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【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.27

1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 01:33:54 ID:NybGVOXj
アニメでも大活躍し、過去リプレイ作品で異世界慣れした我らが“下がる男”柊蓮司……
そんな彼や他の登場人物達がもしも○○の世界に飛ばされたらor○○キャラが第八世界にやって来たら…?
そんなナイトウィザードのifストーリーを語るスレです。

■ 注意事項 ■
・不要な荒れを防ぐ為に、sage進行で御願い致します。
・冥魔(荒らし)に反応するあなたも冥魔です、スルーしましょう。
・次スレは>>975を踏んだ方、若しくは475kbyteを超えたのを確認した方に御願い致します。
 また、重複防止の為に次スレを立てる人は立てる前に宣言を御願い致します。
・荒らし、カッコ悪い。
・Q.ナイトウィザードって○○のパクリ?
 A.とりあえずほぼ全て何かのパクりです。初版が2002年3月発売なのでそこから判断してください。

■ SSを投下する方へのお願い ■
・NWキャラをクロスさせたい作品世界に送り込むも良し、
 逆にクロスさせたい作品のキャラをファー・ジ・アースを中心とした
 きくたけワールドに招いてNWキャラ達と掛け合い活躍させるも良し、
 SS創作者(GM)の想像の赴く儘に楽しめる物語を書き込んで下さいませ。
 但し、NW関連スレと云う事で片方は「ナイトウィザード」で御願い致します。
・801等、特殊なものは好まない人も居るので投下する場合は投下前にその旨を伝えましょう。
・各作品の初投下時は、クロスする作品名を最初に御願い致します。
 そうすれば読者も読み易いでしょう。
・SSの内容が18禁の場合は地下スレ(検索ワードは「卓上ゲーム」)へ。
・NW側からのホストキャラはNW公式作品に登場しているキャラを主軸として、
 SS創作者オリジナルのキャラをストーリーに絡める場合はあくまで脇役としての
 立場で参加させて下さいませ。
・御互いの作品を尊重しましょう。一方的なクロスは荒れる原因ですよ。

■前スレ

【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.26
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1256465671/l50

■関連スレ
ナイトウィザード -Night Wizard!- セッション45
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1261397730/l50

きくたけ セブンフォートレス ナイトウィザード100
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1261980883/l50

■関連リンク
http://www.fear.co.jp/nw/(原作ナイトウィザード公式)
http://www.nightwizard.jp/(TVアニメ公式)
http://www42.atwiki.jp/nightwizard/(アニメ版まとめWiki)
http://www32.atwiki.jp/nwxss/(過去SS保管庫)

■非クロス作品の場合は、卓上ゲーム板の専用スレへの投下も検討してください。

卓上ゲーム板作品スレ その5
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/cgame/1248526786/l50

■投稿規制時の代理投下、クロススレに投下するには微妙なネタや、荒らし等の緊急時は避難所へ。

ナイトウィザードクロスSS避難スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12795/1244722087/


2 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 01:36:30 ID:NybGVOXj
すみません。現在の作品の投下中に限界突破の可能性ありと判断し、立てさせてもらいました。

3 名前:夜ねこ:2010/01/01(金) 01:48:05 ID:K3UzuMCz
>>2
お世話になります……。
では、以下続き。

4 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 01:49:09 ID:K3UzuMCz
 <幕間その2・銀魂高校資料準備室>

 たくさんの足音があわただしく行き来する廊下とその空間を、壁と戸だけが隔てている。
 ほこりのたまっている、紙の束の詰まった棚の群れ。黄ばんだカーテンで窓は覆われている。あとあるものと言えば小さめの椅子がいくつか。
 あまり人が出入りしない部屋だろうと一目でわかるような部屋に、現在は三人の人間がいた。

「……ったく、なんだか知らねーがしつこいねぇ。そういうのは女にモテねーぞ?」

 銀髪天パ白衣メガネ教師。

「いやいや。むしろ最近の女の子は積極的な男にホレるもんだってこの間『きゃん☆きゃん』見ながらアネゴが言ってたネ」

 ぐるぐるメガネチャイナ留学生。

「そう! 時代は男性によるエスコートいえむしろドSコート!
 時代はドSな男性を求めているの、そういうことだから先生、もっと! もっと私をいじめて先生っ!」

 簀巻きにされている縁の太めなメガネの少女。

 彼らは銀魂高校3年Z組の担任教師と生徒である。
 危険を察した担任の銀八がこの場所に逃げ込むところを、同じく危険を察した神楽と銀八を探していた猿飛あやめが目撃。
 彼女たちは担任が戸を閉めようとするのに割り込むようにもぐりこんだのだった。

 銀八がうっとうしそうにあやめに目を向けて、一言。

「うるせーな、ガムテープで口塞いじまうぞコラ」
「ドMにそんなこと言っても無駄ネ。とりあえずここに踏み込まれた時の バリア(いけにえ)にするヨロシ」
「よしそれでいこう。頭のいい神楽ちゃんにはあとで宿直室にあるもらい物の志宝堂の和製プリンを一個だけやることにしようかね」
「マジでか。銀ちゃん先生太っ腹アルな! 一生ついていきますぜボス!」
「でっけー声出すなよ。ご褒美のプリンが一個から一口に変わるぞ」
「問題ないアル! 一口でプリン三つは軽いネ」
「罰ゲームでご褒美増えてる時点でおかしいだろバカ」

 ぷはー、と紫煙をくゆらせて冗談なのか本気なのか判別のつけづらい死んだ魚のような目をした教師に、神楽はそういえば、とたずねた。


5 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 01:53:05 ID:K3UzuMCz
「銀ちゃん先生なんでこんなトコのカギ持ってたアルか?
 アネゴの話が確かなら、ここ『おかずの間』って呼ばれてるんでしょ?」
「おかずじゃなくて開かずな? ここは給食センターじゃねーっての。
 最近、喫煙者にはきびしー世の中になっちまってなァ。
 職員室で吸っててもにらまれるよーになったから、火災報知機のついてない使われてない教室探してちょちょいとカギを取り替えといたのよ。
 そのカギ持ってんのは俺だけだから、そりゃ職員室のカギじゃ開かねぇだろうさ」

 つまりは堂々とタバコを吸うためだけにカギを取り替えたらしい。いっそすがすがしいほどの職権乱用だ。
 尊敬の眼差しを向ける(子どもは自分に思いつかないことを大人がやると基本的に尊敬する)神楽からは視線を外したまま、やる気のない声を上げる銀八。

「あー。しっかしバリアが一枚しかねーってのは不安だな、なんかいい方法ないもんかね」
「バリア二号に心当たりないアルか? グラサンとか」
「長谷川はもうバリアに使った。今は連中の一員になってるだろ」
「まるでダメなおっさんっぽい高校生略してマダオじゃ仕方ないアルな」
「まさにダメ親父でしかない設定上高校生略してマダオじゃ仕方ねーわな。いざとなったらお前でもいいか、盾」
「男で大人で教師は女子ども教え子守ってナンボアル。どんな悪人も死ぬ間際にいいことすると映画版ジャイアンみたく株上がるネ」
「極楽にはタバコねぇらしいから俺別に行かなくてもいいわ。
 そこが誰になんて呼ばれてようと、俺的にはタバコと糖分がなけりゃそこは地獄と同じモンだ」
「じゃあ銀ちゃん先生今天国にいるわけアルな」
「訂正。やっぱ酒とパチンコもないとヤだ」
「そんな煩悩まみれじゃ地獄行きは見えてるアルな。そんなわけだからまだ天国にいく可能性のあるわたしを守って逝くヨロシ」
「まっぴらゴメンだ。あとお前の行く先は餓鬼界って決まってるから心配すんな」
「ガキカイって何アルか?」
「えーと、ほらアレだよアレ。ゲキテイとかウサテイとかの親戚」
「マジでか」

 などというまるで意味のないダメなお話略してマダオを繰り広げ、銀八は神楽を煙に巻いた。
 もう一度立ち上るタバコの煙。
 この教室の黄ばんだカーテンは九割方以上この男の喫煙癖のせいだろう。
 そんな隣の男を気にした様子もなく、神楽はたずねる。

「そういえば新八はどうしたアルか? あのダメガネなら真っ先に捕まっててもおかしくないのに、悲鳴聞こえないアル」
「あー……ま、アイツはアイツで妙なことに巻き込まれやすい奴だからな」
「どういうことアルか?」

 首を傾げる神楽。
 銀八は短くなったタバコを灰皿に押しつけ、新しいものに火をつけて一呼吸。火を安定させると、呟いた。

「俺らみたいなスピンオフでキャラ立てのために何かしてる奴よりも、原作からずっとそれで通してる奴が活躍する舞台ってのがあっても悪くはないんじゃねぇかね」

 やはり意味は伝わらないものの、なんとなくそんなもんアルか、と頷いておく神楽であった。

 ―――まだ、事態の解決は遠い。


 <幕間2・了>


6 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 01:55:38 ID:NybGVOXj
このダメ教師めw支援

7 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 01:59:21 ID:K3UzuMCz
 ***

 建物の陰に隠れて壁に身を寄せ、氷室と新八は息を潜めていた。
 彼らは陰から陰に移動しながら時に長門からサポートを受けつつ、目的地へと向かう。
 とはいえ、緊張の糸も張り詰めっぱなしでは息が詰まる。
 新八は緊張をほぐす意味も込め、氷室に質問した。

「そういえば氷室さんはあいつらから一度逃げ切ったんですよね。
 どんな手品使ったんです? 学校の中とかで襲われたら逃げ場はないですし、外でも相当体力いると思うんですけど」
「汝は私をなんだと思っているのだね。
 言っておくが。私はごくごく普通の一般的な女子高生で、武力的な特技はいっさい持っていないぞ」

 心外だ、と言わんばかりに彼女は腕を組んで呆れたように言った。
 精神的な攻撃手段や社会的な攻撃手段を大量に所持している女子高生は一般的とは言わないと思います、という意見は内心にしまっておくことにした新八。
 それが正解である。

 ともあれ。じゃあどうやって? とたずねる新八に、彼女はこともなさげに答えた。

「私は運がよかったんだ。ちょうど私が襲われた時には、同じ報道委員の森あいとうちの生徒会長と話していた時でな」
「あぁ、それじゃ森さんたちがかばって―――」
「時に少年。
 汝は誰にでも使える必殺技『秘技・無能警官(ちかくにあるもの)バリア』というのを知っているかね」
「って、アンタ自分で盾にしたんかいっ!!」

 外道だ。
 あっはっは、と笑った後氷室は意地悪く新八に言葉を向ける。

「それで、汝はそれでもいいのかね?」
「それでも、って?」
「先も言ったとおり、私はいざとなれば近くのものを盾にしてでも進む人間だ。
 その人間の近くにいていざという事態を恐れることはないのか、とたずねているのだよ」

 氷室鐘は報道委員会の内部では『軍師』というあだ名で呼ばれている。
 それは彼女の趣味である人間観察の精度とそれを用いた高校生とは思えない対人用策略力によるものだ。
 彼女が新八にむけた言葉は、彼の覚悟のほどを確かめるためでもある。
 隣にいる人間は善人ではない。清廉潔白な人間でもない。そのことを再認識させ、それでもついてくる気があるのかを確認するために。



8 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 02:04:42 ID:K3UzuMCz
 彼女なりに意地の悪い、しかし少年の覚悟のほどを試すためにかけた問い。
 その応えは、彼女があっけにとられるくらい間髪入れずに返ってきた。

「何言ってるんですか。
 さっき氷室さんが約束させたんですよ。片方が潰れても、必ずもう一人が核心の情報を手に入れるんだって」

 氷室は思わず虚を突かれた。
 確かに先ほど、彼を脅かす意味でそう言ったのは彼女だった。
 それにも関わらず彼にもう一度たずねたのは何故だろう。彼女なりに一人の少年を巻き込みたくない仏心からだろうか。

 そこまで考えて、何を馬鹿な、と一笑に付す。
 氷室鐘の考える自身という人間はそこまでの善人ではない。だからこそ、これは単なる感傷に近いだろう。悪戯心を出した自分がしっぺ返しを受けただけの話だ。
 微笑を浮かべながら、彼女はため息をついた。

「いや、すまない忘れてくれ。柄にもなく緊張しているようだ」
「それはそうでしょう、長い間ずっと逃げながら移動してるんですし。廃墟街区に入ってもうだいぶ進みましたしね。
 そういえばさっきものすごい大きなクレーターとガレキの山を見ましたけど、巨大ロボでも暴れたんですかね?」
「あれか?
 聞いた話によると、どこぞの組織のトップに命知らずにも呪いをかけた馬鹿者が、組織の構成員全員による連係プレーと言う名の袋叩きを受けた跡らしいぞ」
「そ、壮絶な話ですね……。ていうかどこをどう袋叩きにしたらビルが倒壊したりコンクリートが溶けて固まってクレーターになったりするんですか」
「気にしない方がいいと思うぞ? 汝の精神安定上にもな」

 言いながら肩をすくめた氷室。彼女は懐からかすかな振動音を響かせる携帯を取り出して、かかってきた電話に対応する。
 電話の相手は、先ほどからずっと北高からナビゲートを担当してくれている長門だ。
 彼らはもう大分黒幕の核心近くまで来ている。これまで彼女のナビを信じて動いてきたのだ、その信頼性はきわめて高い。
 氷室はいくつか言葉をかわすと、長門に突入のルートを確認、電話を切る。
 さて、と彼女は新八の方を振り返って声をかけた。

「長門嬢からの伝言で『無事を祈る』とのことだ。
 ある程度は安全なルートを教えてもらったが、ここから先はいちいち立ち止まってナビを聞ける状態ではない。
 お互い、十分注意して先に進もう」
「わかりました。いきましょう、氷室さん」

 その応えは、やはり間髪の隙もなく。
 その応えに、気分が沸き立つような高揚を覚えながら。
 彼と彼女はその先へと足を踏み出した。




9 名前: 【だん吉】 【212円】 :2010/01/01(金) 02:05:52 ID:NybGVOXj
無能警官バリア…かつてアンゼロット様も得意としていた(クラス的に考えて)別名のあれか!
支援

10 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 02:08:41 ID:K3UzuMCz
 <幕間3・北高コンピュータールーム>

『うっだあぁもう……っ! これで23度目のエラーでありますよっ、なんの嫌がらせでありますかっ!?』

 苛立ったようなローティーンの少女の声。
 声の主はその場所にはおらず、ただ声だけが響く。
 それは本来この部屋で発されているものではなく、ある場所で拾った音声をそのままスピーカーのような機能で拡声しているのだ。
 この部屋にいる一人の少年が、乾いた笑い声を上げた。

「あはは……と、とりあえず落ち着こう? ノーチェ」
『こ・れ・がっ! 落ち着いてられるでありますかぁぁっ!?
 アレでありますよっ!? わたくしから情報収集技能取り去ったらほんとに何もなくなるでありますよっ!?
 ただの死ににくくて人にたかってるだけの役立たずでありますよっ!? そんな役立たず作って楽しいでありますか銀之助っ!?』
「自覚があるんなら治せばいいんじゃないかなぁ……」

 ぼやいているぐるぐるメガネの少年の名は五十鈴銀之助。
 開発部に在籍する16歳高校生の少年である。


11 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 02:13:17 ID:K3UzuMCz
 この部屋は現在彼の隣にいる少女―――長門有希の手によって情報制御を施された、一種の隔離空間となっている。
 隔離空間の管理者である長門がほぼ完璧な一種の結界空間を作った後、いわゆる『敵』は視覚認識頼りで眼鏡の人間を判別・認識して追跡してくることを確認。
 情報共有のための電波への情報制御を一部解き、自分以外の情報収集端末としてノーチェに協力を依頼したまではよかった。
 が、どうにも今現在のノーチェが役に立たない。とんでもなく役に立たない。
 どれくらい役に立たないかというと、現代のウィスキーキャットくらい役に立たない。ボケのいないツッコミ役くらい役に立たない。芯のないシャーペンくらい以下略。
 先ほど本人も述べたように、20回以上水晶玉を使ってこの異常について調査しているのだがまったく効果が現れないというのだ。
 これが役立たずでなくてなんというのだろうか。

 そんな自分のアイデンティティをかけて割と意地になっているノーチェ。むしろどこか哀れみを誘うくらいの一生懸命さだ。
 その時、長門がぽつりと呟いた。

「……一種の探査妨害性の要素が発生している可能性は」
『魔導(マジカル)でも化学(ケミカル)でも、ジャマーがあればそれが逆にそれが場所を特定する因子になり得るでありますっ。
 なんの手ごたえもない時点で、妨害系でわたくしの力が邪魔されてるわけではないわけで、それは、それは……つまりわたくしが無能ということに……』

 あぁ今度は落ち込んじゃった、と銀之助。
 即座に落ち込んでないでありますっ! という応えが返るが、その声はだいぶムキになっているのがありありとわかる。
 それに苦笑しながら彼は一人ごちるように言った。

「でも、やっぱり何かおかしいよね。ノーチェの調査系魔法は安定性でも信頼性でも相当なレベルにあるっていうのに。
 開発部(ウチ)の中でも水晶玉の力の解明がしたいって人は大勢いるんだよ?」
『嬉しいような、モルモット扱いされて切ないと思うべきなのか、困りどころでありますよぅ……』
「水晶玉で調べるものにだけ妨害がされてるとかの可能性はないかな」
『ですからー。そんなジャミングされてるんだったらもっとわたくしへの負荷とか、そういう類のもので逆に邪魔されてるんだと理解できるのでありますってば。
 それに、わたくしの水晶玉はそういう力の種別の選別はしないのでありまして、霊力魔力から電力熱量プラーナまでありとあらゆる計測から観測まで可能でありますよ?
 そしてそれをわたくしに理解できる情報として整理して提供することも、情報の取捨選択をわたくしが設定することも可能なのに、エラーしか出ないのでありますよっ!?
 これが異常でなくてなんと―――』

 言うのでありますか、と言いかけたノーチェに長門が鋭く声をかけた。

「ノーチェ」
『はい? 何かあったでありますか有希』
「エラーデータ中にバグの様な情報群の存在は確認できる?」
『えーと……あぁ、なんかいつもよりも多いでありますなバグデータ。
 有効性も有意性もなさそうだったから全部除外してるでありますが』
「おそらくはそれが本命」
『本命って……そんなこと言われても、これどう見ても単なるジャンクでありますよ? わざわざ偽装したような痕跡もないわけでありますし』
「不要な情報に偽装したわけではなく、あなたには不要な情報にしか見えないだけ。
 現に私たちには、あなたが探し当てた熱源集中区域の中心に存在する正体不明の流動的高エネルギー体の反応が見えている」
『はいっ!? そ、そんなものどこにも―――』
「へぇ。ノーチェにはこれ見えてなかったんだ、モニター越しでもなんとなく悪寒がする感じなのに」

 銀之助にまでそう言われてはノーチェも二の句が次げない。


12 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/01(金) 02:14:50 ID:K3UzuMCz
 それでも、事実長門と銀之助にはモニター越しの光景でとんでもない力が渦巻いていることがわかる。
 フォローするつもりではないだろうが、長門が続けた。

「おそらくある種のフィルターを所持していない存在には感知不可能なエネルギー反応。
 あなたはその条件に不一致。だからこの異変を調査しても結果がエラーに終わる」
『……なんか納得いかないでありますが、その条件を手に入れればわたくしが無能でないことが証明されるわけでありますな?』
「そう」
『だったら教えてほしいでありますっ! わたくし、何をすればその情報が見られるのでありますかっ!?』

 執行委員のオペレーターとして他人を動かす者であり、調査・探査のエキスパートとしては現状の把握ができないこの状態は何としても脱したい。
 何よりも自分の存在意義を守るために叫んだノーチェに、長門は一言呟いた。

「―――メガネをかけて」

 メガネのレンズが、きらりと光った。


 <幕間3・了>

13 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 02:16:55 ID:NybGVOXj
そういや執行委員のメガネって…ベホイミくらい?支援

14 名前:夜ねこ:2010/01/01(金) 02:19:02 ID:K3UzuMCz
年末年始? なにそれおいしいの?(挨拶)
ども。年末年始も休まず仕事な夜ねこです。今日は通勤で雪に見舞われ雪だるまになるかと思いました。
またスレにご迷惑をおかけしてしまいました。毎度毎度タイミングよく規制のかかる自分がものすごく恨めしいです。

今日はここまで。

そんなわけで今回の主役は銀魂の地味メガネこと志村新八です。氷室はまぁ、どっちかっつーと助演女優的な感じ?
最低限ナイトウィザードのキャラが出るところまで投下しようと思ったらこんな感じになりました。
全体で見ると、ちゃんとナイトウィザードキャラ出てくるので安心してほしい、かも。

じゃ、前回のレス返しをば。全部前スレですが。

>>220
 ニヤリとしていただけたなら書いた甲斐がありました(笑)。
 もともと自分の伏線張りスキルが低いだけなんでお気になさらずですよー。
 このゲームあったら俺がやりたいです(笑)。
 つかむしろゲームがあるなら俺ストーリーモードの話全部書きましてよ? いや、俺が書いていいならだけども。

>>221
 1万と8千年先のようですよ?

>>223
 みんな負けプレイ好きだなぁ(マテ)。
 いや、つかちゃんが好きなのか?


 今回の話。
「執行委員シリーズでは書けなかったことを書いてみよう!」がコンセプト。
 もともと「執行委員の〜」は「柊を中心にド級の能力者が集まって世界中の事件を潰しながら日常をグダグダする話」なので、どうにも「一般人」くくりの生徒たちにスポットが当たりにくい。
 そのため、今回は思いきって「一般人を主役にすえて、能力者とか特別な地位にいる連中を全員脇役にしてしまおう」という話。
 新八がメイン張ってますが、彼以外の一般人生徒や戦闘能力の高くない子供たちも多数参加予定。具体的にはメガネキャラを中心に。あとどう頑張っても自分の知らないキャラは出せなかったり。

 えと、それからこの話は正月三が日の間にちょこっとずつ(いつ投下されるかわからない的な意味で)ゲリラ投下予定。
 先にも書いたとおり仕事が詰まってるのと、一気投下は連投規制何回受けるかわからないからとゆーせせこましい理由ですが(爆)。
 しかも予定は未定。
 いや一応三が日で終わらせる予定ではあるんですけど、まだ最後までは書きあがってないから予定は未定とゆー……すんまっせーん! ちゃんと俺書き上げますー! だから刃物はよしてー!?

 次回、黒幕探しに奔走する二人はついにその黒幕の座す廃墟へと足を踏み入れる。その先に彼らを待ち受けていたものとは……?
 そして一般生徒に迫る魔の手。彼らは世界の崩壊から逃げ切れるのか?
 ではでは、また。

15 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 13:08:34 ID:YP6Kqpxa
>どこぞの組織のトップに命知らずにも呪いをかけた馬鹿者が、組織の構成員全員による連係プレーと言う名の袋叩きを受けた跡
禁書目録16巻のアックアさんかと思ったけど、微妙に違うよな……なんだっけ?

16 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 16:03:35 ID:0EIgVnc8
>>14
ディ・モールト・乙であります!
これは続きを楽しみにせざるを得ない……なんて、メガネ。
スーパーな矢野の大戦『rosa regulus』はM.U.G.E.Nとかでもいけるかしらんとか妄想してみたり。

>>15
おそらく、「執行委員の奔走」にて起こった執行委員総出のフルボッコタイムのことでゴザる。

17 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 17:13:39 ID:JTsYRxm4
>>14
投下乙でしたー
お仕事も雪も大変でしょうがご自愛ください。

>  つかむしろゲームがあるなら俺ストーリーモードの話全部書きましてよ? いや、俺が書いていいならだけども。
ぜひ読みたいですね、スレ違いな気もしますが

新八はわりと、氷室さんは大好きなので今後も楽しみにしています。

18 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 17:17:20 ID:NybGVOXj
GJです。3が日中に完結とのことなので楽しみにしています。

にしてもメガネ…本拠地にはやっぱりカレーなるメガネとかデスメガネとか雪風のメガネとかいるんだろーかw

19 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 17:33:00 ID:Aiun4XXO
眼鏡と言えばGB小野d・・・もとい、小野寺浩j・・・更にもとい、南雲一族!
・・・・・・そう言えば、あの南雲は元・高校教師、あの南雲は現役高校生(しかも眼鏡可愛い彼女持ち)
だった様な・・・・・・。

20 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 19:40:44 ID:8NPIDQ3I
そういえば、ヤマモトも団長ちゃんも義経ちゃんも全部学園ものと言えばいえるんだっけな・・・ゴクリ

21 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 20:33:07 ID:lUHgA/P5
NWでメガネといえばマユリ…しかし出番はノーチェに取られるという

だが俺は信じてる!クライマックス前にキーキャラクターとしてマユリが登場することを!

22 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 20:46:32 ID:Ym6PySHX
>21
なるほど、“ミセス・ナイトメア”山田花子は女教師か。

23 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/01(金) 20:47:56 ID:Ym6PySHX
ごめん、笑点のせいでナチュラルに間違えた。鈴木花子だ。

24 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 08:13:23 ID:XAR7/yqM
ディシディアNWと言う電波が飛んできた。
年末からこっちずっとやってたからなあ…元々クロスオーバーみたいな話だし。

25 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 15:58:12 ID:3zf/D8W0
初夢に……グィードが……髭が、眼鏡がぁぁぁ

26 名前:装填完了―――:2010/01/02(土) 20:17:18 ID:gPPxKVvH
NEKOより本部へ。

第二射、準備完了。
支援を要請する。繰り返す、第二射の用意が完了した、支援を要請する―――。

27 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 20:27:29 ID:XAR7/yqM
了解。砲撃を開始せよ。

28 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 20:32:57 ID:gPPxKVvH
 ゆらりゆらりと幽鬼のような足取りで、廃墟の中を進んでいくメガネの少女。
 その後ろを、新八と氷室は警戒しながら尾行していた。
 彼らは先ほど長門の連絡で手に入れたルートで例の熱源の集中しているという廃墟の中にもぐりこみ、メガネの人間の向かう先を確かめるために行動していたのだ。
 新八は真剣な様子で、ぽつりと呟く。

「……さっきから思ってたんですけど」
「なんだ志村。なにか気づいたことでも?」
「気づいたっていうか、氷室さんはないんですか? このイヤな感じ」

 彼は、この建物に入ってからなんともいえない不気味な感覚を受けている気がしていた。
 理解のできない謎の言語の音をずっと聞かされているような、何か大きなものが近くにあってそれから逃げ出したいような、不気味な感覚。
 その問いかけに氷室は目を細めて答える。

「わたしもそれは感じている。
 原因もわかっているぞ。長門嬢がさっきの連絡で教えてくれた情報によると、ここには莫大な量の存在力が存在するらしい」
「すいません、僕専門用語には明るくないんですけど」
「わたしもそこまで理解しているわけではないがな。
 他の世界の言葉に直すと、『色のない魔力』『プラーナ』『可能性の力』『リューン』などが挙げられるか。
 学者連中に言わせると量子力学がどーのとか、短期間におけるカオス理論の観測がどーのとか言うらしいが、一言で表すと『選択を肯定する力』というやつだ」
「すいません、全然わかりません」
「わたしもよくわからん。
 長門嬢に聞いたらもっとよくわからん単語が出てきたぞ、情報爆発だのなんだの。
 要は人間が現実世界に存在するものを認識した時にその存在を肯定する力、だそうだ。
 今まで聞いた中で一番わかりやすいたとえで説明すると、『信じる心は力になる』というものかな。いささかロマンティックだがね」

 聞いてはみたが、新八にはよくわからない。
 しかしそのたとえで行くと、その力はどうも持っている人間の願いをかなえる力っぽい。気がする。
 だから彼は確認をとることにした。

「……つまり、ここにあるその存在力っていうのが黒幕のものだとすると、相当ヤバい状況ってことですか?」
「端的に言うとそうなるな。というか、世界がひっくりかえるレベルのものだと思ってくれていいそうだぞ」
「そーゆーことは早く教えといてくださいっ」
「ついてくると言ったのは汝の方だぞ?」

 妖艶に微笑んで、氷室。
 別に彼女も意図なく隠していたわけではない。
 聞かれなかったから答えなかったのも確かだが、この少年に事態の危険性を話せば足が止まるのではないかと見たのだ。
 恐怖で足がすくんでしまえば、もう一歩も動けなくなる。彼女としても一緒に言ってくれると言った相手を虜囚にさせたいわけではないのだ。
 ゆえに、今まで話そうとしなかったのだが―――氷室にとっては予想外なことに、志村新八という少年は見かけによらず骨があったということだろう。
 新八はぶつぶつ言いながらも監視対象から目を離さず、廃墟の中を進んでいく。
 氷室はその様子をくすりと笑いながら、彼の後を追った。

 やがて幽鬼のような足取りの少女はある部屋のところまでやってくると、はじめてその戸に手をかけて入り、戸を閉めた。
 目を見合わせ、一つ頷く。
 音を立てないように戸の近くまで走り寄ると、周囲を確認。人影がないことを確かめる。戸の向こうにはたくさんの人間の気配と何者かの声。
 新八は深呼吸し、氷室を見る。
 彼女もまた新八をみかえし、緊張した面持ちでこくりと頷く。
 考えていることは同じ。この先がおそらくは『アタリ』だということだ。

 二人して息を殺す。弾けそうな鼓動。戸に触れる。一際高鳴る胸。そろりそろりと覗ける程度の隙間を開き、その先の光景を目に映す。そこには―――


29 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 20:38:28 ID:gPPxKVvH
 大歓声を上げる民衆。
 熱狂的な彼らに囲まれた台座には、50センチほどの像がある。
 人と象を足してこねくり回し、オレジャシンメガネエンペラーコンゴトモヨロシクみたいないびつに合体事故が起きた感じの像が、
 かけているメガネをビカビカ光らせながら、CV:某大佐みたいな声で熱狂的な民衆に語りかけている。

『諸君、わたしはメガネが好きだ。
 諸君、わたしはメガネが好きだ。
 諸君、わたしはメガネが大好きだ以下省略。
 前置きはここまでにしておこう。
 よくぞ集まってくれたわが野望の偉大なる同志、<メガネの使徒>たちよ!!』

 その声に応え、爆発するように歓喜にして喚起の声が巻き起こる。
 洗脳された人々―――<メガネの使徒>たちは、その広い空間に見えるだけでゆうに千人を超えている。
 そんな彼らが一斉に、各々の感情のままに熱狂的に叫ぶのだ。まさに自然災害のような怒号が鳴り響く。



「……氷室さん、僕もう帰っていいですか」
「私も今ひっじょーに帰りたいのだが……なんだろうな、あの光景は」

 見ただけでSAN値がおろし金でがりがり削られそうな光景を見て、メガネを拭きながら呟く新八と、頭を押さえる氷室。
 なんだあれは、という疑問に答えを出そうとすると脳が拒否反応を起こしそうな光景だ。無理もないだろう。

「場所確認できたんですし、ここから僕らがいなくなったあとに爆弾でも落としてもらえばいいんじゃないですか?」
「ギャグ時空以外から来ている人間は死ぬことになるからその決定は無理だろうな。
 誰も死なないならぜひともその方法で抹消してほしいんだが。私の記憶ごと。残念だ。非常に残念だ」

 心の底から本気でそう思っているだろう彼女の言葉に心から同意しながら、新八は一つため息をついて思考を正常に戻す。

「僕らもここまで来た以上、一応少しでも多くの情報を掴んでおくべきでしょう。もうちょっと様子を見てみませんか」
「……汝、順応性が高すぎやしないかね」
「異常事態には割と慣れてるんで。主にクラスメイトとか家族とか担任とかのせいで」
「そうか。そうだな、もう少し様子を見よう」

 目の前の少年の日常に激しく同情しつつ、再び隙間から様子を伺う氷室。
 そんな彼女の心優しい心情など知る由もなく、同じく様子を伺う新八。


30 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 20:43:40 ID:gPPxKVvH
 彼らのことなど気づく様子もなく、温度差はそのままに目の前の光景は進んでいく。

『時は世紀ま―――ではなく。
 同志諸君、時は来た。これまでの雌伏の時を、覆す時が来たのだ!
 人間の生み出したる究極の芸術にして至高の機能。おはようからおやすみまでありとあらゆる時間を共に過ごす最高にして至上の宝具!

 その名をメガネ。人間のありとあらゆる夢と希望を詰め込んだ最強の幻想が再びその権勢を誇る時が来たのだ!

 古来、メガネは太陽であった。
 視力の弱い人々の生活を照らし、明日への希望を抱かせる最高の人間の友であった!
 今はどうだ。世間の愚かしき者共はその恩恵に感謝を忘れ、メガネっ娘の着脱可能ゆえの「一粒で二度おいしい」の心すら忘れる始末。
 そう。今メガネは月である。
 しかしそれでは終わらせない。終わらせてなどなるものかっ!!
 我々メガネを愛する者たちの<メガネ愛>! それをもってすれば、この世界を<学園メガネ世界>に改名することすら可能!
 諸君! 今こそメガネへの愛を持ってすべてのメガネ愛好家たちを仲間に引き入れ、その後にこの世界をメガネ色に染め上げる計画、すなわち

 ―――<プロジェクト:グラスワールド>への道を開く真の使徒への道を歩むのだ!

 さぁ私、この<メガネ邪神>の元に集いし使徒よ。
 悠久にて深遠なる<メガネ王国(グラスキングダム)>建設のため、その世界でメガネ邪神からメガネ邪神帝王へと昇りつめる私のため!!
 すべてのメガネキャラを我が陣営に引きずりこむのだ!!』

 メガネ、メガネ、メガネ、と謎のコールが始まりかけたその時。

「そんな世界になってたまるかァァァァっ!?」
「帝王なのにキングダムってなんだァァァァっ!?」

 ……ガマンし切れなかった部屋の外の二人が同時に違うツッコみを入れた。
 いや、他にもツッコミどころは満載なんだが正直ツッコミきれなかったのだ。そんなわけでツッコミきれる方は頑張ってツッコんでいただきたい。

 閑話休題。
 空気中のチリすら止まったような、一瞬の静寂。

 無数の瞳が、部屋の外の二人を射抜く。
 冷や汗が止まらない自分の状態を自覚しつつ、新八は気圧されながら一言。

「氷室さん、視線で穴が空きそうです」
「あー……うん。そうだな。アレだ。私も少し冷静さを欠いていたな。うん」
「ど、どうしましょう?」
「うむ。こういう時は―――三十六計っ!!」

 氷室も新八も声も目線も合わせることなくきびすを返して全力ダッシュ。
 これは逃走ではない、戦力的撤退である、とその背中が如実に語っている気がしなくもない。


31 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 20:43:59 ID:XAR7/yqM
なんだこれwwwwwwwwwwwwwwww支援

32 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 20:48:29 ID:gPPxKVvH
 足音を隠すこともない全力の疾走に、しかし部屋の中の誰も動こうとしない。
 いくつもの目は二人が廃墟の中に消えると、彼らの盟主たるメガネ邪神へと目線を移した。
 瞳にハイライトのない一人のメガネの使徒が、うやうやしく胸に手を当ててメガネ邪神像へと膝を折る。

「メガネ邪神様。ネズミが紛れ込んでいたようです、いかがいたしましょう」
『ネズミなどと言うな、アレも我が同志たるべき者たちだ……今はまだ志を同じくしないようだがな』

 それを同志とは言わない。

 閑話休題。
 ともかく、メガネ邪神は続ける。

『最初はHP0.5という卵をぶつけられただけで死ぬ程度の力しかなかった私だが、諸君ら同志が増える度に増した信仰心により莫大な力を得た。
 後は機を待とうと思っていたのだが……こうなってしまってはな』
「では」
『うむ。
 ―――是非もない』

 なぜか本能寺っぽい台詞を吐き、メガネ邪神は宣言する。

『諸君! これより我々は戦闘態勢へと移行する!
 第一目標は全世界! これより我々は―――未来を侵略するための戦いを始める! 第一種戦闘配備、私も出るぞ!

 さぁ征くぞ。
 世界を変えるための大戦だ、皆存分にその力を奮うがいい―――!』

 勝鬨の雄たけびがその建物を揺らし、ゴゴゴゴゴ、と秘密基地っぽい地響きを上げながら廃墟がその形を変えていく。
 何人かのメガネ集団のメガネがキラリと光を放つが、それに気づく者はいない。

 ここに―――最も馬鹿馬鹿しいながらスケールの大きな世界の危機が、始まった。




33 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 20:53:06 ID:gPPxKVvH
 ***
 <幕間4・世界のあちこちから>


 ある高校の中で、五人の少女たちがある教室に閉じこもっていた。
 みな一様にサーモンピンクのセーラー服にボウタイ、小豆色のスカートの制服を着た、この学校の生徒たちだ。
 ショートカットの少女が、バリケードの向こうの今にも破られそうな扉をにらんで呟く。

「くそ、もうあんまり猶予なさそうだぜ」
「これ……」

 そう言って、一緒にこの教室に立てこもっている腰まである長い黒髪の少女がデッキブラシを彼女に手渡す。
 ショートカットの少女は満面の笑顔で答える。

「おぉ、さっすが榊。いざとなったらこれでぶちのめせってことだな!」
「で、できれば穏便に……」

 クールな外見に似合わず少し困ったように、長身の黒髪の少女―――榊は教室で見つけたモップを自分も手にする。
 なにせなりふり構っていられる状況ではなさそうだ。榊自身は乱暴は苦手だが、多少手荒になっても仕方がないと覚悟を決めたのだった。
 と、そこへその二人のプロポーションから比べるとかなり凹凸のない、肩までのストレートを伸ばした少女が話しかけてくる。

「なぁなぁ二人ともー、あっちでバケツ見つけたー」
「お前こんな時にバケツ見つけてどうすんだよ。両手に持って廊下に立つのか?」
「ちっちっち。神楽ちゃん甘いで、これに水入れて入り口にトラップとして仕掛けるー。
 するとー、入ってきた人たちがびしょぬれに!」
「すげぇ! 大阪お前天才かっ!?」
「あの、大阪さん。ここ水道引いてないから水くみに外に行かなきゃいけませんよ?」

 バカ二人の会話にツッコミをいれたのは高校生からすると並外れて身長の低いおさげ風味に髪を二つにくくった少女。
 彼女がそう言うと、大阪と呼ばれた少女―――本名は春日 歩という―――はあーそうかー、と今気づいたようにしんなりしながらバケツを片付けにいく。
 残されたデッキブラシ少女こと神楽は、今度は小さな女の子にたずねた。

「ちよちゃんは何かいいもの見つけたか? できればちよちゃんには天才らしく超ひらめきを期待してんだけど」
「一応チョークの粉とか見つけましたー。これを上からかけたりすれば目くらましになったりすると思いますよ。
 さすがに天井に張り付いてるような人はいないみたいですしー」
「おぉ、さすが天才。早速実行だ、榊ー!」

 わかった、と答える少女たちのなかで一番の長身な榊。
 彼女はすぐさま廊下側の窓のカギを一つ開き、チョークの粉投下。再び即座に窓を閉めてカギをかける。
 扉の向こうが密集した集団だったこともあってか、すぐにせきと悲鳴が蔓延する。
 その様子にハイタッチする榊とちよと呼ばれた女の子、美浜 ちよと神楽。チョークの粉を吸ったのかへーちょ、とくしゃみする大阪。


34 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 20:55:48 ID:uvlrRKhL
後方より支援砲撃を開始する

35 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 20:57:28 ID:XAR7/yqM
あずまんが組みか!支援

36 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:03:56 ID:gPPxKVvH
 彼女たちの様子を見ながら、もう一人の少女は複雑そうな表情で呟いた。

「みんな、ごめん……」

 彼女はいつもよりも低いトーンの声で、何かをこらえるようにそう言った。
 彼女の言葉に、ちよが首を傾げる。

「よみさん、どうかしたんですか?」
「どうかって……私のせいでこんなとこに閉じこもる羽目になっちゃったんだろ。
 みんなを巻き込んじゃって、本当に悪いと思ってる」

 さらに落ち込む少女―――よみに、ちよはうまくかける言葉が見つからなかった。
 クラスが同じ彼女たちが帰るために連れ立って歩いていたら、急によみが襲われた。
 その場は榊が襲ってくる相手を突き飛ばしたもののそいつはめげずに追ってくる上、次々と襲撃者の仲間が増えていく。
 だからこそ彼女たちは空き教室の一つに逃げ込んで、今に至る。
 襲われているのが自分だという自覚があり、いつも誰かの面倒をみることの多いよみだからこそ、彼女は誰かに迷惑をかけていることに人一倍重荷を感じていた。
 けれど。

「そんなこと気にせんでええよー、よみちゃん」
「そーそー。私ら友だちだろ、水くさいこと言いっこなしだぜ」

 ―――バカという人種は、そんな垣根をたやすく飛び越える。
 ウソをつくだけの頭のない二人の言った言葉は、紛れもなく心の底から出た言葉でしかありえない。
 そんな二人の言葉に後押しされるように、ちよが力強く続いた。

「そ、そうですっ! よみさんはともだちで、困ったら助け合うのがともだちです!」
「誰も迷惑だなんて思ってない」

 口数少ない榊も頷いた。
 仲間たちのはげましによみは自分が一人ではないことを実感する。
 鼻の奥がつんとするが、巻き込んだ本人が手伝ってくれている友人たちよりもいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
 それに、湿っぽいのは彼女のスタイルではなかった。
 水原暦は自分の日常を守るために、自分が非日常に連れて行かれないための 戦い(ていこう)を決意する。

「大阪、まだ長物残ってるか」
「ほうきが残っとるよー。ちょっと短いけど」

 大阪からほうきを受け取り、よみは襲いくるだろう扉一つ隔てた先の群集に意識を集中する。


37 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:04:50 ID:XAR7/yqM
木村先生が出てきたらやばくね?支援

38 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:06:47 ID:gPPxKVvH
 正直、怖い。
 足は小刻みに震えているし、心臓の高鳴りはストップ高。このまま際限なしに上がってしまいそう。
 けれど彼女は一人じゃない。
 自分を助けるためにこんなところに一緒にこもって、今なお助けようとしてくれている友がいる。
 彼女たちは自身が狙われていないから平然としているわけではない。
 自身が狙われていないからといって、扉の向こうの群集が向かってくる状態が怖くないはずがない。現に最年少のちよは顔を青ざめさせてすらいる。
 それでも彼女たちはよみのためにこの場所にいてくれているのだ。よみ一人が弱音を吐けるはずもない。

 どん、どん、と今にも破られそうな扉。
 5人の少女たちがそれぞれの抵抗の体勢に移行し、緊張が極限まで高まった、その時。


 ―――どごぉぅんっ!! と。廊下で何かが膨れ上がって弾け飛んだような爆音が轟いた。


 廊下側の窓ガラスがびりびりと震える。あまりの音に思わず5人が耳をふさぐ。
 爆音に混じってたくさんの悲鳴のような小さな声が混じるが、耳をふさいだ彼女たちには届かない。
 少女たちがショックから覚めるよりも早く、あまりにも無造作に、あまりにも唐突に。がらりと扉が開かれる。

 そこには、彼女たちと同じくこの高校の女子制服を着て、片手でとりまわせるスリングショットとバズーカの合いの子のようなプラスチックフレームを持った少女が一人。
 彼女はゴーグルを頭にかけなおして、にひひと笑った。

「ようよみ、大丈夫だった?」
「おまえ……遅いんだよ」

 この中の誰よりも長くからの付き合いの少女が現れたことで、緊張の糸がとぎれて笑ってしまいそうになるよみ。
 彼女にそんなところを見られるのは長い付き合い上後で絶対からかわれるとわかっているので不覚以外の何者でもないのだが、今の彼女にその笑みは止められそうにない。
 くせっ毛で、ついでに選抜委員のバッチと腕章をしたその少女―――滝野ともは、まわりを見渡しはっはっは、と笑う。

「私がいなくて心細かったみたいだねー諸君! さあ、この選抜委員のヒーロー、ともちゃんに惜しみない賞賛を送るがいい!」
「遅いぞこの役立たずっ!」
「神楽くーん、それが助けてくれた人に対する口の利き方かねー?」
「助けにくるならもっと早くに来いこの役立たずっ!」
「あれ、ホントにヒドくない?」
「あの……」

 ともと神楽とよみの口争に、物静かな榊が割り込んで廊下とは反対側の窓を指差す。
 窓の先には、機械の翼を広げた機械式の鳥が浮かんでいる。それには、ともと同じく選抜委員の腕章とバッチをつけた輝明学園の制服の少女が立ち乗りしている。
 ともは窓に駆け寄り、窓を開けた。

「こらともー! 屋内で使うのは14番までって決まってるでしょ、何を平然と20番代の属性付加射弾使ってるのー!?」
「あっはっはごめん間違えた」
「あぁもうっ……始末書、自分で書いてね。わたし絶対肩代わりしないから」
「えー、ユリ厳しくない? じんめいきゅーじょだぜじんめいきゅーじょ」
「自分でやったことでしょ。まったく、いくら友達が心配だったからって対軍勢制圧用の20番代後半使うなんて何考えてるんだか……」
「別に心配したわけじゃありませんー。よみの面白顔見たかっただけですー」
「ほほーう?」

 そう言い合っている中で聞き逃せない言葉を聞いたよみは、容赦なくともの頭をわしづかんだ。


39 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:14:51 ID:gPPxKVvH
 まったくもっていつものやりとりができるほどの心の余裕が生まれていることに内心苦笑しながら、よみはともの頭にアイアンクローを仕掛ける。

「そのために出待ちみたいなタイミングまで待ってたってかこの選抜委員のヒーロー(笑)様は?」
「うぉあああ、よみよみギブギブギブギブ! 頭が割れるよーに痛いんですケドっ!?」
「割れ。いっそのこと3階から地面に叩きつけられて割れ」
「容赦ないっ!? ちょ、みんなへーループー! みんなのともちゃんが今DIE・ピーンチっ!」

 そんなやりとりに苦笑するユリこと朱野ユリとちよ。そこだーやっちまえーと同調する神楽。おろおろしている榊と、仲ええなーとどこかズレた大阪。
 がたり、という音。
 廊下から聞こえたそれに反応し、ともはクラスメートの友だちに不敵に笑いながらサムズアップ。

「さーて、そんじゃあお仕事の続きといきましょうか。
 みんなユリの<コウノトリ>に飛び移って。ちよちゃんと大阪は榊ちゃんか神楽にでも抱えてもらいな」

 <コウノトリ>とは、選抜委員のために開発部が作ったエンジン付飛翼機関通称<フリューゲルシリーズ>の一つ正式名称『シュトルヒ』のことだ。
 小型級ながら運搬積載量が最大6人と同クラス内で飛びぬけて高い輸送機だ。
 なお、他にも中型強襲の花形<タカ>こと正式名称『ファルケン』や、小型低空飛行を得意とする<ツバメ>こと『シュワルベ』、
 夜間装備満載の<フクロウ>こと『オイレ』に、最大50名積載可能な大型輸送機<アホウドリ>こと『アルバトロス』などなど、さまざまな型がある。


40 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:16:09 ID:gPPxKVvH
 閑話休題。
 ともの言うことを聞き、5人が次々と立ち乗り式の白い機械飛翼へと飛び乗っていく。
 ちよが叫んだ。

「ともちゃんも早く!」
「あっはっは、何言ってんだちよちゃん。そいつは6人までしか乗れないんだよ。
 ほらユリ、さっさと行って。私も後から追っかけるから」
「了解!」
「ちょ、ちょっと待てとも! おまえはどうするんだよ!?」

 よみが叫ぶ。
 自分を助けに来てくれた友人が、たった一人で敵のど真ん中で取り残されるなんてあってはならないことだ。
 そう思って叫んだ彼女の声に、しかし一人残った彼女は笑顔で応える。

「心配ないって。聞いた話じゃこいつらメガネかけた奴にしか反応しないらしいから、私は何の問題もないの。
 それよりよみがここにいると真っ正直にまっすぐ進んでくるから私が逆に危なくなるんだよ。ほらさっさと行った行った」
「で、でも―――」
「あーもう、ユリ発進! あたしもダッシュでここから出るから!」
「はいはい。じゃあとも、後でね!」

 それだけ言い残し、ユリはすぐさま機体を浮遊待機から全速天駆へモード移行。
 推進剤を使い切りそうな全力加速。景色が目にも留まらぬ速度で前から後ろへ駆け去っていく。
 すでに高校は豆粒ほどの大きさに見えるほど。そんな中で、ユリは遅くなっちゃってごめんね、と後ろの5人に話しかけた。

「実はあたしたちも状況をきちんと把握できたのはついさっきなんだよね。
 なんでもメガネかけた人たちが操られて、仲間を増やすためにメガネかけてる人を狙ってるんだって」
「よく、事情はわからないですけど……それで私たちはどこに連れて行かれるんですか?」

 ちよの言葉に、ユリは力強く笑う。

「今いくつかできつつある避難所の一つ。
 選抜委員も含め、戦う力のある人たちっていうのは限られてるからね。逆に拠点を作って、そこに一般の生徒を集めてまとめて守っちゃおうって話なわけ。
 で、選抜委員はそこで拠点防衛するチームと一般のメガネ生徒を助けて運搬するチームに分かれて活動してるの」

 そこまで言って、ユリはくすりと思い出し笑い。

「大変だったんだから。
 ともってば指定された場所に行かなきゃいけないのに『よみの奴は重いから絶対他のみんなに迷惑かけてるんだ』って駄々こねてね。
 一刻も早くあなたたちを助けにいきたかったみたいで。
 仕方がないからあたしも一緒に指令飛ばしてくるインカム切って、ともの無茶に付き合ってるの」

 そんな話を聞いて、全部が終わったらとりあえずともをぶん殴ってから夕飯くらいはおごってやろう、と思うよみだった。




41 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:18:40 ID:XAR7/yqM
良いコンビだなあ支援

42 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:20:44 ID:gPPxKVvH
 ***


「如月、こっちだ!」

 ポニーテールの少女は、そう叫んだ友人に思い切り背中を押されてアスファルトをころころと転がった。

「って、トモカネあんたなんつー避難のさせ方すんの!?」
「大丈夫か、如月殿」

 栗色の髪のくせっ毛の少女がその光景にツッコミを入れ、ポニーテール―――キサラギと呼ばれた少女の手を黒髪ロングストレートの少女が取りながら案じる。
 あいたたた、と呟きながらキサラギこと山口 如月(やまぐち きさらぎ)は差し出された手をとった。

「だ、大丈夫です。ありがとうございますキョージュさん」

 ケガがなくてなによりだ、とその言葉に頷く黒髪少女。
 ちなみにキョージュというのはあだ名であり本名は大道 雅(おおみち みやび)という。仲間内では誰も本名で呼ばないが。
 如月にケガがなさそうだということで力加減を間違ったことを笑いながら謝るトモカネ。ちなみにこれは苗字であり友兼と書く。

「いやー悪い悪い、急がないとと思ったらつい」
「ついって、おまえ如月をアスファルトのでこぼこでおろす気か」
「大根おろしならぬ如月殿おろしか……」
「怖い想像しないでくださいナミコさんキョージュさんっ!?」

 半泣きでキョージュとくせっ毛少女・ナミコさんこと野崎 奈三子(のざき なみこ)に叫ぶ如月。
 そんな様子を見ながら、路地裏にもぐりこんだ仲間たちの最後の一人が駆け寄ってくる。

「ただいまー。みんな、ノダちゃんのお帰りだよー?」
「おうノダ、どうだった?」
「ダメダメうろうろしてるよ。もうちょっとで避難所なのにねー」
 
 明るい髪色の髪を派手に結っているその少女は野田 ミキ。
 彼女たちは、学校から5人で近くにあるという避難所まで移動するところなのだった。

 5人の学校は、授業終了間際大量のメガネの使徒によるメガネ狩り襲撃を受けた。
 ともかくそこから逃げ出した彼女たちは、どこからか雅が聞き出したらしい『この近くに避難所がある』という情報に従って移動している最中なわけである。
 運動の苦手な上、俗にいうトロい子な如月はしゅんとしてうつむいた。

「すみません、わたしがトロいばっかりに……」
「気にすんなってそんくらい」
「そーそー、いざとなったらトモカネが如月ちゃん背負ってくからだいじょーぶだいじょーぶ」
「ノダ。ちょっと膝突き合わせて話そうか」

 ノダの言葉に膝蹴り的な意味でという意味をこめてそう返すトモカネ。
 そんなやりとりがいつも通りの光景で、如月は少しだけ緊張をほぐされたように笑う。


43 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:24:58 ID:xXIj1PUH
をを、GAだ

44 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:25:31 ID:gPPxKVvH
 暴れる子どもたち二人を引き剥がしながら、最年長(といっても月単位レベルだが)のナミコさんがケンカを仲裁する。

「あーはいはい暴れないの。
 にしても困ったな、なんとかして避難所まで行きたいんだけどここで行き止まりか……。
 雅(マサ)、なんかイイ手思いつかない?」
「すまない」

 話を振られたキョージュはノータイムで返答。
 頭脳担当のあっさりとした希望を絶つ発言にめげそうになるナミコさん。
 そしてそこへ追い討ちをかけるように引き剥がされた子どもたちが口々にしゃべりだす。

「ねーねーナミコさん。空飛んでったらどうかなーとかノダちゃんは思ったりするんだけど。
 ほら、追っかけてくる相手ってみんな地面走って来てたでしょー? つまり海と空は安全なんだと思うんだよねー」
「ノダはほんとーに変なとこに観察眼があるな」
「そこは着目点が他の人と違うとかさっすがノダちゃんとか言ってほしいな!」
「はいはいエラいエラい。で、どーやって空飛んでく気?」 
「そうだナミコ隊長! 高いトコ上ってパラシュート降下すればいいんじゃねえか!?」
「誰が隊長だ。それでそのパラシュートとやらはどこで用意すればいいんだ?」

 そんなやりとりを横目に見ながら、如月があはは、と困ったように笑った。

「今日は空を見てる余裕がなかったから気づきませんでしたけど、そんなところに気がつくなんてノダちゃん、すごいです」
「でしょー。もっとほめてほめて」
「如月ほめなくていい。図に乗るから」
「あぁでも、空を飛べる道具みたいなものがあったら楽に移動できるんでしょうねぇ……」
「このような?」

 キョージュの声に振り向く如月。

 ―――そこには、空飛ぶマンタがいた。

 あまりのファンタジーな光景に口を酸素不足の金魚みたいにぱくぱくさせる如月。表情にまったく変化のないキョージュ。口をあんぐり開けて言葉を失う他三名。
 そんな衝撃事態についていけていない彼女たちに対し、さらにシュールレアリズムは加速度的に進行する。

「へぇ、こんなとこに女の子がごっそりいるとはね」
「マンタさんがしゃべりましたよ!?」
「空を飛ぶ上人語を解し発声する海産物。学園都市産か?」
「なるほど、さすがはトンでも科学学園だな!」
「これは今度の交換学生制度でGAに来るって生徒が楽しみだね!」
「おまえらどこまで本気なんだ。特に雅」

 ストッパーナミコさんの日ごろの苦労が伺える発言。
 そんなやりとりに興味を持ったのか、ビルの3階くらいの高さに滞空していたマンタはゆったりとした動きで降下してくる。
 よく見れば、そのマンタの背中には一人の少女がいた。思えばさっきのマンタの声は、このくらいの年頃の女の子の声だったようにも思える。


45 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:29:17 ID:gPPxKVvH
 よく見れば、そのマンタの背中には一人の少女がいた。思えばさっきのマンタの声は、このくらいの年頃の女の子の声だったようにも思える。
 制服は麻帆良学園中等部のもの。特徴的な触角のような髪が生えている頭。
 特注のものなのかフリルのついた前掛けと、脇にはスケッチブックと羽ペン。スケッチブックのリングには鎖で繋がれた丸フラスコ型のインク壺がある。
 少女は、あれ? と首を傾げた。

「その制服彩井学園の高等部だよね、おねーさんたち」
「おうよまほ中生。一人中学生みたいなの混じってるがな!」
「トモカネー、それはケンカ販売してるのかな?」
「よしなさいノダ。
 で、えーと一応聞きたいんだけど。空飛んで現れたあなたはゾンビの味方? あたしらの味方?」

 ナミコさんの質問に、少女はあっけらかんとした笑みで答える。

「ロボットと魔法使いと幽霊の知り合いはいるけど、さすがにゾンビとは知り合いじゃないね。
 私は麻帆良学園中等部3−Aの早乙女 ハルナ。おねーさんたちは?」
「彩井学園一年芸術科Aクラス、大道雅」
「同じくGA一年野田ミキちゃんだよー。ここ大事だけど高校生だからね! おねーさんだからね!」
「そこまで強調することかい。
 あたしは野崎奈三子。一応他も全員GAの一年だ」
「オレは友兼」
「山口如月です。みなさん如月って呼んでくれます」

 芸術科の生徒さん、と驚いたように目を丸くして、ハルナは動きを止めた。


46 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:34:47 ID:gPPxKVvH
 そんな彼女を胡乱げな目で見ながらナミコさんは問いかける。

「あたしたちは一応ゾンビ集団から逃げてきたとこなワケだけど、早乙女さんはどうしてまたそんな目立つもんで空飛びまわってたの?」
「へ? あぁ、その理由だったら簡単だよ。
 私はこの近くの避難所から来てるの。避難所の近くにはメガネゾンビがいっぱいいるから、自力で逃げ出してきた人たちが捕まっちゃいやすいんだよね。
 そんな人たちが捕まる前に逆にこっちで捕獲して、避難所まで安全に送り届けようって作戦なわけ」
「なるほど! つまり今の状況そのままってことだね!」
「ナイスタイミングだぜ。まるで映画みてーだな」
「パニックホラー系の映画では安心しきった時にこそ危機がくるのが定石だな」
「そういうこと言わない。ほんとにありえそうな気がしてくるでしょーが」

 ほっとしたのか軽口を叩く面々。
 そんな勝手な奴らを横目に、如月はハルナに話しかける。

「助かりました。私たちなんとか避難所に行こうとしてたところで……」
「なるほどねー。まーま、とりあえず乗ってよ。そろそろ気づかれちゃうだろうし、私も早く離陸しちゃいたいしね」

 と目線をGA組の後ろの方に向けるハルナ。
 そちらの方を見れば、空飛ぶマンタに引き寄せられたのか目の光のないメガネの学生たちがメガネ、メガネと言ってゆらゆら体を揺らしながら群れを成してきていた。
 現状を理解し、5人は奇声を上げながらぴょいぴょいとマンタに飛び乗っていく。
 最後の如月がキョージュとナミコさんに引きずりあげられ、ハルナがマンタを離陸させた直後。
 一人のメガネの使徒がマンタのしっぽを掴んで空へ付いていこうとし、

「お前はついてくんなっ!!」

 トモカネの見事なヤクザキック(一般的に言う前蹴り)を顔面に受け、彼は落下した。
 離陸直後だったためそれほど高さもない。あの分なら命に別状はないだろう。
 直後、マンタの羽ばたきが地面に風を叩きつけて揚力を得、上昇。風に打たれたメガネの使徒たちは体勢を崩してそのマンタを見送った。
 うまく空へ逃れられたことで安心したのか、脱力する一同。

「トモカネよくやった」
「すごかったよー。さすがは破壊神トモカネー」
「なんだよそのダメっぽいロボみたいなあだ名!?」
「わーっ!? ちょちょちょ、あんまり暴れないでここ空中なんだからーっ!?」

 マンタが搭乗者の動きに煽られぐにゃんぐにゃんと不規則に揺れる。
 そのせいで如月が放り出されかけるが見事にキョージュが彼女と飛びかけたメガネをキャッチした。
 しばらくして彼女たちはようやくおちついて息をつく。
 そうして下を見れば、いつもみんなと肩を歩く街並みがある。
 うわぁ、と如月が感じ入ったような声を上げた。

「すごいです……まるでモザイク絵みたい」
「あぁ、そういう風にも見えるよね。あたしもちぎり絵に見えるー」
「様々な色の建物が無作為に置かれている状態を俯瞰して観察することにより、何がしかの作為を見出そうという脳の補整機能の結果と思われる。
 ともあれ、これは壮観だな」
「眉一つ動かさず言われてもあんまり感動してるように思えないんだけど」
「そうか。これでも相当驚いているのだが」
「キョージュはあんまり表情出ないからなー」

 そんないつものやり取りの5人を見て、くすりとハルナが笑う。


47 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:35:28 ID:gPPxKVvH
「ほんとにおねーさんたち芸術科の学生さんなんだね」
「はい。……そういえば早乙女さんもスケブ持ってますよね。絵を描くのがお好きなんですか?」
「好きには好きなんだけどーこう、『げーじゅつ』って感じよりはもっと娯楽よりな感じ? 漫画家的な?」
「漫画家さんなんですか。漫画も構図とか人体把握とか動きとか表情とか背景とか、色々と難しい世界なんだって伺ってます」
「うは。そーゆー誉められかたするのは初めてだわ、さすがは芸術家の卵!」
「ちちち違いますそんな大層なものではっ……!」

 誉められて照れたハルナが誉め返し、一気に恐縮してしまう如月。
 そんな年上の少女を見て、ハルナは内心好ましく思う。どこか彼女がハルナの友人の一人に似ているところも好ましさに拍車をかけているような気がする。
 そのままごそりと前掛けのポケットの手をつっこんで、ふと気づく。

「ありゃりゃ、これはまたちょーどいいものが」
「どうかしました?」
「そのポケットが四次元ポケットだったことに気がついたとかー」
「ポケットを叩いたらビスケットが割れてたとかー」
「猫型ロボットなようには見えないが」
「昔懐かしい歌のモデルでもないと思うけど」
「あーいやいや。これから避難所に行くわけなんだけど―――おねーさんたちにもちょっと活躍してもらおーかと思ってね?」

 悪だくみした少女の笑みに、五人は揃って疑問符を浮かべたのだった。




48 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:35:47 ID:XAR7/yqM
メガネキャラ総出演記念支援

49 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:38:29 ID:gPPxKVvH
 ***

 高い外壁に囲われた避難所の一つ。
 航空手段のあるものたちは空へ駆けて避難民を集め回り、選抜委員や特殊なスキル・アイテムを保有する者たちはメガネの使徒の進行を防いでいる。
 具体的には、

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!」
「アネット・ティ・ネット・ガーネット!」
「「魔法の射手(サギタ・マギカ)・戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」」
「23番閃光弾と28番煙幕弾もっと持ってきてー! 奴ら視覚で認識してるから目潰しは有効みたいだよん!」
「みんな行くのだー! 奇めーん、フラッシュ!」
「……『トンネル』」
「イエス・アマゾネス!!」
「くっ、しまった。……うむ、こういう時こそ―――『猛虎落地勢』ー!」
「風神、突風くらいで出力調整!」
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
「うにうにうにうにうにうにうにうにうにうに―――っ!!」
「チェーンバインド! で、ついでにそっちにはストラグルバインド!」
「ゴム弾だから痛くないもん!!」
「まずケガをさせるようなもんを撃つなって言ってんだよ!?」
「オレ様の筋肉に酔いな―――<プロヴォック>!!」
「……『トンネル』」
「みんなー! そろそろみんなのアイドルLUNARちゃんの『戦いの歌』、はっじまっるよー!!」
「若はわたしが守ります―――呪いの吹雪・『雪山殺し』!」
「斬るしかできん奴はこういう時に役に立たんな……えぇい縛道の一、『塞』っ!」
「ふもっふ! ふもも、ふももっふー!」
「バケツマン二号、参上です!」
「知識の、ハンマぁぁぁぁぁっ!」
「食らえ真鍮ダイスー!!」
「をっほっほっほ!! わたくしが手ずから用意した即席ながらのトラップ地帯っ、抜けられるものなら抜けてみるがいいですわー!!」
「でたー! 星弓刻人のジャイアントスイングだー!」
「はいはい開発部謹製スタンロッドならぬスタン竹刀だよー。これで思うさま叩いて落としてきてね 珠姫ちゃん(きりこみたいちょー)!」
「……『トンネル』」

 ……とまぁ、こんな感じである。
 人が集まれば当然戦える人間も増える、のだが。
 対人殺傷力が高すぎる者はケガをさせずに足止めなんて器用なことができなかったりするし、攻撃一発が城塞破壊級の人間は論外。そもそも能力を隠している者もいる。
 ともあれ、そんな彼らは選抜委員の物資運搬の手伝いを進んでやっていたり、高い場所から人外視力で現状報告をしていたりもするのだった。

 そんな避難所の中にたどり着いた、空を泳ぐマンタ。
 ハルナは五人を避難所内部の一般生徒待合い場ではなく、前線に向かう人間たちの詰め所へと連れて行く。
 ちなみに彼女たちの様子はといえば、物騒な空気におろおろしっぱなしの如月。お祭り騒ぎに心浮かれるノダ。
 戦闘に目を奪われているトモカネ。胡乱げなナミコさん。無表情のキョージュと、見事に全員バラバラなのだった。


50 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:40:34 ID:gPPxKVvH
 ともあれそんな怒号が飛び交う中を一つのテーブルに陣取り、五人に座るよう促した後ハルナはしばらく席を外し、2分ほどして戻ってきた。

「おっまたせー! 作戦の許可取ってきたよん」
「いや、作戦とか言われても……正直、なんの説明もないから何をすればいいのかわかんないんだけど」
「はいっ! オレ尚敬高の士魂号に乗りたいです!」
「パイロット適正がない奴は黙ってなさい」
「なんだよ、ないかどうかは乗ってみないとわかんないだろー?」
「トモカネ殿。尚敬高校の生徒はこの第2避難所にはいないらしい。彼らがいるのは第5避難所だそうだ」
「そっかー、それじゃーダメだな。残念」

 そんなやりとりを見ながら、そのこと話したっけ? と内心首を傾げるハルナ。
 キョージュはここに来てから誰とも言葉を交わしていないがどうやってそれを知ったのか。
 ハルナの疑問を知ってか知らずか、如月が話の流れを変えた。

「あの、それで早乙女さん。私たちができることってなんでしょう?
 お手伝いできることならさせてもらいたいですけど、私たち特別な力があるわけじゃないですし、そんなに体力があるわけでもないですし……」
「ん? あーあー、なに言ってんのおねーさん。
 自分だけが持ってる『チカラ』、否定しちゃもったいないよ?」

 年下の少女がウィンク交じりに言った激励の言葉に、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる如月。
 そんな同級生の将来を不安に思いつつ、頭を押さえてナミコさんがたずねる。

「ただでさえあんまり自分に自信ない子だからそういうこと言ってくれるのはうれしいんだけどさ。
 結局なにができるかについては言ってないよな」
「ゴメンゴメーン。
 話は簡単だよ。おねーさんたちの『チカラ』、絵を描く力ってのを借りたいんだよね」

 そう言いながら、ハルナはポケットから(どういう理屈かポケットの方が小さかったのは気にしない方向で)現代人ならば誰もが見たことのある箱を取り出した。
 外装にはカラフルな絵といくつものえんぴつの絵が描かれており、かなりファンシーな雰囲気をかもし出している。
 空気が凍りついたように一瞬静かになり、如月がその物体の名前をつぶやいた。

「……色えんぴつ、ですか?」
「惜しい。正解は『魔法の色えんぴつ』なんだー」

 楽しそうにそう言って、ハルナは再びウィンクした。




51 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 21:43:29 ID:gPPxKVvH
 ***

『この色えんぴつ、描いたものが本物になって出てくるの。
 もともとはあるアーティファクトを研究してた開発部の人が手慰みに作ったおもちゃみたいな代物らしいんだけどね?
 本物と違って効果時間はだいたい10分。簡単な命令しか聞けない上、水がかかったらただの色水になっちゃう。
 けどね?』

「これを使って絵描きさんにたくさん絵を描いてもらえば、足を止めることはできるんじゃないかなってか。
 ……まったく簡単に言ってくれるねぇ、あの子」

 そうボヤいたのはナミコさん。
 五人は今、ハルナと別れて避難所の外壁の上に立っていた。
 今回の相手は『知性がないかのようにまっすぐメガネをかけた人間を追いかけてくるメガネの人間』だ。
 相手がどんな能力を持っていても、何かに意識をのっとられているように愚直なまでにまっすぐにただ前進するのみ。
 ならば、どんな単純な足止めでも効力は見込めるはず。
 ハルナはその『単純な足止め』を作る魔法の色えんぴつを彼女たちに貸し与え、自分は空飛ぶマンタに乗り、再び空からかくまえそうな相手を探すとのこと。
 トモカネがつぶやく。

「足止めできそーなものっていうと……虎ばさみとか?」
「ねずみ取りとか!」
「だ、ダメですよお二人とも。相手の方が大ケガしちゃいます!」
「鋼鉄の処女などはどうだろう」
「雅、足止めじゃなくて拷問器具の話になってるから」

 一通りのやり取りをすると、トモカネがなんだよー、と唇をとがらせて如月に反論する。

「じゃあ如月はなんか思いついてるのか? 相手を大ケガさせない足止めの方法」
「えぇっ!? あ、足止め、足止め足止め足止め……だ、ダメですっ!
 わたしこういう状況あせっちゃって何も思いつかなくなっちゃうんですよぅ……っ!」

 ものすごいテンパりを見せている如月の肩に、キョージュがぽんと手を置いた。
 キョージュさん? と首をかしげてそちらを見る如月に、表情ひとつ変えず彼女は言う。

「如月殿。デザインとは機能性と効果を発揮できる形であることが最優先事項だ。
 つまり足止めの効果が期待できるデザインを、この色えんぴつで描く。そんなデザインの授業だと思えばいい」
「で、デザインの授業、ですか?」
「そうだ。そしてデザインは日々の『気づき』の中から生まれることも多い」

 もしもこんなものがあったらいいのに、というアイデアは形になった時に同じことを考えていた人間に働きかける需要を生み出す。
 彼女たちは今、アイデアを形にしてくれる魔法の道具を持っているのだ、あとは創造して自分の心からスケブにひきずり上げるだけ。
 さっすがキョージュ、いいこと言うね。と言いながら、如月の顔をのぞきこみつつノダがその先を続けた。

「如月ちゃんはさ、何か『こんなのが目の前にあったら困るなー』って思うものない?
 歩く邪魔になったりとか、歩く意欲がなくなったりするもの。それを描けばいいんじゃない?」
「目の前にあったら、困るもの……」

 そう言われて、如月は日々の生活の中の困ったことを思い出し―――実に唐突にその答えにたどり着いた。
 如月の瞳からハイライトが消える。
 彼女がその答えに行き着いたと同時、ラグなしで駆け巡る衝動。
 内部を新しい機構が作り変えていくような感覚とともに、色えんぴつを握った手が頭と直結するように滑らかに動く。


52 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:45:21 ID:XAR7/yqM
色々頑張ってるなあ支援

53 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:51:32 ID:pXpIGS6C
ちょ、トンネルw 支援

54 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 21:52:35 ID:pXpIGS6C
sage忘れ失礼っ(汗) 改めて支援!

55 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 22:00:06 ID:gPPxKVvH
 そう。まさにその身は今、ただひたすらにその絵を描くためだけに作り変えられたただ一個の製造機械のように―――!

 超高速で動く如月の指先から生まれたそれは、スケッチブックからぴょん、と飛び出す。
 それをあっけにとられたように一同が見ている中、そいつは一言……『にゃあ』と鳴いた。 
 鳴いたそいつを見て、ナミコさんがつぶやく。

「えーと、これって……」
「『素猫(すねこ)』、じゃない?」
「素猫だろうな」

 答えたのはノダとキョージュだった。
 『素猫』。
 もともとは漢字の読み間違いから始まった如月の想像上の生物であり、内情はただの猫である。
 キョージュがさらに解説に動いた。

「おそらく、如月殿が街を歩いているときに猫が見えたらそこで足を止めてしまうことにヒントを得たのだろう」
「いやでもこれでどーやって足止めを……」
「意外と効果が出ているようだが」

 そう言ってキョージュが指す先には、如月が秒間3匹くらいのペースで生み出し続けている素猫が、雪崩のように群れを成してメガネの使徒を襲っている光景があった。
 襲っている、といっても噛み付いたりしているわけではない。
 群れでとびかかって視界を押さえたり、ざらざらした舌でなめたり、動きを押さえつけて止めたりしているだけである。
 メガネの使徒の最大の武器である『数』を、簡素な絵でも圧倒的な作画ペースで凌駕しているわけなのであった。
 うぉぉ、とトモカネがうなる。

「如月、あれ完全に量産体制に移行してるぞ。トランス状態のあいつってある意味最強なんだよな」
「トモカネトモカネー、あたしも思いついたよー?」

 と言いながらトモカネの隣に立っているノダがスケブに色えんぴつの原色ピンクを走らせる。
 ノダちゃんパッションフルール! と言いながら彼女が色えんぴつをスケブから離す。
 そこから大量のド派手なパッションピンクカラーの花びらが噴出し、波のようにメガネの使徒たちを飲み込んで押し流した。


56 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 22:00:55 ID:gPPxKVvH
 それを見て創作意欲が刺激されたのか、トモカネも一本の色えんぴつを手に取る。

「負けねーぞノダ! どっちがいっぱい足止めできたか勝負だ!
 食らえオレの魂の足止めマシーン……『地獄の自動千本ノックアタッカー』!」

 そう言った彼女のスケブからにゅるんと生まれたのは、野球盤のバットとピッチングマシーンを合体させたような代物だった。
 ななめ下から軽くピッチングマシーンが放った硬球を、バネ仕掛けのバットが勢いよく打ち抜いて球をがんがんとメガネの使徒たちにぶち当てていく。
 そんなカオスな光景を眺めながら、ナミコさんがタメ息ひとつ。

「ノってるなぁ……ま、こういう時にはあいつらの暴走も心強いんだけどさぁ、よっと!」

 と言いながら、彼女は自分のスケブにさらさらと描いたトリモチで数人の動きを封じ、金だらいを上から出現させて昏倒させる。
 彼女もこれでけっこうこの状況を楽しく思っているようだ。
 創作物が形を得て誰かに影響を及ぼすのを楽しく思わない製作者はいないということだろう。
 そんな、実にカオスな空間になっていくのを楽しく思いながら、ふとナミコさんが隣のキョージュに目を移すと。

 ―――彼女のスケブからは、それはそれはおどろおどろしい粘性の黒い黒い光の一点すらも通さないほど黒い塊がずるりずるりと這い出るように―――

「ま、雅ーっ!? おま、これ、一体ぜんたい何を生み出したんだよっ!?」
「……これほど大きなものになるとは思わなかったが、なかなかいい出来だな」
「納得してないで説明をっ!
 てゆーか黒い色えんぴつもう長さ半分になってるしっ! あの名状しがたいナニカを作るのにどんだけ消費したのアンタ!?」

 花びらと猫と硬球と黒い何かがあふれかえる大変カオスな空間の中、ナミコさんの叫び声が響き渡った。



57 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 22:01:44 ID:QK3xNOJ+
なんか想像上の生物とか言われると独特の破壊力があるな支援

58 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/02(土) 22:03:46 ID:gPPxKVvH
 ***

 たくさんの人々が、己の友を守るため、自分の仲間と共にあるため、自身の信念を貫くために、メガネの使徒の大攻勢を押しとどめている。
 その抵抗はけして無駄ではないだろう。
 しかしそれも時間稼ぎ以上のものにはなりえない。
 いかに戦う力があろうとも、相手は理性がない代わりに痛みも感じない。
 避難所に集う守護者たちはと言えば、どんどん増えていく守るべきものを守るために境界線を死守せねばならない。
 それはつまり、相手を一歩も線より先に進ませない覚悟を持った消耗戦。
 線を構成する内の一点でも崩れれば、必ずそこを狙われる。
 底が見えてくればくるほど重くのしかかるプレッシャー。
 いつになったら終わるのか、というゴールの見えないマラソンをさせられている感覚は、その圧力をさらに重く感じさせる。

 重くなった気がする体に鞭打ち、一人の選抜委員がその重さを空へと吐き出すために上を見上げ。
 思わず、息をつくのも忘れて見つけたものへの驚きが声帯を振るわせた。

 上空。
 文句のない蒼穹を引き裂くように。
 青白い光が、軌跡を残光に引きながらただ一直線に伸びる。伸び続けている。
 見つけたそれが、まるで全ての重さを引き受けたかのように感じた。
 全てのプレッシャーを引き受けて、その代わりに希望と燃えるように戦う意思を振りまいているかのように。

 そうして、選抜委員は再び戦場に戻る。
 あれが出たのならゴールが近いと確定したと言わんばかりに。
 乾いた笑いを皮肉気な笑みにのせ、湧き上がる高揚感と共に。
 あれが。
 あれこそは世界の敵の天敵だと。
 それと共に同じ敵に相対していることに歓喜と魂からの武者震いを感じながら。


 ―――抵抗は、今も続いている。


 <幕間4・了>


59 名前:夜ねこ:2010/01/02(土) 22:04:52 ID:gPPxKVvH
 パソ子が代替わりしました(挨拶)。
 起動のあまりの速度差にベルが九話で言ってた台詞を毎回吐きそうになります、ども。夜ねこですー。
 どうにも間に合いそうにないなぁ……と思いつつ、なんとか本編だけでもきちんと投下しようと(つまりエピローグは後回し)頑張ってみてます。

 ではではレス返しー。

>>15
 >>16へ進め。なんてね。
 禁書は次巻が超楽しみッスね。かまちー、ヘヴィーオブジェクトの続きマダー(マテ)?

>>16
 正解ですー。
 むむむ、ゲーム作ってくださる方がいるならまじめにシナリオ書いちゃいますよ?

>>17
 今日は路面凍結でしたよ。二輪マジ怖ぇー。
 好かれてるキャラを嫌いにさせたりしないよう、頑張っていこうとおもっております。ありがとうございます。

>>18
 ……乞うご期待?
 まぁ、出なかったなら出なかったで今回投下分の違う避難所にでもいたと思ってくださいませ。

>>21
 まゆりんは……活躍させようと思うとどうにもかませになっちゃいがちなんですよねー。
 でもいつかは書いてみたいなマユリメイン話。


 今回の話。
 とりあえずネタと一般人の頑張りと活躍。以上。
 ……いや、ちょっと前にメイド定義大戦の話になった時に「メイドキャラあんまり知らないから書けないなー」と思った後、
 「あれ、メガネキャラなら意外と書けるんじゃね?」と思った五秒くらいの閃きが元ネタ。
 メガネキャラ、実は大体の学園ものに一人は必ずいるんですよね。
 ちなみに最近読んだからケンイチ勢とかも出せるかなと思ったけど、今回の戦いにはあんまり向かなかったんで書けなかった。ゴメン。
 他にも志貴っちとか葛木センセとか風斬とか……一撃死系キャラが出せるはずもなく。ごめんよう。

 次回。
 寄り道から本編へと戻り、ついにその姿を学園世界にさらすメガネ邪神(仮)。
 新八は、そして学園世界の住人たちはこの危機にどう立ち向かうのか? そして役立たずになったノーチェは自分の存在意義を確立できるのか(違うだろ)!?

 ではでは、またお会いしましょう。

60 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 22:08:54 ID:pXpIGS6C
あいかわらずGJでした! 続き楽しみにしてます!

61 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/02(土) 22:12:53 ID:zyRyIgmm
アチャラカ・スチャラカ・チャーラン・ポーランさんが学生だった頃ってどんなだったんだろうなー。
教授に迷惑をかけまくってたらしいが。


あとさー。ファンタジーでメガネっていうとトイレで使うものじゃね?

62 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/03(日) 09:39:24 ID:TH+9C7HM
>>61
エルフを狩るもの乙www

63 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/03(日) 19:39:00 ID:dWoqPqrc
メガネGJ!! なんと素敵なバカバカしさ(褒め言葉)!
Notメガネ'Sの友情もいいなぁ。知らない作品があっても楽しめるのはありがたいです。

このノリだと妹大戦や先輩大戦、部長大戦とかも起こせそうですなw

64 名前:夜ねこ:2010/01/03(日) 21:04:58 ID:9HtYdT52
 申し訳ないですー(土下座)。
 一応時間作りつつ書いてはいたのですが、やっぱ無理があったようで……(汗)。
 三が日に終わらない、というか今日の分の投下はない上に完結編投下はもうちょっと先になりそうです。
 たのしみにしてくださっていた方、ほんとにほんとに申し訳ありません。
 絶対に、次回ふぃあ通更新よりは早い投下を約束します。うん。絶対。夜ねこ無茶しない限りは嘘つかない。
 では、投下の際にお目にかかりたいと思います。

 ……待っててくださる方がいるかはわかりませんが。

65 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/03(日) 21:57:13 ID:dWoqPqrc
>>64
お疲れ様です〜。
投下してくださるだけでありがたいので、無茶はなさらぬようお願いします。

いつまででも待ってますよ〜

66 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 01:07:29 ID:hA0t2dnl
>64
兆<無茶して体調を崩すぐらいなら、無茶しない程度にすれば良いと何度も言ったよなぁ…

という訳で無理せずにそっちの都合の良い時に投下すればいいと思うんじゃよ〜

67 名前:嘘予告:2010/01/04(月) 17:10:19 ID:hddcz1s+
「守護者代行赤羽くれはさん、これからするお願いにはいかYESで答えてください」
「はわ!?」

―――それは、守護者アンゼロットから始まった。

宇宙に数多ある挟界の1つにして恐るべき冥魔『情報の海(ソラリス)』
世界そのものであり、いずれ全てを飲み込む“海”となることを予見されたこの冥魔の破壊方法…

「近年の、偶発的な異世界との接触。それにより混沌そのものであった『情報の海』に恐ろしく強大な、
 されど倒すことのできる形を与えられてしまったのです。しかし…」

異世界の戦いに赴いた守護者の残した手紙…場合により遺書となるそれはくれはに語る。

「情報の海には、本来の、肉体を持ったウィザードでは挑むことはできません…
 もっとも、だからこそ直接わたくしが赴き、倒すつもりだったのですが…
 こうなっては仕方ありません。ロンギヌスとわたくしの血と汗と涙の結晶。
 くれはさんに託します。お願いします。それを使い、『情報の海』を倒してください」

その言葉と共にせり上がって来るのは…

「転生済みLv100。スキルも装備も超一流のものをそろえました。IDとパスは…」

一台の、ハイエンドパソコン。

情報の海。全てが“情報”によって構成された冥魔であるそれを倒す方法はただ1つ。
それは同じ“情報”で構成された“キャラクター”によって倒すこと!

「ちょ、ちょっと待って!私、ゲーム苦手なんだよ!?」
「…と、くれはさんなら言うと思ったので、案内役のウィザードを用意しておきました」
「はわっ!?準備良すぎ!?」

「お姉ちゃん…いい加減にしなよ。最近ず〜っとプレイしっぱなしじゃない!?」
「ううん。違うの…これは、お仕事」
東京秋葉原のとある民家。
そこでアンゼロットより依頼を受けた、1人のウィザードが立ちあがっていた。彼女の名は…
「行ってくるね。京介くん…」
夢使い、要ねがい。

「それと、情報の海が具現化した世界には多数の異世界の“プレイヤー”がとらわれているようです。
 彼らの協力を得てください。1人で勝てるほど、奴は甘くありません」

そして、世界の守護者代行と…

「ね〜IR…ここ、どこ?」「み、みどもにもさっぱりであります!」
「フム…出られなくなったか。これは言うなれば“無色”の多元宇宙版だな。実に興味をそそられる…」
「ぬう!?エクスカリバーたるわらわを『とらえる』とはなんという世界!
 久方ぶりにわらわのゲーマーの血が燃え上がっているのじゃ!」
「で、京介くんたちはどこにいるのかしらね?ベアちゃん、分からない?」
「…さあね。ログアウトも出来ないみたいだし、地道に探すしかないわね」

情報の海に囚われた『プレイヤー』たちの、地獄のような『ゲーム』が幕を開ける。

NW多重クロス『電子世界の守護者たち』

公開未定。

68 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 17:16:08 ID:hddcz1s+
…しまった。立川の救世主様も入れておくべきだった。

69 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 19:09:35 ID:2PcvSa+l
つまるところMMORPGの世界が舞台なのか?
ゲーム好きとされるベル様の介入もきになるところ

>ロンギヌスとわたくしの血と汗と涙の結晶
ちょっと待てwえ?ロンギヌスまで?(笑

70 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 19:48:16 ID:DZvhsMP5
昔の偉い人は言いました。
24時間 戦えますか?と


71 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 19:54:32 ID:hddcz1s+
>>69
ふっ…『超一流の装備』がフルでドロップするまで頑張ったのは誰だと?

>ベル

ベル 「ちょっとお!聞いて無いわよ!?この世界に写し身で入ると物凄く弱体化するなんて!」(作成したてLv1)
リオン「だってえ。聞かれなかったしぃ?」(電子データ化済みLv100)

何故かこんなシーンが頭に思い浮かんだw

72 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 20:04:47 ID:1gPJjVEf
>>67
GJ。なるほど、NWならこういうのもあり、か。
ネトゲ引きこもりキャラが多いNWならではだのぅ。主に英魔様的な意味で。
とりあえず長門引っ張ってくればあっさり解決できそうだなw

しかし、混ざってるのに違和感なさ過ぎてツッコみづらいぞ伝説の剣の聖女と夢魔ww

>>71
リオン様マジパネェww

73 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 20:05:31 ID:DZvhsMP5
   ∧∧
  (*゚ー゚)  < さがるまおうってわけね!(笑)
  /  つ
.〜(__)
パール・クール

74 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 20:08:55 ID:vg3/eOQH
>>72
いやいや、あっさり解決したらこう、物語的にまずかろう

75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 20:12:23 ID:uA7D+c0C
>>74
いやいや、72は「長門どうにかしないと物語にならねーぞ」というアドバイスなんだよ。



76 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 20:52:12 ID:bSQmym4i
そもそもこのクロスはおそらく学園世界レギュじゃないということにツッコむべきか?

77 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 21:14:00 ID:syUHGMlZ
>>67
モルガン様キター!

78 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 21:21:15 ID:oOowILeQ
そういや侵食率無視して2キャラ使ってて魔王落ちしたきくたけキャラもいたな<ネット世界

79 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 21:30:38 ID:LF4kAqLx
従者が仮面の美少女「カガリ」なシェフィールドさんか
元の言動がアレすぎる上、非プリズナーにとっては仮想現実に過ぎないんでジャーム化しても困PLにしか見えないという……

80 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 22:28:33 ID:DZvhsMP5
>>76
そもそも学園レギュなのか?

81 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 22:50:39 ID:pmphQ4PT
新たなレギュ、混戦MMO世界だな。

82 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/04(月) 22:51:41 ID:nInG7+MV
>>80
んー、>>76は「>>67は学園レギュじゃないじゃないか!」って言ってるんではなく、
>>72>>75に「学園世界じゃないのになんで長門でるんだ?」と言ってるんじゃね?

83 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 00:34:17 ID:iglpQdwC
電脳関係のクロスか…。
なんか、懐かしいコレクターユイが混ざってたな(笑)

84 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 00:46:41 ID:TpGW4ay1
>>76
そりゃ理解してるよw
だが長門が学園世界じゃないと出られない訳じゃあるまいww
部長氏がぞろネトゲにはまって〜とか、理由は考えられるわけだしw

85 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 09:11:26 ID:muaaNSRC
これはグリッドマンとカーンデジファー様(容量フロッピーディスク1枚分)の出番だな。

86 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 16:12:40 ID:7o2WQRYs
.hackにロックマンエグゼにデジモンにネットワーク冒険記バグサイトも忘れてもらっちゃ困るな!

特にデジモンはクロスさせやすいと思う。コンピュータがあればおkだし。
個人的にベルのパートナーはオメガモン。
最強クラスなんだけど、初登場時以外は……な扱いの者同士お似合いじゃね?

87 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 17:33:48 ID:iglpQdwC
おいおい、電脳冒険記ウェブダイバーを忘れてもらっちゃこまるぜww
アニメじゃ格好いいのに、CGじゃ格好悪いグラディオンとかな。

あとはゼーガペインか?
あれも電脳の住人だったっけ。
機体はリアルの物でしたけど。

88 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 19:33:51 ID:vK0Tc8rk
クリス・クロs……

いや、なんでもない。

89 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 20:03:02 ID:TpGW4ay1
バーチャロn・・・・いや、流石に無いかw

90 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 20:09:05 ID:UNSink3B
8マンネオは
データ空間上に意識を投影出来てだな
と主張してみる

91 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 20:49:34 ID:w4dc35tL
MMOに限ろうぜ、せめて。卓ゲ者が多いここでWEBの話だと、N◎VAやメタへ、やぬたんの話が出てきて
終わらなくなる。

92 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 21:06:40 ID:EUXXhHLR
>86
ベルにはベルゼブモンがいるだろう

93 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/05(火) 21:14:34 ID:D5pJwOy9
ついにレオモン軍団結成の時か…

94 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 13:04:38 ID:XNijMVnL
>>92
なんか混ざって、10歳くらいの姿で子供達に両腕ひっばられ家出し、大人モードでバイクに跨がり銃ぶっ放すベルが浮かんだ。

個人的には無問題

95 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 20:14:52 ID:idDkQ1Fx
>>94
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=big&illust_id=6626689
この絵面でベル様想像しておっきした

96 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 21:25:28 ID:k64G+ip7
書類の山にハンコを押しながらPCを操作するくれはが浮かんだ
そして朦朧とする頭でうっかり灯の差し入れお握りを食べてしまいダウンw

97 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 21:32:56 ID:a9nr3n5w
電脳空間なら、ヴォカロの初音ミクとか、ツインシグナルのオラトリオとか・・・

98 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 06:08:11 ID:YxXIN07U
ふと、ルーがアゼルにアゼルの力で荒廃しないパソコンを与えたら、ずっとやってそうだという電波が飛んできた。

99 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 09:30:55 ID:2yTp1G4C
携帯でもポチポチと一日中ずっとやってそうだな

そして、遊んでもらえなくて不貞腐れるベルw

100 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 20:19:41 ID:EpOgAwZx
>>99
そしてネットで何故か友情を深めるねがいとアゼル
しかしねがいのキャラは男。
アゼルの中でまだ見ぬ"男性"への憧れが膨らんでいくのだった・・・・


・・・・ここまで書いて気がついた。これクロスしてねぇorz

101 名前:罵蔑痴坊(偽):2010/01/07(木) 21:42:29 ID:9+MOLoU1
ただしゲームはMMO『ダブルクロス』で。

102 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 22:01:49 ID:YSmvfjDi
>>71
まさか00が目隠ししてるのは
眼を保護したり、充血するのを隠す為か!?

103 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 22:15:36 ID:YxXIN07U
>>100
それを「あらあらうふふ」とばかりに見守る某剣の聖女(笑)

104 名前:真祖ブラストハンド:2010/01/07(木) 22:49:17 ID:sxnQ3aIk
「誰かわらわを呼んだか?」

105 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 21:24:59 ID:lQ/2lGMu
>>103
それだと途中でベル様とベアちゃんというややこしい名前のコンビが誕生するぞw

106 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 00:04:58 ID:LHGRYQ6h
ベム、ベラ、ベロ、ベルの一家四人が活躍するホームコメディ風クロス

107 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 00:32:05 ID:v/ZauALo
他にも、ベア、ベガ、ペク、ベタ、ベナ、ベニー、ベーブ、ベベなどが登場します

108 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 08:29:48 ID:YIxQsGKr
>>103
「あ〜もう!なんだってそんなスキルばっかり覚えようとすんのよ!?
 だからそれは強いけど外したら終わりのネタコンボだって言ってるでしょ!?」
「ネタじゃなくてロマンよ!リスクがあるからゲームは面白くなることくらい理解しなさいよ!
 さっきからアンタが勧めるのって強いだけで面白みがないガチスキルばっかじゃない!」

「ほらほら。ベアちゃん、落ち着いて。最悪振り直しすればいいんだし、とりあえずベルちゃんの好きにさせてあげたら?」
「ベル。落ち着いてください。そのコンボはあと20はレベルを上げないと使い物になりません。
 今のところはくまっこさんの言う通りの成長でいいのでは?」

こんな感じか?

109 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 08:33:27 ID:YIxQsGKr
>>105だったorz

きっとベアちゃんとベルは割と根本的なところで趣味が合わないと思う。

110 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 09:23:14 ID:+XCUcEir
ゲーム性の相違で解散かw

111 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/10(日) 05:44:40 ID:LwdOBrs9
そういやさ、αトランスが学園世界にあったら手出したりする奴結構いるのかな?

112 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/10(日) 06:13:57 ID:9YNArW21
ジャーム化の危険を公表しといた方がいいんだろうな。
周り中に超人がいる環境じゃレネゲイドウィルスの存在隠す意味もなさそうだし。

御手軽に超人になれるといえば、デモンパの悪魔寄生体もそうだけど、あれは
株分けすると元が弱まるから分ける方が嫌がるだろうな。
エキドナがいれば別だが。

113 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/10(日) 07:04:23 ID:hiIDWfvd
αトランスって、効くのはキャリアーだけなのか、それとも非キャリアーにも効くのか。DXの基本ステージは感染率120%のせいか、その辺の記述が見当たらぬでゴザる

それ次第では、レネゲイドの感染力と学園世界のキャリアー率をどう設定して書くかなんてのもネタになるな
まあ、多重クロスの舞台である以上、「全員キャリアー」てのもちと問題があろうが

114 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/10(日) 09:30:27 ID:BmT9tvlA
なんとなく

能力:異世界抗体
・自分の属する作品世界以外の異世界に存在する病魔・ウィルスそのほかの侵食・感染
を自動的に拒む能力。ただし、GMの任意で、それを無効化してもよい。

ってな感じの自動発動スキルを全員標準装備してそうだなーとか思った

115 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/10(日) 21:34:32 ID:30s3gw5+
レネゲイドウィルスは東洋のお茶で防御。

116 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 00:03:46 ID:q9xbRBRH
カテキンすげぇ

117 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 01:31:17 ID:TPrP7HG0
キチン質のカニアーマーがあるんだから
カテキンの緑茶アーマーや、カトキチのうどんアーマーがあったって良いじゃない

118 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 01:57:57 ID:Aey1eORK
カトキチ社名変更の裏にはエミュレイターの企みがあったのか……

119 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 02:18:46 ID:TPrP7HG0
テーブル○ークRPGですね

120 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 10:33:23 ID:KRwFEOJx
サトウのお餅アーマー・・・・
丸餅ころころ・・・・

121 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 13:00:47 ID:gpiNSlAn
そういやさ、BFL団にとって学園世界ってベルと机を並べられるって意味で理想郷じゃね?

122 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 13:10:55 ID:5yBEgsDP
通常の輝明学園だって常に一人は移し身が通ってるんだから別にそこまででもない気が…

123 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 13:14:26 ID:WpAlZhlR
移し身だと正体隠していると思う
学園世界だと公然の秘密になっているだろうからまた違うんだろ

124 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 13:36:41 ID:gpiNSlAn
異世界の同士も出来るかも知れないしなw

125 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 17:59:26 ID:DDPpU0n/
そういや
>>67
だと
ここぞとばかりにベルに加勢して好感度上げようとする
BFL団続出なんだろうか

126 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/11(月) 20:46:15 ID:q9xbRBRH
前スレ埋め完了、お疲れやろうども

127 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/12(火) 03:35:25 ID:u4xzlQcn
お疲れッス!

128 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 02:44:49 ID:Rm5Bzir6
こんな時間じゃ誰もいないだろうけども、投下できるだけしてみますかねっと。

では、お待たせしました約束の完結編でーす。

129 名前:ぐらすうぉーず:2010/01/15(金) 02:46:06 ID:Rm5Bzir6
 ***

 新八は走っていた。
 途中から崩れ落ちる建物の中を、一心不乱に走っていた。

「……今日はもうフルマラソンくらい走ってるような気がするな」
「その感想には実に同意ですけどっ、口を動かすヒマがあったらその分足を動かすべきだと、思いますっ!」

 その割には長台詞を叫びまくりながら走り続けているわけだが。彼のツッコミ魂に乾杯。
 そんな新八を横目で見ながら、男子の全力疾走についていっている穂群原学園陸上部所属の氷室は、こんな時もアイロニーなブラックジョークを忘れない。

「知っているかね? マラソンは結構死亡率の高いスポーツなのだそうだ。
 ひとつの大会で4人が死んだなどという話もあるそうでな」
「なんで今!? なんで今『本当は怖いマラソン』話!? それ今本当に必要なことかちょっと考えましょうっ!?」
「今やっていることの危険性を確認するというのは、危機管理上実に大切なことだぞ」
「そんなこと考えてるヒマがあったら足動かせってんですよォォォォ!?」

 崩れていく音は頭上から。
 まるで鳥の雛が卵の殻を破るように。
 がつりがつりと重く硬い音と共に建物に激震が走っていく。
 コンクリートのブロックをなんとか回避しながら、半分回転レシーブ的な転がり方をしながら入り口から出た二人。

「で、出たっ!」
「何を安堵の息をついている、こっちだ!」

 氷室が言うが早いか新八の手をつかんで引き寄せる。
 刹那の差で鉄筋コンクリが地味メガネの背後を落下しアスファルトの舗装を砕き崩した。

「まだ終わっていないぞ、走れ! これはおそらく……」
「こ、これはおそらくなんですかっ!?」

 言いながら、新八は再び自分の足で地面を踏み蹴った。
 氷室はメガネを上げながら、額に汗を浮かべながら、不敵に笑って一言答えた。

「特撮の悪役お得意の、『ボスの巨大化』というヤツだ」

 氷室の言葉が新八の耳から脳に届くよりも早く。
 けたたましい轟音をまきちらしながら、建物の瓦礫という瓦礫が降り注いでくる。
 雨とかあられとかのレベルではなく、人間以上のサイズの破片すらもが落下してくる。
 逃げる。必死で逃げる。
 当たるどころかかするだけで命に関わりかねない。そんな直接的かつ物理的な死の雨から、命の危機から必死に逃げ続ける。
 粉塵がもうもうと立ち込めて視界が奪われる。
 それでも必死に逃げ続け、落下によるものと思われる振動がなくなった頃、力尽きたこともあってようやく二人は足を止めた。
 息を吸い込みたいものの、粉塵が正常な呼吸を阻害する。
 咳きこみながらもなんとか息をして、粉塵が薄くなるのを待っている二人。
 そして、薄くなる煙の向こうに『それ』は現れた。


130 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:47:11 ID:Rm5Bzir6
 顔は象。四つの腕を持ち、とがった耳の生き物に乗り、キャスケットのような帽子にちょんまげのようなアクセントをつけ、インド風の衣、そして―――メガネ。

 先ほど彼らがメガネの使徒の集会場で見たメガネ邪神像が、先ほどまでいた建物を崩しながらその巨体を現したのだった。

「まじでかァァァァ!」
「現実を見ろ、現実を」
「いや驚きましょうよ氷室さん! なんでそんな落ち着いてるんですかアンタ!?」
「さすがに巨大化はあまり見ないが、報道委員なんぞをやっていると大抵の事態には耐性がつくくらい見慣れてしまうものだ」

 何気にボケ殺しの集団なのかな報道委員って、と内心で新八が思っていると、巨大メガネ邪神像が動いた。
 四本の腕を器用に組み、体に見合う大きな音で声を出す。

『学園世界の諸君。
 お初にお目にかかる、我が名はメガネ大邪神!
 偉大なる メガネ王国(グラスキングダム)を築くため、この世界をメガネ色に染めつくすプロジェクト・グラスワールドの頭目である!』

 それは、宣戦布告だった。
 自分が世界の敵であるということをこれほど堂々と世界中に対して宣誓した世界の敵も類を見ないだろうな、とどこか他人事風味に思っていた氷室。
 その隣で、新八がとんでもない量の汗をかきながら、ぽつりとつぶやいた。

「……あの、氷室さん。僕マズいことに気が付いちゃったんですけど」
「ど、どうした志村。その汗の量は割と尋常じゃないぞ?」
「僕ら、結構必死に逃げてきちゃいましたけどあの中に、たくさん人いましたよね。下手したら今ので……」

 尋常じゃない量の汗をかきながら新八は途中までで言葉を飲み込むものの、その先についてはすぐに氷室も思い当たり血の気が引く音が聞こえるような錯覚を起こした。
 人間サイズなどゆうは超えるだろう瓦礫すらが降り注ぐ崩壊の只中にいたのだ、その中の人間が無事なはずはないだろう。
 と、その時不意に予想外の声が割り込んだ。

『なんとも心優しい少年だ。同じメガネを愛する者として鼻が高い』

 意外にも優しそうな声音でそう言ったのは、巨大メガネ邪神像……もとい自称『メガネ大邪神』であった。
 そんな方向から声をかけられるとは思っていなかった新八が奇声をあげながらびくりと身を震わせる。
 新八の様子を気にした様子もなく、メガネ大邪神は相変わらずどこから声を出しているのかわからない構造ながらも言葉を続けた。

『安心するがいい、少年。
 我が神兵、<メガネの使徒>たちは常に私とともにある』

 そら、と一言呟く。次の瞬間、メガネ大邪神を守るように囲んだ、万に届こうかという雑多な服を身に着けた統一性のないメガネの人間が現れた。


131 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:50:33 ID:Rm5Bzir6
 彼は自慢げに続ける。

『私とメガネの使徒たちとの絆はそれほど浅くはない。
 この程度の人数、あふれんばかりの私のメガネへの愛をもってすれば崩壊から救いあげることなど造作もない』
「いや、メガネへの愛とアンタの力に何の関係があるんですか……」
『ほほう、少年は私の生まれを知りたいというのか。なかなか好奇心旺盛だな』
「そんなことは一言も言ってねェェェェ!!」
「落ち着け志村っ。自分から話してくれると言っているのだ、ここはしゃべってもらった方が得だろう」
『おぉ、なんと冷静なクールビューティだ。是非とも我が軍に欲しい』
「……。と、ともかくだ。話してもらえるのならば話してもらえないだろうか?
 私たちは朝から追われっぱなしだったからこうして逃げ続けていたのであって、その理想に共感できれば協力するかもしれないだろう?」

 氷室お得意の口車に乗せられたか、ふむとうなずき彼は答えた。

『私はこの世界の人間たちのメガネへの愛が蓄積され、愛が昇華される際になんやかんやで生まれた世界中のメガネ愛好家の意思に望まれることで生まれし意識体。
 多くの人間の抱いたメガネへの愛が積み重なり、可能性の力をこううまい具合に巻き込み、そのすばらしさを世界中に広げるという使命に唐突に目覚めた。
 その使命を果たすため、私はメガネの使徒を集め、この世界を変革する<プロジェクト・グラスワールド>を立ち上げたのだ!』
「『なんやかんや』って言いましたね、アレ」
「『こううまい具合に』とも言ったな。なんとも適当な世界の危機だ」

 本当のところは彼にもよくわかっていないだろう偶然がたくさん積み重なっているようだ。
 もっとも、これほど大規模な世界の融合現象が起きている場所なのだ。偶然も積み重なればこんな世界の危機を招くことのひとつやふたつもありえるのかもしれない。
 ともあれ。
 そんな超適当なくせに超大規模な世界の危機のど真ん中にいる氷室は頭を抱えながらもうひとついいか、とたずねる。

「その、<プロジェクト・グラスワールド>というのはいったいどんな計画なのだ?
 やっていることといえば、メガネをかけた人間を片っ端から集めて自意識を奪っているだけのようだが」
『それは少し違う。
 メガネの使徒たちは、私が自ら分け与えたメガネへの愛を理解した者たちだ。
 メガネへの純度100%の愛から、グラスワールド完成に動く私へと忠義を尽くしてくれているにすぎない』

 つまりはメガネ大邪神を構成している『想い』である『メガネへの愛』の一部を分離し、植えつけたのがメガネの使徒と呼ばれる者たちであるということだった。
 自律した意識体を構成・維持するほどの強烈で強力な一方向への突き抜けた『意思』を植えつけるという行為は、もはや精神を侵食する呪いとほとんど変わりはない。
 そんなものを受けてまともでいることは、肉体という器がある人間ならばまず不可能だ。
 ゆえにこそ『メガネの使徒』は自意識のないメガネ大邪神の僕と化した存在と化したのだろう。
 彼は、続ける。

『メガネを必要と感じている者たちに呼びかけ、世界中のメガネの人間を<メガネの使徒>とする。それが第一段階だ。
 それが済んだ後、<メガネの使徒>たちによるメガネ聖戦―――世界中の人間に強制的にメガネをかけさせ、この世界をメガネとその愛で埋め尽くす。
 それこそが<プロジェクト・グラスワールド>の最終段階だよ』
「……なぜそこまで世界中をメガネの人間だらけにしたがるのだ?」
『知れたこと、それが私を構成する全てだからさ。
 私は人間のメガネを愛する心から生まれた。だから私は世界をメガネ色に染め上げる。
 世界がメガネを愛するようになれば、私はそこで更なるメガネへの愛を得て己の存在を強くすることができるだろう』

 思念体である彼にとっては、他者からの認識と自分を構成する他者の意思の量と質とが彼自身の存在としての強度となる。
 生命の本能として生の渇望は当然のものだ。


132 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:53:35 ID:Rm5Bzir6
 それを聞いて、氷室はため息をついて答える。

「そちらの事情は理解できた。説明は感謝する」
『おぉ、理解してくれたか!
 では君たちも来るがいい。我々は新たなメガネの使徒として君たちを歓迎しよう』

 たくさんの人間に囲まれたそこらのビルなどよりもよほどの巨体が鷹揚にそう言うのを見て、少年と少女は口々に答えた。

「だが断る」
「お断りですよそんなもん」

 間髪を入れず。何一つ迷いなどなく。ただ真っ直ぐに二人はそう告げた。

「世界の敵の手先になっても私には何一つ恩恵がない。そんな取引はごめんこうむる」
「自分の意識がまったくないってのは、人間としては死んでるも同然でしょう」
「特にメガネしか特徴がない人間には存在意義の危機だしな」
「氷室さん? それ僕のこと言ってます?」
「被害者面するのはよくないぞ。自分がこれまで特徴をアピールしてこなかったのが悪いのだからな」
「アンタどっちの味方ァァァァ!!?」

 こんな時もネタを忘れない氷室とツッコミを忘れない新八に惜しみなく拍手。
 そんなやりとりを見ていたメガネ大邪神はそうか、と静かなまでに淡々と応え。

『ならば仕方あるまい。
 前に出よ、<メガネの使徒>最高最強の戦士―――<メガネ十二人衆>よ!』

 その言葉とともに、メガネの使徒の中から十二の影が<メガネの使徒>たちの群れから飛び出し、彼らと氷室たちとの間に着地する。
 逆光と目深にかぶった簡素なフード付きのローブのせいで何者かまでは判別がつかないが、プレッシャーはかなりのものだ。思わず氷室も新八もじり、と数ミリ後退する。
 メガネ大邪神が言葉を続ける。

『彼らこそはメガネの使徒の中でも屈指の力を誇る<メガネ十二人衆>だ。
 その能力は通常のメガネの使徒のおよそ4万倍を数える超人ぞろい。我が愛を受けなお己の意思を保ちながら私に忠誠を誓う最強の戦鬼共よ』

 おそらくは言葉どおりの実力を持っているだろう猛者が十二人だ。
 氷室も新八も、魔法・超能力・パイロット技能など戦闘的な能力はない。こと戦うという事態の渦中に陥れば『にげる』のコマンドしか使えない。
 それを知っているのかいないのか。メガネ大邪神は絶対的優位を自覚しているように倣岸に命令を下した。

『<メガネ十二人衆>よ。新たな我らが同胞をその手で掴み取れ!』

 彼らの主の声に返す者はいない。けれど行動は迅速だった。
 何人かが獣のようなスピードで氷室と新八へと迫る。出だしからトップスピードとかどんな嫌がらせなのかと思うほどの速さだ。
 それを視認した氷室は迷わずダッシュで走り去るためにきびすを返し。
 新八は最初にした約束を守るために迷わず一歩前へ出た。一緒にいる彼女が無事に逃げ切れるように一人でも多くの敵を足止めしようと。
 そして。

 次の瞬間。先頭を走るメガネ十二人衆の足元が爆発した。




133 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:55:14 ID:Rm5Bzir6
 ***


 吹き飛ぶメガネ。舞い飛ぶ人。
 状況についていけないのは新八も氷室も、そしてメガネ大邪神すらもそのようだった。

『むぅ!? 我がメガネ十二人衆が一瞬にして壊☆滅!』

 初めてうろたえた声色で叫ぶメガネ大邪神。
 何があったのか、と考えをめぐらせようとしたその時。
 爆煙の中無事な姿で立つ十二人衆の内の二人がくるりと反転、メガネ大邪神の方へと向き直る。
 一人は細剣を何本も両の手に引っさげ、一人は絡み合う二匹の白蛇を模した杖を肩にかけて。堂々と言い放つ。

「誰があなたのものですか。見くびるのも大概にしてほしいものです」
「くっくっく。あの程度の精神汚染がこの私に通じると本当に思っていたのか? 愚かな奴だ」
『くぅっ!? まさか、裏切ったのか!
 いったいどうしたというのだ、メガネ十二人衆<シスター・カリー><パラサイト・ゴースト>!』

 その言葉に、二人は自分のローブを剥ぎ取りながら答えた。

「誰が裏切ってるんです。もともと私はあなたになんて仕えていません。
 私は主の意思を代行する教会の代行者、人々に仇なす害獣の駆除なんてのも業務に含まれちゃうんですよ」

 青い髪に青い瞳。編み上げブーツに黒のカソック。
 元の世界においては聖堂教会埋葬機関の第七位にあった化け物殺しの異端狩り、シエル。

「残念ながらこちらにはすでに借りが山ほどある主がいるのだ。
 お前に鞍替えするには、借りをチャラにした後でさらにワタシにメリットがある条件でなくては意味がなかろう?」

 桜色の髪、アメジストの瞳。輝明学園の高等部制服。
 元の世界においては宿主を変えながら世界を守り続けてきた転生者の魔法使い、ゲシュペンスト。

 メガネ大邪神の精神干渉をものともせずに立ちふさがる二人の少女が、そこにいた。
 彼は焦ったように叫んだ。

『馬鹿なっ!? 私の愛はメガネを必要とする心を増幅させる。普段かける頻度が高ければその分メガネへの愛が深くなるはずだ!』
「……ワタシもナメられたものだ」
「えぇ。それには非常に同感です」

 そう言いながら、二人の少女はかけていたメガネを外す。
 その瞬間、メガネ大邪神に衝撃が走った。

『そうか……っ! お前たちのそれは<伊達メガネ>か!
 本気(マジ)メガネは生活に支障をきたさないために存在するため、精神的依存度が高い!
 それに比べて変装やおしゃれメガネなどはあくまで装飾品、頻度がいかに高くとも精神依存度は格段に落ちる!』
「この場合、伊達メガネなことよりもあなたの精神支配に打ち勝った我々の特殊技能について何か言ってほしいんですがねぇ……」

 どこか途方にくれたように、シエル。


134 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:57:29 ID:Rm5Bzir6
 シエルは一時期体を他人の精神に乗っ取られたことがあり、精神の汚染には過剰なほどに反応する。
 精神汚染に対抗する手段を数多く常時張り巡らせているのだ。
 ゲシュペンストはそもそも今は精神(寄生)体である。他人の体の効率的な掌握とその対処法、そしてハッキングに対する対処能力。
 その全てにおいて詳しくなければ他人の体を乗っ取りながらここまでの長きを生きてはこられないだろう。

 ともあれ、いまだに衝撃から回復していないメガネ大邪神に向け、ゲシュペンストが杖を掲げて告げる。

「さてどうする? 貴様ご自慢の手駒は吹き飛ばした、あとは有象無象どもにすぎんぞ」
「あなたみたいなのがうろうろしてると、厄介ごとに首を突っ込みたがる子が後を絶たないんですよ。
 個人的にも実に迷惑なので、さっさと片付けさせていただきたいんですがね」

 臨戦態勢でそう凄む二人。
 その威圧感は並みの学生ならば土下座で命乞いを始めるだろうほど。
 しかしその上でなお、メガネ大邪神は笑った。

『ほう。この数を相手に、お前たち二人で何とかなるとでも?』
「あくまで抵抗するか。ならば、それはそれでよかろう」
「えぇ、多少骨が折れるといえば折れますが。こういうド派手な裏方には慣れてます」

 邪悪なまでに楽しそうな笑みを浮かべる桜色の少女と、諦めたようながらもどこか不敵な表情の空色の少女は。口をそろえて、言った。

「「この程度で、私(ワタシ)を止められるとでも?」」

 直後。
 闇色の鎖の嵐が吹き荒れ、投擲された細剣による打突がメガネの使徒たちを薙ぎ飛ばした。




135 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 02:59:37 ID:Rm5Bzir6
 ***

 目の前を埋め尽くす大乱闘の光景。
 それを、ただ唖然とした様子で見続けている新八。
 彼は氷室の小さなつぶやきで我を取り戻した。

「……マズいな」
「へ? ど、どうかしたんですか氷室さん」
「相手はゾンビのような連中だぞ? しかもこの瞬間も数を増やし続けている。
 いかにあの二人が効果範囲と攻撃力に優れた能力を持っていたとしても消耗しきってしまえば事態の解決にはつながらない。
 消耗させきれば、今度はあの二人の身が危うい」

 敵はメガネ大邪神なのだ。
 彼らの端末たるゾンビ連中をいくらなぎ払おうとこの事態の収束にはつながらない。
 あの数に囲まれた中では、シエルもゲシュペンストもメガネ大邪神を攻撃するのは難しいだろう。
 ……地面がはげしく隆起・破砕して燐毒を撒く蝶が飛び回ったり、投げた剣がなぜか突き刺さらずに人を押し飛ばしたり、大爆発が起きたりしているのには目をつぶれ。
 閑話休題。
 ではどうすれば、と新八が言いかけた時、氷室の携帯が着信を知らせた。
 轟く爆音に眉をしかめながら彼女がその電話に出ると、先ほどまで彼らの手伝いをしようと頑張ってくれていた少女の声がした。

『その場所一帯は危険。可能な限り早期の撤退を勧告する』
「長門嬢か。そちらも無事で何よりだ」
『私の存在する空間は現在事象隔離されている。そちらとは比較にならない安全性。
 それよりも早く。出来うる限りの最速でそこからの撤退を』

 長門の平坦な声が、氷室にはいつもよりも早口な気がした。
 珍しいこともあるものだ、と思いながら彼女は告げる。

「我々としても逃げたいのはやまやまなのだが、こちらでは今大乱戦が起きていてな。
 その最中から逃げ切るのは我々では少し難しそうだ」
『そう』

 淡々と、ただ彼女はそう告げて。

『なら、今すぐ伏せて』

 長門の電話口のその言葉に、疑問を差し挟もうとしたその直後。
 ―――長門が彼らに電話をかけた原因が、現場に到着した。




136 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:01:17 ID:Rm5Bzir6
 ***

 何の前触れもなく風が渦巻きながら突き抜けた。
 旋風などという言葉では言い表せぬほどに強い風の波。
 暴風などという表現では生ぬるいほどに猛る風の音。
 風の流れだけで周囲の景色が歪んで見えるほどの勢いをもった、台風にも近い災害。
 風そのものが波のように重量を増したような、叩きつけるかのごとき波濤。
 人間くらいの重さならば軽く吹き飛ばせそうなそれも、しかし一瞬のこと。
 重く叩きつける爆風は一瞬にして通り抜けた何かを追いかけ、それに従い、螺旋に渦巻き収斂し。
 それに力を貸すように集ってその意を成さんと吹き荒れる。

 新八は轟風にメガネを取られないように必死でメガネをおさえながら身を低くする。
 そして、彼は偶然見た。
 轟風の渦巻く中心。そのど真ん中にある青い光と、ほんの少しの小さな、しかし青に消されないほどに鮮烈な赤い煌きを。
 直後。
 空を翔る青い光は、一つがすでに建物数件を一気に破砕できそうな膨大な爆嵐の群れとともにメガネ大邪神に突っ込む。
 青い光の先端がメガネ大邪神の頭に触れた、その瞬間。

 光の後ろに連なっていた莫大な風がメガネ大邪神に収束。
 ただ解き放たれただけならば衝撃波となってこの一帯を蹂躙し尽くしただろうそれは、ほぼ一点に。
 巨大なメガネ大邪神を叩き斬る刃のようにそれを貫き、ただ余波のつむじ風だけが周囲を渡っていく。

 あまりのことに、その場にいた誰もが声を失っていた。
 吹き荒れていた爆音から一転。猫の足音さえ聞こえそうな完全なる静寂へ。
 その静かな世界で一番最初に響いた音は、青年の声だった。

「……おいおい、さすがにありえないだろこれは」

 あきれたように、自身の目を疑うような言葉。
 それは空というほど高くはない場所。青い光の残る鋼の塊に身を預けた青年がいる。

 柊蓮司。
 いわく執行委員代表。いわく肩書き学生。いわく女たらしの少年殺し。いわく斬撃彗星。いわく学園世界一睡眠の足りていない人間。いわくただの馬鹿。いわく斬込隊長。
 数々の呼び名を持つ、この事態を収拾すべく放たれた学園世界で一番有名なトラブルシューターである。

 今まで、有名無名含めて4桁に届こうかという学園世界内の事件を解決したその青年は、しかし背筋に冷たいものが流れる感覚を禁じえない。
 その理由を知らしめるように、メガネ大邪神が息を吐いた。

『は。ぬるい、ぬるいな。
 その程度では私に届くはずもないぞ?』

 その言葉になに? と視線を険しくさせながら柊がメガネ大邪神をにらむ。
 視線を意識しているかはわからないが、相手はただ淡々と当たり前ではないか、と答える。

『そんなメガネ愛のない一撃が、この私に届くはずがないだろう』
「「そんな理由で防げてたまるかァァァァ!?」」

 柊と新八。
 二つの世界に名をとどろかす、二人のツッコミが今、共鳴する。


137 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:04:03 ID:Rm5Bzir6
 柊と新八。
 二つの世界に名をとどろかす、二人のツッコミが今、共鳴する。

 閑話休題。
 とはいえ、メガネ大邪神は今の対群勢用兵器的な破壊力に、しかしまるで堪えた様子はない。
 無意味なものは無意味なのだから仕方ないじゃないか、と告げるメガネ邪神。
 その言葉はほぼ全力に近い威力を無効化された上『その程度』扱いされた柊にとって、相当の精神的なダメージをもたらしたらしい。
 柊はゆらりと揺れるようにウィッチブレードを両の手に掴み、珍しくきちんと正眼に構え、それだけで人が殺せそうな絶対零度の視線と共に、底冷えのする声色で告げた。

「……上等じゃねぇか。
 俺(ひと)の全力がホントに無意味かどうか、てめぇの体で確かめてみるか?」

 途端。
 ぎちぎちぎちりと何かが軋む音が響く。
 それは次元の壁を食い破ろうと外から現れんとする存在があることの証左。
 空間の上げる悲鳴。それは、彼の意思に応えんと現れ出でようとする『唯一無二の相棒たち』。
 軋む音が空間を割りそうなくらいに大きくなった時、戦場に叫び声が響いた。

『すーとっっっぷぅぅぅぅ!? 蓮司、タイムタイムちょっと待つでありますお願いだから待ってェェェェ!?』

 キンキンする小娘の必死な声は柊の懐から。
 月衣にいれずに懐に入れておいた(あの突貫でも壊れないほどやけに頑丈な)0−Phoneからだった。
 気を一瞬そらされるものの、柊は表情ひとつ変えずにその声に答えた。

「止めんなノーチェ。ここまでコケにされて黙ってられるほどもともと俺は温厚にできてねぇ」
『命令を下す立場になってちょっと考えが丸くなったかと思ったらそれでありますかっ!?
 お願い! わたくし一生のお願いでありますからその広範囲破壊技見境なしに撃つのすとっぷでありますってばー!』
「心配すんな。誤射なんて馬鹿な真似しねぇよ」

 範囲選択だしな、<三千世界の剣>。
 それはともかく。完全に目が据わっている柊に、そーじゃなくてっ! と勢いこんでノーチェが言った。

『あの突貫完全に無効化されたのでありましょう!?
 さすがにあの威力を完全キャンセルできるっていう防御は異常でありますっ!
 回数制限とか、属性反応防御とか、ともかく何かしらの欠点があるはず!
 わたくしがそれを看破するまで無駄撃ちは避けてほしいのでありますよ!』

 その必死な声に、頭に上りきっていた柊の頭がほんの少し冷静さを取り戻す。
 舌打ち。
 それでも彼はひとつため息をつくと、片手を離し、半身になって構えなおす。
 全身全霊をこめた捨て身ながら一撃必倒の構えから、白兵戦距離で切り結ぶためのこのサイズの相手に対するにはひどく不釣合いな、しかし彼のいつものスタイルへと。

「……できるだけ早く見つけてくれ。わかってると思うが、俺は時間稼ぎには向いてねぇぞ」

 柊は、というよりも魔剣使いはウィザードと呼ばれる特殊能力者の中でも1、2を争うほど持久戦に向かない。落とし子・人造人間並みに身を削りながら戦うタイプだ。
 それが原因で仕事の度にエネルギー補給や調整(治療魔法、食事など。本来は睡眠も含まれるがあまり取れているとはいえないため除外)が必要な、燃費の悪い能力者だ。
 執行委員が集まる以前は、その身を引きずりながらこの仕事をしていたため、とある事件において某金髪ちびっこ先生を守りきった直後に意識を失って倒れたこともある。
 ……それから先、妙にその子供に会うたびに憎まれ口をたたかれるようになったことは本編とは関係ないので割愛する。

 ともあれ、その弱音とも信頼ともとれる言葉に了解であります! と勢いのよい声が返る。


138 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:07:04 ID:Rm5Bzir6
 そんなやり取りを見ていたのかいないのか。
 自らの前に立つ一人の人間を、メガネ大邪神はひたりと見つめた。

『ひとつ聞こう。貴様は我が覇道を阻む者か?』
「他人の心を乗っ取って手先みたいに使うのがてめぇの覇道だって言うんなら、その通りだよ」

 その問いに柊はありったけの敵意をこめ、相手の戦闘力もうまく量れないがそれでもここは引かぬという意思をあらわに答えた。
 敵意をむき出しにする青年を前に、しかしメガネ大邪神はとうとうと応じる。

『そうか。
 ならば―――ここで墜ちろ、我が障害』
「やってみやがれ、置物野郎」

 挑発に挑発で返したその言葉に、メガネ大邪神のメガネがぎらりと輝いた。

『……言ったな?
 よろしい、ならばその身で受けるがいい。
 私の技の中でも最高火力を誇る、必ず殺すと書く文字通りの必・殺・技!!
 どのくらい必殺かというと1stリミブレとか、ラスアクレイジとか、かみにチェーンソーくらい必殺な技!!
 見せることもないと思っていたが、それほど見たいというのならば見せてやろう』
「見たいとは一っ言も言ってねぇぞ、言っとくが」
『シャラップ!!
 えぇい、この技はメガニスト(メガネをかけている善良なる市民のこと。対義語に<NOTメガネ>がある)には何の影響も及ぼさないメガネ除外版中性子爆弾的技!
 つまりイケてないNOTメガネたちや建物にのみ損害を与えるという最高にクリーンな技なのだ!』
「建物倒壊する時点で僕らアウトじゃないですかァァァァ!?」
「ひ、柊! できるだけこちらに向けない方向で頑張ってくれ! 私たちはそこの二人と違って100%善良かつかよわい一般市民だ!」
「失礼なことを言うなそこの女! このワタシのどこが善良な市民ではないというのだ!?」
「寄生虫は善良な市民とは認めませんよ。というか貴方とそこの巨大化器物のやっていることって、あまり変わらなくないですか?」
「一度にごちゃごちゃ言うなよ緊張感が殺がれまくるだろうが!?」

 敵が目の前にいてもツッコミを忘れない柊に脱帽。
 しかしメガネ大邪神にとっては柊が緊張感を削がれまくっていることなど関係はない。
 というかむしろ絶好の必殺技チャンスである。単に空気が読めないとも言う。

 周囲に漂うものや彼自身、そしてメガネの使徒たちから送られてくるプラーナが、メガネ大邪神に雪崩れ込む。
 収束。収斂。凝縮。集中。それは螺旋を描きながらも極一点に押さえ込まれながら彼の中のメガネ愛、つまるところの意思の力と混ざり合っていく。
 プラーナとは可能性の力。
 可能性とは意思を持って選択されるもの。
 プラーナと強い意志、その二つが揃えば強い指向性を持ったこの世の何よりも強力なエネルギーとなる。
 今この世界で最も膨大なプラーナを持ち、最も強固な意志によって維持されている存在が、その敵意の砲口をただ一人の人間へと向ける。


『隙あり! くらえ絶招・<メぇぇぇぇぇぇガネっ、ビぃぃぃぃぃぃぃム>っ!!』


 ※絶招……中国拳法における『奥義』とか『絶磨』とか『秘剣』とか『宝具』とか、そんな感じのすぺしゃるな必殺技につける単語のこと。



139 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:07:51 ID:Rm5Bzir6
 閑話休題。
 ともかく、名前に恥じないほどの威力と速度を持った感じの赤褐色な極太い光の渦が、柊に向けて放たれた。
 真正面から推測するに口径はおそらく3mを超える。3000mmというのはどう考えても人間に向けるにはオーバーキルもいいところ、かすりでもすれば消し飛ぶのは確実だ。
 そう。常識で考えるのならば。

 生憎とウィザードと呼ばれる連中の第一歩は常識を覆すことから始まる。
 柊はその極光の束を前にして、ひとつ息をつくと覚悟を決めたように己が愛刃を構える。
 彼は知っている。この空を駆けながら見知らぬ誰かを助けるために西へ東へ奔走する人間がいることを。
 彼は知っている。各地に避難所を作り、時を経るごとに増える避難民をかくまいながら戦い続ける人間がいることを。
 そうやって一緒に世界を守っている人間がいる。今この瞬間も、一緒に戦い続けている仲間がいる。

 ―――だったらどうして、ここで自分一人だけ諦められるだろう。

 彼にできることなど限られている。
 刃にし得るは斬り絶ち開き、裂き削ぎ絡め、打ち突き貫くあたりが関の山。
 ならばこの局面において彼に成せることは唯一つ。
 己に成せる全力をもって、全身全霊渾身の。たった一筋の斬条閃に、全てを込めることくらいに決まっている―――!

「ォ―――ぉぉぉおおおおおお、りゃぁぁっ!!」

 その叫びだけで位の低い魔ならば退けられるような雄叫び。
 裂帛の気合と共に迫り来る力の先端に向け、一振りの 相棒(やいば)を叩きつける。

 柊は理解している。
 自身に向けられたその光は、直撃を受ければ即命に関わる威力を秘めている。
 ウィザードである彼ですら命に関わる。そんなものがこの世界を蹂躙することがあれば、どれほどの被害が出るか。
 今するべきは時間稼ぎであるが、それ以上に彼の仕事は『この世界で起きる被害を最大限に力を振り絞り、最低限に抑えること』に他ならない。
 ならば彼一人が盾になろうとも意味がない威力を持つ一撃に対して出来ることは、可能な限り力を削ぎ落とした上で人の迷惑にならない場所に向けてそらすこと。
 力の流れは見えるし掴めている。これまでの経験は柊に最善の行動を無意識の内にとらせる。
 目標地点にそらすための角度をつけた剣筋が吸い込まれるように赤褐色の光の穿孔へと向かい―――

 ―――接触した瞬間、予想をはるかに超える膨大なエネルギーが柊の総身を激震する衝撃として駆け巡った。

 瞬きよりも刹那よりもなお短く、言葉で表すのならば六徳ほどに短い間ではあるものの、その間比喩でなく完全に柊の意識は飛んだ。
 刃が押し返されるよりも早く意識が戻ったのが幸いだった。
 衝撃は未だに体を荒れ狂っている。しかし声など上げていられない。そんなことに使う余分はない。
 この一線を押しとどめ、赤い光をそらしきる。この瞬間、この刃(じぶん)はただそのためだけに存在するのだから。
 意識と衝動を焦点に。
 ただひたすらに刃筋を立ててその衝撃に抵抗する。し続ける。
 体中を駆け巡る衝撃は、行き場を失い彼の体にダメージとして蓄積されていく。
 それだけでなく刃によって削がれ散らされた光の粒は、減衰しながらも近くにある彼の身体をえぐっていく。
 軋みをあげる骨。悲鳴をあげる筋。狂ったように痛覚は信号を頭に叩き込み、すでにどこが痛いのかも把握しづらい。

 意識を投げ捨ててしまえばどれだけ楽になるだろうか。
 ここで力尽きてしまえばきっと楽になれるだろう。
 よく戦ったと認めてしまえば後は誰にでも任せられる。
 そんなことが頭をよぎらないではない。
 あぁちくしょう、と。おそらく爆音の中では誰も聞こえないだろうほど小さな声で悪態をつく。

「―――んなことができる 性質(たち)なら、端っからこんなことのために世界中駆けずり回ってねぇってんだよ……っ!!」


140 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 03:09:39 ID:iQJoa/85
待ってたよ支援

141 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:12:06 ID:Rm5Bzir6
 見過ごすことができるほど利口なら、見ないフリができるほど器用なら、そもそも自分はここにはいないと。
 そのとおりだ。
 頭が悪くて不器用で、何より諦めが悪いからこそ。
 柊蓮司は戦場で、ただ一振りの刃を握りただひたすらに守り抜く。
 ならば己にできないことに意識を割く必要などないと、ただの弱音を叩いてつぶす。
 意思を新たに。更なる想いを重ね束ね、刃の先に意思を宿す。

「引き、裂けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 そして刃は忠実に主の意思を遂行した。

 人を一人飲み込んでなお余りある光の渦が叩きつけられた刃によって幾筋にも裂かれた。
 最も太い一筋は廃墟の跡のクレーターにさらに大穴を穿ち、細い赤光は空や近くの建物、近くにある人間の肉体などを通って勢力を減衰させられた。
 光の渦は唐突に終わり、それを放った巨大な像はただ一言告げた。

『……なんと。私の愛の結晶を引き裂くとは、非常識な』
「存在からして非常識な奴にそんなこと言われたくねぇよっ!?」

 相当命がけで立ち向かったあともこのツッコミ。やはり侮れないと思う。
 しかしメガネ大邪神はツッコミに対してのみ鉄壁のスルー力を発揮する。

『だが、我が<惨殺絶招・メガネビーム>に真正面から立ち向かった代償はけして軽くはなかろう?』

 ネーミングセンス皆無じゃね? というのはこの場にいる全員の思いだった。
 ともあれ。
 相手の言葉に馬鹿正直に答えてやる必要はない。は、と息を吐きながら柊は相手の意識をさらに集中させるように会話に応じる。

「そっちこそどうなんだよ、さすがに今のはぽんぽん撃てる類のモンじゃねぇだろ」

 楽観的予測の混じったかまかけ。
 彼の役目は時間稼ぎ。今この場で相手を真っ二つに出来るものならしてやりたいが、できない可能性もあることを考えるとそうもいかない。
 それに対して、メガネ大邪神は真っ正直に答える。

『さすがというべきだろうな。
 伊達にヤシマ作戦世代ではないということか』
「わけのわからんこと言って勝手に納得すんじゃねぇよ!?」
『その通りだ。我が惨殺絶招は私とメガネの使徒たちが持つプラーナとメガネ愛を集め束ねて撃ち放つ文字通りの必殺の威力を持った技だ。
 ビックバン直後の四つの力よりも早く生まれた知られざる第五の力、メガネ愛は無よりいくらでも生み出せる有なる力であるゆえに問題ないが、プラーナはそうはいかん。
 メガネの使徒たちの中でもプラーナのあまり多くないものたちはいる。
 二射目は彼らの存在を奪うことになりかねん以上、私に撃てるはずもない。要はシナリオ一回制限技だ』

 なんてメタい納得のさせ方。
 ともあれ、今の一撃はもう撃てないことを確認できた柊は内心安堵しつつ―――さすがに二射目は同じことをできる気がしなかった―――相手の注意をさらに引く。

「なんだ、今のが全力かよ」
『ほう? 私に傷ひとつつけられない貴様がそれを言うのか、その有様で』

 柊の状態は傍目にもわかる。
 赤い光条によって穿たれた穴や抉られた傷は数多く、軽口を叩こうにも強がりと焦りが見て取れるほど余裕がない。
 は、と荒れた息を吐き出して内心の自嘲。


142 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:15:05 ID:Rm5Bzir6
 その通りだ、と。そもそも持久戦は大の苦手、その上でこの状態まで持っていかれた。今の状況では何をどう逆立ちしても自身に勝ち目がないことは自覚できている。

 それでいい、とも思っている。
 今の彼の役割は時間稼ぎに他ならない。
 最終的に被害を可能な限り少なく、事態を出来うる限り早く収拾すること。それが柊蓮司の役割だ。
 自分でできるのならば、最後の瞬間まで諦めずに機を待ち続けてその一瞬をものにする。
 自分では不可能ならば、最後の瞬間まで投げ出さず被害を抑え続けるために立ち向かう。

 その覚悟があるからこそ彼はその状態でなお。不敵に笑いながら相手に話しかける。

「言い続けてやるよ。聞きたくなけりゃ口をきけなくするこったな。
 俺は―――いや。この世界(ここ)の連中はな、自分たちの 世界(もの)を食い荒らそうとするような奴にまで優しかねぇんだぜ?」
『本人の許可があるのならよかろう。
 潰れ堕ちればその減らず口も叩けまい―――!!』

 言って。
 世界の危機は再び世界への侵攻を開始するため、まず眼前の箒星へと襲い掛かった。



143 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 03:18:17 ID:iQJoa/85
無駄に強いぞこのメガネ邪神支援

144 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:18:23 ID:Rm5Bzir6
 ***


 無数に放たれる五鈷杵アンカーを空中で避け、かわし、叩き斬りつつメガネ大邪神の目を引いて回る人間を見ながら、ぽつりと新八は呟く。

「……なんですか、この怪獣大決戦みたいな状況は」
「正確にはウルトラマン怪獣対地球防衛隊みたいな感じだがな。防衛隊機ほど撃墜されやすくはないようだが」

 隣の氷室はといえば、上空ではなく眼前の光景―――万単位のメガネの使徒VSシスター&魔王の使いっ走りを見つめている。
 こちらはむしろ上空に危険を感じておらず、いつでも眼前の危機から逃げられるようにとの意味を持った『見』だ。
 氷室も新八も異能持ちではないのだから、逃げる時の準備を少しでも整えておこうという算段である。
 新八はそんな氷室の様子に気づいているのかいないのか。上空を見上げたまま、隣の事情通にひとつたずねた。

「―――勝てますかね、柊蓮司(あのひと)」
「9割方無理だろうな」

 間髪を容れない即答に、新八はツッコむよりも先に一瞬絶句した。
 思わず目の前の光景から氷室に視線を移す。彼女はやはり戦況を見定めながら、淡々と答えを続ける。

「あの巨体だ。狙わずとも当てることは不可能ではない。
 しかしどういうカラクリを使っているのか相手にダメージが通らないのでは仕方あるまい。

 ―――アレは、頭の中身が柊蓮司だからな。
 諦めるつもりなどは毛頭ないだろうが、自身が相手を倒す刃になれないのならば己をリソースにするつもりはあるだろう。
 言っておくが、これは命を捨てるという意味ではないぞ。
 痛みの時間を限界まで引き延ばしてでも戦場に立ち続け、バトンタッチする相手に少しでも有利な状況を作りだすための布石になる、ということだ」

 そのあたりを勘違いするなよ、と告げる氷室。
 新八は何かを言おうと思ったが、うまく言葉にならずに吐息は流れてただ落ちた。
 だってそれは、命を盾にどこかの誰かを守ろうとし戦い続けている目の前の青年の奮戦がただの捨石に過ぎないという意味の言葉で。
 氷室の言葉を信じるのなら、彼自身がそれでもいいと思っているということでもあるからだ。
 彼の行為が無駄だなんて言うことは、体を張り、刃を持って、護り抜くために戦っている彼にとって冒涜以外の何物でもなく。
 しかし彼自身がそれを自覚しながら、それでも今なおただひたすらに投げず腐らず自身の全力が一欠片として通用しない相手に立ち向かっているということだった。
 あれが、柊蓮司だと。
 氷室鐘はそう言った。

 柊と新八には何の接点もない。担任が何度か会ったことがあるらしく、授業中にその時の話を茶化して伝えるのがかろうじて一番近い関係性だろうか。
 要は、人の話の中に出てくる 登場人物(たにん)程度。
 そんな相手に興味を持ったことはなく。そんな人もいるのだな、と思うくらいの別世界の人間のように感じていた。
 そしてそれは正しい。
 広い世界の中では出会わない人間の方が数多く、自分の周囲こそが自分に得られている世界に他ならない。
 目の届かない範囲のことは聞いていようと別世界のことのように感じて当然だ。
 だからそれは正しかった。そう、今この瞬間までは。

 姿を見てしまった。声を聞いてしまった。戦う理由を知ってしまった。命を賭けていることを理解してしまった。それが何のためであるかを感じてしまった。
 そこまでいってしまえば、志村新八にとって柊蓮司は他人とは言えない。
 新八はそこで相手を他人とは切り捨てられない人間だった。
 言葉を交わしたことなどない。面と向かって名前を呼んだことすらない。
 それがどうした。
 氷室と行動を共にすると決めた時にも言っていたではないか。

『この異変をなんとかしようとしてる人がいて、僕もそれを知ってしまった。
 その人がたった一人で、危ないとわかっているところに向かうと知ってしまったんです。
 僕は、バケモノと戦って勝てるほど強くないです。誰かに何かを教えられるほど頭もよくないです。
 それでも―――色んな人を助けるために頑張ってる人を一人にしておくような、危険を一人に押しつけて知らんぷりしてるような、卑怯者には絶対になりたくありません』

 怖い。命の危機なんてことからはつとめて逃げ出したい。痛いことに楽しみを覚えるドMではない。
 けれど。それでも。
 見捨てるなんてことはできなかった。

145 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:22:12 ID:Rm5Bzir6
 たとえ戦う力がなかろうとも。
 それで。そんなことなんかで。


 志村新八は、命を賭けてでも何かを守るために戦っている人を見捨てる理由になんかならないんだと知っている―――!


 ならば考えろ。
 戦うための力になれないのなら、せめて光明を見出すための糸口を見つけ出せ。
 どんな小さなことでもかまわない。
 幸い彼らがいるのは事件の中心地、核心へと至る手がかりを見つけるには絶好の場所。

 諦めるな。悩み続けろ。力になると決めたのなら、一瞬たりともその行動への迷いなど挟むな。
 自分の道を定めたのなら、最後の最後までそれにしがみつきくらいつけ。
 ただひたすらに、我ではなく己を通すことを貫ききる―――。
 それが彼が憧れたもの。憧れた存在の在り方。
 憧憬の対象に憧れているだけの子供でいることはとっくに卒業した。
 自力で歩くための足があることを今は知っている。ならばあとは憧れに近づくために歩き続けることができる。
 それが、志村新八という少年が選んだ道。歩んでいる道。この世界に来る以前から抱き続け、憧れた未来になるために見定めた道。
 ゆえに。新八はただこの場において、己の『士道(ルール)』を貫き通すために回想し、状況を見続ける―――。

 だから、と言うべきだろうか。
 事件の中心地にいて、空気を肌で感じ、戦いの輪には加わらず、しかし諦めずに状況を打破しようと模索し続けたがゆえに。
 新八はひとつの違和感に気がついた。

「……氷室さん」
「どうした志村。逃げ出すための策でも思いついたか?」
「いえ、そういうのじゃないんですけど……なんであの二人ってメガネ大邪神に攻撃してないんですかね?」

 彼が指差すのはド派手な魔法と体術&特殊な飛び道具で(おそらく威力は手加減していると思われる)メガネの使徒をなぎ払う桜色の娘と空色の娘。
 何を言っているんだ、というように若干責めるような冷たい視線で氷室は答える。

「見ればわかるだろう。けしかけられただけの人間があれだけいるのだ。
 あの人数が相手ではそうそう大技を出せん、周囲をなぎ払うのが精一杯だろう」

 その言葉に、新八はしばらく考えこむ。
 メガネ大邪神の言葉を思い出す。柊と二人で異口同音にツッコんだあの発言を。
 そしてもう一度、目の前の光景を眼球に灼きつけるように凝視して、決意しながらぽつりとつぶやいた。

「……確かめてみる価値はあるかな」

 どちらにしろ、今のままではジリ貧もいいところだ。ならば試すことに賭けた方がまだ可能性はある。
 打開策、というほど練り上げられているわけではない。けれど、もしもうまくいったのならあとはきっとこの場にいるみんながなんとかしてくれると信じる。
 他人任せもいいところな、策なんて口が裂けても言えない 実験精神(むぼうなこころみ)。
 それでも新八は賭けることにはためらわなかった。どの道正解が見当たらないなら、試すことに躊躇などしていられない。



146 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 03:24:24 ID:iQJoa/85
テーマはメガネ愛!?

147 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:26:12 ID:Rm5Bzir6
 彼は周囲を見渡し、目当てのものを探す。
 新八が見つけたそれを手に取る。派手に崩れた建物のコンクリートの塊。サイズとしては片手に握って持てるくらいのものだ。
 見据えるのは世界の敵。
 一人の青年をいたぶるように追い詰める、今や世界を己がものにするのも時間の問題にもとれる最大規模の災害を引き起こしている張本人。
 その巨躯と比べれば自分の、ひいては片手に握ったコンクリ塊がいかにちっぽけかがありありとわかるほどのサイズの差。
 ごくり、と息を飲む。
 内心で深呼吸。
 確信なんてない。彼にはこれしか引っかかるものが見つからなかった。そしてこれからそれに全賭けする。ただそれだけの話。
 それが何を引き起こすかまでは彼には予測しかねる。そもそもこれが正解かすらも彼には確信がもてないのだ、その先のことなんてイメージできるはずもない。
 ただ、何が起ころうともせめて状況に一石を投じられることを強く胸に祈りながら。
 誰にでもなく、この先に後悔を抱かずに済むことを祈る自分が情けなくなりながらも、心を決める。

 軽くステップしながらの助走。
 新八は、左足を鋭く強く踏み込む。そのままありったけの力を込めながら大きく引いた右腕を振り抜きながら、叫ぶ。

「と、ど、けぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!!」

 振りぬいた先の右手に握られていたコンクリートの塊が、一人の少年の渾身の投擲によってその手を離れる。
 健全な高校生男子とはいえ、新八は特に球技が得意だったり球技系の部活に所属しているわけではない。
 その投擲はかろうじて争いあっている人々の頭上を超え、放物線を描きながらメガネ大邪神へと向かっていく。
 とはいえ、緩やかな放物線を描いていることもありサイズ差を考えるならば人間に砂粒ひとつがかかった程度のものだろう。
 それでも放たれた塊はかん、と軽い音を立てながらメガネ大邪神の小指あたりに当たって弾かれ。


『何をするのだ少年。投石などと野蛮な行為をしてはいかんぞ、痛いではないか』


 ―――新八の狙ったとおりに、メガネ大邪神は眉をひそめてその『言葉』を口にした。
 自分が想像した通りのことが起きたことで、新八は達成感よりもなによりも先にこの現象が事実なのかどうかの判別がつかずに思考のエアポケットに陥り。

「そういうことかっ!!」
『そうでありましたかっ!!』

 新八が思考を放棄している間に、今の現象を正しく把握した二人の少女が新八の近くと柊の懐というまったく別の場所から同じ意味の言葉を吐き出した。
 そう、それこそが。
 新八が導き出したその答えこそが、今状況を打破する鍵として機能する―――!

「ゲシュペンストっ!」
「わかっている!」

 氷室の言葉に応じ、呼ばれた少女は極悪に楽しそうな笑みを浮かべた。
 メガネ十二人衆が一人<ライスボール・メイガス>の放ったタイダルフラッドを打ち消し魔法でかき消しながら、足元に落ちている勝利の鍵を掴む。

「よくやった小ぞ……いや、志村新八!!」

 その笑みは春の夜に狂い咲きする桜のように。
 彼女は己の役割を正確に把握し、勝利のために忠実にそれを実行した。

「受け取れ、代行者っ!」

 拾ったそのままの動作で、ゲシュペンストはシエルの胸に向けてそれをアンダースロー。
 シエルは周囲のメガネの使徒を本気でない程度のサマーソルトで沈めて氷室たちの方に向かおうとするメガネの使徒に向け徹甲作用を織り込んだ黒鍵を三本放ち蹴散らす。
 そのままの動きの流れで片手でゲシュペンストから託されたものを受け取った。

 地上の妙な動きに気づいたか、メガネ大邪神はそちらへと目線を向けようとし―――

「よそ見する余裕があるってことは、それだけナメられてるってことでいいのか?」

 多少の怒りを含んだ声で言った相手が目の前に箒で降下してくる。
 同時、右手に握っていたはずの五鈷杵の握りの棒状の部分がずっぱりと断ち切られてその形を成さなくなる。

148 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 03:29:39 ID:Rm5Bzir6
 紛れもないその下手人を睨みつけ、メガネ大邪神はやはり静かに宣言した。

『……よかろう、そろそろ戯れはやめて貴様を本格的に葬ってやる。
 体の一片でも残ると思うなよ―――<漸殺・メェェェガネ、ゴォォォォルデンッ、フィスト>ォォォォォ!!』

 今度は絶招ではないらしい。
 ともあれ、メガネ大邪神は半身となって柊を撃ち抜くために大きく右の拳を振りかぶる。

 その時。

「いきますよ―――うまく受け取ってくださいね、柊くんっ!」

 ゲシュペンストから受け取ったそれを、周囲のメガネの使徒にネリチャギをかましつつ縦回転しながらシエルが柊に向けて投げた。
 懐の中の銀髪ツインテールが悲鳴のような声を上げる。
 地上から放たれた天佑の矢と同時、柊に向けて肘の先から爆発的なエネルギーを噴射させながらのメガネ大邪神による拳が発射というに相応しい速度で撃ちだされた。
 加速開始と同時に音速の壁を超過。加速開始からしてソニックブームという非常識かつはた迷惑な一撃がたった一人を狙って放たれる。
 この一撃を体のどこかに引っ掛けでもすれば、今の柊ならば戦闘不能にするどころか死に追いやってあまりある。
 その上その一撃は、柊にとってはシエルからの鍵を受け取って回避行動をとるには遅すぎる。

 文字通りの 王手(チェックメイト)。
 メガネ大邪神は相手の投了を待つ気はなく、シエルの声に半分そちらを向いた間の抜けた柊を見て殺ったと確信する。
 拳は風を殺して進む。音すら置き去りにして、たった一人を殺すにはあまりある破壊力を秘めた拳が、今の今まで殺しきれなかったしぶとい羽虫を捕らえる―――


 ―――刹那。撃ち抜いた場所にあったのは、何の手応えもない残影だけだった。


 メガネ大邪神はあまりのことに一瞬認識が遅れた。
 ひどく長く感じる一瞬。
 時間にしてみれば、本当に瞬きほどの時間だっただろう。
 彼が外界の変化を感じ取るまでの、ほんのみじかな時間の出来事。
 拳が完全に伸びきるよりも早く。
 メガネ大邪神はその身に秘めた108の特技のうちの一つ<メガネ人感知>により、今まで存在しなかったはずの場所に唐突にメガネ人が出現したことを感じ取る。
 目線だけをそちらへ。
 吸い込まれるように向けた眼下には、青い輝きを湛えるウィッチブレードに寄り添うように手を添えた人影。
 「縁だけのメガネをかけた」柊が、メガネ大邪神に不敵かつ獰猛な笑みを向けている。

 柊の突貫になんの痛痒も感じていなかったメガネ大邪神が発した『痛い』という言葉。
 純粋な破壊力で言うのならば新八の石投げと柊の全力斬撃は比較することがおかしいくらいの差がある。
 新八は、メガネ大邪神の発した『メガネ愛のない一撃が私に届くはずがない』という一言と、現状を考察。
 そして彼は『メガネ大邪神はメガネをかけた相手にしか影響を受けない』という仮定を立て―――先の実験に至ったのだった。

 ともあれ、メガネ大邪神は自らを傷つけるだけの条件を満たし、障害から天敵をメガネの奥の瞳に映して魂を削られるような恐怖を覚える。
 そんな光景を見ながら、氷室が嘆息しつつ呟く。

「『木の葉落とし』とは渋いところをつく。……どんどんに多芸になっていくな、あいつは」

 彼女が口にした零戦のお家芸と呼ばれた特殊機動の名だ。
 柊がやったのは正確には木の葉落としそのものではなく、その派生・応用に近い。
 きちんとした回避機動では間に合わない速度とタイミングの拳撃に対し、エンジンを切り勢いに逆らわず相手の起こした風圧に乗って木の葉が落ちるように半分自由落下。
 その最中でゲシュペンストからシエルに渡され、シエルがフレームを強化して柊に投げた伊達メガネをキャッチしてかけたわけで。


 そして今ようやく訪れたたった一度の反撃のチャンスを、逃すはずもなく逆しまの青いほうき星が駆け抜ける―――!


 ただ一条の青い斬撃は、その日唐突に現れた世界の敵を逆唐竹に断ち割って。
 蒼穹に溶けるように空へ舞い、世界の敵の溜め込んでいた白い灯火を宙へ導くように先駆けた。



149 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 03:45:32 ID:iQJoa/85
メガネ柊とはまた貴重だなw支援

150 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:02:19 ID:Rm5Bzir6
 ***
 えぴろーぐ


「まったく、疲れたー」

 長い金髪の少女が、大きく伸びをした。
 彼女の名前はレベッカ宮本。桃月学園1−Cの担任教師である。
 レベッカは突如発生した異常事態に対し、生徒たちの助言を受けつつ他の教師と連携して事態へ対処。
 桃月学園の被害を0に抑え、全員を無事避難所に送り―――事態が収拾したことを確認して、生徒たちを学校へと誘導し終えたところだ。
 全員の無事を確認した後解散を宣言し、学校から生徒たちが帰っていくのを見つめながらそう呟いた。

「お疲れベッキー、今回は大活躍だったな」

 そう言いながら自分の担任の頭をなでるのは橘 玲(たちばな れい)。C組の魔女と恐れられるメガネっ娘である。
 頭触るなー! とムキになるレベッカの発言を無視しつつよーしよし、となでる玲。
 そんな光景を見ながら玲ちゃんグッジョブ! とサムズアップするのは同C組の片桐 姫子(かたぎり ひめこ)。
 確かに、と姫子の隣に立つ少女が微笑みながら言った。

「今日のベッキーはカッコよかったよ。先生って感じだったわね、珍しく」
「珍しくはよけいだっ! それにこんなのフツーだろ、私は先生だぞ、教師なんだぞ」

 上原 都(うえはら みやこ)のほめ言葉に、いつもの通りの愛想のない顔でそう答えるレベッカ。
 常ならば、ほめられれば少しくらいは満更でもない顔になるレベッカであるものの、今はどこか機嫌でも悪いのかその言葉にも仏頂面のままだ。
 姫子がそんな彼女の様子を気にすることもなくアホ毛を揺らしつつ姫子が提案する。

「ねぇねぇベッキー、これからヒマ? 今日一日お疲れ様ってことでセブンスミストでやってるケーキバイキングにでも行こうかと思ってたりするんだけど、どう?」
「多少のストレスはすぐ発散するに限るぞ。甘いもの食べたり、グチ叩いたりさ」

 姫子だけでなく玲からも同じ提案があるということは、おそらくは彼女たちの中で話が決まっているのだろう。
 ちらりと周囲を見れば、したり顔の百瀬 くるみやいつもどおりのテンションの一条、六号がいる。
 メソウサまでがいきましょうよー、と言っているところを見ると、すでに退路はないようである。
 その上、彼女も確かにイライラのもって行き所がほしかったのもある。だから、ひとつため息をつきながら腰に手を当てて生徒たちに答えた。

「……おごりはしないからな」
「ベッキーのケチー」
「ケチで結構。玲ですら文句言わないのにそういうこと言うなら置いてくぞ、姫子」
「こらベッキー、私ですらってどういうことだ?」
「言葉のまんまじゃないの?」
「よし。くるみの恥ずかしい過去を―――」
「すみませんでした玲様」

 そんなやり取りをしていると、一条が困ったような声を上げた。
 全員がそちらを向くと、彼女は自分のロッカーを開けたまま眉根を寄せていた。
 レベッカが声をかける。

「どーした一条、火事場泥棒にでも遭ったか?」
「……かもしれません」
「本当か? 何盗まれたんだ、言ってみろ」

 財布や携帯だったら、との考えからたずねたレベッカに、残念そうに沈んだ顔をしながら彼女は答えた。

「都さんに頂いた、チベット土産の象の像が……」

 象? とその場にいた全員が首を傾げて。
 届けを出しはしたものの、その置物の行方はようとして知れなかったという。




151 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:03:41 ID:Rm5Bzir6
 ***
 えぴろーぐ・2

「お前、今回は本当にいいとこなしだったよな」

 その言葉がざっくりと突き刺さりつつ、銀髪ツインテールの少女は至近距離にある青年の顔を恨めしげに見上げた。

「……そういうことは思っても口にしないでほしいでありますよ、わたくしの心は繊細にできてるでありますから」
「どこがだよ」
「針が山ほど突き刺さってもまったく意に介さないあたり、針山みたいな心臓してるわよね」
「あぁ、それは言い得て妙ですね」

 執行部室。
 部屋にいるのは御坂美琴と初春飾利、そしてメガネを返却した柊とノーチェだけだ。
 もともと部屋には柊とノーチェしかいなかった(他のメンバーは自校や避難所の手伝いで話の最初から出払っている)のだが、学園都市内の騒動を終えた美琴が。
 その後、「どうせならこちらの方が安全に仕事ができるでしょう」と空間転移でツンツン気味に白井が初春を送ってきたのだった。

 ちなみに柊とノーチェが至近距離にいる理由は治療魔術をかけるために接触する必要があるからである。念のため。
 柊を椅子に座らせて、患部をよく見るために一部上半身を肌蹴させつつ治療魔術を発動させているノーチェはうぅ、と唸りながら3人に視線を送る。

「その通りではありますが。そんなにわたくしいじめて楽しいでありますか」
「珍しいものが見えるから突っつきたくなってるだけよ、いじめてるわけじゃないって」
「ノーチェさんでも情報収集に失敗するんだなぁ、って思ってついつい……ごめんなさい」

 美琴と初春がフォローを入れるものの、ノーチェは確かに自分が役立たずだったことを自覚しているらしくずーん、という擬音を背負って沈み込んでいる。
 それでも治療を続けるあたりはその罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。
 オペレーターは前線には出ない。しかし、自分の行動ひとつひとつが前線に立つ人間の命綱になることを強く自覚していなければならない。
 自分の命を張るわけではないが、他人の命を握ってしまっていることに対して生じる責任は重すぎるほどに重い。
 今は病院がメガネの使徒たちの経過を見るためやけが人でいっぱいなため、自力で動く力のある柊は自分の治療のために病院に寄らずに執行部室に帰ってきた。
 もともと自分で応急処置を行うつもりだったものの、入ったと同時にノーチェがほぼ命令形でそこに直るでありますっ! と珍しく叫んで柊の機先を制し治療を始めたのだ。
 彼女自身が自分の責任を少しでも果たそうと思っての行動でもあるだろう、と思いながら柊は気圧されたこともあってノーチェの好きにさせている。



152 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 04:07:32 ID:iQJoa/85
お疲れ様でした支援

153 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:09:03 ID:Rm5Bzir6
 そんな様子を知ってか知らずか。
 美琴が沈み込みつつも真剣な表情で治療を行っているノーチェを好ましそうな目で見た後、柊に目線を移した。

「ところで、アンタいつの間に 曲芸乗り(マニューバ)なんて覚えたのよ。
 そもそも乗り物としての箒の扱いはそこまで慣れてないって言ってなかったっけ?」

 柊の魔剣はいまでこそウィッチブレードであるものの、ほんの少し前まではただの長剣だった。
 それゆえか、柊自身はそこまで箒に乗りなれていると言えるほどの動きができるわけではない。
 それが特殊機動である木の葉落としをやってのけたのだ。
 練習でもしていたのか、と問う彼女に柊は目を細めつつ答える。

「そんなことに割く時間が俺にあるわけねぇだろ」
「うん知ってる。んじゃ、どこであんなの覚えたのよ」

 柊はそれにすい、と視線を外しながらぶっきらぼうに答えた。

「……前に、才人の奴と話す機会があってな」
「平賀才人さんですか? トリステインでルイズさんの従者をやってるっていう?」
「あぁ。その直前に開発部の奴らが作ったプロペラ機使ってあれに似たようなことやってたから、どうやったのか聞いた」

 話の続きを待ってみても一向に話が続かないので、美琴は先を促すようにたずねる。

「……それで?」
「それでって、それだけだよ」
「えーと……要は、見よう見まねってことでいいんですか?」

 初春の問いかけにおう、という返答。
 三人の少女は驚きを通り越して呆れた、という表情で同時にため息をつく。

「なーんでこの馬鹿は、命に関わるぶっつけ本番をやってのけやがるのかしらね……」

 髪先でぱちりと、美琴の感情に呼応するように青い火花が小さく散った。
 仕方ねぇだろ、と嘆息。

「できるできないを考える前にそういう状況になっちまった上に、とれる選択肢がそれしかなかったんだからよ。
 うまくいったんだからよかっただろ」
「うまくいかなきゃ死んでるのよアンタ。少しは自覚して無茶控えなさい」
「お前にだけは言われたくねぇ台詞だよな」
「わたしもアンタにだけは同じこと言われたくないわね」

 そもそも執行部にいる人間に無茶するなと言うのは無理な要求というものだ。
 その代表ともなれば言葉をかけることすら無駄になりかねない。


154 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:13:42 ID:Rm5Bzir6
 むう、と呟いてノーチェが柊に話しかける。

「けど、蓮司もこちらに来てどんどんできること増えてってるでありますな。
 ヒマなときに淹れるお茶が段違いにおいしくなってて驚いたでありますよ」
「あぁ、この間来てたハヤテにいろいろ聞いて覚えた」
「地理にも意外と詳しいわよね」
「そりゃあっちこっち飛び回ってりゃな。抜け道だの最短距離だのを考えてりゃそうもなるだろ」
「最近魔剣使わなくても特殊能力者を止められるようになってるでありますし」
「身一つの方がどうやったって小回りはきくからな。色んな奴見たり、多少手ほどきしてもらったりしてるうちに前より動きに無駄がなくなったとは思ってるが」

 授業こそないものの、この男はこの男で学園世界に来てからというもの新たに学べることを貪欲に吸収していっているらしい。
 氷室の発言もこのあたりからきているのだろう。
 そんな話を聞きながら、にこにこ笑顔の初春が柊に言った。

「それだけたくさんのことを覚えられるんなら、そろそろ始末書の片付け方をきちんと覚えてもらいましょうか」

 ……すまん、と謝るしかない柊であった。




155 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:17:32 ID:Rm5Bzir6
 ***
 えぴろーぐ・3

 疲れた、と新八は内心でため息をつく。
 今現在彼がいるのは、元避難所のひとつ。事態が収拾すると同時に倒れたメガネの使徒たち。
 選抜委員らをはじめとするたくさんの人々が彼らを病院へと搬送し、その場にいたゲシュペンストはどこかに去り、シエルは後片付けを手伝っている。
 新八と氷室は保護、という形で避難所に移動させられたのだった。

 隣の氷室は同じ運動量をこなしながらも元気にずい、と身を乗り出しながら興味津々と言った様子で新八に話しかけた。

「なかなかの活躍だったではないか、志村。君と共に今日ここまで駆け回ったことは私にとっての天佑だったかもしれんな」
「活躍なんてほどのことしてませんよ。必死になって何かしてたらなんとかなったってだけの話です」
「謙虚だな。だが、あの局面でよく気づいた。
 何が汝にあの答えを導きださせたのだ?」

 氷室の顔には妖艶な笑み。
 悪戯心の詰まった小悪魔の微笑みに、新八は燃え尽きたように淡々と答える。

「最初に変だなって思ったのは、あの二人を放っておかなかったことです」
「あの二人、というのはゲシュペンストとシエル嬢のことか」
「はい。全部の攻撃を無効化できるなら、あの二人のことも放っておいていいはずです。通用しないわけですから。
 けど、そうせずにメガネの人たちをけしかけた。それは、自分に攻撃が届く範囲から追い出そうとしたってことなんじゃないかと思って」

 なるほど、と氷室は呟く。
 彼女はあの場において同じものを見ながらそこに気づけなかった。まず自分の安全を確保することで精一杯だったからだ。
 氷室には、彼女が新八を危険地帯に置きっぱなしにしないと信頼した上で熟考するという行動をとったのか、それとも考えなしなだけなのかの判別がつかなかった。
 意外と大器かもしれんな、と思いながらそれで? と話を促す。

「そしたら、どんどん言葉とか動きとかが引っかかってきて。
 けど、あの場にはメガネをかけた人でアレに攻撃できる人がいなかったから、確かめることができなかったんです。
 だったら、できるだけのことをしようと思って」

 それで、投石行為に及んだ。
 その言葉を聞いて、氷室は口の端を持ち上げた。
 度胸は十分。行動は整然。思考は直情。なんともまぁ、面白い人間だ。

「なぁ、志村」
「なんですか?」
「汝、報道委員に入る気はないか?」



156 名前:ぐらすうぉーず。:2010/01/15(金) 04:21:08 ID:Rm5Bzir6
 あまりに唐突な誘いに、新八ははい? と間抜けな声を上げるしかなかった。
 氷室の言葉はよどみなく続く。

「知っての通り、報道委員は世界におきていることの全てを世界中の人間に発信するのが仕事だ。
 その根底はこの世界に諦めを捨てる心を根付かせようとしているうちのリーダーの思想に他ならない。
 汝は戦う力がないことを自覚しながら、それでも諦めるという選択肢を選ばなかった。この仕事には十分な素質がある」
「え、えぇ? ちょ、ちょっと氷室さん、いったい何を―――」
「スカウトだよ、志村。汝さえよければ、私は汝を報道委員に薦めてもいい」

 彼女は笑みを深めながら問いかける。

「なにせ人手が足りない。汝のような人材が野にいると知っては、スカウトしたくもなるというものだろう。
 これはこれで楽しいぞ、力などなくとも戦うのが我らのポリシーだ。
 それにウチには先も言ったリーダー、アルヴィンと赤羽の弟くらいしか男手がなくてな。汝が入ると言ってくれれば彼らも喜ぶだろう」

 氷室はどうだ? とたずねてくる。
 新八は今の状況についていけずにはぁ、と生返事を返し―――その時、彼にかかる声があった。

 そちらを向けば、やる気のなさそうな白衣の国語教師と目にも鮮やかなサーモンピンクのお団子頭の少女の二人連れ。
 白衣の男はいつもの通りに紫煙をくゆらせて、ピンクのお団子少女は満面の笑顔でヒドいことを言いながら新八に駆け寄ってくる。
 それを見て、どうしてもわきあがる笑みを抑えきれずに新八は、視線はそのままに氷室に告げた。

「―――すいません、氷室さん」
「む? どうした志村」
「僕にはどうもあの人たちのそばの方が、性に合ってるみたいです」
「……そうか」

 ふ、と笑みを浮かべ。
 それ以上新八と視線を合わせることをせずに、氷室は告げた。

「ならば、行くといい。
 汝がこちら側に立つことも悪くないと思った時は、いつでも連絡をくれ。待っているから」

 それに一言はい、とだけ答えて。新八は迎えに来た二人の方に走っていく。
 少年の背中を見ながら、久しぶりに絵筆を取りたくなった自分を自覚しつつ、氷室はくすりと笑う。
 この経験をどんな記事にしようかと、そんなことを考えながら。

 またいつか、かの少年と運命の意図が交錯することを心のどこかで祈りながら。



 fin.

157 名前:夜ねこ:2010/01/15(金) 04:22:06 ID:Rm5Bzir6
 この話書いてる最中、マイメガネの左のレンズが取れた。こう、ぽろっと。(挨拶)
 ども、夜ねこです。なんとか予定限度ギリッギリでセーフ扱いでいいんだろうかこれ。
 いかがでしたでしょうか、これまでで最も馬鹿馬鹿しく、その割に理不尽な世界の危機と、立ち向かう人々の物語。

 ともあれまずはレス返しから。

>>60
 お待たせして申し訳ありませんでした。楽しんでいただけたなら幸いです。どうでしたでしょうか?

>>63
 知らない作品があっても〜と言われるのは二次作家にとって最高のほめ言葉だと思います。もったいないお言葉、ありがとうございます。
 他の大戦はまぁアレです。さすがに同じ分量書くのは無理があるんで、他の作者様に、お任せです。

>>65
 マジお待たせして申し訳ありません(汗)。

>>66
 うぅ、温かいお言葉ありがとうございます。体調崩したわけではありませんが、身にしみました。ありがとうございます。

避難所
>>153
 感想頂けるだけでもうれしいです。お気になさらず。

>>154
 GAキャラはどうしても出したかったので(笑)。
 こういう活躍のさせかたになってしまいましたが、どうだったでしょうか。立てこもり勢は全員あずまんが大王キャラですねー。あとは銀魂とはじめてのあくキャラが初出かな?


 とゆーことで今回出てきた(名前ありの)新キャラ。

志村 新八(しむら しんぱち)    銀魂高校@3年Z組銀八先生(銀魂)
神楽(かぐら)           同上
猿飛 あやめ(さるとび あやめ)   同上
阿久野 ジロー(あくの じろー)   三葉ヶ丘高校@はじめてのあく
渡 恭子(わたり きょうこ)     同上
榊(さかき)            あずまんが大王(学校名わからず)
『大阪』春日 歩(かすが あゆむ)  同上
美浜 ちよ(みはま ちよ)      同上
神楽(かぐら)           同上
『よみ』水原 暦(みずはら こよみ) 同上
山口 如月(やまぐち きさらぎ)   彩井学園高等部芸術科Aクラス@GA芸術科アートデザインクラス
大道 雅(おおみち みやび)     同上
野崎 奈三子(のざき なみこ)    同上
友兼(ともかね)          同上
野田 ミキ(のだ みき)       同上
早乙女 ハルナ(さおとめ はるな)  麻帆良学園都市内麻帆良学園中等部@ネギま!


 とまぁこのあたりでしょうかね、と。
 目指したコンセプトは『ギャグとシリアスをマドラーでぐるぐるした感じ』。別の言葉で言うなら『テン・タナカスターイル』。
 方向性を真似ただけで到底同じとはいえませんが、とりあえずそんな感じ。
 やる気出すために某所で上条さんマジパねぇっすタグをエンドレスループしてたら本当に脳がエラいことになった。あぶないあぶない。



158 名前:夜ねこ:2010/01/15(金) 04:25:23 ID:Rm5Bzir6
 多芸になってる柊はどうしても書きたかったもののひとつ。
 色んな人たちと触れ合うってのは、それだけで人に影響を与えるものなわけで、実は『執行委員の〜』シリーズでもちょいちょい書いてたことでもあります。
 環境から学ぶことって多いです。
 あずまんが組について。
 昔はあずまんがといえばアニメ誌の表紙を飾るくらいの人気作だったわけですが、最近の子あんまり知らないんですよねー。
 まぁそんな哀愁も含めていろいろ書きたかった。ともユリコンビはあずまんがにはない感じの間柄を目指してみました。あと開発部の発明品を出したかったのもその通り。
 GA組について。
 普通に前から好きだったGAですが、アニメ化の波に乗ってしまいました。五人の中では如月とキョージュが一番好きです。美術部員たち出せなくてゴメン。
 なんというか、掛け合いが止まらなくてどんどん話が長くなっていってしまった組です。楽しかったけど軌道修正が大変だった……。
 氷室について。
 愛してる(のっけからそれか)。今月は氷室関連本が二冊も出るまさに氷室月! 俺は容赦なく氷室を愛します。そして鐘はエロいというより艶やかなイメージ。
 銀魂組について。
 去年の11月くらいから書いてるのでまったく関連性はないはずなのですが、なぜかアニメ版の現EDが3Zですね。
 月詠は生徒やってるかと思ったら先生やってました。月詠先生えろーい。
 月詠といい神楽といい、銀魂キャラは学園世界で出そうとすると被る名前が多いことに気づく。(前者は禁書の小萌先生の苗字、後者はあずまんが)わかりづらいってよくないよね。

 学園世界の大騒動、楽しんでいただけたら幸いです。
 それでは。

 PS
 とりあえず、この作品を区切りにしばらくねこはこのスレを離れようと思います。
 自分のやりたいことをやるなら、誰かによりかかってばっかりではいけませんよね。
 そんなわけです。
 けれど学園世界みたいにこのスレ発祥のものはこのスレでしか書いちゃいけない気がしますし、このスレ発祥のものに関してはこちらで投下したいです。わがままですみません。
 約束もありますし、ここに投下するものもあると思いますのでお別れというわけではないのですが、また伺う時は投下できるものを持ってきたいと思います。
 また、皆様に喜んでいただけるようなことができたら幸いです。それでは、中途半端ですが区切りとして、これまでありがとうございました。

159 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 06:50:35 ID:BgXtuHZf
>>158
ディ・モールト・乙! お美事であります!
この笑いと燃えのケイオスは確かにテン・タナカスタイル。夜ねこ、恐ろしい子!
個人的には、「シエル本気じゃないサマー」等ちょこちょこ入ってる小ネタにも大変ニヤつかせて頂いたであります

ところで、「誰かによりかかってばかりでは〜」というのは即ち、not二次創作でということでありましょうか?
……さァさァ、洗いざらいゲロするんだ。商業同人問わず流通に乗るものならダッシュで買いにいくから

【バカは無茶を言った。だが買いたいのは本気のようだ】

160 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 07:19:42 ID:iQJoa/85
投下乙でした。
まゆりんが出てないと思ったら…ライスボールwwwwwwwwwwwwwwwwww

次回作、どこでやるのかは分かりませんが、頑張ってください。

161 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 19:08:15 ID:hc4+63qH
>>158
実にGJ!
新八っつぁんが見事に主人公してて驚きましたよ先生はww
テン・タナカは最強だということがよくわかりましたww

またどっかでお会いしたいです。またよろしくっ!


ところで。この像のコスプレしたまま見事に真っ二つにされた磨伸映一郎を見てくれ。こいつをどう思う?

【馬鹿は本編無視して事実を捏造し始めた】

162 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 20:28:58 ID:JEzw3mv0
>>158
投下乙でした。歪んだメガネ愛は無事砕かれましたねw
あずまんがには懐かしさを感じました。好きだったなぁ、ホント… 氷室は…結婚してくれ、マジで。

スレを離れられるのは読者としては、やはり残念ですね。学園世界でも以外でもいつでも大歓迎です。
これまで楽しませていただき本当にありがとうございました。

163 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 22:10:56 ID:nbdbsQH/
乙です、まさにシリアスとギャグのカオス空間
>>49の内訳が非常に気になる
というか、かなりおっさんホイホイ……

164 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/15(金) 22:21:51 ID:mlB5fyJy
>多芸になってる柊はどうしても書きたかったもののひとつ
違和感あるようなないような・・・
まあ、学生時代は戦闘ばっかな上それほど長くいませんでしたしね
元々のキャラを鑑みるにそんなもんか

165 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/16(土) 13:07:53 ID:KOe6b4zv
>>164
よくいる「それを勉強に生かせれば…」ってやつじゃないかな。

166 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/16(土) 17:13:04 ID:54TG8uFo
さようなら、よるねこさん。また会う日まで。
この時期って電撃大賞とかっすか?

167 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/16(土) 23:04:05 ID:Km5hunX/
>>165
流石はクレバー?(笑

168 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/17(日) 00:03:17 ID:hWXoS9kw
>>158

 すごく…メガネスキーです

 氷室がメインキャラなこともあって、田中天臭と共に、磨伸映一郎臭がして仕方なかった。
シスターカリーとか、磨伸絵でしか脳裏に浮かばなかったし。

 そういえば、遠野志貴は逃げおおせたのか、捕まって眼鏡の使徒になっていたのか…

169 名前:休日の過ごし方(???編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:14:03 ID:0w2nrQle
0時半から、投下します

170 名前:休日の過ごし方(???編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:29:53 ID:0w2nrQle
―――輝明学園女子寮 5階

とある休日、草木も眠る丑三つ時。
様々なものが眠りにつき、同時に夜を生きるものが活発に動くこの時間。
「…さてと〜♪」
身体から"抜けだした"少女が傍らで疲れきって泥のように眠る同居人を起こさぬよう、窓から飛び出す。
「やっぱり真夜中の"これ"はやめるわけにはいきませんね〜。7不思議の1人としては〜」
そんなことを呟きながら、いつものように少女は街へとくり出す。
この少女の就寝後の日課である散歩。それが全ての始まりだった。

「…おや〜?」
この時間だからこそ結構多くの"ひと"が行きかう道の一角。
そこでどこか見覚えのある顔を見つけ、彼女は首をかしげる。
「う〜む、どっかで見たような気がするのですが〜」
道の端で、所在なさげにたたずむその子に見覚えはある。しかもかなり最近。
だが、それが誰なのかは分からない。
「誰なのかはさっぱり思い出せませんが、まあ、こういうときは…」
とりあえず動け。そうすればなんとかなる。いつものようにそう考えて少女は行動に移る。
彼女は結構責任感が強い方だった。でなければ30年も母校を守ってたりする前に"帰って"いたはずだ。
そんなわけで彼女は気さくに話しかける。
「もし〜。そこの軍用ゴーグルがお似合いのお嬢さん〜。何かお困りですか〜?」
まさか話しかけられるとは思っていなかったのだろう。その声に少しだけ身体をふるわせ、その少女が振り向いて…

休日。
学園が転移して出来たこの世界に、休日出勤などと言うサラリーマン的なものは存在しない(一部教師除く)
毎週1度、所により2度は訪れる休日。学園世界において、その過ごし方は様々である。

学園都市や麻帆良、蓬莱など"学生の遊び場"が充実している学園に遊びに行くもの。
購買で依頼を受けたり、自主的にダンジョンに向かったりして"冒険"に明け暮れるもの。
"研究者の楽園"ザールブルグアカデミーで学業を忘れてひたすら研究に勤しみ、議論を戦わせるもの。
居住区で、出会った異世界の同好の士たちと様々な"同好会活動"を行うもの。
学園海や学園都市で"アルバイト"に精を出すもの。

そして、"超能力者:御坂美琴"が選んだ休日の過ごし方は…


171 名前:休日の過ごし方(???編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:32:30 ID:0w2nrQle
―――総合学園都市

生徒数約180万、総人口約230万。
すべて学園とその関係施設で出来ているが故に『都市丸ごと転移』と言う結果を招いてしまった、1つの街。
その街で、物語は始まる。
日曜日、最も人の行き来が活発になる午後の2時。
「…これ、笛の音?」
御坂美琴はふと、その笛の音に気づき辺りを見渡す。
その日、学校は休みで今日の担当はベホイミとエリーで執行部も行く予定は無し。
と言っても友人である初春(と黒子)は今日は『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事だとかで朝からいない。
そんなわけで美琴は街をぶらぶらしていた。
ちょっぴり、そうほんのちょっぴりだけあの、ツンツン頭と出会っちゃったり(エンカウント)するんじゃないかなーと思っていたが、どうやら当てが外れたらしい。
本人に言ったら全力で否定するだろうけど。
閑話休題。
さて、そんなわけで街をぶらぶらしていた美琴の耳がそれをとらえたのが、その日の出来事のきっかけだった。
どこか物悲しくも、安心させるような笛の音。
「…う〜ん…笛だけど、何の笛だろ?」
美琴は名門常盤台中学のお嬢様としてクラシックは聞き慣れているし、ポップやロックと言った若者向けの音楽だって聞かないわけではない。
だが、その笛の音はそんな美琴でも聞いたことのない音と曲だった。
どうやら周りの人には聞こえていないらしく、周囲の通行人は気にする様子も無く歩いて行ってしまう。
「な〜んか気になるし、行ってみよっと」
その様子にかすかな違和感を覚えた美琴が、その音のする場所へと向かう。
音は、人気のない路地裏から聞こえてきていた。

―――路地裏

「んっと…あそこの人かな?」
路地裏を抜けた先、人気のないちょっとした空地にその少女はいた。
見慣れない、変わった形の笛を手にした、長い黒髪の、美琴より少し年上…高校生くらいの少女。
その少女は今。
「あはは…困りましたね」
美琴と黒髪の少女以外誰もいない路地裏をぐるりと見回しながら、汗をたらりと流して頬を掻いていた。
「目的のひとだけ呼び寄せたつもりが、まさか同じ顔の子がこんなに集まるとは思っていませんでした…」
相変わらずキョロキョロと辺りを見回す少女は、美琴が視界に入ってもまるで気にした様子はない。
まるで、そこに美琴がいるのに気づいていないかのように。
「あの〜…」
「えっと、昨日…じゃなくて今日だったかな?桜花さんに会ったって子は誰だか分ります?」
その少女はまるで美琴がそこにいないかのように1人ごとを喋っている。
「あ、すみません。いっぺんに言われると聞きとりきれないので、1人ずつお願いします」
「あの〜!」
奇妙なことに少女の1人言はまるで誰かと話をしているかのような様子だった。それも沢山の人と。
美琴には完全に背を向けているのに。
「そうですか…分かりました。この中にはいないみたいですね。ありがと…「無視してんじゃないわよ!」ひゃい!?」
バチィ!
思いっきり無視されてちょっとだけムカッと来た美琴が苛立ち紛れに放電しつつ、強く話しかける。
それにビクリと少女は反応して慌てて振り向いた。
「ちょっと、駄目ですよ!いきなり騒霊現象(そんなこと)したらびっくりしちゃうでしょう!?」
「え…っと、ごめんなさい…ってえアンタが無視してんのが!」
強くたしなめられ、美琴が謝りかけて再度抗議しようとしたところで、少女が固まる。
きょとんと。
「な、なによ?」
「え〜と…」
再び困った顔になる少女。
「なんで生き…じゃなくて!あ、なるほどおりじ…でもなくて!もしかして、執行委員の御坂美琴さん!?」
今気づいたんかい。
そんな突っ込みのセリフは、辛うじて飲み込んだ。

172 名前:休日の過ごし方(???編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:34:52 ID:0w2nrQle
―――某公園

数十分後。
「さっきはごめんなさい。ちょっと気付かなかったもので」
缶のお茶を抱きながら、黒髪の少女は美琴に頭を下げる。
「いや、こっちこそごめんなさい。なんかカッとなっちゃって」
一方の美琴もヤシの実ソーダを抱きながら年上の少女に深々と頭を下げられ恐縮して謝る。
「それでえっと、わたしは…知ってるんですよね?」
「はい。執行委員の御坂美琴さんですよね?」
にっこりと笑顔で黒髪の少女が答える。ほんわかした、温かい笑顔だ。
「あ、申しおくれました。私は、輝明学園に通っている氷室キヌと言います。おキヌとでも呼んでください」
その笑顔のまま、少女…おキヌが自己紹介する。
「はあ…で、あの、おキヌさんはあそこで何を?」
「う〜ん。多分、何かを探しているんだと思うんですけど…」
思うって。
どうもはっきりしない理由に美琴が首をひねった、その時だった。
「あ、いたいた。氷室さ〜ん!ようやく見つけましたよ〜!」
「ど〜も同じような子がたくさんいるみたいですけど〜、そっちはどうでしたか〜?」
2人の少女、どうやらおキヌを探していたらしき声が聞こえる。
「あ!アカネさんに桜花さん。ちょうどよいところに」
「え?何かありました…あれ?」
近寄って来た2人の少女…メガネの少女とおかっぱの少女が美琴を見て不思議そうな顔をする。
「この子は…え?お姉さま?」
おキヌと同い年くらいのメガネの少女は何故か誰もいない横を向いて誰かに確認するように。
「ああ、思い出しました。ほら、玲子。女帝さんですよ女帝さん〜。いやあ〜TVで見たとは気づかず…」
美琴と同い年くらいのおかっぱの少女が嬉しそうに美琴にとってはあんまり嬉しくないあだ名で呼ぶ。
「な!?ちょっと!誰が女帝よ!?」
その呼び方に反応し、思わず美琴が声を荒げる。放電付きで。
「うわっ!?」「きゃあっ!?」
その放電に驚いたおキヌとメガネの少女が同時に声を上げる。
「え?違うんですか〜?」
その放電に毛ほどもビビらず、おかっぱの少女が首をかしげる。
「…っく。そりゃあ一部の、ほんのごく一部の馬鹿がそう呼んでるのは知ってるけど…」
美琴が悔しそうに目をそらす。
さすがにツンツンヘアーでも柊でも黒子でもない普通の女の子に手を上げたら拙い。色々と。
「ま、まあ桜花さん…とりあえず自己紹介しますね」
天然気味の相棒をとりなすようにメガネの少女が美琴に言う。
「私は、輝明学園の赤根沢玲子(あかねざわれいこ)と言います。よろしくお願いしますね」
メガネの少女…玲子に続くように、おかっぱの少女も言う。
「どうも〜。同じく輝明学園の倉沢桜花(くらさわおうか)です〜。桜花ちゃんとでも呼んでくださいね〜」
のんびりとした口調で、おかっぱの少女…桜花も自己紹介する。
「いや、あの感じだと多分聞こえて無いです…いや、そんな驚いた顔されても」
桜花の自己紹介に続いて、玲子が困ったような顔をして、やはり誰もいない虚空を見る。
「あの〜…玲子さん、ですよね?さっきから誰に」
「あ〜、そう言えば、ようやく分りましたよ〜」
その様子を不審に思った美琴を遮るように、微妙に空気が読めてない桜花がおキヌに話しかける。
「え!?本当ですか?」
「はい〜。つっち〜に聞いたら一発でしたよ〜。同僚が知ってたぜよって。やはり持つべきものは仲魔ですね〜」
うんうんと頷く桜花。そして、何かに気づいたように美琴に向きなおる。
「あ、そうだ〜。え〜と、女帝さん?」
「女帝言うな」
「冗談です。美琴さんは、今、ヒマですかね〜?」
美琴の突っ込みはやはり気にせず、桜花が美琴に問う。
「へ?そりゃあ…少しなら…」
一方の美琴もそんな桜花にペースを崩されてしまい、ちょっとだけ素になった美琴が返す。
「それじゃあ…ついて来て貰えませんかね?いえ、そんなにお時間は取らせませんので」
その一瞬。
桜花は打って変わって真面目な、懇願するような表情で美琴に問いかける。
まるで、否とは言わせないとでも言うように。


173 名前:休日の過ごし方(???編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:37:01 ID:0w2nrQle
―――操車場

「ここって…」
連れてこられた場所で、美琴は息を飲んだ。
そこは、学園都市内を走る電車の操車場。
「なんで…?」
そこで出会った恐ろしい記憶を思い出(フラッシュバック)し、美琴の顔が蒼白になる。
「やっぱり、間違いなさそうですね」
「そうですね。となるとここに…」
「はい〜。探しますよ〜」
そんな美琴の様子を見た3人は、何かを確信したかのように辺りを探し出す。
「ちょっと!アンタら一体なに「見つけました!多分あれです!」
美琴のセリフを遮るように、電車の下を覗き込んでいた玲子が、叫ぶ。
それに反応して2人と、それにつられるように美琴が電車の下にあつまる。
「ありましたね〜」
「はい…ただちょっと手は届きそうにありませんね」
そこに、光を反射して僅かに輝く何かが見える。場所は電車の下のちょうど中間。どちら側から手を入れても多分届かない位置だ。
「となると…桜花さん「ちょっと待ちなさいよ!」」
美琴のことはほったらかしで話を進める3人に、美琴が叫ぶ。
「とりあえず、アンタらが何をしようとしてるのかはさっぱり分からないけど…」
すぅっと手を伸ばす。
「ようはそれが取れればいいのね?」
バチィ!
そう言った瞬間、美琴の手に電流が走る。そして。
パシィ!
美琴の能力(エレクトロマスター)で瞬間的に強力な電磁石と化したそれが、同じく電磁石となった美琴の手に吸い寄せられる。
「ほら。取れたわよ。一体これが…!?」
その手に握られたそれを確認して、美琴の表情が驚愕に彩られる。
「これって…まさか!?」
それは、1つのバッヂだった。
安全ピンが取れてしまい、上から押しつぶされてひしゃげ、更には…べっとりと血がこびりついたそれ。
そこいらのガチャガチャで簡単に手に入れられるそれは…
「あのとき、あの妹(こ)にあげた…!?」
かつての、美琴の"プレゼント"である。
「はい。そうです。それを探してました」
驚愕する美琴に、おキヌが悲しげに頷く。傍らの…虚空にずっと佇んでいたそれを見ながら。
「それを失くしちゃったこと、ずっと気にしてたみたいです。それで…」
玲子が悲しい瞳で、だけど優しくそれの頭をなぜる。慰めるように。美琴の目にはけして写らぬ、その…少女を。
「それは〜、彼女…9982号さんに必要なものだったんですよ〜。彼女が"成仏"するために〜」
そして、2人に頼み、1日中それを探しまわった桜花が言葉を紡ぐ。そして。
「9982号さんが無事に逝けるように、美琴さんも来て下さい。彼女を悼む…参列者として」
死者を送るための儀式へと誘う。学園世界の守護者にして…彷徨える御霊としての責務を果たすために。

174 名前:休日の過ごし方(鎮魂編)@学園世界:2010/01/17(日) 00:38:03 ID:0w2nrQle
―――公園

「ここでいいの?」
美琴がよく使う自動販売機の、すぐそば。
並み木の下を掘り起こし、バッヂを"埋葬"し終えた美琴が3人に尋ねる。
「ええ。そこがいい、と。後は…」
頷いたおキヌが懐から経文らしきものを取り出す。
「それは?」
「鵺野先生から借りてた、お経です」
そして、朗々と読み上げる。幾多の彷徨える御霊を成仏させてきた、学園世界でも屈指の霊能力の持ち主が使っている、経文を。
「よく分からないけど…よく、分からないのに…」
霊を慰め、解放するその言葉を聞き、ほとんど忘れかけていた彼女を思い出した美琴は涙を流す。
美琴が初めて出会い…たった1日にも満たない間共に行動し…そして、結局助けられなかった、妹。
彼女が自らの犯した罪と向き合うきっかけとなった、可愛い妹。
それを思い出し、美琴は泣きじゃくる。そんな時だった。
「…お姉様には涙は似合わない、とミサカは泣きやんでくれるよう懇願します」
「…え?」
まるで"妹達"のように喋る桜花に、美琴は顔を向ける。そこには。
「…私の身体をお貸ししました〜。少しの間ですが〜、お話してあげてはくれませんか〜?」
微笑む玲子の傍らに"浮かんだ"桜花が笑顔で言う。そして。
「死んでしまったことが悲しいのは、嬉しいことだと、ミサカは矛盾する気持ちを口にします」
見かけこそ桜花のままだが、同時に、間違いなく『あの日の実験で命を落としたミサカ9982号』である少女が、美琴に言う。
「どういう、意味?」
「それは…」
その言葉の意味が分からず聞き返す美琴に、9982号は少しだけ考えて、その答えを言う。
「もし、お姉様に出会うことも無く、あのまま実験に挑んでいれば、そもそも迷わなかったはずである、とミサカは推論を口にします。
 それが、あのとき、死にたくないと思い、死んで悲しいと思ったのは、お姉様(オリジナル)との楽しい時間をもっと過ごしたかったからだった、とミサカは回想します。
 そして、その"楽しい時間"が持てた分だけは何も無かったよりも幸運だった、とミサカは結論を口にします。
 だから…幸運であったこのミサカはお姉様には泣いてもらうより笑って送って欲しい、とミサカは事態に便乗して一生のお願いを口にしてみます」
必死に紡がれた、その言葉。
「…アンタ、ちょっとずるいわね」
その言葉に、ちょっとだけ苦笑するような笑顔で、美琴が言う。
「…女はいつだってずるいものである。とミサカはどこかで聞いたような言葉を口にします」
無表情にとぼけた台詞を返す9982号…その顔もどこか笑っているようで。
「分かったわよ。もう、泣かない…行ってらっしゃい」
涙を拭き、笑顔で美琴は9982号を送る。それに対し、9982号は。
「…それでは、用がすみましたら―――――」
うっすらと微笑んでぺこりと頭を下げ、次の瞬間ガクリと崩れ落ちる。
「あ…ちょっと!?」
それを慌てて起こした美琴に、うっすらと目を開けた桜花が言う。
「…大丈夫ですよ〜。彼女は、無事、旅立ちました〜」
グッと親指を挙げて返す。
「…そう」
霊を見ることのできない美琴にはそれが本当なのかは分からない。分からないが、それはきっと嘘じゃない。
そう確信した美琴がただ一言、3人に言う。
「…妹が本当に世話になったわね。ありがとう」
と。
かくして、御坂美琴の奇妙で切ない休日は終わりを告げた。
…なお、後日、御坂美琴が"お参り"に訪れたとき、バッヂの埋められた場所に1本の缶コーヒーが供えられているのを見つけることとなるのだが、それはまた、別の話。



以上です。
特別編は御坂美琴がNWキャラと絡むような話と言う事で、今回のお話に。
…実はコミック版は単行本でしか読んでないので矛盾した場合は平にご容赦を。
ちなみに美琴は今回の話では科学万歳の子につき"全く見えない"と言う設定で書いております。
…ど〜も2040年位の悪魔が闊歩する東京に出現したと言う噂も聞きますが。それはそれ。
ちなみに他の3人はバリバリに見えています。魔法よりの方々って言うかほぼ専門職なので。

175 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/17(日) 00:53:00 ID:ymphh5LA
投下乙です。

こういう補完系のしんみりした話もいいですね

ていうかぬーべーやっぱりいたんですねw

176 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/17(日) 10:35:45 ID:O+0/mtMd
乙です、リクに応えてもらってありがとうございますです!

177 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/17(日) 10:37:06 ID:9Lqr0HCU
>>174
 乙ですー。
 9982号の最期には涙涙だったので、こういう形のエピローグが書かれるとつい涙が……。
 童守小学校もあったのか、すごいな学園世界。

>>158
 乙っすー。
 感想は他の人が言ってるんで疑問を一つだけ。
 ……なんでベッキーむくれてるんスか(謎)?

178 名前:@学園世界:2010/01/18(月) 23:00:14 ID:sQE9mWiY
止まっているようなのでレス返し
まずは正義のミカタから

前スレ>>841
ヴィヴィ先生は一応シェリフ繋がりで学教連向けに色々作っています。いわば1人開発部。
弟子ともども生粋の発明家です。

>>852
ヨマコ先生とユゥリィ先生のコンビは前々から考えていたネタだったり。
…そう言えばユウリィ先生ってシェリフスター持ってる可能性あるんだよな〜とか思ってみたり。

そして休日の過ごし方。
テーマは心霊と科学の関わり。学園世界だと2つとも超余裕で存在するのでこういうこともあるかな、と。

…原作で死んだあの人やあの人が虚(BLEACH)や屍(屍姫)になったりしたら大変だよな〜とか考えたのは、内緒です。
どっちも退治の専門家は学園世界にはほとんどいないでしょうしね。

>>175
NWキャラが絡む話と言うわけで今回のお話に。思った以上にシリアスな展開となりました。

>>176
てなわけでリクエストに応えてみました。いかがでしたでしょうか?

>>177
美琴のお話と言うリクエストでしたので。どうせなら学園世界ならではのつながりにしようかな、と。
ちなみにぬ〜べ〜については、転任前か後かはあえて明記しません。今後、他の作者様によって決まることもあるでしょう。

…そう言えば、休日の過ごし方(バザール喫茶店編)でちらっと鐘が言っていた記憶操作ができる少年って、誰だったのでしょう?
所沢市在住の首領様辺りかなとは思っていたのですが。

179 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/19(火) 22:29:44 ID:KlSMRZ2F
いまさらな上ながれ切るようでもうしわけないのだが
そういえば命は灯特製雑煮をくったりしたんだろうか

180 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/19(火) 22:37:40 ID:Gh0pKuJa
あかりんが作って命に持っていけばほぼ間違いなく食べる事になるんじゃなかろうか?
しかも雑煮だから醤油ベースと味噌ベースで
それぞれ能力の違ったあかりん弁当(クリーチャー)になったりするんですねわかります

181 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/20(水) 15:04:27 ID:9L2e33cR
ダンス・ウィズ・ザ・バンパイアバンドにノーチェが居た様な気がしたが、他人の空似だった。

アニメバンドOPのあのヤバ過ぎる衣装で激しく踊り狂うノーチェ・・・・・・

182 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/20(水) 19:32:22 ID:M4QlGjnA
> 踊り狂うノーチェ
どじょうすくいしか想像出来ねえ

183 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/20(水) 22:20:12 ID:4r754Wg7
今週のサンデーを読んでいて、学園世界で柊とくれはが1日入れ替わったら、と言う電波が飛んできた。

書類仕事で精神が死にそうになる柊inくれはと禰宜の格好で調停(必殺技:隕石落とし)なくれはin柊w

184 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 01:54:57 ID:16EZJ9+d
バカテス見て思ったが柊が文月学園に行ったらやっぱりFクラスなんだろうかw

185 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 02:15:41 ID:BlkWuBYZ
振り分け試験日に任務が入って0点相当とかきっとそんなん。

186 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 03:26:40 ID:VxAGusCv
そこから始まる恋物語ですね。

187 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 08:45:43 ID:Nq5dI5qU
濃い物語と申したか

188 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 09:30:53 ID:g57H6rO6
鯉藻の下足り

189 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 09:57:04 ID:S5xKeWa+
え、馬化物語じゃないの?

190 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 17:51:21 ID:FnnAkeSI
>>184
たとえAクラスで入っても、次の日には家庭の事情でFクラスに下がっているまで読んだ

191 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 17:58:08 ID:fIkTtbcm
むしろ柊が入るとFクラスがH(ひいらぎ)クラスに下がる。

192 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 18:41:19 ID:16EZJ9+d
設備どんなことになるんだよそれw

193 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 19:02:13 ID:VxAGusCv
床がない

194 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 19:09:28 ID:MjI/acaj
どこの芸能人格付チェックだ

195 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 21:31:55 ID:Ey9T/reK
答えを書く場所を一つずつ下げて書いちまったとか?結果零点でFクラスとか。
しかし、フラグを立てる隙がない(ほとんどの女子は好きなやつがいる)から
そっち方面では問題ないだろうけど、突っ込みどころが多すぎて力尽きそうな気が。

196 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/23(土) 22:18:01 ID:BlkWuBYZ
あかりんと仲良くなった結果料理がさらにパワーアップする姫路さん。
霧島さんの愛情表現の仕方を見習うあかりん。

197 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/24(日) 12:41:18 ID:kk1bfSvP
こっちに投下するのは久しぶりだ……

マジ恋ネタで学園世界もの、投下大丈夫かな?

198 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/24(日) 13:10:23 ID:Y6QsQ5Ij
>>197
大丈夫だと思うよ
だが今から外出するので支援は出来ないがorz

199 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:11:06 ID:kk1bfSvP
大丈夫そうなので、投下いくよー

「はあ……」

 黛由紀江は、オープンカフェの席に座りながら、ため息をついた。
 その視線の先には、楽しそうに談笑しながら、学園世界を歩いていく女の子の集団。

「楽しそうだなあ……」

 それに対し、由紀江と相席するものは一人もおらず、どちらかと言うと遠巻きにその姿を眺められている。

「私も友達、欲しいです……」

 はらはらと涙を流しながら、由紀江は一人つぶやいた。

200 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:11:50 ID:kk1bfSvP
 由紀江には川神学園が学園世界に接続される以前から、友達と呼べる存在は一人もいなかった。
 田舎から遠く離れた川神学園に進学したのも、友達を作るためだ。
 その甲斐あってか、つい最近になって、風間翔一率いる「風間ファミリー」の一員になることが出来た。
 それ自体は喜ばしいことだったが、最近になって問題が生じてきた。
 彼らの居場所である「秘密基地」までは、この学園世界に接続されなかったのだ。
 何とかして代わりになる「秘密基地」候補を探そうと、翔一が学園世界中を駆け回るようになった。
 古参メンバーの一人、直江大和も、学園世界での人脈を増やすために、奔走している。
 残ったメンバーも、なんとなく学園世界でのファミリーの居場所を見つけられないまま、今まで散り散りになってしまった。
 結果、由紀江もまたしばらく一人に逆戻りと言うわけである。

「せっかく、友達を見つけられたと思ったのに……」
「大丈夫だまゆっち、まゆっちにはオラがついてるぜ!」

 誰もいないはずの席に、くぐもった声。
 由紀江がポケットをまさぐると、それは出てきた。
 小さな黒馬のストラップ。

「そうでしたね、松風。私は一人じゃなかったですね」
「あたぼうよ、オラはいつだってまゆっちの味方だぜ?」
「ありがとう、ありがとう松風……」

 しかし、それを見る周りの目は。

(お、おい、あの子、携帯ストラップに話しかけてないか……?)
(もしかして、ちょっとイタイ子……? やべー、顔はすげー好みなのに……)
(てゆーか、あの刀、どこか危ない人なんじゃ……)

 と、かようにとても冷ややかであった。

201 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:12:46 ID:kk1bfSvP
「どうすれば、友達が出来るんでしょうか……?」
「まゆっち、友達を作るのは簡単なんだぜ? まずはサーブ、次にトス、最後にアタックが肝心だぜ?」
「松風、それはどういうことですか?」
「いいか、まゆっち。最初にきっかけを作る。そいつと話をする。そして最後に『お友達になってください』って言えばいいんだよ」
「それは分かります…… でも、きっかけがなかなか掴めなくて……」
「まゆっち、きっかけと言うのはな、待ってても来ないもんなんだぜ? まずは当たって砕けろの精神で突撃かますんだ。大丈夫、まゆっちは出来る子だ、がんばれまゆっち」
「そ、そうですね…… 分かりました松風! 私、がんばって見ます!」

 由紀江はおもむろに席から立ち上がった。

(ストラップと独り言話してるかと思ったら、急に立ち上がったー!?)
(何、何!? 何をする気なの!?)
(こえーよ、この子! 目が何かぎらついてるし!)

 ほかの客たちは遠巻きに、自分たちにお呼びが来ないよう、必死に祈っていたとも知らずに。



202 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:15:22 ID:kk1bfSvP
 麻帆良学園。公園で一人、せわしなく首を動かす小柄な生徒がいる。つややかな黒髪を片方に結い、手には刀を握り締めている。

「私のお友達候補その1、麻帆良学園中等部の桜咲刹那さん。今なら一人、話しかけてみれば、きっとお友達になれるはず……」

 ぎゅっと刀を握り締めて、由紀江はその様子を木陰から見守っていた。
 後はタイミング。そう、タイミングを見計らって……
 心臓が高鳴る。こくん、とつばを飲み干し、がさっと、おもむろに顔を出す。

「あ、あのっ!」

 由紀江がそう叫んだそのとき。
 突然彼女の背が叩かれる。

「おい、こんなところで何してるんだ、お前?」
「え?」

 ついに聞こえた男の声に、思わず振り返る。
 その顔は一度見たことがある。
 柊蓮司。学園世界では知らないものがいない有名人である。

「え、いや、そのですね、私、別に怪しいものじゃ……」
「いや、刀持ってそんなこと言われても説得力あんまりねーし」
「あの、その、これはですね、私の大事なものと言うか、決して人を害しようなどこれっぽちもですね」
「とにかく。お前のことを不審に思ったやつからの通報があったんだ。ちょっとこっちに来てもらうぞ」
「え、そんな、ちょ、困ります! 私は何も悪いことは……」
「あーはいはい、とりあえず所属してる学校から教えてもらおうか」
「いやあああああああああああああ!!」

 由紀江は柊に引きずられ、詰め所へと連行されていった。
 それと同時に。

「せっちゃーん」

 刹那の待ち合わせしていた人物が到着した。

「お嬢様」
「ごめーん、待った?」
「いいえ、ちっとも。今日はどちらへ?」
「うん、ちょう、遠出しよう思ってな、せっちゃんも一緒についてきてくれへん?」
「お安い御用ですよ、お嬢様」




203 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:16:48 ID:kk1bfSvP
「あうう、ひどい目にあいました」
「ファイトだまゆっち、今回はたまたま運がなかっただけさ」

 詰め所から解放され、とぼとぼと歩く由紀江を、松風が慰める。
 その様子を遠巻きで柊たちは。

「……おい、あの子ストラップに話しかけてるぞ」
「でありますなー。最近の流行でありますか?」
「そんなわけねーッスよ。単にイタイ子なんだと思うッス」
「なんか、ちょっと気の毒に思えてきた……」

 くっと、柊は顔を抑える。
 そんな柊たちの会話に気づくことなく、由紀江は、松風と相談を続ける。

「一体、何がいけなかったんでしょう?」
「まあ、まゆっちのことをよく知らないやつが、不審人物と間違えて通報してきたのが原因の一つじゃね?」
「一つ? 後は一体……?」
「やっぱりさあ、物陰に隠れていきなりがばあ、はふつー引くと思うぜ? もっとふつーに、ふつーにやってみようぜ?」
「普通に、普通に……」
「そうさまゆっち、まゆっちならきっと出来るぜ。一回失敗したくらいなんだ、もっかいぶつかっていくくらいの気概を見せてみろ」
「そうですね松風。まだ私のチャレンジは続きますからね」

 むん、と気合を入れて由紀江は歩き出した。




204 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:17:41 ID:kk1bfSvP
「第2のお友達候補、輝明学園高等部2年、芳緒菖子さんと美紅さん、私と同じ剣を志すもの同士ならば、きっとお友達に……」
「まゆっち、あんまりそういうこと言わない方がいいぜー。それ、何かのフラグっぽいからよー」

 松風の警告を無視し、由紀江はひそかに闘志を燃やす。
 由紀江は、楽しそうに談笑する菖子と美紅の後ろをそっとつけている。
 見る人が見れば、ただの辻切り魔である。
 しかし本人にはその自覚は薄く、二人に話しかけるタイミングを、今か今かと待ち構えている。
 少し距離を詰める。心なしか、少し離れた気がする。また距離を詰める。また離れた。

「あれ? これって……?」
「あぶねーフラグバリバリじゃね?」

 人気のないところまで来たところで、二人はおもむろに振り返り、月衣から刀を抜いて由紀江に突きつけた。

「えええええええええええ!?」

 素っ頓狂な悲鳴を上げる由紀江。

「あたし達をこそこそ付回すのは貴方ですね!?」
「何をたくらんでるの!?」
「え、いや、そんな、企むだなんて、ととととんでもないです! 私はただですね、お二人とお友達になりたくてですね……」
「ごまかされませんよ!」
「さあ、誰に頼まれたの!? きりきり吐いてもらうわ!」
「え、えええええ!?」

 まずい。これはまずい。
 二人は頭に血が上って、こちらの弁解なんて聞く耳を持ちそうもない。
 ここはひとまず……

「撤退ですううううううう!!」

 由紀江は一目散に逃げ出した。

「あ、待ちなさい!」

 菖子は追いかけようとしたその瞬間。
 足元の小石に躓き、派手に転んだ。

「あううう……」
「大丈夫? 本当についてないわねえ……」
「面目ない……」




205 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:21:06 ID:kk1bfSvP
「また失敗しました……」

 一人、さめざめと泣く由紀江。何でこうもうまくいかないんだろうと自問する。

「元気出せまゆっち。まゆっちのことを分かってくれるやつだってきっといるさ」
「そ、そうですね…… 大和さんたちみたいに、私とお友達になってくれる人、必ず出来ますよね?」
「当然じゃん、まゆっちがいい子だってことは、オラちゃーんと分かってるぜ?」
「はい!」

 由紀江は涙を吹いて、元気よく頷いた。
 そこに。

「おーい、まゆっちー」

 知った声がかけられる。

「大和さん? どうして……」
「いやあ、輝明学園の知人から、不審人物が芳緒姉妹を尾行してるっていうからさ、特徴聞いてみたら、まゆっちそっくりっぽいから、もしかしたらと思って追いかけてみたんだよ」
「そうでしたか…… ご迷惑おかけします」
「友達になれそうな人、探してたのか?」
「はい、今日も失敗しちゃいましたが……」
「ふーん……」

 大和は少し落ち込んでいる由紀江の肩をぽんと叩いた。

「大丈夫だって、いざとなったら、俺も手伝ってやるからさ。幸い、輝明学園には知人が多いからさ、まゆっちの悪い噂の火消しくらいなら手伝ってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「それから、芳緒姉妹にも、まゆっちのことをうまく紹介してあげるからさ」
「すみません、何から何まで……」
「何、友達の助けになるのは当然だろ?」
「あ……」

 由紀江の胸にジーンと熱いものがこみ上げてきた。

「じゃあ、行こうか、まゆっち。友達作り、俺も協力するからさ」
「はいっ!」

 黛由紀江。
 友達百人計画(学園世界版)、ただいま絶賛継続中。

206 名前:それぞれの溜息の理由――黛由紀江の場合◇学園世界:2010/01/24(日) 13:24:11 ID:kk1bfSvP
以上。

一瞬、まゆっちにベルが近づいて、的なネタも考えたんだけど、素直に没にしたw
このネタで後2本ほど考えているけど、機会があったらも一度投下してみたい

207 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 08:34:21 ID:D50N6vnx
乙乙。ん、もしかしたら川神学園が来たとき柊VSモモ先輩とかあったのか!?

208 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 09:35:31 ID:eYoa6Qo7
>206
そんなまゆっちに、黒薔薇の指輪が届くのですね。

「さあ、今のこのセカイを、あなたの“トモダチ”がいるセカイへと創生(リジェネシス)するんです」

209 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 14:46:21 ID:+6qm+ibE
まあ学園世界的には刀抱えて挙動不審なヤツなんてごろごろしているなんて事はけっこうあるような気もする

210 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 15:43:21 ID:IHtp00Kh
喋るストラップ形の物体もわりとありふれてそうな気がする。むしろすでに常識の範疇に含まれてたりして

211 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 21:04:16 ID:8MehjrQT
喋って飛んでる非人間型のナマモノが溢れてる時点で、ストラップが喋ってたって何もおかしくはないだろうw

212 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 21:36:38 ID:xNjgZD0d
くそっ、何て世界だ!

213 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 21:38:12 ID:8MehjrQT
こんな人外ばっかりがいる世界にいられるか! 俺は一人ででも脱出してやるぞ!

214 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 22:39:12 ID:YLQ6/B9A
>>210
メカ沢は元の世界でも常識扱いだったからなあw

215 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/25(月) 23:23:31 ID:XQ5RSfiT
大門高校のKファイトや文月学園の試召戦争、川神学院の決闘とかどうなってるんだろう?

216 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/26(火) 07:19:39 ID:gIcTtXCI
学園世界で形を変えて続いているか、それとも停止中か…

ベン・トーとか半額弁当がそもそもでかい学園都市にでも行かないと無いだろうから困ってんのかなw

217 名前:それぞれの溜息の理由◇学園世界:2010/01/27(水) 15:27:33 ID:dfefDvDP
第二弾が完成。
16:00ごろに投下しまーす。

218 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:01:55 ID:dfefDvDP
「はあ……」

 しょぼくれた顔を浮かべながら、眼鏡の少年は溜め息をついた。
 その様子を見ているのは、やはり同じくらいの年頃の男女3人。

「んだよ、何溜め息なんかついてんだよフカヒレ? つかオメーの息くせーんだよ」
「幸せに、なりたいな、って思ってさ……」

 フカヒレと呼ばれた少年が、そんなことを言い出した。
 だが、その様子を見ていた3人はなんとも微妙な顔をする。
 その顔は、「ああ、またか」と言ったところだろうか。

「まーた、ナンパに失敗でもしたのかよ。いつものことじゃん」
「まあ、お前の場合、その欲望丸出しのところが問題なんだけどな」
「と言うか、その下心、少し抑えろ。俺たちだって少し引いてるんだよ」

 辛辣な言葉が次から次へと投げかける。
 彼らはいわゆる幼馴染。
 学園世界に来てからも、こうして4人はつるんでいる。
 伊達スバル。
 対馬レオ。
 蟹沢きぬ。
 鮫氷新一。
 学園世界の繁華街にあるカレー屋でよくたむろしている4人であったが、今回は席に座るなり、いきなり新一ことフカヒレが、そんなことを言い出したのだ。

「まあ、それもあるけどさ。俺たちこの世界についてから随分と立つわけじゃん」
「……まあ、そうだな。最初はびびったけど、慣れちまったら割と面白い世界だし、最近はすっかり馴染んできたけどな」
「レオは相変わらずヘタレですなー。ボクはちーっともびびってなかったぜ?」
「嘘付けお前。最初にこの世界に来たときに、がたがた震えて泣いてたじゃねーか」
「な、泣いてない、泣いてないもんね!」
「……まあ、カニが泣いてたかどうかともかくとしてだ、それがどうしたんだ、フカヒレ?」

 収拾がつかなくなる前に、スバルが話を促す。


219 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:03:09 ID:dfefDvDP
「思うわけよ…… こんなに広い世界のどこかに、俺を受け入れてくれる素晴らしい女性が一人くらいは必ずいるんじゃないかって」
「まあ、可能性は0だと思うけどね」
「思うだけならタダだな。で?」
「色んな子に声をかけてみたわけよ…… だけどさ、俺のことを分かってくれるやつは今のところ、一人もいやしない」
「……で?」
「そのたびに俺は雑草のように踏まれ、肉体的にも精神的にも強くなってきた。つまりは磨きがかかってきたわけよ、俺の男気に」
「……要約するとナンパに失敗するたびに、女子に殴られ、蹴られしたわけだな」
「まあ、それで済んだらいいほうだと思うけどね」
「場合によっちゃ、もっとえげつねえ攻撃喰らったりもしたんだろ。想像したくねーけど」
「だからさ。もう俺にも幸せってやつが来てもいいと思うわけよ。俺のことを優しく受け止めて、何でも言うことを聞いてくれるような理想的な女の子たち…… ハァ、ハァ」
「……さり気に今、最低なこと言ったよね」
「つか、息荒くするな、キモい」

 いよいよ怪しい雰囲気をかもし出したフカヒレ。
 そろそろ誰にも彼を止められなくなってきたようだ。と言うか止めたくないのかもしれない。

「だからさあ、俺はもう少し自分の行動範囲を広げてみることにしようと思うわけよ」
「つまり、ナンパの行動範囲を広げるってことだろ? 無駄な努力しやがって」
「そうやって俺を馬鹿にしてられるのも今のうちだぜ、カニ? 俺はお前たちの誰よりも幸せになってやるからさ。その自身はある」
「その自身がどっから来るのかその脳みそに直接聞きたいね、ボクは」
「ふっふっふ。今度の場所は一味違うぜ? 何しろ、あのエルクレストカレッジにまで行動範囲を広げようと思うのよ」
「……普通の人間には見向きもされないから、異種族にまで手を広げようってことか」
「……なんか、段々哀れになってきたぜ」
「おいおい、そんなんじゃないって。俺、元の世界にいたときからエルフっ娘を横に侍らせられたらどんなに最高かとベッドの中で妄想してたんだから」

 段々とレオたちの視線が険しくなる。
 すなわち、「もうお前しゃべるな」と。
 ウェイトレスが、注文をとりに来ても、フカヒレの話は続く。
 もう、フカヒレの話に耳を傾けている人間は、この場のどこにもいなかった。

220 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:04:46 ID:dfefDvDP



 翌日。
 カレー屋での宣言どおり、エルクレストカレッジにまで足を運んだフカヒレ。
 周囲を見渡せば、自分が漫画やゲームで見たことがあるような、ファンタジーの服装と街並み。
 横にすれ違う女の子たちも、フカヒレたちの世界では奇異に見られる髪の色や耳が、ごく当たり前のように行きかう。

「ああ、いい所だなあ、ここは。ここならきっと、俺の幸せが見つかるはずだ」

 うきうき気分で、フカヒレは今回の獲物を物色する。
 あっちの女の子もいい。
 向こうで楽しそうに話すエルフ耳の子も見る価値あり。
 あのロリっぽい子も、俺好みだ。

「どの子にしようかなあ、迷っちまうなあ…… あはは」

 だらしなく口元を緩めるフカヒレ。
 そこに。

「どうかされました?」
「うちに、何か用ですか?」

 女の子の声が背後からかけられた。
 最上の笑顔で振り返る。
 そこには、

「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 フカヒレの興奮は最高潮に達した。
 魔女の帽子の奥からのぞく愛らしい顔。
 小柄な体格をしながらも、ぴょこんと伸びた長い耳。
 そこには、フカヒレの夢が詰まっていた。

「いや、ごめんね。ちょっと道を間違えちゃってさ。学園世界の繁華街に行きたかったんだけど」
「ああ、それでうちではあまり見ない格好をされてたんですね」
「そう。俺、竜鳴館の鮫氷新一。シャークって呼んでね。」
「あら、ご丁寧にどうも。わたしはカミュラ。こっちの子はファムさんです」
「へー、カミュラたんにファムちゃんかあ、可愛い名前だなあ」
「は、はあ……」

 ファムはフカヒレの視線に、何か薄ら寒いものを感じる。

「でさ、二人にちょーっとお願いがあるんだけどさあ、繁華街まで俺を道案内してくれない? ご飯奢ったげるからさ」
「あら、それはいいですね。構いませんよ?」
「か、カミュラさん!?」

 ファムはカミュラに顔を寄せ、フカヒレに聞こえないよう、努めて小さい声で相談する。

(あ、あたし、あの人なんだか怖いんですけど……)
(ああ、たぶんナンパ目的の男だと思いますよ?)
(ふぇえ!? ナンパ!?)
(美しいって罪ですねえ)
(ど、どうするんですか!? お茶まで奢ってもらう約束までしてるんですよ!?)
(大丈夫ですよ、ファムさん)

 にこりとカミュラは、ファムを安心させるように微笑んだ。

(ああいう手合いの輩は、適当に利用して、ぽい、と捨ててしまえばいいんです)

221 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:05:50 ID:dfefDvDP



 ファムとカミュラは、繁華街までフカヒレを案内し、存分に飲み食いさせてもらった。
 最初はにこやかな表情を浮かべていたフカヒレだったが、彼女たちの選んだ料理の値段を目にしたとたん、サーっと顔が青くなった。
 今日一日でこれまで溜めていた貯金全てがパーになることは確定のようだった。
 だが、それゆえに自分を奮い立たせる。ここまでしたんだから、少しは脈があるだろう、と。
 もちろんこれっぽちもその可能性がないことに、彼は欠片も気がついていない。

「今日はご馳走になりました」
「イエ、ドウイタシマシテ……」

 フカヒレが青い顔でつぶやいた。

「では、存分に繁華街で楽しんでください。わたし達はこれで失礼します」
「ちょ、ちょっと待とうよ!」
「何か?」
「何かじゃないでしょ。ここまで一緒に来たんだからさ、俺と一緒にもっと楽しく行こうよ」
「ごめんなさい。わたし達、これでも忙しい身ですので」

 まずい。フカヒレは焦りだす。
 このパターンは散々奢らされた挙句にポイ捨てされる最悪のパターンそのものじゃないか。
 しかし、ここはもっと強気に行けば……

「いいじゃない、それとも何? 俺と一緒だとつまらないとでも」
「はい」

 ばっさりだった。
 ぴしり、とフカヒレの中で何かが壊れる。

「こ、このくそガキ! 俺が怖くないと思って好き勝手言いやがって! 言っとくけどな、俺は女でもグーで……」
「《サモン・フェンリル》」

 ちゅどーん。
 フカヒレのすぐ脇が爆発した。

「何か言いました?」
「イイエ、ナニモイッテマセン……」
「では、わたし達はこれで。ファムさん、行きますよ?」
「は、はい!」

 カミュラはファムを連れ、そのままフカヒレの前から姿を消した。
 残されたフカヒレは固まったまま、二重のショックでしばらく立ち直れないほどの大ダメージを受け、硬直していた。


222 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:06:31 ID:dfefDvDP


「畜生……」

 フカヒレはとぼとぼと一人、街道を歩き、やけに軽くなった財布を抱えながら、へこみ切っていた。

「現実のエルフっ娘も、魔女っ子もおっかねえなあ…… やっぱり二次元のエルフっ娘のほうが最高だよ。よし、帰ったらギャルゲでもやって心を和ませて…… あれ、なんか目から水がこぼれて……」

 フカヒレはぽろぽろと泣きながら、街道を練り歩いていた。
 と。

「お……」

 フカヒレの目に、恐ろしく興味をそそられる存在が飛び込んできた。
 細い身体を、黒い帯で巻いた、はかなげな雰囲気の美少女。
 フカヒレの視線は、一瞬で彼女に釘付けになった。

「い、いかん。彼女を一人にしてはいけない。そんな父性本能が、俺をくすぐるとびきりの美少女……」

 フカヒレの興奮が、徐々に高まる。

「これは…… ぜひともお近づきに!」

 フカヒレは全速力で美少女に駆け寄る。
 美少女もその様子に気がついたのか、「ひ……」と怯えた視線でフカヒレを見る。
 その仕草が、よりフカヒレの興奮を誘う。

「かーのじょ! ぜひとも俺と一緒に……」
「《ディバイン・コロナ》!」

 皆まで言う前に、フカヒレは空へと吹き飛ばされた。

「ったく…… 気持ちの悪い人間ったらありゃしない」
「べ、ベル……」
「アゼル、あの手の輩はふつーに無視して構わないわよ。つかむしろ殺したほうが……」

 がしりと。
 突然、ベルの足を誰かが掴んだ。

「え……?」

 恐る恐る足を見ると、そこには、さっき吹き飛ばしたはずのフカヒレが、虫の息になりながらも、何かを期待するかのようにベルを見上げていた。

「び、美少女に殺されるなら、それもまた本望……」
「ひ……」
「だからせめて、優しく俺を殺して……」
「な、なによこいつ! き、気持ち悪いわね……!」
「べ、ベル……」
「こ、殺すのもためらう気持ち悪さだわ…… 行きましょう、アゼル!」
「え、ええ……」

 まるでゴキブリに向けるような視線を浴びせかけ、ベルとアゼルはその場を後にした。
 残されたフカヒレは、地面に伏しながら、大粒の涙を流す。

「ち、畜生ー! 絶対幸せになってやるー!」

 鮫氷新一。
 彼に幸ある日はいつの日か。 

223 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 16:09:00 ID:dfefDvDP
以上。フカヒレがベルに吹っ飛ばされて生きていた、と言うのはあくまでもギャグ表現ということで一つ。

というわけで、今後から竜鳴館(つよきす)も学園世界に組み込まれました、ということで。

224 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 16:26:15 ID:iYo9J3n2
乙ー

…あぁ(嘆息)、せめて2.3発踏んでやるぐらいの余裕すら無くしたんですね、ベル様。

225 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 17:14:47 ID:dfefDvDP
書いててちょっと不安になってきた。

ちゃんとキャラらしさ、出てるかな?

226 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 18:09:25 ID:EIrwDBwd
>>225
自信を持たれい、実に良いフカヒレ&周囲の対応でござる

そういや、乙女さんやお嬢や館長はウィザードと肩並べて戦ってても違和感ないなあ

227 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/27(水) 19:17:32 ID:dfefDvDP
>>226
むしろ俺はよっぴーがより深いダークサイドに堕ちていかないか心配で仕方がないw

228 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 21:12:41 ID:LwrkRyiI
>>222
原作知らんが面白かったw
こういう懲りない馬鹿は好きだぜw

229 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 21:46:25 ID:aIuUaLow
いつの間にか横島と意気投合してたら意外ともててることにシャークが気づき
うらぎりものー!!とか言ってる姿が目に浮かんだ

230 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 21:50:48 ID:EIrwDBwd
>>227
つよきすヒロインの中でよっぴーを最も愛する俺は、せっかくだからそっちの「更にダークで厄いよっぴー」を選ぶぜ!
……世界の敵につけこまれる役がやたら似合う気がするな、よっぴーは……不憫な子

>>228
そんなあなたにつよきすオススメ
全編でフカヒレ@ベジータ声の珍プレーがお楽しみいただけます

231 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/27(水) 22:19:24 ID:qXIFXgd2
フカにすら「父性本能擽る」云々言われるアゼルヒロイン属性どんだけーw
ベル様離れられねーよw

232 名前:それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合◇学園世界:2010/01/28(木) 19:30:07 ID:MePmcMLB
話は変わるのだが、ギャルゲ、エロゲで使いやすい学園って何があるだろう?

もしかしたら、知ってる学園があるかもしれないので使ってみたい。

233 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 20:56:16 ID:tyif6q74
>>232
ギャルゲと聞いて即座に反応した俺、参上!

学園世界SSとして使いやすそう、という話であれば……
 光綾学園@ぱすてるチャイムContinue
 フローリア学園@DUEL SAVIOR
 バーベナ学園@SHUFFLE!
 詠伝学園@エーデルワイス
 凰華女学院分校@遥かに仰ぎ、麗しの
……とかかねえ
光綾とフローリアは既に学園世界に来ているしのう

個人的には、デモベ版ミスカトニック大学@機神飛翔デモンベインや、執事養成学校である白手の学院@Bullet Butlersとか楽しそうにも思うが……前者は学生キャラがいない(教授陣のみ)、後者は名前と簡単な設定が出てる程度と、もろアウトなんだよなあ

234 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 21:10:37 ID:wrlvhmaR
ギャルゲじゃなくてラノベだったらいくつか思いつかなくは無い
今期アニメになったれでぃ×ばと!から白麗稜とか。
セレブ御用達の上育科とメイド・執事養成コースの従育科の二つがある

235 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 21:15:25 ID:d9QajtfJ
ちょっと話がずれるのだが
最近は少子化の世相のせいか
伝統ある女子校が男子校or共学と合併
という設定から話が始まったりするのが美少女ゲームでも
よく見かけるけど
そういうのをNWのキャラ(特に女性)が聞いたら
どう思うんだろうな?

236 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 21:30:23 ID:aN3SyzgE
>>232
何をもって書きやすいとするかにもよるなぁ……
本人が書きやすいもんで書くのが1番と思うのが個人的な意見。

時にどういうシチュエーションの学園が出しやすいのかね? よくわからん。

237 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 21:56:35 ID:YN1G9XSB
輝明学園武蔵野分校…はおいてといてw

有名どころだと東鳩とかきらめき高校とかいいんでない?

238 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 22:04:36 ID:dbE7WsS8
>>235
「ねえ、聞いた? 男塾が共学になったんだって」
「どこの女が入るのよ、それ」

239 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 22:10:47 ID:5l0NmFdj
匿名希望「これで女性化しなくても潜入任務が!」

240 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 22:31:53 ID:dbE7WsS8
猫「うむ、流石に一日中脈拍を上げ続けるのはきつかろうて」

241 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/28(木) 23:35:59 ID:DKdBAWEY
個人的には、『あやかしびと』の神沢学園とかがあるかな?

『AYAKASHI アヤカシ』の学園の名前は何だったっけ?

242 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/29(金) 01:51:29 ID:hLf4QUEi
シンフォニックレインの音楽学校…名前失念したが
あそこは程よく平和で一般人っぽさか出るかな

243 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/29(金) 02:58:48 ID:Gk+d5GHY
>>242
ピオーヴァ音楽学院か

音楽ネタなら、(方向性は違うが)キラ☆キラの欧美学園とかもいいな
女装させられてギター引く柊とかが見れそうだし、こじまめも出てるし

244 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/29(金) 03:28:15 ID:ahiCmlu5
一昨年の今頃はここリレー真っ只中だったんだよなぁ、懐かしい。

古参としてはなんかリレー当時の思い出とかあるかい?

245 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/29(金) 04:21:22 ID:YxsFP/Ds
思い出もなにも、あんな無茶振りでよく纏まったなぁという記憶が強いなリレーはw

ただ、リレー進行と同時に普通の作品の投稿がほとんど無くなったのはちょいと残念だった記憶はあるなぁ

246 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/29(金) 23:53:31 ID:4yrDqIWh
>>232
SRが挙がってたからついでだがくろねこさんちーむ繋がりでフロルエルモス魔法学院ってのもあるな
魔法学院といっても一般教養メインで義務教育らしいから一般人から変態まで取り揃えてる

学院自体は戦闘ともあまり縁がなくて平和だし

247 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/30(土) 01:51:21 ID:+ecEpGAt
>>232
ギャルゲーとはちょっと違うが、天香学園とかどうだろ。
アイスピック投げが得意な執事とか変態生徒会軍団とか石の人とかテニヌプレイヤーとかトロ職人とか人外魔境の巣窟。
しかも校内に墓地があって、それがダンジョンの入り口だったりする。

248 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/30(土) 16:44:24 ID:d3DX6/Z6
魁!男子寮と言うタイトルが頭をよぎった。
学園世界の輝明学園男子寮生がgdgdする話

249 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/30(土) 19:59:46 ID:Do/3mqd3
>>232
スズノネセブン! のスズノネ魔法学園とかどうだろう。
いや、さっきプレイしたばかりだから何だがw

250 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/30(土) 23:33:06 ID:khNaj/pN
リリなののヴィヴィオが通ってるザンクトヒルデ魔法学院とか出して

251 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/30(土) 23:33:58 ID:khNaj/pN
失敬、途中で送信してしまいました

リリなののヴィヴィオが通ってるザンクトヒルデ魔法学院とか出して
超時空の邂逅とかいうネタもありかな

252 名前:それぞれの溜息の理由◇学園世界:2010/01/31(日) 08:44:34 ID:9E6PF64g
みんな、色々ありがとう。
俺の知らない学園とか作品が知れたので楽しかったぜ。

で、色々検討した結果、第3弾のプロットが出来たので、もう少し待ってくれ。
期待に添えられるかは分からないけど。

253 名前:ネギま!×ちびらぎの人:2010/01/31(日) 21:50:11 ID:/fBLYY4Z
どうもご無沙汰しております。
だいたい一年ぶりぐらいで忘れられてるような気がしますが、
五分後ぐらいから2話オープニングの前半を投下します。
どなたかいらしたら支援願います。

254 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 21:54:41 ID:/fBLYY4Z
柊は一枚の紙を見つめたまま、立ち尽くしていた。

彼を横目に不思議そうに通り過ぎていく女子生徒たち。

そう、ここは麻帆良学園女子校エリア。

――柊蓮司は、道に迷っていた。


*****


魔王ローリーを撃退した翌朝。
柊は柊小屋(仮)の中で目を覚ました。
結局昨晩は文句を言いながらもいろいろ諦めて柊小屋(仮)で就寝した柊であった。

「――ああ、そういや異世界に来てたんだよな……」

寝具として貸して貰っていた毛布をたたみ、小屋から出て背筋を伸ばす。いろいろあって疲れていたからか、太陽は割と高い位置まで昇っていた。
昨晩、朝起きたら家の中へ来るようにとエヴァンジェリンに言われていたので、扉を軽くノックしてから玄関をくぐる。

「おはよー……ってあれ?」

室内に入ったのはいいが、人形やぬいぐるみが転がっているだけで、エヴァンジェリンと茶々丸の姿は見えなかった。
ソファーや椅子の上に人形やぬいぐるみが並んでいる様子を見て、なかなかファンシーな内装だなぁ、などと思いながら辺りを見渡す。

「オウ、オ前ガ柊蓮司カ?」

「っと、誰かいるのか?」

柊が声のした方を見るが、そこには人形がいくつか並んでいるだけで人の姿はない。

「人形?」

「ソウダ」

かたかたと口だけを動かして並んでいた人形のうちの一つが喋った。
茶々丸を小さくして蝙蝠の羽をはやしたような姿の人形だ。喋ることはできても動くことはできないのか、座った姿のままで動かない。


255 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 21:56:09 ID:/fBLYY4Z
「テーブルニ朝飯ト御主人ノ手紙ガアルゼ」

「ん、ああ、これか」

テーブルにはサンドイッチの載った皿と、何枚かのメモが置かれていた。

「ありがとな……えっと」

「チャチャゼロ、ダ」

「おう、ありがとな、チャチャゼロ。
 エヴァンジェリンから聞いているだろうけど、俺は柊蓮司」

「アア、聞イテルゼ、異世界ノ魔法使イ」

ケケケ、とチャチャゼロが意味ありげに笑う。

「通称下ガル男ダロ?」

「余計なことまで聞いてやがるっ!?」

「イイジャネエカ、愉快ナ呼ビ名デ」

「よくねーよっ! 愉快どころか不快だっ!」

柊の反応に人形の身体をカタカタ揺らし、楽しそうな笑い声を上げるチャチャゼロ。
柊はエヴァンジェリンやアンゼロットに対する文句をぶつぶつ呟きながら、エヴァンジェリンの残していったメモを見る。

『朝食を恵んでやる。感謝しろ』

「いきなりそれかっ!?」

でかでかと書いてある一文に柊は思わずツッコミをいれる。
むしろ、一枚目にはそれしか書いてなかった。それだけ強調したいことなのだろう、たぶん。しかし偉そうなことが書いてあるが、実際に朝食を用意したのは茶々丸なのだが。

気を取り直して二枚目を見る。

『不本意ながら今日から新学期なので学校に行く。
 後でジジイのところで合流する。
 貴様が迷わないように茶々丸が地図を用意したからそれを見て学園長室まで行け。
 ここまで用意してやる私に感謝しろ』

「……いや、用意したのは茶々丸なんじゃねーか」

『用意したのは茶々丸でも、茶々丸のマスターは私なのだから私に感謝しろ』

「手紙が会話するなよっ!?」

そういう柊も手紙に一人でツッコミをいれたりと虚しいことをしているのだが。
チャチャゼロがその様子を見て笑っているが、柊は気づいていなかった。柊の心の平穏のためにも気づかない方が幸せだろう、たぶん。

そして最後の三枚目を見る。
どうやら二枚目に書いてあった、麻帆良学園の簡易マップをプリントアウトしたもののようだ。目的地である麻帆良学園女子中等部のあたりに赤い丸がついている。


256 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 21:57:25 ID:/fBLYY4Z
「二人は学校か……それにしてもなにか引っかかるな」

手紙の内容になにか違和感を感じるが、それがなにかわからない。
少しだけ考えるが、たいしたことではないだろうと結論づけ、柊は地図とサンドイッチを掴んだ。

「探索がてら学校の方まで行ってくる。戸締まりはどうしたらいい?」

「ドーセ誰モ来ネーヨ。ソノママデイイゼ」

「わかった。じゃあ行ってくる」

「ケケケ、迷ウナヨ」

そんなチャチャゼロの言葉に見送られ、柊はエヴァンジェリン宅を出た。
そうして茶々丸謹製のサンドイッチをかじりながら歩いていて、先ほど感じた違和感の正体に気づいた。

柔らかな日差しと芽吹き始めた木の芽の色。そして。

「桜が咲いてる……」

エヴァンジェリンのメモの文章で感じた違和感。それは、≪新学期≫という単語にだった。
何故なら、柊の主観では――ファー・ジ・アースでは、今は二月だったはずなのだ。
昨晩は夜間だったことと、月衣で普段から外気の温度が遮断されていたせいで気づかなかったのだ。
春。そして新学期というのなら、今は四月のはずだ。そのことに気づいた柊の頭の中に最悪のシナリオが浮かぶ。

「――ま、まさか異世界に飛ばされたら、一ヶ月以上時間がぶっとんだなんてことはない……よな……?」

もしそうだとしたら、元々ぎりぎりだった出席と単位――そして卒業式は。

パターン1。
卒業式で名前を呼ばれるが現れない柊蓮司。ああ、やっぱりいないのか、むしろ卒業できたのか、みたいな雰囲気の中、粛々と進行する卒業式。受け取る者のいない卒業証書は何故かスクールメイズの奥地へ……。

パターン2。
出席が足りなくて卒業できない柊蓮司。しかも何故か一年生の教室に柊の席が用意されている。ピカピカの一年生に混ざり、くたびれた一年生。そして更新されていく伝説の下がる男の伝説。

そんな風に嫌な方向へと進んでいく思考を振り払うように頭を左右に振る。

「い、今のことは忘れよう……」

そう力なく呟いて柊はとぼとぼと歩き出した。


そうして麻帆良の中をあちこち見物しつつ、柊は前夜の約束の場所である、麻帆良女子校エリアに来ていた。
そこまではよかったのだが。



257 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 21:59:30 ID:/fBLYY4Z
「……この地図、ここまでしかかいてないよな」

学園都市である麻帆良は広い。エヴァンジェリンの家から学校までもそれなりに距離があったため、地図は簡略化されたものだった。
そのため、赤丸のあたりにたどり着いたはいいが、このあたりのどの学校が目的地なのかが柊にはわからなかった。
茶々丸は昨晩いた場所だからわかるだろうと判断したのかもしれないが、昨日は箒で移動したため、正直なところ学校までの道なんてさっぱりおぼえていなかった。

こうして柊蓮司は、冒頭のように、地図の端を握りしめたまま立ち尽くすことになったのであった。


*****


雪広あやかがその少年に気づいたのは偶然だった。

身体測定の騒動も終わり、のんびりと下校している時。
道の真ん中でぽつんと立ち尽くす少年を見つけた。

青を基調としたブレザーに白い半ズボンの見たことのない制服。
年齢は彼女の担任よりももう少し年下――八歳くらいだろうか。
握りしめた紙切れを見つめ、肩を落として俯いている。

(まあ、なんということでしょう女子校エリアにネギ先生以外の男の子がいるなんてもしかしてこれは私の日頃の行いが良いからでしょうか、
ああでもあの子はもしかして泣いているのではないでしょうかよく分からないけれど絶対そうですわこれは私が助けてさしあげなければ――!)

ロックオンまで0.2秒。
次の瞬間には彼女はすでに行動を開始していた。

「どうかしましたか、ボク?」

素早く少年に近づき、顔をのぞき込む。
その声で少年は彼女の存在に気づいたようで、

「ぼ、ぼく?」

驚いたように顔をあげた。
急に声をかけられたからか、少し引きつった表情をしている。
もしかしたら泣いているのかもしれない、と思っていたがそうではなかったようだ。

「ちょっ、顔、近っ!?」

年上の異性相手に恥ずかしかったのか、わたわたと慌てて数歩後ろに下がる少年。

「あら、いやですわ。私としたことが。驚かせてしまいましたわね」

そう言って、にっこりと笑ってみせる。

「困っていらっしゃるようでしたから声をかけたのですが」



258 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 22:01:13 ID:/fBLYY4Z

あやかの予想では、彼は迷子だ。
麻帆良で見たことのない制服を着ているから、もしかすると転校生なのかもしれない。
この学園都市はただでさえ広いのだから、うっかり迷って女子校エリアに来てしまうこともあるだろう。
彼は迷子になったことが恥ずかしいのか、視線を逸らしておろおろしながら言った。

「あ、いや、ちょっと道に迷ったというか……」

その返答は彼女の予想通りのものだった。

「まあ! それは大変ですわね……私でよろしければ案内しましてよ!」

同じ学園都市の生徒ならば、あやかにとって彼は後輩だ。その後輩が困っているのだから、手を貸すのは当たり前である。
しっかりと彼をエスコートしなくては、と思い彼に一歩近づく。
しかし彼は恥ずかしいのか、子供の歩幅ではあるが一歩下がる。
その様子を微笑ましく思いながらももう一歩近づく。

「え、えっと、それはそうしてもらえると助かるけど……なんでそんなに近づいてくるんだ?」

あまり女性に慣れていないのか、じわじわ下がりながら慌てたように言う少年。彼を安心させるために、彼女は笑顔で言葉を紡ぐ。

「それはもちろん――」

しかし、この後に続くはずの言葉は一人の少女の怒鳴り声にかき消された。

「こらーッ!」

「へぶっ!?」

怒鳴りながら跳び蹴りを放つ少女に、あやかは吹っ飛ばされた。どうやら声と同時に蹴りも飛んできていたらしい。

「な、なにするんですの、アスナさん!」

突然現れたその少女はあやかのよく知る人物だった。

初等部の頃からの腐れ縁である彼女の名前は、神楽坂明日菜といった。


*****


「どうかしましたか、ボク?」

「ぼ、ぼくぅ?」

突然声をかけられ、柊は地図から顔を上げる。
思い切り子供扱いされてちょっと表情が引きつっている。



259 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 22:02:33 ID:/fBLYY4Z
顔を上げた柊の目に飛び込んできたのは、少女の顔のアップだった。今の柊の身長にあわせるようにかがんでいるからか、ものすごく顔が近い。おまけに表情は満面の笑みである。ちょっと――というか、かなり、引く。

「ちょっ、顔、近っ!?」

驚いた勢いで数歩分ほど後ずさる。
いきなりアップの顔が目の前にあったのも驚いたが、むしろ柊が気づいたらもう目の前にいたというスピードに驚いた。

「あら、いやですわ。私としたことが。驚かせてしまいましたわね」

そう言って笑う少女。育ちが良いのか、その仕草にも上品さが伺える。もっとも、さっきまでの行動を思い出すといろいろと台無しなのだが。

「困っていらっしゃるようでしたから声をかけたのですが」

そうして笑顔でまた一歩近づいてくる少女に、柊はもう二歩ほど引く。
何故か笑顔なのに威圧感を感じる。
年齢と同時に身長が下がっているせいで、少女を見上げるかたちになっているのも原因だろう。だが、それよりもむしろなにか別の危機を感じている気がする。
アンゼロットの笑顔からもよく危険を感じるが、その時の嫌な予感とは何かが根本的に違う感じだ。たとえて言うなら、物理的な危険と精神的な危険くらいに。

「あ、いや、ちょっと道に迷ったというか……」

しどろもどろで返答する柊。その発言に少女は食いつくように反応した。

「まあ! それは大変ですわね……私でよろしければ案内しましてよ!」

そう言ってまた一歩接近してくる少女。その勢いに押されて柊も後ろに下がる。

「え、えっと、それはそうしてもらえると助かるけど……なんでそんなに近づいてくるんだ?」

目を爛々と輝かせた少女からの気迫に押されて少しずつ後ずさる。魔王と対峙しても引かない魔剣使いは、思いっきり中学生の女の子に気押されていた。

「それはもちろん――」

「こらーッ!」

「へぶっ!?」

そう言いかけた少女の姿が、突然聞こえてきた声と同時にかき消えた。

正確に言うと、その声と同時に跳び蹴りしてきたツインテールの少女に吹き飛ばされた。

蹴り飛ばされた少女はぎゅるぎゅると派手に回転しながら飛んでいったが、即時に復活し、ツインテールの少女に怒鳴る。
その速度は柊がツッコミをいれる間がないほどである。突然すぎて対応が追いつかなかったともいう。



260 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 22:03:47 ID:/fBLYY4Z
「な、なにするんですの、アスナさん!」

「なにいってんのよ、暴走しそうないいんちょを止めただけじゃない。その子、怖がってたでしょ」

「いや、その止め方も十分怖いだろ……」

怒鳴り合う少女たちに柊がツッコミをいれるが、小声だったからかスルーされる。

「だいたいね、女子校エリアに男の子がいるなんておかしいじゃない。
 ……まさかいいんちょ、どこかから連れてきたわけじゃないわよね!? この子、見たことない制服だけど……」

「なっ、失礼ですわね! 困っていたようだから声をかけただけですわ!」

「どう見ても迫ってるようにしか見えなかったわよ!」

「なんですって!? そんなことはしていませんわ!」

「どこがよ!? 目つきもなんかヤバかったじゃない!」

「ヤバいとはなんです!? この私の慈愛に満ちた瞳が見えませんか!」

「そんなもの欠片も見えないわよ!」

柊をおいてけぼりにして睨み合う二人。
二人のあまりの盛り上がりように、言い合いを止めようと思っていた柊は割り込むこともできず、右手をちょっと持ち上げた状態で固まっている。
二人の少女はそんな柊にまったく気づいておらず、火花を散らしそうなぐらいに睨み合っている。

「――ショタコン」

「――オヤジ趣味」

「言ったわねっ!?」

「ぶっ飛ばしますわっ!」

その台詞を合図に殴る蹴るのとっくみあいを始める二人。突然始まった喧嘩に柊も唖然とする。

「……なんなんだ、いったい」

この状況でどうしたらいいのか途方にくれる柊に、背後から声がかかる。

「柊さん。ここにいらしたのですね。」

「茶々丸!」

そこにいたのは茶々丸だった。振り返った柊に、礼儀正しく一礼する。

「到着が遅れているようでしたので、マスターが早く柊さんを連れてこいと仰りまして……」

「いやあ、助かったぜ。道がわからなくて途方にくれてたんだけど、いろいろあってな……」


261 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 22:05:08 ID:/fBLYY4Z
そう言って横目で喧嘩している二人の少女の方を見る。ツインテールの少女の連続蹴りをもう一人の少女が防ぎ、反撃の掌底をツインテールの少女がいなす。ヒートアップしていく戦いを茶々丸も確認して言う。

「神楽坂さんと委員長さんですか」

「あれ、知り合いなのか?」

そういえば制服が同じような――と柊が思ったところで。

「ええ、茶々丸さんは私のクラスメイトですわ」

目の前についさっきまで喧嘩していたはずの少女が立っていた。

「「い、いつの間にっ!?」」

どうやら高速で離脱したらしく、ツインテールの少女と柊の驚きの声が重なった。

「麻帆良学園女子中等部3年A組出席番号29番、雪広あやかですわ」

「……えっと……柊蓮司、だ」

名乗られたので、柊も名を名乗る。妙に高いテンションについて行けなくてちょっと引き気味ではあるが。

「私は神楽坂明日菜よ。私も茶々丸さんのクラスメイト」

あやかを追ってきたらしいツインテールの少女も名乗る。あやかが柊になにかやらかすのではないかと警戒しているようだが、あやかはそんな明日菜を気にせずに茶々丸に話しかけていた。

「茶々丸さんは柊くんを探していたのですね」

「はい。学園長室へ案内するように言われていますので」

その茶々丸の返答に眉をひそめる明日菜。ここ最近の出来事を思い出し、おそるおそる訊ねる。

「学園長……ってまさか、また先生とかいうんじゃないわよね……?」

「は? 先生?」

いきなりそんなことを訊ねられて、目を丸くする柊。

「そうよね、この反応が普通よね!」

柊の反応に何故かものすごく喜んで両手を握ってくる明日菜。柊からすると何故これでこんなに喜ぶのかがまったくわからないのだが。


262 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/31(日) 22:05:36 ID:oIy+yKJP
私怨

263 名前:ネギま!×ちびらぎ 2話 オープニング前半:2010/01/31(日) 22:06:07 ID:/fBLYY4Z
「ちょっとアスナさん! なにいきなり手を握ってますの!?」

「いいじゃない、それくらい。いいんちょみたいに下心があるわけじゃないし」

「下心っ!? し、失礼なッ! 人をなんだと思っているのですかっ!?」

「日頃の行いを見てたらそう感じるんだもの、仕方ないでしょ! いっつもネギに変なことやろうとしてるじゃない、バカいいんちょ!」

「なっ……! バカレンジャーのあなたにバカとは言われたくありませんわ!」

「なんですって!?」

そしてまた睨み合いながらの口喧嘩から本当の喧嘩へと発展していく。柊が口を挟む間もなく、あっという間に中断していた殴る蹴るのとっくみあいが再開された。

「……えーと、あの二人はどうしたらいいんだ」

とりあえず、柊よりは対処に慣れているであろうクラスメイトの茶々丸へと訊ねる。

「これくらいのことは日常茶飯事ですので。
 それよりもマスターがお待ちです、学園長室まで案内します」

「それはいいけどよ……あれはほっといていいのか?」

「――日常茶飯事ですので」

相変わらずの無表情で茶々丸が繰り返した。どうやら本当に普段からこういう感じらしい。

「そ、そうか」

ここも輝明学園に負けず劣らずおかしな学校だなぁ、などと思いつつ、柊は繰り広げられるショタコンVSオヤジ趣味頂上決戦から目をそらすことにした。



264 名前:ネギま!×ちびらぎの人:2010/01/31(日) 22:07:08 ID:/fBLYY4Z
以上、二話オープニング前半でした。

いろいろあってものすごく遅くなりましたが、二話スタートです。
オープニングはまとめて投下しようかと思ってましたが、なんだか長くなりすぎたのでとりあえず前半部分を。
状況説明の回になるはずだったのに、気づいたら関係ないシーンで終わっていた不具合。
いいんちょかわいいよいいんちょ。

後半は今回よりは早めに投下できるようにがんばります。
今度こそ説明回になるはず、たぶん。

265 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/31(日) 22:23:44 ID:FQbBxXkH
おおっとお久しぶり。すっかり忘r(


年齢と一緒にツッコミの勢いも微妙に下がったちびらぎに合掌。いや、相手が悪いだけかもしれませんがw
続き楽しみにしてますー。

266 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/01(月) 08:22:56 ID:+TslPflK
乙&久しぶりー。エターじゃなくて良かった。超頑張れ

267 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/01(月) 23:30:25 ID:Fnk4Iwed
>>232
遅ればせながら
漫画だが介錯さんの「東京ファンタジー学園」はどうだろう
やたらテンション高い魔王ムツミとか(マテ

268 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 01:35:26 ID:zgXCCHaF
ふっと、学園都市バカップル選手権という言霊が脳裏をよぎる

順当に見せ付ける護と絢子
姑+娘+嫁という隙の無い布陣のアスラクラインの智春・操緒・奏・ペルセフォネ
賞品のゲコ太ストラップが目当て、という名目で上条さんを引っ張ってくる美琴
ベルと出場したがるアゼル
俺にはそんな相手はいねーしなー、と発言し周囲に微妙な表情をさせる柊

しかし本命はやはり、バカップル度を示すのに「彼女の手作り弁当」というありきたりすぎる
物を持ってきた……と思わせたあかりんと命ペア
あのあかりん弁当を完食し笑顔で「おいしかったよ」という言葉まで吐いて直後医務室に
運び込まれる勇姿に、観客は愛の真実を見たとか見ないとか

269 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 17:25:23 ID:4fhvBH0l
キワモノ系の学園を取り込んでも大丈夫だろうか?

例えば古墳ギャルのコフィーとか

270 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 18:04:01 ID:Omkj6nbC
昔々、偉い人はこう言いました。

―― 殺ッチマイナー

271 名前:それぞれの溜息の理由◇学園世界:2010/02/02(火) 20:47:42 ID:4fhvBH0l
よっしゃ、第3弾が完成したぜー!

今から投下するけどOK?

272 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:52:53 ID:4fhvBH0l
「はあ……」

 公園のベンチに腰掛けながら、少女は小さく溜め息をついた。

「……何だあ? しょぼくれた顔して」
「……あんたに言われたくはなかったわね、柊蓮司」
「何でフルネームなんだよ!?」

 たまたま通りかかってしょげた顔を浮かべていた彼女を心配して柊が声をかけたというのにこの扱いである。
 また、少女は溜め息をつく。余程思い悩むことがあるのだろう。

「なあ、何があった? 俺でよければ相談に乗ってやるから、そんな顔するなよ、鈴木」
「苗字で呼ばないでよ」

 むくれた顔を浮かべる少女こと、鈴木ぼたん。
 彼女は光綾学園の冒険者候補。
 こんな休日の日にダンジョンに潜ることなく、一人公園のベンチで思い悩んだ顔を浮かべているのが珍しく、柊が思わず声をかけたのだが……

「……ネタがね、思い浮かばないのよ」
「……ネタ?」
「新作のネタ」

 次の瞬間、柊は脱兎のごとくベンチから逃げ出そうとする。
 だが。
 ぼたんはその襟首を掴みあげ、決して離すまいと力をこめる。
 華奢な身体をしているはずなのに、その手に込められた力は予想以上のものだ。

「ふふふ、こうしてあんたがあたしに話しかけてきたのも、何かの神の思し召しだわ。せっかくだから、あんたにも協力してもらうわよ、柊蓮司」
「何をだよ!?」
「決まってるでしょ?」

 ぼたんは邪悪な笑みを浮かべて、柊を見る。

「新作のモデル、一人はあんたに決めたわ」




273 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:54:10 ID:4fhvBH0l
 なおも逃げようとする柊を、どこから持ってきたのか首輪にくくりつけ、市街を引き連れていくばたん。
 目的は言うまでもない。
 柊のお相手となるモデルの候補である。

「あんたの相手なんだから、まずはあんたが見繕いなさい」
「……何で俺がこんな目に」
「なんか言った」
「わ、分かった! 分かったから拳を固めるな!」

 柊は慌ててぼたんを制し、街を歩いていく男たちに目を向ける。
 とりあえず、事故にならない程度にこっちの状況を理解してくれそうで、かつある程度顔見知り。
 そんな都合のいい存在なんているはずがない。

「はあ……」

 柊は肩を落としながら、周囲を見渡してみる。
 と。

「おお、あいつは……」

 その中に見知った顔があった。
 つるんとしたスキンヘッド。
 見覚えのある制服。
 二人ほど連れがいるようだが、話を通してみる価値があるかも。

「おーい!」
「おや、私たちのことを呼んでますね」
「お、あの人は……」
「準、知り合い?」
「まーな、魍魎の宴で一回だけ顔を知ったくらいだけどな」

 駆け寄ってきた柊に、準と呼ばれたスキンヘッドの男子は手を挙げて挨拶する。

「よお、あんたがあの柊先輩だったんだってな」
「ひーらぎ? ああ、下がる男!」

 ぽん、と色白の女子が納得したように手を叩いた。
 指をさして、面白そうに女子は「下がる男〜」と連呼する。

「こーれ、人を指差すんじゃありません」
「えー」
「ユキ、準の言うとおりですよ。すみません、連れが失礼な真似を」
「あ、ああ、別に構わない」
「自己紹介がまだでしたね。私は葵冬馬。彼は井上準、こっちが榊原小雪です」
「そーいや、名乗ってなかったな。よろしく頼むぜ、先輩」
「よろしくー! ひーらぎ先輩!」

274 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:55:03 ID:4fhvBH0l

 冬馬と名乗った男子は、そっと柊に握手を求める。
 それを握り返す。

「……ふふ、あなたもなかなか可愛いですね」
「……え?」

 ぞくり、と柊の背中に氷柱を差し込まれたかのような悪寒が走る。

「もしよろしければ、今度私と二人っきりでお茶でもいかがですか?」
「い、いや、それはまた今度な」
「それは残念」
「で、なんか用があるのかよ、先輩?」
「あ、ああ、実はな、ちょっと頼みがある」



「それがあんたのお相手かしら?」

 柊が用件を切り出すより早く、ぼたんが彼らの前までやってくる。

「おやおや、こちらもかわいらしいお嬢さんだ」
「……うーん、惜しいな、あと5年若かったら最高だったんだがなあ」

 冬馬と準が、それぞれ違う感想を述べる。

「それで、お相手というのはどういうことですか?」
「ああ、実はね……」

 ぼたんはこれまでの経緯を説明する。
 それを聞いて、準は露骨に嫌そうな顔を浮かべ、反対に冬馬は、興味をそそられるような表情を浮かべる。

「あんたのお相手って、こっちの優男のほう?」
「ちょっ」

 柊はぎょっとする。

「ふふ、私は別に構いませんよ。柊先輩」

 にこりと微笑む冬馬。
 その笑みが、柊に背筋を凍らせる。

「いっそ、その先まで行ってみても、構いませんよ」
「すまん! この話はなかったことに!」

 みなまで聞かず、柊はダッシュで逃げ出した。

「ちょ、待ちなさい! どこ行こうってのよ!?」

 それを追いかけるぼたん。
 残された3人は、一瞬ぽかんとした表情を浮かべるも、

「……やれやれ、残念なことです」
「あはは、とーま節操なさすぎー」
「若、ほどほどにしてくれよ」

 再び散策を始めるのだった。




275 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:55:48 ID:4fhvBH0l
「何で逃げるのよ!?」

 追いついたぼたんは、柊に激しい折檻を加えながら、冬馬から逃げたいきさつを問い詰めた。

「あいつは駄目だ。あいつと一緒にいた日には、俺の大事な何かが確実に失われる」
「別にいいじゃない。貞操の一つや二つ」
「よくねえよ!?」
「……はあ、もういいわよ。さっさと別の候補を見つけて頂戴」
「じゃあ…… あのいかにも女顔のやつなんかどうだ?」
「……没。もっと男らしさが欲しいわ」
「じゃあ、あっちの色黒のマッチョとか」
「却下、美しくないわ」
「それじゃあ、あっちの眼鏡とか」
「論外。あんないかにも体臭がザリガニ臭そうなやつをモデルにするくらいなら、あたしは喜んで筆を折るわ」

 何気に毒を吐くぼたん。

「じゃあ、あっちのいかにも男前な前方後円墳とか」
「人間ですらないじゃない!?」
「じゃあ、妥協してそっちの墳丘墓」
「いい加減にしなさいよ、あんた! 真面目に選ぶ気あるの!?」

 ぼたんは柊を蹴り飛ばした。




276 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:56:50 ID:4fhvBH0l
「いってー…… じゃあ、お前が選べよ!」
「……そう、いいの?」
「ああ、ここまで来たら、皿まで食い尽くしてやる」
「分かったわ、じゃあ……」

 ぼたんは周囲に目をめぐらせて、獲物を物色する。
 一通り見渡したぼたんの目に、ある人物が目に留まる。

「あれがいいわね」

 ボタンは指を指して、その人物を示す。
 柊がその指の先に目を向ける。
 吹き出した。

「み、命!?」

 そう。
 それは見間違えるはずもなく、ちょうど市街をデート中の灯と命のカップルであった。

「彼女持ちの男を寝取る男…… いい構図だわ」
「待て! あいつはまずい! あいつはいくらなんでもまずすぎる!」
「四の五の言わない! あんたがあたしに選べって言ったんでしょうが! あんたに拒否権は最初っからないのよ!」
「横暴だ!?」

 柊の叫びが木霊する。
 ぼたんは嫌がる柊を無理やり引きずって、命たちの元に近づいていく。

「あれ? 柊先輩、どうしたんですか?」
「……何か用? 柊蓮司」
「いや、用があるのは俺じゃなくて……」
「用があるのはあたしのほうよ」
「……貴方は確か、光綾学園の鈴木ぼたん」
「あら、知っててくれるの? ならいいわ。ちょっと彼氏を貸してほしいの」
「……どういうこと?」
「実はねえ……」

 ぼたんはここまでの経緯を事細かに説明する。


277 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 20:58:40 ID:4fhvBH0l
「……そういうこと」
「どう? 一日でいいから貸してもらえないかしら?」
「灯、気に入らなかったら断ってくれても構わないんだぞ?」

 むしろ断ってくれ。柊は心の奥で懇願する。
 だが、予想外の返事が柊の耳に突き刺さった。

「……了解した」
「何いいいいいいいい!?」
「あ、あかりん、何を!?」
「……その代わり条件がある」
「何かしら?」
「……出来た本は私にもきちんと見せて欲しい」
「おい! お前何でやおい本に興味あるんだよ!?」
「……西園美魚という女子に薦められた」
「…………おい」
「新体験だった……」

 ぽっと、頬を赤らめる灯。

「恨むぞ、西園とかいう奴!?」
「そういう条件なら了解したわ。じゃあ、彼氏のほう、借りていくわ」
「あ、あかりん!?」
「……きれいに描いてあげて」
「任せてよね。ふ、ふふふ……」
「うおおおおおお! 離せ! 離しやがれー!」
「あ、あかりーん!」

 ぼたんに襟首を掴まれながら。
 柊と命はいずこかへと連れて行かれていった。




278 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 21:01:11 ID:4fhvBH0l
「み、命……」
「柊先輩……」

 熱く見つめ合う二人。
 やがて。

「うおええええええええ……」

 柊がその視線に耐え切れず、気持ち悪そうに視線をはずした。

「何視線はずしてるのよ!?」
「こんなもん、耐えられるわけねーだろ! てゆーか、命は何で平気なんだよ!?」
「その…… 僕、昔は菊田先輩の事が好きだったわけじゃないですか?」
「……あ」

 柊はそんな事を思い出した。
 そうだ、こいつは昔そういう趣味だったんだっけ、と。

「だから僕、結構こういうの、いけます」
「いいわ、いい素材よ、あんた…… く、くくく。ほら、柊蓮司! あんたも視線合わせなさいよ!」
「ち、畜生……」

 泣きながら柊は、命と抱き合いながら、熱い視線を絡ませ続けた。
 柊の鳥肌は始終立ちっぱなしだった。



 数日後。
 鈴木ぼたん名義の新作が発表され、その筋の人間の間では高く評価されることになり、一部のマニアの間で超プレミアム価格で売買される事になる。



「……萌え」

 新作を眺めながら、灯は頬を赤らめた。
 

279 名前:それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合◇学園世界:2010/02/02(火) 21:03:20 ID:4fhvBH0l
以上っす。

色々と意見をもらってなんだが、結局既に組み込まれている学園のキャラになってしまって申しわけない。
それとさりげなく、古墳ギャルのコフィーも学園世界に絡ませてみましたw

多分、使いにくいと思うけどねw

280 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 22:10:18 ID:XbjmYfgv
あかりんがやばい道に入るぞー!!(笑
しかし命のは、本人と親しい人ならともかく
見知らぬ女子から騒がれるのは平気なんだろうか?
そしてくれはの反応が気になるw

281 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 22:43:34 ID:Wx+RrOC/
>>279
GJwあかりん戻ってこいw

>>280
案外、不思議に納得されたりして(ボソッ

282 名前:それぞれの溜息の理由◇学園世界:2010/02/03(水) 17:01:50 ID:HpgVr+3c
ちょっと書いておいて後悔してる。

あかりんにこんな設定くっつけていいのだろうか、俺……orz

283 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 21:22:38 ID:o3Yii9yp
>>282
大丈夫、ちょっとロンギヌス式訓練法をやればw

284 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 23:14:06 ID:E8yBn1s5
流れ無視のようだが
灯が豆を煎ったらどんなのになるんだ?

285 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 23:21:27 ID:a+yxi80I
エンダースさんも真っ青なジャックと人食い豆の木に

286 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 23:29:57 ID:5NUxyC1C
>>285
むしろ命に喜んで貰いたくて異世界の珍しい豆と称してエンダースさんのまいた豆(笑)調達してくんじゃね?

287 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/04(木) 21:59:47 ID:P8Ob2io0
>>286
柊さんまたがんばって下さいw

288 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/05(金) 21:47:23 ID:rH3euzOn
だが、真の恐怖はあと9日後…

料理研究会(極悪な方)の暴走を警戒して執行委員総結集したりしてなw

289 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 00:05:13 ID:LQ1pZhgg
>>279
ところで学園世界で一番男性に人気ある
百合CPはだr(ryu

290 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/08(月) 21:51:11 ID:y5Tt6I3R
学園世界の腐女子に
グィードと男性キャラとは需要が(ryu

291 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/09(火) 20:02:06 ID:9FnTtUfI
ホモとやおいは違うって誰かが言ってた!

292 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/09(火) 21:51:02 ID:o9PkOlSm
やおいには耽美系だけじゃなくてガチムチ系というジャンルがあったりするんだZE
そもそも需要とは作るもの
開拓者となる存在がいれば、どんな組み合わせだろうと需要があって不思議じゃない

293 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/09(火) 22:02:29 ID:Pm7mVS8+
白粉と大野さんがアップを始めたようです。
…柊本ならくれはは笑って見逃しそうだが、ルイズとか絢子とか大佐殿とかはんなもんが作られてるって知ったら本気で怒りそうだな。

294 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 08:42:43 ID:g8y7vfon
桃瀬修とか犬神のはそっち方面の需要ありそうだな
あと、ネギ総受けとかw

295 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 11:22:32 ID:KgcBWC9m
静×ネギのまほうせんせいカプ
優男ショタって見映えはともかく…誰得!

296 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 23:32:23 ID:U8qGNg6B
なぜ百合よりやおいの方が
話題になるんだw

297 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/11(木) 00:52:59 ID:u96VzhLA
ネタ的な意味で、そっちの方が笑いが取れやすいから

298 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/11(木) 12:34:01 ID:KZAa7/7V
百合はもともとの作品から大きく外すのは難しそうだが
やおいなら作品枠を飛び出しても平気な印象があるからかな

299 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/11(木) 21:38:34 ID:EM7rZs63
そういやグィードってスターダストでは何の先生だっけ?

300 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/11(木) 21:42:59 ID:Nge5r6MO
>299
…………(そっぽを向く)

301 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/11(木) 23:35:42 ID:dFTSzHgX
読んでみたい話とかってなんかある?

302 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 00:15:31 ID:K/0rabtQ
……それは今のスレの話題的な意味で?それともクロス的な意味で?

後者なら、学園世界ではないクロスで
テイルズシリーズと組み合わせが見てみたいなぁ、と最近思ってる俺

303 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 01:56:45 ID:JQjKvWHh
テイルズかー

柊と波長合いそうな主人公は、と考えてみてDのスタンとかEのリッドとかVのユーリ辺りは普通に波長合う気がした
掛け合いが面白そうなのはカイルとかロニとかチェスターとか?
ウマが合わないのはきっとジェイドとかハロルドとか……

って、テイルズも相当シリーズ多いしストーリーも長いからきちんと混ぜるの大変な類だよなー、とか思ったり


304 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 03:53:45 ID:/ErdG2or
>>299
「常識的に」考えるなら、外国語とか宗教とかじゃねーかな。

305 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 03:58:03 ID:/ErdG2or
>>303

ジェイド(CV子安)
 「ウマが合わない? はっはっは、そんなご冗談を。私と柊蓮司くんは親友じゃないですか。
 私は今以上に、もっと柊蓮司くんのことを知りたいのです。そんな親友を無下にするなんて出来ませんよね、柊蓮司くん。」


 「いちいちフルネームで呼ぶなよっ!?」


こんな感じで。

306 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 05:09:27 ID:aGKJYgLy
>>303
逆に考えるんだ。柊以外に誰かを柊みたいにテイルズ世界に放り込んで楽しませちゃえば良い。そう考えるんだ……誰がいいかなぁ?(笑)

307 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 06:09:14 ID:QUGvH6lX
なりきりダンジョンで下がる男の衣装が発見されました。

308 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 20:49:24 ID:zR3BAbPT
>>307
アガートラムが多すぎるんですね、わかります


作者さんごめんマジごめん

309 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 22:46:03 ID:hvLhhV16
22時50分から投下します。

310 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:51:08 ID:hvLhhV16
 それは、百八柱の古代神が、未だ世界の創造に従事していた頃のこと。

「ベッルちゃんっ! あっそぼっ!」
「嫌よ! アンタなんか、顔も見たくないわ!」

 ベルは誤解の余地のない拒否の言葉を投げつけて身を翻し、メイオルティスをその場に残して去ろうとしたのだが。
 このヤンデレ神は(いつものように)総てを自らに都合良く解釈し、屈託のない笑みを浮かべて歓声をあげた。

「あ、分かった! ベルちゃんは鬼ごっこがしたいんだね! じゃ、まずはあたしが鬼ね!」
「違うわよ! 寄ってくんじゃないわよ!」

 そして、メイオの宣言どおり、未完の世界を舞台に神同士の鬼ごっこが始まった。

 空間転移と高速飛行、更には次元移動を繰り返し。
 地水火風の精霊界の海を泳ぎ、数多の世界を走り抜け。
 攻性魔力の塊を背後へとばら撒いて弾幕を張り。
 追いすがる天敵から逃げ回ること数時間。

「ふう。どうにか撒いたみたいね。って、ここドコよ?!」

 やっとの思いでメイオを振り切ったベルは、見知らぬ世界に身を置いていた。

「今日はアステートとの約束があるから早く帰らないといけないってのに! ったく、もう!!」

 憤慨しつつ周囲を見渡せば、眼下には、緑なす沃土が広がっていた。
 落ち着いて、ジッと目を凝らしてみる。
 其処では大勢の純朴そうな人間達が、或いは田畑を耕し、或いは家畜の放牧をしつつ、敬虔に神への祈りを捧げていた。

「へぇ。なかなか良く出来た世界じゃないの。これなら超至高神も喜びそうね」

 ベル達百八柱の神々が世界を創っているのは、人間を繁殖させて愛と安らぎの念に満ちたプラーナを精製させる為だった。
 何故なら、超至高神が(後世、俗にエンディヴィエ本体と呼ばれる事となる)超存在から受けた傷を癒すには、それが最も効果的であったから。
 つまり、穏やかな人々が静かに安心して暮らせる世界こそが、神々の目指す理想の世界なのだ。

 世界の出来栄えに感服するベルの前で、地上から信仰心に満ちたプラーナが大量に立ち昇り、同じ方向に向かって行った。
 その流れを何の気無しに目で追えば、雲上に聳える石造りの立派な神殿の、壁に掘り込まれた紋章が、その主が誰であるかを告げていた。

「あれって……確か、エルヴィデンスの紋章よね? てことは、ここはエル=ネイシアなのね」

 ベルはエルヴィデンスとは大して親しい間柄ではなかったが、大層仕事熱心で、超至高神の信任も厚いと聞いていた。
 また、他の神々や、共に世界創生を行っている精霊王達からも随分と頼りにされているのだとか。

「そうね。エルヴィデンスからメイオの奴に一言言ってもらおうかしら」

 彼女なら、きっとメイオの横暴も治めてくれるだろう。
 そう、他力本願に考えて、ベルは神殿へと足を向けた。
 


「―でさぁ、メイオの奴がウザくってさぁ、もう始末に負えなくて困ってるのよ。アンタからも一遍、ガツンと言ってやってくんない?」
「ほう、ほう。其れは困ったものだなぁ……」

 黒衣に身を包んだ創造の女神は喋りまくるベルの方を見向きもせず、ガリガリと音を立てて鉄筆で石版に何やら文字を刻み続けていた。
 一通り話し終えたベルは、あまりに素気無い態度に眉を寄せ、黒衣の女神の机の前に立ち、フードに隠された顔を覗き込んだ。

「ちょっと、他神(たにん)の話を聞くときは相手の顔を見なさいよ、って、まあ、こんだけ仕事溜まってちゃー、無理もないか」

 ベルは一旦抗議の声を挙げかけたが、すぐに思い直し、肩を竦めて周囲を見渡した。


311 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:53:07 ID:hvLhhV16
 神殿の一角に設けられた女神の書斎は、堆く積み上げられた大量の石版によって足の踏み場も無く。
 ベルが愚痴を零し続ける間にも、大勢の下僕モンスター達が絶え間なく部屋を出入りして。
 書きあがった石版を何処かに運び出しては、何も掘り込まれていない石版や何かの資料となる石版を彼らの女神の傍らに積み上げていた。

(随分と忙しそうね。ひょっとして、邪魔しちゃったかしら?)

 今更ながら、自分の行動を省みてみる。
 いや、自分の来訪は、仕事の合間の良い気晴らしになった筈だ。
 希望的観測で自分を誤魔化したところで、ベルは――多分、延々と喋り続けた所為だろう――ふと、喉の渇きを覚えた。

 お茶を頼もう。

 そう思った瞬間、ウーパールーパーのヌイグルミに羽根と角を付けたような外見の精霊が目の前に現れ、スッと紅茶を差し出した。

「ドウゾ」
「あら、気が利くわね。いただくわ」

 当然のように受け取り、口を付ける。適度な甘さと豊かな風味が口内を満たし、ベルは思わず口笛を吹いた。

「ヒュウ。アンタんトコの下僕、結構使えるじゃない。ウチの落し子どもより有能そうね」
「そうか……ああ、そうだろうなぁ……」
 
 折角、世辞を言ってやったと言うのに、女神はそっけなく応じて休みなく鉄筆を走らせ続けた。
 黒ローブのフードを目深に被っている為、表情を伺う事が出来ないが、声の調子から察するに、どうも機嫌が悪いらしい。

「どしたの? 何か嫌な事でもあった?」
「ああ、それはだな―」

 不穏な気配を感じ取ったベルの問いにエルヴィデンスが答えようとした、その時。

「エルちゃーん。ちわわー」

 神殿の入り口から厄病神の声が響き、ベルは思わず怖気を震った。

「やばっ! メイオだわ! あ、あたしがココに来たって事は言わないでくれる?」
「ああ、良いぞ」
「恩に着るわ!」

 積み上げられた石版の陰にベルが身を潜めるや、否や。
 屈託のない笑顔を満面に浮かべたメイオルティスが、勢いよく扉を開けて飛び込んで来た。
 乱暴に開けられた扉の金具が悲鳴を上げて壁から外れ、エルヴィデンスは不機嫌を絵に描いたような顔を石版から上げた。
 途端、迸った鬼気も、それを避けるべく慌てて主の視界から逃げ出した下僕達をも気に留めず、メイオは無邪気な声を出した。

「エルちゃん、おひさー。ベルちゃん見なかった?」
「見てはおらんな」

 嘘ではなかった。彼女はずっと、石版から顔を上げなかったから。
 
「ふーん。じゃー、ベルちゃんが今ドコにいるかも知らないんだね」
「ああ。知らんな」

 嘘ではなかった。ベルが今"この部屋の"何処にいるか、彼女は確認していなかったから。

「ふーん。残念だなー。にしても、すごい仕事量だね。エルちゃんは出来る子だって、超至高神も褒めてたよ」
「ああ、そうか。そんな事より自分の仕事は済んだのか、メイオ」
「もっちろん! 終わったから、これからベルちゃんと遊ぶの!」
「暇なら他の奴を手伝ってやれ。火の精霊王のカーンが、神手(ひとで)が足りんと愚痴っておったぞ」
「そうなの? じゃ、ベルちゃんを見付けたら一緒に行くよ。でも、ベルちゃんったら、一体ドコに行っちゃったんだろ?」


312 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:55:09 ID:hvLhhV16
 頬に人差し指を当てて小首を傾げるメイオを捨て置き、エルヴィデンスは再び石版に鉄筆を走らせた。
 書き終えた石版を山と積まれた石版の上に乗せ、うーんと一つ、大きく伸びをする。
 そして、書き終えた石版の山を、訓練された下僕が淀みない動作で運び出すのを見送って。
 別の下僕の差し出した石版を受け取り、再び鉄筆を走らせる。

 その様子を、部屋の隅で息を潜めたベルがはらはらしながら窺っているとは露知らず。
 メイオは暫し無言でエルヴィデンスの仕事風景を見つめた後、一縷の望みを抱いた様子で口を開いた。

「ねぇ、エルちゃんはベルちゃんが行きそうなトコ、心当たりない?」
「ふむ。そうだな」

 エルヴィデンスは筆を止め、また別の石版を手に取ってガリガリと何やら書き込んでメイオに向けて突き出した。
 
「この場所で待っておれば、そのうち会えるのではないかな?」
「ほんと?! 嬉しいなぁ! やっぱり、エルちゃんは頼りになるの!」

 メイオは石版を抱きしめて小躍りし、「じゃ、早速行ってみるね!」と叫ぶや神殿の壁をブチ破り、砲弾のように外に飛び出して行った。
 再び顔を上げたエルヴィデンスが執務室の壁に開いた大穴に溜息を吐くや、下僕の一人が「心得た」と言った風情で進み出る。
 魔道具・逆さ時計の針をキリリッと巻き戻し、破壊された壁を速やかに復元した下僕は、自らの女神の微笑に頬を染めつつ一礼して退出した。
 それから暫し間を置いて、ベルは――気配を探り、メイオがエル=ネイシアを去ったのを確信して――石版の山の陰から姿を現した。

「ふう。助かったわ。やっぱり、アンタは頼りになるわね、エルヴィデンス」
「何、私も、お前とは一度ゆっくりと話をしたいと思っておったのでな。良い機会だと思っているのだよ」
「へえ? アンタがあたしと?」

 礼を述べたベルは、意外な台詞に片眉を跳ね上げた。
 自分は何か、この仕事中毒気味な黒衣の女神の注意を引くような真似をしただろうか?
 お互いに年に数度、遠目に姿を垣間見る機会があるかどうか、と言う程度の間柄でしかない筈なのだが。

「少し待ってくれるか? あと一息で一区切りつくのだ」
「う、うん? 別にいいけど……」

 ベルが思い悩む間も、エルヴィデンスは時折資料に目を向けつつ石版に文字を刻み続けた。
 脇目も振らずに仕事に没頭し、ベルやメイオの話にも上の空だったのが気になったベルは、眉を顰めてエルヴィデンスの正面に立った。
 
「あんまし根を詰めすぎると身体壊すわよ? さっきから何をそんなに熱心に書いてるのよ?」
「知りたいか?」

 手を止め、幽鬼のような仕草でユラリと席を立ったエルヴィデンスの声は、まるで冥界の腐沼の底から響くかのようで。
 呪詛を孕んだ言葉と、敵意に満ちた思念を浴びせられ、ベルは急に胃を冷たい手に捕まれたかのような錯覚に襲われた。

 噴き出した憎悪に全身を打たれ、ビクリと身体を振るわせる。
 巨大な掌に頭を抑え付けられる幻覚に襲われる。
 胸を押し潰されそうな、強烈な圧迫感に苦しめられる。

(なんで? なんで、この女は、こんなにもあたしを憎んでるの?)

 思い当たる節は何もない。何もないのだが、目の前の女神が激しく自分を恨んでいるのは間違いない。
 混乱したベルの鼻先に、書き上げあげられたばかりの石版が突きつけられ、一読するや瞬時に疑問が氷解した。
 そこには、見覚えのある地名が並んでいた。つい先月まで、ベル自身が創世に従事していた世界のものだ。
 どうやら、そこで大規模な天変地異が起こり、大惨事になったらしい。
 そして、超至高神から災害復旧と原因究明を命じられたエルヴィデンスは、多忙を極めた後、次のような結論に達していた。
 即ち、今回の災害は創世を担当したベール=ゼファーの手抜き工事が原因である、と。

「えー……えーと……そのー……」

 たった今、紅茶を飲んだばかりだと言うのに、ベルの口の中はカラカラに干からび、舌が上顎に張り付いて動かなくなっていた。
 エルヴィデンスは全身からそこはかとない疲労感を漂わせ、予想外の事態に言葉を失ったベルへと静かに歩み寄る。
 その様子は、人間で言えば「ずっと会社に缶詰になってて、一ヶ月くらい家に帰ってません」という状態に相当するだろう。


313 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:57:18 ID:hvLhhV16
「私はな。自分の割り当て分の仕事は、もうとっくの昔に済ませているのだよ。
 エル=ネイシアの土台は一通り出来上がり、後は様子を見ながら微調整を加えるだけなのだ。
 そうして、その後は、ゆっくりと下僕達の育成を楽しめる筈だったのだよ。それが、その筈が……」
 
 声が震え、後は言葉に成らなかった。

 仕事というモノは、「しない奴」の所から「する奴」の所へ流れていくものなのである。
 上司にしてみれば、働かない奴を無理矢理働かせるよりも、働く奴に遣らせる方がずっと楽だ。
 が、だからといって一人に仕事を集中させれば、その有能な人材は過労で倒れてしまい、結果、役立たずだけが組織に残る。
 そうならないように職場を管理し、適切に仕事を割り振るのが管理職の役目ではあるのだが、超至高神は自分が楽な方を選んだらしかった。

「なぁ、ベール=ゼファー。どうして貴様は何事につけて、すぐに手抜きをするのだ?」
「あー……えーと……そのー」
「どうして貴様は真面目に働こうとしないのだ? なぁ?」
「いや、えと、その……」

 鬼気迫る風情で詰め寄るエルヴィデンスの言葉よりも迫力に押され、ベルは思わず一歩後退った。
 意味もなくグルグルと回る頭で、大急ぎで対策を講じる。
 大きく深呼吸をし、気を静める。同性すら魅了する(と、自分では信じて疑わない)蟲惑的な笑みを浮かべる。
 そして、精一杯可愛らしい声で、こう言った。

「働いたら負けかな、って思って」
「くたばれ地獄で懺悔しろ」

 冗談の通じない奴だ。

「貴様がダラダラと過ごしている間、私がどれだけ働いていると思っているのだ?
 貴様に遣らせるより私に遣らせた方が早いからと、超至高神が割り当てた仕事の配分がどれ程偏っているか分かっているのか? 
 貴様の手抜き工事が原因で起きた事故の処理を、私が何十件押し付けられたか知っているのか?
 貴様は何故、いつもいつも致命的に詰めが甘いのだ?
 何故だ? 何故、私が貴様の怠慢のツケを支払わねばならんのだ?」
「う……うう……」

 ネチネチネチ。 

「個々の仕事はな、別段大した問題ではないのだ。だがな。片付けても、片付けても、すぐにまた次の仕事が来るのだよ。
 私だって、私だってな、こんな雑用はさっさと済ませて、可愛い可愛い下僕達を愛でる作業に戻りたいのだよ。
 それが、それが貴様の怠慢の所為で、この部屋と事故現場を往復する毎日だ。もう何日も下界の様子を伺う暇も無いのだよ」
「う……うう……」

 グチグチグチ。

「貴様がサボった分の皺寄せに私が苦しんでいる間、貴様はと言えば、メイオとじゃれ合ったり、アステートと遊んだり、アチコチ食べ歩きを楽しみおって。
 働かずに喰う飯は美味いか? 暴食の女王よ」
「ぐ……ぐ、ぐう……」
 
 エルヴィデンスの舌鋒に胸を抉られながら、ベルは必死で反論の糸口を探し、猛スピードで思考した。
 
(落ち着いて……落ち着くのよ、ベール=ゼファー……言われっぱなしで済ますなんて、絶対に認められな―)
「一大事だよ、エルヴィデンス!」

 ベルが何かしら返す言葉を見つけるよりも、早く。
 突如、荒々しく扉が開かれ、上品な雰囲気の老婦人が慌てた様子で飛び込んで来た。

「エデンが、第九世界が自壊を始めていてね。急いで修復しなきゃならないんで、一緒に来てくれないかね」
「がっでむ!」

 抑えきれぬ怒りの赴くまま振り回された腕が、偶然にも近くを通りかかった下僕に当たってその場に打ち倒す。

「あ、ちょっと、かわいそうかも」

314 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:58:52 ID:hvLhhV16

 最愛の女神から謂われない暴力を受けた下僕に同情したベルは、エルヴィデンスに声をかけようとしたが、それよりも一瞬早く、現実を把握した下僕は、慌てて跳ね起きて、もの凄い勢いで部屋を飛び出して行った。

「みんなー、見てみてみてー! 女神様に触ってもらっちゃったーー! ほら、ここ! 痕がついてるだろー?」
「うわーいいなー」「うらやましーなー」

「下僕って……」

 廊下の向こうから聞こえる歓喜に満ちた下僕の声が、ベルから、語るべき言葉を奪い去った。

「流石、よく躾けているね。エルヴィデンス」
「煽てても何も出んぞ、ラサ」
「いやソレ皮肉でしょ? 常識的に考えて」
「そんな事よりも、だ!」

 ベルの呟きで逸れ掛けた会話を荒々しく断ち切り、後に邪神と呼ばれる事となる女神は乱暴に床を踏みつけた。
 次いで、凶報を齎した地の精霊王へと憤怒も露に向き直り、常人ならば死を免れぬほどの殺気を吹き付けて食ってかかる。

「何故、私なのだ? 其処のポンコツに遣らせればよかろうに!
 昨晩クィンティと片付けた事故の報告書を、つい今しがた書き終えたばかりなのだぞ!
 今朝ラシィに頼まれた仕事には、まだ手を着けてさえおらんと言うのに!」
「どうしても、貴女の手腕が必要なんだよ。
 ただでとは言わないよ。地の精霊界からエル=ネイシアへのプラーナ供給量を増やすからさ。
 エルクラムを抜いて第三世界になれるくらいにね」
「む、それは一考に値するが」

 ラサの申し出に、エルヴィデンスは胸の前で腕を組んで考えるそぶりを見せ、脈ありと見た地の精霊王が更に畳みかける。

(あ、これってチャンスかも?! )

 仕事熱心な二柱の女神が交渉を始めるや、ベルはこっそりと戸口の方へにじり寄り……
 機を見計らい、一気に外へと飛び出した。

「あああああたしは、これで失礼するわ! じゃね!」
「待て、ベール=ゼファー! まだ話は済んでおらんぞ!」

 こうして、ベルはエルヴィデンスの怒声を背に受けながら、大慌てでエル=ネイシアを後にしたのだった。



「で、その後アステートと食事に出掛けたら、行った先でメイオの奴が待っててさぁ、折角の一時がダイナシよ。
 あの陰険ババァ、あたしのお気に入りのデートスポットをメイオにバラしやがって!
 おまけにエデンを直すとき、あたしの貯蔵庫から勝手にプラーナ持ち出したのよ? ったく、もう!」
「何故、エルヴィデンス様は、その場所の事をご存知だったのでしょう?」
「何でも、あたしを捕まえて説教かまそうと、あたしが立ち寄りそうなトコを下僕に調べさせてたらしいわね」
「よほど、腹に据えかねていたのでしょうね……」

 ベルの思い出話を聞かされたリオンが、鎮痛な表情で首を振った。
 ここは、裏界の一角に聳える蝿の女王の居城。
 窓の外で巨大な歯車の回転する私室で、ベルはエルヴィデンスとの過去の因縁を振り返っていた。

「ま、あンときの借りは今回の件で返してやったわ。あのババァ、さぞかし悔しがってるでしょーね」
「……他の古代神の計画を妨害して、出てくる台詞がそれですか?」
「にしても、さぁ。アンゼロットが柊蓮司を殺したいほど憎んでたってのは意外だったわねー」

 リオンは小さく溜息を吐いたが、ベルはそれに気付かぬまま、小首を傾げて話題を変えた。
 冥界の瘴気を吸収し、冥魔王へと変じて柊蓮司を苦しめたアンゼロットの狂態を思い出し、ぶるりと身体を震わせる。
 あれ程までの悪意と憎悪の持ち主など、裏界の魔王にも居はしない。
 大抵の魔王の脳内は、上位者への恐怖と、それを忘れさせてくれる楽しみの事で埋まっているのだから。

315 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 22:59:38 ID:hvLhhV16

「この書物には、そのような事は書かれていません。
 柊蓮司を妬んでいたのはエルヴィデンス様の方で、アンゼロットは操られていただけです」
「はえ? 何でまた、あのババァが柊蓮司を嫌うのよ?」

 自慢の書物に目を落としたリオンにしたり顔で否定され、ベルは不審気に眉を寄せた。

「エルヴィデンス様は世界の守護者を三人も倒し、今や世界一つを支配下に置いています。
 ですが、あの御方も、今まで常に順風満々に過ごしては来た訳ではありません」
「まあね。古代神戦争に負けたときに『これでもかっ!』ってくらい厳重に封印されたそうだしね。
 総ての下僕から引き離されて、エル=ネイシアに唯一柱だけで閉じ込められて、自力で写し身も造れなくされて。
 それで仕方なく、エルンシャの娘とか、アンゼロットの姉とかに憑依しようとしてたんだっけ?
 アンゼロットが仕事サボった隙に復活した過去2回の戦いでも、ロクに力を発揮出来ずに負けたって聞いたわ」
「ええ。そのとおりです。もっとも、敗れたとはいえ、その戦いでアンゼロットとイクスィムを倒しているのですが」
 
 どこかのぽんこつとは大違いです、とは口には出さず、ベルの相槌に調子を合わせ、リオンは書物のページに視線を走らせる。

「あの方は世界を奪うために姿を偽ってエルンシャに仕え、全幅の信頼を得るほどに敬虔に振る舞いました。
 あの嫌味な陰険ババァが十年以上もの間、非の打ち所のない聖女を演じ切ったのです。
 恐らく、筆舌に尽くし難い精神的ストレスがあった事でしょう」
「嫌味な陰険ババァて。アンタもけっこう言うわね、リオン」
「対する柊蓮司はと言えば、労せずして、幾度となく世界を救う運命に恵まれています」

 ベルのツッコミをサラリと聞き流し、リオンはパラリと書物のページを繰った。

「知ってのとおり、アンゼロットは長年に渡り、実に乏しい戦力で裏界を封じ続けて来ました。
 それに興味を持ったエルヴィデンス様はアンゼロットの戦果について詳しく調べました。
 そして、もしも御自分が同じ立場にあったならばと思索を巡らせて―
 馬鹿馬鹿しくなってしまったのです。
 碌な訓練も受けておらず、何の思慮もなく、ただただ勢いに任せて暴れるだけで成功し続ける柊蓮司の姿に」

 古女王は政治家だ。
 政治とは、総てを同時に得られはしないと認め、物事に優先順位を着けるものだ。
 言い換えれば、政治とは『何を切り捨てるか』を決めるものだ。

 しかし、もしも。
 もしも、総てを同時に得られるのなら。
 政治なるものは必要がなく、古女王が今まで支払ってきた代償は無駄であった事になる。

 つまり、柊蓮司の在り方は、エルヴィデンスの生き様そのものを否定してしまうだ。
 
「報われない努力家であるエルヴィデンス様にとって、柊蓮司の存在は決して認められるものではなかったのです」
「それはちょっと、幾らなんでも大げさすぎるんじゃない?」

 ベルが更に首を傾けると、リオンはまた書物のページを繰り、其処に書かれた記述に目を走らせた。

「そうですね。直接刃を交えてみて、エルヴィデンス様も色々と思うところがあったようで。
 もう既に、柊蓮司への憎しみは解消されています」
「まぁ、そうよね。柊蓮司だって、まったくの苦労知らずって訳じゃないんだし」

 今までに柊蓮司が味わってきた不幸の数々に思いを馳せ、ベルは腕を組んでウンウンと頷いた。
 この世の不運を一身に背負ったような顔をした珍獣を「神からも羨まれる幸運児」と呼ばれても違和感しか感じない。
 異世界から結果だけを見れば、或いはそのような勘違いも起こるのかもしれないが。

「それでもさー、やっぱ、アンゼロットを操っていたぶらせるってのは悪趣味にも程があるわ」
「魔王の台詞とも思えない御言葉ですね。
 それに、エルヴィデンス様がアンゼロットを操ったのには、実際的な意味もあったのですよ?」


316 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:00:28 ID:hvLhhV16
 古女王は当初、冥魔王と成さしめたエルンシャにアンゼロットを攫わせ、エンディヴィエ封印の間に共に封じる予定だった。
 だが、柊蓮司の尽力によって正気を取り戻したエルンシャがベルの不意打ちを受けて倒れ。
 アンゼロットがショックで放心状態になったのを見て、千載一遇の好機と看做した。
 アンゼロットを洗脳し、八大神に封じられた自らの本体を解放させようと目論んだ。
 だからこそ、アンゼロットを殺そうとしたベルを止める為、より効率良く精神干渉を行う為、ベルの写し身を奪って顕現したのだ。

「現在のエルヴィデンス様は能力の大半を封じられており、そう簡単にはアンゼロットを完全な傀儡にできません。
 そこで、エルヴィデンス様は段階を踏んで洗脳を行う事にしたのです」

 まずは『アンゼロットには、柊蓮司を憎む"理由"がある』と言う事実を利用して『お前は柊蓮司を憎んでいる』と刷り込む。
 次いで、柊蓮司に嗾け、反応を見ながら精神干渉を繰り返し、見事、アンゼロットに柊蓮司を殺させる事が出来たなら―

「アンゼロットの精神は罪の意識によって完全に崩壊し、意思無き人形に成り果てていた筈だったのです」
「うーん、理屈は分かるんだけどさぁ。やっぱ悪趣味だわ、ソレ」
「ベルだって、裏界第二位の実力を持つ大魔王が駆け出しウィザードばかりに手を出しているのですから、趣味が良い方だとは言えませんよ。
 手応えのあるゲームがしたいのなら、どうして天界に攻め込まないのです?」
「ふふっ。分かってないわね、リオン」

 ベルは哀れむようにリオンを哂うと、教え諭すように持論を述べた。

「いい? ゲームってのはね、難易度が高けりゃいいってモンじゃないのよ。
 天界の奴らは戦って面白みのある連中じゃないの。見習いウィザードどもをからかう方がずっと楽しいわ」
「つまり、世界結界の外で直接介入禁止規定のない世界の守護者とガチって雷神王結界陣で動きを封じられて八神魔法を打ち込まれるよりも、
世界結界の内側で手抜きしながら年端もいかない子供にタンブリングダウンとネイティブ絶技符スロウでハメられる方が楽しいのですね。
 良く分かりました」

 いつか殺そう。
 ベルは心に固く誓った。

「それよりも」

 リオンは溜息をついて首を振ると、一転、真面目な顔をベルへと向けた。

「エルヴィデンス様と柊蓮司がギリギリの戦いをしているとき、どうして柊蓮司に手を貸したりしたのですか。
 あの方に恩を売り、政治的立場を強める絶好の機会でありましたのに。
 裏界の魔王が、古代神から世界の守護者を守ってどうします」
「ぐっ!」

 痛いところを突かれたベルは思わず呻き声を漏らすと、じっと自分を見つめるリオンから視線を逸らして口の中でモゴモゴと呟いた。

「ああああのババァは、昔っから気に食わなかったのよ……やたらと説教臭いわ、他人の物を勝手に使うわ、それに……それに……」
「そうは言っても、それらはベルの怠慢が原因なのでは?
 勝手に使ったというプラーナも、元々、世界を創造するために集めたものだったのでしょう?」
「いや、まあ、そうなんだけど……あ、あたしが集めたんだから一言断って当然でしょう?
 今回の件についてだって、その、あのババァの方から縄張りを荒らしに来たんだし……」
「そういうベルだって、エル=ネイシアから神条皇子を攫ってきたではありませんか。
 その言い訳はダブルスタンダードになるのでは?」
「そ、そんなの早い者勝ちでしょ! 皇子の件は、あの子の素質に気付かなかったババァの落ち度よ!」
「それなら、エルヴィデンス様がベルからアンゼロットを奪っても早い者勝ち。今まで倒せなかったベルが悪いと言う事ですね」
「うぐっ!」

 言い返され、言葉に詰まったベルを見つめる視線の温度を若干下げて、リオンは更に追い討ちをかける。

「どう言い訳するおつもりですか?
 このままでは『ベルはアンゼロットの下僕になった』と言いふらされるかもしれません。
 増してや『裏切り者のベルを討ち果たした者には、後見人となって裏界皇帝となるのを手助けしよう』とか言われた日には。
 総ての侵魔が――ひょっとしたら、冥魔王も――ベルの首を取って名を挙げようと、一斉に襲いかかってくるでしょう」
「ま、まっさかぁ。あのババァにそんな影響力あるワケ―」
「本気でそう思いますか?」


317 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:01:08 ID:hvLhhV16
 リオンは席を立ち、顔を背けたベルの前に回り込んだ。
 ベルの目をまっすぐに覗き込み、噛んで含めるように、聞き分けのない幼子に言い聞かせるように、静かに、穏やかに言葉を紡ぐ。

「裏界は力が総ての世界です。
 ベル。貴女は輝明学園やダンガルド魔術学校に忍び込んでは、見習いウィザードに見つかって余裕でフルボッコされていますね?
 対して、向こうは世界の守護者を3人も倒しています。シャイマールすらも遥かに凌ぐ戦果を挙げているのです。
 どちらが強そうに見えるか、わざわざ説明が必要ですか?」
「ぐ……ぐぐぐ……」
「ベル・フライを慕うBFL団は僅か数万人。その内訳は、何の社会的影響力もない男子高校生ばかり。
 一方、あの方の表の顔であるセルヴィ宰相の支持者は国民のほぼ総て。もちろん、その中には裕福な貴族や高名な神姫も含まれます。
 第八世界と第三世界では色々と条件が異なりますが、それにしても桁が違いすぎるとは思いませんか?」
「ぐ……ぐぬぬぬ……て、あれ? この瘴気は……?」

 リオンに畳み込まれたベルが溜まらず視線を泳がせると、部屋の隅に瘴気が蟠り、一人の少女が姿を現した。

 その身を包むは、茨のようなレースに飾られたドレス。
 右目を覆うは、薔薇の眼帯。
 腰まで伸びた紫髪を靡かせるは、全身から立ち昇る瘴気。
 満面に浮かべるは、亀裂めく禍々しき凶笑。

 冥姫王プリギュラ。エルヴィデンスの盟友たる、冥魔王の一柱だ。

「はぁい、ぽんこつちゃん。遅くなってごめんねぇ。はい、これ。借りてたコンパクト返すわぁ」
「プ、プリギュラ! アンタ今までドコ行ってたのよ?!」
「闇海姫(シャドウ★ネプチューン)ちゃんの具合が悪そうだったからぁ、先にエル=ネイシアまで送ってきたのぉ。
 途中でエルンシャに追いつかれそうになっちゃってぇ、撒くのに苦労したわぁ。
 マトモに戦っても勝てるんだけどぉ、もしも闇海姫ちゃんを拠り代にされたら堪んないものぉ」
「うんうん! そうよねぇ!」

 ベルは話題を逸らすべく、力強くプリギュラの言に同意した。
 蝿取り紙のようにネットリとした喋り方といい、何処となく食虫植物を連想させる雰囲気といい、いけ好かない女ではある。
 だが、リオンの追求から逃げるのには利用出来そうだ。

「ベル。それでエルヴィデンス様には何と言い訳を―」
「ね、ねぇ、プリギュラ! まだ暫くコッチに居られるの? 何だったら、表界をアチコチ案内してあげようか?」

 ベルはリオンの台詞を強引に遮り、不利な話題から逃れる好機とばかりに、勢いよく冥魔王に言葉を掛けた。
 このまま話を有耶無耶にして、プリギュラを連れて表界に逃げてしまおう。
 
(それに、この女があの陰険ババァのお気に入りなら、手懐けておいて損はないわ)

 急いで策を組み立てたベルが熱心にかき口説くと、プリギュラは唇に人指し指を当てて思案する様子を見せた。

「アキバとか、一緒に行かない? 美味しいドラ焼き屋見つけたのよ」
「んー、それもいーけどぉ、その前に一つ聞きたい事が―」
「何々なに? 何でも聞いてちょうだい!」

 逃げ場を求めて畳みかけたベルに、プリギュラが応じて曰く。

「セルヴィには何て言い訳するのぉ?」

 逃げ場は、なかった。

「なななななんであたしが言い訳なんかしなきゃならないのよ!
 あいつはあたしの獲物を横取りしようとしたんだから当然でしょっ?!」
「自分が何をしたのか、全然分かってないのねぇ、ぽんこつちゃん」

 プリギュラは薔薇の眼帯に覆われていない左目を細め、唇の両端をついっと吊り上げると、蔑みに満ちた瞳でベルを見た。


318 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:02:03 ID:hvLhhV16
「アンゼロット一人の足止めも出来ない超☆無能魔王の尻拭いをぉ。
 冥界陣営で唯一、守護者殺しと世界の簒奪の両方を達成した最高の戦果の持ち主がぁ、頼まれもしないのに買って出てくれたのよぉ。
 泣いて喜んで感謝するところじゃないのぉ? それをダイナシにしておいて、その態度は何ぃ?
 縄張りを荒らされた? プライドを傷つけられた? そんな台詞はアンゼロットを倒してから言ったらどうなのよぉ。
 悪い事は言わないわぁ。セルヴィから謝罪と賠償を要求する抗議文が届く前にぃ、自分から詫びを入れたほーが身のためよぉ。
 条件次第じゃあ、わらわも庇ってあげるけどぉ?」
「……言ってくれるじゃないの、プリギュラ」

 冥界の腐沼の底から湧き上がって来たかの如き怨嗟に満ちた声が発せられ、室内が、否、城全体が苛烈な殺気に満たされた。
 だが、駆け出しのウィザード程度ならば、それだけで息の根が止まるであろう重圧を浴びて、尚。
 少女の姿をした冥魔王は、裂けるような笑みを崩さぬまま、冷ややかに裏界の大公を"見下して"いた。
 其の不遜な態度に益々怒りを掻き立てられ、ベルは眉を吊り上げ、頬をヒクつかせて荒々しく椅子を蹴って立ち上がり―

「い、いけません、ベル!」

 それまで黙って見ていたリオンが、額に汗を浮かべ、悲鳴のような声をあげてベルの前に割り込んだ。

「エルヴィデンス様の計画を妨害するのに、今回はあまりにも遣り口が露骨過ぎました。
 パールの時とは違い、今回は相手の方が遥かに格上。
 更に、ルー様の時のように失脚させた訳でもない以上―」

「うっさいわね! アンタはあの陰険ババァをダシにして、あたしをからかいたいだけでしょーが!
 そんなに心配ならアンタが詫びに行ってきなさいよ!」
「あ、ソレ、いーわねぇ」
「は? え、いえ、それは―」

 怯えるリオンに、プリギュラの袖口から一本のリボンが飛んだ。
 闇海姫の強大過ぎる魔力を抑える為に古女王が造った魔道具・クラーケンリボンが頭上で蝶結びを象るや、瞬く間にリオンの姿が縮む。
 そして、数秒後。ベルとプリギュラの前には、一人の2歳児が佇んでいた。

「あ、あら……?」「こ、これは……ちょっと、かわいい……かも?」

 ベルは一瞬呆けた顔になったものの、すぐに気を取り直し、ネズミを見付けた猫のような笑みを浮かべて黒髪の幼女の頭を撫で回した。
 あのいけ好かない陰険ババァも、偶には面白い玩具を作るらしい。

「いー格好ね、リオン。この姿ならブラ付けるの忘れても問題ないわね」
「え? え?」
「じゃ、逝ってきなさい、リオン。ご・武・運・を」
「ちょ、まっ、ベル! まさか本気で言って―」
「さ、鉄子ちゃん。一緒にセルヴィのトコに行きましょうか」
「え? いえ、その……ベル!」

 逃げようとしたリオンの小柄な体躯を素早く抱き上げた冥魔の王は、蝿の女王に目礼一つするや空間転移で姿を消した。

「フン! いーきみよ。たっぷり絞られてくるといいわ。さって、ゲン直しにアキバのうさぎ屋にでも行ってこよっかなー」

 その場に一人残ったベルは誰に言うともなく呟くと、ポンチョを翻し、ドラ焼きを食べに表界へと赴いた。




319 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:02:45 ID:hvLhhV16
『我が忠実なる神姫よ。よくぞ影姫を倒し、新たな冥界門の発生を阻んでくれた。心から礼を言う』
「何を仰いますか、星王神様! 数ある神姫の内よりワタクシめをお選び戴き、任務を授けて下さった栄誉に報いるのは当然の勤めに御座います!」

 感服する神姫にエルンシャは、ただ、一番近くにいたから声をかけただけだとは言えなかった。
 まあ、必要な時に必要な場所にいる、それこそが「運命に選ばれる」という事なのかもしれないが。

『闇下僕たちを倒すときに何名か、勢い余って冥界門に転げ落ちた下僕がいたようだが』
「皆、覚悟の上です」

 一点の曇りもない澄みきった瞳で、夜空に輝く皇王星を見上げた神姫は何の気負いも迷いもなく答え、下僕達もまた、それに追随し唱和した。

「我らは姫様の槍にして盾。騎馬にして糧」
「主を守りて戦場に倒れるも、総てのプラーナを主に捧げ尽くして消滅するも、望むところ」
「我ら一同、自爆魔法も標準取得」
「フォートレスでは、喜んで下僕探知を行いましょう」
『頼もしい言葉ではある。しかし、死に急ぐばかりが忠義でもないぞ』
「それは重々承知しておりますとも」

 エルンシャは、愛しい下僕達の信仰篤き姿に心を打たれつつ、無駄死にだけはしないように釘を刺した。
 とは言え、世界を救うべく、自ら(物理的に)身を粉にしている神が諭したところで、説得力の欠片も無いのだが。
 超女王も聖姫も、率先して自分の身を犠牲にしているのだ。下僕達が、それに倣うのは必定だった。

「さあ、星王神様! どうか、この身に次なる任務をお与え下さい!」
『いや、待つのだ、神姫よ。休む事もまた、勤めであると心得よ。今は其の身を休め、次の戦いに備えて力を蓄えるがよい』
「有り難きお言葉に御座いまする!!!」
『間もなく、アンゼロットが戻ってくる。彼女の采配を得て行動すれば、より効果的に戦えるだろう』
「畏まりました、星王神様!」
『アンゼロットが到着したら、彼女の好きな銘酒『美少年』『みなごろし』を届けてやってくれないか?」
「仰せのままにッ!」
『では、暫しの別れだ。よく休むのだぞ、プリンセス★マッドマンよ』
「ははぁぁッッ!!」

 平伏した神姫と下僕達との念話を打ち切り、エルンシャはこっそりと溜息を吐いた。
 神姫達は頑張ってくれているが、第三世界の奪還は遅々として進まず、現状維持が精一杯だ。

『神姫達に不満がある訳ではないが、アンゼロットが羨ましくないと言ったら嘘になるかな?』

 第三世界と第八世界の情勢にこうも差がついたのは、それぞれの世界の守護者の力量の差が原因だとエルンシャは思っている。
 第八世界を去るときには大きな事を言ったが、結局プリギュラを取り逃がしてしまい、闇海姫の行方は分からなくなってしまっている。
 しかし、それについては一先ず置くとして、だ。

『アンゼロットは良い友人に恵まれていたな……』

 脳裏に浮かぶは、一人の青年の姿。
 風のように爽やかで、火のように激しく。
 絶大な力を持つ闇姫を相手に、脆弱なる人の身で一歩も退かず、幾度打ち倒されたとて諦めることなく挑み続け、遂には勝利を?ぎ取った。
 
『少し優しすぎるきらいがあるが、平時においてはそれで良いのだろうな』

 エルンシャが古代神の拠り代に憑依して動きを封じ、諸共に断ち切れと迫ったとき。
 柊蓮司はエルンシャの犠牲を拒み、それ故にエルヴィデンスを取り逃がした。

『我が娘、聖地姫(セント★ガイア)であれば、迷いつつも剣を振るい、あの場で決着をつけただろう』

 エルンシャは呟き、十姫騒乱の時代、邪神の復活を防ぐべく姉妹たる闇風姫(シャドウ★エア)の身体を砕いた娘の顔を思い浮かべた。
 他の世界の守護者達、褐色の肌の防人や時の女神もまた、世界を救うべく家族の犠牲を乗り越え、自ら親友を手にかけたと聞く。
 世界を守るには、神と言えど多大な犠牲を支払う必要があり、そして、それを支払えるからこそ、神足り得るのだ。


320 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:03:33 ID:hvLhhV16
『だが、柊君は仲間を救うために戦っているのだ。世界のために仲間を犠牲にしてしまっては、本末転倒になってしまう』

 人の子は、あれで良いのだ。
 世界は、「世界の守護者」が守ればいい。 

『我ら神々は、人の子の安息を守るために在るのだからな』

 それにしても、かの青年は、共に在って実に心地良い、実に好感の持てる漢だった。

『恋人がいると聞いたが、そうでなければ、是非とも娘の婿に―』


「男はやっぱ、高学歴でなきゃーな。高卒? おととい来やがれ」
「頭の悪い男は好みじゃないなぁ」
「ここぞ、ってときにファンブルしそうな人は、ちょっと頼りないですね」
「品のない方は趣味ではありませんわ」
(落ち着きのない男は嫌いだ、と無言で主張している)
「いや、アタシ百合だし」
「きゃはっ★ 見て見てぇ! カエルのお尻にストロー突っ込んでぇ、息吹き込むと、お腹がプクッて膨らんで面白いんだよっ!」
「目つきが怖そうで……乱暴そうな……人、ですね。少し、距離を置きたいと思います」
「騒がしい者には死を」
「吸収したら色々下がりそうだな。お断りだ」


『……いや、我が娘達とは、あまりウマが合いそうにないな』

 娘達の反応をシミュレートしたエルンシャは、やれやれ、と頭を振った。
 激しく育て方を間違えた気がする。エルンシャは育てていないが。

『エルヴィデンスに攫われ、かの者の殺戮人形として育てられた闇姫達は仕方が無い。
 だが、アンゼロットとイクスィムと言う素晴らしい女性たちと身近に触れ合った筈の聖姫たちが、"ああ"なったのは何故なんだろうね?』

 やはり、男親が傍にいなかった所為か。
 どうも娘達は、男性に対してあまりにも多くを望みすぎていると感じられて仕方がなかった。
 
『客観的に見て、態度の荒々しい柊君は、女性から特別に慕われる方ではないだろう。
 だが、柊君の恋人は、彼の内に秘めた情熱と優しさを見抜いたのだな。
 きっと聡明で、包容力に満ちた優しい女性なのだろう。
 彼等の婚儀の折りには、私とアンゼロットが仲人を― む?』

 世界全体に拡散した守護者の欠片が、またしても新たな冥界門の発生を感知した。
 神姫を送り込み、影姫を倒し、門を封じる。それ自体は、決して難しい事ではない。
 だが、その都度『どの神姫がエルンシャの声を聞けるのか』を敵に知られてしまうのが気になる。
 寧ろ、それこそが古代神側の狙いではないのか、とさえ思う。
 しかし、だからと言って見過ごす事など出来はしない。

『全く、自分の愚かさに辟易してしまうな』

 エルンシャは誰にも聞かれぬように呟くと、冥界門に最も近い場所にいる神姫を選び、その心へと語りかけた。

『我が愛しき神姫よ。この不甲斐ない守護者の頼みを聞いてはくれまいか』




321 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:04:42 ID:hvLhhV16
 灯はアンゼロットから受け取ったヒルコを、震える手で、眠り続ける命の胸の上に置いた。
 息を飲み、様子を見守る。

 一分がたち。
 二分がたち。
 十分がたった頃、灯は肩の力を抜いた。

 失望したように。安堵したように。

 何も、変化は起こらなかった。

「灯さん」

 突然声をかけられ、ハッとして振り返ると沈痛な表情をした銀髪の少女が立っていた。

「シャノン……」
「命さん、目を覚まさなかったんですね?」
「いい……期待は・・・して、なかったから……それに……ヒルコの……力で……目覚めては……欲しく、ない……」
「そう、ですか」
 
 かける言葉に困った様子のシャノンから目を逸らし、灯は踵を返し、病室の出口に向かう。
 今回の事件の副産物として神殺しの魔剣から抜き取られた、魔王アスモデートの妖剣。ヒルコ。
 真行寺命のプラーナの結晶とも言える存在。それが手元に戻って尚、彼は目覚めはしなかった。

「そろそろ……アンゼロットの……ところに、行く。命の治療、お願い……」
「はい。任せてください」

 廊下を歩み去っていく灯を見送って。
 シャノンは一人、小声で呟いた。

「ごめんなさい、灯さん。わたし、一生懸命がんばります」
 
 届かぬ謝罪の言葉を紡ぎながら、シャノンは命の点滴を取り替えた。慎重に調合した、特製のそれに。

「―!」

 急に何かの気配を感じたシャノンは慌てて命の容態を確認した。
 だが、何の変化も認められはせず、彼女は気の所為だったのかと首を傾げつつ病室を後にした。

 この日から半年後。
 真行寺命の目を覚ます。だが、それはまた別の物語。



 澄み渡る空に浮かぶ蒼き星を背に、どこまでも続く蒼い水面に聳え立つ白亜の城。アンゼロット城。
 その一角にある、地球の見えるテラスに集まった柊達は、ティーカップを並べたテーブルを囲んでいた。
 それは、皆で宝玉を集めていた頃によくあった光景に似ていた。
 尤も、今日は灯の姿はなく、柊の隣にはコイズミが座り、エリスはアンゼロットの後ろに立っていた。

「みなさん、お疲れ様でした。今はその身を休める事だけを考えてください。紅茶はいかがですか?」
「マドレーヌ、いっぱいありますよ! さあ、どうぞ!」
「はわー、おいしそう!」
「コイズミ、お前も食え。エリスのマドレーヌは絶品だぜ!」
「はっ、ありがたく頂戴します」
「……ひーらぎ。あんたね」
「いえ、いいんですよ、くれはさん」

 エリスに差し出された皿から取り上げたマドレーヌをコイズミに渡す柊にくれはがジト目を向けたが、エリスは気にしたそぶりも見せず、改めて柊の前に皿を突き出した。


322 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:05:24 ID:hvLhhV16
「柊先輩。マドレーヌ、もう一ついかがですか? たくさんありますから、どんどん食べてくださいね」
「おう、エリスのだったらいくらでも食えるぜ。あ、紅茶はいらねぇや。アイツにでもやるとすっかな」

 柊はティーカップを手に席を立つと、テラスの一角に穿たれたクレーターに歩みを進めた。
 それは、エルヴィデンスによって冥魔王とされたエルンシャが、アンゼロット城を訪れた際に抉ったものだった。
 柊は窪みの縁で足を止め、ティーカップを掲げて静かに黙祷を捧げると、ゆっくりと紅茶を零した。

「エルンシャさんよ。『不幸』って言葉は、俺なんかよりアンタの方がよっぽど似合ってるぜ」
「ちょ、ひーらぎ!? エルンシャさんて、先に帰っただけで別に死んだ訳じゃないんでしょ?!」
「そうですよ! そーゆーの、不謹慎です!」
「ん? そうかぁ? まぁ、人生の墓場に片足突っ込んでんだし、似たようなモンじゃねーか?」

 戸惑うくれはとエリスに不思議そうに呟き、柊はおもむろに天を仰いだ。
 視線を彷徨わせ、空の一角に、最初にエルンシャの姿が確認された辺りに目を向けて感慨に耽る。

「アイツ、いい漢だったけどよ、イマイチよくわかんねぇ奴だったなぁ。アンゼロットなんかのドコがいーんだか」
「エルンシャ様は、生まれて初めて出会った女性がアンゼロット様で、次があの邪神だったそうですよ」
「なん……だと……?」
 
 コイズミが何気なく口を挟むと、柊は目を剥いて驚き、油の切れたゼンマイ仕掛けのような仕草でコイズミに振り向いた。
 ギギッと音がしそうだった。
 その、驚愕に固まった顔はすぐに通夜のような鎮痛な面持ちに変わり、柊は目を伏せてエルンシャへの心からの同情を表した。

「そいつぁ……ひでぇや……。アイツ、間違いなく主八界で一番女運悪りぃ男だな」
「それはどーゆー意味ですか、柊さん」

 柊の独白を聞きとがめたアンゼロットが、にこやかな笑みを湛えて、小首を傾げて問いただす。
 顔は笑っているものの、額にはしっかりと青筋が浮いているのを認め、コイズミとくれはとエリスがビクッと身体を奮わせた。
 しかし、柊はコイズミ達が怯えているのにも構わず、鼻で笑って揶揄を返した。

「比較対象があんなんしかいねぇんじゃ、おめぇでも可愛く見えるってこった。
 つか、あの黒羽根女ぐれぇじゃねぇのか? おめぇより性格悪りぃ女なんてよ」
「何て事を言うのですか! あんな邪神と比べられる事自体が屈辱ですわ!」
「そっかぁ? あんまし変わんねぇと思うけどなぁ? 人を家畜呼ばわりするトコとかよ」
「わたくしは誰かを家畜扱いした事などありませんわ!」
「嘘つけ! いつもいつも、人を馬車馬みてぇにコキ使いやがってるクセしてよぉ!」

 憤然として声を荒げた柊と、憤怒に燃えたアンゼロットの視線が火花を散らす。
 一触即発の雰囲気に、はらはらしながら様子を見ていたエリスが慌てふためいて二人の間に割って入った。

「け、喧嘩は止してください、柊先輩! アンゼロットさん!」
「そ、そうだよ! 折角、異世界に出発する前にお茶会の時間をとったって言うのに!」
「お、すまねぇな、エリス、くれは。ああ、そうだ。聞いとかなきゃならねぇ事があったんだった」
「はい?」

 しぶしぶ矛を収めた柊は、スッと表情を引き締め、真面目な顔で銀髪の少女に鋭い視線を向けた。

「おい、アンゼロット。あの黒羽根女の奴、百八の古代神の一人とか名乗ってたけどよ。
 あんなのが他に百七人もいるのか? だとしたら、たまったもんじゃねぇぜ」
「その質問には、ハイともノーとも答えられますわね」

 柊の問いを受け、アンゼロットもまたティーカップをテーブルに置き、真剣な「世界の守護者」の顔になる。

「裏界の魔王のうち、公爵以上の者たちと温泉女王クロウ=セイルも古代神です。無論、ベルやシャイマールも」
「温泉女王?」
「あ、あたし、知ってる。安藤さん相手に殆ど何にも出来ずに切り刻まれてたって、マユリんが言ってた」
「古代神もピンきりってことか。あの黒羽根女は特別に強かったんだな」
「その認識は甘すぎますよ、柊さん」

 安堵の溜息を吐いた柊に、アンゼロットから厳しい叱責が飛んだ。

323 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:06:08 ID:hvLhhV16

「確かにエルヴィデンスは百八柱の中でも上位の存在でしょう。
 ですが、今回顕現したのは、その極一部。あの程度の戦闘力を持った冥魔や精霊獣は珍しくもありません。
 むしろ、世界結界の外では、魔王の力は『あれが標準』くらいのつもりでいた方がよいでしょうね」
「マジかよ!? 俺、異世界で魔王と戦ったコト何べんかあるけどよ、今回は色々とケタが違ってたぞ!」
「ディングレイや山羊魔王のときは、あーゆー展開になると"運命"や"因果律"で決まっていましたから」

 慌てる魔剣使いに、しれっと言葉を返して紅茶を一口飲んだ世界の守護者は、改めて柔らかい笑みを向けた。

「怖じ気つきましたか、柊さん?
 これから柊さんが挑む戦いには、世界結界の助けも"運命"や"因果律"の加護もありません。実力が総てです。
 フレイス行きを取りやめるなら今の内ですわよ?」
「馬鹿言え。俺は"運命"を当てにしたこたぁ一度もねぇよ」

 柊は、からかうようなアンゼロットの問いを一言で切って捨てて言葉を継いだ。

「例え、今まで歩いてきた道にレールが敷かれていたとしたって、自分の脚で歩いてきたのにゃかわりねぇ。
 レールがなくなったって、今までどおりに歩いていくぜ」

 何の気負いもなく宣言する柊を眩しそうに見つめ、アンゼロットは呟いた。

「聖火姫(セント★フレイム)が、エルンシャ様の娘の一人が、生前、こう言っていましたわ。
 人間の力は弱く、その心はたやすく正にも邪にも傾く。
 でも、だからこそ、無限の可能性を秘めているとも言えるのだ、と」
「アイツの娘たちって、みんな何かしら一家言持ってんのか? まだ、ちいせぇだろうにっ― って『生前』?!」
「ええ……」

 ふっ、と寂しげな表情を浮かべ、アンゼロットはティーカップの中に視線を落とした。
 水面に映る顔を見つめ、静かに囁く。

「柊さんがシャノンの護衛をしていた頃ですわ。他の姉妹二人のと同時に、訃報が届いたのは。
 皆、暗殺者の刃にかかったと聞いています。おそらくはエルヴィデンスが放ったものでしょう」
「そうか……そういや、そんな話もしてたな……」
「あの子は超★高飛車で……わたくしにも、イクスィムにも全然懐かなくて……
 それから……それから、とても人間が好きでしたわ」

 それきり、沈黙が場に満ちて。
 ただ、時だけが静かに流れていった。

「え、えーと。きょ、今日はとっておきのケーキがあるんですよ!」

 ややあって、エリスが努めて明るい声を出し、重苦しい空気を打ち破った。

「はいっ、これ! じゃーん! 特製のシフォンケーキです!」

 自分で効果音を口にしながら、テーブルの上に大皿を置いた。
 綺麗に焼かれ、ホイップクリームの乗せたケーキは見るからに食欲をそそり、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
 
「お? おお! 美味そうなケーキじゃねぇか」
「さささ。早く食べてみてきださい。きっと驚きますよ?」
「そ、そうか?」
「はわっ! おいしそうー。いっただきっまーす」

 まぐっ、はぐはぐ、まぐっ。

「んーおいしー。エリスちゃん、また料理上手くなったんじゃない?」
「えへへ。そのケーキ、私が作ったんじゃないんですよ? 誰が作ったかわかりますか?」
「はわ? じゃ、コイズミさんが作ったとか?」
「いえ。違います」
「じゃ、00さん? エヴィ君? それとも、天竜君?」

324 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:08:07 ID:hvLhhV16
「なんで男の人ばっかりなんですか」
「あ。女の人なんだ。じゃ、シャノンちゃん? それとも、コジマメさん?」
「残念。どれもハズレでーす」
「うーん。あかりんのはずはないしなー」
「くれはさん? 誰か忘れていませんか」

 腕組みをして頭を悩ませるくれはの前で、アンゼロットが怒気を放ち始め、男達は不安に満ちた表情で顔を見合わせた。

「柊様。このケーキは、もしや……」
「ああ……俺も同じ意見だ」
「はわ? ひーらぎは誰が作ったか分かったの?」

 柊とコイズミの遣り取りに気付き、くれはは二人の視線を追った。
 その先で、アンゼロットが頬をヒクつかせながら微笑んでいた。

「今日はひさしぶりに、わたくしもケーキをつくりましたの」
「はわっ?! アンゼロット、ケーキつくれたの?」
「それはどーゆー意味ですか、くれはさん?」
「その言い方は失礼ですよ、くれはさん!」
「はわわっ! べべべつに深い意味はないよ! ただ、珍しかったから驚いただけ!」
「普段は仕事が忙しくて作る暇がないだけです。それに、辛い思い出もあったものですから」
「はわ? なんでケーキに辛い思い出があるの?」
「それは……」

 困惑したくれはが尋ねると、アンゼロットは口ごもり、悲しげに目を伏せた。
 エリスが無言で紅茶のお代わりを注ぐと、礼を言って口をつけ、ややあってからおもむろに重たい口を開く。

「昔、わたくしと姉のイクスは……丁度、今のくれはさんとエリスさんのように、とても仲が良かったんですよ?
 それが、二人同時にエルンシャ様を好きになってしまって……
 仲違いをしてしまったんです」
「はわー」
「わたくしたちは競い合ってケーキやクッキーを作って、一生懸命エルンシャ様にアプローチしましたわ。
 お優しいエルンシャ様は、わたくしたちのつくったお菓子を、それはそれはおいしそうに食べてくださって」
「うんうん、とってもおいしーよ、アンゼロット。これ持って迫って落ちない男とか信じらんないねー」
「イクスのクッキーも、これと同じくらい美味しかったのですから仕方ありませんわ」

 銀髪の少女は懐かしさに目を細めて思い出を語る。

「わたくしたちはエルンシャ様の心を射止めようと、夢中になってお菓子をつくって」
「はわはわ」
「で、仕事すっぽかしてケーキつくってたら、その隙に古代神が復活して、お父様におもいっきり怒られたんです」
「それはマズすぎるでしょ! いくらなんでも!」
「まあまあ、くれはさん。そんなに大声を出さなくても……子供のころの話ですし、それに、魔王が復活するなんていつもの事じゃないですか」
「それもそっか。別に大した事じゃないよねー」
「い、いえ……あの邪神は裏界のショウジョウバエなんかとか全く……」

 引き攣った顔をしたアンゼロットの台詞は、花が咲くようなくれはの笑顔に遮られた。

「ねえ、アンゼロット。このケーキの作り方、あたしにも教えてよ」
「ええ? ええ、いいですよ。このケーキは水に代わりに紅茶を使っているんです」
「はわー! 紅茶をー!」
「アンゼロットさんらしい工夫ですよね」

 少女たちがかしましくする横でコイズミがそっと席を立ち、微笑ましく彼女らを見つめる柊に並んだ。
 少女達に温かい眼差しを送りながら、柊にだけ聞こえるように、小さく囁く。

「柊様。私は思うのですよ。この光景こそが、私達の守っているものなのだと」
「ああ、そうさ。俺たちは、この笑顔を守るために闘ってんだ。いくら世界を救うためでも、誰かを生贄にしちまったら、コイツは守れねぇんだよ」


325 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/12(金) 23:10:26 ID:hvLhhV16
 そうだろ、マサト。

 最後の一声を口に出す事なく、柊が見上げた空には、眼鏡をかけた童顔の少年の顔が浮かんでいた。



 こうして、アンゼロットは過去の待つ故郷、エル=ネイシアに向かい―
 柊はウィッチブレードに跨り、未来を勝ち取るべくラース=フェリアを目指した。



――おい、宮殿! なんかヤバそうなのがソッチに向かったっ!! 多分、ファンブック4のラスボスだ!――
「アンゼロット様! 柊様が、メタなこと言っておられます!」
「ほっておきなさい! 今はそれどころではありません!」
「前方に高エネルギー反応発生! 来ます!」

「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!! だめだぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」

 そして、ロンギヌス・コイズミは、ラース=フェリアに程近い精霊界で冥刻王メイオルティスの攻撃を受け、主八界から退場した。



 第三世界エル=ネイシア 王都サーディーン。
 壮麗なる都の中でも一際目につく巨大建造物。それは、女王セフィスの住まいし太陽の塔。
 其の地下底深くに、もう一人の女王が君臨する、もう一つの宮廷がある事を、知る者は少ない。

"ラース=フェリアに現れたアンゼロット艦隊はメイオルティスの軍勢が敗走させたぞ、エルヴィデンス"
「其れは重畳」

 第一世界から届いた知らせを聞き、エルヴィデンスは満足気な様子で重々しく頷いた。
 自らの世界へと帰還した古女王は、黒ローブに身を包み、正面に大きな宝玉を飾った黒く丸い布の帽子を目深に被った姿で玉座に腰を下ろし、面前に据えた姿見に映る冥魔の王と言葉を交わしていた。

「どうにか間に合ったか。身体を張って時間を稼いだ甲斐があったわ」
"ああ。貴女の働きで、迎撃体制を整える余裕が出来た。それにしても古女王陛下自ら足止めに出向くとはな"
「裏界のぽんこつが役立たずにも程があるのでな。一度はアンゼロットを捕らえたが、あの忌々しい蝿めの所為で取り逃がしてしまったわ」
"蝿の女王ベール=ゼファー、か。奴もまた、フレイスに攻め込んだことがあったのだったな"

 此れからフレイスを攻める冥魔王は「前任者」の名を聞き、記憶を探る気配を見せる。

"確か……人間如きに大敗し、一夜にして数万の軍勢を失い、自らも下半身を斬り落とされながら唯一人逃げ延びたのだったな"
「フッ。アンゼロットの用意した結界装置と、エルンシャの創り出した星の錫杖の力を甘くみるからだ」
"娘夫婦を自慢するのは自重して戴けますかな、ご老体。犠牲となったのは我等が同胞なのですぞ?"
「文句はぽんこつに言え。総ては、奴の愚かさが招いた事なのだからな」

 古女王の嘲笑に気分を害したらしく、鏡の中の冥魔王は狐の面を思わせる頭部を傾けて不快の念を表したが、古ぶるしき邪神は動じた風もなく“未熟な若造”の抗議を一蹴し、睨むように目を細めた。

「貴様は蝿めの轍を踏むでないぞ、エンダース。炎砦の再奪取はどうなっている?」
"今、冥界樹で制圧用の冥魔を養殖しているところだ。フレイス如き、3日もあれば落としてみせよう"
「その台詞、4日前にも聞いたぞ」
"ラース=フェリアとエル=ネイシアでは時間の流れが違うのだよ、ご老体。
 ところで、直接第八世界に干渉したのなら、あちらの英雄達についても調べたのだろう?
 ゲイザーを倒した柊蓮司とは、いったい、どのような戦士だったかな?"

 今度は冥魔王が古女王の揶揄を一蹴してみせると、ずい、と身を乗り出して自らの関心事を問うた。
 露骨な話題逸らしだったが、古女王も深く追求はせず、素直に答える。

「奴か。なかなか面白い男だったぞ」

326 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/12(金) 23:11:02 ID:/ErdG2or
しぇーん

327 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:01:56 ID:O2BXMuTM
"ほう、柊蓮司には白い尾が生えているのか"
「ああ。七本もな。意外だぞ、エンダース。貴様はもっと堅物だと思っていたのだがな」
"優れた武人は常に余裕を忘れないものなのさ。フフッ、神殺しの魔剣使いか。刃を交える日が楽しみだ"
「止めておけ。貴様の腕では、柊蓮司には敵わん」

 強敵との戦いを夢想して期待に胸を躍らせる武人に、古女王が冷酷な言葉を投げつけ、水をさした。
 そして、自らの経験を元に、現実の厳しさを突きつける。

「貴様如きでは掠り傷一つ付けられるかどうか、そもそも攻撃の手番が回ってくるかどうかも怪しいわ。
 仲間内のじゃれ合いと同じ気持ちで戦場に出るでないぞ、小僧。貴様など、本物の戦場では二分と生き延びられはせん。
 今の内にエレナに命を繋いで貰っておくがよい」
"これはこれは、随分と軽く見られたものですな"

 侮辱に等しい酷評を浴びせられるも、エンダースは憤る様子もなく涼しげに受け流し、エルヴィデンスは更に言葉を重ねた。

「よいか、エンダース。絶対に、自ら前線に出るでないぞ。そこそこの冥魔で波状攻撃を仕掛け、消耗させて討ち取るのだ。
 冥魔達は一体残らず人間と命を繋げ。そして、冥魔を一体倒す毎に罪無き幼子が一人、息絶えるのだと言ってやるのだ」
"たかが人間如きを相手に、そのような卑怯卑劣な手を使うまでもないだろう"

 冥魔王は苦笑し、「そうか、これが老婆心というものか」と呟いて会話を切り上げに掛かった。

"近々、ジュグラットと柊蓮司の首を土産に持参しよう。噂に聞く古女王陛下お手製の蛸のフルコースを用意しておいて貰おうか"

 其の言葉を最後に、姿見に映った冥魔王の姿が消えた。

 冥燐王エンダース。
 柊蓮司との交戦を経て、その名が『惨劇の冥魔王』として主八界に広く知れ渡るのは、この会見から2日後の事であった。



「餓鬼めが、図に乗りおって。貴様が其処に座って居れるのは、貴様の力に因ってでは無いのだぞ。
 貴様等、冥魔七王がラース=フェリアを奪えたは、我等が兵を貸し、神玉を開放して遣ったからだと言うに。
 お前もそう思うだろう、リオン=グンタ?」
「仰せのとおりです」

 下僕に命じて鏡を片付けさせた古女王に水を向けられ、リオンは裏界の魔王に相応しい冷酷な笑みを浮かべて同意を示した。
 尤も、プリギュラによって人形よろしく抱きかかえられた2歳児の姿では、イマイチ決まらなかったが。

「リオン=グンタよ。お前の能力は素晴しいな。お陰で実に貴重な情報が大量に手に入った。
 特に、聖虚姫(セント★ヴォイド)の存在が判明したのは収穫であったぞ」
「お褒めに預かり恐縮です」
「うむうむ。今回の蝿めの愚行、お前の働きを持って不問に付そう」
「ありがとうございます」

 機嫌の悪いときのルー=サイファーに接するが如く、慎重に相手の内心を探り、従順に振舞ってみせる。
 リオンはチラと視線を横に走らせ、壁際に控える黒衣の女官を一瞥した。

 闇冥姫(シャドウ★プルート)。
 エルンシャの12人の娘達の内、最も清らかな心を持ちながら、精神を破壊され、邪神の尖兵と成り果てた戦姫。
 無言でリオンを見つめるガラス玉のような瞳が自分の未来を暗示しているようで、酷く不快で、そして不安にさせられた。

 精神生命体である裏界生まれの侵魔にとって、精神破壊を得意とする古女王は天敵以外の何者でもない。
 もしも、面と向かった状態で不興を買ったならば、消滅は必至だった。

 恭しく頭を下げる秘密侯爵に機嫌良く頷き、古女王が言葉を継いだ。

「これ程便利な手駒を持ってして尚、あの体たらくとはな。コロネとぽんこつの無能ぶりが伺えるわ。
 どうだ、リオン。裏界など見限り、我が配下に加わる気は無いか。
 其の書物、蝿めの尻拭いのみに用いる様では余りに惜しい」

328 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:04:51 ID:O2BXMuTM
「勿体無い御言葉ではございますが、お断りさせていただきとうございます」

 即答だった。

「何その御見合い断るときみたいなセリフ。
 セルヴィの靴を舐めるよりぃ、ぽんこつちゃんのお尻を拭いてるほーが楽しいってゆーのぉ?」
「い、いえ、決してそう言う意味では―」
「裏界に居たらぁ、自慢の書物もぉ、ぽんこつちゃんのトイレットペーパーにしかならないわよぉ?」
「よさぬか、プリギュラ」

 抱え込んだ幼児の顔を上から覗き込み、裂けるような笑みを浮かべて問い詰める冥魔王を制して、エルヴィデンスはリオンに微笑みかけた。
 穏やかな、それでいて見る者を不安にさせる笑みを湛え、裏界の魔王に語りかける。

「リオンよ。其の返答の真意は問わずにおこう。
 ベール=ゼファーへの――或いはルー=サイファーへの――忠義故であるのか。
 愚かな蝿めを傀儡とし、裏界の実権を握らんとする野心を秘めたればこそであるのか。
 ちびでぺたーんなぽんこつの傍に居れば、自らが聡明かつグラマラスであるとの錯覚を楽しめるが故か。
 其れは聞かずにおくとしよう」

「ご配慮、痛み入ります」

 言ってリオンは慇懃に頭を下げたが、こっそりと闇姫の方を窺い、その大艦巨砲と、自身の(普段の)体格を頭の中で比べてみた。

 ベルの気持ちが、実に良く理解出来た。

 エルヴィデンス様が自分をグラマラスでないと評したのは、きっと、幼児化した姿しか見ていないからに違いない。
 そう、必死に自分に言い聞かせていると、なんだか虚しくなってきたので、急いで思考を切り替えて別の話題を口にした。

「それにしても、エルヴィデンス様は本当にベルが嫌いなのですね」
「私はな、殺したくなるほど嫌いなものが三つあるのだよ」

 即ち、怠惰、裏切られる事、そして百合だと、古女王は吐き捨てた。

「あの蝿めは総ての要件を満たしておる。好む理由も何も無い」

 余談だが、裏切られるのは許さないが、自分が誰かを裏切るのはいいらしい。
 随分と身勝手な話だが、其処を断固として押し切るのが神の神たる所以であった。

「アンゼロットへの振る舞いを見て、ベルが天界に寝返ったのではと疑っておられるのは察しております。
 ですが、決して、そのような事実はありません」
「ぽんこつちゃんが、怠け者で百合なのは否定しないのねぇ」
「ほう? 奴が怠惰でも裏切り者でないのなら、何故、アンゼロットが帰ってこれるのだ?」

 魔王ではなく、邪神と呼ばれる古代神の氷のような視線が、2歳児の姿をしたモノを刺し貫いた。
 まるで、初めて魔王に相対した駆け出しウィザードのように、裏界の魔王は、少女の姿をした冥魔王の腕の中でゾクリと背筋を振るわせた。
 それに気付いたか。プリギュラが、幼児となったリオンの身体をあやす様に揺すり、おどけた調子で口を挟んだ。

「んー。ぽんこつちゃんって、基本、愉快犯でぇ、真面目に働く気が全くないんだと思うわぁ」
「それは怠惰だ」

 一片の容赦もなかった。

「リオンよ。第八世界には君主論なるものがあるそうだな。
 君主たらんとする者、運命に頼らず、情に流されず、部下と政敵からは畏れられ、民衆からは聖人と看做されるよう努力すべし。
 そして何より、手段を選ぶな。そんな内容だとか」
「ぽんこつちゃんたら、見事に逆の事しかしてないわねぇ」
「私も伝え聞いただけで、まだ、まともに読んではいないのだがな。一読の価値はあるのではないか?」

「ご助言、感謝致します」


329 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:05:41 ID:O2BXMuTM
 リオンが礼を言って深々と頭を下げると、ちょうど、そこで控えの間の扉がノックされ、許可を得て入室した闇下僕が、皆、謁見の間に参集したと報告した。
 古女王は頷いて席を立ち、戸口へと向かうと、部屋を出る前にリオンを振り返った。

「リオンよ。お前達に半年の猶予を与えてやろう。私がアンゼロットを引き付けておいてやる。その時間、有効に使うのだな」
「それは勿論、心得ています。ところで……一つ、不躾な願いがあるのですが」
「何だ?」

 リオンはプリギュラの腕の中でモゾモゾと身じろぎし、片腕を自由にした。
 そして、自らの黒髪に結えられ、魔力を封じて無力な幼児へと変えた魔道具を撫でつける。

「このリボン、譲って戴くことはできませんか? アゼルが喜びますので」
「裏界が第八世界を征した暁には、祝いの品として下賜してやろう。精々、励むがよいわ」

 激励と嘲笑の入り混じった台詞を投げつけ、エルヴィデンスはリオンに背を向け、謁見の間へと歩みを進めた。
 古女王が退室し、我知らず、小さく息を吐いたリオンの耳元に、プリギュラが口を寄せた。

「ねぇ、鉄子ちゃん。わらわも頑張るからぁ、鉄子ちゃんも、ぽんこつちゃんのお守り、頑張ってねぇ。
 わらわがアンゼロットを追い払うのとぉ、裏界が表界を滅ぼすの、どっちが早いか競争よぉ」
「ええ。お手柔らかに」

 冗談めかした冥姫王の言葉に、リオンは他意なく、愛想良く答えた。

 この日から7ヶ月後。
 リオン=グンタはルー=サイファーを復活させるも、アンゼロットは第三世界を離れず。

 更に2ヶ月後。
 プリギュラ率いる冥魔の軍勢が、アンゼロットの住まう月都ヴァリディアを包囲するのである。
 


 冥魔化した光の精霊を光源とする石造りの部屋の中、一段高い場所にある玉座から、古女王は居並ぶ配下を見渡した。

「私の可愛い下僕達よ。朗報だ。アンゼロットの帰還は大幅に遅れる事とあいなった」

 その言葉に、謁見の間の薄暗い闇の中で、影姫を始めとする古代神信者達のどよめく気配が生じた。

「大陸各地に潜伏する闇下僕には、奴が戻り次第『かの者は騙りである』と民衆を煽動するよう、既に指示している。
 だが、一ヶ月の猶予を得た以上は、より入念に準備をして出迎えてやろう」

 ゆっくりと配下の顔を見渡し、一人ずつ指示を与えていく。

「タナトス。お前に与えた聖姫暗殺任務は一時凍結する。
 月都ヴァリディアに赴き、旧月女王派の主だった"文官"を暗殺せよ。まずは神官から殺せ。余裕があれば魔術師を狙え。
 アンゼロットが戻ってくる前に、月都の事務処理能力を下げるのだ。優秀な文官が一人でも減れば、其れだけ奴の負担が増えるからな」
「承知」

「影虎姫(シャドウ★タイガー)。お前はアルクスタ大森林に隠遁する聖木姫の身柄を確保しろ」
「ハッ!」
「エンシェント・プリースト。お前は聖地姫(セント★ガイア)に接触し、その信頼を得てアンゼロットとの対立を煽れ。
 男を取り合って戦さを起こした愚かな女などよりも、聖地姫の方が世界の守護者や女王に相応しいと吹き込むのだ」
「御意」

「聖水姫(セント★アクア)は如何いたしましょうか」
「奴は聖兄姫が口説いておる。宰相セルヴィ・エンデに助力するようにな。
 其れと、聖虚姫なる新たな聖姫の所在が判明した。ルーンクレリック。この者についてはお前に任せる」
「総て、御心のままに」


330 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:06:41 ID:O2BXMuTM
「モンク。お前は手勢を率いて、空導王の逆侵攻作戦でエル=ネイシアに攻め込んだ神聖騎士団の残党を装い、月都周辺を荒らし回れ。
 アンゼロットは此方で兵力を集め、第一世界に送る心算だ。故に、先んじて民衆の対ラース=フェリア感情を悪化させるのだ」
「お任せあれ」

「歌下僕エミー・ザ・クローン。ラース戦役で捕らえたサモナー達の調教は進んでいるか?」
「はいッ! 24時間交代でエルヴィデンス様を讃える聖歌を聞かせ続けています!
 後一週間程度で、立派な下僕になるでしょう!」
「よしよし。調教が済み次第、儀式魔法で異世界から有能な人材を召喚するのだ。
 其れまでには、我が祭器たる洗脳アイテム・黒の魂の増産も出来ていよう」

 満足気に頷いて、今度は影姫の一人に目を向ける。

「影蠍姫(ダーク★スコーピオン)。どうやらエンダースは使えぬ男のようだ。第一世界へと援軍に向かう準備をしておけ」
「畏まりました」

「それから―」
「わらわはぁ? わらわはぁ?」
「お前は大人しくしておれ。"セルヴィ宰相"が冥魔と手を組んでいる事は、民衆には秘密だからな」

 裏界に戻るリオンを見送り、遅れて謁見の間に現れた冥魔王を嗜めた古代神は玉座の上から皆を睥睨した。
 この中に、単独で荒廃の魔王と互角以上に戦える者はプリギュラしかいない。
 秘密侯爵のような便利な能力を持つ者もいない。

 だがしかし、エルヴィデンスは世界の守護者を打ち倒し、この世界を支配している。
 古女王は識っている。手札の有効性は、使い方によるのだと。

「さあ行け、私の可愛い下僕達よ! 異世界からの侵略者〈真昼の月〉の侵攻に備えるのだ!」

   ウラァァァアァァァッァァッッッッ!

 主の言葉に、下僕達が一斉に鬨の声を上げた。

「我らの女王様の為にッ!」「主八界を創造主の御手に取り戻す為にッ!」「世界の総てを、あるべき姿に正す為にッ!」

   「「「生きとし生ける者総てに、下僕の喜びを教えんがためにッ!」」」

 人間にとっての最高の幸福。それは、より優れたる者との一体感への耽溺である。
 下僕とは、そうと信じて疑わない者達であった。

 大陸各地に散っていく部下達を見送るや、エルヴィデンスは別室に移り、古女王の装束から宰相の正装へと着替えた。
 金色の髪を撫で付け、額にサークレットを飾り、眼鏡をかけ、唇を紫に塗る。
 見る者総てに戦慄を強いる邪神の姿は其処になく、換わって、知的かつ妖艶な長身の美女の姿が現れる。

 聖星姫(セレスティアル★プリンセス)セルヴィ・エンデ。
 国民の崇敬を一身に受ける、美貌の敏腕宰相。
 アンゼロットとイクスィムがエルンシャを巡って起こした争いに端を発する、長き戦災に荒廃した国土を復興させた偉大な政治家。
 それが、今の彼女の表の顔だった。

 地上に出ると、丁度、鶏の鳴き声が響いていた。

「おや、もう朝ですか。今朝は少し、遅れてしまいましたね。
 今日中に処理しなければならない書類が沢山あるというのに。
 ミカエル宰相との外交もしなければなりませんし、今日も仕事が山積みですね」

 倣岸不遜な独裁者の口調から余所行きのソレに切り替えて、一人言を呟きつつ職場に向かう。
 擦れ違う下僕達の崇敬に満ちた眼差しに温和な笑みを返して歩みを進め、病床に伏せる傀儡の女王セフィスの容態を確認する。
 今日も、病状は安定しつつも、快方に向かう様子は見られなかった。望み通りだ。此方は何の問題もない。

 女王の私室を辞したセルヴィは宰相の執務室に入り、朝食の前に部屋を埋め尽くす書類の山に一通り目を通した。
 下僕達が決済の終った書類を運び出す間に、何気なく席を立ってテラスに出る。

331 名前:月と星と柊と ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:08:26 ID:O2BXMuTM
 太陽の塔のテラスからは、壮麗なる都が一望出来た。
 其処では今日もまた、従順で勤勉な下僕達が、笑い、喜び、楽しみ、己が選んだ主に仕えられる幸せを噛み締めて生きていた。
 
「美しい……下僕達よ、誇るが良い。お前達は主八界で最も優れた民族だ」

 古代神が関わらずとも、毎日のように世界の危機を起こし続けてきたラース=フェリア人。
 敬虔ではあれ、戦う事しか知らぬエルスゴーラ人。
 冥界から自分達を保護していた天界に弓引き、結果、冥界の影響下に落ちた、愚かなるエルフレア人。
 実在する神々から目を背け、世界結界に包まれた偽りの世界に生きるファー・ジ・アース人。

 いずれも、信仰に篤く自己犠牲精神に富むエル=ネイシア人とは比べるべくもない。

「アンゼロット。イクスィム。この世界は"神にとって"理想郷だな。全く、素晴らしい世界ではないか」

 感慨を込めて、呟く。

 第三世界エル=ネイシア。
 其処は、無数の下僕達がひしめくパラダイス。
 ある意味、主八界で最も完成された世界だ。

 そのまま見惚れていると、やがて道行く下僕達がテラスに立つ宰相の姿に気付き、歓声を上げて手を振り始めた。
 セルヴィは微笑みながら手を振り返し、立ち上る崇敬の念に満ちたプラーナを全身で受け止め、うっとりと目を細めた。

「心地良い……」

 そう、此れだ。此れこそが、人と神のあるべき姿だ。
 超至高神は此れが欲しくて世界を創らせ、百八柱の古代神は此れを求めて反逆したのだ。

「ベール=ゼファーよ。幻夢神よ。
 此れが、此れこそが、神の誇りを投げ捨て、弱者の命運を握って悦に入る貴様等には決して味わえぬ無上の幸福。
 "信仰の享受"だ。
 愛、敬意、喜び……正の感情に満ち満ちたプラーナの、何と美味なる事か……この幸せは、何物にも変え難い」

 今はまだ、この信仰は"エルンシャの地上代行者セルヴィ・エンデ"に向けられたもの。
 されど、いつの日にか。
 必ずや、ありのままの自分に。真実の自分に。
 古代神エルヴィデンスへと、この信仰を向けさせよう。

 第一世界ラース=フェリアは冥龍王クルムクドゥ率いる冥魔七王が制圧した。
 第二世界エルスゴーラでは、冥魔王ジルコニアを頂点とする機械帝国が最強の大国パイリダェーザにとって変わった。
 第三世界エル=ネイシアは、冥姫王プリギュラを擁する古女王エルヴィデンス自身が掌握。
 第四世界エルクラムへとは、冥獣王ゼイエルの束ねる精霊獣の群れが触手を伸ばす。
 第五世界エルフレアの方では冥蛙王ヘルクストーのドラグテイル王国とミカエル宰相のエイサー王国が天界門を確保。
 第六世界エルキュリアでは、冥蟹王カニジェネラルが守護天使の座を蹴って冥界の軍門に下った。
 第七世界ラスティアーンでは、八大神に匹敵する力を持った冥魔が間もなく誕生すると聞く。
 第八世界ファー・ジ・アースでは、アンゼロットが帰郷して裏界魔王百余体への対処が二十歳にも成らぬ小娘に委ねられた。

 永き雌伏の刻を経て。
 今、古代神陣営は、総ての世界で天界との戦いを優位に進めていた。

「此度こそ……此度こそ、我等の創りし世界の総てを……我等、百八の"創造神"の手に取り戻すのだ……」

 低く呟き、空に残る月に目を向ける。

「この世界は私のものだぞ、アンゼロット。私がずっと見守って来たのだ。ずっと昔から。お前が産まれるよりも、前からな」

 この時より48日後、アンゼロットは故郷の土を踏む。だがそれは、長く苦しい闘いの幕開けに過ぎない。
 主八界総てを舞台とした第二次古代神戦争は、まだ、始まったばかりだった。


332 名前: ◆6H85fs.r4o :2010/02/13(土) 00:11:03 ID:O2BXMuTM
以降、汎世界キャンペーンシナリオ「第二次古代神戦争」に続く。

今までに戴いた数々の御意見・御感想には一喜一憂させて貰いました。
改めて御礼を申し上げます。

ありがとうございました。


333 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 00:15:38 ID:KW4ufVbk
お疲れさん。

卓ゲ専用SSスレとかあればいいんだろうけどねぇ。地下以外で

334 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 00:23:52 ID:BYcXHb5p
乙!良い着眼点だったZE!

335 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 00:39:49 ID:cexYaZHD
お疲れ様です
しかしエンダースさんへの発言は少しあざとすぎるかと思ったなあ

336 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 00:55:11 ID:nUiFAbxJ

怠惰はベルフェゴールさんの領分なのにw

ベルゼブブは暴食に対応だったっけ、暴食ベル様と大食いキャラのクロスか

337 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 00:59:47 ID:TpQIPykI
つまり魔王探偵脳噛ベルですね!

338 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 01:06:58 ID:MMRzEoV7
>333
卓ゲ板の作品スレとか避難所とかあるじゃん

339 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 01:31:29 ID:cexYaZHD
>>337
ベル様は海東・・・もとい怪盗だろ

340 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 10:40:06 ID:J3p0bbRp
>>339
ただし、変身アイテムはドレイクゼクターだな

341 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 11:59:30 ID:UGvZDgyn
>>332
乙でした。
最後まで書ききられたことをすばらしいと思います。

そして。
>>335
そういう批判みたいなことやめませんか? 完結まで書ききってくださっているのにそういう批判は空気を悪くするだけだと思います。
作者や作品名で批判するかどうか決めるのは『自称批評家サマ』のやることだと思いますよ

342 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 13:11:58 ID:KW4ufVbk
釣り針でかいよ

343 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 16:29:38 ID:/TWNeR04
エンダースさん萌えっこ。

344 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 19:30:41 ID:cexYaZHD
>>340
ってことは悪魔の蠅が、ああいう風に、か
そして「裏界の底まで侵魔と相乗りしてくれないかしら」
とか言われる落とし子が羨ましい!

345 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 20:18:16 ID:cexYaZHD
>>341
すまん、感想のつもりだったのだ
作者さんにも謝罪

346 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 21:01:47 ID:hr/OA024
>>344
フィリップポジはリオンな気がしないでもない

347 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 21:33:14 ID:J3p0bbRp
ベル「リオン、地球の本棚に入りなさい」
リオン「わかりました、ベル。さぁ、検索を始めましょう」

うん、違和感はないな

348 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 22:36:08 ID:/TWNeR04
知識担当ちげぇw

349 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/13(土) 22:57:42 ID:cexYaZHD
本棚つーか本一冊で良いと思うけどな
まあラビリンスには・・・

350 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/14(日) 15:17:31 ID:Oq/S+zuO
バレンタインか…まあ、いつものあの人は置いとくとして他の彼氏持ち女性キャラはどんなチョコを贈るんだろう?

…何となく、売れ残りの半額になった高級チョコを贈る真壁翠と、焦げが限界まで回って死ぬほど苦いのを贈る姫宮が見えた気がするw

351 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/14(日) 16:58:55 ID:Pq5gZlXe
アルゼンチン逃げてー!

352 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/14(日) 17:34:29 ID:Oq/S+zuO
バレンタインイベントで忙しいと部屋から出て来なくなるねがい。
ねがいを手伝おうと買ってきてた材料を使い、やたら気合いの入った手作りをつくるも「京介以外渡す奴いねえよorz」となるいのり。

353 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/14(日) 21:06:18 ID:KAnNrL0N
いちゃいちゃべたべたと互いにチョコを送りあう舞と美景
呆れながらも送る相手の居ない自分に凹む小百合
スルーされて凹んでることにすら気づかれない竜正

354 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/15(月) 00:25:58 ID:9ojG7Tuk
あかりんのチョコ(魔王級)と御剣涼子(リアルバウトハイスクール)のチョコ(魔素入り)が暴れる中、炎に包まれる学園世界を幻視した!

355 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/16(火) 18:09:24 ID:RWpoXvGt
小ネタ投下しにきました。それでは。

356 名前:「なぜなに! 執行部室」@学園世界:2010/02/16(火) 18:10:53 ID:RWpoXvGt
 ――――「なぜなに! 執行部室」のお時間がやってまいりました。
     進行は僕こと報道部AD・輝明学園中等部2年赤羽 青葉が勤めさせていただきます。
     パーソナリティはこのお二人。

 御坂美琴(以下美琴):常盤台中学の御坂美琴でーす。
 ベホイミ(以下ベホ):桃月学園のベホイミッス。よろしくッスー。

 ――――とまぁ、いつものメンツでお送りしていきたいと思います。
 ――――このラジオ番組はいつもの通り執行部室の隣の部屋で、番組宛に送られてきた執行部への疑問質問にこのお二人がお答えしていくゆるーい感じのスジ無し番組です。

 ベホ:執行部室の隣って時点でタイトルコールに偽りありッスよねぇ。

 ――――ベホイミさん、あんまりツッコまないでください……。

 美琴:はいはい年下いじめなーい。
 ベホ:ぐぅっ(心に鈍痛)!? こ、これが若さの壁ッスか……っ!(←1人だけ高校生)
 美琴:なに言ってんのよアンタも……。ほら、番組あるんでしょ続けるわよ。

 ――――軌道修正ありがとうございます。
     じゃあ、まず今日一枚目のお便りから。聖翔華学園匿名希望さんからのお便りです。
     『パーソナリティのお二人が今一番ほしいものはなんですか?』

 ベホ:いきなり平穏な質問ッスね。
 美琴:油断しちゃダメよ。リスナーの連中、絶対ロクでもないこと考えてんだから……っ!(←過去にいろいろあったらしい)
 ベホ:妙にやさぐれたッスねぇ……。
    ともあれ、私は今……そーッスね、ここらで一杯熱いお茶が。
 美琴:……アンタほんとに高校生?

 ――――それじゃあ二枚目にいきましょう。次はM高校男子生徒一号さんからのお便り。
     『執行部でなにかドキドキ事件簿的なことはありませんでしたか? 具体的には胸タッチとか! シャワー室でばったりとか!』
     ってうわぁっ!? で、電撃禁止ですよ御坂さぁぁぁぁんっ!!

 美琴:やかましいっ! 童顔で悪意のない顔した奴がリビドー全開テキスト読むんじゃないわよなんかむずむずするでしょうがっ!

 ――――理不尽っ! 理不尽すぎます美琴さん! ってあぁっ、お便り燃えちゃったじゃないですかっ!?

 美琴:いいのよこんなもんっ! こーしてこーして(SE:ズバァンっ!)消し炭になればやらなくても問題ないでしょっ!?
 ベホ:美琴さーん、あんまりあわてふためくと逆に怪しまれるッスよー。
    実情としては、胸タッチくらいなら何回かあったッスかねぇ。直後に消し炭か記憶がなくなるまで殴打されるかッスけど。
    シャワー室は……そもそも女子で使う人がほとんどいないッスからばったりしようがないッスねぇ。
    逆に男子が見られる展開は何回かあったッスね。見たくて見たわけじゃなくて、着替え取りに外に出てばったりとかそんな感じの。
    見たのが私とか長瀬さん、エリーさん、ノーチェだったらだいたい次から気をつけろよー的な感じなんスけど、
    中二以下の子は恥ずかしがったりツンデレったりで下手すると命に関わるッスからね。

 ――――ノーチェさんは平気で東棟のシャワー室使ってるって聞いてますけど。

 ベホ:あぁ、水道代取られないとか言ってたッスね。
 美琴:え!? ちょ、ちょっと初耳よそれっ!?
    大丈夫なの? どう考えてもそういう冗談みたいな天文学的確率がパッシブで確変リーチかかってるような連中よウチの男どもっ!?
 ベホ:あー……ノーチェさんも気にしなさそうッスからねぇ、そのへん。
 美琴:(席を立つ)―――ちょっと問いただしてくる。
 ベホ:(美琴を抑える)まーまーまーまぁ。焼くなら後でもできるッスから。
    とりあえずその憤りは抑えてまずはきちんとお仕事終わらせようッス。はい、青葉くん次のお便り次のー。

 ――――ベホイミさんありがとうございます。
     じゃあ次のお便り。次は聖エルミン学園PN.白い猫さんから。『みなさんの意外な特技を教えてください』とのことですが……。


357 名前:「なぜなに! 執行部室」@学園世界:2010/02/16(火) 18:11:41 ID:RWpoXvGt
 美琴:(席につき直す)……改めて『意外な』って言われると難しいわね。
 ベホ:美琴さんで言うなら文化財の金箔補修とか、ヴァイオリン演奏とか、電子機器の遠隔操作とかフレンチのフルコースとかッスか?
 美琴:意外って言われるほどのモンでもないでしょ。常盤台行ってる子なら大抵できるよ?
 ベホ:(小声で)……その割に、アニメ版の水着回では料理まったくできない子がいたッスけど。

 ――――(小声で)2クール目なんてなかったんだ。あれはただの夢だったんだぜくらいの発言ですよね。

 ベホ:(小声で)いやまぁ常盤台のエース様から見た視点なんで、一般生徒のレベルはまたちょっと違うと思っておいた方がいいんじゃないスかね?
 美琴:ちょろっとー、アンタたち人を外してなにコソコソやってんのよ?
 ベホ:いやいや、意外なってつけられると難しいッスねって話してたんスよ。
    ここは『みなさん』って言われてるんスから。他のメンバーにも言及しといた方がいいんじゃないスかね?
 美琴:えーと……意外な特技のあるのって言うと、長門さんの辞書機能とか、美遊のメイド一種第一回試験パスとか、楓とエリーの山菜採りとか?
    あ、ホントに意外なとこではハヤテくらいまでとはいかないけど柊がお茶とかコーヒーとか淹れるの上手いわね。
    仕事で疲れてる時に淹れさせるのもアレだから、レア度高いんだけど。

 ――――言ってることがお父さん思いの子どもみたいですね。

 美琴:あいつに育てられた覚えはないわよ。(SE:バチンッ!!)
 ベホ:あーはいはいじゃあ次いきましょうか次!

 ――――えー次。次のお便りは杜の宮高校PN.あっきゅんさんからのお便り。『みなさんはどこに住んでらっしゃるんですか?』とのことなんですが……。
     報道部としてもあまり詳しい個人情報を流すのはご法度だと思われるんで、あえて『どんなところに住んでるのか』って方向性で伺いたいと思います。

 美琴:どんなとこって……基本的に学園都市は全寮制の学校が多いから、私も常盤台の寮に住んでるわよ。
 ベホ:あ、あの学生寮とは思えない内装と設備のところを『寮』と言い張るッスか。
    さすがはセレブ、なんか美琴さんがまぶしく見えるッス……っ!
 美琴:そーゆーこと言うのやめなさいって。こっちはこっちで割と大変なんだから。で、アンタの方は?
 ベホ:わたしの方は日本の基準でごくごく一般的なアパート暮らしッスかね。
    家も一緒に転移してこなかった学校の生徒に与えられる、ごく一般的な住居に住んでるッス。
    学園都市とか麻帆良みたいに全寮制かつ寮が敷地内にある学校はもともと問題ないッスし。
    白皇とかお金持ちの学校は自力で寮作ったりしてるみたいッスけどね。
 美琴:自分の財産で立ててる奴も少ないけどいるわね。特に三千院の別荘はダントツで大きいみたい。
    私たち以外のメンバーだけど、学園都市の初春さんは学園都市の学生寮。楓も自分の寮の部屋があるわ。山篭りしてることも多いみたいだけど。
    エリーは自分の工房がこっちに来てるからそこ。美遊は雇い主の家にいるわね。
 ベホ:植木くん・ソースケさん・イリヤちゃん・ノーチェはわたしと同じくアパート暮らしッスよ。柊さんは東棟に住んでるッス。
 美琴:そういえば、柊ってここに住む権利もらう前ってどこに住んでたんだろ?
 ベホ:今でもたまに仕事続くとそこらへんの屋上で体力回復するまで寝転がってたりするみたいッスけどね。
 美琴:……つまり、野宿?
 ベホ:じゃないッスか?

 ――――それじゃ次にいきましょうか。St.ヒルデ魔法学院PN.うさうささんからのお便りです。
     『ぶっちゃけた話、あだ名とか気に入ってるんですか?』

 美琴:……神経直結で電流流されてピクピクいわせてほしいってことでいいのかしら?(SE:バチィッ!!)
 ベホ:……辞世の句の準備はできてるんスよね?(SE:ベキゴキ……)

 ――――お、お二人とも。落ち着いてください。ほんとに落ち着いてくださいってば!?

 美琴:喧嘩売ってくる相手は嫌いじゃないわよ。全力で相手するけど。
 ベホ:これだけストレートにケンカ売ってきたのはあのセーター女以来ッスねぇ。

 ――――違いますって!
     うさうささんは『執行部の人たちはあだ名いっぱい持ってますけど、嫌なあだ名とかつけられたらイヤですよね?
     うっかり呼んじゃったら申し訳ないんで、気に入ってないあだ名を教えてください』って言ってるんですよきっと!



358 名前:「なぜなに! 執行部室」@学園世界:2010/02/16(火) 18:13:09 ID:RWpoXvGt
 美琴:え、あー……ま、そういうことなら。
 ベホ:きっと、っていうのがちょっと気になりどころッスけど。ま、そういうことならきちんとお答えするッスかね。
    結論、嫌いです。
 美琴:イヤに決まってんでしょ。女帝って呼ばれて喜ぶ中学生がどこにいるってのよ。
 ベホ:中学生でなくても嬉しくないと思うッスけど……まだ女ってついてるだけマシじゃないッスか。
    わたしなんて暴れ牛ッスよ、暴れ牛。女とか、女子高生とか、そういう枕言葉すらナシってどういうことッスか。
 美琴:イノシシって言われるよりマシなんじゃない?
 ベホ:うぼー!!(←マジ泣き)

 ――――泣いてる人を放っといて次のお便りです。東雲高校PN.最近好きな男の子に手作りのお弁当を食べてもらいましたさんから。
     『みなさんのラブ事情を教えてください! みんな聞きたくてうずうずしてます!』とのことで―――

 美琴:なんでそんな深いプライベート情報をさらけださなきゃいけないのよっ!?(←顔真っ赤)

 ――――あ、美琴さんはいいです。大体の人は一目見ればわかりますんで。

 ベホ:まぁ、バレバレッスからねぇ。イリヤちゃんも割とモロッスし、植木くんなんかは有名ッス。ソースケさんについては公然の秘密。
    その辺を除いて話をすると……双方向な関係って意外とないんじゃないッスか?
    ついでに言っておくと執行部内で恋愛的なイベントは存在しないので期待するだけ無駄ッスよ。
 美琴:アンタら私を無視すんなコラァァァァ!(SE:ズビバシィィンッ!!)

 ――――じゃあ、名残惜しいですがそろそろ今日最後のお便り、徳川工業高校匿名希望さんからです。
     『アンタらって誰が一番強いんだぜ? ヒャッハー!!』

 美琴:いやアンタ。ヒャッハーとかはさすがに言わないでしょ、常識的に考えて。
 ベホ:強いんだぜ? って日本語もおかしいッスけどね。常識的に考えて。

 ――――ま、まぁまぁ。けど、やっぱり気になるところじゃないですかね?
     僕にも休み時間中にそんなこと話してヒートアップする友達いますし。

 美琴:他人の強さを気にする前に自分を磨けばいつか身をもってわかるんじゃないの?
 ベホ:美琴さん、その言葉は喧嘩上等って言ってんのとなんら変わりないッスよ……。ともあれ。
 美琴:誰が一番強いか、ねぇ……。
 ベホ:この前それでみんなエンジンかかりかけてすんごいことになったことがあったッスね。
 美琴:思い出させないでよ、割と大事だったんだから。
 ベホ:アレは一歩間違えば街が壊滅とかそういうことになりかねなかったッスからねー。
 美琴:だから思い出させんなっつってんでしょうが。


359 名前:「なぜなに! 執行部室」@学園世界:2010/02/16(火) 18:20:44 ID:RWpoXvGt
 ――――話逸れてきてるんで、元に戻してもらえるとありがたいんですけど……。

 ベホ:そうッスねぇ、結論としては状況とか場所とか戦略とかにもよるんで、一概に誰が一番っていうのは難しいトコッスね。
 美琴:クロスレンジ(なぐりあい)ならアンタか楓かってあたりじゃない?
 ベホ:いやいや。植木くんをノックアウトできる気がしないッスし、宗介さんもなかなかやるもんッスよ。
    美琴さんは瞬間火力もさることながら電子戦みたいな能力の応用も強いッスよね。
 美琴:瞬間火力は私より上の奴いるでしょ。それにイリヤとか美遊とかエリーには汎用性は劣るわ。
 ベホ:あのステッキは素でチートッスからねー……。エリーさんは学者さんっすから頭脳戦方向もなかなか強いッス。
 美琴:状況に対しての判断力はやっぱり宗介が一番かな。あれだけ手数あるのに対応に迷わないってのは流石だと思う」
 ベホ:そこらへんは経験のたまものってヤツッスねぇ。
    自力飛行でのアドバンテージってのは大きいッスから、柊さん・イリヤちゃん・美遊さん・エリーさんなんかは羨ましいッス。
    そういえば、マジックキャンセル系の能力持ってる人って転送陣起動しないから移動大変らしいッスね。
 美琴:あぁ、そういえばアイツもそんなこと言ってたっけ、不幸だ不幸だって無駄に言ってたよーな……。

 ――――うーん、やっぱり順位をつけるのは難しいとは思うんですけど。そこをなんとかうまくまとめてもらえないですかね?

 ベホ:そうッスねぇ。
    やれることの範囲の広さなら上位グループがイリ美遊コンビにエリーさんソースケさん美琴さん。
    真ん中くらいが長瀬さんで、一点集中派が植木さん柊さん私って感じッスか。
 美琴:経験の広さってことなら宗介、柊、エリーに長瀬さん、あとアンタもか。中盤グループが私と植木。
    やっぱり小学生コンビは経験浅いわね。特にイリヤ。だからどうってことはないんだけど。
 ベホ:得意な 戦闘距離(レンジ)ってことならクロス一辺倒なのが私。ショートからミドルレンジが柊さんと植木くん。
    砲撃戦距離ならイリヤちゃんと美遊さん。
 美琴:中から遠距離がエリーかな。私とか長瀬さん、宗介はだいたいどっからでも仕掛けられるわ。
    まとめるとするとこのへんじゃない?

 ――――ありがとうございます。
     それじゃ、時間もちょうどですし今回のなぜなに執行部室はこの辺でシメたいと思います。
     お二人とも、ありがとうございました。

 美琴:じゃ、またね。
 ベホ:聞いてくれないと脳天撃砕ッスよー。
 美琴:そういうこと言ってるから牛って言われるのよ。
 ベホ:ヒドくないスかそれっ!?


360 名前:夜ねこ:2010/02/16(火) 18:25:24 ID:RWpoXvGt
Fate映画見てきた。個人的に一番盛り上がったのはラスト3分くらいの氷室の登場だった(挨拶)。
どうも、舌の根のかわかない内に学園世界系小ネタ投下しにきました夜ねこです。
前回はあとがきで曖昧すぎること言って混乱させてしまったようで、大変失礼しました(汗)。
今回は……ま、なんとゆーのか『執行委員シリーズ』における裏話とか設定とかそういうのを混ぜつつ三人で掛け合ってみたみたいなお話。
これまで読者の方から頂いたことのある疑問には大体答えたような気がする。青葉は苦労人ポジ。
会話文オンリーテキストってはじめてやりましたけど、地の文なしで色々表現すんのってやっぱり難しいですね。()描写とかは邪道だろうし。
これで面白いもの書ける人ってすごいなぁ、と改めて某氏を尊敬。
あ、それからあくまで『執行委員シリーズ』内の裏話であって、他の作者様が拾うも拾わないも自由なのでそんなに気になさらないでくださいです。

さておき、ぐらすうぉーずレス返しをば。

>>159
 あざーっす。バックにムーンシャドウ先生が見えるぜ……っ!
 いつものSS書き回路とは脳の違うところ使って書いてましたね。あれはなかなか面白い体験だった、天さんはいつもあんなとこ使ってんだろうか、変態さんめ。
 小ネタの類はわかる人にはわかって、わからない人には普通に読み流せる文章レベルにしようと頑張り中。楽しんでいただけたならさいわいです。
 えー、曖昧すぎること言っちゃって申し訳ありませんでした(汗)。

>>160
 いや、まゆりんはアレすごいんですよ? メガネ十二人衆ってことはあの精神汚染を受けてなお自意識があるってことで。さすが魔術師だぜ!
 でも体は言うこと聞いてくれないとゆー……。まゆりん伊達メガネじゃなかったがゆえの悲劇。むぅ、やっぱポジションかませだこれ。
 あたたかいお言葉ありがとうございます。頑張ります。

>>161
 新八はやればできる子なんですよ。銀魂界のポップとかクリリンとか言っても差し支えないのではないかと! 万年八位だけど! いや実際愛されてると思いますよ?
 楽しんでいただけたら幸いです。しかし俺は歩き始めたばかりなんだぜ、この果てしなく続くテン・タナカ坂をな……っ。嘘だけど。
 またお会いしちゃいました。よろしくお願いします。
 うはー、磨伸に真っ二つになられると俺氷室の天地読めなくなっちゃうので困ります。木工用ボンドでくっつけときましょう(ぺたぺた)。

>>162
 あざーす。砕かれちゃいましたね(笑)。だがしかし第二第三の○○大邪神が生まれないとも限らないわけです。
 大邪神の基本骨子はリレーの時のU−1たちと同じもので、人の抱いた願いだの思いだのが学園世界の不安定かつ莫大なプラーナと変に結合昇華しちゃったものなんです。
 つまり、多くの人間が同じ思いを強く抱いて何かしらのきっかけがあったら過冷却の水が凍りだすみたいに一気に具現化します。
 カレー好きによる大カレー邪神とかツッコミたちによるゴルディオンハリセンとか出ちゃうかもですね。あとはフラグ折られた女の子による朴念仁爆殺女神とか。
 書かないけどな!
 あずまんが組、楽しんでいただけたなら幸いです。ともちゃんを選抜委員にした頃から、実はずっと他の子たちも出したかったのです。みんな結構馴染んでるみたいですよ?
 氷室は……今度一緒に酒でも酌み交わさないか、兄弟。
 もったいないお言葉ありがとうございます。今度は予定としては6月くらいに、みなさんを喜ばせられるようなものを引っさげてきたいと思います。

>>163
 あざーっす。えーと、実はそこまでおっさんホイホイでもないと思いますよ? たぶんおっさんホイホイ級は2、3個くらいなはず……たぶん。

>>164-165
 多芸っていうか、学生時代任務任務で余裕がなかった状態だったところを余裕を持てるようになったら時間持て余して、色んなことに凝りだしたってヤツですね。
 定年後の日本のお父さんが外にお稽古ごとに行くようなもんです。定年どころかまだ家庭も子どももいない花の19歳のはずなのになぁ……(苦笑)。

>>166
 一ヶ月で出会えちゃいました(マテ)。
 あー……商業ってのは本気で念頭になかったなぁ。
 正直な話、おいらクラスじゃ商業は敷居高すぎると思いますのよ(汗)? 少なくとも今は二次やってる方が楽しいですし。



361 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/16(火) 18:26:50 ID:PMVIuIEW
佐天さん出してトナカイの話題を振って欲しいとおもった
学園世界のトナカイはカオスだろうな

362 名前:夜ねこ:2010/02/16(火) 18:31:49 ID:RWpoXvGt
>>167
 あざーす。磨伸は大好物ですので、そう思っていただけたなら幸い。
 志貴ですか? シエル先輩に守ってもらった後秋葉に助けられて無事に避難所へ。その後強力すぎて出番のない人たちと一緒にグチりあうとゆーところに収まってます。

>>177
 あざーす。ベキ子ですか? ヒントとしては一応あの顛末の近くには氷室がいて、そして彼女は報道委員。
 報道委員は報道委員七つ道具っていうのを持ってまして、その内の一つ超小型高感度高画質カメラで最終決戦の映像を撮ってました。制服のリボンに仕込んであった模様。
 そして報道委員である以上、その映像を加工・放送したわけです。つまり割と作中の描写は学園世界の住人に知れ渡ってる。ベッキーの怒りはそれを見たからです。
 氷室は新八の活躍シーンだけ削ってあげたようです。彼の周囲の環境が変わらないようにとの配慮ですが、見切れてる映像で発見した二人が迎えに来たというオチ。
 実はベッキーメインのそういう小ネタも脳内にはあったりするのですが、正直な話あまりにもヒロインしてしまうので嫌がられそうで自重して封印中。
 それでも見たいって奇特な方がいらっしゃったら書く……かもしれませんね(笑)。

>>178
 えーと……すんません、ぶっちゃけ忘れました(大馬鹿)。
 当時のメモ見てると『成田キャラ』とか『人脈広いしこいつで』とか書かれてました。ので、推測してみました。
 休日バザール編のあの書き方からするに、おそらくは少年そのものではなく少年の知り合いがそういう能力があると思われます。
 以上より『成田キャラで人脈が広いからそういう能力者に知り合いがいそうな人物』という条件が設定される。
 よって、条件に合う人物を検索すると―――おそらくは『デュラララ!!』の竜ヶ峰帝人ではないかと。覚えてないけど。つーかダラーズ勢力すごいことになりそう。


 と。こんなところでしょうか。
 あとはお詫びと報告を少々。
 前回は曖昧なことを言って不用意にみなさまの期待を煽ってしまったようで大変失礼しました。
 夜ねこはナイトウィザードの二次からしばらく抜ける気はありませんし、まだまだ書きたいものもいっぱいあります。
 ただこちらでは書けないものやこれから先色々としたいこともありましたので、こちらを間借りするという形ではなく、自分の城を持つべきと判断したためです。
 ぶっちゃけた話サイト作っちゃいました(爆)。
 これからメインの更新はそちらになってしまうと思いますが、先ほども言ったとおり6月くらいにみなさまに喜んでいただけるとっておきのネタが披露できれば幸いです。
 ……予定は未定だけど(マテ)。だ、大丈夫だよ! 夜ねこ頑張るよ! 超頑張るよ! 頑張れって言われちゃったし馬車馬のように頑張るよ!
 それではみなさま、また御縁がありましたら。

363 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/16(火) 23:26:26 ID:pTiW99C+
GJ!とりあえず、またいつかの登場を待ってます。の一言を言っておくテスト
本拠地の方、頑張って下さい

364 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/17(水) 01:30:41 ID:DLbFkO/6
>>362
ディ・モールト・乙であります。そしておかえりだ、このグッジョブさんめ!
執行委員のあれやこれやが綺麗に詳らかになっておりますな
……ところで、ナチュラルに東棟のシャワー使ってるノーチェを想像して、激しく萌えてしまったわけだが。くそ、無防備属性が俺のハートをわしづかみだぜ……!

>自分の城
な、なんだってー!?
それは本当なのかキバヤシ!?
……こうしちゃいられねえ、早速Google先生に「夜ねこさんのおうちはどーこ?」って訊かにゃ!
あとアレだ、次の作品も大変楽しみにしておりますが、どうかご自愛はお忘れなきよう。……べ、べつにアンタの心配をしてるってわけじゃないんだからね!

365 名前:夜ねこ・追伸:2010/02/17(水) 02:06:04 ID:D4AveOSi
宣伝になっちゃうんでアレですけど、

ttp://nightcatyoruneko.web.fc2.com/nightcat_index.html

ですね。
これからも頑張ります。ありがとうございます。

366 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/17(水) 02:39:35 ID:h8oFkOz8
>>365
お気に入り登録余裕でした

367 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/18(木) 00:33:41 ID:ugmKJH7L
>>365
おぉぉおぉ!?
投下GJ! そしてサイトも登録させていただきました!
これからもあなたの作品を楽しみにしています。

368 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/22(月) 22:54:00 ID:i9/rsw5f
ふと、赤羽くれはの一日in学園世界と言うネタが飛んできた。
…ほのぼの路線とハード路線は、どっちのが良いのだろうか。

369 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 00:10:48 ID:vdZyMaUm
そのネタは既にもうあったような……?

370 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 09:21:08 ID:Lt229olu
ネタが同じでもいいんじゃね?
1日しかないわけでもなかろうし

371 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 11:32:05 ID:jN8MlY27
月月火水木金金な一週間か

372 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:25:34 ID:lG+kpULN
お久しぶりです。
とある世界の騒動日程第九章書きあがりました。

よろしければ。21:40頃から投稿したいと思います。

373 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:40:07 ID:lG+kpULN
第九章 ハイパーT&T _tunnel_and_traps_

 1

 「なんじゃそりゃぁあああああああああああ!!!!!!」

 上条当麻は、腹の底から絶叫した。
 視線の先には、ごろん、ごろん。と、足から腹に響く轟音を発てる酒樽(デスローラー)。転がり来る大質量は、まるで映画の中に飛び込んだような錯覚を覚えさせた。

 巨神の社。パール・クールの月匣の中で、
 
「落ち着け上条!!!!」

 頼れる同行者は、考古学者ではなく魔法使い。
 柊蓮司は、身の丈を越える白兵箒(ウィッチブレイド)を掲げる。

「美琴、援護頼む!! 最大出力で超電磁砲(レールガン)をぶっ放せ!!」
「……え? あ、わ、分かったわ!!」

 そして超能力者。
 目前の光景の、そのあまりの非常識さに一瞬呆然となっていた御坂美琴は、あたふたと取り出したコインを射出する。
 掛かる電荷がローレンツ力を生み、音速の三倍に加速された鉄片は、空気摩擦で焼き溶けて橙の極光となった。

 酒樽に突撃する柊を追い越して、御坂美琴の必殺技(レールガン)は、巨大な樽に着弾する。

 破壊的な轟音と衝撃に、ぐらり。と大樽は揺らいで―――、一〇〇〇℃以上の一撃に、樽板は発火。そして延焼。


 ―――デスローラー(ほのおのかたまり)は、轟轟と驀進する。


「って!! 状、況、悪、化ぁ!?!?」
「さ、流石に質量が違いすぎるわよコレぇ!!」

 上条の悲鳴に、美琴の声がユニゾンする。
 音速の三倍。そして艦載兵器の再現とはいえ、打ち出したのは小さな鉄片(コイン)。
 呆れるほど広く、霞むほどに天井の高い廊下を、埋め尽くすほどに巨大な酒樽の前では、焼け石に水、むしろ絶壁に釘。
 
「ふっ、二人とも走れぇ!!」

 流石に、度肝を抜かれた柊に、「言われなくとも!!」と、上条当麻と御坂美琴は、同時に身を翻した。
 二人を追って、柊も走り出す。
 直線の廊下を、駆け抜ける足音は三つ。それを追いかける巨大質量の回転音。

「ふ、こ、う、だぁあああああああ!!!!」
「悪かったわねぇええええ!!!!」
「走りながらじゃれてる場合かよお前ら!!」

 三者三様の絶叫が木霊する。
 背後からは、数百℃超の炎の塊。
 長大な廊下は長く、永遠に続くかのよう。ヒシヒシと詰め寄ってくる絶望感。
 月匣(ろうか)の壁は平坦だ。せめて、枝道の一つでも在りさえすれば―――、

「―――っ!!! そうだっ!!」


374 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:42:59 ID:lG+kpULN
 天啓のように、上条の頭上に電灯が燈った。

「如何したの―――って、ちょっとアンタ!!」

 足を止めた上条に、美琴が悲鳴じみた声をあげる。

「まぁ、見てろっ!!」

 上条当麻は右手を振り上げる。

 厳然と聳える白木の壁。月匣(とりで)の壁へと。

 月匣は、悪魔(エミュレイター)に魔法使い(ナイトウィザード)―――、いわゆる超常の存在が作り上げる異界。紛れも無い異能の産物。
 だとすれば、イタリアの海に現れた艦隊のように、この右手(イマジンブレイカー)で、壁に穴を空けられるかもしれない。

 風を裂いて拳が走り、ばしっ。と―――、

「みっ!! ばっ!! みぎゃあああ!!」

 壁を捉えた右手が、痛いだけだった。

「本ン気で何やってんのよ、アンタわぁああっ!!」

 悲鳴そのものな美琴の絶叫も、泡を食った柊の挙動も識る事無く。
 火達磨は、変わらず転がり続ける。迫る熱塊の、放射熱だけで肌がチリチリ痛む。
 炎の車のその前で、一時、上条当麻は現実を見失った。

(ま、またかよっ!?)

 声にならぬ悲鳴があがる。

 キュマイラといいこの壁といい、尋常なものではない癖に、異能の右手(イマジンブレイカー)を弾き返す。
 まるで―――、

 忘我は刹那。
 けれど、燃える巨塊が詰め寄るには十分な時間。

「―――っ!」

 上条は炎に背を向けて、床を蹴る―――ために、上条の脳は全身の筋肉に命令する。
 転がる灼熱(アカ)から逃れるため。
 0.5秒。
 けれど走り出すよりも、迫る炎の方が速い。
 哀れな生贄をひき潰そうと、燃え盛るローラーは上条当麻に圧し掛かる―――、

 直前。

「ぐきぇ」

 急に締め上げられた喉元から、家鴨のような悲鳴が上がった。

「っで、柊(びぃらぎ)ざ、ぬぅおおおおおおお!!!」
「うぉりゃあああああ!!!」



375 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 21:44:57 ID:n1bLqDpK
しえーん

376 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:45:35 ID:lG+kpULN
 その犯人。上条の襟首を引っ掴んだ柊蓮司は、大根でも引き抜くように気合と共に渾身の力で男子高校生を放り投げる。
 悲鳴の尾を引いて。
 後方の御坂美琴に、放り投げられた上条が激突するのを横目で確認、投擲のベクトルを集約し回転して―――、


 銀光、一閃! 


 閃く魔剣。
 幾度と無く侵魔冥魔を切り裂いた刃は、しかし、二メートルを越える白兵箒(ウィッチブレイド)であるとはいえ、絶壁のような大樽とは余りに質量差が在り過ぎる。
 爪楊枝のように細く頼りない剣。けれど尋常には在らざる剣。

 ―――ソレは魔剣。理より外れた、外法の剣。

 使い手と共に、数多の障害を断ち切ってきた刃は、斬撃と同時に暴風を吐き出し、巨大な炎の塊を無形無色のミキサーに放り込む。 

 ―――条理の一つや二つ、覆してこそ魔剣使い(ナイトウィザード)。

 転がる火達磨は木端微塵で縦横無尽。景気のいい音を発てて廊下を跳ね回った。

(ま、こんなもんか―――。……逃げずに最初ッからこうしときゃ良かったな)

 魔剣を構えなおし、柊は内心で呟く。
 いきなり燃え出した事に度肝を抜かれはしたが、落ち着いて対処すれば別段問題もない、今まで何度も潜ってきた月匣で、何度も目にしたオーソドックスな罠であった。
 魔剣を担ぎ直して、振り返る。
 呆然と、此方を見つめる上条と美琴に片手を挙げて、無事を知らせるその横で、ぱちり、と火花が弾けた。

「え?」

 刹那。
 脳が処理するよりも早く、―――紅蓮の炎に、柊蓮司は呑み込まれていた。



377 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:47:43 ID:lG+kpULN
 2

 空を見上げれば、黒(よる)のキャンバスにぶちまけられる紅、青、黄の極彩色。
 異世界の街で、激突を続ける三柱の魔王のチカラの余波は、一瞬ごとに画面を塗り替える。
 そんな夜天の下。

 よろよろ。と、ゴスロリを纏った小さな身体が、学園都市の裏路地を進む。

 その名はノーチェ。イタリア出身の傭兵吸血鬼は、伝家の宝刀たる巨大水晶に顔を映しながら、おぼつかない足取りで、人探しを続行していた。

 事の発端は、一人の迷子。打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる外見年齢十歳ほどの少女が、保護者とはぐれて、下級侵魔の溢れていた学園都市に取り残されたこと。
 そして、縦横無尽に学園都市内を逃げ回る少女を、執行部員でありノーチェの同僚、ダブルカレイド魔法少女が捕まえたのがつい数分前。
 ところが、その二人の魔法少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと美遊・エーデルフェルトは、保護対象と共に未だ戦場となって久しいこの街に留まっているのだ。

「………。こっちで、………ありますな―――」

 頼れる相棒、先祖代々伝えられてきた<叡智の水晶>が示す情報を元に、少女三人との合流を目指すノーチェ。

 胸元を飾る白いレースは、赤が混じったマーブルに。
 色の関係で目立ちはしないが、黒色ベルベットの生地もまた、血に汚れている。

 唇を割る声はかすれ、荒い吐息が入り込む。
 頭の大きさほどある水晶球が、ずしりと重い。いつもなら軽々持ち上がるソレも、深い内傷に喘ぐ今はアトラスが支える天の如く。
 摂理(ルール)を犯した。
 その代償は重く、マトモな人間ならば二度は命を落としているだろう。ノーチェがこうして歩けているのは、偏に彼女が吸血鬼だ(マトモではない)からだ。
 それでも、これから先、戦闘は不可能だろう。と、傭兵吸血鬼は自身のコンディションを分析する。

 早急に、イリヤ、美遊と合流して学園都市の外(安全地帯)に出る必要がある。

 痛む身体を引き摺って、お子様たちの元に急ぐ。
 と、ポケットで0-Phoneが震えた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 携帯電話のバイブレーション機能。
 その振動だけでも、今のノーチェには地獄の痛み。
 水晶を足指に落として更なる痛み。

『もしもしノーチェさん聞こえますか!?』
「き、聞こえているでありますから、も少し声のボリュームを下げて欲しいでありますよカザリ!」

 受話器の向うの同僚に向って、悲鳴をあげる。
 初春飾利は、心持ち声を潜めて。

『え〜っと。取り敢えず、避難した学園都市の住人たちの再度の身元確認と点呼は進んでます。
 今のところ、長点上機学園と霧ヶ丘女学院の生徒さんたちは全員揃っていると、報告が来ました』

 ペラ、ペラ。と、資料を捲る音が届く。

『で、現在確実に居ないと報告が来たのは御坂さんと、例のカミジョウトウマさんぐらいですね。
 正直言って、まだ人が残ってるなんて、ちょっと信じられないです』

 でも、と初春は一言前置きして、


378 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:49:24 ID:lG+kpULN
『学園都市(ウチ)にも色々黒い噂は在りますから、合法な手段(正攻法)では解らないこともあると思うんです。
 その辺りの情報収集、ノーチェさんの水晶玉でお願いできますか?』

 了解の意を交換して、通話が切れる。
 ノーチェは痛みに顔を顰めながら、0-Phneをポケットに突っ込んだ。

「まずは、イリヤたちと合流してからでありますな。
 あまり戦場に近いところに居てほしくは無いであります……。彼女たちは大丈夫で在りましょうが、今の私では、トイレットペーパー並みでありましょうからな」


 ―――見上げた夜空には、変わらず万色が踊っている。



379 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:51:53 ID:lG+kpULN
 3
 
 赤々と、炎の尖塔が天井を舐める。
 一瞬とは言え、離れたところに居る二人の肌も、チリつくほどの熱放射。
 
「ひ、柊っ!?」
「柊さんッ!?」

 御坂美琴と上条当麻。炎に呑み込まれた男を呼ぶ、二人の悲鳴が木霊した。

 魔剣使いが叩き斬ったデスローラーは、断末魔とばかりに火柱を吹いた。
 柊蓮司が両断したのは酒樽。中身は当然アルコール。つまり可燃性の危険物。火が付いたところに、そんな物をぶちまければ、フランベされるのは当然至極。
 柊が炎に呑み込まれた事に、不思議な事などありはしない。
 
 だから、呆然とする二人の前で、消え去った炎の中心から、無傷の柊蓮司が現れた事も不思議ではない。

「あー、ビビッた。今のはマジでビビッた」 
 
 えほっえほっ。と咳き込んで、ぱんぱんと、コートに付いた汚れを払いながら、魔剣使いは気楽な様で二人の前まで歩いてくる。

「ん? どーした、そんなユーレー見るみたいな顔して」

 二人は爆発した。

「って、柊ぃッ!! 何でアンタはそんなお気楽なのよ!! って、無傷? 何で無傷ッ!? 防御力下がったくせに!!」
「下がるって言うなコノヤロ―――!!」
「柊さん! アンタ怪我とかないんすか!! 火傷の一つは在ってしかるべきじゃあないんですか状況的に!!」
「―――ぅぁ………。えーあー、いや、あの、上条? 美琴も、二人とも落ち着け。―――な?」

 ヒートアップした二人に「如何ユウコトダ説明シロ!!」と、サラウンドで詰め寄られたが、けれど自分もそれほど状況を掴めていない柊は、冷や汗を垂らして後ずさる。

 冷静に考えれば、それほどおかしな事でもない。

 アルコール。酒類の成分であるエチルアルコール、通称エタノールは確かに可燃物だ。
 引火点は九七%の高濃度エタノールで一四℃。これは環境によって変化するので、大体は一〇℃から三〇℃でエタノールに火が付くと思えばいいだろう。
 しかし、実際にエタノールを燃やそうと思えば、酸素と適当な濃度で混ざり合い、それが持続しなければならない。
 自身の燃える熱で失われる以上の、気化したエタノールが必要なだけ追加され、かつ大気中に酸素があることが必須の条件。

 この事は、日本酒やワインなどに、マッチの火を近づけても引火はしないことがいい例だろう。

 あの大きな炎は、御坂美琴の超電磁砲で樽板が炎上し、中の酒が百度近くまで熱せられていた事に加え、柊の風で飛散したエタノールが、引火したことが原因だ。
 日本酒に含まれるエタノールは、大体一五%。
 それほど多い訳ではないそれが燃え尽きるまでに、柊の月衣を突き抜けて熱を伝えるには、時間が足らなかった。と、そういう理屈。

 科学の街、学園都市の生徒である美琴と上条も柊を怒鳴りつけてクールダウンすれば、ソレぐらいのことにはすぐに気がつく。
 自分の脳内で、納得してしまった二人においてかれた柊は、はっ、と気を取り直して、上条に向き直った。


380 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:54:32 ID:lG+kpULN
「そうだ上条! オマエいきなり立ち止まるなんて何考えてんだよ!」
「そうよ! 意味不明に壁なんて殴りつけて! 自殺願望でも在ったのアンタって奴は!!!」 

 いきなり向けられた叱責に、上条はタジタジと

「えっ!? なんか矛先がこっち向いてる!?!
 あー。いや、逃げ道でも出来たらいーかなーって、私めは愚考した次第でありますが……」

 結局、失敗したんです。はい。
 素直に喋ったのだから、命だけは勘弁。と、両手を挙げた。

「………。ってことは何? アンタの右手効かなかったの?」
「はい、そーゆー事になります……って、御坂さん一体なんでせうその、コイツ使えねーってなお貌は?」
「…………。あんたからその右手とったら、『戦力的に』良い所なんてあんの?」

 人間的には良い所山ほど在るけど、ソレは今は関係ない。と、美琴は心を鬼にする。
 『ココ』は、唯でさえ危険だと、さっきの罠で否応無く理解させられた。これから先もきっと苛烈な罠が待っているだろう。
 そんなところに上条を連れて行って、もし何か在ったら。と思うと平常心を保つ自信が無い。
 その、不可思議な右手が切り札になりえる。と、柊(専門家)が判断したからこそ、ココまで一緒に来たが、本心を言えば、とっとと安全なところに避難していて欲しかった。
 だからこそ、その右手の能力(チカラ)が切り札にならないのなら、これ以上上条当麻を危地に留め置いてなど、置きたくはない。
 
 そんな美琴の内心などいざ知らず。

「んま!? 何たる暴言!! 決して、上条さんは右手(イマブレ)だけの男ではありませんことよ!!
 それに、右手(チカラ)が使えなくなったわけじゃねぇんだ! よっし、ビリビリ! 何時ものように、一発なんかぶっ放して来い!!」

 カマン!! と、上条当麻(どんかんおとこ)は右手を突き出した。

「………このっ! あぁそう!! じゃあココでリタイヤしなさいアンタは!!」
「んなっ、殺意高っ!! って、きゃああああああ!!!」

 びりびりぃ!! と、何時ものように美琴から放たれた雷撃の槍(十数億ボルト)は、上条が差し出した右手に収束し、

 何時ものように、硝子が砕けるような音を立てて、消滅した。 

「ああっ! もうムカつく!! 何であたしの力に限って通じないのよ!!
 いつも言ってるけど! たまにはギャグ漫画よろしく錐揉み回転で吹っ飛んで見なさいっての!!」
「何時も何時も無茶苦茶言ってんじゃねぇよビリビリ中学生!! こっちも何度も言ってるけどな! そんなもん喰らったら漏れなく死にますよ俺は!!」

 なんだとビリビリィ! と、じゃれ合いを始める二人。
 少なくとも、柊蓮司にはそう見えた。

「あぁあもう。てめーらいい加減にしとけ」

 ギャーギャー。騒がしい二人の間に割って入る。命の危険がありそうな喧嘩の仲裁だが、これも年長者の務めだ。
 ばちばち。と、現実(リアル)に火花を散す二人に溜息一つ。

「あのな、上条。美琴の奴だって、お前を心配して言ってんだ。ソレを、そーゆー言い方はねーだろ」


381 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:56:29 ID:lG+kpULN
 へ? そうなの? と、上条が美琴に視線で尋ねれば、本人は顔を俯かせる。そのお陰で、上条の視界には、紅潮した顔色は入らなかったが。

「それから、今度何か思いついたときは先に一声掛けてくれ。唐突に何かやらかされたんじゃ、フォローしきれねぇし、お前の命が幾つ在っても足んねぇぞ?」
「……。すみません―――」
「よろしい。それと、『月匣』には、『コア』と『ルーラー』ってのがあってな―――」

 超越者の世界である『月匣』は、力の源たる『コア』か、造り手である『ルーラー』のどちらかを破壊する以外の手段では破壊出来ない。
 夜闇の魔法使い(ウィザード)ならば、誰でも知っている基本法則だ。

「―――でだ、上条。お前の右手が通用しなかったのも、その辺の事情じゃないかと思う。詳しい事はわかんねーけど」
「あー、そんなルールがあったんすか……。
 あ、でも、もしどうだとしたら、『東方王国旗』に通じるんすかね―――?」
「……それは、大丈夫じゃねぇか?」

 そういった柊に、上条当麻は視線で疑問符をぶつけた。

「それが『月匣』の機能だってんならやばかったかも知れねぇが、その『旗』ってのは、明らかに外部から持ち込まれたもんだ。ソレは俺たちも確認してる。
 ルーラーは明らかにパール・クールだろうし、って事は、多分その『旗』はコアじゃねぇかな。決め付けんのは早計だけど。
 それに―――、ベルの奴がお前を切り札扱いしてるってのが気になる。少なくともアイツはお前の右手で、その『旗』をぶち壊せる。と、思ってるって事だ」

 まぁ、アイツも、いい加減抜けてるところはあるんだが………。と、柊は頬をかく。
 
「ま、『ぽんこつ』呼ばわりされるような魔王だがな、実力は折り紙付きだし、そもそも無根拠で動くような奴じゃねぇ。
 それに、お前の右手が効かなけりゃ、俺が叩き折れば良いんだしな」

 臨機応変に行こうぜ。
 と、歴戦のウィザードは、上条の肩を叩いた。
 
「じゃあ、こっからは俺がトップに立って罠(おとこ)探知して行くから、上条は美琴と一緒に今までより少し離れて付いてきてくれ、具体的には二十メートルぐらい」

 そうして、柊蓮司は歩を進める。
 声を掛けられた美琴が再起動するのを眺め、上条は自分の右手を握り締める。

 柊は言った。
 『月匣』を壊せなかったのは、やり方を間違えていたからだ。と、
 けれど、

(本当に、そうなんだろうか?)

 柊蓮司は確かに『侵魔対策の専門家(ナイトウィザード)』だ。けれど、この右手の事をそれほど知っているわけではない。
 彼は言った。能力は発動しても、やり方を間違えていたから、チカラが『効かなかった』んだろう。と。

―――ねぇ、ちょっと。


382 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 21:58:46 ID:lG+kpULN
 今までにも、この右手が通じなかった異能(モノ)は在った。ヤニ臭い神父の魔女狩りの王しかり、自動筆記の竜王の息しかり。
 記憶にはない知識が、告げる。
 その時に破戒仕切れなかったのは、夫々に特殊な条件があったからだ。
 魔女狩りの王は、発動範囲を区切る結界自体を潰さねば何度でも蘇り、竜王の息はその物量に右手の性能(スペック)が追いつかずに押し切られた。
 能力の発動自体はしている。ただ、能力のみでは届かなかっただけ。
 
 今回のこれは、なんだか―――違う気がする。

 ―――ねぇってば。

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』での接触の、その感触は、まるでうちの三毛猫を撫でる時や、学校の校舎に触れたときのよう。
 『異能』ではないものに、その『あらゆる異能を打ち消す右手』で触れたときと、その感触は変わらない。

 ―――いい加減スルーすんな、コラッ!

 その違和感は、『月匣』という未知の存在に対してのモノなのか……。それとも―――。

 ―――…………。

 けれど、迷っている暇は無い
 今頃、学園都市ではアゼルがあの物騒なお子様相手に戦っているだろう。彼女は、他ならぬ上条当麻を信じて、パール・クール相手に、不利な戦いを挑んでいる。
 上条当麻が、状況をひっくり返せると信じて。

 ―――………………。

 ならば、やるしかない。
 たとえ右手が使えなくても―――

「………ほんっとーに。いい加減にしときなさいよ――――アンタ」

 ―――。
 地獄の底から響く風のような声が、思考をぶった斬った。

「………アノ、ミサカサン? ナニヲソンナニオコッテオラレルノデ?」

 背骨に走った怖気に、思わず、発音が似非外人風になる。

「アンタの脳味噌は、ホントにあたし限定でスルー設定になってんの? それとも、そんなにあたしの言葉を聞きたくないの?」
 
 静かな言葉遣いが、逆にコワイ。

「ノーサー! それは貴方様の勘違いでありますサー!」
「マム。よ! 
 あーもう、バカな事やってないでとっとと行くわよ!」
「のわっ、ちょ、ちょっと待って下さい美琴さん!! 痛っ! 痛ぇっ! 強く引っ張りすぎだコノヤロウ!!」

 焦れたように上条の手をとって、そしてその状況を理解して、美琴は瞬間湯沸かし器のように蒸気を噴き出した。

「あの、どうした御坂? 顔が赤いぞ?」 

 上条当麻は、心底不思議そうにそう尋ねた。


383 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 21:59:32 ID:n1bLqDpK
ネタがないので単純に支援

384 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:02:06 ID:lG+kpULN
 上条当麻は、心底不思議そうにそう尋ねた。

「………。とっとと行くわよ」
「痛ェッ!! だから痛ぇっての!! もげ、?げる!! 右手もげる!!」
「いっそのこと肩からすっぽ抜けちゃいなさいよ。どうせアンタの事だから後から生えてくるでしょうが」
「なんたるスプラッタ!! そんな鮮血の結末は上条さん的にノーセンキューです!!
 あと、テメェ俺の右手をなんだと思ってやがる!! 蜥蜴の尻尾と一緒にすんな!!」
「うるさいだまれ」
「ひぃいっ! なんか怖いですよこのお嬢様っ!」 

 美琴は騒ぐ上条を引っ張って、柊が先行した廊下をすすむ。
 永遠とも思えるほどの長い廊下は、一応は有限だったらしく、その先に広がるのは更に広い空間。
 廊下の先であるのだから、きっと部屋であるだろう広大な何か。

 柊蓮司は、その入り口で佇んでいた。

「……入んないんすか? 柊さん」
「……ちょっと、ココに無策で突っ込むのは無謀だろうなって、思ってな………」

 苦笑しながら柊は室内を指した。
 上条と美琴が戸口から覗き込むと、青々とした畳敷きの床が視界いっぱいに飛び込んできた。
 広さは一般的な学校のグラウンドが四つ五つは入りそうなぐらい在るが、ソレを除けば何の変哲も無い、ただの日本家屋の一部屋である。
 ぐりん、と、訝しげな視線を向ける二人に、柊は「見とけよ」と、魔剣だけを部屋の中に突き出す。

 ばすんっ。と、物騒な音と共に、巨大な針が畳をぶち抜いて、魔剣を引掻いた。

「は?」 
「へ?」
 
 目を丸くする上条と美琴の前で、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ――。無数の針が広大な部屋を埋め尽くすように、あちこちで剣呑な音を立てる。

 ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすん―――――!!!

 数十秒の後、親の仇に相対したかのようにこれでもかと突き上げに突き上げていた針の群が、漸く畳の下に潜り込んだ。

広大な空間を埋め尽くしていた音が止んだ、次の瞬間。


『どないせぇッちゅうんじゃこんなもん!!!』
 

 二人分の絶叫が、取って代わった。



385 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:04:28 ID:lG+kpULN


『どないせぇッちゅうんじゃこんなもん!!!』

 縮尺の狂った巨大な日本家屋の部屋に、上条当麻と御坂美琴の絶叫が反響する。
 畳敷きの床一面から、飛び出してくる無数の畳針。踏込めば、即座に百舌鳥の速贄だろう和式鉄の処女(アイアンメイデン)。
 間違えても、酒樽(デスローラー)を破壊せずにこの部屋に逃げ込んでいたら、などとは考えたくも無い。

「いや、飛んで行きゃ良いんだろうけどな―――」

 柊蓮司曰く。
 人の丈ほどある巨大な畳針であれ、空に届くには長さが足りない。

「人は飛べねぇっすよ!!」

 至極まっとうな事を上条が言った。
 柊は魔剣を掲げて、

「コイツはウィッチブレイドつって、まぁ、所謂『魔女の箒』だ。当然飛べる」

 問題は―――、

「定員、俺を含めて二名。
 このトラップだらけの部屋を突破しようと思えば、一往復と半分しなくちゃなんねぇ。
 空にトラップが無いともかぎらねぇから―――、というか、多分在るだろうから、なるべく長居はしたくない」

 経験に照らし合わせれば、ご丁寧に空に追い込んでくれる以上、其処に何も無いわけが無い。そして罠の中を突っ切る危険(リスク)は、なるべくなら減らしたい。
 悩む事数十秒。
 ぽん。と、上条当麻が手を鳴らした。

「なぁ、なぁ、御坂さん」
「なによ」
「お前って、電撃使い(エレクトロマスター)だよな」
「何を今更」
「その、『馬鹿かコイツは』って表情については後で言及するとして。
 お前ってさ、イオノクラフトかなんかで空飛べないの?」

 Ionocraft(イオノクラフト)。
 Ion craft(イオンクラフト)とも言い、UFO(未確認飛行物体)の浮遊原理ともいわれている、電力だけで空中に浮かぶシステムの事である。
 その原理は、強力な電荷によってイオン化した原子の移動。それによって発生する反作用が物体を持ち上げる。というのが通説である。

 ともかく、「美琴も空を飛べるなら解決じゃね?」と、上条は言いたいのだが、

「そりゃ、やってやれない事は無いでしょうけどね……」
 
 渋面を作った後、御坂美琴は『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を具現化する。
 胸の辺りにプラス電荷を、足首の辺りにマイナス電荷を設定。マイナスからプラスまでの電子の流れを体内に、プラスからマイナスの流れを大気中に作り上げる。
 電力だけで物体を浮かべるには、かなりの電圧が必要になるが、超能力者(レベル5)の超電磁砲(レールガン)たる彼女には朝飯前。
 量子レベルから現実を改変し、静放電とオゾン臭をまとって、美琴は重力の頚木を解脱した。
 電荷の位置を微調整してやれば、ふわり、ふわりと、前後左右に。強弱で上下移動と速度をコントロールできる。


386 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:06:55 ID:lG+kpULN
「ま、こんな感じかな……」

 ソレを見て、上条は一言。

「自分でやらせといてこんな事言うのもなんだけど………。
 上条さんは、なんかどっかの電気鰻人間を思い出しましたヨ?」
「誰が最初に喰われた超獣化兵よっ!」
「微妙に濃ぃ話題で盛り上がってんじゃねぇよ!! 二〇年以上連載してるクセに、完結するまで後一〇年はかかりそうな漫画のネタなんざ誰も解らんわ!!
 で? 美琴。いけそうか?」

 柊の言葉に、美琴は少しばかり思考(えんざん)して、

「ダメね。浮かぶには浮かべるけど、アンタの箒についていけるとは思わない」
「……。そうか? 電圧上げれば何とかなるんじゃね?」

 上条が問う。
 御坂美琴の身体を浮かせる力は、電荷を持った空気中の元素、即ちイオンが移動する力の反作用である。
 つまり、速度を上げたいならば、胸元のプラス電荷から足首のマイナス電荷までの、イオン化した酸素その他の元素が移動する速度を上昇させればいい。
 即ち、電気が流れる力―――電圧の上昇だ。
 超電磁砲(レベル5)の電圧最大値は十億ボルト。
 それだけ在れば大分速く移動できるんじゃないか? と、尋ねる無能力者(レベル0)に、美琴は大きな溜息で答えた。

「………。あのねぇ。アンタ、人型の物体を空飛ばすってのが、どんだけ大変だと思ってんのよ」

 飛行機が流線型なのは、偏に空気抵抗を減らすためだ。
 人型という複雑な形状では、たとえ翼を背負っても、大気の壁に阻まれて揚力すら得られない。今は能力で浮いているにしても、バランスを崩せば即、地面に真っ逆さまだ。
 そのへんの常識をぶっちぎる、月衣や機械箒(ブルーム)と、比べてはいけない。
 「そうかぁ……」と、思考の海に戻っていった上条に代わって、柊蓮司が口を開いた。

「でも、浮けるには浮けてんじゃねぇか。だったら俺の箒で引っ張るってのはどうだ?
 どうせ上条を乗っけるにしたって、左手だけで掴まってもらわねぇとならねぇからな―――」

 そうでなければ、色々壊されてしまう。服の代えはもう無いのだ。
 空いているほうの手で浮いている美琴を捕まえてもらえば、あとは箒の推進力で進めばいい。
 と、いう柊の提案は、「ダメよ」の一言で美琴に却下された。

「『空いてる手』って、つまり『右手』でしょ?
 コイツに触られてると『力』が使えないわ」
「いや。そうでも無いぜ」

 上条は言う。

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の効果があるのは右手首から先だ。
 其処以外の―――、制服の裾でも何処でもを掴んでもらえば、効果は働かない」

 美琴は、「ふーん。そうなんだ」と納得した後、ニヤリと口元をゆがめた。

「………。なんでせうミサカサン。その不吉な笑みは―――」
「べっつにー。なるほど、成る程。
 つまりアンタに電撃を食らわせたければ、右手以外を狙えってことね?」
「げげぇ〜い! 何ゆえ俺の弱点を!? これはレールガンノミコトの罠かぁ!!」
「レールガンノミコトって何よ! 人を怪しい神様みたいに言うんじゃない!!」
「だぁあっ! ホントいい加減にしとけよコノヤロウ共!!
 仲がいいのは良く分かったから、一言ごとにじゃれあってんな話が進まねぇ!!」


387 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:09:25 ID:lG+kpULN
 箒に跨る柊の腰に、左手をまわして掴み上条はタンデムシートに腰掛ける。宙ぶらりんの自由な上条の右腕を、浮遊する美琴が掴んだのを確認して、柊は箒に火を入れた。
 
「行くぞ!」

 風を斬るウィッチブレイドが部屋に突入する。
 如何にしてソレを察したか、途端、畳を突き抜け床一面に針山が生まれた。

 ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすん―――――!!!

 剣呑な音を発て、執拗に天を突く尖端は果たして、けれども宙を行く三人には届かない。
 針に煌く室内灯の反射。星々のような無数の煌きを睥睨して、

(ここまでは、想定通り―――)

 問題はココからだ。と、魔剣使いは箒を握る手に力を込める。
 上条と美琴に語ったとおり、用意されている逃げ道には、必ず次の罠が待っている。何故なら、月匣は砦なのだから、突破(ブレイク)される訳にはいかないからだ。
 警戒を強める柊の、その期待に答えた訳ではないだろうが、無闇に高い天井から、スルスルと何かが降りてきた。

「来やがったな……!」

 垂れ下がるように、天井から降りてきたのは円筒形の物体。小田原提灯。
 蛇腹の胴体がぱかりと割れて、中から噴射口の様な物が突き出した。
 其処から何かが飛び出すその前に、柊は箒を翻し急降下する。 
  
 そして異口同音に、恥も外聞も無い悲鳴があがった。  
 


388 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:11:56 ID:lG+kpULN
 5

 学園都市。
 開発の遅れていた、東京の西側を買い取って造り上げられた研究機関。
 学園世界でも有数の敷地面積を誇り、不夜城とはいかずとも、人の波が絶える事のないこの街は、けれど今宵、死の淵にも似た静寂がその主人であった。

 第八世界の魔王の出現。

 現実に、街の一区画が丸ごと消滅し、追い討ちを掛けるように、大量の下級侵魔の群が湧き出したこの事態。
 他の地域に飛び火する事は何としても防がなければならない。そして何より、
 同じ多重次元融合という災害に巻き込まれた『仲間』たち、即ち学園都市の住人の安全の為にも、極上生徒会は全住人の避難を決定した。
 幸いなことに、そうたいした混乱は起きずに、ほとんどの住人は避難し終えたのだが、そういった災害の場には、必ず起こる事態が一つ在る。

 略奪。即ち火事場泥棒である。

 学園都市は、研究機関であると同時に一つの街だ。金目のものは、在る所には結構ある。
 そして、人間社会の例に漏れず裏側の住人(ドロップアウト)とはいるものであって、そういった不良連中は、歴史をなぞるように行動した。

 尤も、そういった連中のほとんどは、避難誘導にあたった執行委員の手で『説得(制圧)』され、強制的に『避難(退去)』させられたのだが…………。

 表があれば、裏が在る様に。
 光があれば、闇もまた其処に在る。

 学園都市の暗部に潜む悪意は、ここぞとばかりに牙を剥いた。
 学園都市で、最も価値があるのは『学生』だ。
 特に、高レベルの能力(スキル)を有する名門校の生徒などは、恰好の的だった。
 学園都市の全住人の避難。
 二三〇万以上の人間が一斉に移動する事で引き起こされる混乱は、予想していたよりも小さかったとは言え、決して平時と比べられるものではない。
 その混乱の中で、人間が一人二人消えたところで、誰が気付く。如何すれば己に手が伸びる。

 そう、高をくくって表側に噛付こうとした彼らの牙は、しかし尽くが叩き折られた。

 彼らは闇に潜み、闇を喰らって生きるもの。
 闇から這い出た悪意は、それ以上の悪で以って、須らく喰い荒らされる。
 

―――そして、
 

 少女と見まごうばかりの細腕が、鷲掴んだ人間の頭を、無地のコンクリートに叩き付けた。

 爛と咲いた彼岸の花。

 光差さぬ路地裏の一角で、今、一つの命が刈り取られた。この夜、行動を起した人身売買組織の指を一本たりとも学生に触れさせる事なく。

 その最後の一人を永遠に黙らせて、少年は悪態を吐き捨てる。

「つまンねェ事で、イチイチ人の手ェ煩わせンなってンだよ、三下」

 白く白く白い彼は、けれど、溶け込むほどに夜闇に馴染んで、紅い海を後にした。
 チョーカーのMP3プレイヤーを弄って、右手の杖を伸ばし、彼はポケットから取り出した携帯を開く。


389 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:14:27 ID:lG+kpULN
「オイ、こッちは片付けた。
 回収ルートを教えやがれ」

 数回のやり取りの後、電話の向うの、声の調子からすればこの白い少年と年齢的にはそう変わらないであろう年頃の少年は、その情報を告げた。

「はァ? テメェ、こンな時にフザけてンのか? 細切れにされてェってンなら、リクエストに応えてやンぞ?」
『残念ながら、こんな冗談を言う趣味は在りませんよ』
「………………。
 あァンのクソガキがァ………」

 白い少年は、携帯を握り潰さんばかりに、握り締める。

『彼女と合流したなら、正規のルートを通って街を抜けた方がいいですね。
 執行委員が彼女の捜索に当たっているそうですから、彼女たちと合流してください』
「言い訳は自分で考えろ。ってかァ?」
『出来るでしょう?』
「……ったく面倒クセェ………。あのガキ、今度飯ン時に、ピーマンを山盛りにしてやる」
『まぁ、その辺はお互い後で解決してください』

 プツリ。と、向うから切られる回線。電話の向うの相手を幻視して、彼は赤い瞳を更に鋭く細める。

「――――――」

 三度悪態をついて、彼は暗い路地裏を後にした。
 残されたのは、頭の無い死体が一つ。
 いずれ駆けつけた闇の欠片(じゅうにん)が、その痕跡すら残さず処分するだろう。



390 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:17:22 ID:lG+kpULN
 6
 
 そして無造作に、放り捨てられるような勢いで、三人は床に転がった。
 
「さ、流石に死ぬかと思ったぜ………」

 放心したように、柊が呟く。
 和式アイアンメイデンと、武装提灯の二重トラップエリアは、意外な事にこのベテランウィザード(漢探知のプロ)を、憔悴させていた。
 異世界人(アマチュア)の二人など、いまだ声すら出せない。
 原因は一つ。
 糸の切れた凧の様に、上に下に右に左に、自由自在で縦横無尽、乗り手の意思すらブッ千切って、魔女の箒(ウィッチブレイド)は、広い日本家屋の部屋の中を駆巡ったからだ。
 更にその原因も一つ。

 何故なら、御坂美琴は電撃使いだからだ。
 
 レベル5の超電磁砲は、重力を操るわけでもなく、気流を操作できるわけでも無い。
 どこぞの未元物質の様に存在しない元素をぶち込んで周囲の環境を造り変える事も、一方通行のようにベクトル自体を操って空を飛ぶこともできない。
 電荷によって空気元素をイオン化し、移動するイオンの移動力(ベクトル)を動力としているのが、電荷浮遊(イオノクラフト)だ。
 上から下へ。正確には胸元から足元へ。身体が直立していれば、真下への反作用(ベクトル)が働き、身体を宙に浮かせるだろう。
 しかし、もしも身体が傾いた場合はその限りではない。極端な話、上下反転でもした日には地面に向って超加速だ。
 そして、御坂美琴は柊の箒で曳航されていた。彼女自身のほかに、魔剣という動力が彼らには存在していた。

 そういう事で、急降下した柊のベクトルと、美琴のベクトルが掛け合わさり新しいベクトルが生まれ、三人まとめて吹っ飛んだのだった。

 板張りの床に叩き付けられた衝撃が薄れて、ようやく美琴は起き上がった。上条当麻は、いまだ床に張り付きピクピクしている。

(…………。何だったの? アレは―――)

 学園都市の能力者達は、ありえたかもしれない別の世界の可能性――自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を、能力(スキル)の基盤としている。
 開発した脳で別の可能性を観測し、ソレを現実で再現、量子レベルから世界を書き換えることで、一般に超能力と呼ばれる事象を引き起こす。
 この際、御坂美琴のような高レベル能力者になればなる程、自分だけの現実で現実を侵食するのが、自然かつ無理なく行えるようになる。
 寧ろ、ソレこそが高レベル能力者の条件と言っても良いだろう。

 無理なく自然に、いつもやっている様に、箒の進行方向、速度を演算し、無理なく曳航できる角度と強さで、イオノクラフトのベクトルを設定した筈だったのだが、

(明らかに、強かった――――わね)
 
 演算に誤差(ノイズ)が入り込み、発生した電荷が思ったよりも強力で、イオンクラフトのベクトルの調整が、上手くいかなかったのだ。
 勿論、その程度の微調整が出来なくては、超能力者(レベル5)は名乗れない。彼女は名門常盤台付属の優等生なのだから、平時であれば苦も無くこなせた筈だ。
 七回。
 それだけの回数、微調整に失敗して、箒は縦横無尽に暴れまわった。
 空中ロデオに平衡感覚をかき乱され、針山すれすれに袖を引っ掛け、衝撃を伴う砲弾とニアミスし、大火傷必至の熱蒸気に突っ込みかけた。
 死を覚悟したのが、とりあえず両手で数えられる範囲で済んだのは、幸運といって良いのか悪いのか。


391 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:19:30 ID:lG+kpULN
 それでも、何とか微調整に成功して、トラップエリアをクリアしたその頭で、御坂美琴は思考の海を航海する。

 誤差(ノイズ)の正体は明らかだ。
 能力者は現実を作り変える。御坂美琴(超電磁砲)ほどの高レベルになれば、それは無理なく自然に行われるが、其処にはもちろん現実(せかい)自身の抵抗がある。
 ありえたかもしれない可能性は、やはり在り得た『かも』知れないのであって、本来ならば発生し得ない。
 モノゴトは、すべからく安定した状態を取ろうとする。その結果が今の現実だ。
 其処に、在り得なかった現実を引っ張り出すのだから、当然の結果として抵抗が生まれる。
 普段の彼女は、ソレも読みきった上で自然に演算するのだが、

「―――。なかった……」

 あるべきである筈の抵抗が、ココにはない。
 すんなりと。素直に。
 御坂美琴が観測する、在り得なかった現実(パーソナルリアリティ)こそ、この世の真理であるとでもいいたげに。

 不自然なほど自然に、するり。と、現実は書き換えられた。

 ソレが、誤差(ノイズ)となって失敗を誘発した。
 ソレを踏まえて御坂美琴は思考する。

 ココでなら、演算の手間が減る。
 もしかすれば、今よりも―――

「ふ、ふこうだ………」

 隣で、もぞもぞと立ち上がる気配を感じ取って、美琴は思考の海から呼び戻された。
 
「ちょっと、アンタ大丈夫!?」
「はながいたひ」

 顔を上げた上条当麻の顔面は、鼻といわず額といわず、満面真赤に染まっていた。
 そして、床の板目がくっきりと縦線を引いていた。くっきりと。

「………。御坂さん? 何ゆえ笑いを堪えてやがりマスか?」
「………………っ」
「ええい! 笑うならば笑うがいいさ! 中途半端に堪えられるのが一番ムカつく!!」

 跳ね起きて上条は叫ぶ。
 途端。弾けるように美琴は笑い出した。

「何たるお約束! そしてなんて容赦がない! 
 えぇい!! 常盤台のおぜうさまには情というものはないのか腹抱えて笑うなコンチクショウ!! 」

 二人の様子を眺めて、柊蓮司は溜息を付いた。
 
「まぁ、気が弛むのもわからんでもないけどさ」

 実際、死ぬかと思ったのは一度や二度ではないのだ。初めて月匣ダイブする二人にきついものが在っただろう。
 その反動で、些細な事がツボに入るほど、気が弛みまくっても仕方がないだろう。

 そうは、思うのだが。

「あー、前見ろ前」


392 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:21:49 ID:lG+kpULN
 そういう心の隙を、月匣の罠は突くだった。

 廊下の奥に視線をやれば、ゴゴゴゴゴ、と、音を発てて蠢く何か。
 そうして此方をにらみつける大きく円い、暗い穴。
 大砲。
 ピタリと、美琴の笑声がやんだ。

「…………前門の針山。後門の大砲?」

 可愛らしく首を傾げる。少々錯乱しているらしい。
 廊下は例に漏れず長大で、ソレを挟んでもまだ巨大な黒穴と呼べるソレは、一体何口径の大砲なのか。
 そんなもので撃たれたら、人間の跡形は、残るのだろうか。
 死地を越えたら、また死地が。

「…………不幸だ」

 上条の呟きを聞きとがめて、柊はとりあえず言ってやる。

「上条。一応言っといてやるけど、この程度で不幸だ何だって言ってたら、こっから先身がもたねぇぞ?」

 さぁっ。と、上条が青ざめるのと同時に、巨大大砲が火を噴いた。



393 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 22:23:37 ID:lG+kpULN
 7

 寝静まった街は、それだけで墓場のようだというのに、闇に沈むこの町に、果たして、人は一人として居らず、空虚な風景は廃墟の夜(ゴーストタウン)を思わせる。
 魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤと、他二名。美遊・エーデルフェルトと打ち止め(ラストオーダー)は、空っぽの街の探索を続けていた。
  
「む。こっちの方かもって、ミサカ的アンテナに反応あり!
 って、ことできっとあの人はこっちにいると思うから、急いで急いでってミサカはミサカは魔法少女のコスプレした二人に頼んでみたり」
「コスプレ言わないでよ!! こっちだって恥ずかしいんだから!!」
「そうですよ、コレは由緒正しい魔法少女の姿なんですから、その辺の贋物と一緒にしないで下さい」
「姉さん。フォローになっていません」
「…………」

 探し人は一人。打ち止め曰く『あの人』は、住人が避難し終えたこの街に未だ居残っているらしい。

「で、今度こそ間違いないの、その御坂レーダーってのに」
「わかんない。って、此処は虚勢を張って判るふりをしておくべきかもしれないけどせっかく手伝ってくれてるんだから、ミサカはミサカはちゃんと真実を語ってみる。
 でも、なんとなくそんな感じがするのは間違いじゃないよって、ミサカはミサカはピンクの人に胸を張ってみたり」
「随分、曖昧なのね」

 呟く美遊に、

「だって、ミサカはレベル2程度の電撃使い(エレクトロマスター)だもの。人探しは専門じゃないんだよ。ってミサカはミサカは悟ってみたり。
 でも、ミサカネットワークであの人と繋がってるから、あながちあてにならないわけでも無いよとミサカはミサカは紫の人を慰めてみる」
「………。お気遣いありがとう」

 姦しく、少女三人と杖二本は夜の街を進む。
 別に緊張感がないわけではない。そうでもしなければ、やっていけないだけだ。
 廃墟と見紛うばかりの学園都市(よるのまち)は、空虚であるが静寂には程遠い。
 断続的な、内蔵を揺らす低い音が。大気の震えが夜に響く。
 黒い空を見上げれば、紅い月バックにして、色鮮やかに万色が踊る前衛絵画。
 この世界を、奪うものと護るもの。三柱の魔王が鎬を削る危険地帯は、すぐ傍だった。
 カレイドの魔法少女とは言え無敵ではない。データで見ただけだが、あの荒廃の力に曝されようものなら、幾ら第二魔法を扱う霊装であっても無事ではすまない。
 
 緊張感は、生命の危機レベルで存在する。笑い飛ばさなければ、一歩も歩く事すら出来ない。
 そうして、幾つかの道を越え、路地を曲がり、

「みつけたぁ!! って、ミサカはミサカは貴方に飛びついて――――いたたたたたた!!
 なんでいきなりミサカのこめかみをグリグリするの! ってミサカはミサカは暴力反対って本日二度目の宣言を声高に叫んでみたり!!」
「やかましいっ!! 色っ々メンっドクセェマネさせてンじゃねェぞクソガキャァ!!」

 前方から現れた人影に飛びついた打ち止めは、がっちりとホールドされてうめぼしの刑に処されていた。
 その、白く白く白い人物が、ひとしきり打ち止めを折檻するのを見届け、イリヤは彼に話しかけた。


394 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 22:32:13 ID:vdZyMaUm
y=~

395 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 22:42:21 ID:M/wFscO2
しぇーん、かむばーっく
  支援、頑張っく

396 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 22:58:17 ID:X/iYSjfx
ガイバー知ってる人がいたとは…w
支援

397 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:02:44 ID:lG+kpULN
「あの、貴方が打ち止め(ラストオーダー)がさがしてた―――?」
「あァ? ああ、テメェら執行委員か。クソガキが世話ンなったな、ありがとよ」
「この人で間違いないよーって、ミサカはミサカは太鼓判押してみたり。
 ところで、太鼓判って実は判子じゃなくて小判の事だったんだよって、ミサカはミサカはどうでもいいトリビアを披露してみる」
「文字通り無駄知識だな。ちょっと黙ってろ」
「………。
 一応聞いておきますね―――」
「なンだよ?」
「どうして避難しなかったんですか?」

 その質問に、

「あー。知り合いからこのバカがはぐれたって聞いてな。
 探してたンだ。見つけてくれてありがとォな」
 
 すらすらと、少年は答える。

(………。なーんか嘘っぽいなー)

 内心訝るが、追及する根拠も時間も無い。

「(まぁ、何かあっても私じゃ判んないかな?)
 判りました。じゃあ、ちゃっちゃと送っちゃいますね。

 美遊、準備できた?」

 イリヤが振り向いた先では、もう一人の魔法少女が地面に魔法陣を展開していた。

「なンだ? コレ」

 複雑で精緻な魔術式も、科学の街の住人からすれば、正直単なる落書きのようにしか見えない。

「転送用の魔法陣です。中に入っちゃって下さい」

 少年は訝しがりながら、少女は嬉々揚々と、二人が魔法円の中に入ったのを確認して、イリヤと美遊は杖からの魔力を注ぎ込む。

『開け、シュバインオーグ。
 我は我の望む場所へ。我は我の望む法を』

 イリヤと美遊。二人の声と言葉が共鳴し、呼応して魔法陣も発光を始める。
 第二魔法『平行世界運営』。
 かつて魔導元帥が朱き月のブリュンスタッドの月落としを防いだ、あらゆる可能性から束ねられた『力』は、『四人』を一時に転送する魔術式に浸透し現実を塗り替え―――。

『Sesam, offne di――――』

―――まってくださいでありますよー!!

 耳に飛び込んできた聞きなれた声に、イリヤは作業を中断する。
 向うから走ってくる白黒の塊は声同様よく見知っていた。

「………一人追加だね」

 術式は四人用。どうやらもう一度、最初からやり直す必要が在りそうだ。



398 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 23:04:53 ID:vdZyMaUm
つ@@@@

399 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:05:25 ID:lG+kpULN
 8 

 炸裂する砲弾を、<金剛剣>で叩き落とし。
 床に開いた落とし穴にはまった上条を、箒で引っ張り上げ。
 壁から飛び出す槍衾は、魔剣で切り落として。
 吊り天井の部屋は箒をつっかえ棒にして、時間を稼ぎ。
 水牢に閉じ込められた美琴を、難解なパズルを解いて助け出し。
 刻々と巨大爆弾のカウントダウンが進む中、倉庫番よろしくパールちゃん神像群を動かし道を拓き。
 幻影の出口に騙されて顔面を強打し、超重力に曝されて内臓(あんこ)が飛び出しかけ、冷たい雨に打たれてからだの芯まで冷やされたと思ったら、攻勢防壁に突っ込んでこんがり焼かれ、
 連動するトラップというとラップに追い込まれそのすべてをクリアするのに、柊蓮司は八面六臂の大活躍を見せた。

 そうして、柊の体力、生命力がレッドゾーンに差し掛かったあたりで、三人はようやっとそこへと辿り着いた。

 廊下を越えた先には、朱々と鎮座する巨大な鳥居。
 鳥居は社の門。俗世と神代を分ける境界。
 佇む威容に気圧されて、上条は知らず、ゴクリと喉を鳴らしていた。
 月衣から取り出したポーションで、回復していた柊が言う。魔剣使い(漢探知のプロ)が身体を張ったお陰で、二人のアマチュアは、ほぼ無傷で済んでいた。

「準備良いか? 多分、ココが一番奥だ。
 いい加減判ってると思うけど、気ぃ引き締めとけよ」

 上条当麻と御坂美琴は、神妙に頷く。
 此処までの道のりで、月匣の恐ろしさは二人ともようく理解していた。柊が庇ってくれていなければ、無傷どころか、今ココには立っていられないだろう。


 回復を終えた柊と一度、三人顔を見合わせ―――、彼らは其処へと踏込む。

 
 入口の鳥居と同じように、ソレを潜り抜けた途端、辺りの風景ががらりと変貌する。
 空間はピンクの光に満たされ大気には甘ったるい香の匂いが染み付いていた。
 床には、ベンガル虎と思しき白い獣の毛皮。その周りには、高級感溢れる牛革張りのソファーが、数基。
 ぐるりと壁に視線を向けてみれば、青磁、b器、白磁、土器等の文化的、歴史的背景などの統一感を無視した色とりどりの壺が、壁際の棚に収められている。
 そして、その部屋の中心に立てられているナニカ。

 それだけの光景を、一遍に認識して、
 上条当麻と御坂美琴。二人分、四つの眼球は、その部屋に中心で、はためくソレに釘付けにされていた。

 長さは二メートルほど。奇怪な金属であろうポールに括り付けられた、奇妙な形のおかしな色の布に、趣味の悪い色合いで刺繍された狂った図柄。
 持ち主の美的センスの無さを露呈するそれは、形容するなら『旗』だろう。
 恐らくは、魔導具『東方王国旗』。
 常識をぶっちぎって異様な内装に、アマチュア二人が言葉を失っているうちに、柊蓮司はざっと周囲を観察する。

「………。えらく堂々と飾ってやがるな―――」
「あの、ベルって奴が言うには、王権の象徴だから、目立つところに置いてなんぼって言ってましたけど……」

 半ば呆然と、上条は呟いた。

「ソレにしたってなぁ……」


400 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:07:33 ID:lG+kpULN
 一見無用心に見えるが、パターンとして、何かしらのトラップがありそうなものだ。
 左手で上条と美琴をその場に制止し、魔剣を構えて近づく。
 二メートル超のウィッチブレイドで床を突き白虎の敷布を捲り上げ、慎重に進めば、果たして。

 柊蓮司は、何の障害もなく『旗』の下へ辿り着いていた。

「………。」

 無言で魔剣を振りかぶり、『旗』に叩き付ける。
 二メートルを越える刃は、金属質な音を発てて、旗に跳ね返された。

「トラップも無し―――、か。コレだけ頑丈なら、必要ないってか?」

 自分で出した結論に納得が行かず、こめかみを掻く。
 このエリアは、いわば敵の心臓の筈だ。最も重要で、そして最大の弱点。
 その筈なのだが、

「部屋は無人で、トラップもなし。ただ旗が頑丈なだけ。
 少々無用心な気もするけどなぁ――――」
「別に、無いならないで良いんじゃないすか?」
「わざわざ難易度上げる必要はないでしょ」

 パールセンスの衝撃から抜け出して、何時の間にか近づいていた上条と美琴が気楽な声をあげる。

「そりゃまぁそうだけどな」

 一応頷いて、けれど柊は考える。
 敵の最大の拠点。一番大事なところ。ソレなのに警備が薄い。
 此処までの道のりも、トラップばかりでエネミーが一体たりとも出てこなかった。
 そのトラップにしても、上条に美琴というアマチュアを連れていたからこそ非常に苦労したが、そこそこ名のあるウィザードならば、それほど労なく突破出来ていただろう。

「こっちは敵の心臓に食い込もうとしてんだから、進むたびに警戒が強くなって当然なんだが……」

 当然あるべきものがない。この状況は、やはり異常と言ってしかるべきだろう。  
  
「ま、考えても仕方ないっすよ。どっかでサボってんじゃないですか?」

 気楽な事をいいながら、上条は旗に向って右手を伸ばす。
 何はともあれ、コレを壊せば全て終わる。
 パール・クールは力を失い、アゼルもこの世界も救われる。

「あ、そうだ。
 柊さん、この部屋になんか魔術的な仕掛けってあるか判りますか?」
「? なんだ、いきなり」
「これも、ベルって奴から言われたんすけど、えっと、いろんな世界から引っ張ってきた力をパールって魔王に合う様に変換する為の『濾過回路』があるとか何とか。
 どうせなら、そっちもぶっ壊しちまったほうがいいんじゃねぇかな? って」
「そういう事か。
 悪ぃけど、俺はそういうの苦手なんだ。ちょっとわかんねぇや」

 肩をすくめる柊に、そうですか、と頷いて、上条は右手で『旗』に触れる。 

 その直前、三人の足元に、魔法陣が広がった。

「なっ!?」
「えっ!?」
「嘘だろっ!?!」


401 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:09:31 ID:lG+kpULN
 赤黒く、刺々しい魔法円から、平和的な意志は感じ取れない。
 トラップ。それも剣呑な魔法型。
 反射的に、三人は魔法陣へ攻撃を仕掛けた。
 美琴の電撃が、柊の魔剣が、虚しく床板を抉る。
 
「!!」

 振り下ろされる上条の右拳は、しかし、
 硝子を砕くような音を響かせた。

「……。あれ?」

 握った右手を訝しげに見つめる上条の、その耳にその音が沁み込む。
 意外といえば、意外であった。
 今の今まで、上条の右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は、一切効果を顕してはこなかった。それが、この場面ではなぜ―――

「あらあら、消されてしまいましたか―――」

 染み出すように、不気味な声音が産まれたのはその時だった。


402 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 23:10:53 ID:Yl1TmMQA
支援だよ

403 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:12:20 ID:lG+kpULN
幕間 9

 どくん。と一度大きく拍動して、鼓動は規則正しいリズムを取り戻した。

「元気が良いわね。何か良い事あったのかしら?」

 身の丈ほどもある熊の縫い包みを抱きかかえて、微笑むソレ。
 月の裏側。いまだここにたどり着いた者はいない。
 けれど、世界の息吹は此処にも息づく。

 神殿を思わせる聖域の最奥。西風の吹き抜ける森の中。大樹の根元に設えられた寝台の上で、規則正しい寝息をたてる。
 少女か、少年か。
 性別は判然としない。

 ソレは母のように語り掛ける。

「幾多の言葉は、今日も貴方に語り掛け、
 幾多の意思は、明日も貴方の馬車の車輪を廻す―――」

 数多の世界が混ざり合ったこの世界で、

「歓びも悲しみも、愛も憎しみも、絶望も希望も―――、
 無駄なものなど一つも無い。
 ココに在りたいと願う総ては祝福されている。
 その総てが、貴方を育んでいる」

 願わくば―――、

「心優しきモノとなるように。
 命育むものとなるように。
 命を慈しむモノと成るように―――」

 月の裏側で、ソレは語りかける。
 

404 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 23:12:46 ID:vdZyMaUm
CAん

405 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/23(火) 23:28:54 ID:lG+kpULN
以上です。支援有難うございました。

ダイブとクライマックスを一遍に書いたらとんでもない分量になっちゃいましたので、分割しました。
明日の今頃、十章を投稿したいと思います。

十章のあと、エピローグがはいって完結の予定です。


では、前回のレスがえしをば。

前スレ
103
待っていて下さってありがとうございますm(_ _)m。
ノーチェが好評で驚きましたw。

前スレ
104
有難うございます。

前スレ
105
>  因みに。破壊された呪錬制服は既に別の服に取り替えていて、もう全裸ではない。上条共々色々と焦げているのには、まぁ、触れる必要は無い。
全裸って…何故パンツはかずに呪錬制服着てるんだ?

ノリとテンポ優先で書きました(ヲ。
きっとアンゼロットのことですから、下着も込みで作ったと脳内補完して下さい(汗


前スレ
110
ノーチェが好評で驚きました(二回目)
もう一人の魔王は、次回で名前出てきます(汗

前スレ
111
有難うございますm(_ _)m
楽しんでいただけたら幸いです。

前スレ
112
有難うございます。
光栄です(照

前スレ
113
有難うございます。
ヤッパリ、上条さんにはピンチと女難が似合う気がしています。
柊も同類だと思います。


では、ここまで付き合っていただいて、有難う御座います。

m(_ _)m

406 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/23(火) 23:37:18 ID:NqtsxkjX
やべえやべえやべえんだぜGJ!
あぁもうお待ちしていましたのですわよおねーさま!! いや性別知らんけど!

うふふふー。とてもとてもそれっぽくて泣きたくなるくらい素敵なのー。俺テンション上がりすぎで死ぬかも。
日本語が退化してるのはあなたのせいなんだから!
明日の残りの投下、お待ちしていますー。

407 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 00:49:58 ID:Caocgf+y
しばらく繋いでなかったら新スレになってるぅ。

そういや聖剣LoM+NWってどうなってるんです?

408 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 01:01:30 ID:qktj+2u2
そういうことは慎ましく胸に秘めておくのがSSスレのたしなみ
野暮はいかんよ野暮は

409 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 14:36:17 ID:BiOQTxPf
GJです!!
嗚呼、待っていて本当に良かった。

410 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 22:52:13 ID:3ZGmv+po
大体二十三時間半ぐらいでしょうか? こんばんわm(_ _)m。

とある世界の騒動日程第十章を投稿しに来ました。

今回、かなり好き勝手しました。
地雷と向き合う覚悟をしていただく必要が在るかもしれません。(汗

では、よろしければ23:30ごろから投稿したいと思います。

411 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 22:55:23 ID:zacxyLTB
面白ければ、大抵のことはスルーされるものなんだぜ?
そして面白いかどうかは見てみないとわからないから見せて欲しいなとミサカはミサカは半裸待機!

412 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:20:57 ID:vOAYcaSK
第十章 荒廃の魔王 _galanthus_elwesii _

 1

 裸身に巻きついた黒い帯は、その下の肉(ししむら)ごと切り裂かれ、惨めな襤褸切れに成り果てていた。
 真白い肌は、あちらこちらに裂傷や打撲の様々な傷を抱え、吹き出した己の血で汚れている。
 雪影のような灰銀の髪は、煤や埃で汚れて汚れ、濡れたようだった桜色の口唇は、ひび割れくすみ、荒い吐息に掠れていた。

 『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。

 満身創痍、そして疲労困憊。
 ソレは、隣に立った黒衣のベール・ゼファーも同じ。
 『東方王国の王女』パール・クールの力は、偽りなく無限。勝機など此処にはなく、脆弱な人間を信じる他なく。
 絶望的に、立っているのがやっとという様子で、けれどもアゼル・イヴリスの瞳は、力を失っていなかった。

 稀有な事態だと、こんな状況であってもベルは内心で笑う。
 パールの言を繰り返すワケでは無いが、絶望と諦観が彼女の殆どで在った筈だ。
 それが、ココまで………。

―――あと、もう一押し。

「なに? ベル、何かいい事でもあったの?」

 二柱の魔王を睥睨して、パールは言う。
 内心だけでなく、表情にも出ていたのか。と、ベルは重ねて嗤った。

「別に。変な事に気を取られてるような場合でも無いでしょ?」

 傲然と見下ろすパールの後ろから、雷火が迫る。
 僅かに首を傾げベルの攻撃を回避し、東方王国の王女は両手から光を放った。

 未だ、戦闘は継続中。
 二対一の戦いは、際どいところで平衡を保っている。

 光弾が着弾する。
 粉塵を巻き上げ、視界を塞ぎ、回復したところでその場にはもう二柱(ふたり)の姿はない。粉煙にまぎれベルは間合いを開き、魔弾を装填。アゼルは―――、

「――――――ッ!!」

 唇を気勢で割って、拳を振り上げる。
 フェイントも何も無い、ただ力任せの一撃。軽々と、パール・クールは回避する。
 
「しつこいっての!!」

 かわし様に放った魔弾は、アゼルが持つ『荒廃の力』の処理能力を軽々と越えるもの。
 言葉を発する余裕もなく、全身に刻まれた傷に手足を武器に変える事も出来ず。
 垂れ流されるパール・クールの魔力を奪うだけ奪って、アゼル・イヴリスは大きく間合いを開けた。

「あああッ!!! もういい加減にしなさい!!」

413 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:23:11 ID:zacxyLTB
支援をはじめます、とミサカ19090号は淡々とあなたの援護を始めます。

414 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:23:37 ID:vOAYcaSK
 喚き散らす言葉と同時に、攻撃魔法を撒き散らす。
 アゼルに迫る攻撃は、ベルの力で弱められ、荒廃の力で吸い取られる。
 幾度このパターンを繰り返したろう。
 二柱(ふたり)の攻撃は、この身に届かず、けれど此方の攻撃も掠らせながらも回避される。
 厄介なのは荒廃の力。
 己が手に入れた無限の力(プラーナ)に対抗しうると考え、配下の手駒に攻撃させたのは間違いではなかった。
 絶対死。もし仮に、アゼル・イヴリスが完璧にその力を使いこなしていたならば、勝負は既に決まっている。
 自賛し、パールは思考を続ける。
 予想外だったのは唯一つ。たかが忘却世界一つのために、アゼル・イヴリスが此処まで粘る事。諦観と絶望で荒野に引きこもっていた魔王の行動にはそぐわない。
 折れているはずの彼女の心を、今なお支えるもの。

(ったく、アイツは何やってのよ。折角このパールちゃんが有効利用してやってんのに!!)

 攻撃の手を緩めず、パールは意識の一部を己の月匣に向ける。
 残してきた下僕に、管理を委ねた己の心臓を。

「―――――は」

 垣間見て、パールは嗤った。
 所詮、人間はこの程度。

 勝利を確信し、パール・クールは間合いに踏込むアゼル・イヴリスを眺めやる。


415 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:26:08 ID:vOAYcaSK
 2

 一輪の花が開いた。
 血と、闇と、毒で育てた黒薔薇の華。

「あらあら、消されてしまいましたか。
 やはりわたくしの力は異能と扱われるようですわね」

 染み出すように、宙より現れた少女の影。
 朱と黒のグロテスクロリータ。
 彼女は興味深く、上条当麻を眺めやって、

「そちらが異世界の超能力者で―――、
 それが『幻想殺し(イマジンブレイカー)』ですのね」

 空気が変貌(かわ)る。
 真紅の瞳に曝されて、上条は、そして美琴は、背筋が凍りついたかのような錯覚に襲われる。

「しかし、散文的な名前ですわね。あまりセンスがよろしいとは思えません―――」

 憎悪、悲哀、嫉妬、絶望。
 あらゆる、負の感情を風に溶かしたような気配。
 即ち、瘴気。

「そうですわ、『神定秩序(ヴォーダンズスピア)』なんて如何かしら?
 このわたくしが進呈して差し上げます、改名なされたらいかが?」

 無垢な淑女のように、彼女はわらった。
 荒廃の力を使うアゼルに、黒衣を纏ったベール・ゼファー、そして太陽の様なパール・クール。
 滲み出る、この夜出会った、第八世界の魔王たち、そして夏の浜で遭遇した大天使と同じ、超越者の気配。

「………。
 いらねぇよ。んなアツかましくもハズかしい名前」

 背筋の氷に抗って、上条は言う。

「そうですのお気に召しませんか―――。
 残念ですわ」

 『解る』。
 こいつは敵だ。
 蛇に睨まれた蛙のように、震えていてはただ食われるだけ。
 怯えを振り払うように、両手を掲げて拳を握る。

 そして、身構えた上条を庇うように、魔剣を構えた柊が立ちふさがった。
 その姿を見て、少女の瞳は更に好奇心の光を帯びる。

「あらあら、まさか貴方は柊蓮司?
 このようなところでお会いできるとは、わたくしも幸運ですわね」

 貴方を討ち取れば、私の名も少しは復権するでしょう。と、はしゃいだようなその声を無視し、柊は言った。 

「上条。間違えんな」
「―――!? そうっすね」

 そうだ。いきなり現れて肝を抜かれたが、別にこの少女のカタチをしたものを、今相手にする必要はない。
 『旗』はすぐ傍に。今はコレを壊すことが第一。

416 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:27:33 ID:zacxyLTB
じゃあ私も超はりきって超支援はじめますか。

417 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:28:11 ID:vOAYcaSK
 柊は少女に斬りかかり、上条は右手を伸ばす。
 あらゆる異能を破壊する右手は、奇怪な旗に触れる―――、

 その刹那。

 脊髄を駆け抜けた電流に、上条は大きく後に跳んでいた。
 一秒前まで、己が居た所を薙ぐ刃。
 バックステップを踏んで回避し、更に振るわれた一閃を転がってかわす。『前に』。

 背筋を走る氷に、全身を固めた御坂美琴を、抱きかかえるように押し倒して、彼女の首を落とそうとしていた刃を回避する。

「上条! 美琴!」

 思わず、意識のそれた柊の頬を虞風が撫でる。
 仰け反りかわし、後退する柊の軌跡を、紅の糸がなぞった。 

「こいつら、どっから現れやがった!?!」

 柊が怒鳴る。
 前触れもなく現れたそれらは、『旗』を護るように、三人に箒を向けた。

「おまえら―――」

 その顔に、上条は目を見開く。
 上条の腕の中で美琴の瞳は、ただ、その、少女のカタチをしたものを写していた。

「あ、アンタは一体何なのよ!!!」

 紅(アカ)と昏(クロ)を纏い、血の滲んだ包帯を素肌に巻いた彼女は、まるで護衛を伴う令嬢のように、優雅な貴婦人の礼(カーテンシー)をとって見せた。

「わたくしの名はローズ・ビフロ。
 死霊女王の二つ名を持ち、二六の軍団を支配するもの。
 今は、『東方王国の王女』パール・クールの配下ですわ。
 以降お見知りおきを」

 凍りつくほどの怜悧な笑みを添えて。


418 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:29:32 ID:zacxyLTB
微力ながら。私も。支援を。

419 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:30:16 ID:vOAYcaSK
 3

 ローズ・ビフロ。
 そう名乗った少女のカタチをした魔王は、『旗』を背負い護るように上条たち三人と対峙する。
 三人の護衛らしき、白兵箒(ウィッチブレイド)を構えたヒトガタを伴って。
 それらは、魔剣を構える柊、立ち上がった美琴に油断なく刃先を向け、槍のような箒を持つモノたちの顔に、上条当麻は目を見開いた。
 
「お前ら!?」

 その顔には見覚えがあった。
 まだ、一時間と経っていない昔、アゼル・イヴリスごと彼の命も狙い、上条の目の前でパール・クールに焼殺された夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)達。

「………生きてたのか―――?」

 けれど、アゼルへの憎しみに溢れていた、魔王監視部隊のメンバーは、まるで傍らの魔王の騎士が如くに振舞っている。
 しかし、その瞳に意思の輝きはない。
 不審の色が浮かんだ顔に、ローズは口角を吊り上げた。

「そう言えば、紹介がまだでしたわね。
 この者共は我が二六の軍団に身を置く死者の兵。わたくしの道具ですわ」
「死者の兵……?」
「ええ。
 わたくしが与えた仮初の命で動く人形。貴方がたを狩り出すよう命じたのに、何時まで経っても成し遂げられなかった不出来なガラクタですが、盾にはなる様ですわね」

 それにしても。と、ローズは嗤う。

「人間とは面白いですわね。
 適当な記憶を刷り込んでやれば、自分が死んでいることすら忘れて見当違いの憎悪をばら撒くのですもの。最高の見世物でしたわ」
「っ!? テメェ……!!」
「あら? なにを怒るのです? これらは貴方を殺そうとしたのですよ? 貴方が怒る理由などないでしょう?」

「喧しいっ!!
 確かにそいつらはヤな野郎だったけどな、ソレだって全部テメェの仕業って事だろうが!!
 死んじまってから良い様に使われて、そしてそんな事言われなきゃならねぇ理由なんざ何処に在るっ!! 人間をなんだと思ってんだ!!」

「食料、そして道具ですわね。
 あまり、つまらない事を口にさせないで下さる?」

 沈黙を挟む。
 柊は眉間に皺を寄せ、美琴は頬を引き攣らせた。
 そして上条は、

「…………。
 オーケー、よぉく判った。テメェは、あのパール・クール(クソガキ)の同類なんだな……?」

 右手を握り締める。
 其処にあった温もりを確かめるように。

「―――絶対、ブン殴るっ!!」
 
 床が、悲鳴をあげる。
 反発力と脚力が、身体を弾丸のように射出した。
 即座に、ローズとの間に死者が割り込む。

420 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:32:11 ID:vOAYcaSK
「邪魔すんなっ!!」

 突き出す槍を、右手の一撃で破壊し、引き戻した拳で殴りつける。

 上条当麻は、こいつを認められない。
 傷ついても、死にかけても、決してこの手を離さなかった一人の魔王。
 アゼル・イヴリスの優しさを、その真実(ホントウ)を知っている上条だけは、
 侵魔(同じ)でありながら、人を人とも思わぬこの侵魔を、認めるわけには行かない!!

 硝子を砕くような、幻想を殺す音を乗り越えて、上条当麻はローズ・ビフロに肉迫した。
 踏込む上条を前に、魔王は笑みさえ浮かべて―――、

「予想通り、突っ込んで来てくれましたわね。
 ああ、けれど。やはりその手は厄介ですわ―――」

 渾身の右ストレートを、しかし魔王は難なくかわす。

「なっ!?!」
「予定どおり、貴方から潰すことにしましょう」

 ドレスの裾が翻る。
 右手を振り切った無防備な懐に、潜り込んでローズは掌を当てた。
 その手に開く赤黒い魔法陣。

「お眠りなさい」

 魔力が殺傷力に変換されて発動する。
 刹那、魔王は攻撃を中断し身を引いた。
 走る縦一閃。
 神殺しの魔剣が、その残像だけを切り捨てる。

「上条ッ、一人で突っ込んでんじゃねぇ!」

 ムカついてんのは、俺も同じだ。と、柊は魔剣を手首の返しで翻し、横一閃に振りぬいた。
 その刃を、魔王は魔力障壁を生み出し、防ぐ。

「くす。流石は柊蓮司。
 貴方相手なら、わたくしと言えど盾が必要ですわね」
「だからなんでテメェらは、他人(ひと)の事をいちいちフルネームで呼ぶんだよ!!」

 一人欠け、二人となった死者が、柊に襲い掛かる。
 魔剣を引き戻す動きは間に合わない。
 刃を振り降ろす二人は、青白い雷光に吹き飛ばされた。

「猪突猛進はアンタもよ、柊」

 バチバチと、御坂美琴は前髪から放電する。 

「話はいまいち見えないけど、流石に、さっきの科白は私もカチンときたわ」

 大気を炸裂させて、十数億ボルトの電撃の槍が、ローズを狙った。
 魔剣を押さえているのと、逆の手を突き出し、発生させた障壁が雷光を散す。

「あらあら、貴女は見逃して差し上げてもよろしかったのに………。
 そんなに、死にたいのかしら?」

 朱い視線に曝されて、含まれた鬼気に怖気が走る。
 しかし、

「はッ!」

421 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:32:52 ID:zacxyLTB
この私が支援して差し上げるのです、不甲斐ない姿など見せたら承知しませんわよ?

422 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:34:13 ID:vOAYcaSK
 美琴は、怖気ごと笑い飛ばした。

「やれるもんならやってみなさい! 人間舐めてんじゃないわよグロロリ女ッ!!」

 突き出した掌から、電撃の槍が迸る。

「くっ!!」

 水平に飛ぶ雷を、ローズは魔力障壁で防御して、

「俺をッ、忘れてんな!!!」

 幻想殺し(イマジンブレイカー)が、障壁を食い破った。

「しまっ……!!」

 破られた魔力障壁は作り直せる。けれど、ソレよりも速く、二撃目の電撃が走った。
 十億ボルトが身体を焼く。ダメージは軽微。されど、
 再び響く、幻想を殺す音。障壁より解放された神殺しの剣が、大気を断ち疾る。

「!!!!」

 長大な刀身を、仰け反りかわせたのは魔王の幸運か、もしくは、魔剣の主が不幸だったのか。
 でも、 

(いける!!)

 上条当麻は、後退するローズに勝利を確信した。
 如何言う理屈かは解らないが、この魔王の魔法は、幻想殺し(イマジンブレイカー)で破戒できる。
 そして、柊や美琴の攻撃力なら、ローズ・ビフロを十分に倒し得る。

(不味いですわね)

 ローズ・ビフロは、前進する上条当麻に焦燥を感じた。
 此処は、パール・クールの月匣(セカイ)。ならば、己の能力(チカラ)は異能であるだろう。
 そして、柊蓮司も異世界の能力者も、十分な脅威足り得る。

 ―――ならば、

「魔器、解放ッ!!」

 柊が叫び、魔剣に刻まれたルーン文字が発光する。
 能力を全開にした、神殺しの刃が魔王に迫る。障壁を破戒され、その破壊力を素通しで打ち込まれれば、幾ら魔王とて只では済まない。
 魔剣の刃はしかし、ローズの御髪を数本切り落としただけだった。

 ポタリ。と、水滴が零れる音がした。
 骨を削る不快な音が頭蓋に響いた。

 能力を解放した柊の魔剣は、無防備な魔王に迫り、しかしローズの障壁に侵攻を押し留められ、空に逸れる。
 幻想殺しは、その障壁を破戒できなかった。

「っ、がっ!?!」

 絡み付く白。飛び散った赤。
 何処から現れたのか、大型魚を釣上げる為と、見紛うばかりの巨大な鉤針が、上条当麻の右手を繋ぎ止めていた。

423 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:36:21 ID:vOAYcaSK
「どうやら、間に合ったようですわね」

 鉤針は、月匣の壁に繋がっている。

「ぅぐぁっ―――――!!!!」

 苦痛が弾けた。右手から脳髄までの神経を走る、針金で穿られたような激痛。
 上条自身が殴りかかった力が、戻りまでしっかりと、鉤針を肉に食い込ませ、つながれた縄が、一本釣りよろしく、上条の身体を吊り上げる。

「―――――――――!!!」

 鉤針が、更に深く右手(にく)を抉った。
 苦痛の呻きは声にもならない。

「上条!!」
「当麻!!」

 柊の驚愕に、美琴の悲鳴が重なった。
 鉤縄は壁に消え、上条の右手は月匣に埋まる。
 右手一本で吊り下げられた、食肉よろしい磔刑に。

「少し、其処で大人しくしていなさいな」

 周囲に死者の軍団を侍らせて、ローズ・ビフロは言い置いた。

「柊蓮司の幕を引いたら、遊んで差し上げますわ」


424 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:37:01 ID:zacxyLTB
俄然。支援にも力が入ろうというもの。

425 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:38:21 ID:vOAYcaSK
 4

 部屋の壁に、ケバブよろしく吊り下げられる。つま先を伸ばそうと床には届かず、鉤に抉られた傷口に、全身の体重がかかり苦痛を自動的に生産する。
 このままでは、右手がささら状に引き裂かれるのも時間の問題だろう。
 苦痛に耐え、新たな痛みに歯を食いしばり右手の鉤を引き抜こうと、上条当麻は逆の手を伸ばす。けれども位置が悪い。その手は届かない。
 たとえ届いたとしても、壁の一部が変形し右手が半分壁に取り込まれている以上、そう簡単に外す事は出来ないだろう。

 その光景に一先ず、ローズ・ビフロは一息ついた。
 夢と現を司る夢使いであっても、他人の月匣を弄るのは難しい。パール・クールに与えられた魔装(管理者権限)があって、初めて成功した細工。
 ともあれ、幻想殺し(イマジンブレイカー)の隔離には成功した。後は一人ずつ撃破していけば良いだけだ。

「てめぇ、上条に何しやがった!!」
「勿論、あの右手のチカラを、少々封じさせていただいただけですわ」

 柊蓮司が魔剣を振るう。
 しかし、魔王に届く前に、割り込んだ死者の兵がその一閃を受け止めた。
 
「如何なさったの? 柊蓮司。
 剣筋が鈍っていますわよ?」

 ギリッ。
 と、柊は奥歯を噛み締める。
 死者の兵として、今、彼と対峙する者たちには見覚えがあった。
 かつて、とある冥魔に関わる事件の際に、共に学園迷宮(スクールメイズ)に潜った新米ロンギヌスたち。
 決して知らぬ仲ではない。そんな相手に剣を向ける抵抗が、重圧となって圧し掛かっていた。

 それでも、魔剣使いは攻撃を繰り出した。
 突き出される槍を捌き、降りぬく刀身を牽制(フェイント)にして、翻した柄頭(ポンメル)の小刃で心臓を狙う。
 虚ろな貌のまま、刃を受けた死者の兵は、鮮血を噴き出し仰臥する。
 どさり。と床に倒れ、砂となって消え去った。

「あらあら。酷い事をなさるのね。
 もしかしたら助けられたかもしれないのに―――」

 魔王が嗤う。  
 考えるまでも無い、嘘だ。心理的な揺さぶりだ。
 下手な作り話。そんなコトがあるはずがない。
 柊蓮司はもう揺らがない。己に出来る事はただ、魔剣で叩き切る事だけだと知っている。

 空に描く、文目の斬撃線。
 死者の軍団を斬り刻み、その刃は長たる魔王にまで至る。
 が、しかし。

 軋む音を発てて、ウィッチブレイドは空中で縫い止められた。

「クス。
 盾を用意しておいて正解でしたわ」
「魔力障壁!?」

426 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:40:26 ID:vOAYcaSK
 叩き付ける魔剣に生まれた抵抗。
 この魔力障壁を突破するには、今のままでは難しい。上条当麻が戦線離脱したのは、正直言って辛かった。
 諦める事無く振るう斬撃は、けれども尽くが障壁に阻まれ弾かれる。
 そうしている内に、新たな死者の兵が具現化し、柊に襲い掛かってくる。
 その攻撃を捌くうちに、柊はローズ・ビフロより引き離されていた。

「振り出しに戻る。
 嗚呼、柊蓮司。貴方が私を倒す機会は、私が月匣を変形させたその隙しか在りませんでしたのに」

 嘲意は深く、悪意は底知れず。
 湧き出す木偶人形は、数知れない。

(まずい。こいつら強敵だ―――)

 数度目の突撃。死者の群を突破し、振るった魔剣を障壁に遮られながら、柊は歯噛みする。
 詰まる所、数の暴力。死者の兵自体は大して強くはない。薙ぎ払おうと思えば、即座に消し飛ぶ程度でしかない。
 けれど、その時間が在れば、魔王が防御魔法を唱え終わるには十二分。
 柊の刃は届かない。

(美琴がこっちの相手してくれれば―――)

 或いは、御坂美琴の援護があれば、相手の速さを上回る事も可能かもしれない。
 けれど、超能力者といっても一般的な女子中学生に、この現状で冷静でいろ。と、言うのは酷かも知れない。

 槍衾を捌き、不本意な後退をしたところで、柊は美琴に向って声を張り上げる。

「そっちとっとと片付けて、こっち手伝ってくれ!!」


427 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:40:44 ID:zacxyLTB
救われぬ者に支援の手を―――!

428 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:45:50 ID:qktj+2u2
支援

429 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:51:11 ID:qktj+2u2
こっち手伝うの遅かったんですね、分かります。

解除の足しになる事を信じてもういっちょ

430 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:51:43 ID:fcvDFtH3
 5

 白い壁面を汚す、赤い血のマーブル模様。
 鉤縄に絡められた右手は、半以上壁にめり込んで、抉られた傷口から血を垂れ流す。
 上条当麻は、更なる出血を意にも介さず、右手を引き抜こうと更に傷口を広げる。

「!?! 何やってんのよ!!」

 目の当たりにした瞬間。美琴の頭から現在の状況だとか、ソレに対する冷静な対処だとか、柊を援護するほうが重要だとか。そう言ったモノが綺麗さっぱりすっ飛んでいった。
 慌てて駆け寄って、上条を抑える。

「バカッ! 何でこっち来るんだ!!」

 上条は目を見開いた。

「馬鹿はどっちよこの莫迦!! 無理矢理外そうとするんじゃない!! 一生右手が使えなくなるわよ!!」
「ソレぐらい解ってるよバカ!! だから、此処は俺一人で何とかするから、お前は柊さんを援護しろってんだ!!」
「馬鹿って言うな莫迦の癖に!! アンタを放って置ける訳無いでしょうが!!」
「俺よりも柊さんだろ!! あの人がどんだけ頑丈でも数の差はヤバイだろうが解ってんのかこのバカ!!」

 無事な左手で美琴を制そうと振り回し、右手に響いて眉を顰める。
 その様子に、美琴の平常心は更に失われる。

「アンタって奴は、何でそう無茶ばっかりすんのよぉ!!」
「だぁ!! 泣くな!! そんな場合じゃねぇだろぉ!!」

 美琴の手が上条の右手に伸びる。
 御坂美琴は電撃使い(エレクトロマスター)だ。物質透過能力でも持っていれば、そして上条の右手に奇妙な力が宿っていなければ、話はもっと簡単だっただろう。
 けれど、ないものねだりしている意味は無い。あるもので何とかするほかなく、

―――幸い、御坂美琴は電撃使いだ。分子間の結合を断ち切れば切れない物などない。

 美琴の手が、拘束されている右手に伸びて、ソレに触れる刹那、
 硝子が砕けるような音と共に、噴き出した鮮血が美琴の肌を汚した。

「え?」

 解放された右手に呆け、上条は床に転がる。
 出血が痛みを併発する。が、それ以上に気になるの事が一つ。
 さっきの反応は間違いなく幻想殺し(イマジンブレイカー)が、鉤縄を異能として破戒したものだった。

「………。我が身の事とは言え、使えるんだか使えないんだか、ハッキリして欲しいなと切に思う次第」  
「暢気にぼやいてる場合か!!」

 上条の血で汚れた顔で、美琴は詰め寄る。
 自らのスカートを破いて、即席の包帯を作って止血の為に手早く巻いてゆく。
 深い色合いの布地は、即座に赤と混じって、なんともいえない奇妙な色に変色した。

「……。ちょっと足りないわね。こんな事なら、初春さんみたいにもっと長いスカート穿いとくんだった」
「まぁ、最近の女子中学生のスカートは少々短いよな―――って、御坂さんアナタは何処に手を突っ込んでおられますか!!」

431 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:54:21 ID:fcvDFtH3
 胸元のリボンタイと、自らのハンカチ、そして上条のポケットをまさぐって引っ張り出したハンカチを、破いて繋ぎ即席包帯を延長する。
 新しく伸ばした部分も即座に染まって、上条の右手はまるで赤いグローブをつけたよう。
 一通りの処置が終わって、上条は右手の様子を確かめる。
 指の曲げ伸ばしは可能。ただ、その度に激痛が走る。出血は、包帯で抑えられているとは言え、未だ継続中。これ以上無茶をすれば、確かに二度と使えなくなるかもしれない。

「でも、まぁ、そんなコトも言ってられねぇか―――」
「……!! ちょっと!?」

 不吉な響きの呟きを聞きとがめて、美琴は声をあげた。
 今、この男はなんて言った? まるでもう一度前線に戻るかのような。

「ありがとな、御坂」
「ちょっと待ちなさい!! あんた、まさか―――」
「まさかって何だよ……。ここで諦める訳無いだろ、俺はあいつらに託されたんだから」
「冗談でしょ!? 右手が使いものに成らなくなるかも知んないのよ!?」
「大丈夫、ちゃんと動くぜ。それにアイツはこの手を畏れている。
 十分に切り札足り得るんだ」

 だから奴は、柊に斬られる隙を作ってまで幻想殺しを奪おうとした。

「心配すんな。右手に穴が開いたぐらいたいしたことねぇよ。夏休みなんか二の腕から右腕ごと斬り落とされたんだからな」
「んなっ!?」

 一体、アタシの知らないところで、コイツは何をやってたんだ。
 絶句したその隙に、上条は既に走り出していた。

―――美琴ぉ!! そっちとっとと片付けて、こっち手伝ってくれ!!

 柊の絶叫が耳に届く。

「ああ、もう、いい加減にしときなさいよ!!」

 連続して数発。地面を水平に飛ぶ雷が、死者の軍団を弾き飛ばした。


 予想外といえば予想外だった。
 『神定秩序』。神の定めたルールを護るもの。
 上条当麻の右手は、そういったものだと、立てた予想は外れていたのだろうか。
 此処はパール・クールの月匣。東方王国の長の世界。限りなく無色のこの領域で、唯一存在する秩序である。
 ソレなのに、異能として破戒されたのは、その仮定が間違っていたからか、それとも、

「あの少女、月衣のようなモノを持っているのですか?」

 別の秩序(ルール)に取り込まれたか。
 質問が向うのは柊蓮司。
 ウィザードは魔剣を振り抜き、

「いちいちんな事教えるとでも思ってんのか!!」

 それでも律儀に返答する。
 幾十と繰り返した斬撃が、魔王の防御障壁に阻まれて、退がった瞬間、青白い雷光が世界を焼いた。
 電撃の槍。
 御坂美琴の能力が、柊に群がろうとする死者の軍団を弾き飛す。
 
「ぅおおおおおおおお!!!」

432 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/24(水) 23:54:37 ID:zacxyLTB
敬語でしゃべる上条さんとか新鮮だなぁ、と思いつつの支援。

433 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:57:30 ID:fcvDFtH3
 即座に踏込み、剣を振るう。
 袈裟懸けの第一閃は牽制(フェイント)、左脇に腰だめにした構えから即座に二撃目を繰り出す。
 放ち得る斬撃の軌道は数種類。
 裏刃での逆袈裟、切先での突き上げ、小刃(ポンメル)と刀身の横払い連撃。
 防御は間に合わないと、魔王は身を翻す。
 ヤマを張ったのは横払い連撃。身を低く這うように、魔剣使いの懐に潜り込もうと床を蹴った。

 果たして―――、死霊女王は、自らの幸運を何に感謝したのだろう。

 柄尻の刃は金糸を散し、柊は魔王に踏み込まれる。ウィッチブレイドの長大な刀身では、格闘の間合いには対応しきれない。
 切先を天頂に向け、柄尻を叩き落とすよりも、ローズの掌に、魔法陣が広がるほうが速い。 

「吹き飛びなさい」

「させるかぁあッ!!!」

 割り込んできた赤い拳に、反応できず、対処しきれずに、魔王は床を転がった。

「なっ、えっ?」

 ドレスの裾を翻し、即座に起き上がったものの、ローズの顔には未だ混乱の色が張り付いていた。
 解放されたとは言え、上条当麻は重傷のはずだ。それが、再び前線に復帰して、あまつさえ大怪我をしている右手で殴りかかってくるなど。
 痛くないはずが無い。激痛が走っているはずだ。いまも、ほら、痛みに顔が歪んでいる。ソレなのに。
 今を好機と、柊と上条はローズを追撃する。
 振り下ろされる刃は断頭台。拳は鉄槌のように、そして後衛から迸る雷撃が、ローズの回避範囲を削り落とす。
 形勢逆転。
 しかし、油断は出来ない。相手は魔王だ。そもそもの格が違う。気を抜けばその瞬間再びひっくり返される。
 そう、
 唐突に、ローズの動きが止った。大きな、あからさまな隙。
 神殺しの魔剣と幻想殺しが迫る。しかし、彼女は回避も防御も行わない。

『!!』

 魔剣が食い込み、拳に打たれてローズの包帯が肌蹴た。白い肌に毒々しく、描かれた文様が輝いている。

「まさか、再びコレを使う必要があるなんて―――」

 思いませんでしたわ。
 そう呟くと同時、月匣の床が盛り上がり巨大な腕が現れる。上条の右手を絡めとった鉤縄と同じ、しかし、まるで規模の違う魔装。
 腕だけの存在だが、その巨大さはどこぞのゴーレムに匹敵する。
 大気を押し潰す腕が迫る。
 質量差に魔剣を軋ませながら、辛うじて柊蓮司は受け流せたが、

「〜〜〜〜〜っ!! コノヤロウ!! 離しやがれ!!」

 上条は避ける事も出来ず、万力でもって拘束される。

「いい加減、大人しくしていなさいな!! 焦らずともアナタは後でゆっくりと殺して差し上げます!!」

 苛立ちを隠さず、叫ぶローズの声と共に、唸る豪腕。
 ブラックアウトさせる心算か、上条を握り締めたまま、上下左右に振り回す。

434 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:58:35 ID:fcvDFtH3
「上条!! っ、クソッ!!」

 柊は、もう一方の腕の相手をするのに手一杯で、拘束される上条を解放するためには動けない。こんなもので殴られた日には、間違いなく轢殺必至(せんべい)だ。
 代わりに走る橙の極光。
 音速の三倍でぶっ放された超電磁砲が、巨腕を手首から砕き壊す。上条は捕まれたまま、月匣の壁に、内装を巻き込んで激突した。

「!? しくじりましたわ!」

 叫び、無防備になったローズに、巨腕を切り捨てた柊が迫った。

「如何した!! 隙が出来たぞ!!」

 掠めた魔剣が、ローズの腕を浅く薙いだ。


435 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/24(水) 23:59:58 ID:fcvDFtH3
 6

 左手のパーツだと、認識する事すら難しいほどに巨大な、五本の指を押しのけて、上条当麻は床に転がる。
 咳込んだ拍子に、赤いものが飛び散った。
 巨手に圧迫されたときに肋骨が折れたか、それとも元々折れていたものが何処かに刺さったのか―――、

 パール・クールが見せたのは、そういう映像だった。

 大口を叩いた所で、所詮は脆弱な人間風情。仮にも魔王に敵うわけがない。
 そう言って嗤っているのだ。人間如きに希望を託した二柱の魔王を。彼を心の支えにしている、アゼル・イヴリスを。

 そして、目論見どおり、アゼル・イヴリスはその映像に釘付けられていた。

「上条、くん―――」

 見開いた目に映る姿。
 既にして満身創痍。切り札たる右手は最早アカを通り越してどす黒く、喉の奥から迸る喀血は床を汚してゆく。
 その身体に刻まれた傷は、己が受けたものの十分の一にも満たないだろう。それでも、人間である彼には重症であって、

「あはははっ、いい様よね!」

 パール・クールの嘲笑が遠い。
 
「ほらほら、どうせコイツはここでお仕舞よっ! アンタもとっとと諦めちゃいなさい!」

 お仕舞い。そうだ、人は脆い。確かに。此処まで痛めつけられて、立ち上がる人間なんて居ない。
 彼の二人の仲間は、死霊女王が再び呼び出した死者の軍団を相手にするので精一杯。これ以上行けば、きっと死んでしまう。

 それなのに―――、

 パールの顔色が変わる。
 やっぱり。と、アゼルは心のどこかで呟いていた。
 地に転び、血を吐いて、それでも、上条当麻の瞳から輝きが失われる事はなかったのだから―――。

 ふらふら、と、覚束なくても、頼りなくても、上条当麻は起き上がった。

「あははははッ」

 ギシリ、と奥歯を噛み締めるパールに代わり、ベール・ゼファーの笑声が上がった。

「見誤ったわねパール。人間ってぇのはしぶといの。そしてその中には、こーゆーどぉおっしょぉもないヴァカがいるものなのよ!」
 
 黒衣の魔王は、これ以上無いという程に愉し気に笑い転げて、

「さぁアゼル、反撃開始よ。声マネまでしてお膳立てした甲斐があったわ」

 生み落とした光を弾けさせた。

436 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:00:20 ID:zacxyLTB
支援が最強であることをここに証明する―――!

437 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:00:40 ID:fcvDFtH3
 万色が踊る。黒を背景(バック)に。
 ベルとアゼル。二柱の魔王はパール・クールを挟み移動する。必然的に戦場となる危険地帯も、場所を移してゆく。
 アゼルには、何処に向かうのかは解らない。ただ、そちらの方に生き物が居る事は解っていた。人にしては大きな力が二つ。人並みの力が二つ、そして消えそうなものが一つ。

 何をする心算か―――、アゼルには解らない。


438 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:03:23 ID:+obudFX1
 7

 岩が山が、建造物が、年月によって劣化する事を風化と呼ぶ。
 山は崩れ岩を生み出し、岩は砕けて砂になる。
 人の手になる建造物は、廃墟となって瓦礫と散り、最後は不毛の荒野と成る。其処に命が芽吹くか否かは、ソレこそ神のみぞ知る事だ。
 それは、数十年、数百年かかって行われる、雄大なる自然の御業。 
 必然。もしも己の目がおかしくなっていないのなら、自分たちを取り囲む光の壁の向うではそれだけの年数が過ぎ去っているという事になる。

「コレはやばいです!! コレが荒廃の力だって言うなら、想定をぶっちぎり過ぎてますよ!!」

 赤い方の杖が、焦燥感たっぷりに絶叫する。 
 そんなもんが絶叫する時点で、色々とぶっちぎっていると思うが、何しろ異世界の事に、深く突っ込むのは不毛なだけだ。

「………、なんだかよく解らないけど、随分不味い事になってる気がするって、ミサカはミサカは戦々恐々してみたり―――」

 打ち止め(ラストオーダー)の矮躯にしがみ付かれる。不安に震えるその手をしっかりと握り返して、その白く白く白い彼は、こういったことの専門であろう三人組に問いかける。

「いったい何が起こってンだよ」

 パステルピンクと藤紫の、二人の少女は杖を掲げて微動だにしない。彼には理解できないが、吹き荒れる力に対抗すべく結界を維持するだけで精一杯だからだ。
 答えたのは、赤い目に銀髪を二つに括った、血まみれのゴスロリ少女だった。

「アゼルたち―――。第八世界の魔王たちの戦闘領域がこっちに移動してきているであります。
 このままだとまずいでありますよ」
「………。魔王だァ?」 
「信じられないかもしれないでありましょうが、事実であります。
 何とかイリヤたちの結界で荒廃の力の影響を遮っているでありますが、それだけであります」
 
 このままでは、戦う事は愚か逃げる事もままならない。と、その、ノーチェと呼ばれていた少女は言った。
 しばらく沈黙して、その白い少年は忌々しげに舌を鳴らした。

「要はその魔王とか言うのをブチ殺しゃあ良いンだろォが」

 首のチョーカーに付けている、MP3プレイヤーらしき物―――チョーカー型電極のスイッチに手をかけて、

「ダメであります。
 恐らく、アナタの能力(スキル)が通用するような相手ではないでありますから」
「………ああァ?」 

 少年の三白眼が更に吊りあがった。
 
「彼女の能力は、ベクトルが如何とかそういった次元のものではないでありますゆえ。
 勿論銃など効きませんし、そもそも貴方のようなヒョーロク玉は、この結界から外に出た瞬間消えて無くなるでありますよ」
「…………テメェな―――」

 白い少年は、言い返そうとして、止めた。自分が同年代の標準に比べて、生白いもやしっ子であるのは紛れも無い事実。
 そして外では、時間が加速しているのか、それに準ずるとんでもない何かが起こっている。ベクトル云々で収まる話では、確かに無さそうだ。
 そういった不確定なナニカを演算に代入する事も出来なくは無いが―――、正直、今此処でアレを使って、打ち止め達を巻き込まない自信も無い。

439 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:03:47 ID:77nCgbmW
さぁさぁ支援も面白くなってきやがったってんですよ、支援っ!

440 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:06:08 ID:+obudFX1
「………。じゃあどォすンだよ?」
「ソレが考え付かないから、困っているでありますよ」

「………。一つだけ、思いついたことがある―――」

 ポツリと、呟くように藤紫の少女が言葉を発した。

「ですが美遊様、その手段で離脱できるのは二人が限度です。それも安全性は保障できませんし、その上、次の機会が何時になるか―――」 

 彼女が手にした青い杖が懸念を述べる。

「でも、その方法しかないと思う」

 パステルピンクの少女が言う。

「私たちならある程度まで大丈夫だけど、打ち止め(ラストオーダー)たちはソレこそ命に関わっちゃうでしょ? だったら―――」
「オイ、執行委員。テメェら一体何しようってンだ?」

 嫌なモノを感じ取った少年の言葉に、イリヤと呼ばれた少女が振り向いた。

「これから、学園都市の外に転送するわ」
「………オイ、ちょっとマテ」
「結界を維持しながらだと人数は多分、貴方と打ち止め(ラストオーダー)の二人が限度だと思う。
 それでも、幾らか結界強度が下がっちゃうから、下手したらそのまま結構吸われちゃうかもしれないけど、このまま此処でジリ貧になってるよりは、きっとマシじゃないかな?」
「で、でもでも、それだとイリヤたちはどうなるのってミサカはミサカは泣きそうになりながら尋ねてみる!」
「私たちは―――、執行委員だから。
 まぁ………、機会を見て逃げ出すよ」

 鮮やかな紅に輝く瞳で、白い少女は苦笑った。

「ノーチェ、術式の設計をお願い。
 美遊、式が出来次第、魔力の充填を始めるよ!」

 了解。と、二人分の声がそろう。動き出した三人を見て、打ち止めは悲痛な声をあげたが、それでも三人は止らない
 ぐずる少女を、少年は抱きしめる。
 彼の優先順位は明確だ。だから、

「………。死ぬンじゃねェぞ」

 そんな、自分でもらしくないと思う言葉を告げていた。


441 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:09:02 ID:77nCgbmW
おねえさんってば、もっと熱くもっとじっとりとドキドキしちゃうくらいの支援をしたくなっちゃったのよね

442 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:09:11 ID:+obudFX1
 8  
 
 亡びの風が吹き荒れる。
 この街を壊すのはコレで二度目。第六学区を廃墟にしたのはほんの数時間前のこと。だからといって気分の良いものでは無い。
 けれど、ここでパール・クールは斃さなくては成らない。
 彼女の跳梁を許せば、これ以上の被害がでるのは解りきっているのだから。
 優先順位を間違えるな。感傷に浸っているヒマは無い。
 上条当麻は戦っている。アゼル・イヴリスを信じて。ならば、負ける事なんて出来るものか。

 交錯する、三巴の力。

(アゼル!! アタシの攻撃から二秒遅れて攻撃! 九時方向に退避後、もう一発ぶちかましなさい!!)

 ベルの指示は適確だ。
 手数で撹乱し、不意討ちで気を逸らし、隔絶したプラーナ出力を誇るパール・クールに食い下がっている。
 ただ一つ、気になるのは―――

 蝿の女王が誘導しようとする先にある、大きな魔力反応。
 此処まで近づいてしまえばかなり、忌まわしき荒廃の力の影響を受けているだろう。このまま行けば、下手をすれば食い殺してしまいかねない。

 だが―――、迷うヒマは無い。

 アゼル・イヴリスよりパール・クールのほうが強いのだ。戦闘経験豊富なベルのサポート無しでは、とっくの昔に斃されている。
 迅速、そして適確に、その指示を実行する。
 心の奥に、小さな恐れを抱いて。

―――そしてその恐れは、現実となる。

 小さな光のドームが其処には在った。
 人が五人ばかり、身を寄せる程度の大きさで、けれど恐ろしいほどの魔力(チカラ)をつぎ込んだ、魔力結界。
 芳醇で重厚な、侵魔の『食欲』をこれ以上ないほど刺激する濃厚な魔力。

 一瞬の事だ。けれども呆然と自分を見失った。
 プラーナを求めるのは侵魔の本能。常に満たされる事のない飢餓が、首をもたげた。
 その一瞬。たかが一瞬で、されど一瞬。
 それだけの隙があれば、パール・クールが致命傷を与えるのに、十分な隙。

「アゼルッ!!」

 びしゃり。と、温かい何かが飛び散った。

 何が起こったのかもわからず、アゼルは全身を赤く染め上げる。
 赤く染まった視界の中で、糸の切れた人形の様に崩れ落ちる影。

「ベルッ!!!!!」

 アゼル・イヴリスを庇って、腹に大穴を空けた黒衣のベール・ゼファーは、アゼルの腕に倒れこむ。
 斃れた魔王に、パール・クールが爆笑を贈った。

「あははっあはははっあ〜っはっはっはっはっはっ!!!
 なにそれ、飼い犬庇ってやられちゃうなんて、ちょっとベルゥ、幾らなんでも嗤かしすぎよぉ!!!!!」

443 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:12:11 ID:+obudFX1
 その嘲弄すら、アゼルの耳には届かない。

「………嘘―――。 ベル。ねぇ、ベルってば!!」

 ベール・ゼファーの生命力は強大だ。
 今まで幾度と無くウィザードに撃退され、それでもその度に復活してきた。今回だって大した事は無い。ない筈だ。

―――ソレはただの願望だと、解っている。

 高山外套を纏った少女の姿であるのなら兎も角、黒のドレスを身に着けた、本来の蝿の女王としての能力を使えるようにした形態で、ベール・ゼファーが斃された事はない。
 亡びる事は無いだろう。しかし、弱体化は、きっと免れない。

「……。アゼル……」
「ベルっ!」

 唇を割るのは、力なく掠れた声。
 今際の際の断末魔のように、蝿の女王は言った。

「……、喰いなさい」

 ベール・ゼファーだったものが、プラーナに分解され、アゼルに吸収される。
 彼女のプラーナが告げた。
 喰いなさい。
 それは、蝿の女王の残骸だけでなく―――。

「……………。」

 輝ける、黄金の魔力結界をも。
 そのために、私が呼び寄せたのだと。
 愕然と、アゼル・イヴリスは結界を見つめる。

「何が、起こってるの?」

 その内側で、イリヤスフィールは、ポツリと呟いた。
 目の前に居るのは、第六学区を破壊したという、魔王アゼル・イヴリス。そして、ソレを攻撃したのは、パール・クールで、庇って消滅したのがベール・ゼファー。
 すべて資料(データ)で見た顔だった。
 けれども、目前で起こった事態に、頭がついていかない。ただ、かなりの危機に直面しているのだろうという事だけは、理解できる。
 
「何かこっち見てますよ!?!」

 手にした赤い杖(カレイドステッキ)の精霊、マジカルルビーが悲鳴をあげる。
 威力を増した荒廃の力に、結界維持の負荷は増大し、そのまま術者であるイリヤと美遊に圧し掛かっている。
 その発生源であるアゼル・イヴリスに、これ以上近づかれれば、結界ごと、丸ごと削り取られかねない。
 
「サファイア! 転送魔法発動まで後何秒!?」

 その手の青い杖(カレイドステッキ)に、美遊は声を荒げる。

「ダメです!! 結界維持に手一杯でそちらに魔力をまわせません!!」

 冷静沈着な杖の精霊(マジカルサファイア)らしくも無く、悲鳴のように返答した。
 吹き荒れる死の風の中、結界越しにイリヤとアゼルの視線が交錯する。
 その、ダークゴールドの瞳を見つめ、イリヤは奇妙な感覚に囚われた。

444 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:14:09 ID:77nCgbmW
あらあらあらあら。たまたま居合わせたところ大変そうでございますね、支援でございますよ。

445 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:15:16 ID:+obudFX1
(………泣いてる?)

 その瞳には、悲しみと、苦しみの色。
 結界の外で、パール・クールはアゼルに告げた。

「別に、ソイツらを食ってもいいのよアゼル・イヴリス。
 その二本の杖は面白そうだし、上手く使えば私を斃せるかもね?
 それとも、なにか逆転の案でも思いついてみせる? 望めば手に入るのがココでしょう?」

 ビクリ。と、持ち主の手の中で身を強張らせる二本の杖(カレイドステッキ)。
 強大な力。荒廃の力の処理能力を超える魔力は、二人の年端も行かぬ少女が手にする二振りの杖から発せられている。
 恐らくは無限の力を供給する、ソレを使えば、アゼル・イヴリスはパール・クールに並ぶだろう。
 荒廃の魔王は、哀しげに微笑んで―――

「……。――――ぃ、ベル………」

 ボロボロになった魔殺の帯を、再び纏った。

『え?』
 
 荒れ狂っていた死の風が、目に見えて落ち着く。
 上がった驚きは誰のものか、数種類の驚愕が場に生れ落ちる。

「逃げて!!」

 アゼルは叫び、そしてパールと相対する。

「逃げなさい!! 早く!!」
「イリヤ!! 魔力を!!」

 美遊の声に正気に返った。
 今ならば、余剰魔力を転送魔法に充てられる。

『開け、シュバインオーグ!!
 我は我の望む場所へ! 我は我の望む法を!
 Sesam, offne dich――――!!!!!』

 今度こそ、イリヤと美遊の声が共鳴し、少年と少女の姿が掻き消える。
 結界の内側に残っているのは、三人にまで減っていた。

「………如何言う心算?」

 平坦な声が、かえって荒れ狂う怒りを感じさせた。
 眦を吊り上げて、パール・クールはアゼルを見据える。
 
「アンタまさか、今のままでこのアタシに勝てるつもりなの?」

 荒廃の魔王は黙して語らず、その仕草こそ、雄弁な肯定とパールは受け取った。

「そう。
 よぉっく解ったわ。アンタ、アタシを舐めてるのね―――」

 巨大な力に背を向けて、人間如きを逃がす為に力を抑える。
 そして、ベール・ゼファーはもう居ない。だというのに―――。
 その所業に、パール・クールはプライドを傷付けられ、頭に完全に血を上らせた。
 
「いいわ。その代償、しっかりと払ってもらうから」

446 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:18:07 ID:+obudFX1
 据わりきった目でアゼルを見つめる。
 そして、

 真夏の陽光を、数千倍に拡大したかのような熱が、世界を焼いた。

 結界の中で、イリヤスフィールはひりつくような痛みを覚える。
 逃亡する為の施術(プロセス)をキャンセルして、その力を防御に回してなお、その熱はソレを突破した。
 冷たい汗が背筋を伝う。
 今の攻撃の矛先は、如何してか立ち塞がるアッシュブロンドの魔王に―――ではなく、自分たちに向いていたのだと、―――理解した。

「アンタは滅ぼす。必ず滅ぼす。
 けどその前に、あんたが護ろうとしたものすべて、ぶち壊してやる」

 東方王国の王女は、酷薄に告げた。


447 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:19:25 ID:77nCgbmW
俺って支援者なんだにゃー。

448 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:20:20 ID:SNmt9uHH
しえーん

449 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:21:08 ID:+obudFX1
 9

 鋭い、金属を打ち合わせる音が、耳から脳に突き刺さる。
 ふらふらと、足元が覚束ない。
 巨腕の怪力で締め付けられ、更にカクテルよろしく身体ごと脳髄をかき回され、その上で壁に激突したダメージは、決して小さくはなかった。
 折れていた肋骨が、何処かに刺さったのか。ぶちまけた胃の中身は赤く色付いていて、右手の傷からもとめどなく血が流れ出す。
 痛みは無い―――と、言うより解らない。
 多分痛覚が麻痺しているんだろう。と、勝手に思っておく。
 それでも、立ち上がれるのなら、立ち向かわないと。

 鈍った頭には、けれど食料発言からこっち、怒りで逆流する血液も同時に鈍っていて、少々冷静になった上条当麻は、戦場を眺めやる。
 剣戟が奏でられるのは、『旗』の周囲。体育館並みのこの部屋の、中央のあたり。
 軽やかに、しかしその斬撃は鋭く。空に文目を刻む魔剣の斬撃を、ローズ・ビフロは再び死者の軍団を盾にして、しのぐ。
 なんとかの一つ覚えのように、一番有効であろう数の暴力で対抗していた。
 御坂美琴の雷光が閃き、所狭しと振り抜かれる大剣(ほうき)は、物も者も、立ちふさがるすべてを切り捨て魔王に迫るが、届きはしない。
 此度、呼び出される軍勢は先だっての倍以上。
 あと少し、足りないのだ。
 本当に少し。今も、ほら、柊の魔剣は魔王を掠めて、少量の出血を強いている。
 けれど、その少しを埋められなければ、恐らくは魔王の勝利で閉められるであろう持久戦。
 ぼやける頭の回転数はまだ上がらず、上条は戦場を見つめていた。

 ローズ・ビフロ自身を倒す必要は無い。何より優先するべきなのは魔導具『東方王国旗』の破壊。柊が戦っている間に、出し抜いて破戒できるかどうか。

「………。」

 不可能だ。
 其処を抜けようとすれば、再びローズは此方を攻撃してくるだろうし、その時、対抗手段は無い。

 『旗』を破戒しようと思えば、まず、番人たる魔王を斃す他ない―――。

 ふと、違和感が走った。

「何で立ち上がってんのよアンタはっ!!」

 柊蓮司を援護しながら、部屋をぐるりと廻って美琴が駆け寄ってきた。

「ちょっと、聞いてんの!?」
「………。御坂?」

 まだ、頭が働いていない。御坂美琴が泣きそうな顔で此方の顔を覗き込んでいるように見える。きっと錯覚だろうけど。

「そうよ!! 誰か他の人にでも見えるって言うの!?」

 掴み掛からん程に加熱している御坂はどう見たって激昂している。それで居ながら、迸る雷光は的確に死者の軍団を薙ぎ払っている。
 やっぱり、泣きそうに見えたのは間違いのようだ。

「御坂」
「何よ?」

 荒い息の下から、上条は言う。

450 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:22:19 ID:77nCgbmW
あぁめんどくさい。エリス、支援よ。蹴散らしやがれ!

451 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:24:06 ID:+obudFX1
「響くから、声のトーン下げて……」
「っっっっっっっっっっ!!!!!」

 爆発しそうになって、しかし上条がぼろぼろである事に思い当たって、美琴は怒声を噛殺す。
 尤も、次ナニカ変な事を言った場合にはその限りでない。と、心のどこかで悟っていた。

「兎に角、アンタは下がってなさい。
 私と柊で、此処は何とかするから!!」

 懇願するように、美琴は言う。
 脳裏に過ぎる、過ぎし日の光景。


―――まるで氷の海に浸かっていたかのように青ざめた顔。
   体中に巻かれた包帯は無理な運動のせいか所々ずれていて、赤いものが滲んでいる箇所すらあった。
   引き千切ったような電極を貼り付け、一歩進むのにすら全力を尽くし、それでも誰にも助けを求めない。
   誰にも話していないのだから、誰にも心配などかけないのだし、だから誰にも助けて貰えないのは当然で。
   だから、誰一人として巻き込むことはない。

 そんな事を考えている彼が、美琴にはどうしようもなく頭に来た。
 

 かつて、御坂美琴は上条当麻に救われた。
 それはデリカシーの無い、心に土足で上がりこむような、強引で力任せな方法で。
 それでも間違いなく、御坂美琴は救われたのだ。
 ならば、どうしてその同じ方法で、彼が救われてはいけないと言う法がある。一体何処の誰が、上条当麻が救われてはいけないと言うのか。

「―――私、前言ったわよね。
 私だって戦えるって、私だって力に成れるって―――、」

 だから、だからだから!!

「なぁ、美琴」
「何よ!?」
「だったら…………。
 危険だけど。―――幾つか、頼んでいいか?」


 八双よりの袈裟懸けで二体の死者を斬る。 一体の死者を斜めに両断し、もう一体の足を破壊し、戦闘不能。
 左の脇に腰だめにした魔剣を、右足を引いて右前方に横一閃。 斬撃を回避し、三体を腰から両断。これで五体。
 右脇から左上へ。腰のバネ、遠心力を動力に薙ぎ上げる。 バックステップを踏んで回避される。撃破数、ゼロ。
 顔の横に構えた魔剣を突き出す。 体重移動と箒の推進力で加速突撃。壁となる数体の(残りの)死者を吹き飛ばし、切先が魔王に迫る。

 脳に響く怪音を発てて、魔剣は魔王の障壁(魔法)に受け止められた。

 寸秒入れず。掲げられた魔王の掌に、魔力の輝きを見てやって、柊蓮司は魔剣を引き戻す。
 その隙に、攻撃魔法が発動。柊は<御法剣>で、攻性魔力を斬り捨てる。
 そして間髪入れずに反撃。二メートル超の刃は、襲い掛かってきた死者を障害物(ソファー)ごと両断し、魔王の胴を掠めた。

 散る赤血の飛沫に、違和感を覚える。

452 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:24:58 ID:77nCgbmW
我ら天草式十字凄教。これより女教皇様と共に『あの少年』の支援に向かうのよな!

453 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:25:52 ID:SNmt9uHH
>450
思わず黒エリス(中の人Wii)の方のAA張りたくなったじゃないかw
容量食うからやらないけど!

支援

454 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:27:07 ID:+obudFX1
 今のタイミングなら、間違いなく避けられていた筈だ。そもそも、今の一閃は魔王に対しては、牽制以上である心算はなかった。
 思えば、ローズ・ビフロのその身体に、柊の刃が届く時はすべてこんな様子。
 魔王は何かに気をとられたかのように、その動きを止め、魔剣によって出血する。
 あそこまでの隙を見せて、浅く薙がれるに留まっているのは、流石と言う他ないが、幾らなんでも不自然だ。

(不自然といえば―――)

 新たに具現化した死者の攻撃を、下がりながら魔剣で受けて、柊は思考を回転させる。
 その瞳が写すのは、『旗』の周囲。白虎の敷布とその周りのソファー。黒革の、恐らくは牛革製の豪華さに比例する堅牢さを備えた高級ソファー。
 先ほど、魔剣で死者ごと両断した筈の障害物(インテリア)は、何事も無かったかのように鎮座している。
 見た目、高級ソファーとは言え、月匣の一部なのだろう。常識で計るのはきっと無駄だ。
 だが、ナニカが引っかかる。
 他人の月匣だからだろうか、巨腕といい鉤縄といい、ローズ・ビフロが月匣の一部を変形させる際には少々の集中が必要なようだ。
 もしもの話である。もしもその集中と、先ほどの隙が同じものだとしたら? 
 月匣の変形は、つまり修復で、斬られてまで護らなければならないものとは?
 その答えを導き出したのは、柊ではなかった。

「柊さんッ!!」 

 壁際から上条が叫ぶ。

「この部屋全部ぶっ飛ばしてくれ!! この部屋自体が回路だ!!」

 回路。
 あらゆる世界から集めたプラーナを、パール・クールに一番馴染むように作り変える魔術的濾過回路。
 柊は、ローズの貌を見た。
 上条の絶叫を、何より雄弁に肯定していたのは、よりにもよって、ただの一般人に見破られた事に、驚愕する番人(ローズ)自身だった。


455 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:28:44 ID:77nCgbmW
>>453
黒子以降は全員魔術サイド。ここに割って入れない人々による支援効果を狙っています。
シェリーはエリス言わせないと誰かわからんねん。

そして支援。

456 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:33:13 ID:GMeAhyzV
 10

 言葉になんかならない。
 それでも、それ以外考えられなかった。
 とても不合理で、不条理。そんなことをする、自分の思考回路に疑問を抱く。
 背後には、三人の少女。そのうち一人の顔は知っている。少し前、自分では無い自分が知り合った友達だ。
 あとの二人は、顔も知らない。会った事も無い他人だというのに。
 ベルが用意してくれた、逆転の手だったというのに。

 自らの背に庇うように―――、否。事実庇って、アゼル・イヴリスはパール・クールの猛攻を耐える。

「ほらほら、如何したの? 急いで護らないとあいつら死んじゃうわよ?」

 パールは愉しげに嗤う。
 煉獄をも凍りつかせるほどの怒気は、アゼルを嬲る嗜虐に溶かされ鳴りを潜めている。尤もソレが、誰の救いになるわけでは無いが。
 瀑布のように光(ちから)の洪水が放たれ、名も知らぬ少女たちに襲い掛かる。その間にアゼルが割って入るが、作り出した防御壁は焼け石に水ほどの役にも立っていない。
 その膨大な攻撃力は、アゼルを翻弄し蹂躙する。

 唇を割る荒い息。
 呼吸を整えるヒマすらない。
 迫る複数の光球。一つ一つが街の一区画は吹き飛ばせるであろう威力を秘めた攻撃魔法。
 我先にと争い群がって、輝く防御結界を打ち抜こうとする姿は、餌に群がる肉食魚を連想させる。
 その群に追いすがり、アゼルは一つ一つ破壊してゆく。
 血の弾丸で打ち砕き、腕に仕込まれた剣で切り裂いて、

 けれど、壊しきれない。

 アゼルは、魔力で造った障壁(カベ)と、盾に変形した腕で、受け止める。
 群れる魔力弾は、障壁を打ち抜き盾を砕く。
 
 腕の肉は半分ほど焼け焦げて、残りの魔弾が少女たちの結界に迫る。
 力を振り絞って、防ぎに入る。盾にしたのはその身体。 

 豊満な胸が、なだらかな腹が、引き締まった腰が、肉付きのいい腿が、魔弾に喰いつかれ無残な傷口を曝した。

「―――――っ!!」

 悲鳴は挙がらない。代わりに血を盛大に吐き出した。
 白い身体が、赤黒く汚れる。 

 激痛を原動力に変えて、魔力を解き放つ。
 反撃の暇も与えず、手数を重ねる。

「鬱陶しいッ!!」

 けれど、何の動作もなくパールが放った気だけで、吹き散らされた。
 
 そして、パールの反撃。
 少女たちの結界に累を及ぼさぬように、アゼルはその身で受けるほかなく―――。

457 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:35:31 ID:SNmt9uHH
>>455
まああのライオンさんはなーw


  .,r''"゙ヽ, ヽ, ヽ, ,j"<ヒーラギセンパーイ,シエンデスヨー
  !∩  i,  i ,イ
  i∪  丿 ,ノ

458 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:36:06 ID:GMeAhyzV
 見る間もなく、荒廃の魔王は追い詰められていた。
 裏界の本体から力を供給し、傷は修復できる。だからこそ、今でも、まだカタチを保っていられる。
 それでも後幾度、アゼルは少女たちを庇いきれるだろうか。
 彼女たちは、強固な結界を張っているとは言え、今のパール・クールを相手にすれば、そう長くは持たない。
 ここでアゼルが斃れれば、間違いなく彼女らは殺される。

(それは、イヤだ)

 自問に自答は、衝動の様に即答の速さを誇った。

「惨めね。アゼル・イヴリス。
 そして哀れよ」

 可哀想、カワイソウ。と、東方王国の王女は嘲弄する。

「いまさら一人二人護ったところで何になるの?
 アンタの居場所は、もう此処には無い。人間があんたを許すと思ってるのかしら?」

 パールの言葉はいちいち胸を抉る。

 一万人を殺した。街を此処まで破壊した。
 もう、私は此処には居られない。そんなこと、誰も許さない。
 人殺しの怪物は、人間の傍にはいられない
 
 解っている。

 ベルは、私のために彼女らを呼び寄せた。
 何をしたのかは解らない。けれど、彼女たちの力を手に入れれば、確かに勝てるだろう。
 その、唯一の勝算を、ベルの末期の言葉を、自分でも解らない衝動(ワガママ)で無駄にした。

 そんなこと判っている。

 それでも、護りたかったんだ。
 この世界が好きだから。
 この夢のような世界が、此処に住む人たちが、

 けれど―――。けれど、そう思っているのならば、背に守る少女たちは一体何なのか。

 この世界を守りたいのなら、何としてでもパール・クールはここで斃す他ない。
 彼女の好きにさせれば、この世界は人の住まう世界ではなくなってしまう。
 だったら、幾らかの犠牲を出してたとしても―――。

「けれど、私は―――、」

 首を振る。縦ではなく横に。
 言葉に出来るほど、磨かれたわけじゃない。だから、この想いは言葉にならない。
 それは、この数時間一緒に居ただけの少年の面影で、全てを知っても私の味方で居てくれた彼の姿。
 ただ、この少女たちを死なせてはならないと、身体の奥で何かが叫ぶのだ。

「だから、退けない―――。退かない!!」

「いやな目―――。ムカつくわ」

 パールの手に魔力の輝きが燈る。
 その光は、間髪を置かずに数百倍に膨張し、直視できないほどの輝きに成長した。
 判る。
 この光は、荒廃の力無しでは受けきれない。しかし、荒廃の力を解放すれば―――、

459 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:36:17 ID:77nCgbmW
支援の弦。

460 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:40:08 ID:GMeAhyzV
「これで、終わり。アンタは何も護れない
 安心しなさい? この世界は、私が有効利用してあげる」
 
 お前には力がない。力が在っても、使いこなせなければ意味がない。

 パール・クールは、その巨大な光球を解放する。
 それは着弾と同時に魔力を炸裂させ、人間の単位で数キロを抉り取るだろう。

 防御も回避も何も無い、絶対的で圧倒的な力。

 アゼル・イヴリスは、パールが放った破壊をもたらす魔力を凝視する。 
 目算――。着弾、そして破壊の炸裂まで、凡そ三秒。

 そうして、死の力が解放された。


461 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:40:25 ID:77nCgbmW
し、シスタールチア。私たちものすごく浮いてませんか……?
シスターアンジェレネ。そんな心配をする暇があるのならまず支援をなさい支援を。

462 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:42:25 ID:GMeAhyzV
 11

 違和感はあった。
 頭に血を上らせて、殴りかかっていた時はわからなかったが、ローズ・ビフロが柊蓮司に斬られる時は、決まって部屋の何かが壊れた時だった。
 頭を巡らせば、色とりどりの壺があらゆる統一性を無視して棚に収められている。其処に向かって己を拘束していた巨腕の破片が突っ込んだというのに。

 上条は、回転を取り戻してきた頭で考える。

 『直した』のだろう。
 柊に斬られる危険を冒してまで。

 ソレは何故か。つまり、其処まで大切なモノがこの部屋には在ったという事だ。
 勿論、ソレは『回路』だろう。ソレがなければ、パール・クールに供給される力は、反して彼女を傷つける猛毒に変質する。
 けれど、この部屋のインテリアは、異様とは言えあくまで一般的なものばかり。
 もし仮に、この部屋の何処かに『回路』が存在するとして、そんなものが魔術的な仕掛け足り得るのだろうか?

 足り得る。

 そのことを、上条当麻は知っていた。
 陰陽師をやっている隣人から聞いた話だが、風水という魔術の一教科は、家の間取りや家具の配置などで、魔術的な陣(しかけ)を造り上げるという。
 また、天草式十字凄教という隠れ切支丹を母体とする魔術結社は偽装と隠匿に長け、日常生活の中に潜む宗教的儀式を抽出して魔術を編んでいた。
 そういった小さな事は、意外と馬鹿に出来ない。
 なにしろ、その辺のサラリーマンが自分の家にテキトーに置いたインテリアやお守りが原因で、全世界の人間の中身が入れ替わったりもするのだから。
 
 だから、此処にあるものは―――

「この部屋全部ぶっ飛ばしてくれ!! この部屋自体が『回路』だ!!」

 上条の絶叫を聞いて、ローズ・ビフロはマトモに顔色を変えた。
 その表情(カオ)は克明に、「どうして貴方如きが見破ったのです!?」と叫んでいた。

 それだけで十分。
 柊は、刃を合わせていた死者を斬り捨てると、大きく跳んで後退する。
 
 追撃し、地を駆ける死者の群を睨みつけ、魔剣を高々と掲げた。
 刃が嘶く。
 主の命を喰らい、歓喜の声をあげる魔の剣を―――、

「喰らえッ!!!」

 気を吐いて振り下ろす!
 大振りの一閃は、死者の兵に軽々と避けられ、避けた死者は柊を串刺そうと間合いをつめる。

 鋭い刃が肉を貫く。
 ローズ・ビフロが作り上げた、仮初の肉体を。

 血を撒き散らす、ヒトガタの存在。
 虚空より現れた、幾本もの刃を突き立てられて。

 空を切った魔剣が斬り裂いたのは、正しく空間そのもの。
 斬撃の軌跡が伸び広がり、開かれた虚空の門より顔を出したのは無数の剣、剣、剣。
 一億の原初を連れて、一億の終焉のために、一億の殺戮を伴い、一億の牙となって―――、
 ありとあらゆる世界の果てから、可能性の路を通り抜け、柊蓮司の武具達が呼び出される。

463 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:43:31 ID:77nCgbmW
支援である。

464 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:45:04 ID:GMeAhyzV
 即ち、<三千世界の剣>。

「―――いけぇええええええッ!!!!!!!」

 振り下ろした魔剣を突き出す。
 挙動に従い刀剣の群は渦を巻き、竜巻の様に蛇が如く、佇む獲物に牙を剥いた!

「くっ!!」

 驚愕の貌を焦燥に変え、魔王は光弾を撃ち放つ。
 死を呼ぶ光は逆巻く蛇と激突し―――。果たして、竜巻は変わらず死者を磨り潰して魔王に迫る。

「このッ!!」

 ローズは光弾を撃ったのとは逆の手を掲げ、其処に生んだ魔力の盾で、死者を食い尽くした魔剣の渦を受け止める―――、

 その刹那。柊は手にする魔剣を振り上げた。
 刃金の蛇は主に従い、盾を掠め天井に到達し、

「ハァッ!!!」

 万に弾け、億と散り、魔王の頭上から襲い掛かる!!
 そして、剣の雨がもたらす破壊は、ソレだけに留まらない。
 無数の剣。三千世界より召喚された一億の刃は、棚を砕き壺を潰し、ソファーを引き裂いて敷布を襤褸布に変え、広大なその部屋のすべてを打ち砕く!
 
 魔剣の雨が収まったときには―――、かつて、月匣の最深部だった場所には、乱立する刃の杜が生まれていた。


465 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 00:46:38 ID:77nCgbmW
規制を下位に、支援を上位に。

466 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:48:09 ID:GMeAhyzV
 12
 
 「これで、終わり。アンタは何も護れない。
 安心しなさい? この世界は、私が有効利用してあげる」

 ―――アゼル(わたし)にも、判る。
 この光は、荒廃の力無しでは受けきれない。しかし、荒廃の力を解放すれば―――、

 お前には力がない。力が在っても、使いこなせなければ意味がない。
 そんな風に、嘲う声が聞こえてくる。

 所詮、パール・クールにとって、このセカイはただの道具に過ぎない。
 使えるうちは活用するが、壊れたら捨てる程度の玩具と同じ。
 けれど、アゼルには違う。自覚して居ようと居よまいと、このセカイは、もう彼女の大半を占めていた。

 輝ける幻想(ユメ)が息づくこの場所は、決して失いたくない楽園。
 価値観は、意思は其処に在る。

 アゼル・イヴリスは、パールが放った破壊をもたらす魔力を凝視する。 

 絶望は無い。諦めはしない。
 戦う意思は十二分。
 けれど。

 目算――。着弾、そして破壊の炸裂まで、凡そ三秒。

三。

 けれど、護る為には力が要る。分かっていた。力なら在る。あの時、力を使うのを躊躇ったから、ベール・ゼファーは斃された。己の代わりに。

 ―――ソレも、解っている。

 この力を使いこなせなければ―――、私は何も護れない。

二。

 大丈夫、難しい筈は無い。
 もう思い出せないほど昔の事だが、何度も何度も試した事だ。
 力の名は『荒廃』。神の力、絶対死を呼ぶもの。
 ソレがどうした、発生したその瞬間から、私はこの力と向き合っている。
 今までは出来なかった。だから、あの荒野に引きこもる他無かった。
 けれど、今は違う。必ず出来る。

一。

 『道』は、何処にある。それは、意思あるところに。
 己が護りたいと願うなら、その望みは、結末に繋がるべくして繋がるのだ。
 ソレが『世界(ココ)』のルールなのだから。

 望むままに進め。認識を対象に合わすのでは無い、対象をこそ認識に従えるのだ。
 
 この幻想(ユメ)を―――護る。
 これから先、誰一人として受け入れてくれなくても、総ての人に拒絶されたとしても、

 たとえその先が、望む未来に繋がっていなかったとしても―――!!

 ゼロ。

467 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:51:06 ID:GMeAhyzV
 攻性魔力が炸裂する。
 そうして、死の力が解放された。


 結界を越えて。目の前のその光景を、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、呆然と眺めていた。
 それを見ていたという事は、少なくとも自分は無事で。脇目を振れば、相棒も同僚も五体満足でそこにいる。

 彼女たちもまた、壁の向うで起きた事実に、視線を釘付けられていた。

 爆煙が晴れる。
 建造物を打ち砕いた白い飛沫、粉塵の隙間より覗くのは、穢れ無き純白の色。
 雪のように、同色の欠片が空より舞い降りた。白い羽毛はまるで処女雪。
 ならば、目前に咲き誇る白は、雪に色を捧げた献身の花か。

 待雪草―――Snowdrop。

 春の到来を告げる、雪解けの雫。

―――怠惰なる眠りの冬は終わりを告げ、鮮やかなる芽吹きの春が到来する。

 白を背負う天使は、春風のように微笑む。

 さぁ―――、華の季節(トキ)だ。


468 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:54:28 ID:GMeAhyzV
 13

 あたり一面に、剣が立ち並んだ光景は壮観だ。
 その中心では、いまだ『旗』がはためいている。
 普段なら―――表界などで<三千世界の剣>を使ったりした場合は、呼び出された異世界の武具はすべて幻想へと割砕する所なのだが、今は、そんな些細な事より気になる事がある。
 
 杜の木々のように、剣が乱立するその中で、死霊女王は未だ健在である。
 表界では無い場所では、いくら雑魚魔王とはいえ、この程度では倒せないのか。

 纏う赤黒のドレスはズタズタに引き裂かれ、体に残った包帯は、血糊ではない本物の赤に塗れていたが、ローズ・ビフロは血で汚れた顔に笑みを貼り付けていた。
 狂笑。
 怒りの感情を、無理矢理笑みに押し込んだ、禍々しい笑みを。

「やってくれましたわね………」

 言葉を綴る声は、平坦に抑えられ、

「こうまで壊されてしまえば、もう、わたくしでは修復不能ですわ」

 もともと、他人の月匣を預かっていただけ。
 他人の、それも己より格上の世界を自由に操る事など、夢と現を支配する夢使いでも不可能だ。
 目的は達した。と、柊は口角を緩め、

「ですが、詰めが甘いですわね。柊蓮司、上条当麻。
 確かに回路の一つは壊されましたが、残念ながら、回路はこの一つだけでは在りません。
 大切なモノに、予備を用意するのは当然でしょう?」

 告げられた言葉が、ハッタリかどうか、確認する術は無い。
 だが、柊の直感は、それが真実だと告げていた。

「―――しかし、」

 魔王は、ついに笑みを落とし、表情が抜け落ちた貌で、柊と、そして上条を睨み付ける。

「わたくしの面目は丸つぶれですわ。
 ―――この責任、如何様に取っていただけるのかしら?」

 ぞくり。と背骨が震えた。
 魔王の肌に刻まれた魔装がこそげ落ち、新たな文様が浮かび上がる。
 ローズ・ビフロは、ゆるゆると魔術式の刻み直された腕を掲げる。

「とりあえず。
 死んで詫びなさい」

 柊は咄嗟にその場を横っ飛びに離れていた。
 煌く力が、一秒前まで立っていたところを爆砕する。
 その光景に、冷たい汗が一筋、背を伝った。
 明らかに攻撃力が上がっている。他人の月匣の管理に廻していた魔力を、恐らく攻撃に転用したのだろう。
 確証は無いが、わざわざそんな物を直に喰らって確かめたいとも思わない。

 柊は、魔剣を携え剣の杜を駆ける。

 やる事は変わらない。
 『旗』を壊すために、まずはコイツを排除しなければならない。

 自分の攻撃半径に敵を捉え、魔剣を振るう。
 ローズの肌蹴た包帯が、蛇の様にのたうち、魔剣を絡み取った。

469 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:57:08 ID:GMeAhyzV
「………、―――――。……!!」

 柊がその包帯を切り裂き、自由を回復する間に、ローズは、口の中で人の耳では聞き取れない呪を紡ぐ。
 
「!!」

 脊髄を串刺したような悪寒に、柊がその場を飛び退くのと、ローズの特殊能力が空間を握り潰すのは、同時だった。
 即座に、ローズは追撃をかける。 
 バックステップを踏んで着地した、その直後の硬直にあわせ、両手に抱いた魔力球を、時間差を付けて発射する。
 ウィザードは、一発目を、胴を掠めながらも回避し、二発目はかわせないと見たか、柄頭の刃で迎撃にかかる。
 
「■■■■■!!!」

 ローズが叫んだ。
 人の耳には、ただの音としか聞き取れない呪は、魔力弾の軌道を捻じ曲げる。迎撃を回避し、目を見開いた柊の頭を吹き飛ばさんと迫る魔力弾は、

 走った雷光に撃墜された。

「あ、当たった……」

 そんな芸を持っているのはただ一人。その当人、御坂美琴は幸運に感謝しつつ、幾条もの雷撃の槍を解き放つ。
 ローズは、自らに迫る雷撃だけを左手で薙ぎ散らし、援護砲撃をうけて再び間合いに踏込む柊の斬撃を、右手で逸らし、両の手で攻撃魔法を撃った。
 美琴は、慌てて転がるように煌く力を回避したが、柊の回避は間に合わない。魔剣で迎撃するにも軌道を逸らされた得物を構えなおすには時間が足りない。

 閃光が迸る。

 後ろに跳び退って、攻撃を回避する。
 そして、回避したローズは、爆煙の向うを睨み付けた。
 左手には、二メートル超の白兵箒。
 そして右手に、特殊能力<夢幻の煌めき>を叩き潰した日本刀だったものを握って、柊蓮司が、煙を割って現れた。

 鍔元に真紅の宝玉が嵌った日本刀―――別の可能性(セカイ)で、柊蓮司が握ったかもしれない魔剣の、その残骸を惜しむように彼は手放す。

 消える事のない、幻想の剣。
 幻とは言え、それは柊蓮司の魔剣に他ならず。
 それを手にした以上、彼はココの絡繰に気付いた筈だ。

 箒を右手に持ち替えて、左手で柊は再び突き立った剣を引き抜く。
 
 呼びかけたのは剣。語ったのは事実。その剣はすべて真実。
 認識によって揺らぐ迷宮の底。ここで起こる事象はすべて文脈依存を起す。
 三角は四角に、指輪は珈琲カップに。それが何であるかは、何に使うかによって定められる。
 そうでなければ、『回路』などという都合のいい『魔法』。喩えパール・クールであっても組み上げられない。

 故に―――、

 仮令、人間であれ。この場、この時であるならば、神にすらなれる。
 柊の魔剣として使われたモノは、望まれる限りそのままだ。

470 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 00:58:11 ID:GMeAhyzV
「いくぜ………!」

 低く告げ、二刀を構えた柊は、雷撃の援護を背負って突撃する。
 先手を打ったローズの攻撃魔法を、左手の剣で攻撃を捌き、右手の剣で切りかかる。
 踊るように繰り出される長短二刀の斬撃と、飛来する雷撃の槍は、魔王と言えど夢使いでは避け切れない。
 自然、強化された防御魔法で凌ぐ事になる。
 そして何より、

「封印、解放ッ!!」
 
 柊の吐く気合とともに、左手の魔器が唸りをあげた。
 魔器の能力を一時的に極限まで引き出して、斬撃の威力を引き上げる特殊能力(チカラ)は、代償として魔器を疲労状態に追い込み使用不能にする。
 しかし、
 左の斬撃に右の斬撃を重ね、防御障壁を削り、柊は左手の魔剣を手放して新たな剣をその手にした。
 即座に叫ぶ。

「封印、解放ッ!!」

 突き立つ剣は、すべて彼の魔剣。三千世界より集った一億の剣。
 この場、この時に限り、封印解放の代償は意味を成さない。
 二発目の封印解放を受けて、防御壁が大きく軋んだ。

 ローズは、追撃を避ける為に、大きく退く。

 その背後から近づく気配が在った。
 バックステップを踏んだローズは滞空中であり軌道の修正は出来ない。不意を討つ絶好のタイミングで、それは襲い掛かった。

 しかし、

「考えが足りませんわ、上条当麻!!」

 この不意討ちは簡単に予想できた。
 御坂美琴の傍に、上条当麻は居なかった。おそらくは剣の杜に身を潜め、機会をうかがっていたのだろう。

 何も無い空中で身を捻り、刃のように研ぎ澄ました魔力弾を発射する。
 それは襲撃者の首を刈る軌道。
 しかし、予想外の反応速度で回避行動に移った襲撃者は、髪の毛を数本、切り飛ばされるに留まった。
 亜麻色の髪の毛が、宙を舞う。

「なっ!?」

 その髪色を持っているのは、この場には一人しか居ない。

「考えが足りないのは、アンタの方よグロロリ女ッ!!」

 御坂美琴は、非常識な速さでローズに迫り、どかどかどかどかどん!! と、正中線に拳の連打を浴びせる。

(なぜ、この娘がココにいる!? 雷撃の援護砲撃は今も続いているというのに!?)

 衝撃と拳に帯びていた電撃の相乗効果で、ローズは一瞬、朦朧と忘我の淵を彷徨った。
 だが、間髪入れず、復帰し反撃する。
 閃く魔力の輝きを、やはり美琴は人間離れした反応速度で回避した。

471 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:00:30 ID:77nCgbmW
まったく、最悪の答えだ。支援を。

472 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:01:01 ID:Y6rrYgJ2
プログラム組んだかな?

473 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:01:02 ID:GMeAhyzV
 ぱりぱりっ。と、美琴の周囲で放電が起こる。
 彼女はニヤリと不敵な笑み浮かべる内心で、自分自身に感心していた。

(まさか、こんな漫画みたいなマネができるとは………)

 超反応の種は至って簡単。
 己が纏う電磁波の薄い膜、AIM拡散力場から電場を筋肉に直結し、外から直接動かす。
 敵の攻撃をAIM拡散力場が感じ取った瞬間には、無線のように筋肉に信号が送られ、その場を退避する。
 また、此方の意思は直接AIM拡散力場に反映され、神経を通さずそれを超える伝達速度で筋肉を動かす。
 そして、同時に行う雷撃の援護は、射線から発射地点を割り出せないように、大気中に作り上げたイオンの路を介しての中継射撃。

 普段なら、やろうとすら思わない荒唐無稽な荒業だ。

 この月匣に―――、否、白い世界にノーチェに送り込まれたときから、演算が楽になったことに加え、上条の頼みが無ければこんな事は絶対にやらない。
 射撃は兎も角、筋肉を能力で動かすのは後のダメージが怖すぎる。

 文脈依存。対象を認識に従えることは、学園都市の能力者には当然のこと。それも、最高位の電撃姫、超電磁砲(レールガン)御坂美琴には朝飯前だ。
 この場、この時に限り、彼女は超能力者(レベル5)を超越する。
 
 身構える美琴を睨み、しかし、ローズは泡を食って視線を巡らせた。
 その隙に、柊と美琴が迫り来るが、そんなことより上条の所在の方が重要だ。
 三人の敵の中で、唯一。旗を壊せるのは上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)のみ。
 
 ならば―――、

 巡らせる視界の中で、動く影を捉えた。

 這うように低く、刃の杜に潜むように、上条当麻は剣の只中を駆け抜ける。子供の背丈ほどある大剣を飛び越え、その先には『旗』。
 幻想殺しに触れれば、幾らパール・クールの道具とは言え、

「させません!!」
『こっちの科白だ(よ)! それは!!』

 上条の狙いに気付いたローズが、攻撃魔法を放つ。
 寸秒遅れて、柊の魔剣と美琴の手刀がローズの腕を切り落とした。
 しかし、すでに発動している魔法攻撃は、過たず上条へと奔った。
 迫る魔弾。足を止めて右手を出す前に、攻撃が届くだろう。
 破壊の魔力に肉迫され、けれど、上条は足を止めない。

(逃げ切れると思うの?)

 嗜虐を込めて嘲笑するローズの視線の先で、

 ―――爆光が、視界を染め上げた。


474 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:03:14 ID:GMeAhyzV
 14

 大地は死と再生の母体であるが故に、
 母なる女神は生の女神であると同時に、
 死者を受け入れる死の女神でもある。

 マグナマーテル・デオールムイダエア。

 ―――それは『大地母神』シャイマールの、負の側面。


「ちょっと―――、そんなのアリ!?」 

 榴弾のように撒き散らされた破壊の魔力は、周囲数十メートルを蹂躙し、範囲内の全てを焼き払う筈だった。
 けれど、その破壊力は別のナニカに食い尽くされ、虚空に消え去る。
 そんなものは、一つしかない。

 荒廃の力。
 アゼル・イヴリスが持つ死を呼ぶ力。

 けれど、近くには三人ばかりの人間が居た筈だ。
 護る事をあきらめたのか。と、思えばアゼルの後には、煌々と輝く魔力結界が健在だ。
 けれど、今も現実に、死の風は虞風となって吹き荒れている。

 それに、何より。

 パール・クールが凝視するのは、穢れ無き灰のような白い雪―――純白の羽毛が舞上がる只中に佇む、アゼル・イヴリス。

「――――アンタ、『それ』は、何なのよ」

 肌蹴る魔殺の帯は風に舞い、黒い炎のように揺らめく。
 力強い輝きを宿した瞳は、東方王国の王女を正面から捉え、

 その背に広がる三対六枚の白き翼が揺れる。

「なにそれっ、いつの間に使徒に鞍替えし――――っ!!!!」

 軽口を皆まで言わせず、六枚の翼がパールを指し示す。
 背筋を駆け抜ける悪寒に、パールはその場を離脱する。

 しかし、音もなく、右の腕が消滅した。

「なっ!?」

 今度こそ、驚愕の一色に表情が塗り替えられた。
 即座に修復したが、この症状は、紛れもなく荒廃の力を受けたものだ。
 プラーナを根こそぎ奪われ、最初から存在しなかったように消し飛ばされる。

「如何言うことよ……」

 自問して歯噛みする。
 如何言う事もこういう事もない。
 無限の力を供給され、膨大な力を纏うこの身体まで一時に喰い付かれた。
 それは、

―――アゼル・イヴリスが、荒廃の力を使いこなした。

 そうとしか、この現象は説明できない。

475 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:03:18 ID:77nCgbmW
そいつの右手は幻想殺しといってね。支援。

476 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:05:09 ID:oEm27xB1
ここからフルボッコタイムか支援

477 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:06:07 ID:GMeAhyzV
 アゼルの背に現れた六枚の翼。
 その外見に意味は無い。重要なのはその機能。
 それは、最初(はじめ)に喰らった、一万人の、このセカイのプラーナで造り上げた力。人(神)造人間アゼル・イヴリスの新たな機能。
 無秩序にプラーナを収奪する荒廃の力に、標的のみに効果を及ぼす様、調整する為の器官。
 一時に喰らう事が可能なプラーナの総量が上がったわけでは無い。しかし、標的のみ力に捉える事で能力の無駄は減り、結果的に処理能力が上昇する。

 何より、荒廃の力を使いこなすという事は―――、
 ―――『破壊神』シャイマールの再臨に、他ならない。

 知らず。パール・クールは後ずさり、そんな自分に愕然とする。
 裏界帝国に正面から喧嘩を売っている身であっても、『破壊神』の名は軽々しく扱えるものでは無い。
 判ってはいるが、それは別にして、ほんの少しでも怖気を覚えたなど、矜持が許さない。

 アゼルは薄く笑った。

「何に怯えるの? パール・クール。
 所詮この翼(チカラ)は、この場を限りに造り上げた仮初の機能(チカラ)。
 このユメが醒めれば、彼岸の彼方に葬られる幻に過ぎない」

 所詮、このユメのような世界でのみ許される幻想(チカラ)。
 『破壊神』の再臨など、喩えるのもおこがましい。

「それでも、貴女と私の間にあった溝を、埋めるぐらいは出来たかもしれないわね。
 ……。それに―――」

 それを侮辱ととったか、パールの頬が怒りの紅を宿す。

 怒声と共に、魔力を破壊の意思に従えて撃ち放つ。使い得るすべての力をこめた一撃は、しかし、放った光はアゼルに届きもせずに消え去った。

 ―――白い翼に赤が散る。

「このっ!」

 二射目を行う。
 結果は同じく、処理能力を上げた荒廃の力に食い尽くされる。どうやら、遠距離攻撃には意味が無いと見るほかない。
 ならば望み通り、白兵戦に付き合ってやる。と、パール・クールは身構えた。

 二柱の魔王が激突する。
 踏込んだ左足で、全力疾走から急停止。アゼルの左脚が撓む。

(そして、疾走のベクトルを、左手を引き、腰の回転で加速し、肩を基点に右腕を真直ぐに突き出してくる―――)

 一秒後の展開が見て取れる、典型的なテレフォンパンチ。
 幾ら荒廃の力を使いこなせるようになったとは言え、アゼル・イヴリスに、圧倒的に戦闘経験が足りていない事に変わりは無い。
 そして、たとえ無限の力が無かったとしても、そう簡単に食い殺されるほど、パール・クールの器は小さくは無い。
 易々とかわし、カウンターを取る。取れると確信して、パールは踏込み――。

 アゼルの拳を、頭を振って回避し、懐に飛び込んだパールは、その小さな拳を胴体に叩き込む。
 鉄槌の威力に、アゼルは身体をくの字に折るが、しかし引き戻した右手でパールを掴む。

「………。荒廃せ………」

478 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:09:05 ID:GMeAhyzV
 掠れる声で言霊を吐こうとするアゼルに、パールは予想通りとほくそ笑む。
 荒廃の力をゼロ距離から解放する。もしかすれば、致命的なところまで食い荒らされるかもしれない。しかし、それより先に切り札を奪わせてもらおう。

 荒廃の力は、『破壊神』シャイマール自ら、扱いづらいと切り離した能力。
 幾ら世界の後押しが在ったとは言えアゼル・イヴリスの器でそれを制御するのは、荷が勝ちすぎている。
 見れば、今も翼は軋み、粉雪のように羽毛を散し、ひび割れる傷から流れ出す血が、純白を真紅染め変えている。
 もう少し負荷をかければ、勝手に自壊するだろう。
 そうなれば勝利だ。
 人間共は未だ近くに在り、そうなればアゼルは力を封じるほか無いのだから。

 残りのプラーナを全力解放。立ち昇るチカラに触れて、翼は大きく軋む。

 衝撃が身体を貫いた。パールを掴む右手が離れる。
 背中、翼の付け根から血を噴き出し、アゼルの上体が後ろに泳ぐ。
 
「え?」
 
 大気を打つ、奇妙な音が。

 そのまま天を仰ぐように、彼女は仰け反って―――、
 下から上へ、弧を描いた左脚がパールの顎を跳ね上げる!

「ぐがっ」

 顎を蹴り上げられて、パール・クールはまともに吹き飛んだ。
 荒廃の力を使うと見せかけて、東方王国の王女を蹴り飛ばしたアゼルは、その勢いで後方に宙返り―――、

「<ヴォーティカルカノン>!!!」

 掲げた両の手から、闇色の矢を撃ち放つ!

「生意気なッ!!」

 歪む空間の矢が疾る。
 回避は不能と見て取ったパールは、防御のために魔力を集中する。
 しかし―――、

「荒廃せよ! 世界ッ!!」

 血染めの翼を振りたてて、アゼルはその魔力を奪い去る!

「っ!! 上等ォッ―――!!」
 
 パールは供給される無限の力をすべて防御に廻した。
 防御の魔力は、<ヴォーティカルカノン>と軋み合い火花を散す。
 限界を超えて開放するプラーナに身体が軋む。
 アゼルがパールを食い尽くすか、それとも耐え切れずに自滅するか、これは―――、

「クソつまらないチキンレースと行きましょうかぁ!!」
「ぁあああああああああああああ!!!!」

 鮮血(アカ)と羽毛(シロ)が飛交う。

479 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:11:15 ID:77nCgbmW
ほにゃー。
微妙そうかな、あと28kなんだぜ。支援

480 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:12:05 ID:GMeAhyzV
 荒廃の力は、濃密な力の壁を切り裂いて進む。
 それは、流れに逆らい歩を進めるのに似ていた。むしろ進むたびに壁は厚くなってゆく。
 膨大なプラーナが、パールからアゼルへと流れる。
 その度に、翼のみならず全身が跳ね、血が噴き出す。
 だけど。

「それが―――、」

 背に弾ける痛みに耐え、今にも弾け跳びそうな頚木を押さえつける。
 負けられない。こんなことでは負けられない。
 だって信じている。私を信じてくれた、上条君を信じている。
 
 だから。それまで。どんな痛みにも耐えてみせる。

「―――如何したぁあああああ!!!!!」

 叫ぶ声が力となり、闇の矢を押し込んでゆく。

 削り取る力と注がれる力。
 静かな、しかし極限の鍔迫り合い。
 傍目には、二種類の力は拮抗しているように見える。
 しかし、パール・クールとアゼル・イヴリスの消耗具合を比べれば、パール・クールの側に軍配が上がるだろう。 

 ギリギリまで張り詰めた糸が切れるように。
 終わりはあっけなく訪れた。

 壁が突然砕けたように―――、
 突如として抵抗がなくなった。

「!?」

 驚愕するヒマすらあるものか。

 荒廃の力を押し留めていたプラーナが、唐突とも呼べるあっけなさで底を突いた。

 その一瞬で何を理解できたのか、パール・クールは顔色を変え、そのまま迫る闇の鏃に、胸の真ん中を撃ち抜かれた。

 音も無く―――。

 あっけない程、静かに。
 黒い塵となってパール・クールだったものは虚空に消えた。

 後に残ったアゼルは、呆然とその光景を前に立ち竦んで、
 膝から崩れ落ちるように、地面に座り込んだ。

 あのままでは、自分が力尽きる方が速かった筈だ。ソレなのに、全身が悲鳴をあげてはいるが、それでもこの身は未だ健在。

 そんなコトの理由(ワケ)は、一つしかない。

「………。上条君――――」


481 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:13:51 ID:77nCgbmW
そろそろ終わりになりにけるのね、支援。

482 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:14:05 ID:GMeAhyzV
 15

 這うように低く、刃の杜に潜むように、上条当麻は剣の只中を駆け抜ける。
 美琴に頼んだのは一つ。雷撃を飛ばしながら、ローズに接近戦を挑む事。つまりは囮。己が『東方王国旗』を破壊するまでの時間稼ぎを。
 正直、剣の杜は良い意味で予想外だった。
 当初は回路を柊に広範囲にぶち壊して貰って、それを修理している隙を突く心算だったのだが―――。

(見えた!!)

 子供の背丈ほどある大剣を飛び越え、上条は『旗』に迫る。

「させません!!」
『こっちの科白だ(よ)! それは!!』

 上条の狙いに気付いたローズが、攻撃魔法を放つ。
 寸秒遅れて、柊の魔剣と美琴の手刀がローズの腕を切り落とした。
 しかし、すでに発動している魔法攻撃は、過たず上条へと奔る。
 迫る魔弾。足を止めて右手を出す前に、攻撃が届くだろう。
 雑多なことに関わる暇は無い。一秒でも早く、この右手で旗を壊す!!
 破壊の魔力に肉迫され、けれど、上条は足を止めない。

(間に合わないッ!! ―――なら!!)

「うぉおおおおお!!」

 手を伸ばす。
 その手は、ソレを確かに掴み。

―――爆光が、世界を染めあげた。

 柊も美琴も、刹那、閃光に目を晦まされる。
 その瞬間、ローズは空を渡っていた。
 染み出すように現れたのは、上条の目前。

(やはり!!)

 どうやったのか、上条当麻は健在。右手を伸ばしたその先には『旗』。

「死になさい!! 上条当麻ッ!!」

 健在な手で魔弾を撃つ。
 気付いた上条が、右手を引き、身体を捩るがもう遅い。
 魔力は既に形を得て、それは発射を待つ弾丸だ。
 刹那の後には、上条の頭を打ち貫くだろう。


―――しかし、魔弾は上条を掠めて月匣の壁に炸裂する。
横殴りの衝撃に跳ね飛ばされ、ローズ・ビフロは狙いを誤った―――。

 
「!?!?!?!?ッ」

 まるで鉄塊に殴られたかのような衝撃が脇腹に弾けた。
 知覚は、殴られた。と訴える。
 知性は、在りえない。と反駁する。
 混乱し、ローズは受身も無く地に転ぶ。

 攻撃される瞬間。上条は右手を引き身を捩り、―――左手を振り抜いた。

483 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:15:19 ID:GMeAhyzV
 その手に握られるのは、真紅の宝玉を抱いた諸刃の蛮剣。

 『担い手』以外が魔剣を振るったところで、その刃に鈍ら以上の意味は無い。
 しかしそれでも、魔弾を叩き潰し、魔王を殴り倒すには充分。

 役目を終えた魔剣を手放し、上条は駆ける。
 そして目前に迫る『旗』―――、魔導具『東方王国旗』。

 これを、壊せばッ!!

 上条は血まみれの右手を握り締める。

「これで―――ッ」

 弓のように引かれ、矢の様に放たれた右拳は、赤い尾を引き、魔王パール・クールの象徴に激突する。

「終わりだァああああッ!!!」

 バキン。と、
 硝子の砕けるような音が響き、旗のカタチをした魔導具は、この世から消滅した。
 そして、ローズは絶叫する。
 叫ぶ上条に向けられる、視線に溢れる感情の波は、憎悪。

 そして恐怖。
 役目を果たせなかった。
 回路を壊されただけならば、言い訳は効いただろう。しかし、『旗』まで壊されてしまえば。
 その事でパール・クールにどのような目に合わされるか。ココにいるのは所詮移し身だが、本体はお互い裏界にある。
 抗おうにも、裏界において、力の差は絶対。
 ローズ・ビフロに、未来は――――、無い。
 
「あっ――――、アァあぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」

 想像力が生み落とした恐怖に襲われ、致命的に思考が狂乱する前に、しかし彼女は解放された。
 翻った柊の魔剣と、美琴の閃く能力が、その感情を、肉体(からだ)ごと切り裂いたことで。

「俺たちの勝ちだ!!」
「人間舐めてんじゃないわよ!! グロロリッ!!」

 死霊女王ローズ・ビフロの肉体は、砂が崩れるように崩壊する。

 それを見届け、上条当麻は膝から崩れ落ちた。


484 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:16:09 ID:GMeAhyzV
幕間 10

 アゼル・イヴリスは夜天を仰ぐ。
 中天に輝く紅い月。
 心安らぐ紅を写す瞳からは、真珠のような雫が零れる。

「………ありがとう―――」

 上条当麻―――、貴方を、
 信じて、信じられて、本当に良かった。
 口元はほころび、口角が上がる。

 こんな事は初めてだ。

 嬉しい時にも涙は流れると、知識を経験する。
 白紙の大地に打ち込まれた杭(感情)は、大きな歓喜を伴って、

 だから―――、それだけでもいい。

 未練はある。けれど、満足している。

 いつの間にやら、立ち並ぶウィザードたち。
 少女たちを保護して、此方に刃を向けている。

 一万人を殺した。街を此処まで破壊した。
 もう、私は此処には居られない。そんなこと、誰も許さない。
 人殺しの怪物は、人間の傍にはいられない
 
―――解っている。

 幻想(ユメ)の終わりを前にして、アゼル・イヴリスは笑みを浮かべていた。


485 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:18:16 ID:77nCgbmW
知ってるかい? 幻想(こんきょのないあきらめ)ってのはね、ブチ殺されるためにあるんだぜ? 支援。

486 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:20:44 ID:GMeAhyzV
以上です。
こんな遅くまで、支援ありがとうございましたm(_ _)m

クライマックッス終了。
後はエピローグで完結です。

一応、セルフツッコミを。
スノウドロップという花は、雪の雫ではなく、雪の耳飾という意味らしいです。
字面だけで、此方を書きました。

487 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:25:13 ID:77nCgbmW
乙かれさまでした。
あなたを待ち続けて、よかった。

エピローグを心待ちにしています。

488 名前:とある世界の騒動日程(トラブルデイズ)@学園世界ネタ:2010/02/25(木) 01:25:16 ID:GMeAhyzV
すみません途中で送ってしまいました。

では前回のレス返しをば。

>>406
待っていてくださって、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

>>409
ありがとうございます。
そういって下さるなら、頑張った甲斐がありました。


では、ココまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

m(_ _)m

489 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 01:27:39 ID:03cZFABK
乙であります!
ねむねむ

490 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 10:06:46 ID:+1icTeEM
GJ!!
熱くて嬉しい

491 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 11:00:03 ID:gvkT3sCH
乙乙っした!

クライマックスフェイズとはいえボロボロになり過ぎ
特に上条さんがw

492 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 22:28:12 ID:XG5k/7HW
乙です
いいタイミングで規制解除来たー

やはり美琴はよいツンデレよのう

493 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 22:38:34 ID:vgcLTv1A
乙です

ところで、次スレ立ててみる

494 名前:493:2010/02/25(木) 22:42:38 ID:vgcLTv1A
立てました

……どきどきした〜
何か間違ってたらごめんなさい

495 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 23:04:45 ID:+1icTeEM
リンク置いてほしい

496 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/25(木) 23:17:47 ID:+QFweY26
【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.28
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1267105224/l50

乙。即死しないように気をつけないとなw

497 名前:御坂美琴以外で@学園世界:2010/02/25(木) 23:20:38 ID:syuA7sVT
乙ですよ。そして…

休日。
学園が転移して出来たこの世界に、休日出勤などと言うサラリーマン的なものは存在しない(一部教師除く)
毎週1度、所により2度は訪れる休日。学園世界において、その過ごし方は様々である。

学園都市や麻帆良、蓬莱など"学生の遊び場"が充実している学園に遊びに行くもの。
学園世界に点在するダンジョンや様々な依頼をこなし"冒険"に明け暮れるもの。
居住区で、出会った異世界の同好の士たちと様々な"同好会活動"を行うもの。
学園海や学園都市で"アルバイト"に精を出すもの。

そして、">>500"が選んだ休日の過ごし方は…


498 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/26(金) 00:08:04 ID:WPhw3uD/
>>488
乙でした。いやー、みんなボロボロにやられすぎw
主要メンバーに犠牲者が出なかったのが奇跡的ですなw

エピローグ、待ってますw

499 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/26(金) 01:32:44 ID:wvOYNFfZ
>>488
いやすばらしい。
願わくば、アゼルに小さな奇跡があらんことを。

500 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/26(金) 01:43:06 ID:wvOYNFfZ
突然休日がやってきたら柊はどんな一日をすごすのか。

てなわけで柊連司の休日をお願いします。

501 名前:500:2010/02/26(金) 01:44:02 ID:wvOYNFfZ
あ、名前間違えた。
柊蓮司でしたorz

502 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/26(金) 15:44:02 ID:/a1XIUu0
>>500
http://www32.atwiki.jp/nwxss/pages/388.html

503 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/26(金) 20:49:56 ID:hM26kaEF
>>488
あっ、きてるー
とうとう完結ですね
お疲れ様でした

珍しく大暴れしてるパールを見れて大変嬉しかったです

504 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/28(日) 17:15:03 ID:kctUWD38
埋めるよー、どんどん埋めるよー

505 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/28(日) 20:57:31 ID:0WA3mRCj
手伝おう

506 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/01(月) 11:52:30 ID:JwKqKX/n
全然埋まらんな

507 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/03(水) 19:56:20 ID:MRgKIOLI
うっまーれ↓

508 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/03(水) 21:00:35 ID:L2fqd4Ez
ピット

509 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/03(水) 21:06:07 ID:+GomKu3E
規制解除記念埋め埋め。もう巻き込まれませんように・・・

510 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/03(水) 21:39:24 ID:rSYxxC3n
さぁ、次スレに行こうぜ!

   // : : : : : : : :/: :l: :、 : : : : : : : : : : :ヽ: :ヽ
  /' / : /: : : : : :,:l: : :! : l : : : : : : :l: : : : : :! : :i
   / : / : /:./:,イ:l| : :| : :ト、: : : : ヽl: : : : : :l: : :l
   !: :;': : :l: :l: i`|ト! : :l: : | ヽ: : : : |: : : : : :l: : :!
   |:/!:.i : |: :!:|ィlトl : :|ヘ.:l ' ,二:、: :!: : : : : ヽ: :l  
   l' l:|l: :|: :トl ゙ーヘ: :! ヽ´ 辷ノヽ:| : : : : ,ヘ:ヽ. 
.     l| !:.|、:|    ヽ        l: !: |: :l: : /`ヽ 
        ヘ| ヾ.   〈         ノイ:,ハ: !: /
         ヘ.   、. ___      ノ': :jノ:/
          ヽ、 `ニ ´     イ/イ:,ハ/
         __ ,.ヘ、  , <  ' j/ l
       ,.<´      i` ´  , ,.'´   ト、
__ ,.-―/  \   ∨!   /'´、     ハ:.:.\
. . . . . . . / /.:.:.ヽ. |、    !´ ∧   ||:.:.:.:`ヽ、

柊蓮司


511 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 05:34:44 ID:h4Kk+2gy
          ,イ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
         イ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
        /:::::::::::::::::,i:::::::i、:::::::::::::::::::::::::ヽ
        ./:::::::::::/i::::i .i:::::i ヾi、:::、::::::::::::::::::i
       i::::::::::::iヽi:_i  i::i  ヾi__ハ、::::::::::_:_::i___
        i::::::::/i〃k::iヽ`ヾ-i〃k:iヽレ'_,イ´_r‐-、ヽ
        i::::::i、i´i、.ー' ノ'⌒ヽ`ー_'ハ-<ム_ィ´``ー、
       .i´ヾi    ̄ __'_`__  ̄  `ヽ i '-'´`ヽ .i
         i.i -.i    レーー.、i      i/i  ヽ 、__  i
         .ヽ '.i     |:::::::::::::i    /.入  i     i
          `i`i、.   !、,-:-、i    ハi´  ヽi    ヽ
          iイi `ヽ、 ヽ、__ノ  ィ´ `   ヽ_    ヽ、
         r'>i   `. 、 _.....イ/        ! ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄!
        /: ヾ       : . : . ハ       ! 大 江 戸 SS 保 管 庫 .!
     _ ,.イ: : : :ヽ、      ムi、:ヽ       .!  ...     ...     !
   イ: : : :i: : : : : :ヽ、       .`i.i: :.`-、   |_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _..|
 /: : : : : : i: : : : : : :ヾ、___    i i: : : i: : `ーi: . : . : . : . : . : . : . : . : . : . .i
/: : : : : : : : : ヽ : : : : : ヽ `ヽ r'´ i i: : : :i: : : :_i_ _: . : . : . : . : . : . : . : . : . :.i
: : : : : : : : : : : :ヽ : : : : : ヽヽ、  .i .i: : : レ'´ __ `ヽ、 -------------┤
: : : : : : : : : : : :: :ヽ: : : : : : ヽヽ、 i i: : :i, /   ̄ヽ-'::i           !
: : : : : : : : : : : : : : :ヽ: : : : : : ヽ ヽ.i .i: :.{  _ノ´ ̄`〈i::::i           !
: : : : : : : : : : : : : : : :.ヽ: : : : : : :ヽ、i .i: : i   _,. -、_ノi::::i _ _ _ _ _ _ _ _ _ _._|
: : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : .ヽ、i /     ̄__.ノ i::::i : . : . : . : . : . : . :.i

【学園以外】
 26->703 ドラゴンクエスト3
 26->795 807 突撃!パッパラ隊

【学園】
 ぐらすうぉーず。 #01 #02 #03
 それぞれの溜息の理由 #01 #02 #03
 学園世界の戦い(魔神皇編) #06-3 #06-4
 休日の過ごし方 #07
 ネギま!×ちびらぎ #02-OP1
 月と星と柊と #15
 とある世界の騒動日程 #09 #10

 26->557 狂乱学園日記
 26->747 うえきの法則 他
 26->773 学園世界メンバーリスト
 26->835 正義のミカタ
 26->889 初詣地獄篇
 27->067 電子世界の守護者たち
 27->356 なぜなに!執行部室


……2010年初の保管作業だったり。

512 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 07:33:09 ID:iGPj34ae
渾身の乙

513 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 08:31:45 ID:ccpBTzWx


514 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 18:43:55 ID:H7hNEMwU
乙であります!

ところで、ナイトウィザードってssを語るスレとかないよな。規模が小さいのも理由だろうけど。
というわけで、埋めネタ代わりにスレ内外関わらずSSに関する話を語るのもたまには悪くないんじゃね?

515 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 20:00:46 ID:hJbuV1b3
全然NWが知られてなくあのつく企画なんて冗談と思われるだろう頃(5年前)の作品の
「彼の日常」シリーズが個人的には結構好きだったなぁ…
某トウガネタが投稿されてたとこにあったからもう読めないけど…

516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/04(木) 21:38:16 ID:Mp57Xv/B
実は地下スレのSSに良いものがあったりすんだよなぁ

517 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/05(金) 00:45:54 ID:DS0ckmRz
あ〜……1stのサンプル人造とサンプル吸血鬼のほのぼの恋愛とか、
柊の生活にアンゼが完全に溶け込んでる話とか、割と好きかなぁ>地下のSS

518 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/05(金) 00:48:26 ID:VjPWYBm0
本当に脱線が好きだなお前ら

519 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/05(金) 00:55:57 ID:phkw+O92
俺は卓ゲ板の方の夢物語が好きだなぁ。転生系では一番だと思う。
あとトウガネタとおそらくはもう更新されないだろう魔法の石。

どこかで吸血傭兵分補充できねーかなー……



520 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/05(金) 01:05:54 ID:ZmLpUN89
518
くだらない脱線で埋めてすまん

521 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 00:34:36 ID:SGwAfqRX


522 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 01:38:46 ID:amTBs0K1
>>521
1000スレで埋まるならともかく、この状況じゃ1文字レスしても意味がw

523 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 01:40:45 ID:coMjzUzC
>>518
梅に入ってるんだから別にいいだろww
脊髄反射で書き込むなよ

524 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 02:29:00 ID:UwT54Jve
               l^丶
               |  '゙''"'''゙ y-―, あ ふんぐるい むぐるうなふ べるべる
               ミ ´ ∀ `  ,:'     
             (丶    (丶 ミ   いあ    いあ
          ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ   ハ,_,ハ
              ;:        ミ   ';´∀` '; ';´∀` ';
              `:;       ,:'  c  c.ミ'  c  c.ミ
               U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J   u''゙"J


            /^l
     ,―-y'"'~"゙´  |   それ  ぐらびてぃ うがふなぐる るーるー
     ヽ  ´ ∀ `  ゙':
     ミ  .,/)   、/)    いあ    いあ
     ゙,   "'   ´''ミ   ハ,_,ハ    ハ,_,ハ
  ((  ミ       ;:'  ,:' ´∀`';  ,:' ´∀`';
      ';      彡  :: っ ,っ  :: っ ,っ
      (/~"゙''´~"U    ι''"゙''u    ι''"

525 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 02:44:52 ID:53h1PNxB
代案も出せない脊髄反射でレスする単細胞ナマモノのことはスルーするとしても

他に何か梅ネタほしいねぇ。他サイト話も結構すぐ止まっちゃったし

526 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 12:12:41 ID:uQxCL7m/
では世界樹の迷宮のTRPG版が出るということを肴に雑談でも…
って、NW!と全く関係ないのでヤメヤメ

527 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 12:20:32 ID:IN8WS5ls
なぁに、出たらきっと柊をコンパートして遊ぶ人が出てくるんだから全く関係ない訳でも…

つまり何を言いたいかというと…
逆に今出てる世界樹で柊をキャラメイクするならどんな感じになるだろうか?

528 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 12:53:32 ID:fOj30dxg
高機動・超火力・超★紙装甲
……でもブシドーじゃバスタードソード持てないんだよね

529 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 12:59:15 ID:Jt5IRRry
ソードマンでもいいんじゃね?

530 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/07(日) 14:11:29 ID:ELn9sZkZ
やる夫板のやつ完結したな

531 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/08(月) 15:12:04 ID:WGfApDc2
なにそれ

532 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/09(火) 04:07:05 ID:G/MN3oyJ
学園世界でSOS団が勢ぞろいすると郡田さんがいるからレギュを満たせることに気づいた。

…朝比奈さんが目から怪光線だせるようにすることができるハルヒならばミサカ妹が超電磁砲撃てるように出来るんだろうか…

533 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/09(火) 21:52:28 ID:uJd9nZxU
     / /      /イ }::| / x "二 _    \:|- 、
    , ′      i ヽ二ノ/ ./ / /x‐   、 、'.- 、 \
     i l!        ! |:::| / / ,/ ,/ /  / !  i i、\ 、ヽU
     | |!      :! |:::/  ,i /_ ./ /  /,/| |! '.ヽ'.':::} |
     | ||.       | /::;′  レ'レ \ //' / /イ | i i i´ |
    V.|    i. |'::/i  i x≠=ミ、 ヽ  /イイ / l|! |
       l     l :!/. |   | んィ心 `    -‐/、' / j! ! U
       |   / /'、 !   !弋zク      ,≠ミ、/イ /ル'. /
       |  ,.イ /) ヽl  トヽ.      んタ /// ヾ::ヽ
       l/ !'♀-}  '. |       丶 ゚ー'’, ′i|   /\::\
        `ー ' xゥァヽl \   '^)   ,.イ  /リ  ./   \::>-
     x―‐ァ' ̄ /:/    >――‐ '"/ / / /     ヾ
   x‐ァ′  /  ./:厶- '";: '" 弋    イ  /
  / ,′j/ i    i:::::> ´   ,.  \   | /  
 ハ ' /  | ,. '"     ,.  '"    .\ l′
/ ヾ ′  /    ,. '"         ヽ
  、 i   /   ,. '"   / /       /
` 、 ヽ. /   /    、 y′      /
   \-'-  厶-―‐┐∠ ____  /
    \` ー――∠、       `ン

534 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/11(木) 01:46:58 ID:MRReq0tO
まだ埋まってなかったのか

535 名前:埋めにはAAだ@某スレより天才:2010/03/11(木) 06:58:21 ID:KdKw/xJl
    .      / /   /         ,;         \
         ' / i  ′       ji            ,
 .       /| {  │ !        j:!     i       }  ヘ. '.
       / | v! |__  | { { │ i \、  !  │   l   } |
 .      | / } |V」,_从∧ | i {   `ト j |  ,ハ  } ′}   リ l
 .      丿》 {/ |=z-kAマLヘ .| l ./|_.ィ=kテZ斗イj/ ./  /| ,ハリ
 .    / ル !}│  {rイ心  、__ /x≦云示ア/⌒ヽ./ | /  )
    /    {{ )'│\ Y::::j}    〃frイ:::::::::/'      }.  |/  (_
    ん'´/  〃 刈,\ハ ヽzソ       vトーイ /      //j}  )' 》 ヽ
    イ  《  イ ノ / {.:.:.:.:.  、     ヽzxV    / 《_j__〃 ハ }
    (  厶rゥヘ》 :个 、   f⌒ヽ   .:.:.:.{     i::::::::::〉 jノノノ
    丿ハ{::::::介::::}:    />- 、___ノ __ ...  -',    {:::::::::У ((´
     ( ノ〉::/ |:::::|    :|/ :| | |  ヽ x-/ }    |::::::::」∧ )
     ハ∨ソ|:::::ト__ノ∧/| | . >ー{ ヽ/ ̄ ̄ ̄ヽ.  ,ハ
    /}  }  Vリ  ___ \-ヘ ー ' {.:.:.:.:.:.{       ', ´ ィ }',
   /:::} } 「` ー-/ | .`-/ヽ   〉ーく /ヽ ヽ/⌒    |'" ! ! '.


536 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/11(木) 07:14:05 ID:DFgRtpjZ
         ,.-―― 、      
        / : : : : : : : : ヽ、  j|  r 、
      /: : : : : : : : : : : : : ヽ='゙'  ! r\
      ,' : : : : : : i:、 : : : : : : :ヽ、 \\_\
      __j: : : /: :i: :|: :ヽ: : : : : 、:`ヽ   \\ \
   ,.-'、/イ: l {:,ム|:,ハ: :、: l;i、 : 、:ヾ``    \\ \
 /. . . `'ー.`、|ゞ'l' ヽ.:トfッヽ:、:!i``       \\ \
/. . . . . . . . . . .`ヽ、 ! ヾ  /iルトi         \\ \
. . . . . . . . . . . . . . . ̄>ー'、 .ヽ            \\ ヽ._
. . . . . . . . . . . . . . /. . . /. j_. ト、            _\`i´:「 ヽ.-':ヽ、
. . . . . . . . . . . . .'´. . . /. . . . ̄`ヽ、         l:::`:'r 、:;>'::ベ.‐'
. . . . . . . . . . . . . . ./. . -‐'´. . . . . . >f`ー-、___ >r‐、'ヽ」;::::::;ノ)
. . . . . . . . . . . . . '´. . . . . . . . . . . / . /   /         |:::::::y-‐'´:j,つ、
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ,∠'´/  /    ,..-‐ ´`ーi':::ヽ::ノ::\ \、__
. . . . . . . . . ,.-―,――ァ、―‐―‐'、___/―‐‐'´  ̄ ̄ ̄ ̄ `ー' ー --\ \'
. . . . . . . . . . . . /. . . /l::::i                           ヽ r,ヽ
. . . . . . . . . . /. . . /.::lヽ:\                          ` ー'
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537 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/12(金) 05:57:24 ID:FweyssGs
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538 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/14(日) 09:32:25 ID:yqCOmz9h
まだ埋まらないのか

539 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/14(日) 09:49:29 ID:zu2BnT9o
 ヽ   、--|-、. |  ̄| ̄`` |     ヽ、_. 
 ̄ ̄`i./\/  | |  ̄| ̄.  |      /    
  _/ ヽノ  ノ. し αヽ    ヽ_/  (____. 

 │  o           i.    \.\  /
 ├─- -── .  ̄| ̄.      / 
  |__         __/   ツ.   /   

540 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/14(日) 10:45:13 ID:rDGRdVf+
         ,.ッ―v―ッ===tz_ ―- ..              ゚
         ,.</: :/: : /: : : : : :\`'<´  \       | /
        /: :/: : :./: : : : {ン: : : : ト、 \: :\        _人_
      /: : ,イ: : ,¬j/―匕 {l: : : :.:fト、 \ ヽ: :\      ̄`Y´ ̄
      ムイ.从 ノ .≠===八: : : :リ__`ー.)) )人 ),     |
      {X |人 {  :'  :'     \ ノ`气ミ(ノ乂: :) ハ   / ゚
     ( j八: :ヽ廴:'  :'          '(  |/'  j}  + ゚  
     )X: :\: : :.\:'     厂 ̄〕    ゙(.r┘    x  +
    Y⌒ : :ノ : : :ノ    {   /    从       ゚ 
    乂 : :(: : : :.(_     、_,ノ    ,イヽハ     x  
    ,イ≧≦>、 : :) _         , イ乂 :ノリ       最近扱いがわるいんですけどー!?
 _/: :/: :ハ: :ヽ メノ>、 " r-‐<ノハノ ≧≦
  ̄`=ミz__rヘ_ノ\ \_」_) Yツ⌒フ/ ハヽ:\
    ≦厂 ̄气≧.  \__X,人、 厶 / rヘ: :ヽ〉
    {{ {    } }}       ≫≪ {{ハ、 `=='⌒^´
   ゞゞ _ ノ ノ       ≫≪ゞ=ヘ、
    ≫==≪  _,二ニ=彡ヘ、 _\
       彡グ ̄    ノ   \   ̄ ̄ ̄ ¨ ¬ …

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541 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/14(日) 10:46:28 ID:rDGRdVf+
     ,.....´.: : : : : : : : : : : : `.:..、
        /::::: : : : : : : : : : : : : : : : : : `ヽ.
       /::::::...: : : : : : : : : : : : : : : : : : / ヘ
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    __  |:::::::::|:::|:: : :|:/i|ィてツ`    `" !:::|:.i|
  / / |::::::::::|:::|:: : :|リヽ、    、     !::.:|:j   
  {  〈_ |:::::::::|:::|:.:.:.:.||             /::.:.|l
 ノ  「   l::::::::::|:::!:.:.:.:.|ヽ     ー_'  /::::.:.lヽ    前からです。ベル。
ノ     ./::::::::::|:::::.:.:.:.:ト、_`ヽ、   /:::::.:.:.:.:.| ヽ
    /:/::::::::::::|::::::::.:.:.:l...... ̄.......:`´:::i:::::::.:.:.:.:.|_ ヽ
┌'l /:./::::::::::::::|:::::::::.:.:.:|::::::::::::::::::'/:.:.:.l:::::::.:.:.:.:.|‐┘ }
.ヽ.j .i:./:::::::::::::::::l::::::::::.:.:.:l:::::::::::::::/:.:.:.....}:::::::.:/'\   |
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