界が誕生するよりも前のことである。
魔界を旅して強力な力を手にし、魔神皇と名乗るようになった挟間偉出夫(はざまいでお)が引き起こした軽子坂学園の魔界堕とし。
それに巻き込まれた軽子坂学園の人間は次々とハザマの手で6つに分けられた魔界に送り込まれ、様々な責苦にさいなまれた。
文字通りの意味で地獄のような暮らし。
だが、それは最初はすぐに終わりを告げた。
軽子坂学園が魔界に落ちて1ヶ月もしないうちに、ハザマが倒されたのだ。
倒したのは悪魔召喚プログラムを入れたパソコンを持った少女と、学園一の不良少年。
この2人は用務員室のマンホールから密かに旅だち…ハザマを倒した。
詳しいことは誰にも分からなかったし、魔界から帰れるようになったわけではないが、それでも一応の平和は戻った。
生徒たちが魔界でも比較的安全な場所で魔界の住人たちと暮らしていた、そんなときである。
ハザマが復活したのは。
復活したハザマは依然以上に残虐で容赦無く軽子坂学園の生徒たちを責めた。
以前からハザマの信奉者であった大月と言う教師を手足にして生徒たちをとらえ、あるものは精神を壊して悪魔を使役する
魔神皇の忠実な僕たるダークサマナーにされ、またあるものはハザマの“実験”の犠牲者として死んでいった。
そして、そんなハザマに戦いを挑んでいたのが、パソコンに詳しい佐藤と言う少年と、玲子たち3人の“ガーディアン憑き”であった。
彼らはハザマを再び倒し、魔界から人間の世界へ帰るために戦っていた。だが…

468 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:31:23 ID:XXKZnVss
―――傲慢界 回復の泉

「他の3人…佐藤くん、チャーリーさん、ユミさんはハザマくん…いいえ。魔神皇に捕まってしまったわ。
 もう、魔神皇と戦っているのは私と桜花さんだけ…」
清浄な気の満ちた、癒しの泉。そこを管理するエルフに魔界の金を渡し、休息をとりながら、タバサは玲子に話を聞いていた。
「正直、今の私たちだけでは限界。今ここで戦い続けても、魔神皇には勝てない、いいえ。たどりつくことすら出来ない」
怜子が悔しげに唇をかみしめる。俯き、言葉を絞り出す。
「もう、私ではハザマくんは止められない…」
「…だから、私たちを、カゲモリを頼った?」
その呟きを確認するように…タバサが問う。
「はい〜。私が言ったんです」
それに答えたのは、桜花だった。
「学園世界で、魔神皇と戦える“組織”は執行部かカゲモリくらい。彼らの力を借りるため、1度魔界を脱出する必要がある。
 佐藤さんが作ったプログラムは元々はそのためのものだったんです〜。外部のパソコンと回路を開いて、向こう側に転送するために。
 完成前に佐藤さんが捕まってしまったので、転送できたのは“精霊”として悪魔召喚プログラムで召喚可能な私くらいで、
 あとはマグネタイト切れの強制帰還を利用して向こうから“引きずりこむ”しかなかったんです」
そう言うと、タバサの方を見て済まなそうにいう。
「すみません〜。ロクな説明もせずに巻き込んでしまって。しかし、私たちだけでは、他の帰還の方法はとれなかったもので」
「他の方法…魔神皇を、倒す?」
タバサが初めに思いついた方法を口にする。それに桜花はかぶりを振って、言う。
「いいえ〜。魔神皇を倒そうと思ったらこの3人では難しいでしょうし、倒しても魔界から帰れるとは限りません。
 前に倒されたときは帰れなかったわけですから」
「じゃあ、どうするの?」
タバサの問いに桜花は真面目な顔をしていう。
「実は1つだけ、この魔界から学園世界につながる道…私のここに来る時に通ってきた道があります。そこからなら学園世界の輝明学園に出られます。
 けれど、そこは本当に危険な道なんです。幽霊である私だけならともかく、玲子と2人だけではまず抜けられないでしょう」
そして、言葉を継ぐように玲子が改めて、タバサに言う。
「すみません。タバサさん自身が帰るための選択肢が他にない状態で、こんなことを言うのは、ずるいことだって分かっています。
 それでも言います。私たちを、学園世界へ連れて行ってください。私たちに、力を貸して下さい」
言い終え、じっと真剣な表情でタバサを見る。そこには強い意志が宿っていた。
「…分かった。それで、どうすればいい?」
その意思の強いまなざしを見て、タバサは2人を信用することにした。彼らの目に、嘘は無い。
それに、目的のために汚れることも厭わない姿勢。それはタバサには人ごとには思えなかった。
かつて、母のために様々な“汚れ仕事”を引き受けていたタバサには。
タバサの返答にほっとしたような空気が流れる。2人の緊張が目に見えてとけたのが分かる。
「はい。まずは、この傲慢界を守る悪魔を倒す必要があります」
玲子が天井を見上げながら、言う。
「桜花さんが通ってきた、魔界と学園世界をつなぐ穴は、魔神皇の封印が強すぎて人間では通れない大きさらしいんです。
 それを広げるために、封印を解く鍵…堕天使ヴィネの持つ“リング”を手に入れる必要があります」
玲子と桜花、そしてタバサが立ち上がる。
「幸い、堕天使ヴィネはそんなに強くありません。私たち3人ならば、まず負けないと思います。行きましょう」
タバサがこくりと頷いた。


469 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:34:49 ID:XXKZnVss
―――傲慢界 1F

(…気配がする)
それが、タバサが最初にこの魔界に来て感じた感想だった。
「気をつけてください。ここは、魔界。いつ“悪魔”に襲われてもおかしくありません」
玲子の言葉に頷きながら、タバサは愛用の杖をしっかりと握る。
息をひそめ、襲撃に備えつつ、タバサたちは慎重に進む。
(―――来る…っ!?)
タバサの感覚が何かが現れるのを察知し、杖を構え…現れた悪魔に硬直する。
あそぼ…あそぼ…あそんで…あそんで…
現れたのは何人かのおかっぱの少女たち。それだけならばこの魔界に現れるのはおかしい。
だが、普通の少女にはありえぬ特徴。
膝から先が消失し、向こう側が透けて見えると言う特徴が彼女たちを魔界にふさわしいものとしていた。
それはすなわち。
「…幽霊!?」
思わず緊張と共に声を上げる。
「はい。悪霊“ハナコさん”ですね」
対する玲子の方は落ち着き払っている。よく見ると、銃も準備していない。
「大丈夫です。この子たちは、襲ってきません」
「どういうこと?」
「ほら。あれです」
よく見ると少女たちは桜花を取り囲んでいた。
おねえちゃん…おうかおねえちゃんだ…
変に透き通った声に含まれるのは…明らかな歓喜。ハナコさんたちは桜花と戯れていた。
「はいはい〜。みなさんお久し振りですね〜」
彼女たちに取り囲まれた桜花は、多くの妹たちと遊ぶ姉のようにうっすらとほほ笑んでいる。
幽霊たちが舞い戯れる、怖いような微笑ましいような、なんとも言えない空間が形成される。
「…あれは?」
「えっとですね。桜花さんは悪りょ…幽霊とはすぐ友達になれるんですよ」
玲子が苦笑して言う。
悪霊は銃弾が効かないことが多く貴重なMPを消費せざるを得ない厄介な相手。
その事を知っているだけに玲子は桜花のこの“力”と言うか“人柄”に、何度か助けられ、感謝をしていた。
「それじゃあ、私たちはちょっと行かなきゃいけないところがあるので失礼しますね〜」
にこやかに手を振り、桜花とハナコさんは友好的な雰囲気で別れる。
「これ、貰っちゃいました〜」
そう言ってキラキラと輝く玉を2人に見せる。
「それは?」
「宝玉ですよ〜。使うと体力が回復するんです。1回使うと壊れるので使い捨てですけど」
タバサの問いに答えながら桜花は玲子に宝玉を渡す。
それをポケットに入れながら、玲子がタバサに言う。
「こんな風に、話し合い次第では戦いを回避できることもあります。なんで悪魔が出てきてもいきなり攻撃はしないでください」
「分かった。任せる」
玲子の言葉にタバサがこくりと頷いた。


470 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 16:35:58 ID:broSBHQ6
タルカジャ支援

471 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:36:21 ID:XXKZnVss
―――傲慢界2F

「ふう…今日は一旦ここで休みましょう。銃弾の補給もしたいですし。それで良いですか?タバサさん」
「分かった」
思えば2人の手で魔界に来たのは夜のこと。それから考えるともう明け方くらいの時間のはず。
休まなければこの先辛いと言う玲子の判断を支持し、悪魔に襲われる心配のない魔界の村でタバサたちは泊まることにした。
武器屋で玲子の銃の銃弾を購入し、村の一角へと向かう。そこには「軽子坂学園ワンダーフォーゲル部」と書かれたキャンプ用品と焚火の跡があった。
「ここは?」
「はい。ここは元々私たちの“拠点”だったんです」
玲子が少しだけ寂しげに、言う。
「拠点?」
「はい。ダークサマナーは軽子坂学園を拠点にしてて、魔界にはほとんどやってきません。
 だから、魔神皇が復活したあとは、私たちはこの魔界で魔神皇と戦うための準備をしていました」
自分と同じく死にかけたとき“ガーディアン”を得て魔法の力に覚醒めた2人の“ガーディアン憑き”と、
“あの子”ほどでは無いにせよ悪魔召喚プログラムを扱う事ができた駆けだしサマナーの佐藤。
それに玲子と“喋ることができ、自分の意思を持って動く特殊なガーディアン”である桜花を加えた5人。
「…しばらくはうまく行ってました。だけど、あるとき魔神皇の命令を受けたダークサマナーの一団に襲われて…」
魔界で力をつけ、桜花と言う強力なガーディアンがいたとは言え、多勢に無勢。このままでは全滅する。
そんな風に追いつめられたときのことだった。
「他のみんなが、私を逃がしてくれたんです。私と桜花さんが、一番魔神皇を倒せる可能性が高いって…」
「ええ。悪いとは思いましたが…私の力では私が直接護っている玲子を逃がすのが精いっぱいでした」
桜花も玲子と同じく、暗い表情で悔しそうに言う。
「他の3人がどうなったのかは分かりません。ただ、殺されずに連れ去られたと聞きました」
「ですから〜、いずれ助け出そうと思っているんです〜」
桜花の一見軽い口調には、強い力が込められていた。玲子と桜花。この2人の目に宿るのは、静かな決意。
「……」
その決意にタバサは自らと同じものを感じ取る。
(母さま…)
ゲルマニアにある親友の実家に残してきた、母を思う。
敵地であるガリアから助け出したことですぐに身の危険に襲われることこそないが、彼女の心は未だにエルフの秘薬で壊れたままだ。
(必ず、助ける。だから、待ってて…)
2人を見て、久し振りにそれを思い出したタバサは、決意を新たにする。彼女が…“カゲモリ”になったときと、同じ決意を。
だから今は…
「今日は、もう寝る。休息をとれるときに取っておくのは、重要」
冷静に行動する必要がある。考えうる限りの最善をつくし続ける必要が。
「そうですね。疲れていては、できることもできません」
玲子が頷き、傍らの桜花を見る。眼と眼で通じあい、桜花が頷いて、言う。
「それでは〜タバサさんと玲子さんはし〜っかり休んでくださいね〜。私は何かあった時のために見張りをしてますんで。
 …ちなみに幽霊は寝ても寝なくても一緒なので、心配はご無用ですよ〜」
「…分かった。頼んだ」
タバサが玲子から寝袋を受け取りつつタバサが桜花にごく自然に頼む。
少しの間とは言え、行動を共にしたことでタバサが最初に感じていた桜花への恐れは、もう無い。
「はい〜それではお休みなさい〜」
桜花の声を聞きながら、タバサは静かに目を閉じる。連続での戦闘と、多くの出来事。
その疲れもあり、すぐに眠りへとつくことができた。


472 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:39:57 ID:XXKZnVss
―――傲慢界5F 支配者の部屋

傲慢界の最上層。半日の時間をかけ、何度かの交渉と戦いを経たタバサたちは支配者の部屋へとたどり着いた。
「ここです。ここに、この傲慢界の支配者がいるはずです」
玲子が緊張した面持ちで言う。堕天使ヴィネは魔界の支配者の中では最も弱い部類に入る。
桜花と玲子の2人に妖獣マンティコアを倒す実力を持ったすご腕のメイジであるタバサ。
実力を考えれば3人で挑んで負けるはずはないとは言え、その実力はここにたどり着くまで戦った相手とは一線を画している。
決して油断していい相手では無い。
「…おかしいですね」
部屋の前に立った桜花が首をかしげる。
「どうかしたんですか?桜花さん」
「はい〜。…何かのプラーナを“2つ”感じます」
桜花の答えに玲子が首をかしげる。
「2つ?おかしいですね。ヴィネが他の誰かと一緒にいると言う事ですか?」
「分かりません。ただ…1つは非常に弱々しいプラーナです。恐らくは…殺されかけたものの」
桜花は慎重に言葉を選び、感じ取ったことを2人に説明する。
「ヴィネが何か…人か悪魔を殺しかけていると言うこと?」
タバサの問いに、桜花はふるふると首を横に振る。
「いいえ〜。死にかけてる方のプラーナは悪魔なんですが…もう1つが変です。人と悪魔が混じり合ったような…」
そこまで言って、桜花は顔を曇らせ、言葉を切る。
「…とにかく〜。ここで考えていても仕方ありません。どのみちこの部屋でリングを手に入れないと先には進めないんですから、行きましょう」
「そうですね。タバサさん。準備はいいですか?」
玲子の問いにタバサはこくんと頷き、3人は歩を進める。
(間違っていて欲しいんですが…多分、間違いでは無いんでしょうね…)
進みながら、桜花は顔をしかめる。プラーナの塊とでも言うべき勇者の幽霊である桜花は、かなり正確にプラーナの正体をつかんでいた。
それが人と悪魔が混じり合ったもの…侵魔や冥魔の“アモルファス”に酷似した存在であること。
そしてそれが玲子と桜花の知る人間のものであることを。

「グ…な、何故…」
傲慢界の魔界の支配者、堕天使ヴィネが自らの身に起きたことを信じられず、うめく。
1つは、自らがたった1人に殺されかけようとしていること。
そしてもう1つは…
「ふん…分からないか?お前が無能だからだ」
それが、あの魔神皇に逆らう叛逆者の一味であること。
「無能…だと?」
「そうだ」
その、眼鏡をかけたひ弱そうな少年が言う。
「お前は知っていたはずだ。僕たちが、ここに逃げ込んでいたことを。なのにそれを報告しようとしなかった。
 僕たちを処分しようとすればいつでもできる。そんな“傲慢”にとらわれていたがために。
 それだけじゃない。お前はより強い力を得ることを怠った。
 今のお前は悪魔を指揮する並みのダークサマナー1人にも劣る雑魚…支配者なんて名乗っていい存在じゃない」
非難と侮蔑をたっぷりと込めて、少年は更に続ける。
「そして今、お前は魔神皇の与えた“チャンス”にも失敗した。残念だよ。いや、喜ぶべきか?“実験”が、成功したんだからな」
「くぅ…」
少年の言葉にヴィネは悔しそうにうめく。事実だった。
魔神皇の使者だと言う少年が、ヴィネに持ちかけたチャンス…目の前の少年に勝てば、支配者のままでいられる。
そう言われ、ヴィネは全力でこの少年と戦い…敗北した。
「と言うわけで、お前は支配者たる器では無いってことになった」
そう言って少年は腕を振り上げる。
「ひ、ひぃ!?」
それを見て慌てて逃げようとしたヴィネの背に。
「だからさ、死ねよ。負け犬」
獣のように鋭い爪を持った剛腕が振り下ろされ、ヴィネは絶命した。
「ふぅ…これで終わりだな。後は…」
少年は腕を元に戻し、ゆっくりと入口の方を見て、言う。
「久し振りだね。玲子さん、桜花さん…その子が魔神皇と戦っている“外”の人間ってやつなの?」
つい今しがた入ってきた3人に対して。

473 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 16:42:52 ID:broSBHQ6
支援マカラカーン

474 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 16:43:10 ID:QikzrsSV
スクカジャ支援

475 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/04/30(木) 16:43:19 ID:XXKZnVss
「佐藤…くん?」
その少年を見て、茫然と玲子は呟く。
「ああ、そうさ。良かった。無事だったんだね」
いつもの気弱そうな笑みを浮かべ、佐藤は玲子に言う。
「佐藤君こそ!良かった!他の2人は!?」
喜び、駆け寄ろうとした玲子の前に大きな杖が突きだされる。それに止められる形で、玲子は足をとめた。
「…タバサさん?」
「待って。様子がおかしい」
背中に流れる冷汗を感じながら、タバサが不思議そうな顔をする玲子に告げる。
長い間様々な“モンスター”と戦ってきたタバサの勘が告げている。目の前の少年は…
「…まさか、こんなことまでするなんて…」
桜花が怒りを秘めた声で、言う。
「…どういうことですか?」
2人の態度に嫌な予感を感じ、玲子が2人に問う。
それに答えたのは、佐藤だった。
「…ねぇ玲子さん。“チェフェイ”って知ってる?」
何気ない口調で玲子が問いかける。
「チェフェイ?」
「そう、こことは違う魔界…貪欲界の支配者たる悪魔。そいつがさ、この前、“外”に行って来たんだ。
 魔界の悪魔の力がどれだけ外の連中に通用するかってね」
(外に行った悪魔…狐?)
佐藤の言葉で、タバサはここ最近、一狼とライズが調べていた悪魔絡みの事件を思い出す。
各所に現れては、能力を奪っていく狐の面をした女の事件を。
「で、まあチェフェイは残念ながら負けて帰って来たんだけど…チェフェイの戦闘データから、面白いことが分かったんだ」
何でも無いことのように、佐藤は“魔神皇に近しいものしか知り得ぬこと”を話す。
「面白いこと?一体何を言ってるの?それより、他の2人は…」
そんなことをペラペラと喋る佐藤に、玲子は首をかしげ、問い返す。
「普通悪魔はそのままでは実体化を保てない。マグネタイトの供給を受け続けて初めて実体化を保てる。
 だから、常に悪魔はマグネタイトの供給を受けてないと、どんどん衰弱していく」
佐藤は玲子の問いなどお構いなしに一方的に喋り続ける。
「でもね…それを防ぐ方法が分かったんだ。簡単さ。人間と悪魔を“合体”させるんだ。
 もちろん誰でもいいわけじゃない。ただの人間では悪魔に飲み込まれて完全に悪魔と化しちゃうから意味が無い。
 けれど、例外的に強い魂…桜花さんの言うプラーナってやつを持った人間と悪魔が“合体”すると、
 マグネタイトなしで行動できる、悪魔並みの力を持った人間…魔人が誕生スル」
佐藤の声がひび割れて行く。その肉体が膨れ上がり、異常な速度で全身に毛が生えそろう。
「覚えてイルカ?俺の最高ノ相棒…アノふろっぴーカラデテ来タけるべろす…俺ハ、アイツト合体シテ、力ヲ得タ…」
その姿は、まさに“魔獣”と人の融合。
「オレハ“魔人”ケルベロス…魔神皇サマニ逆ラウモノハ…殺ス!」
完全に変身を終え、化け物と化した佐藤が、3人に、紛れも無い殺気をぶつけ、吠えた。



今日はここまで。

ちなみにこのお話(と言うかシリーズ)では桜花さんのスタイルクラスは『ディフェンダー』です。
基本的には玲子と同じSqで玲子+αを《カバーリング》系統や《生命の盾》で守りつつ、
暇があったら周りに浮いている人魂(攻撃魔装《フレイムハウンド》相当)で攻撃するという、ガーディアンの名にふさわしいスタイルです。
これは後衛2人と言う脆い編成でも生き残るためと、15Lvのキャラを攻撃に回して桜花さん無双になるのを防ぐ措置だったりします。
ちなみに桜花さんのメガテン的種族が精霊なのはいくらなんでも悪霊呼ばわりはどうかと考えたからだったりしますw

>>365
そうなんですか?いやNW関係を本格的にそろえだしたのは2nd後なのでその辺はどうも詳しくないのですよ。

>>396
玲子さんは桜花さんの前に何度か会ってるんですけどねカロン。基本的に1回は死なないと“ガーディアン憑き”はただの人なんで。

476 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 17:13:31 ID:iNz878C+
>>459
2ndでそのライフパスは難しいよ
ハンドアウトテンプレートにしておけばまだいいんじゃないか?

477 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 17:35:35 ID:broSBHQ6
>>475
投下乙っす。
元のメガテンifは詳しく知らないのですが、
これは重く厳しい闘いですね…。
クライマックスで一狼とシルフィードが合流するのは決定済ですが、
それがどう繋がるのかも楽しみです。

>倉沢桜花の初出
確かに初出はスタメモでしたね(スクールメイズの学生パーソナリティの多くはスタメモが初出)。
とはいえ『スクールメイズとヴァリアブルウィッチの…』という紹介でもさして問題なかったかと。
 
支援はタルカジャじゃなくてマカラジャにしておくんだったなあ…メンバー的な意味で。

478 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 19:57:40 ID:K66jH3L7
>>475
GJでしたー。>>365だけど、大した問題じゃないのでお気になさらず。
あの話とこう繋がりますかー。これはいい感じ。
次も待ってますノシ

479 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 00:55:28 ID:ZvYoXzUS
ウルトラマンネクサスとクロスしたらどうなるんだろう?

480 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 01:23:38 ID:sq0WvKa2
ウルトラマン系だと《ジャイアントグロウス》の出番かねぇ

481 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:05:16 ID:kJVofUe0
おひさしぶりです
果てしない転生の日々から戻ってまいりました

「この超☆魔王プリニーパールちゃんに勝てると思ってるの!?」(HP:一億六千万)
「ゲームが違ぇー!?」

わかる人にはむしろ「よく戻ってこれたな」と思ってもらえると思います


ともかく、さるさんの予感をひしひしと感じながら15分ぐらいから投下します

482 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 03:06:06 ID:Pa4YHHbH
巨大ロボ系と同じだと思うけど。サイズ的に

ネクサスというと主題歌しか思い浮かばなくてのぅ……

483 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:14:52 ID:kJVofUe0


「……いや、実によくやってくれた。今はその疲れた身体を癒す事だけを考えてくれ」
 ――瞬く星々に彩られた漆黒の宇宙空間、衛星軌道上。
 眼下に鎮座する蒼く巨大な惑星――地球を見下ろしながら、一人の男が称えるように拍手を送っていた。
 悪徳の七王が一柱、アスモデート。
 彼は今、見事世界の危機を乗り切ったウィザードと錬金の戦士達には惜しみのない謝意を感じている。
 もしも姿を見せるに問題がなければ、彼等の諸手を取って祝福してもいいくらいだ。
「本当によくやってくれたよ、君達は。何から何まで『お膳立て』してくれて本当にありがとう」
 正真正銘、心からの賛辞を示しながらアスモデートはこみ上げる嗤いをかみ殺した。


 今回の一件でモーリー=グレイ、リオン=グンタの二柱が落ち、"金色の魔王"ルー=サイファーがある程度の信を以って動かせる勢力が大きく減退した。
 加えてベール=ゼファーも現し身の一つを失った。いかな無限生命を持つと呼ばれる彼女も、守護者の力を以ってした一撃を喰らっては即座にまともな現

し身で現界する事もできまい。
 ――つまりは、彼の動きを阻害する邪魔者の殆どが一掃されたのだ。
 ここから横槍を入れられるとするならル=サイファー自身が直接出てくるか、あるいは――


「――やはり来たか、亡霊騎士の王」
 酷薄な笑みを浮かべたままアスモデートは漏らすように呟くと、背後に出現した『彼女』を振り向く。
 赤の鎧を身に纏った騎士――"亡霊騎士の王"パイ=レイモーンは一つに束ねた燃えるような紅髪を小さく揺らし、手に持つ大剣の如き鋭い視線をアスモデ

ートに送っている。
 モーリーとリオンが落ちた現状、ルーがまともに動かせるのは二人と同様にルーに忠誠を誓うパイだけだろう。
「貴様の動きなどルー=サイファー様には総て筒抜けだ。我が主のため、貴様にはここで果ててもらう」
 予想通りといえば予想通りの展開にアスモデートは僅かな沈黙の後、これ見よがしに肩を竦めて溜息をついて見せた。
 口元に浮かべた笑みを潜め、嘲るよりもむしろ哀れむような調子でアスモデートは彼女に向かって口を開く。
「やれやれ……私はお前達の時には動かないでおいてやっただろう? なのに私の手番になった途端出て来るとはマナー違反も甚だしい。
 ベルの方がまだ紳士的だな」
 ああ、彼女の場合淑女と言うべきか、と苦笑を漏らすアスモデートに、パイは怒気も露に手にした大剣の切っ先を彼へと向ける。
「あの方を愚弄するか……!」
「事実を言ってるだけだろう。そんなに他人が功を立てるのが妬ましいのか?」
「貴様のような愚劣な者共にあの方の御心は理解できまい!」
 ルーを快く思わない魔王達はそのほとんどが彼女の事を嫉妬深いと評する。
 ファー・ジ・アースを陥落され彼の地に溢れるプラーナを手に入れようとする数多の魔王達の動きを阻害するため、人間達に助言を与えさえもする彼女は、
確かにその魔王達から見れば自らの手柄を妬み恐れているように見えるだろう。
 だがそれも彼女の理想ゆえの行為なのだ。
 秩序ある統制を望むルー=サイファーは魔王達の無秩序・無思慮な軽挙と妄動を抑制すべく動いているだけだ。
 己が欲と功名だけで動くような凡俗とは違う。
「――それが嫉妬深い、と言っているんだ。あいつも、お前等も、要するに秩序だの統制だのという題目を唱えて悦に入りたいだけだろう?
 だからそれに従わぬ他者を力で従わせる。……あぁ、そうだろうさ。誰だって自分の愉しみを邪魔されるのは嫌だものな。
 そういう点では確かに彼女は裏界随一の魔王だ。何しろ『自分の欲』で世界を支配しているのだからな」
「――貴様っ!!」
 嘲りを露にしたアスモデートの口上を封殺するようにパイは叫び、弾けた。




484 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:17:46 ID:kJVofUe0
 

 瞬く間に間合いを詰め、手にした大剣を一閃する。
 地上ならば山一つが粉砕されるだろうその剛刃を前にアスモデートは笑みを浮かべたまま――真正面から切り裂かれ、吹き飛んだ。
 パイが一瞬で間を詰めた数十mと同じほどの距離を吹き飛び、制止する。
 嘲りの笑みは変わらぬまま。そして、大剣を叩きつけられたはずの身体も一切の傷は付いていない。
「……そうそう。こんな風に邪魔な奴を黙らせてきたのだよな」
「――ッ」
 くつくつと嗤いながら零すアスモデートはパイは唇を噛み、その顔に更なる怒りを漂わせた。
 手にした大剣を強く握り締め、追撃を叩き込もうと踏み込みかけたその瞬間、アスモデートがそれを制止するかのように腕を差し出した。
「お前と遊ぶのはやぶさかではないが――」
 言いながらもう片方の腕を持ち上げて、着けていた腕時計に眼をやる。
 状況を無視して行為だけを見るのなら、それはまるで待ち合わせをしている人間のようでもあった。
 ――否。
 アスモデートにとっては『ような』ではなくまさしくその通りなのである。
 約束の時間から間もなく一時間。おおむね予想通りかと彼は満足そうに息を吐き、烈火のような怒りを漂わせるパイを見やる。
「忠告をしておこう、パイ=レイモーン」
「……?」
「今すぐにここから立ち去るがいい。でないと――"火傷"をしてしまう」
「ふざけ――」
 訳のわからない言いようにパイが叫びかけたと同時。


「――邪魔」


 ちりん、と。
 鈴の音のような声が響いた。


 瞬間、漆黒の宇宙空間が紅蓮に染まる。
 存在するもの一切合財を焼き焦がし灼き消さんばかりの業火が、アスモデートとパイを巻き込んで埋め尽くした。
「っ……な――!」
 パイは咄嗟に防御して業炎をやり過ごし、漆黒に戻った空間の中闖入してきた声の主を睨みつけ――そして絶句した。
 二つに束ねた黄金の髪、吸い込まれるような漆黒の瞳は不機嫌を隠そうともしていない。
 陰陽師のような、だが些か膝上が短い巫女服を身に纏い、まさに倣岸不遜という言葉を体現したかのように仁王立つ一人の少女。
「パール=クール、だと……っ!?」
 "東方王国の王女"パール=クール。
 『超公』と僭称し、ベール=ゼファーと並んでルー=サイファーに反目する一派の筆頭。
 悪徳の七王にこそ数えられていないものの、その力はルー=サイファーにすら匹敵すると言われている。
「パール=クールぅ……? 『様』を付けなさいよ、この鉢金女!」
 呻くようなパイの声を聞きとがめたのか、パールは眉根を寄せて彼女よりも更に強い怒気を露にした。
 無意味かつ理不尽に叩きつけられた圧力は、性質こそ異なれど金色の魔王のそれに近しい。
 総身を貫く暴威に追い討ちをかけるように、アスモデートの声がパイへと飛んだ。
「さあ、どうするパイ=レイモーン? 数ヶ月程度で復帰させた現身でなお挑んでくるか?」
「く……っ」
 明らかに挑発を含んだ声にパイは歯を食いしばった。
 相手がアスモデート一柱だけであれば、たとえこの身が滅びようと刺し違えるだけの自負はある。
 だが、そこにパール=クールが加わるというのであれば、もはや勝算などは微塵もありはしない。
 ただでさえモーリーとリオンが堕ちて勢力が減退しているのだ、この上で自らが再び力を失ってしまえばルー=サイファーの支配力が揺らいでしまう。
 幸いにしてアスモデートが本格的に動き出すのはもう少し先になるだろう。
 となればここで無理を押すよりも、引いてパール=クール参戦を踏まえて動くべきだ。
 パイ個人の感情としては腹に据えかねる結論ではあった。だが、彼女は仕えるべき王のために滅私を貫かねばならない。
 剣を引き、ゆっくりと後退する。
 何を言い捨てても負け惜しみにしかならない、という事が理解できるのが彼女には歯がゆかった。
 屈辱に燃える瞳で二柱を睨みつけながら、パイ=レイモーンは沈黙を保ったまま宇宙の闇に溶けるようにして姿を消した。




485 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:20:56 ID:kJVofUe0
 

「何よ、負け口上もナシ? ほんとアイツの子飼いはソツがなくってつまんないわ」
 パイが消え去った虚空を見やりながら、パールは盛大に溜息を吐き出して漏らした。
 ま、いっか。そう呟いてパールは脳内からパイの存在を削除する。
 そして本当に何事もなかったかのように彼女は髪に添えつけた鈴を揺らし、アスモデートへと振り返った。
「で、このパールちゃんをこんなトコに呼び出して何の用? まさか協力してくれ、なんて言う訳じゃないでしょうね」
 先程までパイに向けていた怒気の幾分かを、今度はアスモデートへと向けて視線と共に叩きつける。
 しかし当のアスモデートはそれを心地良さそうに受け止めて笑みを浮かべた。
「とんでもない。重要な用事があるんだよ……もっとも、『半分』はもう終わってしまったがね」
「……はあ? 何――」
 言いかけて、パールは不意に言葉を切った。
 僅かに眉根を寄せて、そしてアスモデートの言葉の意味を悟り、そして――
「――アンタ、あたしをダシにしたわね」
 パイに向けたそれとは違う、正真正銘の殺気と共にアスモデートに向かって唸った。

 ――ベール=ゼファーをトリックスターと呼ぶならば、パール=クールはワイルドカードと呼ぶべきだろう。
 非常に扱いに困る札ではあるが、それが故に彼女は『その場に存在する』というだけで影響を及ぼす――例えば今しがたパイが退いたように。
 七王の一角であるベルが退いた現状、アスモデートにとってパイやモーリー、リオンなどの有象無象共がどう蠢動しようと全く問題にならなかった。
 障害となるのはもはやルー本人が動く場合、あるいは目の前のパールが出てくる場合のみだ。
 彼女の存在をパイに見せた事でルーへの牽制は完了した。
 あとは――

「死にたいようね」
 目の前で猛る暴威に対して、アスモデートは僅かな戦慄を悟られぬように呑み込んだ。
 直情径行で後先を考えない、という彼女の欠点はある意味において他の七王以上に脅威となるからだ。
 策謀も奸計も全く意味を成さない。総てをぶち壊して捻り潰すだけの力が彼女にはある。
 が、この状況は既に彼にとっては想定内だった。
「いや、勝手な事をして申し訳なかった。代償というか対価というか、お詫びに君に献上するモノがあるんだよ」
「……言ってみなさい。つまんないものだったら魂も残らず灼き潰してあげる」
 恭しく頭を垂れるアスモデートに、パールは怒気を孕ませたまま告げる。
 顔を伏せたまま、アスモデートは彼女の返答が力ではなく声であった事で自らの思惑が完遂された事を確信した。
 彼は顔を上げ、自信を満たせた笑みでパールを見やった後、鷹揚に腕を広げ眼下に睥睨する蒼い惑星を指し示す。
「――あの世界を」
「――」
 アスモデートがそう言った途端、パールから怒気と殺気が消えた。代わりに疑念の気配と表情が彼女の貌に浮かぶ。
 彼女が何かを言う前に、アスモデートが彼女の疑念に答えるかのように更に言葉を繋いだ。
「ディングレイと賭けていたのはあくまで『どちらが世界を手に入れるか』だからね。
 手に入れた後の世界にはあまり興味はないし、統治する器でも柄でもない。
 だから偉大なる『超公』パール=クール様に献上しよう。東方王国の領域拡大の一助になれば幸いだ」
「……本気で言ってるの?」
「もちろん。ベルやルーが支配するよりは、君が支配した世界のほうが愉しそうだからね」
「ふぅん……」
 そうまで言われてまんざらでもなくなったのか、パールはどこか満足気に口の端を歪めて見せた。
「ま、いいわ。そこまで言うなら協力してあげる。ついでにアンタの策なんかよりもっと良いやり方も教えてあげるわ」
「それは重畳だね」
 パールはアスモデートには眼をくれず、玩具を見るような視線で惑星を見下ろす。
 腰に手を当てて、愉しそうにくすりと笑った。髪を束ねた鈴が揺れて、ちりんと鳴った。



「……今ここでアンタをぶっ潰して、柱の力も世界も丸ごと手に入れるのよ」
「!」




486 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:23:26 ID:kJVofUe0
 



 瞬間、宇宙が弾けた。
 パールの翻した腕がアスモデートに叩き付けられ、炸裂した魔力の余波が周囲に浮かんだ宇宙塵を纏めて消し飛ばす。
 パイの一撃を無防備で受け止めて見せたアスモデートは、しかしパールの攻撃に反射的に防御陣を展開し――それをあっさりと貫かれて力を身体に叩き込まれ吹き飛んだ。
 制動してパールを睨みつける。しかし彼女は、不敵に笑みを浮かべて腕を組んで見せた。
「このパールちゃんを巻き込んだ無礼はそれで許してあげる。感謝なさい」
「……そいつはどうも」
 最後の最後で相手を軽く見たうかつさに苦笑しながら、アスモデートは呟いた。
 ここでパール=クールを相手取っても何の益もありはしない。身を貫かれた痛みと屈辱は自戒とすべきだ。
「あたしはもう動かないからね。後は勝手にやんなさい」
「ああ、それでいいよ。カミーユやグラーシャ、ブンブン=ヌーやラーラ=ムウにも賛同は得ているからね、君が動くほどの事じゃない。
 だがせっかくだから君も遊んでいったらどうだい? フィールドは世界総てだ。気の赴くまま蹂躙し放題だよ?」
「雑魚共の遊びに参加するほど酔狂じゃないわ」
 パールはふんと鼻を鳴らしてアスモデートから眼を切った。
 話は終わりと裏界に戻ろうとする彼女に、彼は声をかけた。
「待った。まだ重要な話があるんだ……さっきので『半分』といっただろう?」
「……何? まだあるの?」
「ああ。ある意味でこちらの方が重要だ」
 面倒臭そうに首を傾げるパールにアスモデートは大仰な仕草で頷いた。
 そして彼は彼女の一撃で乱れた服と髪を直すと、場に不釣合いなほど爽やかに笑んで見せて彼女に言った。
「実は駅前にいい店があってね。よかったら一緒に行かないか?」
「……………はぁあ〜〜?」
 アスモデートの言葉にパールは盛大に怪訝そうな声を上げた。
 しかし当の彼は本気だったようで、まるで人間のようににこやかな笑みでパールを見つめる。
「ふざけんじゃないわよ! なんでアンタなんかと――」
「もちろん、御代は総て僕が持つよ」
「!?」
 パールの動きがぴたりと止まる。
 僅かに眼を反らし、しばしの黙考の後彼女はエラそうにふんぞり返って腕を組んだ。
「……まあ、どうせ帰っても暇だし付き合ってあげるわ」
「ありがとう。いや、世界が滅んでしまったら店もなくなってしまうからね。その前に行ってみたかったんだ」
「そんなのどーでもいいけど、つまんないトコだったら承知しないわよ? このパールちゃんがわざわざ行ってあげるんだから」
「不満があるなら何軒でも付き合うよ。世界の終焉に相応しい祝杯をあげるとしようか」
 笑いながらアスモデートはパールを促し、先を行く彼女に追随するようにして蒼い惑星へと降下していく。
 そして残ったのは漆黒の闇に浮かぶ世界――ファージアース。
 そこに生きる多くの人々が知らぬまま、そしてその夜闇に生きる魔法使い達に知られぬまま。
 世界の終わりはゆっくりと忍び寄っていた。






487 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 03:24:25 ID:Pa4YHHbH
うわぁぁぁん!
俺の、俺の憧れ続けたアスモデート様がそこにいるー!

とゆーわけでファンブック第四弾は俺の中では存在しないことになってるよ支援!

488 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:26:20 ID:kJVofUe0
 


 ※ ※ ※



 どこまでも続く果てしない荒野。
 何もかもが朽ち果て寂れ消えていく荒廃の世界。
 その中心に、一人の少女がいた。
 その肢体におびただしい黒色の帯を纏い、まるで彫像のように佇む灰髪の少女。
 彼女の名はアゼル=イヴリス。
 "荒廃の魔王"の二つ名が示す通り、彼女はありとあらゆるモノが滅びかけたこの領域にただ一人存在していた。
 いつからこうしていたのか、いつまでこうしているのか、それは彼女自身にもわからない。
 そのもつ荒廃の力ゆえに魔王達からも忌み嫌われ、そしてそんな力を自らも忌み嫌いながら、ただ彼女はその領域に立ち尽くす。
 自ら命を絶ってその孤独を終わらせよう、と考えた事はなかった。
 そもそもそう考えた事はなかったのか、それともそう考えていた時期を通り過ぎてしまったのか、それも彼女にはわからなかった。
 ただ、最近は別の意味でそういった考えをする事がなくなった。
 なぜなら、誰も近寄る事ないこの領域に、度々『来訪者』が現われるようになったからだ。
 自分の力を利用しようとしているだけなのかもしれない。
 魔王という超越者ゆえに、自分のような存在を哀れんでいるのかもしれない。
 だが彼女にとってそれはどうでもいい事だった。
 誰彼にも触れ合う事が赦されない彼女には、たとえ何者であろうと自分に触れてくれる『誰か』がとても大切なモノだったから。
「―――、」
 そうして今日も、『彼女』が現われる。
 だが、何故かアゼルの表情は優れなかった。
 彼女が自分の許を訪れてくれることはこの上ない喜びだったが、今回に限って彼女は初めてそれを恐れた。
 しかし相手の方はアゼルの心情を察する事もなくその姿を露にする。
 月光のように鮮やかな銀糸の髪。陽光のように眩しく鋭い黄金の瞳。
 学生服を身に纏い、ポンチョを羽織った少女――ベール=ゼファー。
「ベル……」
「………」
 アゼルの目の前に現われた彼女は、アゼルの予想通りの表情を浮かべていた。
 いつもこの場に来る時に浮かべている柔和な表情はそこにはなく、殺気こそないものの明らかに不機嫌で睨みつけるようにしてアゼルに視線を送っている。
 正直アゼルは逃げ出したかったが、逃げる場所などあるはずもなかった。
「……あ、あの……ベル。その……」
「………」
 沈黙を保ったまま睨み続けるベルに、アゼルは囁くように声を上げる。
 しかしそれはまとまった言葉にはならず、意味を成さない声が空回りするばかり。
 アゼル自身何を言えばいいのかわからない以上、その惨状はある意味当然のものではあった。
 仏頂面のベルの前でしどろもどろにアゼルは呻き続け、必死の思いでようやく浮かんだ思いを搾り出す。
「ごっ……ごめ……ごめん、なさい」
 ベルは泣きそうなアゼルの囁きを耳に収めると、大きく息を吸い込んで、溜息と共に空気を吐き出した。


 

489 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 03:27:21 ID:Pa4YHHbH
つか、容量平気?
支援

490 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:29:43 ID:kJVofUe0
 

 時を遡ること一週間程前。
 ファージアースと裏界において無視する事のできない重大な事件が起こった。
 裏界に君臨していた支配者、"金色の魔王"ルー=サイファーが表界侵攻に乗り出し――そして敗北したのだ。
 これによってウィザード達は一気に勢いづき、そして裏界は支配者が退いた事で情勢が混沌となり数多の魔王達が新たな覇者となろうと活性化し始めた。
 ベルにとってもルーの敗北は喜ばしい事ではあったが、ある意味ではそれ以上に深刻な事態がその時に起こったのだ。
 今目の前にいるアゼルが、ルーの配下として……つまりはベルの敵として立ち塞がった事である。

「……ま、アンタのせいじゃないってわかってるけどね。それでもちょっとはへこんだわ……死ぬ気で抵抗してくれても良かったのに。
 『あの御方』とか言っちゃってさ」
「……ごめんなさい」
「いいわよ、もう。今日はそんな事言いに来た訳でも、そういう事聞くために来た訳でもないんだから」
「……?」
 小さな苦笑を漏らしながら言うベルにアゼルはようやく顔を上げ、僅かに首を傾げて彼女を見やった。
 するとベルは珍しく何かを言い淀むような表情を見せ、視線を彷徨わせて所在なさげに頬をかき始める。
「……ベル?」
「あー……あのさ。一ヶ月くらい前、アンタに魔殺の帯を貰った事あったでしょ?」
「……うん」
 ファージアースで言えば一月の下旬にあたる頃だろうか、いつものようにアゼルが荒野で佇んでいるとベルがふらりと現れてそういったやり取りをした事があったのだ。
 その時のベルは別段変わった様子もなく、アゼルも魔殺の帯を渡す事に何ら迷いはなかった(むしろベルにお願いされた事の方が嬉しかった)ので言われるまで思い出しもしなかった。
 ベルは再び黙り込むと瞑目して天を仰ぎ、そして意を決するようにアゼルに向き直るとなるべく尊大な風を装ってから疑問符を浮かべているアゼルに向かって言った。
「まあそのお返しって訳でもないんだけど。その時に珍しいモノを見つけたから、アンタにあげるわ」
「え……?」
 アゼルが反応を返すよりも早くベルは懐から何かを取り出し、アゼルに差し出した。
 彼女の掌に乗せられていたのは拳大の六角形の金属。白色が鮮やかに輝き、中央には蝶の刻印が彫られている。
 一体何なのか理解できないアゼルに向かって、ベルはそっぽを向いたまま口を開いた。
「核鉄って言ってね。何でもエネルギードレインを無効化する力があるんだって」
「それ、って……」
 驚きに眼を丸くしたアゼルがベルを凝視すると、彼女は眼に見えて顔を紅くして軽く地を蹴った。
 明らかに動揺した仕草で地団太を踏み、上擦った声を上げる。
「な、何よ! あくまであたしの目的はリオンの計画を止めるためだったのよ!
 そのついでに柊 蓮司の事も確認して、コレはその副産物! ついでのついでなんだから!」
「………」
「ちょっと、聞いてんの!?」
「うん……うん」
「ちょっ……」
 俯いて肩を震わせるアゼルにベルは眉を怒らせて詰め寄り、不意に言葉を失ってしまった。
 前髪で隠れたアゼルの瞳から何かが零れ、地に落ちる前に溶けて中空に消え失せる。
 それを見てベルはそれまで爆発させていた羞恥と怒りを完全に消沈させてしまっていた。




491 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:31:43 ID:kJVofUe0
 

「……何泣いてんのよ」
「……泣いてる? 私が? そう……私、泣いてるんだ」
 自分でそれを自覚した瞬間、今度は笑いがこみ上げてきた。
 本当に可笑しくなって身を屈め、肩を震わせる。
 なのに瞳から勝手に零れてくるそれを止める事はできなかった。
「もう……子供じゃないんだから」
 差し出された指がアゼルの頬を拭う。
 彼女は触れる僅かな温もりに眼を細めると、ようやく笑いと涙を抑えてベルと向かい合う。
「ありがとう、ベル」
「……。ま、先に貰ったのはこっちだから。貸しを作ったままなのは嫌いなの」
 そっぽを向いて鼻を鳴らすベルを見やってアゼルは小さく微笑んだ。
 そして彼女が手に持つ核鉄を指差す。
「それで、その核鉄……どうすればいいの?」
「そうね。確か――」
 言ってベルは核鉄をアゼルに向かって差し出す。
 抵抗する気配など微塵も見せずに身体を晒しているアゼルの胸部に核鉄を押し込むと、それは燐光を伴って彼女の身体に呑みこまれていった。
「……あ」
「ん」
 二人が同時に反応する。
 回りから流れ込んでくるプラーナの密度と、身体から抜け出ていくプラーナの感触が俄かに薄まったのだ。
 アゼルの顔に驚きと、ベルの顔に喜色が浮かぶ。
 が――
「……っ!」
 唐突にアゼルが表情を歪めて身を屈める。
 胸元を抑えた彼女の腕の隙間から核鉄がぼろりと零れ、地に落ちると同時に泥のように崩れてしまった。
「あ゛〜……」
 再び勢力を取り戻してきたプラーナ吸収を身で以って実感しながら、ベルは落胆と共に溜息を吐き出した。
 屈み込んで核鉄に手を伸ばし、それがもはや機能はおろかモノとしての意味すらも失っている事を確かめると小さく舌打ちして指を払う。
 埃の様に散らばって宙に溶けていくソレを不快そうに眺めやっていると、アゼルの沈んだ声が響いた。
「ごめんなさい……」
「貴女のせいじゃないって。……こっちこそ悪かったわね、妙な期待を持たせちゃって」
 アゼルは自分が何を言ったのか気付いていない風のベルを僅かに眼を丸くして見つめると、顔を綻ばせて答えた。
「私は気にしてない。ベルにはもう返しきれないほど沢山のものを貰ってるから」
「……? あたし、アンタに何かあげたっけ?」
「……気にしないで、こっちの話だから」
「その言い方、何か気に入らない」
 不貞腐れたようにつむじを曲げるベルにアゼルは小さく笑みを零す。
 ベルはかっとなって何事かを言おうと口を開きかけたが、結局何を言えばいいのか思い浮かばずに苛立たしげに頭を掻いた。
 そんな折、不意に二人の前方の空間が揺らぐ。
 そちらに眼を向けた二人の前に音もなく顕れたのは、巨大な書物を抱えた黒髪の少女だった。




492 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 03:32:16 ID:Pa4YHHbH
いけるのか……?支援

493 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:33:18 ID:kJVofUe0
 

「……リオン?」
「来たわね」
 ベルの方はさも当然といった風で待ち構えていたが、アゼルの方はそうはいかなかった。
 何故ならリオンはアゼルと同様、過日のルー=サイファーの表界侵攻時ベルと敵対していたからである。
 しかしリオンは何も語る事はなく、ただアゼルを一瞥するだけで眼を切ってベルへと向き直った。
 ベルは腕組みして胸を張り、アゼルと二人でいた時とは違う尊大な気配を纏わせてリオンへと口を開く。
「遅かったわね」
「……。ちょっと観光に行っていました」 
「………………かんこう?」
 ベルが尊大な態度のまま彫像のように固まり、どこか棒読みで問い返した。
 するとリオンは僅かに顔を傾け、普段以上に陰の篭った表情でボソボソと喋りだす。
「予定通りに戻ってくるはずでしたが、ダイヤが乱れてしまって……これだから日本以外の鉄道公社は信用なりません。
 やはり裏側から掌握して精密精緻なる運行を実現すべきなのかも……」
「……リ、リオン?」
「……何か?」
「いえ、なんでも……」
 陰湿な声のワリに髪の間から覗く薄青の瞳は妙にぎらぎらしていて、思わずベルは後ずさって口を噤んでしまった。
 そんなベルの態度を気にする風でもなく、リオンは内心の感情を振り払うように二三度頭を振ると、普段通りの無表情を取り戻して彼女に向き直った。
「それはともかく。例のものの所在に関しては滞りなく判明しました」
「そ、そう。それならいいのよ」
 ようやくといった感じでベルはいつもの調子を取り戻す。
 そこで今だに眼を丸くしたままのアゼルに気付き、彼女は自慢気に大きく胸を張った。
「この子はルーが隠居したのを気にあたしに鞍替えしたのよ」
「え……」
 アゼルは驚いてリオンを見やる。
 ルー=サイファーに忠実な臣下として知られている彼女が、現在当のルーが身を隠しているとはいえ反目しているベルと共にあるというのが俄かに信じら

れなかったのだ。
 しかしリオンはベルの言葉を否定するわけでもなく、まるで影のようにしてベルの傍に佇んでいた。
 見たまま見ればベルがリオンを従えている、という構図にベルは得意そうに鼻を鳴らす。
「ふふん……まあこれもあたしのカリスマって奴よね」
「………ふ」
 その瞬間、リオンが眼を反らして顔を俯けた。




494 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 03:34:20 ID:kJVofUe0
 


「……リオン。今、笑ったでしょ」
「いいえ、ちっとも」
「今明らかに噴き出したわ。嘘は言わないんじゃなかったの」
「笑った? 私が? そう……私は笑ってるんですね」
「「っ!?」」
 アゼルの顔がざっと青ざめた。ベルもまた慌てふためいてリオンへと詰め寄る。
「リ、リオン! アンタ見てたの!?」
「私は秘密侯爵。お前の秘密を知っている……」
「〜〜〜……!!」
 アゼルは信号機のように顔を真っ赤に染めてその場にへたりこんでしまった。
 頭を抱え、肩を震わせて蹲るアゼルを見てベルは嘆息交じりに肩を落としリオンに言う。
「あんたねえ……あんまり苛めるんじゃないわよ。この子は耐性ないんだから」
「……驚きました。犯罪を教唆し人心を闇に縛るといわれる貴女からそんな言葉がでるなんて」
「うっぐっ……!」
 リオンの言葉にぐうの音も出なくなってベルは口をぱくぱくさせた。
 二の句が継げず苛立たしげに地団太を踏むと、彼女は蹴飛ばすように地を蹴って身を翻した。
「ああ、もう! いいから行くわよ! 他にアレを狙ってる奴がいないとも限らないんだから!」
「……はい」
 明らかに誤魔化したベルの態度にリオンは僅かに口の端を歪めると、彼女に追随するように歩き出した。
 遠ざかっていく気配にようやく我に返りアゼルが顔を上げると、丁度ベルが振り返って彼女に視線を送っていた。
「じゃあ、またねアゼル。次は貴女もゲームに参加させてあげるから、待ってなさい。絶対に楽しいから」
「……うん。待ってる」
 アゼルの返答にベルは満足そうに笑みを浮かべると、リオンと共に虚空へと消え去った。
 そして再び荒野に静寂が戻る。
 何一つ動くもののなくなった荒廃の世界で、彼女はじっと少女の消えた虚空を見つめ続けた。
「……ありがとう、ベル」
 囁くようなその声も、無尽の荒野に溶けて消えていく。
 だが寂しさは感じない。
 何故ならこの荒野は何一つ残るものがなくとも、彼女の胸には少女の言葉が残っているから。
 やがてくる再会を待つ楽しさを噛み締めながら、孤独の魔王は静かに口元に微笑を浮かべた。


 ――その再会が、彼女に在り得ない幸福をもたらす事になると知る者は今は誰もいない。




495 名前:NIGHT WIZARD cross period:2009/05/01(金) 04:00:09 ID:kJVofUe0
容量ギリギリなのに気付かなかった。うかつ
おまけに最後の最後でさるさんときた。うかつ2

ともあれ今回は以上です。真・魔王祭り後編
前回に引き続きクロスSSなのにクロスしないとう言語道断の(ry

アスモデートパート。『紅き月の巫女』に続く。
ゲストにちゃん様ことパール=クールとパイ=レイモーン。
現実の時間軸上当然ではありますが、アスモデート決起時に他の魔王、殊に『前回』も邪魔したルーやベルが出張ってこなかった件についてでっちあげ
何を隠そうリオンとモーリーを出したのはこのため・・・と見せかけて実はこのパート全部後付け
リオンは前回書いたようにベルに鞍替えする変遷、モーリーはブラボーと殺陣ができる前衛系として選んだだけ
もののはずみでアスモデートを出したついでにでっちあげまくってみました
ちゃん様はアニメ版なのでベルと同様真面目なんです。おかげでパイがかませになってしまった、すまん
なおパイの外見に関する色彩描写は作者による独断です。だってカラーイラストもパーソナリティもないんだもん・・・

ベルパート。ファンブック『リーチ・フォー・ザ・スター』に続く。
ゲストにアゼル=イヴリス。
ちょっとわかりにくいかもしれませんがこのパートだけ時間軸が少し飛んでます。二月中旬〜下旬あたり
ちなみにここに出てきた核鉄のヒントは前回の武装錬金パートのパピヨンの台詞。
もうこの子達は好きなだけ百合展開すればいいと思うよ


ともかく。
クロスしない『次』へのオープニングは今回でおわり
次回は(多分)最終回、柊達のエンディングです

496 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 08:26:05 ID:Pa4YHHbH
>>495
gj! 感想は次スレに回すとして
オレケイタイ ダレカスレタテ タノンダゼヨロシク

497 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/05/01(金) 08:32:29 ID:ID0slcLi
500前で達するとは、えらい速度ですね。やってみます。

498 名前:タバサと幽霊@学園世界:2009/05/01(金) 08:35:25 ID:ID0slcLi
ダメでした…orz

499 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 10:05:25 ID:0SEcIG5W
ちょっくらスレたててくるわ

500 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 10:08:36 ID:0SEcIG5W
ころころ……ほらクリティカル
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.18
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1241139974/

501 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 10:34:23 ID:BACabcjZ
乙かれ様でした>>500さん
今はその体を休める事だ(ry

502 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 16:08:40 ID:WMJeLx00
おお、スレ埋まるの早いなー

503 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 17:58:18 ID:CwiNzQux
一億六千万ということは2か?w

504 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/01(金) 23:27:00 ID:b7MezHNU
>486
で、ちゃん様はどこに?

……喫茶ゆにばーさる?

505 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/02(土) 04:21:23 ID:4BSXOf0U
とりあえず埋めてしまおう。

506 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/02(土) 04:50:35 ID:3PxloQ36
       |  \     i   |     /  / | |   i    | 、|  i i
       {    `、   {  |,    _| ,イ /l |  i |    l  |  | l
       ヘ    ヽ  !  |/     /|`メ|」 i λ  | ト、 ト、 i |   l |
  ,-‐、     ヽ.   `、  i   l     kラZ'ミ、|.ハ  l'}/_,斗|ヘ.ト、|   ! l
  '、  `ヽ.   \   ヽ ,|  |、   | 辷_ク   ヽ.| ' 彳ニ;リゝ|  |! |  トマトとタマネギのタルト、
   \   \  ヽ  `´ !  ヽ|ヽ. |       ,   ゙ー'   |   |l |  タラモサラダのブルスケッタ、
    `ヽ、   `' ´           〉、、|`,. -― 、 , --、      /|   |ハ|  雪見鍋で
       ``>      _,.  ,.ノ´    _ノ i  ̄ i     /ノ」   | l
      ,.-'     / ´   /    ,. <´  {.___」   ノ"´ |  | |   S T O P で す !!
  ,. -‐ ´    ,ノ/     _ ,. ィ':´: : : Y`i 、  `  ,. '| | |   | l
 〈___,. -‐'>、_  _,. '      |ト、: : : :ヽ「|`l`.=、'´/7-ト, | _.|   | |
        |/  ゝ.´        |} |: : : : : ト、ヽ‐ヘ>|7-、/-‐'´: :|   |ヽi
        N ̄`∧           k,.|: : : : : |:.:;>、\v'ノン-、: : :_|   |: : ヽ.
        }-―{:.:ヽ       / |:. : : : :j、_/ /´´ト、ヽ- '´ |  |: : : : ヽ.
       j´   〉:.:.:.\__   _,.ノノ:.:.:.:.:.:,ノ ' / 〉、_ノ `     ,|   |: : : : : : ヽ
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       `入_/ヘ:.:.:.:.:.∠ /ヽ/:.:.:.:.:.:.:./: :ヽ/  リ ト、 `ヽ: : :l   |:.:.:. : : : : : l


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